超薄型・フレキシブル・ペロブスカイトを対象に、宇宙での実装を見据えた研究開発を進めています。
当研究室の強みは、超薄型フレキシブルデバイスの作製技術と、キャリアダイナミクスに基づく物性評価です。
現在の宇宙探査ミッションでは、多くの太陽電池パドルを耐放射線性・高効率の三接合薄膜太陽電池で賄っています。一方で、三接合太陽電池は、デバイスが硬く曲げに弱い、製造コストが高い、といった課題を有しており、新たな柔軟・軽量・低コストな太陽電池が求められています。
そこで我々宇宙科学研究所では、従来の三接合太陽電池に代わる次世代の宇宙薄膜太陽電池として、ペロブスカイト太陽電池の耐放射線性を世界に先駆けて実証しました[1,2]。
当研究室では、ペロブスカイト太陽電池のさらなる先端応用として、「超薄型の」ペロブスカイト太陽電池の開発を進めています。ペロブスカイト太陽電池の支持プラスチック基板を、デバイスと同程度の約1 μmまで薄型化することで、ペロブスカイト太陽電池を極限まで軽量・柔軟化(超フレキシブル性)することが可能です[3-5]。
JAXA宇宙研が有するペロブスカイト太陽電池の放射線耐性に対する知見と、超薄型デバイスの圧倒的軽量性・柔軟性を融合させた世界最先端デバイスの開発が当研究室の研究です。
1. S. Kanaya et al., "Proton Irradiation Tolerance of High-Efficiency Perovskite Absorbers for Space Applications" J. Phys. Chem. Lett. 10, 6990–6995 (2019).
2. Y. Miyazawa et al., "Tolerance of Perovskite Solar Cell to High-Energy Particle Irradiations in Space Environment" iScience 2, 148–155 (2018).
3. H. Jinno et al., "Indoor self-powered perovskite optoelectronics with ultraflexible monochromatic light source" Adv. Mater. 36, 1–9 (2024).
4. H. Jinno et al., "Self-powered ultraflexible photonic skin for continuous bio-signal detection via air-operation-stable polymer light-emitting diodes" Nat. Commun. 12, 2234 (2021).
5. H. Jinno et al., "Stretchable and waterproof elastomer-coated organic photovoltaics for washable electronic textile applications" Nat. Energy 2, 780–785 (2017).
耐放射線性の高い軽量・柔軟な宇宙太陽電池パドル
超薄型ペロブスカイト太陽電池
超薄型ペロブスカイト太陽電池の宇宙応用のためには、放射線耐性に限らず、宇宙環境の耐久試験が様々に求められます。
宇宙環境では、真空・温度サイクル・ダスト衝突[6]・帯電[7]など、宇宙環境に特化した様々なデバイス試験が求められます。これらの宇宙環境試験から、フレキシブルデバイスの課題・劣化のメカニズムを抽出し、物性を解明することで、フレキシブルデバイスの宇宙応用に向けた開発指針を提示します。
6. 中村徹哉 他, 「次世代宇宙用太陽電池へのデブリ衝突の影響評価」, 宇宙科学に関する室内実験シンポジウム (2022).
7. 中村徹哉 他, 「薄膜3接合太陽電池のプラズマ干渉試験」, 宇宙科学に関する室内実験シンポジウム (2023).
超薄型ペロブスカイト太陽電池の真空試験の様子
JAXA宇宙研では、大学共同利用システムの一環として、大気球・観測ロケットといった高頻度実証プラットフォームが整備されています。我々のグループは、宇宙研の福島助教・安田助教とチームを組み、観測ロケットを用いることで、迅速な超薄型ペロブスカイト太陽電池の宇宙実証に向けて設計開発を進めています[8,9]。
8. 福島洋介 他, 「インフレータブル構造物を用いた薄膜太陽電池の宇宙実証実験」, 第6回観測ロケットシンポジウム (2024).
9. 福島洋介 他, 「インフレータブル構造物を用いた薄膜太陽電池の宇宙実証実験」, 第7回観測ロケットシンポジウム (2025).
超薄型ペロブスカイト太陽電池の観測ロケット搭載に向けた折り紙太陽電池マスト
有機ハロゲンペロブスカイト結晶は、単純な単結晶・多結晶膜だけでなく、有機リガンドを混合させた溶液中で結晶化させることで、結晶サイズを10-50 nmサイズに閉じ込めた「ナノ粒子」化することができます。そのような「ペロブスカイトナノ粒子」は、結晶サイズに依存した量子閉じ込め効果と、ハライドペロブスカイトが有する良好な光特性から、強い蛍光を示す蛍光材料となることが知られています[10]。近年では加えて、ペロブスカイトが含む鉛の元素番号が大きいことから、高い光収率(≒効率)のシンチレータとしての応用も期待されています[11]。
当研究室では、ペロブスカイトナノ粒子の宇宙応用として、ガンマ線シンチレータの開発を進めています。超薄型シート状のシンチレータを用いることで、これまで計測・高解像度化が難しかった宇宙から飛来する低エネルギーガンマ線の観測を狙います。
10. S. Simon, et al. "Ligand-assisted solid phase synthesis of mixed-halide perovskite nanocrystals for color-pure and efficient electroluminescence." Journal of Materials Chemistry C, 9, 5771-5778 (2021).
11. M. Gandini, et al. "Efficient, fast and reabsorption-free perovskite nanocrystal-based sensitized plastic scintillators" Nat. Nanotechnol. 15, 462–468 (2020).
超薄型フィルムへコートされたペロブスカイトナノ粒子
これまでご支援いただいた / 現在ご支援いただいている助成金
皆様のご支援を糧に、研究に日々邁進することができています。ご支援誠にありがとうございます。
【進行中/これまでの研究課題】
JSPS 科研費若手
「極性界面制御による超薄型ペロブスカイト太陽電池の放射線電離損傷の解明」 2025/4~
JST 創発的研究支援事業
「ナノ粒子シンチレータが拓く次世代宇宙ガンマ線観測」 2024/10~
JST ACT-X 強靭化ハードウェア
「宇宙用電源に向けた放射線安定な超薄型ペロブスカイト太陽電池」 2023/10~
宇宙工学委員会 戦略的開発研究費
「次世代の超軽量・柔軟な展開型宇宙太陽電池パドルに向けた 超薄型ペロブスカイト太陽電池の開発」 2023/4~