小学校における実践研究

〇通常学級

本研究では、SWPBSの第1層支援を実施し、その効果と社会的妥当性を検討することを目的とした。研究計画 ABデザインを用いた。評価尺度については3つの時期に測定し、それぞれの時期の全校児童のスコアの平均を比較した。場面 公立小学校1校において実施した。参加者 対象校の全ての児童と教職員が本研究に参加した。介入 ポジティブ行動マトリクスを作成し、各目標行動の行動支援計画を立案し実行した。行動の指標 目標行動に従事している人数をカウントして得られたデータ、あるいはインターバル・レコーディング法を用いて得られたデータを指標とした。他に質問紙法によって評価尺度のデータや社会的妥当性に関するデータも収集した。結果 介入後に目標行動が増加し、評価尺度のスコアに改善がみられた。また一定の社会的妥当性が示された。結論 本研究において実施したSWPBS第1層支援の効果と社会的妥当性が確認できた。しかし、チームマネジメント、データに基づく第2層支援や第3層支援への移行、データの信頼性など、いくつかの課題が示された。


キーワード:学校規模ポジティブ行動支援(SWPBS), 第1層支援, 小学校, 問題行動, 応用行動分析学

研究の目的 本研究は、通常学級における朝の会および授業開始時の問題行動に対する相互依存型集団随伴性を用いた介入の効果を検討することを目的とした。研究計画 場面間マルチベースラインデザインとチェンジング・コンディション・デザインを組み合わせて用いた。場面 公立小学校通常学級での朝の会、3時間目、5時間目の各開始時に介入を行った。参加児 公立小学校2年の児童21名であった。介入 トークンエコノミー法を利用した相互依存型集団随伴性による介入を行った。併せて、学級担任による言語的プロンプトと視覚的プロンプトの提示も行った。行動の指標 開始時刻に①教室に戻ってきていない児童数、②自分の席に座っていない児童数、③関係のない物を机の上に出しているまたは手に持っている児童数をそれぞれ学級担任が目視で数え、記録した。結果 介入により、朝の会、3時間目、5時間目の各場面において、教室に戻ってきていない児童、自分の席に座っていない児童、関係のない物を机の上に出しているまたは手に持っている児童の各人数の減少が見られた。結論 通常学級における朝の会および授業開始時の問題行動に対する相互依存型集団随伴性を用いた介入の効果が示された。また、児童と学級担任に対する質問紙調査の結果、介入の社会的妥当性も示された。


キーワード:相互依存型集団随伴性, 朝の会および授業開始時, 小学校, 通常学級, トークンエコノミー法

研究の目的 通常学級全体への支援と個別支援との組合せによって、発達障害・知的障害児童を含む学級全児童の学習準備行動に効果が示されるかどうかを検討した。研究計画 3学級で実施した学級間多層ベースラインデザイン。場面 通常学級の漢字テスト場面で実施した。参加者 小学5年生3学級の全児童102名(発達障害・知的障害児童7名を含む)が参加した。独立変数 学習準備行動に対する相互依存型集団随伴性を中核とした介入パッケージ(相互依存型集団随伴性に基づく報酬提示、トゥートリング、自己記録、折れ線グラフフィードバック)。書字困難の見られた発達障害・知的障害児童に対し、相互依存型集団随伴性に基づく介入を導入する前に、個別支援を実施した。集団随伴性に基づく介入で効果が見られない発達障害児童には個人随伴性を組合せた。行動指標 漢字テストが始まるまでに学習準備行動を遂行した児童の割合を従属変数とした。結果 介入条件の導入により、3学級ともに学習準備行動を遂行した児童の割合が増加した。結論 通常学級全体への支援と個別支援との組合せにより、発達障害・知的障害児童を含む学級全児童の学習準備行動は促進された。


