本作品では、曲げ変形できる不等辺シザース機構に着目し、それらが展開の過程で平面では不適合になるような条件を与えて敷き詰めることで、differential growth を再現しています。シザースの展開による面内の剪断変形が起こす座屈現象の結果、シザーズは面外に曲がります。 直線状に折り畳まれた 状態から、ガウス曲率一定の負曲率曲面(ひらひら曲面)へ展開する構造物 を得ることができました [Ono and Tachi 2022]。— 小野富貴
一定負曲率曲面として、解析的なものとしては回転面としてあらわせるベルトラミの擬球が知られています。ベルトラミの擬球の解には限界があり、水平に広がった根元はこれ以上拡張していくことができません。これを物理的に無理に拡張していくと回転対称性を失って「ひらひら」が現れます。「ひらひら」とは対称性の破れを伴う分岐座屈現象ということができます。— 舘知宏
この機構は単純な平面のパーツを組み合わせ、畳まれた筒型の状態と開いたひらひらとした曲面の状態とを行き来することが可能です。この特性を活かし、周囲の環境に合わせて異なる空間を生み出す建築構造物を作りたいと考えました。厚みに耐えられる独自のピボットを設計し、軽くてしなやかなバルカナイズドファイバーを材料に選ぶことで、これまでより大幅なスケールアップを実現しました。畳まれた状態の時は周囲の空間を遮りませんが、展開してひらひらとした曲面になると周囲の空間をゆるやかに分割します。また、シザースの開閉に伴って、視界の通りやすさも変化します。— 小野富貴
同じ設計のモデルでも、ひらひらの数がランダムに変化する様子を観察することができます。また、同じひらひらの数の状態では凹凸を入れ替えたり位相を変えたりする動きも可能です。内在的な性質は回転対称であるので、凹凸の位相を連続的に変化させる動きは曲げエネルギーを保ち、剛性0 となると考えられます。モーターで各端点の位置を制御することで凹凸の位相を変化させ、機構が波打つような動きを実現しました。— 小野富貴
photo:Choku KIMURA