レプリコンを使うと薬を見つけることができる
ウイルスには2つの重要な役割があります。「感染」と「複製」です。
ウイルスは細胞の中に入らないと増殖できないため細胞に「感染」しなければなりません。感染に必要な遺伝子はウイルス粒子を構成するタンパク質の設計図である構造領域です。
ウイルスが子孫を残すためには自らの遺伝子をコピーして増やさなければなりません。ウイルスの遺伝子をコピーすることを「複製」と呼びます。「複製」に必要な遺伝子を非構造領域と呼びます。
レプリコンでは、「感染」に必要な構造領域を削ってしまうためウイルスの「複製」だけが起こります。レプリコンは自らを「複製」するために必要な非構造タンパク質の遺伝子を含むため、細胞内で自分の遺伝子を永遠に作り続けます。このことを自律増殖と呼びます。
一方、複製とは関係のないRNAを人工的に細胞内に入れてもRNAは不安定なので一定の時間がすぎると壊れてなくなってしまいます。
ウイルス治療剤のほとんどがウイルスの「複製」を抑制する目的で開発されています。HCVの治療薬はすべてウイルスの「複製」を抑制するものです。レプリコンを使うとウイルスの治療薬を安全に開発することができます。
レプリコンと治療薬候補の相関
複製に必要な非構造領域のタンパク質にはRNAを鋳型にRNAをコピーする「RNAポリメラーゼ」や未成熟なウイルスタンパク質を切断して成熟したタンパク質に加工する「プロテアーゼ」などがあります。
多くのウイルスの治療薬が、 「RNAポリメラーゼ」と「プロテアーゼ」を標的にしています。
現在、SARS-CoV-2の治療薬として開発されているもののうち、
・「RNAポリメラーゼ」阻害剤には、レムデシビル(ギリアッド)、MK-4482(メルク)、AT-527(ロッシュ・中外)などがあります。
・「プロテアーゼ」阻害剤にはPF-07321332(ファイザー)、S-217622(塩野義)などがあります。
この中で、レムデシビルはすでに承認されています。
PF-07321332 とMK-4482は臨床での有効性が報告されましたが、AT-527は残念ながら開発中止となっています。
私達のSARS-CoV-2レプリコンでこれらの治療剤効果を検討したところ、レムデシビル、 MK-4482とPF-07321332では有効性を確認できましたが、AT-527では確認できませんでした。
レプリコンを使用した評価では、臨床での効果と良く相関することを示す事ができました。