本件を中心としたハラスメント問題を考えるための用語集です。
各用語の解説と、本件との関わり、関係書類および参考資料へのリンクをまとめました。
キャンパス・ハラスメント申立書A
〔A氏〕→〔京都市立芸術大学 (職員B氏)〕
キャンパス・ハラスメント申立書B
〔A氏〕→〔京都市立芸術大学 (総務広報課課長・当時)〕
キャンパス・ハラスメント申立書A・Bに対する結論
〔京都市立芸術大学(キャンパス・ハラスメント防止対策委員会)〕→〔A氏〕
団体交渉申入書
〔きょうとユニオン〕→〔京都市立芸術大学(総務広報課)〕
キャンパス・ハラスメント防止のためのガイドライン(京都市立芸術大学作成)
労働契約法(e-GOV法令検索)
改正労働施策総合推進法/パワハラ防止法(e-GOV法令検索)
個人情報の保護に関する法律(e-GOV法令検索)
職場におけるハラスメント対策パンフレット(厚生労働省作成)
使用者(事業者)は、労働者の安全を確保するために配慮することを法的に義務付けられています。
これは安全配慮義務として、労働契約法第5条※に定められています。
ここで言う安全は、身体への害だけではなく、労働者のメンタルヘルスへの配慮も含んでおり、本件のようなハラスメント被害による労働者のメンタル不調のケアやハラスメント対策も、使用者の果たすべき義務とされています。
※労働契約法 第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
言動や態度によって他者に不快感を覚えさせ、心身の健康に害を与える、人権侵害行為を指します。
状況や内容によって様々な分類がありますが、「パワー・ハラスメント」等の法令で定義された職場内ハラスメントに対しては、防止措置を実施することが使用者側に義務付けられています。
→安全配慮義務
職場内で行われるハラスメントのうち、加害者が職場における優越的地位・権力をもちいて労働者個人の尊厳を傷つける言動・態度を取り、それによって被害を受けた労働者の労働環境を損なう事をパワー・ハラスメントと言います。
身体的な攻撃はいうまでもなく、本件のような、恫喝や侮辱、暴言といった精神的な苦痛を与える行動もパワー・ハラスメントに該当する可能性があります。
近年、職場におけるパワー・ハラスメントの急増は社会問題として注目されており、令和元年に改正された労働施策総合推進(第9章)においても、使用者に防止措置を講じることが義務付けられています。そして、ハラスメント被害を使用者に相談したこと等を理由とする不利益取扱いも禁止されています。
→職場におけるハラスメント対策パンフレット(厚生労働省)
学校、主に大学内で発生する様々なハラスメントを総称し、キャンパス・ハラスメントと呼びます。
教職員-学生間でのセクシャル・ハラスメント(性的な嫌がらせ)やアカデミック・ハラスメント(研究・学習を阻害する嫌がらせ)が注目されがちですが、本件のような教職員間でのパワー・ハラスメントも、キャンパス・ハラスメントに該当します。
これらのハラスメント問題が発生した際に、大学側が対応を怠ること、あるいは不適切な取扱いをすることは、ハラスメントの二次加害につながります。
学内で発生する事象に管理責任のある大学には、「すべての学生と教職員等がお互いを尊重し、生き生きと学び、教育・研究し、働ける環境を確保するために」※、ハラスメント事案への適切な対応、被害者のケア、ハラスメントの再発防止対策などが求められます。
※キャンパス・ハラスメント防止のためのガイドライン(京都市立芸術大学)
ハラスメント事案の発端となる加害を受けた被害者が、その被害を訴え出たことによって新たな害を被ることを、二次加害(セカンドハラスメント)と呼びます。
組織内の上司や相談窓口の知識不足、体制の不備等によって、被害の軽視や無視、放置、情報の漏洩、被害者への不利益な取り扱いが生じ、被害者を一層追い詰めることになる二次加害は、言わば使用者自体が行う加害も同然です。
本件でも、京都市立芸術大学側はかたくなに初動対応の不備を認めず、事態をパワー・ハラスメントと認めない態度を取り続けており、こうした大学側の一貫した否認によって、度重なる苦痛を受けたA氏は、現在、支援団体「ハラスメント再発防止有志の会」及びきょうとユニオンと共に、長期にわたる大学側との交渉を強いられています。
