本講義では、講義形式と演習形式を組み合わせ、近世・近代日本の史料をともに読解する。今回はとくに幕末の対外関係をテーマとし、幕府の大老・井伊直弼や外国奉行・井上清直に関する史料を中心とする。
現在私たちが触れる現代日本語で公的な文章が書かれるようになったのは戦後以降であり、戦前は近代文語文(とりわけ漢文訓読体)で書かれていた。他方で、文語文の一種として古くから候文と呼ばれる型式があり、とりわけ江戸時代には公私に広く普及する一方、明治以降も書簡などに用いられる文体として戦前まで用いられていた。また、ペンや活字が発達する以前は一般に毛筆が用いられていたため、楷書体以外の字体(草書など)を用いて文章が書かれることが多く、これはくずし字と呼ばれていた。
現代日本を生きる人々は、一般に現代日本語のみ理解できる者が多いが、これは戦前以前の日本語話者の記憶や知性にまるごとアクセスできないことを意味する。17-18世紀頃の文章まで現代英語の文法知識で一定程度まで読むことができる英語などと比べれば、大きなディスアドバンテージとなっていると言える。近年ではデータベースやAIなどの発展もあり、以前よりは戦前以前の知もオープンになりつつあるが、とくにくずし字の読解などは(少なくとも現時点では)まだ十分に実用可能となっているとは言い難い部分もある。
本講義では、講義と輪読というある種古典的な教育手法を通じて、1945年より前の日本の知の集積に分け入ることを試みる。本講義を受講すると、今まで読めずに埃をかぶっていた、実家の蔵に眠る秘密の古文書などが自在に読めるようになる、かもしれない。
【参考書、講義資料等】
大老・井伊直弼や外国奉行・井上清直に関係する史料の候補として、以下を挙げる。
・島田三郎『開国始末 : 井伊掃部頭直弼伝』1888年、輿論社
・佐々木克『史料 公用方秘録』サンライズ出版、2007年
・武蔵村山市歴史民俗資料館所蔵 井上清直関係資料(渡辺善一郎家文書)
史料については教員の方で用意するか、オンライン上で閲覧可能なものとする。参加者の希望に応じ、別のものに変更する可能性もある。
近代文語文・候文の理解について、以下を挙げる。
・庵功雄『留学生のための近代文語文入門 -現代の日本と日本語を知るために-』スリーエーネットワーク、2021年
(※留学生でない学生にもおすすめ)
・古田島洋介『日本近代史を学ぶための文語文入門: 漢文訓読体の地平』吉川弘文館、2013年
・佐藤孝之監修・著、宮原一郎・天野清文著『近世史を学ぶための古文書「候文」入門』吉川弘文館、2023年
くずし字読解の辞書として、以下を挙げる。
・児玉幸多編『くずし字解読辞典 普及版』東京堂出版、1993年
・児玉幸多編『くずし字用例辞典 普及版』東京堂出版、1993年
その他、講義の中でも必要に応じて紹介する。