Keishi Okazaki

 Hiroshima University

Research

主な論文の解説

研究6: X線CTスキャンから解析した炭酸塩化したマントル物質(listvenite)の化学組成と物性

6: Major mineral fraction and physical properties of carbonated peridotite (listvenite) inferred from X-CT core images

(Okazaki et al., 2021, JGR: Solid Earth)

オマーンのオフィオライトはいわゆる過去の海洋プレートが浅部の枕状溶岩(玄武岩)から深部のマントル(かんらん岩)までの丸ごと乗り上げて地表に露出しています。しかし、そのマントル部分は大なり小なり蛇紋岩化作用(含水反応)を被っています。さらにオフィオライトの最下部(つまりオフィオライト衝上時のプレート境界)の一部ではかんらん岩がCO2とも反応して炭酸塩+石英に完全に置き換わっている場所もあります(listveniteという岩石名で呼ばれています。日本語だとリス(ト)ベナイト?)。このようなマントル物質の炭酸塩化は反応速度が速くかつ反応生成物の炭酸塩鉱物は物質としても安定・無害であるので、温暖化対策としてCO2の地下貯留(CCS)を行う際に堆積岩の隙間へCO2を注入するよりもより確実に安定してCO2を固定できるとして注目されています。オマーンのlistveniteはまさに自然に起きたCCSの結果として注目されていて日経サイエンスの記事、そのメカニズムを理解する為にボーリング調査を行い、listvenite部を200mとその下の下盤プレートに相当する部分"metamorphic sole"の100mのコア試料が採取されました。

本研究ではオマーンで採取されたlistveniteコア試料を日本に停泊中のちきゅう船上のX線CTスキャンに通して得られた数10万枚の画像データを解析することによりlistveniteの大まかな化学組成と物性を推定しました。カンラン岩に含まれる元素は基本的にはMg, Si, Oです。Listveniteも基本的にはこの3つの元素+炭素(CO2)、つまり炭酸マグネシウムと石英でできているのですが、層の最下部や脈部分ではCaに富む炭酸塩(ドロマイト)があることがわかりました。純粋な炭酸カルシウムはCTスキャン画像の解析からは無視できるくらい少ないようです。全長200mのコア試料の平均で計算したSiO2:MgO:CaO:CO2モル比は28:33:3:36でした。これは炭酸塩化の際に酸化物トータルのモル比で1/3以上のCO2が炭酸塩化の際にマントルに加わっているということを意味しています。にも関わらず、CO2以外の物質の移動はほとんどなく、CaとSiが少し増えたくらいです(本当にSiも増えているのかというのは論文の共著者の中でも議論があるのですが)。これが事実なら実際にCCSでオフィオライトのマントル物質にCO2を注入した際にもCO2以外の物質移動はほぼ無視できるということになり、マントルCCSは地下水汚染などの環境負荷が少ないのかもしれません。

さらに、CTデータから得られたlistveniteのコア試料の鉱物比などからコア試料の密度などを計算して、コア試料を小さく切り出してスポット的に測定していた物性や化学データと比較しました。結果は物性データ化学データもCTデータから求めた値とおよそ一致したので、スポット的に測定したデータを較正データとして使用してCTデータを物性や化学データへ拡張するという手法が強力に使えそうであるということをいうことができました。興味深いのはlistveniteの物性は基本的には含水化したマントル物質である蛇紋岩よりも新鮮なマントル物質であるかんらん岩に近いことです。ひょっとしたら地下深くのマントルで炭酸塩化反応が起こってlistveniteができていてもその多くは地震波観測では見つからないのかもしれません。オマーンのような衝上プレート境界で起こったマントルの炭酸塩化反応が沈み込み帯でも起こっているなら多量のCO2がプレートと一緒に沈み込んでいるのかもしれません。

