第2回
「あえて」日本史を通じて学ぶ、半歩前進の北海道島史
概要
開催日:2022年7月
課題本:加藤博文・若園雄志郎『いま学ぶ アイヌ民族の歴史』(2018年、山川出版社)
参加者:K、Y、薪、アズシク
内容:アイヌ史の基礎を学ぶ
選書担当:アズシク
議事録作成担当:薪、azusachka
標題作成:薪
選書の理由
アイヌ史の基礎を学ぶため、概説書を選んだ。
メモ
面白かったところ・良かったところ
ゴールデンカムイにも出てきた文化や歴史が出てきて面白かった
ニシン漁、五稜郭、サッポロビール、第七師団など。
軍に入隊するアイヌの存在など。同化政策問題の多層性。
「アイヌとか面倒臭い」として日本軍に入隊したイポㇷ゚テ
「独立を目指すアイヌだけが偉いのではない、日本と協和して日本の中で生きてく努力をしたアイヌは?」と語る鶴見中尉
基本的な歴史を学ぶことができた(同化政策など)
日本史の教科書的な枠組みで説明されているので分かりやすかった
日本列島の以外の地域の情勢など、アイヌ以外の歴史も絡めた説明もあったのが面白かった
特に、現在の中国やロシアに存在した国の対外政策や政情、アムール川流域の交易事情などがアイヌの交易に関わっていたのではないか、という部分
前回読んだアイヌ学入門の補足にもなり得て、中世から近代までの交易民としてのアイヌの一面が感じられてよかった
北海道の開発や近代化の在り方について;東南アジアでの植民地化(インドネシアのサトウキビ強制栽培など)と同様のものである、プランテーションによるモノカルチャー化である、と説明していたのも良かった。日本史の枠組みで「北海道=植民地」という構造を指摘している。
物足りなかったところ
同化政策や旧土人保護法によってアイヌの人々の生活がどのように変わったのかなど、もう少し具体的に知りたいなと感じた部分があった。
それは社会史の難しいところでもある。「生活がどのように変わったか」「その政策をどう受け止めたか」は同じアイヌでも人によって違うから。例えば旧土人保護法で土地が無償提供され、その土地で上手くいった人もいればいかなかった人もいる。そもそも土地に対する考え方が違うので、土地を受け取らなかった人もいる。貧しくて死んでしまった人もいれば、死ななかった人もいる。上手くいってお金持ちになったアイヌもいないわけではない。「こうなった」というのはバリエーションがあるので、ひとまとめに語るのは難しい。
大日本帝国によるアイヌ政策の影響については、個人の歴史や地域史には書いてある。そういうのを一つ一つ読んでいくのがいいかも。
疑問に感じたところ
教科書的な語り口だが、読者層は誰を想定しているのか。
高校の日本史の先生の参考書なのか?
高校の日本史の授業の副読本?大学受験をしない生徒の多い高校では、受験世界史ではなく地方史(地域史)を学ぶこともある。北海道・沖縄など。北海道のそういう高校生が使う?
しかし2022年現在、高校に「日本史」という科目はない(「歴史総合」になった)。本書が出版された2018年時点で「歴史総合」になることは決まってたはず。「日本史」ではなく「歴史総合」をベースにしたらどのような語り方になるのか。
気になったところ
日本史の中の「周縁」としてアイヌ史を描写することの問題について。
「まえがき」にて、「日本史の枠内において北海道島、そしてアイヌの歴史を十分に語ることはできません。」「私たちは、将来的に日本史の時代区分とは別のアイヌ民族自らの視点にたった、アイヌ民族自身の語りを組み込んだ独自の歴史が提示できるようになることが理想的であると考えています」等と述べている。(pⅠ、Ⅱ)当然、編者自身もその問題を把握している。
日本史の教科書に対するアンチテーゼから始まっているけど抜けきれていない、というジレンマ。「半歩前進」という感じ。実際、アイヌ史を区分する言葉がない。続縄文文化など。「文字を持たない民族」が(文字を持っていることを前提とした歴史学の枠組みで)歴史を語る難しさ。
日本史の枠組みで語るのは違うけど、かといって「アイヌ史」もまた難しい。アイヌは北海道・千島列島だけではなくサハリンにも居住しており、サハリンにはニヴフやウイルタもいる。ベストではないがベターなのは「北海道・千島列島・サハリン・シベリア」という枠組みなのかも?(ゴールデンカムイではキロランケが考えていた独立の枠組み)
北海道旧土人保護法によって農業が奨励されたことについて「それまでの狩猟や漁労といった生業を否定したもので、現実的には農業への従事の強制といえる」と述べていた箇所。アイヌは農業もしていた(現代北海道におけるような規模ではないが)ので、農業を「していなかった」と認識されかねない表現になってしまっているのは問題ではないか。
いわゆる「かっこいいアイヌ(※)」といえる歴史上の人物が何名か紹介されていて興味深かった。天川恵三郎など。しかし、抵抗運動をした人物として取り上げられたのが男性ばかりだったのが気になった。女性は知里幸恵やバチェラー八重子。彼女らは文学史。もちろんこれはアイヌ史だけの問題ではない。
7世紀後半の日本が唐に対抗するため中華思想を導入した、とある。しかし「中華思想」という用語を無批判に使用してもいいのか。漢民族の支配様式を説明した用語ではあるが、日本では差別的な文脈で使用されることが多い。中国人差別に加担してしまいかねない言葉遣いなのでは。
※『ゴールデンカムイ』連載前、作者の野田サトルがアイヌ民族の当事者に取材した際、「可哀想なアイヌなんてもう描かなくていい。強いアイヌを描いてくれ」と依頼された。
『ゴールデンカムイ』野田サトルインタビュー ウケないわけない! おもしろさ全部のせの超自信作!(2016/01/04)
サブタイトル
読書会のまとめとして、『いま学ぶ アイヌ民族の歴史』に続くサブタイトルをそれぞれが考えてみました。同じ本を読んでも、出てくる感想は人それぞれです。自分はこの本をどのように読んだのか?を一言で表現して残すために、このような取り組みをしています。
「あえて日本史を通じて学ぶ」(アズシク)
「高校日本史の枠組みを通して見る北海道島」(K)
「日本史教科書では十分に語られない、アイヌ史・北海道史を読む」(Y)
「人類史、日本史の出来事、国際情勢を踏まえて」(薪)