地球システム・倫理学会の「研究例会」
地球システム・倫理学会の「研究例会」
■日 時:2025年10月04日(土) 16時00分〜18時00分(開場:15時45分)
■会 場:麗澤大学新宿キャンパス(東京・西新宿「新宿アイランドタワー」4階)およびZoom
■講 師:斎藤 直子 京都大学大学院教育学研究科教授
■テーマ:分断から共生へ:痛みのさなかにある哲学とセラピーとしての教育
■要 旨:世界の分断状況の中で、多様性や差異の尊重を掲げるアメリカ民主主義のリベラルな理想が脅かされている。分断を加速する動きは日本を含む世界各地で起きている。その根底には、屈辱の感情、排除のメンタリティ(Sandel 2020)や「包摂の不安」(Saito 2018)といった、共生とは逆行する負の感情がある。こうした中で、「差異の尊重」という承認の政治学(Taylor 1992)の言語と思考様式それ自体が危機に瀕している。「分断から共生へ」は公共哲学の哲学的・実践的課題であり(山脇2024)、これを実現するための「世界哲学」も提唱される(納富2024; 中島2024)。これらの思想では、「人類共通の人間性」や「類縁性」が普遍的理念として想定されている(ガブリエル2024)。これに対して服部英二は、普遍(universal)から「通底」(transversal)――他なるものの存在価値の承認、異なる者との横断的な価値の共有――への転換を提唱する(服部2020, pp. 45;74 伊東2013, p. 17)。こうした豊富な先行研究の中で、「共生」や「共苦」、「共感」という言葉すら届かない徹底した分離状態から出発していかに他者と共にあれるようになるかという、一人ひとりの生き方を巻き込む実存的視点、およびそれをどう育むかという教育的・生成的な視点はまだ十分に解明されていない。「共通の人間性」や「類縁性」に依拠することなく、それでもなお「他者と共に生きる」道のりを、われわれはどのように築いてゆけばよいのだろうか。――この問いに応えるためには、徹底した個の単独性を起点とした共生の哲学が求められる。分断から出発して人が他者の痛みや苦しみを感受し互いに共感し合える共生社会を実現することは、政治教育に先立つ人間教育の課題である。本発表では、分断が生み出すと同時にその根底にある〈痛み〉を、共に生きる希望に転ずる教育の哲学として、アメリカ哲学の現代的意義を解明する。共生の理念に依拠せずして共生を希求する反基礎づけ主義的な〈痛みのさなかにあるアメリカ哲学〉を柱とし、その教育的意義として、他者の受諾(acknowledgment)と自己超越を志向する〈セラピーとしての教育〉(education as therapy)を提言する。
参考文献
伊東俊太郎(2013)「日本における比較思想の系譜」『比較思想研究』第40号): pp. 10-17)。
ガブリエル, マルクス(2024)『倫理資本主義の時代』(東京:ハヤカワ書房)
服部英二(2020)『地球倫理への旅路』(北海道大学出版会)
中島隆博(2024) 「世界哲学と人間の再定義」(地球システム・倫理学会の研究例会・麗澤大学新宿キャンパス、2024年6月15日)
納富信留(2024)『世界哲学のすすめ』(筑摩書房)
Saito, Naoko. 2018. “Philosophy, Translation and the Anxieties of Inclusion,” Journal of Philosophy of Education, 52(2): 197-215.
Sandel, Michael. 2020. The Tyranny of Merit: What’s Become of the Common Good (Penguin)(マイケル・サンデル『実力も運のうち:能力主義は正義か』(鬼澤忍訳)[早川書房、2021])
Taylor, Charles. 1992. Multiculturalism and the Politics of Recognition: An Essay (Princeton: Princeton University Press).
山脇直司(2024)『分断された世界をつなぐ思想』(北海道大学出版会)
■略 歴:斎藤 直子(さいとう・なおこ) 京都大学大学院教育学研究科教授。地球システム・倫理学会理事、日本哲学会理事・評議委員、アメリカ哲学フォーラム会長、Society for the Advancement of American Philosophy理事。専門は、アメリカ哲学、教育哲学。主著に、American Philosophy in Translation (2019); The Gleam of Light: Moral Perfectionism and Education in Dewey and Emerson (2005); With Naomi Hodgson, I co-edited Philosophy as Translation and the Understanding of Other Cultures (2018). With Paul Standish, I co-edited Stanley Cavell and Philosophy as Translation: The Truth is Translated (2017), Stanley Cavell and the Education of Grownups (2012); Education and the Kyoto School of Philosophy: Pedagogy for Human Transformation (2012).『〈内なる光〉と教育』。翻訳書に、ポール・スタンディッシュ著『自己を超えて:ウィトゲンシュタイン、ハイデガー、レヴィナスと言語の限界』(2012); スタンリー・カベル『センス・オブ・ウォールデン』(2005)。URL: http://www.educ.kyoto-u.ac.jp/nsaito/
■「研究例会」には、当学会に未加入の方も、来場ないしはオンラインで参加頂けます。当学会に未加入の方が来場して参加される場合は、当日、会場受付にて資料代として1,000円お支払いください。(ただし学生・院生は無料です)
■「研究例会」に先立ち、14時30分から15時30分まで「理事・評議員会」を開催します。「理事・評議員会」は、当学会の理事・評議員のみの参加となります。
■「研究例会」および「理事・評議員会」への出欠を、こちらのフォームで、2025年09月25日(木)までにご回答下さい。09月26日(金)以降に参加を申し込まれる場合は、学会事務局長(犬飼孝夫)宛にメールでご連絡ください。メールアドレス:tinukai@reitaku-u.ac.jp
■オンライン(Zoom)で参加希望の方には、開催前日までにZoomのURLとパスコードをお届けします。前日までにURLとパスコードが届かない場合は、学会事務局長(犬飼孝夫)宛にメールでご連絡下さい。メールアドレス:tinukai@reitaku-u.ac.jp
■来場に際しては感染症防止に十分ご留意下さいますようお願い申し上げます。
更新日:2025年09月06日