新しくドイツ生命科学日本人の会 (JaLFiG) の運営メンバーに入りました木村一皓です。現在コペンハーゲン大学附属病院でポスドクをしています。今回は、2026年8月29~30日にベルリンで開催された、第3回JaLFiG交流会の様子を紹介いたします。
8月下旬で少し肌寒くなったデンマークと比べ、ベルリンはまだ「デンマークの夏」を思わせるような暑さでした。今回はありがたいことに在ドイツ日本国大使館との共催で、大使館での開催となりました。パスポートを落とすようなことでもない限り、一生入ることはないだろうと思っていた大使館に入れることには、ちょっとしたワクワク感があり、普段の学会や研究会とは少し違った特別な感覚がありました。今回はオンライン参加も可能とし、現地25名・オンライン9名の計34名にご参加いただきました。また、JaLFiG (Japanese Life Science Forum in Germany、ドイツ生命科学日本人の会) という名前ではありますが、ドイツ以外の国からの参加も歓迎しており、私が暮らしているデンマークを含め、オーストリア、スイス、イギリスなど、ドイツ国外からも参加者が集まりました。
アイスブレイク
13時に交流会が始まり、JaLFiG運営チーム代表であるウィーン医科大学の陶山さんによる開会の挨拶に続き、まず行われたのがアイスブレイクでした。6〜7名程度のグループに分かれ、メンバー同士の「共通点」を探します。馬や宇宙など、意外なところでうまく共通点を見つけたグループもあり、大盛り上がりとなりました。初参加の方も多い中、研究発表の前に会場全体が打ち解けたことで、その後の講演での議論やグループディスカッションも、より活発になったのではないかと思います。
第1部:一般講演および研究支援団体紹介
そこからは研究発表です。今回は、招待講演1件と一般講演4件が行われ、分子細胞生物学のようなミクロな視点から臨床応用といったマクロな視点まで、JaLFiGには本当に幅広い分野の研究者が集まっているのだなと改めて感じました。最初の2つの一般講演では、大澤さん (チューリッヒ工科大学) から「核サイズが形成するトランスクリプトーム」、落合さん (オックスフォード大学) から「DNA/RNA標識ツールの開発を目指した非配列特異的DNA/RNAメチルトランスフェラーゼの探索と改変」についてお話しいただきました。どちらも普段の自分の研究とはかなり離れた分野でしたが、学生時代に教科書で学んだ知識を塗り替えるような内容で、とても刺激的でした。
その後、JSPSボン研究連絡センターおよびJSTパリ事務所から、それぞれの活動や、海外で研究する日本人研究者に関連する研究支援制度についてご紹介いただきました。海外で研究を続けていると、日本の研究費や研究支援制度の最新情報を追い続けるのが難しくなることもあります。そのため、このように最新の情報を直接伺える機会は非常にありがたく感じました。また、こうした助成制度に関わる方々と直接話せる機会は、日本国内でもそれほど多くないと思います。公募要項を読むだけでは分からないことを、関係者に気軽に尋ねられる機会があることも、JaLFiG交流会の魅力の一つだと思います。
第2部:招待講演および一般講演
小田先生 (リューベック大学) による招待講演「N=1から始めるヒト免疫学〜希少遺伝性炎症性疾患から見る免疫の謎」では、一人ひとりの患者さんの疾患を手がかりとして、そこからヒトの免疫機構そのものを理解していく研究についてお話しいただきました。小児科疾患という、もともと対象となる患者数が限られる領域の中で、さらに希少な疾患であることを逆手に取り、N=1を研究の強みに変えていく小田先生の戦略にはとても感銘を受けました。「一つの症例から、ここまで生命現象に迫ることができるのか」と感じたのをよく覚えています。後半では、キャリアのステップアップにおけるコネクションの重要性についてもお話しいただき、どのように人とのつながりを築いていくのかについて、小田先生ならではのアドバイスをいただきました。研究内容からキャリア戦略まで質問も大いに盛り上がり、質疑応答の後も白熱した議論が続いていました。