ピーターの無茶ぶりと道林さんの激励によって形になった論文。そして初めての実験以外の論文。この論文も、特集号に投稿→議論が足りないと却下される→議論を追加し共著者に送る→共著者にそれは言い過ぎだと言われ追加分をほぼ削除→ほぼ最初に戻った原稿を再投稿→採択、という謎の過程を辿り出版される。道林さんとCT画像の解析スクリプトを作ったおかげでmatlabのレベルがだいぶ上がった。その後、赤松くん(現在JAMSTEC)によりXCTデータを用いた岩石物性研究の手法が完成されてきた。

研究5: 水を多量に含む断層帯のレオロジー (Okazaki, Burdette and Hirth, 2021, JGR: Solid Earth)

5: Rheology of the fluid-oversaturated fault zone at the  brittle-plastic transition

沈み込み帯のプレート境界では地震波の縦波速度(Vp)と横波速度(Vs)の比が高い(高Vp/Vs比)の領域が観測されています。これは特に深部スロー地震の発生域で顕著です。一般的には高Vp/Vs領域=地層中の間隙水圧が高い、と解釈されるのですがこれは正確ではなく、理論モデルに基づくと高Vp/Vs領域=間隙水がたくさんある、という解釈すべきです。しかし、地下深くの高圧下でも間隙水がある=隙間を保持できるくらい間隙水圧が高い、という仮定もおそらく間違っていないと思われます。本研究では高間隙水圧の効果だけでなく水の存在量自体の断層の力学挙動に与える影響について、試料中の水の量を系統的に変えた高温高圧岩石変形実験をして調べました。結果は水の量が多いと断層の強度が下がるというある意味当たり前のものでした。しかし、その効果は意外と大きく、たった体積で6%の水があるだけで強度が半分に落ちるということがわかりました。また、実験データは水と鉱物の体積比と、岩石と水の濡れ性を考慮することでうまく説明できることもわかりました。この岩石の間隙に存在する水の量の効果は、岩石が脆性変形(割れたり割れた面ですべったりする変形)しているときにも結晶塑性変形(鉱物粒子自体が伸びたりする変形)しているときにも同じように影響を与えることも実験から明らかになりました。特に水が多量に存在する場合、水の存在する間隙が再配列されてある方向に並ぶような現象も観察されました(実はオリビン-メルト系で同じような現象が先に発見されており、理論も構築されていました。)。一般に変成岩と呼ばれる地下深くで水と岩石の反応の結果できた岩石のできた環境は、沈み込み帯のほとんどどこでも間隙水圧が上載岩圧と同じくらい高い環境でないとその反応を説明できないようです。ひょっとしたら地震、スロー地震、非地震性定常すべり、など沈み込み帯プレート境界で起こっている変形の多様性は水圧や温度だけではなく、水の量によっても大きくコントロールされているのかもしれません。

本研究では水の量を系統的に変えた高温高圧岩石変形実験をしましたが、水の圧力をうまくコントロールできませんでした。現在高温高圧下で水圧もうまくコントロールできる試験機を開発中です。最初の実験から4年越しくらいでやっと論文受理された思い入れのある渾身の研究なのですが、思い入れのある研究ほど思ったよりも評価は低い気がしてちょっと悲しいです。。。

研究4: 沈み込み帯に産する変成岩のレオロジー (Okazaki and Hirth, 2019, Tectonophysicsなど)

4: Rheology of metamorphic rocks occuring subduction zones     

沈み込みに伴う温度圧力の上昇により、沈み込む堆積物、海洋地殻、海洋マントル は連続的に含水化や脱水反応、鉱物の相転移を含む変成反応を連続的に被っています。それら変成反応に伴う岩石のレオロジー特性の変化は地震発生メカニズムや日本列島形成に大きく関わっていると言われています。それだけでなく変成反応に伴う地球深部での水と二酸化炭素などの揮発性物質の移動は地球に長期的に安定な気候を提供し、生命の継続的な存在にも大きな役割を果たしているというような説も最近では提唱されています。沈み込み帯に産する低温高圧型の変成岩(青色片岩、緑色片岩、泥質片岩など)の高圧下でのレオロジー特性については蛇紋岩とエクロジャイトを除くとなぜか最近(2010年代中盤)まで全く報告例がなく、よくわかっていないので変成岩のレオロジーについて近年研究しています。今のところわかったのは変成岩のレオロジーはよくわからなくて天然の変形を実験室で再現するのが難しい。だから報告例がなかったのか。。。