キーワード:通常学級, 学級全体への支援, 個別支援, 発達障害児童, 学習準備行動

研究の目的 小型機器を用いたプロンプトとフィードバックによって、自閉症スペクトラム障害のある児童に対する教師の注目が増加するか検討し、さらにこれが通常学級における対象児の離席行動と授業参加行動に及ぼす効果を検証した。研究計画 ABABデザインを用いた。場面 小学1年生の通常学級教室で行った。対象者 小学1年生の担任教師と、自閉症スペクトラム障害のある小学1年生女児。行動の指標 教師の対象児への注目 (言語賞賛または個別指示)、対象児の離席行動、授業参加行動を標的とした。介入 対象児の機能的アセスメントを介入前に行った結果、対象児の離席行動は教師の注目によって強化されていることが推定された。そこで対象児の着席行動に対する教師の注目を増やすために、小型機器による5分間隔の振動をプロンプトとして教師に導入した。さらに、着席中の対象児への注目が増えていることについて、フィードバックも行った。教師には、対象児が離席し不適切な行動をしているときには、授業進行に支障がない限り注目しないよう教示した。結果 介入期では、教師の着席中の対象児への注目が増加し、これとともに対象児の離席率が減少し、授業参加率は増加した。結論 プロンプトとフィードバックによって、機能的アセスメントに基づく対象児への支援 (着席中の注目) を教師が行う回数が増え、さらにこれによって対象児の離席行動は減少し、授業参加行動は増加することが示された。


キーワード:授業参加行動, 離席, 自閉症スペクトラム障害, 通常学級, プロンプト

研究の目的 相互依存型集団随伴性にトークンエコノミーシステムを組み合わせた介入によって、給食準備行動のパフォーマンスが向上し、小学校1年生の給食準備時間が短縮するか検討した。研究計画 基準変更デザインであった。場面 公立小学校の通常学級1年生1クラスでの給食準備の場面であった。参加者 通常学級に在籍する小学校1年生の児童26名(男子16名、女子10名)であった。行動の指標 給食準備に要する時間であった。独立変数による操作 トークン強化子とバックアップ強化子を用いた相互依存型集団随伴性による操作であった。トークンエコノミーシステムは、トークン強化子が5つ貯まったらバックアップ強化子と交換される手続きであった。結果 学級全体における給食準備のパフォーマンスが向上し、給食準備時間が短縮された。結論 相互依存型集団随伴性にトークンエコノミーシステムを組み合わせた介入は有効であった。手続きなどの社会的妥当性が示された。


キーワード:小学校, 通常学級, 給食準備行動, トークンエコノミーシステム, 相互依存型集団随伴性

研究の目的 本研究は、通常学級において小学3年生の授業妨害行動(不適切な発言)の減少とその代替行動(適切な発言)の増加のために、集団随伴性を用いた「いかりをおろそう!」(Anchor the Boat)の手続きを含む介入パッケージを実施し、その効果を検証することを目的として行った。研究計画 朝の話、1時間目(主に算数)、2時間目(主に国語)の3つの場面にわたり、ベースライン期に続いて、介入を実施した。場面 公立小学校の通常学級において行った。参加児 公立小学校の3年生33名(男児15名、女児18名)であった。独立変数の操作 上手な聞き方の5つのルールの黒板への掲示、聞く準備の合図、集団随伴性を用いた「いかりをおろそう!」の手続き、担任の対応からなる介入の実施を独立変数とした。行動の指標 学級担任の許可なしに児童が発言することを不適切な発言として定義し、授業中の不適切な発言の生起をインターバル記録法によって測定した。結果 不適切な発言の減少のためには、ルールの掲示、聞く準備の合図、担任の対応に加えて、「いかりをおろそう!」の手続きが必要であることがわかった。これに対して、適切な発言に関しては、ルールの掲示、聞く準備の合図、担任の対応のみでその増加が見られた。結論 本研究で実施した介入パッケージの構成要素分析から、学級内のルールが機能するための要因についての検討を行った。


