解説論文

ポジティブ行動支援(PBS)は、知的障害や発達障害のある者が示す行動問題に対するアプローチとして注目を集め、米国においては、その実施が法的要求事項に位置づけられ、社会において一定の影響力を持つに至った。近年では米国を中心として海外における学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)の普及が進んでいることもあり、日本の行動分析家もPBSに関連する実践や研究を無視できない状況にある。しかし、PBSが何であるのかということについて、ABAと関連づけて説明することは容易ではない。そこで本研究においては、「PBSとは何か?」を明らかにするために、PBSの起源、発展の経緯、定義・特徴、そしてABAとの関係性について文献的検討を行った。その結果、PBSは障害者に対するノーマライゼーションや権利擁護が重視されるようになった社会的潮流の中で誕生したこと、そしてPBSには様々な定義と変遷があったことが明らかとなった。また、特に米国におけるPBSのコミュニティは、ABAのコミュニティから分かれて成立し、組織的に独立していった経緯があった。概念的には、PBSを「ABAのサービス提供モデルの1つ」と捉える立場と、「ABAから進化した新しい応用科学」と捉える立場があり、PBSの独自性を巡る論争があることが明らかとなった。日本において行動分析家としてどのようにPBSと向き合うべきであるのか、今後の課題も含め検討を行った。


キーワード:ポジティブ行動支援(PBS), 行動分析学, PBSの起源・定義・特徴, ABAとPBSの関係

学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)は、教育システムに対して行動分析学的アプローチを適用したものである。SWPBSには、大きく分けて「実践」、「システム」、「データ」、「成果」という4つの構成要素があるが、これまでこれら4つの構成要素を三項随伴性の枠組みで整理することはほとんどなされていない。これを整理することは、今後、日本におけるSWPBSがどうあるべきかを考える上で必要だと考えられる。さらに、SWPBSは学校内だけで成立するものではなく、その導入・実行・持続を支える法・州・学区からのサポートが米国では存在する。そこで本稿では、SWPBSの構成要素を三項随伴性の枠組みで整理した上で、米国における26,000校以上のSWPBSの実践を支えるシステムについて検討した。これらの検討を踏まえた上で、日本における今後のSWPBSの研究・普及の課題として、「データに基づく意思決定システム」の開発が必要であること、また教職員のSWPBSの実行をサポートするために、これまでの通常業務の代替行動としてSWPBS関連行動を捉えていくことの重要性を指摘した。


キーワード:データに基づく意思決定, PBIS, ポジティブ行動支援, スクールワイドPBS

現在、米国の学校場面では、学校規模ポジティブ行動支援(school-wide positive behavior support: SWPBS)と介入に対する反応性モデル(response to intervention: RTI)のような、システムアプローチが幅広く実践され、研究されている。学業支援を中心とするRTIは、日本の特別支援教育においても少しずつ紹介されるようになり、RTIを参考とした実践研究も行われてきているがその数は少ない。RTIはSWPBSとの共通点も多く、行動分析学との関連も深いが、そのことは日本においてはほとんど紹介されていない。本稿では、RTIの主要な要素(多層予防システム、スクリーニング、プログレス・モニタリング、データに基づく意思決定)について解説し、RTIの構成要素(データに基づく意思決定、チームアプローチ)について、教員の指導行動に対する刺激性制御の観点から整理する。そして、近年のRTIとSWPBSを統合した多層支援システム(multi-tiered system of support: MTSS)について紹介する。最後に、日本におけるシステムレベルでの学校改革に向けた課題について、学校内および学校外の随伴性の整備の観点から整理する。


キーワード: 学校規模ポジティブ行動支援, 介入に対する反応性モデル, 多層支援システム, データに基づく意思決定, 刺激性制御

管理職への規律指導に関する照会(Office Discipline Referral: ODR)は、学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS)を支えるデータシステムとして、米国の多くの学校で活用されている。ODRは、問題行動を管理、監督するための方法として、米国の学校で一般的に実施されている手続きであるが、日本ではほとんど馴染みがない。本論文では、SWPBSの実践を支えるデータシステムとしてのODRの特徴とODRのデータを活用したデータに基づく意思決定について解説する。解説に続いて、SWPBSに関連するODRの研究をレビューする。ここでは、ODRデータに基づく意思決定、SWPBSの効果指標としての活用、ODRデータの妥当性及び信頼性に関する研究をレビューする。ODRデータの研究をレビューした後、SWPBSにおけるODRデータの刺激機能について分析する。最後に、日本におけるSWPBSを支えるデータシステムについて考察する。


