本校では児童主体の教育、ICTを活用した教育、児童が自らを調整しながら学習する自己調整学習を推進しています。2020年度から2022年度までは区のプログラミング教育推進校の研究指定を受けて研究し、2022年には日本教育工学協会(JAET)から学校情報化優良校として認定を受けました。さらに、2023年度から今年度は学校独自で申請し、パナソニック教育財団特別研究指定校として研究助成を受けて研究をしています。また、他の学校から異動してきた教員は「東金町小学校に行ったら研究する」「東金町小学校に行ったらICTを使わなければいけない」と思っているそうです。
このように文字に起こしてみると、本校の教員は日常の業務に加えて、研究をしていると思います。しかし、本校の教員は文部科学省の示す時間外在校等時間の基準(月45時間)の中で働いています。これは全国の小学校教員の平均と比べると短いことがわかります。教員が心身の健康を維持したまま研究を通して教員としての力を身に付けるにはどのようにしたらよいのでしょうか。本校では、教員が研究を続けられるような場となるように、学校として取り組んでいます。
この成果は、東京都教育委員会から取材を受け、「東京都公立学校における働き方改革取組事例集(『学校における働き方改革の推進に向けた実行プログラム』別冊)」に取り上げていただきました。さらに、日本教育工学会学会誌や第50回全日本教育工学研究協議会全国大会でその成果を報告しました。
「働き方改革」というと、まずは、「早く帰りなさい」「17時までに退勤しなさい」などの指示が思い浮かぶかもしれません。しかし、退勤時間を早めて家に帰ってからの時間を長くしても、仕事は減っておらず仕事を家に持ち帰っているだけになるとよく耳にします。
そこで本校では、教員の仕事をできる限り減らし、教員に仕事をする時間を確保し、教員が自由になる時間を生み出し、教員が考える余裕をつくりだすことを目指しています。具体的には、時程の見直し(表1)と職員会議の見直し,学年末のみの通知表の発行,個人面談と土曜参観授業の活用,児童の出欠と教員の出退勤の管理の情報化(写真1),退勤時刻の視覚化(写真2)などがあります。これらによって、教員が自らの実践を振り返る時間やICTを活用した教育をより推進していくために、日常的に定時までの間に1時間を生み出しています。この毎日の1時間が、教員に考える余裕をつくりだし、その積み重ねが教員のウェルビーイングと持続的な研究の両立を下支えしています。
表1 週時程表(子どもたちは15時には下校します)
写真1 出退勤の情報化(押印も必要ですが……)
写真2 退勤時刻の宣言と視覚化(時間を意識した働き方を)
「管理職によるICT活用の推進」と聞くと、「何を今さら当たり前のことを……」と感じる管理職も少なくないでしょう。管理職がICTをわかっていないから、ICTが得意な教員や若手教員に任せているという状況は、本校では「管理職によるICT活用の推進」と呼びません。決して、管理職がICTをバンバン使えて教員に指導できなければいけないというわけではありません。では、本校の「管理職によるICT活用の推進」とはどのようなものでしょうか。
本校では、学校としてICTを活用することを前提とした教育を推進することを管理職が明言しています。管理職が教員よりもICTに長けているわけではありません。しかし、明言しています。そして、ICTの推進を研究推進委員会や情報委員会に任せてもいません。本校では、「管理職もともに悩み、共にICT活用を推進すること」を「管理職によるICT活用の推進」と呼びます(写真3)。大切にしていることは、「学校としてICTを活用した教育を当たり前のものとして推進すること」です。
そして、ICT活用を推進する上で管理職が知り、大切にしている言葉があります。それは愛知県春日井で行われた第48回全日本教育工学研究協議会全国大会で春日井市の先生がおっしゃっていた"NTT「慣れる、慣れる、とにかく慣れる」"と"TTP「徹底的にパクる」"です。具体的には、学校全体としての児童の端末持ち帰りの実施、教員や児童のICT活用を管理職が日常的に確認すること、管理職がICTを活用した教育の現状について学習すること(写真4)、外部人材や諸機関・企業と連携して研究を推進することなどを実施しています。
写真3 管理職のICT活用(副校長が国語で生成AIを活用した授業をしました)
写真4 EDIX東京2024(管理職も勉強しに行っています)
木原ほか(2013)は、教員のICT活用に対する熱意に影響を及ぼす要因としてICTの使いやすさやICT環境の整備といった環境要因があるとしています。この「人的・物的資源の充実」は、学校ではなく行政、特に教育委員会の仕事と捉えている方も少なくありません。この考えは堀田(2021)でも明確に示されており、正しいです。インターネット環境を強くする、端末を選択したり新しくしたりする、などは学校が勝手にできることではありません。では、学校ができることはないのでしょうか。
