知事への通報から約7ヶ月となる2019年4月26日に,沖邉政経営部長より尾崎法律事務所の調査結果「公益通報に対する県の対応の適切性に関する第3者委員会調査報告書 平成31年3月1日」の送付を受け取りました。結論としては,「県の対応に問題はない」というガッカリなものです。案の定,報告書の内容は杜撰なもので,専門家の調査結果とはとても言えない代物でした。
以下,報告書の内容を引用しながら,私の見解を示していきます。
(以下報告書より引用)
第1 調査の概要
一 当委員会設置の経緯
平成30年10月8日、広島県職員(以下「本件通報職員」という)より同県知事宛に、 要旨以下の内容のメールが届いた:
「自分は平成29年10月10日以降、県に対し複数の通報をしたが、握り潰され又 は何の連絡もない。公益通報に関する調査の方法、体制、姿勢に問題がある。知事 のリーダーシップのもと、適切な対応が行われることを期待する。」
広島県(以下「県」という)はこれを検討の結果、公益的な通報に対する県の対応が適 切に行われているか否かを調査するべきであると判断し、まずは本件通報者の上記メー ルに記載されている同人の4件の通報につき、県の対応が適切であったかどうかを調査 するため、利害関係を有しない中立・公正な外部の専門家から構成される第三者委員会 (以下、「当委員会」という)を設置した。
【茂田見解】
・尾崎弁護士事務所は,私からの質問に対して,2019年1月8日のメールで「環境行政に関する事案や行政の公益通報調査に関する当職らの実績については,思い当たるものはありません。」と述べており ,尾崎弁護士らは,環境行政や行政の公益通報調査については門外漢であり,「専門家から構成される」という表現には偽りがあります。
・尾崎弁護士事務所を選定した理由については,沖邉部長に聞いても回答がなく,中立と言えるか甚だ疑問です。
(以下報告書より引用)
三 当委員会の構成
当委員会の構成は、以下のとおりである。
委員長 尾崎 行正 (尾崎法律事務所 弁護士)
委員 岩知道 真吾 (尾崎法律事務所 弁護士)
委員 佐藤 淳子(尾崎法律事務所弁護士)
委員 井上 毅 (尾崎法律事務所 弁護士)
委員 岡本 雅美(尾崎法律事務所弁護士)
当委員会の運営は、日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者委員会ガイドラ イン」に準拠しており、当委員会の委員長及び委員は、広島県とは何らの利害関係を有していない。
【茂田見解】
尾崎弁護士らは,「企業等不祥事における第三者委員会ガイドラ イン」に準拠していると言うが,これは偽りであり準拠していません。準拠していない点を以下列記します。
(一 委員の適格性において不適合)
当該ガイドラインでは、
「第三者委員会の委員となる弁護士は、当該事案に関連する法令の素養があり、内部統制、 コンプライアンス、ガバナンス等、企業組織論に精通した者でなければならない。第三者委員会の委員には、事案の性質により、学識経験者、ジャーナリスト、公認会計士などの有識者が委員として加わることが望ましい場合も多い。」
としています。一方,5人の委員は、全て尾崎法律事務所に所属する弁護士であり、この5名は環境行政に関する事案及び行政の公益通報調査に関する業務の実績がありません(2019年1月8日岩知道氏がメールで明言)。報告書の内容から,関連法令である大気汚染防止法について精通しているとは到底言えず,むしろ全くの素人と言えるレベルです。
(二 調査報告書の事前非開示の規定に不適合)
ガイドラインでは、「第三者委員会は、調査報告書提出前に、その全部又は一部を企業等に開示しない。」としていますが,尾崎弁護士らは、報告書を平成31年3月1日に作成し、これを県に提出し、通報者である私に明らかにしませんでした。私が提供を受けたのは4月26日であり,約2ヶ月も県と何を調整していたんだと思います。ガイドラインに準拠するというのであれば,県と私に同時に提示すべきです。
(三 企業等に対する要求事項に規定に不適合)
ガイドラインでは「第三者委員会は、受任に際して、企業等に下記の事項を求めるものとする。 1企業等が、第三者委員会に対して、企業等が所有するあらゆる資料、情報、社員への アクセスを保障すること。 2企業等が、従業員等に対して、第三者委員会による調査に対する優先的な協力を業務 として命令すること。 3企業等は、第三者委員会の求めがある場合には、第三者委員会の調査を補助するため に適切な人数の従業員等による事務局を設置すること。当該事務局は第三者委員会に 直属するものとし、事務局担当者と企業等の間で、厳格な情報隔壁を設けること。」とされています。
