会社運営Q&A
1 WEB会議や電話会議システムを使用した取締役会
Q:WEB会議等による取締役会への出席はできますか。
A:WEB 会議や電話会議(以下「WEB会議等」)の方法でも出席できます。会社法施行規則101条3項1号には、別の場所からの参加を認める規定があります。必ずしも物理的に1か所に集まる必要はありません。
Q:取締役会をWEB会議等により行った場合、議事録の「出席の方法」にはどのように記載すればよいですか。
A:別の場所から参加した取締役等については、「取締役○○○○は、WEB会議システムにより出席した。」等の記載を行います。
Q:取締役の全員が、それぞれの自宅等からWEB会議等で参加する方法で取締役会を開催できますか。
A:取締役の全員がWEB会議等で参加する方法でも法的に問題はありません。
Q:取締役の全員がWEB会議等で参加した場合、議事録の「場所」はどのように記載しますか。
A:取締役会議事録に記載すべき取締役会の「場所」(会社法施行規則101条3項1号)には、議長の自宅等の一定の具体的な場所を記載します。
Q: WEB会議等による取締役会を法的に有効に実施するために気をつけることを教えてください。
A:利用するWEB会議等のシステムが、技術的に、情報伝達の「双方向性」と「即時性(リアルタイム性)」を確保できる性能を有する状況であることが必要です(下記Q&Aもご参照ください。)。
取締役会を法的に有効に実施するためには、「取締役間の協議と意見交換が自由にでき、相手方の反応がよく分かるようになっている場合、すなわち、各取締役の音声と画像が即時にほかの取締役に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組み」が確保されていることが必要とされているためです。
この点を議長において確認した上で議事進行し、例えば次のように取締役会議事録に記載します。
【取締役会議事録の記載例】
「議長は、テレビ会議システムにより、出席者の音声と画像が即時に他の出席者に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる状態となっていることを確認して、議案の審議に入った。」
Q:WEB会議等による取締役会を実施するためにどのような準備を行えばいいですか。
A:「双方向性」と「即時性(リアルタイム性)」を確保できるよう、会議の開始時までに、通信状態、マイク、スピーカー、カメラ、ディスプレイ等の性能・状態を確認します。また、会議の途中で通信状態が悪化したときには電話等の代替の手段ですぐに連絡できるようにしておくことが望まれます。
Q:WEB会議等による取締役会を実施するにあたり工夫することはありますか。
A:WEB会議等では、会議参加者らお互いの反応の把握や、同時に複数人が発言しようとした場合の調整等の場面において、対面で行う会議と完全に同じというわけにはいきません。
スムーズな議事進行のために、例えば、電子的な方法で資料の事前配付を行ったり、会議の場では議長がWEB会議の特性を踏まえた適切な議事進行を行い参加者間での双方向の活発な議論を促す等の工夫が必要です。
2 取締役会の書面決議(みなし取締役会決議)
Q: 取締役会について書面決議の方法によることができますか。
A:定款に定めがある場合は、書面決議(みなし取締役会決議)を行うことができます。
新型コロナウイルスの影響によって通常どおりの取締役会開催が困難な場合や、緊急に取締役会決議を行うことが必要な場面での活用が考えられます。
【定款の規定の例】(監査役設置会社)
「第〇条 取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案した場合において、当該提案につき取締役(当該事項につき議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意したときは、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす。ただし、監査役が異議を述べたときは、この限りでない。」
Q:どのような場合に、書面決議ができますか。
A:以下の要件をすべて満たす必要があります(会社法370条)。
①定款に定めがあること
②取締役が取締役会の目的事項について行った提案について、取締役の全員が書面(電磁的記録を含みます。)により同意すること
③業務監査権限を有する監査役が設置されている場合にあっては、各監査役が、取締役会決議の目的事項について特に異議を述べないこと
Q:ずっと書面決議の方法を用いて取締役会を開催しないことはできますか。
A:できません。
会社法363条は、最低3か月に1回以上の頻度で、代表取締役等が取締役会で職務執行状況等を報告することを義務づけていますので、3か月以上にわたって取締役会を開催しないことは認められません。
Q:書面決議の方法についての留意点を教えてください。
A:書面決議は、あくまで例外的な方法として位置づけることが適当と考えられます。
取締役会における実質的な審理(質疑応答、意見表明等)を経ることによって、はじめて議論が深まり適切な意思決定ができることが多々あるためです。取締役会の機能が形骸化することがないように留意する必要があります。
3 新型コロナウイルス感染拡大対策と株主総会
Q:新型コロナウイルス感染拡大対策のために、今年の株主総会の運営で、留意すべき点はありますか。
A:今年の株主総会の運営については、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、株主に来場を控えるよう呼びかけること等、例年とは異なる方法が考えられます。