研究3: ローソナイトの脱水反応に伴う地震性すべりとやや深発地震発生メカニズム

3: Unstable fault slip induced by lawsonite dehydration in blueschist: Implication for the seismicity in the subducting oceanic crusts 

(Okazaki & Hirth, 2016, 日本語ハイライト, Daily Mailの記事

やや深発地震の活動には地域差があり、冷たい太平洋プレートの沈み込む東北日本では二重深発地震面が確認されているのに対して、暖かいフィリピン海プレートの沈み込む西南日本では二重深発地震面上面に相当する海洋地殻内部での地震活動が観測されておらず一重地震面しか(いまのところ?)観測されていません。その違いとそもそもなぜそんな深いところでも地震が発生するか完全にはわかっていません。そこで、冷たい沈み込み帯の海洋地殻にのみ存在すると考えられるローソナイトという(結晶中に水を含む)鉱物の存在とその脱水分解反応が沈み込む海洋地殻を弱くして地震を引き起こす原因なのではないかという仮説を検証しました。そのために岩石中の微小な破壊音(超音波)を測定できる新しい測定システムを立ち上げて、ローソナイトを分解させながら高温高圧変形実験を行いました。その結果、ローソナイトの分解中に急速な応力降下とともに「ミニ地震」がたくさん起こることがわかりました。反応が起こる→水が放出されて岩石が弱くなってさらに変形する→鉱物の粒径が小さくなりさらに反応が進む→変形がさらに進む、、、というようなことが起こっているのではないかと考えています。

温度圧上げて変形実験を開始後に元ブラウン現U. Penn教授や同僚らとバーへ行ってビール飲んで実験の様子見に帰ってみたら巨大スティックスリップしてたのが発見の瞬間でした。。。

研究2: 蛇紋岩の熱水条件下での摩擦特性とスロースティックスリップのスケーリング

2: Slow stick-slip in the lab as an analog of slow earthquakes (Okazaki & Katayama, 2015など)

四国の下で起こっているような「ゆっくり地震」がどのような環境で起こっているのかを調べるために熱水条件で蛇紋岩の摩擦実験を行なった論文。温度と変形速度(温度だけではないというところが重要)によって定常すべりからスロースティックスリップ、そして地震みたいな破壊まで再現できることを発見。しかし、当時はなぜこのような現象が起こるのかよくわからず論文掲載を何度か却下される。この研究のアイデアと考え方がその後の研究にたぶんつながっていると思います。あとこの実験でガス圧高温高圧岩石変形試験機を使った経験がブラウンでのポスドクの雇用につながったというのもあります。

研究1: 続成作用による堆積岩の固結度の変化と空隙構造・流体移動の様式の変化 (Okazaki et al., 2014, JSGなど)

堆積物が堆積岩になるときに岩石の物性がどのように変わるかについて調べた研究。その研究に丁度いい試料が北海道の幌延にあったのでそこのコア試料を使用して透水率や間隙率などを測定した。これらの測定から堆積岩中の空隙構造の複雑さ(どれだけくねくねしているか)を割と簡単な測定結果から数値化することに成功。圧密中にそのくねくね度が変わったりするのでそこから内部の変形を予想できそう。元々は長距離大深度トンネルの建設、油田の開発、二酸化炭素・放射性廃棄物の地層貯留など地下空間を安全かつ効率的に利用するための基礎研究を行なっていたが、研究の方向が少し変わってもっと純粋なporous materialの物質科学的な研究になりました。共著者の先輩から「測ったらこうだった、だけではない研究ができたらいいね」みたいなアドバイスをいただいたのを覚えています。嶋本さんの退官記念論文集のようなものに投稿してリジェクト(却下)され(元学生なのに!)、その後内容ほぼ同じままで同じ雑誌に再投稿して受理されるという、ネタ的には人生で最高傑作の論文。おそらく嶋本研出身者で唯一特集号に名前が載っていない研究者です。