episode note3

「原爆忌」という能があるのをご存知でしょうか



能「原爆忌」というのがあるのをご存知でしょうか?廿日市市にカンナのバトンが繋がり、市長さんともお会いして、モン・サン・ミシェルへの旅につながるのですが、この時、市役所の花壇にもカンナが植えられました。花壇の葉の茂った大きな木の下で、カンナに雨かかることがなく、枯れてしまいそうになった時に、市役所の前にお住まいの能楽師さんが毎日カンナに水やリをしてくださいました。
その方からお聞きしたのが「原爆忌」という能があるというお話でした。のちにはその台本もいただきました。私も能を習っていましたので、観世先生にこの話をお伝えしたところ、ご存知でした。ぜひまた演じられると良いのですが、とお話申し上げると、西の能楽士さんによる演目なので、東京の我々が公演することは難しいとのお話でした。いつか、また、演じられることがあればぜひ、鑑賞したいです。ちなみに前回の公演は宮島の能楽堂で演じられたそうです。いつかぜひ見たいものです。
ところで、この台本は多田富雄先生によるものでした。多田富雄先生は、東京大学の名誉教授で免疫学の権威でいらっしゃいました。多田富雄先生(2010年ご逝去)は能にも造詣が深く著書も多くあります。写真はその一部です。脳梗塞で倒れてからは、車椅子で能楽堂に通い、能の現代性とは何かを問い続ける一方で、新作能作者として「一石仙人」「望恨歌」「原爆忌」「長崎の聖母」などをお書きになりました。
そして、多田先生のご縁はそのご家族さまとの出会いへと導かれるのでした。
2011年、東日本大震災で石巻の小中学校にカンナをお届けしたときにお世話になった教頭先生が茨城県の倫理法人会で被災の講演をしたいということで、私にもカンナの話を5分ほどしてほしいとの依頼をいただき2012年、茨城を訪れました。(実際には教頭先生が遅れて来られたため、その間は代理の私の講演となりました)。講演後の懇親会会場となった旅館のご主人様から、私の部屋に伝言が届き、「お疲れのところ恐縮ですが、ぜひ、橘先生とお話しがしたい」ということで応接室に招かれました。そこで、はじめて、多田富雄先生の妹様のご主人様、つまりは、多田先生の義理のお兄様にあたる方だと名乗られました。もちろん、実の妹さまもご一緒でした。今日の講演を聞いてくださっていたこと、ぜひ、お話をしたいということだったとおっしゃいます。
そして、多田先生の遺品や貴重なお写真を見せていただきました。それらの品は、その後、市の資料館に寄贈されました。貴重なお話と資料をこの手にとって拝見する貴重な機会をいただきました。本当に不思議な導きでした。数冊のご著書とビデオをくださいました。写真はその一部です。「この旅館にもぜひカンナを咲かせたいです。」とおっしゃっていただきました。それから数年後、こちらの旅館にもカンナをバトンさせていただきました。