Gender and Environmental Utopia/Dystopia in 

Paul Auster's In The Country of Last Things


要旨


ポール・オースターの『最後の物たちの国で』は、兄を探すために主人公アンナが未知のディストピアの世界に入り、そこでいかに生き残るかを語る小説である。本論は、主人公アンナをエコフェミニストとして捉え、彼女がこのディストピアの世界で経験した様々なことをジェンダーとエコロジーの視点から分析することを試みる。第一章では、市内の街、イサベルとフェーディナンドのアパート、国立図書館、病院であるウォーブン・ハウス、といった四箇所に分けて分析する。まず、街の中で生まれたユートピア・トークあるいはアンナのいう「ゴーストの言葉」と彼女が街の廃品を回収するためのシッピング・カードをもたらす異化効果を明らかにする。続いて、フェミニズムの視点から主人公アンナとフェーディナンドの妻であるイサベルが受けた精神的・身体的暴力を分析する。次に、国立図書館で生まれたアンナとサムの愛情関係の基盤となっているディストピア的な現実及びユートピア的な理想について考察する。そして、ウォーブン・ハウスでの女性同士の性的行為を注目し、アンナのセクシュアリティーにおける多様性とユートピア性について論じる。第二章において、アンナの廃品が消える前に回収する行為は文字が消える前にノートに記述する行為とはパラレルな構造にある点に焦点を当て、アンナの手紙を書くことは一種のエコ運動であることを示す。以上の考察を踏まえて、『最後の物たちの国で』は環境と文学のコネクターとして理解することができることを論証する。