この記載内容から、資料や職員へのアクセスは、当然に第3者委員会が自発的に、直接行うことが予定されていると解釈できます。しかし、尾崎弁護士らは、調査対象とする資料は全て県が選定したものとし、県が提供した資料のみをもって調査を完結しています。調査対象である広島県のフィルタを通して提供を受けた資料のみを対象とする調査方法は、ガイドラインに準拠したものとは言えません。
また、ガイドラインでは「第三者委員会は、調査開始に当たって、調査対象となる証拠を保全し、証拠の散逸、隠 滅を防ぐ手立てを講じるべきである。企業等は、証拠の破棄、隠匿等に対する懲戒処分等 を明示すべきである。」としていますが、このような措置が取られた形跡もありません。
(調査スコープ等に関する指針及び調査の手法などにおいて不適合)
ガイドラインでは「第三者委員会は、企業等と協議の上、調査対象とする事実の範囲(調査スコープ)を 決定する。調査スコープは、第三者委員会設置の目的を達成するために必要十分なも のでなければならない。」としています。また、「第三者委員会は、デジタル調査の必要性を認識し、必要に応じてデジタル調査の専門家 に調査への参加を求めるべきである。」とされています。しかし、尾崎弁護士らの調査は,各職場で保管している公文書や文書管理システムや共有サーバー等の電子情報が調査対象となっておらず,調査の目的を達成するために十分なものとなっていません。
以上のように,尾崎弁護士らによる自称第3者委員会は,「企業等不祥事における第三者委員会ガイドラ イン」の基準に適合しない事項が多数あり,「企業等不祥事における第三者委員会ガイドラ イン」に準拠した第3者委員会を名乗る資格はありません。
(以下報告書より引用)
五 調査方法
当委員会の調査方法は以下のとおりである。 i. 本件に関係していると思料する県職員等に対するヒアリング、書面での質問(以下 「ヒアリング等」という)1 ii. 当委員会の指示に従い県から提供され、又は県が自発的に提供した書類、電子メー ル等の資料の調査・検討 当委員会が行ったヒアリング及び当委員会が調査・検討した資料の主要なものは、別紙 「ヒアリング・調査資料一覧」のとおりである。
【茂田見解】
調査において、現地で実際に保存されている公文書を確認することをしておらず、また,職務命令によらない任意の質問であるため,調査を受ける職員はリスクなく容易に事実を偽ることが可能であり,信頼できる調査方法とは言えません。職務命令で正しく回答する責務を負わせ必要十分なプレッシャーをかけた上で,書類が保管された現地にて,証拠書類の提示を求めながらヒアリングを行うべきであり,このようなぬるい調査結果は信頼できません。
(以下報告書より引用)
b 吹き付け石綿事故発覚に至る経緯
あ(有)vvは尾道市より向島中央小学校の旧校舎解体工事(以下、本項においては単 に「本現場」という)を請け負った施工業者である。
い (有)vvは、発注者より本現場に石綿が使用されていることを知らされていなか ったため、石綿飛散防止策を講ずることなく解体工事を実施していた。
【茂田見解】
この部分の表現からも素人であることが露見しています。「発注者より本現場に石綿が使用されていることを知らされていなか ったため、石綿飛散防止策を講ずることなく解体工事を実施していた。 」と尾崎弁護士らはいいますが,素人的な誤りですね。大気汚染防止法は,石綿の有無の調査を解体工事の受注者が行うよう定めており,発注者からの石綿使用の有無の情報提供があるがなかろうが,受注者は自ら石綿の調査を行い,石綿があれば,それを発注者に報告するというのが法律の立て付けです。知らされていなかったことは原因にも言い訳にもなりません。調査結果は大気汚染防止法を踏まえたものになっていないことが端的に分かる箇所です。
自称第3者委員会には,本件調査を適正に執り行う能力に欠けていることは明白です。ではなぜ尾崎事務所が選定されたのか?専門家に発注したらこんな広島県に都合のいい,いい加減な報告書が出てこないから困るんじゃないのか?と思ってしまいます。
報告書を平成31年3月1日に県に提出してから4月26日に私に提供するまでの間,2ヶ月近くありますが,何をしてたんですかね?
