ホログラフィ専用計算機 HORN

電子ホログラフィ技術において,3次元映像のリアルタイム再生は大きな課題の一つです.同技術を用いた3次元テレビの実現のため,私たちは計算機合成ホログラム(computer-generated hologram: CGH)専用計算機HORNの開発を1992年から取り組んでいます. 

HORN-1 (1993) [1][2]

1993年3月に伊藤が設計・製作したホログラフィ専用計算機の第1号機「HORN-1」は,ユニバーサル基板上に配置した26個のICチップをワイヤラッピングで配線したものでした. 

HORN-2 (1994) [3]

1994年3月に伊藤によって設計・製作されたHORN-2では,DSP(Digital Signal Processor)を用いることで計算の高精度化(32bit)に成功しました.また,3ボードの並列動作にも成功しました.

HORN-3 (1997) [4]

1997年7月に,下馬場,伊藤によって設計・製作されたHORN-3は,PLD(Programmable Logic Device)技術を用い,ホログラム計算のためのパイプライン回路を1つのPLD(ALTERA 製FLEX EPF10K70RC-2 )に実装することで,システムの並列化を容易にしました.HORN-3では,2つのPLDチップをPCI(Peripheral Component Interconnect)ユニバーサル基盤に実装し,2つのCGHパイプライン計算を1ボード上で並列動作させることに成功しました.

HORN-4 (2001) [5][6]

下馬場,伊藤らによって設計・製作されたHORN-4は,FPGA (Field Programmable Gate Array)技術を適用して,2001年1月に発表されました.HORN-4には,CGHに含まれる位相計算を加算のみで計算できるようにしたハードウェア実装に特化したCGH計算アルゴリズム[6]を搭載しています.このアルゴリズムをパイプライン回路として設計し,FPGA(EP20K300EQC240-1 by ALTERA )1チップに21段のパイプライン回路を実装しました.1つのHORN-4ボードには2つのFPGAチップを搭載しており,1ボード上での同時並列計算を可能にしました.

HORN with a display unit (2003) [6][7]

HORN開発プロジェクトの1つの目標に,計算回路とSLM(Spatial Light Modulator)を同時搭載するシステムを構築することがあります.下馬場と伊藤は,その第1試作として,HORN-4アーキテクチャとLCD(Liquid-Crystal Display)を搭載したCGH計算システムを設計・製作しました.2003年2月に手製の試作機を完成し,その後,PCB(Printed Circuit Board)作成しました.今後,1ボードで複数のチップが並列動作するシステムの実現を目指しています.このボードの開発は,電子ホログラフィ方式の3次元映像テレビの実現に向けたソリューションの1つであると考えています.

HORN-5 (2004) [8]

伊藤らは,大規模FPGA技術を用いたHORN-5を設計・製作し,2004年1月に発表しました.HORN-5では,4つの大規模FPGA(XC2VP70 by Xilinx)をCGH計算用に配置し,PCI制御用に中規模クラスのFPGA(XC2V1000 by Xilinx)を搭載しました.FPGAチップあたりのCGH計算用パイプライン段数は352段で,HORN-5ボード全体では合計1,408段になります.伊藤らは更に,4つのHORN-5ボードをPC(Personal Computer)に搭載したシステムを開発し,通常のPCによる計算に比べて1000倍以上の計算速度を実現しました.その結果,10,000点の点光源で構成される3次元オブジェクトをビデオレート(30fps: frame per second)で再生することに成功しました.

HORN-6 (2008) [9]

市橋らは,高度な並列計算技術を用いたHORN-6を設計・製作しました.HORN-5を再設計し,16枚のHORN-5ボードを用いたPCクラスタシステムを構築しました.システム全体のCGHパイプライン数は,20,480段にも登ります.クラスタ化されたHORN-6ボードが同時並列に動作することで,通常のPCと比較して5000倍の計算高速化に成功しています.

HORN-7 (2012) [10]

増田らは,商用FPGAボードであるVertex-6 ML605 by Xilinxを用いた位相変調型ホログラム専用計算機HORN-7を設計・製作しました.位相変調型ホログラムは,振幅変調型ホログラムに比べて良い画質が得られます.HORN-7開発時期に市販品の位相変調型のLCDが発売されたことから,HORNシステムに位相変調型CGHを適用するに至りました.

HORN-8 (2015)

杉江らは,高度な並列計算技術と大規模FPGAを用いたHORN-8システムを設計・製作しました.現在は最終調整段階にあり,近日中に詳報できる見込みです.

HORN-9 (2021)


References