BGMの研究

BGMの効果に興味ある学生が多いので、論文メモ。


●Kämpfe, J., Sedlmeier, P., & Renkewitz, F. (2011). The impact of background music on adult listeners: A meta-analysis. Psychology of Music, 39(4), 424–448. https://doi.org/10.1177/0305735610376261 によるBGMの効果のメタ分析では、

BGMの効果研究は数多く行われているが、それらの研究の方法論的な質はかなり異なっている。

今回のメタ分析の結果:BGMの効果は一様ではなく、行動・認知・感情に対して有益な場合もあれば有害な場合もある、また全く影響しない場合もある。

Behne1999)の結論とは対照的に、グローバル分析で見つかったヌル効果は、「BGMには効果がない」とは解釈できない。

・心理測定メタ分析では、グローバルなヌル効果の背後に多くの異なる効果がある可能性。

詳細な分析により、そのうちのいくつかを特定

1)BGMを聴くことは、読書や記憶のタスクを妨げる

2)感情や特にスポーツパフォーマンスなどの運動行動にはプラスの効果

3)BGMのテンポは、さまざまな種類の行動のテンポに強く影響する。

しかし、これらの知見もまだグローバルすぎるかもしれない

読書はある種の音楽でより妨害する(例えば、器楽より声楽、Wipplinger, 2007、クラシックよりジャズ音楽、Freeburne & Fleischer, 1952

音楽のテンポの効果は演奏される音楽の種類によって調節されるかもしれない。

特殊な文脈に注目するだけでは十分でない可能性もある。 例えば、小売店、マーケティング、広告など、BGMの効果を一律に特定することはできない(Bruner, 1990; Garlin & Owen, 2006; Oakes, 2007

 

打開する方法:より良い理論を構築する。

BGMの影響について、音楽の種類、課題の種類、文脈、さらに個人的・社会的特性を考慮して、具体的に予測できる正確で検証可能な理論を開発する必要。

 例えば、Furnhamら(Furnham & Allass, 1999; Furnham & Bradley, 1997)は、外向型と内向型では、課題(読書と記憶)と音楽の複雑さによって、BGMの影響が異なることを発見。特に、意識的な処理を必要とする課題では、BGMがそれぞれの主要課題から注意を引き離し、パフォーマンスを悪化させる可能性があります。

これとは対照的に、ほとんど自動的なタスクの処理では、BGMはそれが作り出す覚醒によって有益な効果をもたらすかもしれない。注意の制限に関する文献の知見や、上記の覚醒・気分仮説は、BGMの効果に関する包括的な理論を構築するための良い出発点となるかもしれない。



●Cheah, Y., Wong, H. K., Spitzer, M., & Coutinho, E. (2022). Background Music and Cognitive Task Performance: A Systematic Review  of Task, Music, and Population Impact. Music & Science, 5. https://doi.org/10.1177/20592043221134392


【要約】BGMが認知課題成績に与える影響に関する研究では、一貫性のない方法と不明瞭な結果が目立っている。この分野の研究結果を明確にするために、私達は様々な課題、音楽、集団の特性の各要因を考慮しながら、種々の課題の成績に対するBGMの影響について系統的レビューを実施した。

PRISMASWiMプロトコルに従い、6つの異なる認知領域(記憶、言語、思考、推論、問題解決(抑制、注意と処理速度)にわたる認知課題からなる95論文(154実験)を対象とした。抽出されたデータは、効果の方向性に基づく票数計算を用いて合成され、符号検定を用いて分析された。全体として、結果は記憶と言語関連課題に対するBGMの一般的な有害効果、及び歌詞つきBGMが楽器つきBGMよりも有害である傾向を示した。また、ほとんどの場合、BGMは課題遂行に影響を及ぼさないことがわかった。

また、BGMは難易度の高い課題、内向的性格(外向的でない)対して有害な影響を与えることが明らかになった。これらの結果は、BGMが認知課題の遂行に及ぼす影響を研究する際に、課題、音楽、集団特異的な分析が必要であることを示した。さらに、個人差(特に外向性)だけでなく、課題の難易度をコントロールする必要性にも注目する必要があった。

最後に、我々の結果は、多くの領域が未解明であり、BGMが認知的課題遂行にどのように影響するかを包括的に理解するためには、まだ多くの研究が必要であることも示している。


【コメント】※自分がレポートを書いたり、練習問題を解いたりする際に音楽を聴くことが多いので、BGMに効果について素朴に疑問をもつ人が多いようです。しかし、上記の総説にあるように、どのような人が、どのような課題を実施するのか、その際にどのような音楽の効果を調べたいのか、具体的な場面を想定した研究において説得力のある結果が得られます。課題遂行には認知的に注意、記憶、言語、推論などのプロセスが関わってきます。音楽聴取においても同様に音楽を聴くという認知プロセスが必要であるため、課題に必要な処理と音楽認知に必要な処理が競合すればパフォーマンスは低下するという基本的なモデルが想定されます。

 また、BGMに用いる音楽について、ジャンルはあまり良い変数ではありません。認知処理のモデルを前提にすれば、その音楽がどれほどの認知的な負荷があるのかを考慮するほうが合理的です。実際には、これらの課題遂行に関わる認知処理のモデルに、感情やモチベーションにもたらす音楽の効果を組み入れて、予測の精度を上げる必要があるでしょう。