特別支援学校(養護学校)における実践研究

〇特別支援学校(養護学校)

研究の目的 本研究では、特別支援学校の給食場面で、飲食物を飛ばす、吐き出す行動の見られるダウン症候群の児童について、教室環境を調整した上でエラーレス指導を行い、その効果を検討した。対象者 知的障害特別支援学校小学部4年に在籍する、知的障害のあるダウン症候群女児1名。他者への不適切な関わりが多く、給食時には食べ物や牛乳を前方に飛ばす、口に入れたものを吐き出す、皿をひっくり返して振る行動が見られた。場面 対象児の所属校の給食場面で介入を行った。介入 牛乳を途中でこぼしたり牛乳やおかずを向かいにいる人に向けて飛ばしたりする不適切な行動に対し、①前方に衝立を設置する、②牛乳を飲み込んだら小分けにしたおかず等を小皿で提示する、③おかずを口に入れた際に前方に手をかざす、エラーレスを目指した介入を行った。行動の指標 給食時間中における不適切な行動の生起率、牛乳の摂取量を指標とした。結果 12週目以降不適切な行動が生起しなくなり、介入終了後も維持された。また、摂食スキルも向上した。結論 行動の形成期に使われることが多いエラーレス指導が、食事中においてすでに起こってしまった誤学習を修正することにも役立てられた。


キーワード:ダウン症候群, エラーレス指導, 学校給食, 摂食行動

研究の目的 対象児が強い興味を示す対象(以下、ヒーロー)をモデルとして利用した方略であるビデオヒーローモデリング(VHM)とビデオセルフヒーローモデリング(VSHM)の効果を検討した。研究計画 行動間多層ベースラインデザインを用いた。参加者 知的障害特別支援学校小学部1年に在籍する自閉スペクトラム症(ASD)男児1名に対して介入を行った。場面 学校の運動場で実施される、朝運動の4つの下位活動(パラバルーン、ウォーキング、ランニング、体操)に対して介入が行われた。介入 標的行動が期待される朝運動場面の直前、対象児にとってのヒーローが標的行動のモデルを提示するビデオ(VHM)を視聴する機会を設定した。さらに、VHM期の後にはASD児がヒーローとともに望ましい行動に従事し、ヒーローがそれを賞賛するビデオ(VSHM)を導入した。行動の指標 各下位活動への参加を評価した。パラバルーンに関しては4段階のレベルを設定し評価した。それ以外の行動については10秒間の部分インターバル記録法を用いて評価した。結果 パラバルーンとウォーキングは、VHM導入後に行動が生起し始め、VSHM導入後に行動が安定した。ランニングはVSHM導入により、安定的に行動が生起するようになった。体操は介入なしに行動が安定して生起するようになった。結論 VHM及びVSHMに一定の効果が示された。今後、VHMやVSHMの追試をするとともに、どのような児童・行動に有効であるのかを検討していく必要がある。


キーワード:ビデオモデリング, 興味, 自閉スペクトラム症, 運動, 動機づけ

研究の目的 授業中に講義を聞きながらメモをとることを、ガイド付きノートを用いて指導した。研究計画 場面間多層ベースラインデザイン法を用いた。場面 特別支援学校中学部の授業や朝の会など、小集団で講義を受ける場面を選択した。参加者 知的障害のある男子生徒1名と知的障害と自閉症のある女子生徒1名が参加した。介入 講義の内容について毎回4〜5項目を抜粋し、各項目について正解を含む多岐選択肢を印刷したガイド付きノートを配付し、話を聞きながら正解に丸をつけるように促した。そして、授業後にそれらの項目について質問して、生徒からの正しい反応を言語賞賛した。男子生徒に対しては選択式ノートの指導後に、正解を書き込む記入式ノートの指導も行った。行動の指標 質問や指示に対する正反応率を従属変数とした。促されずに正しくメモをとれた割合も一部測定した。結果 ガイド付きノートの導入により、メモをとる行動が自発され、質問に対する正反応率が上昇し、ほぼ無誤反応のまま安定した。結論 ガイド付きノートが、知的障害のある生徒に講義を聞きながらメモをとることを教えるのに有効であることが確認できた。


キーワード:ガイド付きノート, 講義, メモをとる, 知的障害



キーワード:養護学校教師, 障害のある生徒, 自己決定, スタッフ・トレーニング, チェックリスト, 選択機会内評価, 選択機会間評価

(1)研究の目的 : 重度知的障害児にカードによる援助要求行動を形成し、類似した場面と類似していない場面への般化と維持を検討した。(2)研究計画 : 場面間の多層ベースライン法を用いた。(3)場面 : 地域の知的障害養護学校において、登校時・下校時の着替え、給食、遊び、課題学習の時間に指導を行った。(4)参加者 : 発話がなく、担任の手をひっぱるなど、要求行動のレパートリーが限られていた男子児童2名(8歳、11歳)。(5)介入 : 遅延プロンプトの手続き(遅延5秒)と分化強化の手続きを用いた。(6)行動の指標 : 場面ごとに従来の要求行動とカードを使った要求行動の頻度を測定した。(7)結果 : 標的行動の形成に成功し、2、4ケ月後の維持も確認した。類似した場面間の般化はみられたが、類似していない場面への般化はみられなかった。しかし、場面間般化が起こらなかった場面でも同一場面内で新しい援助対象を要求する標的行動が自発された。(8)結論 : 遅延プロンプトの手続きの有効性が確認された。また、複数の類似していない場面で同じ要求行動を指導し、分化強化の手続きを確実に行うことの重要性が示唆された。


