研究内容

計算機合成ホログラム(CGH)

電子ホログラフィ技術において,3次元映像のリアルタイム再生は大きな課題の一つです.同技術を用いた3次元テレビの実現のため,私たちは計算機合成ホログラム(computer-generated hologram: CGH)専用計算機HORNの開発を1992年から取り組んでいます. 

CGHの高速計算に向けた最も有効な手法の1つとされているのが,ルックアップテーブル(look-up table; LUT)法と呼ばれる手法です.これは,点光源 (point-light source; PLS)の波面を事前計算してメモリに格納し,CGH計算時に逐次読み出すことで,計算負荷を軽減できる手法です.しかし,LUT法には必要メモリ量が膨大であるという課題があります.Crepe and Stamp アルゴリズムは,LUTに必要なメモリ量を,波面データの圧縮/伸長によって削減する手法です.この手法では,ディジタルな円を描画するアルゴリズムを活用し,必要メモリスペースを1000分の1にまで圧縮することに成功しています.また,計算速度も従来手法に比較して2~9倍の高速化を実現しています. 

ホログラフィは自然光下での記録に適しておらず,これは3次元テレビ実現への問題点の1つとなっています.この問題を解決するために,インテグラルフォトグラフィ(IP)という立体写真技術を利用し,実写動画像から電子ホログラフィを作成・再生するシステムが開発されています.IPは自然光下で撮影可能であり,光線の強度とともに光線の方向を記録するため,3次元情報の記録が可能です.当研究室では,再生像の高画質化や視野角拡大,システムのリアルタイム化に向けた高速計算等の研究を行っています. 

3次元ディスプレイ

世の中で「3Dホログラム」「ホログラフィック」と呼ばれる空中投影手法の大半は,残念ながら真の意味での「ホログラフィ」ではありません.これらの手法は,「ペッパーズ・ゴースト」と呼ばれる,半透明鏡(ハーフミラー)を用いて映像を空中に投影する方式に基づいています.そのため映像は2Dであり,CG技術などを駆使して3Dであるように見せているだけにすぎません.私たちは,凹面鏡とホログラフィとを用いた極めてシンプルな装置により,ホログラフィによる3D映像をリアルタイム再生するシステムを開発しています. 

ボリュームディスプレイは実際の3次元空間に立体映像を直接描画するため,観察者は特別な装置などを装着することなく,色々な方向から自然な3次元像を得ることができます.そのため,医療応用や建築設計,広告分野やエンターテインメントにおける,3次元可視化技術として注目を集めています.当研究室では,ボリュームディスプレイの持つ独自の3次元構造に着目し,機械と人間とを結びつける新たなヒューマンコンピュータインタラクションの実現を目指して研究を行っています. 

ディジタルホログラフィ

デジタルホログラフィック顕微鏡(Digital holographic microscopy; DHM)は,CMOSやCCDカメラなどの電子デバイスでホログラムを取得し,コンピュータ上で回折計算をすることによって3次元像を再生する技術です.一般的な顕微鏡に比べて,DHMは振幅だけでなく位相も同時取得することができるため,3次元的に計測できる上,高精度な厚さ方向の計測が可能です. 

従来の3Dイメージング技術では,3D情報を取得するために複数カメラによるステレオ視や奥行き方向へのスキャンが必要です.一方,ホログラフィは一回の撮影で計測対象の3D情報を取得できます.この特長を活かし,高速度(ハイスピード)カメラをホログラフィ撮影に利用することで,従来は困難であった,高速に動く物体(高速現象)の3Dイメージング,ひいては3D計測を実現できます. 

ホログラフィックプロジェクションは,プロジェクターで投影する画像の記録・再生にホログラフィを活用することで,本質的にレンズを必要としないプロジェクターを実現できる注目の技術です.レンズを必要としないため,超小型プロジェクターの開発につながります.加えて,ホログラフィックプロジェクションは,角度の異なる複数のスクリーンに異なる画像を同時投影できる特徴や,任意の形状のスクリーンに画像を投影できる特徴など,他のプロジェクターでは実現し難い機能を持っています. 

3D応用技術

中山と伊藤らは,平面状態と立体状態が相互に可変で,かつ頑丈な構造体の作成方法を開発しました. 4つのパーツで構成されるこの構造体は,紙などのシート状素材にパーツ形状を印刷するなどして作成でき, 従来作成が難しかった,球体や回転楕円も作ることができます. 大量生産が可能であり,持ち運びも容易であるという特長があります. この構造体には様々な応用先があると考えております. 例えば,現在までに,キャラクターグッズや梱包素材,教材や緊急用テント,腹腔鏡手術に使用するスペーサなどを提案しています.