Evo-Devoとは
地球上の生物は、数十億年の時をかけて驚くほど多様な生態や形態を獲得してきました。しかし、一方で、ある分類群が共通してもつ、いわば「その生物らしさ」を決める性質もあります。たとえば、昆虫は必ず3対6本の脚をもち、このような形質をもとに私たちは「昆虫らしさ」を認識し分類しています。つまり、生物は「多様性」と「普遍性(共通性)」を併せもつ存在です。では、生物はその進化の過程で、どのようなメカニズムで「その生物らしさ」を保ちつつ「多様化」してきたのでしょうか。また、将来の進化を予測することはできるのでしょうか?
進化発生生物学(Evolutionary Developmental Biology, Evo-Devo)は、「進化は、遺伝子と表現型を繋ぐ発生プロセスの変化によって駆動される」と捉え、その仕組みを解明することで、こうした疑問に答えようとする学問分野です。
ダーウィンが『種の起源』(1859年)を発表する以前から、動物の比較形態学によって、異なる分類群の種同士でも胚発生のある段階では類似した姿を示すことが調べられていました。進化論の提唱後19世紀には、このことから、胚発生の初期ほどより進化的に古い形質が現れる傾向があるという説が提唱されるなど、進化と発生の関係性が盛んに議論されていました。20世紀前半になるとこうした議論は下火になり、進化学と発生学は独自に発展しました。集団遺伝学を中心とした進化学は、自然選択などによって適者が生き残る遺伝的機構を説明しましたが、適者が出現する仕組みや、遺伝子と表現型の関係はブラックボックスのままでした。一方、実験発生学・遺伝発生学を中心とする発生生物学は、個体が遺伝子から表現型を生み出す仕組みを解明してきたものの、進化的視座を欠いていました。
20世紀後半になって再び、進化学と発生生物学を融合し、遺伝子、発生プロセス、表現型、進化を結びつける試みがなされるようになり、このような分野は進化発生生物学と呼ばれるようになりました。進化発生生物学的研究は、技術の進歩と共にここ20年あまりで大きく進み、モジュール性や発生拘束、コ・オプションなどさまざまな進化の法則を提唱してきました。そして、動植物から微生物まで多種多様な生物の、DNAから行動まで幅広い階層を対象にしながら、生態学、分子生物学、生理学、古生物学、合成生物学、生物物理学、計算機科学など多くの分野も巻き込んで、まさに現在、進化の新たな理解を確立しつつあります。