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医薬品とハラル制度(Ⅱ)

中田雄一郎

大阪大谷大学紀要 56:1-10 (2022)

要旨

これまで医薬品のハラール制度について概論、経済性、訪日イスラム教徒対応と報告してきた。最初に医薬品のハラール制度について報告した2017年当時は3年後に東京オリンピックが開催され、多くのイスラム教徒が日本を訪れ、日常的にハラール制度が論ぜられると考えていた。しかしCOVID19の広がりの中、訪日外国人は激減した。一方、その中で世界に目を向けるとハラール制度に関する情報は日々更新され、食料品関連の日本企業のハラール認証取得熱は低下していない。さらにアジア新興国の成長率に比例しアジアの医薬品市場は拡大を続けており、日本の製薬メーカーも医薬品の販売先のみならず開発・製造の現場としてアジアの国々と連携を推し進めている。そこで前回の医薬品とハラール制度に関する報告から5年の歳月が経ったので、改めて追加調査を行った結果を踏まえ、医薬品に関するハラール制度について報告する。

今回の調査における重要ポイントは、(1) インドネシアのハラール認証制度の変更(MUIのハラール認証権限のBPJPHへ移管)、(2)LPPOM MUI によるHalal Positive List of Materialsの発出、(3)COVID 19ワクチン対応である。BPJPHへのハラール認証権限の移管はイスラム教組織のウラマー評議会から政府機関への権限の委譲であり、インドネシアにおけるハラール認証が政策の一部であることを印象付けた。またHalal Positive List of Materialsの発出もインドネシアの産業界に沿った政策と考えて間違いない。COVID 19ワクチンに関してはハラムであるとされても接種に意を唱えない点は、特に処方箋医薬品が緊急時に使用されることを前提にハラール制度の枠外にいつでも置かれる可能性を示唆している。また医薬品の原材料のハラール性についてもさらなる調査が必要と考える。

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大阪大谷大学機関リポジトリ (nii.ac.jp)


(2022/08/24)

薬剤師に必要なハラール医薬品情報

中田雄一郎

大阪府薬雑誌 71:26-32(2020)

要 旨

薬剤師がイスラム教徒の患者さんに接した際に知っておくべき基本的なハラールの知識と OTC医薬品に関してのハラール情報をまとめた。さらに関西医薬品協会くすり相談研究会との共同研究成果物である「医薬品のハラール準備態勢」に関するアンケート結果も記載した。結論としてハラール認証を取った OTC医薬品がない現状、イスラム教徒に提供できる情報は以下の 4点と考える。

① 日本ではハラール認証を取得した医薬品は販売されていない

② 日本では医薬品の原材料である主成分、添加剤の起源を確認することは困難である

③ 日本の医薬品 は世界共通の基準である GMPで製造され、 GDPで流通している

④ 「ハラムと考えられる」「ハラムの可能性がある」 OTC医薬品配合主成分、添加剤リスト

但し、最後に該当製品を購入・服薬するかは、イスラム教徒の方の自己判断に委ねるべきである。

(2022/08/24)

OTC医薬品のハラール性調査

~訪日イスラム教徒へのOTC医薬品のハラール情報提供~

中田雄一郎

大阪大谷大学紀要, 54: 41-55(2020)

要旨

ハラールの判断は個人の考え方であり、最後に購入・服薬を決めるのはイスラム教徒自身である。そのハラール判断のために医薬品の主成分と添加剤、製造方法等の情報をできる限り提供する必要がある。しかし、主成分と添加剤の正確なハラール情報が販売元から得られない状況下で最大限、イスラム教徒に提供できる情報は以下の5点と考える。

①日本ではハラール認証を取得した医薬品は販売されていない

②日本では医薬品の原材料である主成分、添加剤の起源を確認することは困難である

③日本の医薬品は世界共通の基準であるGMPで製造され、GDPで流通している

④OTC医薬品に配合されている主成分、添加剤は公開されている製造方法の情報から推定できる範囲で「ハラールの可能性が高い」「ハラムの可能性も否定できない」「ハラムと考えられる」の3つに分類できる(3種のリスト)