労働者が自らの権利を守り、労働条件の改善を目指すために団結し、企業との交渉に当たる組織を労働組合と言います。
ユニオン(合同労働組合)は労働組合の形態の一つで、特定の職場に属さず、様々な背景を持つ個人が企業外で結成、参加する労働組合です。本件でA氏が加盟したきょうとユニオンもこうしたユニオンのひとつで、地域に根差した合同労働組合=コミュニティ・ユニオンと呼ばれます。
ユニオンは日本国憲法で保障されている労働三権※に則り、企業別労働組合を持たない中小零細企業の労働者や非正規雇用労働者の権利保護のため、企業との交渉をはじめとする組織行動を担います。
※ 日本国憲法 第二十八条: 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
→労働組合(厚生労働省)
きょうとユニオンは、1988年に結成された、京都のコミュニティ・ユニオン(地域合同労働組合)です。正社員、パート、アルバイト、派遣、嘱託といった働き方や、国籍や性別、年齢を問わず、ひとりでも加入でき、労働相談活動の他、使用者企業との団体交渉、労働委員会での解決の支援、労働審判や裁判の支援等を行っています。
本ハラスメント事案発生時に京都市立芸術大学の非常勤職員であったA氏は、大学の労働組合に加入できなかったため、きょうとユニオンに加盟し、大学側の対応是正をめぐって団体交渉を行ってきました。
団体交渉とは、労働者団体の代表者が使用者との間で行う交渉を指します。
団体交渉は日本国憲法第28条で保障された労働者の権利であり、これを使用者側が正当な理由なく拒否することは、「不当労働行為」として労働組合法(第7条2号)※で禁止されています。また、使用者は労働組合との団体交渉に際しては誠実に対応する義務(誠実交渉義務)を負います。
本件においてA氏は、京都市立芸術大学が一貫してA氏のハラスメント被害の否認を続けることから個人での交渉に限界を感じ、「ハラスメント再発防止 有志の会」と共にきょうとユニオンに加盟、以降3回に渡って大学側と団体交渉を行いました。
※労働組合法: 第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
団体交渉での協議事項のうち、使用者が拒否できず、必ず交渉に対応しなければならない事項を、義務的団交事項といいます。
具体的には、使用者が処理できる範囲においての、労働者の労働条件や待遇に関する内容などがこれに当たります。労働者が申し立てた義務的団交事項についての交渉を、使用者が正当な理由無く拒否することは、「不当労働行為」として労働組合法(第7条2号)※で禁止されています。
使用者が本来果たすべき安全配慮義務を怠ったために起こった本件のようなハラスメント問題も、労働者の労働条件や待遇に関係し、かつ使用者による処分が可能な内容であるため、義務的団交事項に該当します。
※労働組合法: 第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。
労働組合と使用者が団体交渉を行った際、合意到達を目指して誠実に対応する義務を負うはずの使用者が、誠実交渉義務に反した行動を取り、団交の進行を阻害することを不誠実団交と呼びます。交渉の意思をもたないまま形だけの交渉を行い、下記の例に見られるような態度を取ることは、実質的に団交拒否同然の不当労働行為に該当します。
・交渉によって合意へ至ろうとする姿勢を示さない。
・十分な回答、説明、資料提出を行わない。
・交渉の場に交渉権限のない者を出席させる。
・交渉時間を不当に短縮、あるいは過度に引き延ばす。
本件における、A氏と京都市立芸術大学間の団体交渉の場でも、大学側の不誠実団交に相当すると思われる行為が繰り返され、団交の継続自体も拒否されるにいたりました。
→不当労働行為とは(京都府労働委員会)
労働者・使用者間の紛争解決のために設けられた第三者機関を労働委員会と呼びます。労働委員会には、国の機関である「中央労働委員会」と各都道府県の機関として「都道府県労働委員会」があり、そのいずれもが、労働紛争の仲裁や調停、あっせんによる解決支援、または不当労働行為審査を行います。