キーワード: 管理職への規律指導に関する照会, ODR, データに基づく意思決定, 学校規模ポジティブ行動支援, SWPBS

望ましい行動のレパートリーを拡大することにより個人の生活の質(Quality of Life)を向上し、その結果として問題行動を最小化する教育的・予防的支援の枠組みであるポジティブ行動支援(Positive Behavior Support;以下PBSとする)を学校規模で適用したものが学校規模ポジティブ行動支援(School-wide PBS;以下SWPBSとする)である。アメリカでは既に25,000校以上に導入され、問題行動の減少や学力の向上、学校風土の改善などの効果が示されており、また実行度の高い実践を行っている学校ほどよい成果が見られ、実践の継続性も高いことがわかっている。最近では日本においてもSWPBSの実践が少しずつ報告されているが、今後さらに広く普及していく過程において一定水準以上の実行度を保持することは、SWPBSを効果的で継続性のある実践としていくためにも非常に重要である。本稿では、実行度がなぜ重要なのかを概説し、日本でのSWPBSの導入にあたって実行度を測定するための指標となるTiered Fidelity Inventory(TFI)の日本語版を紹介する。また、実行度を高めるために必要な要素について検討し、そこから今後の課題についても議論する。


キーワード: SWPBS, 実行度, Tiered Fidelity Inventory(TFI), 実践, 継続性

対象者の行動問題の低減から生活の質の向上への転換を示したポジティブ行動支援は、学校教育に適用される中で、対象者に支援を行う支援者への支援の枠組みとして進化している。本特集号は、このような学校規模ポジティブ行動支援の機能を確立する方向で、わが国のコンテンツと研究に必要な要素を明らかにし、検証している。こうした検討は学校教育にどのように貢献するだろうか。PBSの焦点に照らすと、既存の学校システムを機能化し、学校教育を向上させるといえる。それも、学校規模の指標の検討により、成果拡大への循環をもたらす。一方、コンテンツの方向性や実効性にかかわる課題も指摘した。


キーワード: 学校規模ポジティブ行動支援, 学校教育, コメント

行動分析学は、ポジティブ行動支援(positive behavior support, PBS)に代表されるように、個人のQOLを向上し、それによって望ましくない行動を最小化する教育的方法を開発してきた。一方、有効な教育的方法があっても、それを当該の生活環境における支援者が実行できなければ、期待される成果をあげられない。そこで、支援者が実行するためのサポートが課題となる。このサポートについて、ポジティブ行動支援が障害児教育制度に位置づけられている米国を中心として、学校におけるポジティブ行動支援(スクールワイドPBS)の中で進展がみられる。そこで本稿では、支援者の実行を支えるサポートについて、スクールワイドPBSから検討した。その結果、支援者の行動随伴性を支えるシステムを構築すること、そのためのサポート体制を構築すること、それをデータに基づいて推進していくことの重要性を指摘し、わが国におけるサポートの在り方について検討した。


キーワード: 支援者, 実行, サポート, スクールワイドPBS

「体罰」をなくすためには、望ましくない行動を減少させる、より望ましい方法が必要である。本報では、その中心となるポジティブな行動支援について取り上げ、その特徴や方法、研究成果について解説した。ポジティブな行動支援は、個人の生活の質を向上し、それによって問題行動を最小化するための教育的方法とシステム変化の方法を用いる応用科学である(Carr et al., 2002)。その焦点は、その人の望ましくない行動を引き起こし、強化している要因の分析をもとに、望ましい行動を教え、その人の生活環境を再構築するところにある。このような予防的・教育的アプローチは、米国では、障害児教育制度に位置づけられ、個人に対する個別的な支援だけでなく、学校規模の支援として多くの研究成果が蓄積されている。今日、われわれは、「体罰」ではない、確かな教育的方法を有するのである。


キーワード:ポジティブな行動支援, 体罰, より望ましい方法

弱化(罰)は、直接に反応抑制をもたらす行動随伴性である。行動の直後の環境変化によって将来的なその行動の生起頻度が下がることと定義される。副次的な作用があっても、体罰であっても、どんな手続きであれこの定義を満たせば弱化である。けれども、反応抑制を確実にもたらすためにはさまざまな厳密な条件統制が必要である。また、直接に反応を抑制する効果をもつと同時に、弱化、特に嫌子出現による弱化は、さまざまな望ましくない副次的な効果を伴う。体罰は、社会的な場面で使用されて効果がある手段であると間違って認識されることがある。弱化の効果とは別に、体罰の使用行動自体は、ほかの要因、セルフコントロールやルール支配行動などとの関連を考慮する必要がある。体罰は問題行動の抑制を目的とした場合であっても、ほかのより問題の少ない手段もあるため、使用されるべきではない。弱化は、適用する際に第一に選択されるべきものではなく、反応抑制をもたらす手続きでありながら反応抑制を目的とした手続きとしては使うべきでないという自己矛盾をはらんでいると考えられる。


キーワード:弱化, 体罰, 副次的効果, セルフコントロール, ルール支配行動

本論文では、日本行動分析学会「体罰に反対する声明」を受け、学校場面における「体罰」に依存しない行動問題に対する適正手続きについて解説する。まず、わが国における児童生徒が示す行動問題に対する懲戒や出席停止、あるいは有形力の行使などの適正手続きについて紹介し、「体罰」と懲戒の線引きに関する課題を明らかにする。そして、タスクフォースが声明において何に反対し、何に反対しないのかということをより明確にする。さらに、声明において推奨されているポジティブな行動支援の一例として、米国において普及しつつあるSchool-wide Positive Behavior Support (SWPBS)について紹介し、行動問題に対する予防的で階層的、そしてシステムワイドな支援モデルについて紹介する。米国の「障害のある個人教育法」(individuals with Disabilities Education Act: IDEA)において定められている学校教育における懲戒ルールについて解説し、適切な支援を行うことを前提とした行動問題への適正手続きについて言及する。


