レプリコンについて
レプリコンという用語はウイルス学が専門でない方には馴染みがないと思いますので説明させていただきます。
レプリコンは一言でいうと感染性のない人工ウイルスです。
現在、流行しているCOVID-19の原因となるSARS-CoV-2をここではレプリコンと区別するために天然ウイルスと呼ぶことにします。
天然ウイルスの遺伝子は2つのパートから構成されています。
・1つ目は、遺伝子を細胞に運ぶための「ウイルス粒子」の骨格となる構造領域のタンパク質を作るのに必要な遺伝子です。
・2つ目は細胞の中でウイルスの遺伝子を「複製」するタンパク質を作るのに必要な非構造領域の遺伝子です。
レプリコンでは人工的に構造領域をなくしてしまうため、ウイルス粒子」は産生されず、細胞内での「複製」のみが起こります。
レプリコンには天然ウイルスのような感染性がないので安全に実験を実施できます。
レプリコンのメリット
感染性のないレプリコンを使うと安全に実験を行えるメリットがあります。
ウイルスを取り扱う実験では、研究室からウイルスを流出させないような封じ込めが必要になります。ウイルスを実験室外に流失させない封じ込めを「物理的封じ込め」とよびます。一番危険なエボラウイルスのようなウイルスを取り扱うBiosafety level (BSL) 4から比較的安全なウイルスを取り扱うBSL1までウイルスのランクにより封じ込めの基準が決められています。
レプリコンは感染に必要な「構造領域」をなくしてしまうため正式な定義では有りませんが、ウイルス学的な封じ込めと言えるかもしれません。
SARS-CoV-2では天然型ウイルスを取り扱うにはBSL3の実験室が必要になりますが、BSL3の施設を保有する研究室は限られています。
一方で、感染性のないレプリコンの実験はBSL2で実施することが可能です。
BSL2は一般的な実験室のためBSL3施設がない研究室でもSARS-CoV-2研究や治療薬の探索を実施できるメリットがあります。