オーディエンスの前で口頭発表を行う場合の準備と、実際の発表方法と留意点を見ていきましょう。まずパワーポイントなどの発表資料の準備、資料を見ての説明の練習、そして姿勢、発声などの発表態度について説明します。
パワーポイント(PPT)等を使用して発表スライドを作成する場合、どのような点に注意したら良いでしょうか。全体の構成、スライドの情報、スライドのフォントとデザインの順で見ていきましょう。この章の最後に参考資料として本ウェブサイトの背景研究で使用したスライドを記載しています。そちらも参考にしながら確認してみましょう。
研究発表を行う場合には研究の流れに沿って発表していきます。一般的な科学論文の構成はIMRADあるいはIMRaDと呼ばれる以下の構成になっています。
Introduction 研究目的、背景、研究の問い(Research Questions)、仮説
Methods あるいは Materials and Methods 方法、材料、参加者
Results 結果、研究の問い、仮説に対するの答え
Discussions 考察、研究結果の解釈、示唆
これらの構成要素をそれぞれまとめてスライドにします。全体で何ページのスライドにするかは、発表時間と研究内容にもよりますが、発表時間が20分の場合にはスライド20枚から30 枚程度を目指すと良いでしょう。また、方法や結果については、質問された場合に備えて詳細なデータも含めて多めにスライドを作成し、一部のスライドを非表示設定にしておいたり、実際の発表で時間が足りなければスキップするなどすれば、余裕を持って、しかも時間内に発表することができます。
一般的な発表ーたとえば案内や告知、報告などが目的のプレゼンテーションでは、序論→本論→結論の3部構成を意識すると良いでしょう。
パワーポイントの1ページにはどのように文章を入れていけば良いでしょうか、日本語で発表する際にはどのような点に気をつけて資料を作成しますか。おそらく、論文調のかしこまった文をそのまま貼り付けるのではなく、箇条書きなどで簡潔にポイントをまとめたり、図表も取り入れて視覚的にわかりやすいようにすると思うのですが、英語でも同様です。
文(文字)の量ですが、一般的なプレゼンテーションスライドの場合、5X5 ルールと呼ばれる指標があり、1つのスライドでは5行が見やすい、1行は5語程度がわかりやすい、とされています。研究論文の場合には、5~10行程度、1行には10語程度がわかりやすいのではないでしょうか。
英文の長さは、箇条書きか、読んでわかる、あるいは聞いてわかる程度の短文にします。論文の中の1文をそのまま書き出すのは、オーディエンスにとってはわかりづらいため、避けるべきです。具体的には以下の点に注意しましょう。
a. 関係代名詞で文をつなげていかない。
Attainment of statistical significance was not realized in the variables under investigation in which we conducted as a follow-up research to the previous examinations conducted with alternative approaches.
→We conducted follow-up research to our previous tests that used different methods. The variables we studied this time didn't show statistical significance.
b. 受動態よりwe, I のほうが良い。
The data was analyzed by....
→We analyzed the data by
An exploratory examination of microbial life-forms in aquatic ecosystems was conducted
→We explored microbial life in aquatic ecosystems.
c. 長い名詞節の主語を避ける。
The recommendation of the committee regarding the implementation of new safety measures is expected to be announced
→The committee will recommend the implementation of new safety measures.
d. 箇条書きの場合、文体、あるいは品.詞を揃える。
There are two approaches to solve conflicts in a group:
You should ask your team leader to solve a problem.
Taking an initiative to improve situations.
