ドングリとはブナ科植物の果実の総称です.
「自然を守りたい」あるいは「動物を助けたい」という思いは一般的には良いことと考えられます.さらに,その思いから「ドングリを送ろう」という発想になる方もいらっしゃいます.
しかしながら,自然は人間が考えるよりも複雑で繊細です.善意からの行為が,実は自然を守ることに繋がらないこともあります.たとえ善意であっても,科学的根拠に乏しいもの・否定されているものは行うべきではありません.
とくに宮島の場合,瀬戸内海では稀な自然状態の森林が残されており,大変貴重なものです.この自然を守るためにも,正しい知識にもとづいて行動する必要があります.現在の科学的に正しい知識では,安易に宮島にドングリを持ち込んではいけないという結論になります.
「善意からの行為が,実は自然を守ることに繋がらないこと」その代表的な例が,ドングリを送るという行為です.
ドングリが元々ある場所には動物が住んでいます.そのドングリは本来それらの動物が利用するものです.
不用意にドングリを送ることが,「その土地ならではの森の特徴」を失わせてしまいます.
病害虫の拡散に加担してしまうことになります.
同じ種であっても性質が変わってしまい,将来自然災害やその地域での絶滅につながる恐れがあります.
持ち込まれた場所で,その地域に元々生息する動物の餌にもなりえます.個体数増加につながり,自然に大きな負担をかける危険性があります.
ドングリを送るのではなく,まずは自然を正しく理解しましょう.
自然を理解するために観察したり,自然を大切にする活動に参加したり,活動をサポートしましょう.自身で自然観察を楽しむことからでも構いません.地域で自然観察指導をされている方々がいらっしゃいますので,そのような方々が関わる観察会や勉強会に参加しても構いません.
地域の自然を大切にする活動では,ゴミ拾いや海岸清掃,森林の整備や回復などの活動も行われています.これらの活動に参加すること・賛同することが自然を守ることにつながります.
地域で活動する団体をサポートしたり,研究機関に寄付をするなどで間接的に自然を守ることができます.
活動や勉強会に参加して,自身の知識を深め,周りの人に正確な情報を伝えましょう.
インターネットにある情報には正確なものだけでなく,不正確なものもたくさんあります.科学的に正確な情報であるか確認しましょう.
まずは,公的機関や専門家の発信する情報を確認してください.
良かれと思って行った行為が,自然破壊につながる場合があることに思いをはせてください.それを防ぐため,勉強をしっかりしたり,専門家の意見を正しく理解するように心がけましょう.
ドングリの移動による影響~ドングリも生きものです.他の場所から持ってきたドングリは,持ち込まれた場所に元々なかった遺伝子を持っている可能性が高く,異なる性質を持っています.これが混ざると,持ち込まれた地域の生物が持っている特徴が失われてしまう恐れがあります.難しい言葉で言えば生物多様性とくに遺伝的多様性の撹乱と呼ばれ,生態系の破壊につながる行為です.
病気や虫を一緒に運んでしまう~ドングリには目で見えない病原菌や害虫がついていることがあります.これを他の場所に移動すると,持ち込まれた場所で他の生き物や生態系に被害を与える可能性があります.病害虫を移動させる行為は慎むべきです.
採った場所や生きものへの影響~ドングリを採集した場所にも生きものが存在し,その生きものがドングリを利用しています.不用意にドングリを集めると、もとの場所に生息する動物(イノシシやリスなど)が冬を越すための食べ物を失うことになります.
持ち込まれた場所や生きものへの影響~ドングリを持ち込まれた場所にも,動物が存在します.これらの生きものの餌になり,個体数が増加して,自然の状態よりも過剰な個体数となり,その地域の自然環境のバランスを壊してしまいます.結果的に持ち込まれた地域の生態系の破壊につながる行為です.
法的な問題・社会的なマナーからの逸脱~森林は管理されています.また,公園なども自治体などによって管理されています.土地の所有者の許可がなければ違法行為となる場合もあります.たとえ採集の許可を得ていても,それを他の場所に送ることまでは想定されていないのが一般です.
このように,「良かれと思って」やったことが,他の場所の自然環境を壊してしまうことになりかねません.つまり,ドングリを送る行為は「自然や動物を助けるつもり」が「自然や生きものを傷つけること」に繋がる危険があることを理解してください.専門家の意見を正しく理解して,自然を守りましょう.
宮島にあるドングリ―宮島でみられるブナ科植物―
Q1: ドングリを少しだけなら大丈夫?
A1: ドングリが1つであっても,病原菌や害虫を運んでしまう可能性があります.また,条件が良いとドングリが発芽してしまう場合があります.
Q2: ドングリは発芽しないのでは?
A2: ドングリは条件が整えば発芽してしまいます.実際発芽しているドングリがあることが何度も確認されています.また,1つでも発芽すれば影響はゼロではありません.
Q3: ドングリを茹でれば大丈夫では?
A3: ドングリを完全に発芽しない条件で茹でたとしても,菌類は残る可能性があります.また,持ち込まれた場所の生きものの餌になることから,生態系のバランスを崩す原因になります.
森林総合研究所. 2011. 広葉樹の種苗の移動に関する遺伝的ガイドライン. 20 pp. 独立行政法人森林総合研究所, つくば. https://www.ffpri.go.jp/pubs/chukiseika/2nd-chuukiseika20.html