研究背景
近年,海洋や湖沼における水質汚染,生態の変化など,水圏の問題が注目されている.これらの問題に対して,センシングデバイスを用いて水上や水中の長期的な環境データを定点観測することで解決しようという研究がある.センシングデバイスを用いた自動的な水上定点観測は人間が観測ポイントまで行くことによる事故の危険性をなくせたり,長期的で連続的な観測を実現し,多くのデータを集められたりするなど多くの利点がある.
本研究は長期的かつ連続的な観測を可能とする水上環境観測システムの開発を実現し,新たな水上環境観測方法を示すことを目的としている.また実験フィールドには琵琶湖を設定し,琵琶湖の水質や生態に関する諸課題を解決することに貢献するような観測システムを構築することを目指し,水上自律移動型センシングデバイスやシステム全体の評価は琵琶湖にて実施する.
現在の研究:効率的な巡回観測のための変形型移動機構の研究
これまでの研究で開発してきた水上センシングデバイス(BIWAKO-X)は,さまざまな方向から加わる外乱に即座に対応できる全方向移動可能な移動機構を備えており,定点位置を保つためことに特化した移動機構であった.一方で直進距離が長くなるとエネルギーロスが大きくなるというデメリットも存在した.そこで,効率的に定点維持,直進移動可能な移動機構を開発し,複数地点を巡回観測するタスクを効率的に達成できるようにする.
~過去の研究テーマ~
複数地点の環境観測を想定した効率的な巡回戦略
湖や海などの水圏環境では,しばしば複数地点の水質環境観測が求められる.例えば琵琶湖では,およそ50か所で月に一度の定期的な水質調査がなされている.そこで本研究では一台のセンシングデバイスを用いて,定められた複数の地点を消費電力の側面で効率的な戦略について研究した.
水質の特徴として,変化が低速であることが挙げられ,同じ場所で長時間留まること以外に定期的に観測地点を巡回することも求められることから,時空間的な巡回間隔がもたらす変化についてシミュレーションと実環境で評価した.
外乱を考慮した最適な定点維持戦略
水環境では,ロボットは波や風などのさまざまな外乱にさらされ,ロボットが定点を保つためには自己位置を推定し目標位置に移動し続けなければならない.同時にフィールドロボットは外部から給電することが容易でなく,ロボットの活動限界は搭載されたバッテリーの容量に依存する.本研究では,水上ロボットが外乱状況を考慮し,できるだけ長く定点を維持できるような最適な定点維持戦略について研究する.
過去の研究:水上定点観測のための水上センシングデバイスの開発
長期的な水上定点観測を実現するための水上センシングデバイスについて研究した.従来の観測デバイスはアンカーなどで物理的に水上に固定するタイプのセンシングデバイスが主流であった.しかし,物理的に固定してしまうと,その場所以外では利用できないという問題点が報告されている.その問題点を受け,本研究では,水中モータによる移動のみで水上で位置を固定するデバイスの研究を行った.