県が県にてって都合の悪い内容がないかチェックをしていたってことではないですかね?
次はいよいよ自称第3者委員会が「石綿飛散事故を不公表にしたこと」を肯定する理由の説明です。呆れるほどいい加減な内容です。
(以下報告書より引用)
(3) 環境県民局の回答についての当委員会の判断
上記の環境県民局の回答についての当委員会の判断は以下のとおりである。
a 本現場における石綿飛散の可能性
まず、本現場において石綿が飛散した可能性があったのか、を検討する。
向島小学校の解体工事現場では、解体工事によって床面に飛散した石綿や解体工 事の結果露出した吹き付け石綿がブルーシートで覆われただけの状態で、外部に開 放された場所に放置されていた。従って、石綿除去業者による石綿飛散防止措置が講 じられるまでの間は石綿が飛散し続けていた可能性があることは否定できない。
もっとも、この現場では、同年7月1日に初めて現場及びその周辺の大気中の石綿 濃度が測定され、その測定結果は現場室内及びその周辺のいずれにおいても定量下 限を下回るものであった。
【茂田見解】
石綿は飛散後約6時間で沈下し,大気中からは検出されなくなることが一般に知られています。万全な飛散防止対策を講じた時点で大気中に石綿がなくなっていたからといって,それ以前も飛散していなかったいということには全くなりません。
(以下報告書より引用)
b 本件における公表の要否
1 以上のように、本件では石綿が飛散した可能性はあったので、そのような場合の 公表の要否につき検討する。 まず、一般論として、県が石綿飛散のおそれを公表すべきことを義務付けている 明文上の規定はない。
従って、県は、石綿飛散のおそれを公表する義務は原則とし てなく、情報を公表するか否か、そして公表するとした場合の情報の範囲の判断は 県の裁量に委ねられることとなる。
しかし、例外的に、県民の生命、身体、健康へ の危険が極めて大きく、情報を開示しなければその危険を回避できないというよ うな場合には、県は石綿飛散のおそれを公表すべきであって、これをしなければ裁 量の逸脱となることがあるであろう(東京地判昭和53年8月3日:東京スモン訴訟第一審判決参照・資料 1.2―6)。
【茂田見解】
重要なところなのに,つっこみどころ満載です。まず「石綿飛散のおそれ」という表現は正しくありません。石綿飛散のおそれを公表すべきことを義務付けている 明文上の規定がないというのも稚拙な誤りです。この2点について説明します。
・現場で確認された石綿は,”発塵性が著しく高い”レベル1の石綿であり,この石綿は解体工事に伴う繰り返される強烈な振動に晒され確実に飛散しています。石綿の存在箇所は,一方の壁がなく吹きさらしとなっていたことから,飛散した石綿は確実に隣接する小学校に降り注いでいます。石綿の飛散はおそれ(可能性)ではなく事実です。
・大気汚染防止法は,第24条において,大気の状況を県知事に公表することを義務付けています。法律を読めば,見出しで一行「(公表)」と四文字並んでいるので非常に目立ちます。見落としようがないはずなのですが,5人の弁護士が雁首揃えて,何をやってるんでしょうね。中立の委員会とかいいながら,依頼者である広島県の弁護をするスタンスで報告書を作ったとしか思えません。
なお,広島県の各環境事務所が所蔵する「新・公害防止の技術と法規2015大気編」の大気汚染防止法第24条の解説にはこうあります。「大気汚染防止法第22条において都道府県知事に大気の汚染状況の常時監視を,義務付けているが,これらの結果を含め,当該都道府県の区域に係る大気の汚染状況の公開が義務付けられている。」
この小学校の事案のように盛大に石綿が飛散したと考えられるのに,それを公開しなかったら第24条違反になるんじゃないですか?法律の目的を考えれば普通そうなるでしょ。
