第1回
「交易の民」としてのアイヌ
概要
開催日:2022年6月上旬
課題本:瀬川拓郎『アイヌ学入門』(講談社、2015年)
参加者:K、Y、薪、アズシク
選書担当:アズシク
議事録作成担当:前半 - 薪、後半 - アズシク
標題作成:アズシク
選書の理由
初学者なので、読みやすいものにしたかった
旭川市博物館の展示が面白かった
松前藩による搾取が始まるよりも前のアイヌのことを知りたかった
メモ
比較的新しい研究成果の反映
例:東北地方のアイヌ語地名
本書の内容
川を意味する「ナイ」「ペツ」の分布に差がある
考古学的見地から「ナイ」→「ペツ」の順に発生
10年ほど前は議論に決着がついていなかった
参考:『アイヌ語地名の南限を探る』(筒井功 2020)
在野の民俗学的アプローチ
地図を丹念に調べ、絞り込む
実際に見に行き、考察と分類
考古学的見地に基づく記述は少なそう
考古学では、新たな史料の発見で通説が大きく変わることもある
僅かな史料から整合性のとれる仮説を立てる学問
「入門」なのか?
著者が前提としている知識を「入門」レベルの読者は持っていないのでは
著者は旭川市博物館に勤務していた。旭川市博物館にはアイヌの文化や歴史に関する豊富な展示があり、また同市内には川村カ子トアイヌ記念館もある。そのため、専門家ではない一般の人でもアイヌに対するおよそのイメージを持っていることが多いのかもしれない。
ただ、そうではない人間(前提となるおよそのイメージを持っていない人間)には少し難しく感じられる部分もあった。例えば自分(メンバーの一人)はコロボックルのことを知らなかった。「入門」レベルとして想定している読者のレベルが高いのかもしれないと感じた。
前提としてアイヌ差別を述べること自体が差別の再生産である、という見方の研究者もいる。もちろん、述べる人もいる。アイヌ差別のことを学びたい場合は他にも良書がたくさんあるから、というスタンスなのかもしれない。
この本は「交易の民だというのも、アイヌが作れないから交易で手に入れたのではなく、交易で手に入れられるほど豊かだったから自分で作る必要がなかったのだ」という主旨。(「差別の歴史を書く」ことで差別撤廃を目指すのではなく、「アイヌのイメージを変える」ことで差別撤廃を目指している)
広く一般的な知識を…というよりは考古学
主に考古学に焦点をあてている。
近現代のことはあまり詳しく書かれていない。
和人による搾取が始まるよりも前の歴史が中心。そのため、和人にとってネガティブな歴史はあまり多く書かれていない
結果として「和人にとって居心地の悪くない歴史」の本になっている
そういう意味では、確かに「入門者」向けではあるのかも
アイヌのネガティブな歴史も書かれている
例;シャクシャインの戦いは、そもそもは日高のアイヌ集団間の長年にわたる紛争が原因だったこと など
アイヌ社会のネガティブな歴史に触れると、アイヌに対する差別的言説に回収されやすいという懸念もある。
しかし、ネガティブな面も含めて事実を知ることが必要。多くの事実を知ることで、(差別的言説に回収されず)ネガティブな面についても話せるようになる。
ゴールデンカムイの劇中と関連する内容があって楽しかった
マタギ言葉のなかにアイヌ語の語彙が見られる(谷垣〜!)
アイヌが実際に砂金を採取していた可能性 など
サブタイトル
読書会のまとめとして、『アイヌ学入門』に続くサブタイトルをそれぞれが考えてみました。同じ本を読んでも、出てくる感想は人それぞれです。自分はこの本をどのように読んだのか?を一言で表現して残すために、このような取り組みをしています。
「考古学から見るアイヌの輪郭」あるいは「アイヌと周辺民族の交易から」(by K)
「考古学者が語る ― これがアイヌ学の現在だ!」(by Y)
「考古学的見地から」(by 薪)
「”対等”な交易相手としてのアイヌ像」(by アズシク)