2020年4月、経済産業省と法務省は、新型コロナウイルスに関して、株主総会運営についてのQ&Aを公表していますので、ご参照ください。
【株主総会に係るQ&A】(経済産業省、法務省)
Q:株主に対して、株主総会への出席を控えてほしいと招集通知に記載して呼びかけることは差し支えないですか。
A:新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、招集通知において、株主に来場を控えるように呼びかける記載をすることは、差し支えありません。
なお、その際には、あわせて、株主に対して、書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望まれます。
実際にも、招集通知にそのような記載をしている企業は多数にのぼります。
Q:株主総会における感染拡大防止策について株主に理解を求めるにあたり、参考になる情報があれば教えてください。
A:経済産業省から、株主向けに、「株主の皆様 へのお願い-定時株主総会における感染拡大防止策について-」と題する情報発信がなされ、以下の3点について理解を求めています。
1.株主総会が例年どおりの開催時期や方法で開催されないことがあること
2.PCやスマートフォン等含む事前の議決権行使を積極的に利用すること
3.ご自身を含む来場株主の健康への影響が懸念されることから、株主総会への来場は原則お控えいただくこと
【株主の皆様 へのお願い-定時株主総会における感染拡大防止策について-】(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200522010/20200522010.html
Q: いわゆる「3密」対策のために、株主総会の会場に入場できる株主の人数制限をすることは可能ですか。
A:株主を含む参加者の健康のためですので、会場に入場できる株主の人数制限をすることも可能です。
さらに、大規模会場ではなく、入場可能な人数が限られる自社会議室を利用するなど、会場規模の縮小をすることも可能です。
ただし、人数制限や会場規模の縮小を実施する場合も、事前に招集通知のその旨の記載をすることが望ましいです。
Q:現実に会場に入場する株主が0人になってしまっても、株主総会を有効に行うことができますか。
A:書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法によって定足数等を満たせば、会場に現実に出席する株主が0人でも、株主総会を有効に開催し、株主総会決議を行うことが可能です。
Q:発熱、咳などの新型コロナウイルスが疑われる症状を有する株主が来場した場合、どう対応すべきですか。
A:発熱、咳などの症状を有する株主については、入場を断ることや、退場を命じることが可能です。
Q:例年よりも、株主総会の時間を短縮したいと考えていますが、差し支えありませんか。
A:差し支えありません。
Q:インターネット等によるオンラインによる株主総会は、法律上認められていますか。
A:株主総会を開催する現実の「場所」を設けつつ、株主がインターネット等によるオンラインによって参加/出席する(ここではオンラインによって法律上有効に出席して議決権行使等をする方式を「出席」と呼んでいます。)方法による株主総会については、現行法のもとで実施可能であるとされています。
【ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド】(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-2.pdf
Q:インターネット等によるオンラインによる株主総会を実施する場合、どのような準備が必要ですか。
A:株主が、法的に有効に「出席」して議決権行使等を行うためには、情報伝達の「双方向性」と「即時性」の確保が必要です。
株主総会決議の効力を確保するためには、通信障害が起きたときにどう対応するか等も含めて、丁寧な事前準備を行っておくことが重要です。事前準備や進行方法の詳細については、あらかじめ弁護士にご相談ください。
Q:新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の影響で、決算・監査の業務が滞り、本来予定していた時期に株主総会を開催することが困難です。開催時期の変更は認められますか。
A:2020年4月、経済産業省と法務省は、現在の社会情勢を踏まえて、3月期決算企業が6月末に開催予定としている株主総会等について、延期や継続会の開催も含め、例年とは異なるスケジュールや方法で行うことの検討を求める見解を公表しています。
【定時総会の開催について】(法務省)
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
【商業・法人登記事務に関するQ&A】(法務省)
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho06_00076.html
【新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について】(金融庁)
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html
【新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について】(金融庁)
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho06_00076.html
【2020年3月期の定時株主総会の動向について】(日本取引所グループ)
https://www.jpx.co.jp/news/1021/20200501-05.html