キーワード:集団随伴性, 通常学級, 学級運営, 授業妨害行動, 不適切な発言, 小学生

研究の目的 本研究では、小学校の清掃場面において相互依存型集団随伴性マネージメントによる介入を行い、学級全体の清掃行動に及ぼす影響について検討することを目的とした。研究計画 ABABデザイン、ABデザイン、そして多層ベースラインデザインを組み合わせて用いた。場面 公立小学校の通常の学級において本研究を実施した。参加者 小学5年生の2つの学級の児童が本研究に参加した。2つの学級の児童数はそれぞれ23名、24名であった。介入 それぞれの清掃場所において、担当している児童を2つのグループに分け、残されていたゴミの数や大きさについて相互に評価を行った。評価得点の高いグループから好きな場所を次の清掃場所として選択することができ、順位に応じてシールが与えられた。さらに、学級全体の獲得得点が基準を超えた場合は、学級全体に対してバックアップ強化子が与えられた。行動の指標 清掃行動に従事していた人数の率、清掃場所の「きれい度」、そしてグループのメンバーが集合するまでの所要時間を測定した。結果 介入条件において清掃行動の従事率が増加し、「きれい度」が高まり、集合するまでの時間が短縮された。また、児童と教師の両方からプログラムに対する肯定的な評価が得られた。結論 通常学級における行動マネージメントに、相互依存型集団随伴性の適用が有効であった。また、手続きの社会的妥当性も示された。

キーワード:小学校, 通常学級, 相互依存型集団随伴性, 清掃活動, 社会的妥当性

研究の目的 : 小学4年生児童において、授業開始・終了時の挨拶行動の変容のために、折れ級グラフによる遂行フィードバックを導入し、その効果を検討することを目的とした。研究計画 : ベースライン、口頭によるフィードバック、折れ線グラフによるフィードバックからなるフォローアップ付きのABCデザインを用いた。場面 : 公立小学校第4学年通常学級。対象者 : 小学校4年生23名。介入 : 口頭でのフィードバックのフェイズでは、担任教師が授業開始・終了時に挨拶するまでに要した時間を即座に口頭でフィードバックした。グラフによるフィードバックのフェイズでは、教師は帰りの会にその日の平均タイムを折れ線グラフに記録して、それを児童たちに見せた。行動の指標 : 日直の号令からすべての児童が静かになるまでの時間。結果 : グラフによる遂行フィードバックは、児童が静かになるまでに必要な時間を短くするのに効果的であった。その結果は、フォローアップのフェイズにおいても維持した。結論 : 本研究の結果は、折れ線グラフによる遂行フィードバック手続きが、日本の通常学級の学級経営に適用可能であることを示した。


キーワード:遂行フィードバック, 挨拶行動, 折れ線グラフ, 通常学級, 小学校4年生

研究の目的 特別支援のために活動する教員補助者と担任教師とのコミュニケーションを促進・改善することを目的とした。研究計画 参加者(教員補助者)間マルチベースラインデザインを用いた。場面 公立の小学校の通常学級において行われた。参加者 小学校通常学級の5名の担任教師と教員補助者として活動する4名の学生(大学生1名、大学院生3名)が参加した。介入 教師と教員補助者の間で使用していた「コミュニケーション・カード」を、教師の使用コスト低減に配慮して改良した。具体的には、1)教員補助者の報告内容を項目立て、2)記号を用いることによって教師の返答を簡略化した。行動の指標 カードにおける教師からの1)コメントの生起頻度、2)下位コメントの生起頻度とした。結果 介入期では、教師からのコメントの生起頻度が高まり、教師による「要望」や「共感」コメントの生起頻度も高くなった。また、教師から記述コメントが付加されたことにより、教師の教員補助者に対するコメントの情報量が全体的に向上した。結論 記号による返答方法は、教師からのコメントの増大に効果があることが示唆された。また、教師からのコメントの中でも、特に「共感」と「要望」コメントの生起頻度の増加が、教師と教員補助者のコミュニケーションに互恵的な強化関係を生じさせた可能性が考えられた。そして、その結果、介入後では、担任教師からカードの書式に対するアイディアの提案や対象児以外の児童へのサポートの要望が出されるなど、教師と教員補助者のコミュニケーションをさらに発展させる可能性が考えられた。