このような報告書を見ると,改めて,なぜ環境行政の事案についての実績のない尾崎法律事務所を発注先に選んだのかという疑問が湧きます。5人もの弁護士を動員しておいて,全員環境行政素人とかあり得ないでしょう。わざわざ東京から呼ぶのであれば,環境事案の実績のある専門家を選べたはずです。このあたりの事実確認は,現在公文書の開示請求により調査中です。国家賠償請求ものの失態だと思います。
(以下報告書より引用)
2 そこで、上記の一般論をもとに、本件の向島中央小学校における事案につき検討 するに、本件において、東部事務所は、向島中央小学校の解体工事において3階廊 下部分の解体工事の過程で5月28日以降石綿が飛散した可能性があることを6 月26日の届出で認識し同月30日に現場に立入検査をしたが、本現場で最初に 石綿濃度の測定が行われたのはその翌日の7月1日であり、その測定結果は定量 下限未満であった。すなわち本件では、東部事務所が立入検査を行った翌日の時点 では既に石綿の飛散をほとんど検出できなかったのであり、そうだとすると本件 は、上述した、県が例外的に石綿飛散の可能性を公表する義務を負う事例ではない 。よって、東部事務所が本事案を公表しなかったことは違法ではない。
【茂田見解】
石綿は飛散後約6時間で大半が地面に落下し,大気中から検出されなくなるというのは専門家の中では常識です。6月30日に県の指導を受けた後に飛散防止対策を講じ,その翌日に大気中の石綿が確認できなくとも,それ以前も飛散していなかったいということにはなりません。
(以下報告書より引用)
b 本件における公表の要否
1 以上のように、本件では石綿が飛散した可能性はあったので、そのような場合の 公表の要否につき検討する。 まず、一般論として、県が石綿飛散のおそれを公表すべきことを義務付けている 明文上の規定はない。
【茂田見解】前記のとおり大気汚染防止法第24条に公表の規定があります。
(以下報告書より引用)
従って、県は、石綿飛散のおそれを公表する義務は原則としてなく、情報を公表するか否か、そして公表するとした場合の情報の範囲の判断は 県の裁量に委ねられることとなる。
しかし、例外的に、県民の生命、身体、健康へ の危険が極めて大きく、情報を開示しなければその危険を回避できないというよ うな場合には、県は石綿飛散のおそれを公表すべきであって、これをしなければ裁 量の逸脱となることがあるであろう(東京地判昭和53年8月3日:東京スモン訴訟第一審判決参照・資料 1.2―6)。
3 以上からすると、東部事務所が本現場における石綿飛散事故を公表しなかった ことを含めて、同事務所の調査や説明等の実施について問題がないと環境県民局 が判断し回答したことは、適切であったといえる。
4 なお、東部事務所は、当時、本件において石綿飛散事故の可能性を公表する必要 性の有無を検討していなかった。
東部事務所が、本事案で公表の必要がないことは明らかであるとの前提で、検討 をしなかったのであれば、その対応は適切であったといえるが、仮に、全く何も考 えもしなかったということであれば、公表しなかったことは結果としては違法で はないものの、石綿が人体に与える被害の深刻さに鑑みれば、公表すべき例外的な 場合に当たらないか、また、裁量の範囲内で公表すべきか否かを適時に検討すべき であったであろう。
【茂田見解】
・「石綿が人体に与える被害の深刻さに鑑みれば、〜〜〜裁量の範囲内で公表すべきか否かを適時に検討すべき であったであろう」という指摘まはったくそのとおりですね。私は河村課長に公開すべきとの主張をぶつけましたが,河村課長は私の意見を黙殺し,決裁の手続きを経ないまま違法に非公表の意思決定を行いました(広島県職員には,意思決定の際に決裁を経る義務があります)。
・繰り返しになりますが,自称第3者委員会は,「石綿飛散のおそれを公表する義務は原則とし てなく」と言いますが,義務はあります。この大きな過ちにより,「 (3) 環境県民局の回答についての当委員会の判断」の多くが誤った判断となっています。全くでたらめな検討と判断です。このような報告書に貴重な税金が使用したことも許し難いことです。損害賠償請求がなされて然るべき案件でしょう。