本件では、京都市立芸術大学との団体交渉において、大学側の不十分な対応および団交拒否を不服としたA氏が、これを不当労働行為として京都府労働委員会に救済審査を申し立てました。
→労働委員会について(厚生労働省)
使用者が労働者に対して不当労働行為を行った場合、労働者本人また労働組合の代表者は救済を申し立てることができます。この救済申立てを受け、公平中立な第三者機関である労働委員会が行う審査を不当労働行為審査といいます。
労働委員会は、調査として労使双方の主張を聞き、証人から事情を聴取する審問を経た上で、調査、審問に関わった委員の合議において事実を認定し、使用者の行為が不当労働行為にあたるかどうかを判断します。この結果、使用者が不当労働行為を行っていると判断されれば救済命令を、行っていないと判断されれば棄却命令が当事者に発出されます。この命令に不服がある場合は、中央労働委員会に再審査を申立てるか、命令取消しを求める行政訴訟を裁判所に提起することができます。また、この審査の過程で、審査委員から労使双方に和解を勧告する場合があり、労使双方が話し合いによって合意に達すれば和解によって審査が解決することもあります。
本件で、A氏ときょうとユニオンは、団体交渉における京都市立芸術大学側の不十分な対応および団交拒否を不当労働行為として京都府労働委員会に救済審査を申し立てました。
→不当労働行為事件の審査手続(厚生労働省)
→不当労働行為審査のながれ(京都府)
第三者委員会とは、企業や組織において何らかの不正、不適切な問題が発生した際に、問題の調査、分析のために設置される委員会のことです。第三者委員会のメンバーは、その名称にも「第三者」とあるように、調査対象となる組織と利害関係のない外部の第三者から選定されることが望ましく、調査事項への専門知識を有していることも重要です。
客観性、公平性、透明性を確保した委員会の調査によって、発生した不祥事の原因を解明し、報告書として開示し、再発防止策を講じることは、不祥事によって失われた組織の信頼を回復するために必須の対応と言えるでしょう。
現在、第三者委員会の設置や運用の基準については法律による規定がなく、一般的には日本弁護士連合会(日弁連)が2010年に制定したガイドラインに従って設置、運用されています。
とはいえ、法律で規制されていないからといって、不祥事を起こした当の組織が、第三者委員会を不適切に設置、運用することで、当該組織を利するような不公平な調査、決定を下し、より被害者を追い詰めることは当然社会通念上、許されることではなく、また本来あるべき公平性を欠いた委員会の存在は、ひいては組織のイメージを一段と低下させる恐れもあります。
有期契約労働者の無期転換ポータルサイト(厚生労働省)
契約社員、アルバイト、非常勤講師等の雇用期間が定まった労働契約を「有期労働契約」と言い、正社員のような雇用期間を定めない労働契約を「無期労働契約」と言います。
有期契約労働者(非正規雇用労働者)が同一の使用者の下で通算5年を越えて雇用された場合、有期契約労働者は契約更新の際に、契約形態を無期労働契約(正規雇用契約)へ転換することを申し込めます。この「無期転換ルール」は労働契約法18条1項に定められた使用者側の義務であり、条件を満たした有期契約労働者からの無期転換の申し込みを、使用者は断ることができません。
これに対し、非正規雇用労働者の正規雇用への転換を避けようとする使用者が、無期転換の条件を満たした労働者の契約を更新しない「雇止め」や、通算契約期間が5年に満たないように一旦6ヵ月以上の無契約期間を挟んで再雇用する「無期転換逃れ」といった、無期転換ルールを潜脱しようとする対応をとることが問題となっています。
本件のA氏も、非常勤講師として京都市立芸術大学に8年間勤務していましたが、大学側から6ヶ月間のインターバル(無契約期間)を設けられていた為、無期転換の条件を満たすことができず、またハラスメント問題以降、大幅に勤務時間を削減された上、雇用契約の更新もされないという対応を受けたことから、現在、きょうとユニオンと共に、大学側の意図的な無期転換逃れを指摘しています。