⑤「ハラールの可能性が高い」と考えられる主成分、添加剤が配合されているOTC医薬品リスト

しかし、薬局店頭ではまず1から3の内容を説明し、次にイスラム教徒の患者さんに提示できるものは実際の主成分・添加剤の原材料・製造方法・流通工程が開示されていないため、「ハラムと考えられる」の主成分・添加剤リストのみと考える。購入希望あるいは薬剤師側から薦めたOTC医薬品に「ハラムと考えられる」の主成分・添加剤が含まれていないことを説明した後は、該当製品を購入・服用するか否かはイスラム教徒の自身に判断を委ねるべきである。

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(2022/08/24)

経済活動から見た医薬品のハラル制度

中田雄一郎

大阪大谷大学紀要, 52:15-22(2018)

要旨

経済活動の指標として貿易活動に視点を当て、医薬品のハラル制度がどの程度、日本の医薬品産業にインパクトがあるかを検証した。また将来を見据えた時、ハラル対応の必要性のある市場がどの程度のものかを知るために、アジアを中心にイスラム圏の人口動態や医療・医薬品市場規模についても調査を行った。貿易統計から見たハラル対応が必要な医薬品の輸出額は非常に少なく、特別な対応を取らなくても日本の医薬品産業にそれほど大きな影響はないと考えられた。しかし、これは欧米のメガファーマが競ってハラル市場に参入しようとしているワクチンの生産高が、日本は低いことが影響している可能性がある。平成27年度の日本のワクチン生産金額は対前年比17.5%の増加を示しているものの、695億円と医療用医薬品生産金額の5兆9969億円の1.16%に過ぎなかった。さらに緊急時には非ハラル製品の使用も許されていると解釈されており、現段階での医療用医薬品の本格的なハラル制度への対応の必要性の判断は難しい。しかし、イスラム教の国々も後発医薬品の使用を推奨しており、後発医薬品の生産を自国企業が担いハラル対応を進めた場合、欧米の先発医薬品メーカーがハラル対応を追従する可能性も高い。やはり、アジア圏の人口の急速な伸びに伴う経済成長、医薬品市場の拡大を念頭にハラル対応の準備は重要と考える。さらに日本を訪れるイスラム教徒も増加しており、日本からの輸出だけでなく、日本国内で販売されるOTC製品のハラル対応も考慮すべき事項と考える。

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(2022/08/24)

医薬品とハラル制度

中田雄一郎

大阪大谷大学紀要, 51:1-14(2017)


要旨

医薬品産業を国の基盤産業として育成するためPIC/SやTPPで世界共通の仕組みを作り、共通のルールで世界と戦える体制を作ることは資源のない日本にとってメリットも多い。一方、民族の多様性、宗教を含む異文化に対応した製品作りも大切である。今回、アジア圏において大きな宗教的勢力を持つイスラム教に注目し、食品分野ですでに対応が進んでいるハラル(Halal)制度に関して、医薬品のハラル認証制度ならびにハラル対応を調査検討した。その中でハラル製品に関心を持つ人々はイスラム教徒だけでなく、とりわけ欧州の人々は、ハラルをオーガニックと同じように「安心、安全、健康」ととらえる傾向にあり、中・高所得者層を中心に関心が高まってきている事実は注目すべき点である。国内製薬産業の技術貿易収支の黒字額は自動車などの輸送用機械に次ぐ位置であり、日本の医薬品市場の数倍の規模を持つハラル医薬品市場は大きな市場と言える。その市場を念頭に置いた各国の動きが加速する中、医薬品を他国に供給することは外交・安全保障の観点で、その国の国民の生命や安全に直結し、石油などの資源に乏しい日本にとっては外交政策上、重要なカギとなる。ハラルブームに惑わされず、各国の状況を十分に理解しハラル対応を推し進めることが重要である

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(2022/8/24)