山中俊治✕舘知宏、今井公太郎✕野老朝雄
トークイベントと第三回わしゃわしゃ会が開催
山中俊治✕舘知宏、今井公太郎✕野老朝雄
トークイベントと第三回わしゃわしゃ会が開催
左から野老朝雄氏、舘知宏氏、金岡大輝氏
2025年9月25日、「つながるかたち展05」の開催に先立ち、内部向けの特別トークイベントが「わしゃわしゃ会」の第3回に併せて開催されました。わしゃわしゃ会とは、つながるかたち展に出展予定の学生や作家が集まり、試作品を持ち寄りながら交流する恒例となったイベントの名称です。
トークイベントには、展覧会を01から企画していた東京大学教養学部教授の舘知宏氏と美術家の野老朝雄氏、舘研究室で「つながるかたち展」のディレクションなどを担当すると同時に、FabCafe Tokyo COO / CTOを務める金岡大輝氏、そして、05が東京大学 生産技術研究所で開催されることから、同研究所のデザインエンジニアリングを主軸とする教授の山中俊治氏と、建築が専門の教授の今井公太郎氏が登壇しました。
最初に、代表して舘氏と野老氏から、つながるかたち展のはじまりについて話がありました。 2010年に偶然初台の展覧会で出会った二人は、東京大学教養学部 前期課程の「個と群」の授業をともにはじめました。その成果発表会から発展した「つながるかたち」展が「01」とナンバリングされた理由としては「ずっと続く強度のあるものになるように」という意図があると野老氏は言います。すでに5回の展覧会を経て、今年の抱負が伝えられました。
山中俊治氏と舘知宏氏
一つ目の対談は、山中俊治氏と舘氏、モデレーターとして金岡氏が登壇。
山中氏と舘氏の出会いは2019年でした。かたちをテーマとするシンポジウムへの登壇がきっかけで、生物学者を交えて、なぜカブトガニはノロいのに流線型なのか、で盛りあがったそうです。隣同士のキャンパスで活動していた二人ですが、本格的なコラボレーションは2024年3月から開催された、山中氏のディレクションによる21_21 DESIGN SIGHTの企画展「未来のかけら」で発表された「座屈不安定性スタディ」が最初でした。初顔合わせになる舘氏と荒牧悠氏の連名で「座屈不安定スタディ」の作品群が生まれました。
荒牧 悠+舘 知宏「座屈不安定スタディ」より《まき⇔まきまきまき》
研究発表として展覧会を開催する意図として「一般的に展示はエンジニアにとっては『研究発表』の場であるが、アーティストにとっては『作品制作』の場でもある。人の共感を確かめること自体が制作の一環。だからその融合をしている僕たちにとっては『研究発展』の場である」という見解を山中氏が述べると、舘氏も同意。「その場でディスカッションしたことが新しい研究につながることがある」と述べました。プロセス自体に価値がある、アウトリーチを超えた研究の一環としての展覧会のあり方についてディスカッションしました。
「つながるかたち05に対してのメッセージはありますか?」という金岡氏からの質問に対しては、「私たちだけが発表する場ではなく、双方向の場にしたいので、見に来てくれる人もぜひ自分の作品も持ってきてもらえるとうれしいです」と舘氏は話します。
質疑応答では「舘先生は擬音語を多く使いますが、直感的なところを大切にしているんですか?」という九州大学の斉藤一哉先生からの質問。「たとえば『座屈不安定性スタディ』という学術的視点があると同時に、ものが持つ『ぺこん』『ぽよん』という感触がある。その両面が見える面白さを大切にしている」と舘氏は話します。ちなみに「わしゃわしゃ会」の名付け親も舘氏だそうです。
今井公太郎氏と野老朝雄氏
第二部は今井氏と野老氏による対談。モデレーターは同じく金岡氏です。
ほぼ初対面の二人ですが、5年ほど前にプロジェクトで間接的に協業したことがあると言います。今井氏は、当時サイネージを担当していた野老氏の「カーニングは気にしないで組み替えていいです」という発言に感銘を受けたと言います。野老氏は「カーニングレス」を意識しており「たとえデザイナーが不在になっても機能する文字を考えていた」と話します。これに対して今井氏も「建築も一つひとつ決めるのではなく、システムが必要だと思っています。ルールが動いていることで、ひとりでに全体のデザインが統制されるのが望ましいと思っています」と共感を示しました。
野老 朝雄の「DISTANCE FONT」を使用したつながるかたち展03のサイン photo:Choku KIMURA
遠くからは読めて、近づくと読みづらい野老氏作成のフォント。コロナ禍のソーシャルディスタンスに着想を得た身体的スケールを伴ったフォントシリーズ。
展示をすることの意味として、建築という大きなものを手掛ける今井氏にとっては「現場で建物をつくるときと展示品をつくるときは精神状態が違う。建築の場合は『わかっていること』しかできないけれど、展覧会は『わかっていないこと』ができます」と話すと「ある種実験が許されていますよね。触られて壊れてもすぐ直します、みたいなのも」と野老氏が続けました。
今井氏にとって「展覧会は共感の場」だと言います。「がんばった仕事に人は共感するものである、という信念が僕にはある。自分が設計したS棟で自分も展示に関われてうれしい」と話しました。野老氏は「僕は作家として死にたいけれど、その前にスコラ、学校のような場所をつくりたい。文科省の定めるような学校ではなくてね。そのきっかけになれればいいですね」と言います。そして「生産技術研究所のS棟は贅沢な場所。イタリアかな?と錯覚するような。秋になって光が長くなると、ギャラリーの窓ガラスが行灯みたいに見えてきれいなんじゃないかなと想像しています」と今年の開催場所についての感想を述べました。
イベントが終わったあとは、会場に設けられた「わしゃわしゃ会」のスペースに全員が集まり、研究成果や作品を触りながら、活発な議論が重ねられました。「つながるかたち展05」の開場で、ぜひ作品を見に、触りに来てください。