キーワード:重度知的障害者, 援助要求, カード, 遅延プロンプト, 般化

研究の目的 養護学校高等部生徒の他生徒への攻撃行動に対する機能的アセスメントに基づく指導をpositive behavioral supportをcontextual fitの観点から、(1)仲間に向けた攻撃行動に対するO'Neill et al.の機能的アセスメントに基づく支援計画の立案様式を検討し、(2)学級担任が現在の学校体制に適合させる過程を明示した。研究計画 形成評価と事前・事後評価を用いた。場面 養護学校高等部において攻撃行動が頻繁に生起する登校場面と昼休み場面と生起しない学級場面で実施した。対象 攻撃行動を起こす高等部1年の男子生徒1名と攻撃の相手となる生徒及び学級の生徒を対象とした。全般的手続き 攻撃行動の生起を防止しながら、学校体制のアセスメントから学級担任の実効可能な条件を明確化し、それに基づいて、機能的アセスメント、指導計画の立案、指導手続きを決定した。指導手続きは、学校場面では、対象生徒と学級の生徒に対して機能的アセスメントで選定された適切なかかわりや活動スキルを形成する一方で、登校・昼休み場面では、これらの標的行動を対象生徒と相手の生徒の双方に指導した。行動の指標 登校・昼休み場面における対象生徒の攻撃行動、適切なかかわり、相手の生徒との接触、対象生徒と相手の生徒とのかかわりのパターンを測定した。結果 対象生徒の攻撃行動は低減し、相手の生徒との適切なかかわりのパターンが増加した。結論 仲間に向けた攻撃行動には、機能的アセスメントに生徒同士のかかわりの分析を加え、O'Neill et al.の様式を修正することは有効であった。また、高等部体制において、学級担任が行う機能的アセスメントやそれに基づく指導の実行過程が明示された。


キーワード:養護学校高等部生徒, 攻撃行動, positive behavioral support, 機能的アセスメント, かかわりの分析, contextual fit

2名の自閉症児に対して他者のメッセージを伝言する行動を、精神薄弱養護学校の日常的な生活場面で指導した。往信行動は、「〜先生、給食の用意ができました。いらしてください」というメッセージを託された対象児が、伝言先の先生のもとへ行ってそれを言うこととした。対象児が往信行動を自発的に表出した場合にも模倣によって表出した場合にも、伝言先の先生が社会的強化因を提示した。往信行動が形成された後に、復信行動を導入した。復信行動は、新たに「お先にいただいてください、とおっしゃいました」などのメッセージを託された対象児が、もとの場所に戻ってきてそれを言うこととした。2名ともに往信行動を獲得し、日常生活の中で対人般化、場面般化、反応般化がみられ、長期にわたって維持された。一方、復信行動に関しては、1名で往信行動との間に混乱が起こり、他の1名で1種類の復信文のみを表出するにとどまった。結果から、学校生活の中で伝言行動を指導する際の利点と留意点について論じた。


キーワード:自閉症児, 伝言行動, 往信と復信, 学校生活場面, 般化, 維持

ことばによる要求言語行動がみられない精神薄弱養護学校に在籍する2名の自閉症児に、既得のサインによる要求言語行動からことばを用いた要求言語行動への移行ステップとして、発声を伴った要求言語行動の形成を行った。訓練は、既に要求言語行動が生起しているか、その生起が期待される学校の日常場面での要求機会を利用した。また、これと並行して動作から音声(5つの母音)までの模倣訓練を個別指導で行った。その結果、訓練セッションでは、両名ともに、要求言語行動は訓練前に比べて2倍以上に増加し、単音節の発声を伴った要求言語行動も出現した。発声を伴った要求言語行動の生起頻度は低くかったが、教師の音声プロンプトに対する発声や口形模倣は増加した。この結果をふまえ、養護学校での日常の要求機会を利用し、音声による要求言語行動へと技能向上を図るための指導方法と、学校現場の実状に即した個別指導のあり方について検討を加えた。


キーワード:自閉症児, 要求言語行動, 精神薄弱養護学校, 個別指導

本研究は、教師が、ごくわずかなひとり遊びしかしない重度の知的障害を持つ養護学校小学部1年の生徒を対象に、本人の好みの活動や遊びを提供しているかという日常的疑問から始められた。目的は、教師に対して、その生徒が自分の好みの活動を要求でき、その選択要求を通して最終的には社会的な遊びにまで展開することとした。本研究では2つの実践から構成されている。実践1は、生徒が展示棚から特定の遊具を持ってくる訓練から始められ、次に、棚に10種類の遊具が教師により展示され、そこから生徒が遊具を1つ選択して取り出しその遊具で遊べるようにした。最終的に、生徒は自分自身で新しい遊具を展示し、そこから選択するという行動が見られるようになった。しかしその段階での選択された遊具は一人遊び用のものばかりであった。実践2は、実践1を発展させ一人遊びから教師との遊びにつながるような選択の設定を行った。その結果、二人で行う新しい遊びが生起した。


キーワード:自発的欲求, 選択(チョイス・メイキング), 遊び, 重度知的障害