(1) 隠しごとをしているときの心的過程に関する研究
隠匿情報検査のパラダイムをつかって,情報を隠しているときにどのような生理・認知的変化が生じるのかを調べてきました(日本語での総説はこちら)。
Matsuda, I., Nittono, H., Hirota, A., Ogawa, T., & Takasawa, N. (2009). Event-related brain potentials during the standard autonomic-based concealed information test. International Journal of Psychophysiology, 74, 58-68.
隠匿情報検査において,自律神経系反応に加え,脳波を測りました。知っている情報を隠しているとき,その情報が提示されると約0.2秒には脳活動が変化すること,0.5秒後から大きな前頭部陰性-後頭部陽性の電位が生じることを示しました。
Matsuda, I., Nittono, H., & Ogawa, T. (2013). Identifying concealment-related responses in the concealed information test. Psychophysiology, 50, 617–626.
情報を知っていてかつそれを隠す必要がある条件と,情報は知っているが隠す必要がない条件で,自律神経系反応と脳波を測りました。隠す必要があるときのみ,情報提示から0.5秒以降の脳電位の増大と,呼吸の抑制がみられました。
Matsuda, I., & Nittono, H. (2015). The intention to conceal activates the right prefrontal cortex: An ERP study. NeuroReport, 26, 223-227.
隠したい情報が提示されてから0.5秒以降に生じる脳電位の増大は,右前頭部の賦活によるものであることが示唆されました。
Matsuda, I. & Nittono, H. (2018). A concealment-specific frontal negative slow wave is generated from the right prefrontal cortex in the Concealed Information Test. Biological Psychology, 135, 194-203.
知っている情報を隠そうとしたときだけではなく,伝えようとしたときでも,情報提示後0.5秒以降に生じる脳電位が増大します。これは,認知負荷の増大と対応すると考えられます。しかし,その脳電位の電源は,隠そうとしたときには右前頭部に,伝えようとしたときには左前頭部に推定されました。隠そうとしたときは抑制に関わる処理が必要となることが示唆されました。
Matsuda, I., Matsumoto, A., & Nittono, H. (2020). Time passes slowly when you are concealing something. Biological Psychology, 155, 107932.
知っている情報が含まれる検査では,含まれない検査よりも,刺激の提示時間が長く感じられることを明らかにしました。皮膚電気水準の結果から,知っている情報が含まれる検査での覚醒度の高さが,時間知覚に影響を与えている可能性が示唆されています。
生理反応の個人差を統計学的に考慮したり,新たな指標を組み合わせることで,隠匿情報検査の精度を上げるための研究をしてきました(統計解析に関する日本語での総説はこちら)。
Matsuda, I., Hirota, A., Ogawa, T., Takasawa, N., & Shigemasu, K. (2006). A new discrimination method for the Concealed Information Test using pretest data and within-individual comparisons. Biological Psychology, 73, 157-164.
予備検査から得られた個人の反応傾向にもとづいて,本検査での反応を判定する方法を,ベイズ的潜在クラスモデルにより実現しました。
Matsuda, I., Hirota, A., Ogawa, T., Takasawa, N., & Shigemasu, K. (2009). Within-individual discrimination on the Concealed Information Test using dynamic mixture modeling. Psychophysiology, 46, 439-449.
生理反応の時間的変化を構成する状態の数から,事件に関する認識の有無を推定する方法を,動的混合分布モデルにより実現しました。
Matsuda, I., Nittono, H., & Ogawa, T. (2011). Event-related potentials increase the discrimination performance of the autonomic-based concealed information test. Psychophysiology, 48, 1701–1710.
隠匿情報検査において,自律神経系反応と脳波(事象関連電位)を組み合わせると,判定成績が向上することを示しました。
Matsuda, I., & Nittono, H. (2015). Motivational significance and cognitive effort elicit different late positive potentials. Clinical Neurophysiology, 126, 304-313.
脳波の事象関連電位を測ると,感情刺激を提示したときも,刺激に対して付加的な認知処理を行わせたときも,刺激提示後0.3~0.5秒に後期陽性電位が生じます。本研究では,感情刺激に対する後期陽性電位と認知処理に対する後期陽性電位が頭皮上分布により区別できることを,時空間主成分分析により示しました。