【継続会について】(金融庁等)
Q:法律上、定時株主総会を決算後3か月以内に開催しなくても問題ないのですか。
A:定時株主総会については、決算後3か月以内に開催する会社が多いですが、会社法296条1項によれば、事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないものとされており、決算後3か月以内に必ず開催しなければならないとされているわけではありません。
Q:会社の定款上、定時株主総会の開催時期は決算後3か月以内と定めています。その場合でも、決算後3か月以内に開催しなくてもよいのですか。
A:定款の定めがある場合でも、通常、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。
新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りると考えられます。
Q:定時株主総会を決算後3か月以内よりも後の時期に延期した場合、株主の権利行使の基準日の取扱いはどうなりますか。
A:会社法上、基準日の株主が行使することができる権利は、当該基準日から3か月以内に行使するものに限られます(会社法124条2項)。
したがって、定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において、新型コロナウイルス感染症に関連し、当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、会社は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法124条3項本文)。
4 これまでの会社法実務との違いについて
Q:取締役会や株主総会を、インターネット等を利用したオンラインによる手続で行うことなどは、会社のこれまでの実務と大きく違うのですが、急に運営方法を変えても大丈夫でしょうか。
A:新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、これまでとはまったく違う発想での会社の運営が求められています。
しかし、これは、取締役会や株主総会を含めた会社運営全般について、ITを活用し、柔軟な発想で合理化に取り組むことができる機会であるとも言えます。
そのような取り組みを法的に有効に行うことは十分可能です。不明点は、弁護士にご相談ください。
5 社団法人の運営について
Q :社団法人の理事会をWEB会議で開催することは可能ですか。
A:可能です。
ただし、株式会社の場合と同様、利用するWEB会議等のシステムが、技術的に、情報伝達の「双方向性」と「即時性(リアルタイム性)」を確保できる性能を有する状況であることが必要です。
理事会を法的に有効に実施するためには、理事間の協議と意見交換が自由にでき、相手方の反応がよく分かるようになっている場合、すなわち、各の音声と画像が即時にほかの取締役に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組みが確保されていることが必要とされているためです。
この点を議長において確認した上で議事進行する必要があり、議事録への記載は株式会社の場合と同様です。コロナウイルスの感染拡大防止のために、これまでとはまったく違う発想での会社の運営が求められています。
Q:人との接触をさけるべきとされているため、理事に理事会議事録への押印をしてもらうことが困難です。議事録への押印は法律上必須なのでしょうか。
A:実務上は議事録の真正を担保する観点から、出席理事、監事の押印が必要とされていますが、定款その他の規則に定めがない限り、法律上は押印の義務があるわけではありません。
Q:社員総会で3密を割けるために、どのような方法があるでしょうか。
A:社員数が少ない場合は、書面又は電磁的方法による社員全員の同意によるみなし決議(一般社団法人58条)により、現実の開催を割けることは可能です。
また、社員総会を開催する場合には、書面による議決権行使や代理人による議決権行使等により、出席人数を限定することも考えられます。株式会社における株主総会を完全なWEB開催で行うことは、現状の法解釈上困難ですが、総会を開催しつつWEBでの配信等のハイブリッド型の総会運営は可能とされており、これは社員総会の場合も同様と考えてよいと思います。
Q:社団法人の定款上、定時社員総会の開催時期は決算後3か月以内と定めています。その場合でも、決算後3か月以内に開催しなくてもよいのですか。
A:定款の定めがある場合でも、通常、天災その他の事由によりその時期に定時社員総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時社員総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。
新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時社員総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時社員総会を開催すれば足りると考えられます。
Q:定時社員総会の開催を延期した場合、決算後から社員総会開催までの業務執行に要した費用など、本年度予算との関係でどのように処理すればよいのでしょうか。
A:定款その他の規則があればそれによりますが、定めがない場合あるいは何らかの定めがあるが今回のような事態が想定されていなかった場合には、理事会の決議に基づいて前年度収支の枠内で暫定予算として通常の業務を行い、総会を開催できるようになった時点で、これを本年度予算に組み込んで承認を得ることになります。