この例の場合には、2つのアプローチの文体を揃えて、たとえばYou should ~のほうをAsking your~ にして箇条書きしたリストの文体が揃うようにします。
文を簡素化する際、専門用語やキーワードが含まれる場合には、意味が変わってしまわない程度に慎重に行う必要はあります。辞書や同意語辞書を活用したり、あるいは指導教官のアドバイスを仰ぎましょう。
文字サイズは少なくとも18〜24ポイント以上が望ましいです。また、強調したい行や語句は大きなフォントや太字を使います。見辛くならない程度に色を使うことも効果的です。視覚的に色やフォントの区別がつきにくいオーディエンスのために、見やすく読みやすいフォントを使いましょう。
図表を取り込む場合には文字は小さくなりがちですが、インデックスなどの情報は必要です。フォントが小さくなる場合には口頭で説明を行いましょう。また、図表と説明文の関連付けがわかるように書いておくか、口頭で説明するようにします。口頭発表に慣れてくれば、画像や図表でオーディエンスを惹きつけるコツがわかってきますが、初心者のうちは、自分の主張を示すための根拠として資料を提示することを目指します。
背景の色やアニメーションは見やすいように使いすぎないようにするのがおすすめです。背景は、会場が暗かったり反対に明かるすぎたりする可能性があるので、極端に黒かったり薄かったりしないほうが良いです。できれば会場を事前にチェックして、見栄えの良い色に設定することが望ましいです。
この章では英語で口頭発表を行う際に良く使われる表現をリストアップします。慣れないうちは、これらの定型表現を用いると良いでしょう。
Title slide (タイトルスライドを見せながら)
“Good morning. My name is _______, and I am a student at AAA University in the Faculty of BBB. Today I would like to speak about ________.”
おはようございます。A大学B学部の〜です。今日は、〜についてお話いたします。
自分の所属(affiliation)をどの程度詳しく述べるかは、参加している学会・研究会・会議により調整します。国際学会の場合には、所属大学の地名や国名を入れても良いでしょう。また、共同発表者がいる場合にはメンバーの紹介をします。
Table of Contents (the table of contents slide) (アウトラインのスライドを見せながら)
“Here we see the contents of my/our presentation today.” (pause) 今日はこの内容についてお話します。
アウトライン、つまり目次のスライドを見せる時は、一つひとつを読み上げる必要はありません。オーディエンスが黙読する時間をとるだけで良いです。
The Introduction (導入のスライド)
導入部では発表の目的や主旨、学術的な背景などを説明します。
"Today I/we will be speaking about …" 今日は ~ についてお話いたします。
"The purpose of this presentation is to discuss …" この発表の目的は~
"Let me begin by providing background information on …" ~の背景についてお話することから始めます。
オーディエンスの注意を引くようにするには、以下の切り出し方も有効です。
オーディエンスに質問をする(呼びかける)
内容に関連したニュースを話題にする
驚くような資料やデータ、数値を示す
エピソードや寓話を話す(テーマを身近に感じさせる)
引用や格言で始める
いよいよ本題です。要点を1つずつ説明します。
"I would first like to speak about …" まず〜についてお話いたします。
"The first thing I would like to speak about is …" 最初にご説明するのは〜
パラグラフライティングで、最初にTopic Sentence を書くことを思い出してください。発表でも内容のまとまりごとに、まず要点やトピックを簡潔に述べます。
"I would next like to speak about …" 次に〜についてお話します。
"The second thing I would like to speak about is …" 次にご説明するのは〜
"Having spoken about [Section 1], next I would like to speak about [Section 1]." ~についてお話しましたので、次に〜の点を説明いたします。
"Having spoken about [Section 1], next I would like to turn to [Section 2]." 〜についてお話しましたが、次に〜に移ります。
Section 2 と同様の表現を使います。
"In conclusion, today I/we have spoken about …" 結論として、今日お話したことは〜
最後の結論を力強く述べます。結論は、それまでのスライドから導かれることを述べますので、ここで突然新しいことを言い出す必要はなく、それまで述べてきたことを言い換えたり繰り返したりしてまとめます。
最後のスライドを見せながら簡単に以下のフレーズのどれかを言うと良いでしょう。
"This will conclude my/our presentation."
"Thank you."
"Thank you for your kind attention.”
"Thank you for listening."
このあと質疑応答が行われます。座長、あるいは司会者がいる場合にはそのまま待ちましょう。パワーポイントはまだ閉じずにそのままにします。質問やコメントがあり、該当のスライドを提示するかもしれないからです。
自分で質問を取らなければならない場合には、以下のフレーズを使います。※複数形であることに注意!
"Are there any questions?"
"Do you have any questions?"