そして私、木村からも、「脳卒中後の脳に電気刺激はどう届くのか?―脳病変を考慮した個別化経頭蓋電気刺激に向けて」というタイトルで発表する機会をいただきました。普段参加しているMRIや非侵襲脳刺激の学会とは異なり、聴衆の専門分野はさまざまです。そのため今回は、「なぜこの研究が必要なのか」というところを、普段以上に意識して説明するよう努めました。それが逆に、自分自身の研究の意義を改めて見直すよい機会にもなりました。また、異なる分野の研究者から、普段自分では考えていなかったような質問やコメントをいただけたことも印象に残っています。こうしたところに、「生命科学」という大きな括りで集まる交流会ならではの醍醐味があるように思います。最後は増井さん (シャリテ・ベルリン医科大学) から、「バイオ医薬の臨床薬理学研究」についての発表がありました。研究そのものを楽しんでいることが伝わってくる熱意ある発表で、特に「薬をいつ止めるのか」という課題には、難しさと同時に研究としての面白さを感じました。
第3部:グループ討論
最後には、「海外に出ることによって身に付く研究者としてのスキル、逆に日本でしか伸ばせない能力」をテーマに、小グループでのディスカッションが行われました。同じ「海外で研究している日本人」といっても、滞在している国も、研究分野も、キャリアステージも違います。海外と日本の学生の違い、その後のキャリアパスに対する考え方、研究文化の違いなど、さまざまな観点から意見が出ました。単純に「海外と日本のどちらがよい」という話ではなく、それぞれの環境にどのような特徴があり、そこから何を学べるのかを考える時間になったように思います。
懇親会
交流会終了後は、そのまま大使館で懇親会です。大使館のご厚意で、ベルリンの日本料理店「一心」からケータリングをご用意いただきました。お寿司や枝豆といった、デンマークでも比較的よく見かける日本料理だけでなく、おでんまで用意されていたことが、個人的にはかなり印象に残っています。研究発表の時間には、どうしても研究やキャリアの話が中心になりますが、懇親会では、各国での日常生活のあれこれや失敗談なども加わり、話題が一気に広がります。私自身、普段はデンマークで研究しているため、ドイツ各地やヨーロッパの別の国で研究している日本人と話せる機会はそれほど多くありません。「デンマーク以外の国で留学すると、こんな経験をするのか」と新たに知ることも多く、話題が尽きない時間となりました。
エクスカーション
そして翌日は、希望者でドイツスパイ博物館 (Deutsches Spionagemuseum) へ。暗号や諜報活動の歴史に関する展示だけでなく、嘘発見器やレーザー迷路などの体験型展示もあり、こちらも盛り上がりました。私自身、007シリーズが好きだったこともあり、懐かしいスパイ映画で使われた小物がいろいろ展示されていたのは嬉しかったです。さらに、その後時間のあるメンバーで、ラーメン屋「EArth Tokyo」へ昼食に行きました (運営メンバーの石隈さんおすすめのお店です)。私は、少なくともデンマークのラーメン屋ではかなり珍しい「つけ麺」があることに興奮してしまい、即注文してしまいました。デンマークで、日本のラーメン屋と同じくらい満足できる一杯を探すのはなかなか難しいと感じていたのですが、このつけ麺は「日本で出てきても全く違和感がないのでは」と思うほどのクオリティで、かなり感動しました。その後、デンマークの同僚には「ついにEU内で最高のラーメンを見つけた」と話してしまったほどです (笑)。研究に関してだけではなく、こういった場で体験をともにすることで、一体感がさらに生まれるのではないかと感じています。
まとめ
私自身にとっても、自分の研究を普段とは異なる分野の方々に紹介できたことはもちろん、それ以上に、ヨーロッパのさまざまな場所で研究する日本人の方々と知り合えたことが大きな収穫でした。研究内容も、研究する場所も、これまで歩んできたキャリアもそれぞれ違いますが、海外で研究しているからこそ共有できる経験や悩み、そして面白さがあります。そうしたことを気軽に話せる場があることを、とてもありがたく感じています。
最後になりましたが、会場をご提供いただき、懇親会を含めさまざまな形でご支援くださった在ドイツ日本国大使館の皆さま、JSPSボン研究連絡センター、JSTパリ事務所の皆さま、招待講演をお引き受けくださった小田先生、発表者・運営メンバーの皆さま、そしてご参加いただいた皆さまに、この場を借りて御礼申し上げます。
今回参加して改めて感じたのは、JaLFiGは専門分野や所属を越えて、気軽に交流できる場だということです。初めて参加する方でも、アイスブレイクや懇親会を通して自然に会話が始まる雰囲気がありますので、「知り合いがいないから」「自分の分野が少し違うから」といった方にも、ぜひ気軽に参加していただければと思います。また次回のJaLFiG交流会で皆さまとお会いできることを楽しみにしています。ドイツやその周辺国で生命科学に関わっている方はもちろん、これからヨーロッパへの留学を考えている学生・研究者の方も大歓迎です。少しでも興味を持たれた方は、ぜひJaLFiGの活動を覗いてみてください!