Keyword:代謝インプリンティング DOHaD 放牧肥育
1.代謝インプリンティングとは
~胎児期の栄養環境がつくる”体質”~
これまでの研究で家畜の生産性や健康状態は、「胎児期(お母さん牛のおなかの中)」の環境によって、変化を受けることが分かってきました。とくに、妊娠中の母牛の栄養状態は、子牛の代謝や成長など長期的な「形質」に影響を与えます。
このように、胎児期に受けた環境的な刺激が、生まれた後の代謝機能や成長パターン、さらには病気へのなりやすさにまで影響を及ぼすという現象を「代謝インプリンティング」と呼び、動物科学の分野でも広く注目されています。
2. 本研究の仮説
本研究では、胎児期に代謝が倹約的(=省エネルギー型)に変化することにより、限られた栄養(草、粗飼料)でも脂肪を蓄えやすくなるのではないかという仮説を立てています。この体質を獲得することができれば、粗飼料主体でも効率よく成長できる個体づくりにつながる可能性があります。
3. 胎児期インプリンティング
「胎児期インプリンティング」とは、お腹の中にいるとき(胎児期)の栄養や環境が、子牛の発育や将来の体質に長く影響を与える現象のことです。これは、エピジェネティクスという仕組みを通じて起こっています。エピジェネティクスとは、DNAの情報そのものは変えずに、その働き方を変えるしくみです。牛では、妊娠中の栄養状態によって、胎児の筋肉や脂肪のつき方に影響が出ることが研究でわかってきました。たとえば、
●妊娠初期の栄養は、筋肉の細胞の数に影響
●妊娠後期の栄養は、筋肉の大きさに影響
●妊娠中の栄養全体が、脂肪のつき方や成長スピードにも関係
このような「胎児期インプリンティング」の考え方は、より健康でよく育つ家畜を育てるためのカギになると考えられており、私たちの研究室でもその仕組みを探っています。
4. 新生仔期インプリンティング
「新生児仔期インプリンティング」とは、生まれてすぐの時期(新生仔期)に受ける栄養や育てられ方が、その後の体の発達や健康に長く影響を与える現象のことです。この時期もまた、エピジェネティクスと呼ばれる仕組みを通じて、遺伝子の働き方が変わることが知られています。
たとえば、ラットの研究では、母親からたくさん毛づくろいや舐めてもらった子どもは、脳の一部にあるストレスを感じるセンサー(グルココルチコイドレセプター)の働きが変わり、ストレスに強くなることがわかっています(Weaver et al.,2004)。
また、赤ちゃんの時期に高糖質のミルクを飲んだラットは、大人になって太りやすくなったり、インスリンの分泌が変わったりすることも報告されています。さらに、マウスではこの時期の栄養が、肝臓や脳などの働き方に影響するDNAのメチル化を変えることも明らかになってきました(Aalinkeel R et al.,2001)。
これらのことから、新生児期は「クリティカルウィンドウ」とも呼ばれ、一生の健康や体質に影響を与える大事なタイミングだと考えられています。