質疑応答対策は→質疑応答を乗り切るコツも確認しましょう
英語の発表で気をつけることは、声量と声の出し方です。学生が留学先でホームステイをした際に、普段の会話で英語があまり通じないと思っていたが、大きな声で話してみたら通じるようになった、というエピソードを聞いたことがあります。発音の良しあしというより、声量が足りないのが問題だったのです。英語は、のどの浅いところから発した音はあまり聞こえず、腹式呼吸をしてお腹から声を出すほうが良いのです。日本語には母音が5つしかないが、英語では国際音声学会によると28 通りの母音の種類があります(https://www.ipachart.com/)。日本語ではあまり気にしないで母音を発音していたかもしれませんが、英語では母音を意識しながら発音することは重要で、そのためには一定の音量が必要になります。発表においては、マイクはあったとしても、オーディエンスが聞こえる声量で話すことは基本の「き」にあたります。コロナの期間にマスク生活が続いて発声することが少なかったかもしれませんが、相手に聞こえる音量で話すことをまず心がけましょう。
次に発音については、どんな英語を目指して発音すれば良いでしょうか。イギリス英語、アメリカ英語、カナダ英語などの中でどの英語を目指せば良いでしょうか? 答えは「伝わる発音」です。研究や仕事においては、皆さんと対話するのは英語の非母語話者である可能性が高いと言えます。また、母語話者であっても1つの国の中で出身により発音は多様です。研究やビジネスで発表する際には、流暢な発音を目指す必要はなく、日本語アクセントがある英語だとしても、意図が正確に通じれば良いのです。たとえばpatient はペイシャンと言えばだいたい通じますが、パティエントと言えば通じません。
では伝わる発音をどうやって準備したら良いのでしょうか。特に専門用語や研究のキーワードは発表の要となるため、必ず理解してもらわねばなりません。それには準備段階でワードの読み上げ機能、あるいは機械翻訳や生成AIなどを利用して、音のモデルをよくきいて練習することを勧めます。たとえばChatGPTではVoice Control for ChatGPTなどの拡張機能を利用すれば、音を読み上げてくれます。また、発表を練習する際に、自分の発表をズームで録画をすると再生時に文字起こしがなされますので、AIが自分の発音をどう認識したかがわかります。同じ研究室の仲間や英語の上手な知り合いがいれば、発表をきいてもらい、気になった点を指摘してもらうと良いでしょう。
最後に抑揚とスピードについてはどのような留意点があるでしょうか。まず抑揚は、一本調子にならないように、前述のツールなどを利用してわかりやすく発表できるよう練習しましょう。重要語句をしっかり、前置詞や冠詞などは軽めに読みます。またモデルを聴く際には、単語が連結して起こる音の変化や脱落にも気をつけましょう。そして発表の鍵となる重要語句や数字、固有名詞などはさらっと読まずに、特に発表中に最初に言及する場合にははっきりゆっくり言いましょう。要はメリハリをつけることが大事です。緊張すると早口になりがちですので、落ち着いて適切なスピードで発表したいものです。
オーディエンスに向かってまっすぐ姿勢良く立って発表しましょう。時々オーディエンスを見渡して、間をとったり、声の調子を変えたりしましょう。大きな会場ではポインターを準備すると良いでしょう。ジェスチャーについては、自然に出てくる程度で良いと思います。文化的な要因もあるため、無理をして大袈裟な身振り手振りを加えたり、大企業のCEOが新製品を発表する際のようにステージ上を歩き回る必要はありません。落ち着いて、自分が最も伝えたい内容を表現することに集中してください。
練習の際に必ず時間を測り、制限時間内に終わる練習をしましょう。本番では早口になりがちなので、特に方法や結果は研究の山場とも言えますので、丁寧に説明できるようにします。
一方、実際の発表では機器トラブルや思わぬ事態が発生して、時間がひっ迫することがあります。海外での国際学会やオンライン(Live Streaming)学会の場合には、何らかの行き違いやトラブルは充分にあり得ます。時間が足りなくなった場合にはどこを省略するか、次善の策も考えておきましょう。要は「ここだけは伝えたい」ところを明確にしておきましょう。