本校では、葛飾区教育委員会から認められている範囲内の学校裁量で外部人材を登用したり、企業や大学などと連携することによって、人的・物的資源の充実を図っています。具体的には、葛飾区から派遣されているICT支援員に加え、ICTに長けている職員を学校裁量で2名登用し、ICT支援員が常駐する状態をつくっています(写真5、写真6)。これは教員がICTについて詳しくなるに越したことはないが、ICTそのものについて詳しくなることは教員の本質ではないと考えているからです。つまり、「もちはもち屋に任せる」ことで、教員は教員の仕事をしながら、少しずつICTについて知っていけば良いと考えています。さらに、プログラミング教材や学習支援ソフトウェアなどは企業に声をかけると検証期間として無料で一定期間貸し出してくれたり、研修を企画・実施してくださる企業もあります。そして、ICTを活用した教育を専門に研究している大学教授に校内研究の指導を依頼し、定期的に相談に乗ってもらい、指導の改善に生かしています。
大切にしていることは、いつでも誰でもどこでも聞ける環境整備を目指すことです。
写真5 困ったときはICT支援員に相談(ICT支援員が常駐しています)
写真6 ICT支援員が講師で研修(教員が操作を学ぶ時間を短縮しています)
「教員研修の充実」では、学校全体で力をつけていくことを意識しています。今までの多くの教員研修は、得意な教員が「教える」側で、その他の教員は「教わる」側でした。しかし、文部科学省が学習指導要領で『主体的・対話的で深い学び』を示している中で、教員の学習がこのような形式で良いのでしょうか。また、この形式では、仕事ができる教員にますます負担がかかることも予想されます。
そこで、本校では研修を分類し、段階的にすべての教員が教員研修に関わるようにしています。つまり、外部講師から得意な教員、校内のすべての教員へ、です。具体的には、1)必要なときに必要な頻度で行う新しいソフトウェアや教材などを企業からの外部講師による教員研修【教わる】、2)毎月行う得意な教員が講師となり他の教員に伝えるICT研修【教わる+教える】(写真7)、3)毎週夕会の5分で行うすべての教員が講師となり自分の実践や得意を共有するOJT研修【教える+共有】(写真8)、の3段階があります。教員研修の充実は教員の学習する機会の保障になります。そして、このように段階的な教員研修をすることで、教員の研修への負担を減らし、当事者意識をもたせ、互いを知ることにつながると考えています。
写真7 ICTが得意な教員が講師となって実践を共有する研修
写真8 校内のすべての教員が関わる研修(学びを共有します)
研究に力を入れている学校では、校内の教員の半数が研究推進に関わり、多くの話し合いを経ながら進めていくことが少なくありません。全員で進めることの良さもある一方で、全員が納得するまで話し合い、足並みを揃えて進めることはとても大変で時間もかかります。また、1人の優秀な研究主任が引っ張るスタイルもあります。これは教員内の温度差が生じてしまったり、1人の教員に負担がかかりすぎてしまうことが課題になります。
そこで、本校では6委員会の研究推進委員会を中心に研究を進めています。研究推進委員会には委員長がいますが、委員長頼みにすることなく、各学年1人ずついる研究推進委員会の教員が各学年の研究の窓口になります。さらに、研究テーマがICT推進であり、情報委員会と切っても切り離せないため、協働して研究を推進しています。このように推進することで、研究推進委員会の委員長1人に過度の負担がかかることなく、すべての教員が納得するまで話し合うことがないため時間もかからず、小回りの利く研究推進が可能になります。加えて、1人1研究授業を実施し、みんなで授業をよりよくします(写真9)。特にICTの活用を推進する上では、「まずはやってみる」から始まることも多く(写真10)、小回りが利くことはとても重要です。管理職と研究推進委員会という小集団で合意してつくり、全体へ伝播していく研究推進デザインとすることでこれらを可能にしています。これは他の委員会でも同様の進め方をしています。
写真9 校内研究授業(みんなで授業をよりよくします)
写真10 探究を教員が「まずやってみる」(小集団から全体へ伝えます)
本校の学校としての取り組みの成果を本校に在籍する職員及び本校に指導してくださっている東京学芸大学の北澤武教授が量的に研究として明らかにしています。具体的には教員のICT活用指導力を高まっていくにはどのような教員の働く環境や学習環境を整備していく必要があるのかに着目しています。特に、相互連関モデルという教員の変容の過程を明らかにしたモデルから教員のICT活用指導力を高めることに本校の取り組みが重要であることが明らかにされました。
この研究から明らかになったことは、1)教員が新しいことに取り組む余裕をつくる「働き方改革」、2)学校の方向性を示し教職員全員で進める「管理職によるICT活用の推進」、3)教員が実践しやすい環境をつくる「人的・物的資源の充実」、4)教員がさらに学びたいときに学べる環境をつくる「教員研修の充実」、5)小集団から全体へICTを伝播させる「研究推進委員会」が教員のICT活用を促す外的領域であることです。つまり、本校の取り組み全体が積み重なって、学校全体のICT活用を推進していることが研究として示されました。
大切なことは、2つあります。1つ目は、教員が自ら学びたくなるような環境を整備して、学びやすい環境へつなげて初めて、教員は自ら学び、組織的にそれらが伝播していくということです。2つ目は、まずは教員がやってみなければICT活用は進まないため、最初の1歩をつくりだすことです。みなさまの参考になれば幸いです。