キーワード:学校, 行動問題, 体罰, 懲戒, School-wide Positive Behavior Support

通常保育場面ならびに通常学級には多様な行動を示す幼児・児童・生徒が在籍しており、支援ニーズのあることが明らかにされている。その対応策として、問題行動の低減と望ましい行動の増大における効果が報告されている機能的アセスメントに基づく支援が挙げられる。本研究の目的は、通常学級における機能的アセスメント研究のレビューを行い、それらの研究が1)通常学級で求められている多様な参加者、幅広い標的行動、統合場面、先行事象への着目、教師による支援実施に到達しているか否かを明らかにすること、および2)支援の効果を検討することであった。そのために、1982-2010年に出版された国内外の通常学級における機能的アセスメント研究39本を対象に、「出版年」、「参加者属性」、「標的行動」、「場面」、「アセスメント」、「支援」および「評価」の各項目に関して分類・分析を行った。その結果、参加者の有する診断は多様であり、統合場面でのアセスメントや支援の実施、先行事象の考慮、および教師による支援の実施がなされていたことが明らかとなった。支援では、妨害/攻撃行動を対象にその有効性が確認された一方で、新たな研究の方向性として静かで目立だないが授業参加では問題となる多様な行動(例えば、手遊びなど)への応用が考えられた。今後、望ましい行動の促進を目指した実践も含め、機能的アセスメントのさらなる応用と普及が期待される。


キーワード:通常学級, 機能的アセスメント, 望ましい行動, 問題行動, レビュー

通常学級に多様な子どもが在籍する中で、通常学級への学級介入の必要性が高まっている。本研究は、学校場面における発達障害児に対する応用行動分析を用いた介入研究のレビューを行い、学級介入の現状を明らかにすることを目的とした。1990年から2005年までのJournal of Applied Behavior Analysis(JABA)、行動分析学研究などの特別支援教育や応用行動分析に関連した学術雑誌を対象とした。まず、(1)(a)発達障害児を対象とする、(b)学校場面において何らかの介入を行った研究などの基準を満たす論文を選定し、(2)(a)学校種、(b)学級等の種、(c)指導場面、(d)介入対象の子ども、(e)標的行動、という5つの分類カテゴリの定義を決定した。(1)において選定された論文を(2)のカテゴリにもとづいて分類した。結果は、国内、海外いずれにおいても「小学校」の「特別支援学級」において行われた研究が多いことが明らかとなった。標的行動は、国内では「言語行動」、海外ではon-task行動などの「学業従事行動」を対象としたものが多かった。また、「授業中」に発達障害児に「個別」に介入を行った研究が多いことが明らかとなった。海外における研究の方が、国内に比べて「通常学級」で行われ、「グループ」もしくは「学級」を対象とした研究が多く、通常学級に対する学級介入の必要性を示唆することができた。


キーワード:レビュー, 学校場面, 発達障害児, 学級介入, 特別支援教育

本稿の目的は、従来からなされてきた特別支援教育に対する行動分析学の寄与を普通教育にまで拡大することの必要性を検討することである。そのため、(1)徹底的行動主義の観点から、現状の特別支援・普通教育に対する新たな問題解決の方向性を明示し、(2)その方向性を支持・示唆する欧米の研究動向を概観し、(3)その概観を踏まえた今後の課題を提示する、という3つの部分から構成されている。その新たな問題解決の方向性とは、(a)学校の構成員全体に関係する社会的随伴性、(b)学級内での一斉指導における教授・マネジメント方法、(C)教育サービスの「質」のマネジメント方法、という3つの事項に関する検討である。


キーワード:特別支援教育, 普通教育, ユニバーサルデザイン, 徹底的行動主義, 教育改革

近年の応用行動分析学では、発達障害児者の行動問題を解決するために、積極的行動支援(PositiveBehavioral Support)に代表されるように、行動問題を減らすだけでなく、QOLの向上を積極的に目指していこうという動きがある。そのために、日常場面においては、行動分析学を提供する人と対象者に直接支援を行う人々との協働を前提としているが、その成果は関与する個人や環境の対応能力に委ねられているという指摘にとどまっている。そこで、本論文では、教育・福祉現場において積極的行動支援に基づく実践が行動問題の減少だけでなく、適応行動の増加を実現し、それを継続し拡大するためには何が必要かを明らかにすることにした。そのために、積極的行動支援の2つの基準とともに、実践上の課題を提示している2つの事例を検討し、そのことを通して、どのように積極的行動支援を進めることが有効か、また、その際の課題は何かについて考察した。


キーワード:行動問題, 発達障害児者, 積極的行動支援, 教育・福祉現場, 確実な成果

加藤(1995)学校教育現場における選択行動形成の意義 : 山田論文へのコメント