キーワード:特別支援教育, 学生, 教員補助者, 通常学級の教師, コミュニケーション・カード

研究の目的 本研究は、通常学級において小学校1年生の着席行動に対するクラス全体の目標設定(goal setting)とフィードバック(self-generated feedback)の効果を明らかにすることを目的として行われた。研究計画 ABABデザインを用いた。場面 公立小学校の通常学級において行われた。参加児 公立小学校の1年生29名(男子13名、女子16名)であった。介入 標的行動は、「チャイムがなったらすぐに帰ってきて座る」であった。介入では、クラス全体に目標を設定し、標的行動を達成できているかについて児童自身がフィードバックを与えた。「めあて&フィードバックカード」を机に貼り、目標とそれに対するフィードバックを記入した。社会的妥当性の検討のために、(1)授業開始時(着席行動後)のon-task行動の観察、(2)授業開始時間の測定、(3)介入効果についてのアンケートを行った。行動の指標 事象記録法(event recording)を用いた。結果 着席行動は、介入期において大きな増加が見られた。また社会的妥当性の指標である(1)on-task行動は増加し、(2)授業開始にかかる時間は減少した。結論 着席行動に対する目標設定とフィードバックの効果の確認、及び手続きの社会的妥当性を確認できた。


キーワード:目標設定, フィードバック, 通常学級, 着席行動, 社会的妥当性

研究目的:本研究では小学1年生の学習時における姿勢改善のため行動的なアプローチを用いた介入パッケージを実施し、その効果を検証することを目的とした。研究計画:ベースライン、介入1、介入2、フォローアップからなるABCAデザインを3学級に繰り返し実施した。また、介入効果の般化検証のためマルチ・プローブ・テクニックを応用した。場面:公立小学校第1学年の通常学級3学級において実施した。被験者:通常学級の小学1年生76名に対して介入を行った。独立変数の操作:教示・モデリング・行動リハーサル・強化・フィードバックの行動的手続きを用いた姿勢改善のための介入パッケージの実施を独立変数とした。行動の指標:学習時の座位の姿勢について、背中が伸びている、おしりが座部について座っている、足は前で床についている、体は前を向いているという条件を満たすものを正しい姿勢と定義し、各学級で4条件の少なくとも一つを満たしていない児童の数を「姿勢が崩れた児童数」とした。結果:介入場面と介入場面以外の授業場面においてベースライン期よりも介入期に姿勢が崩れた児童数が減少していた。しかし数名の児童には訓練効果が見られなかった。結論:本研究で実施した介入パッケージは学習時の姿勢改善に効果が見られ、また効果は介入場面以外の授業場面にも般化していた。介入効果が見られなかった数名の児童には個別指導など別の介入プログラムの必要性が示唆された。


キーワード:学級単位, 書字場面, 座位の姿勢, 学習時の行動, 行動的アプローチ

研究の目的:高機能広汎性発達障害をもつ不登校児童の保護者に対して登校行動を形成するための行動コンサルテーションによるサービスの効果を検討した。研究計画:被験者間マルチプルベースラインデザインと基準変更デザインの組み合わせを用いた。場面:大学附属の心理相談室とプレイルームにて実施した。対象者:2名の高機能広汎性発達障害をもつ不登校児童とその保護者を対象とした。介入:それぞれの不登校児童について直接的な行動観察と、保護者や学校からの聞き取りによる生態学的アセスメントに基づいて、トークン・エコノミー法と強化基準を段階的に変更していく支援を実施した。行動の指標:登校から下校までの学校活動への参加を、学校参加率として測定した。結果:介入後、両名とも学校参加率が増加し、介入2以降、100%の学校参加率が続いた。結論:トークン・エコノミー法を利用した行動コンサルテーションによる支援において、対象児童や対象児童の母親、学校場面の生態学的アセスメントに基づく支援プログラムの作成と実施が重要であることが示された。


キーワード:不登校行動, 行動コンサルテーション, トークン・エコノミー法, 生態学的アセスメント, 高機能広汎性発達障害をもつ小学校児童

研究の目的 : 本研究は、通常学級において小学校2年生の授業準備行動に対するクラス全体の目標設定(goal setting)の効果を明らかにすることを目的として行われた。研究計画 : 行動間マルチプルベースラインデザインを用いた。場面 : 公立小学校の通常学級において行われた。参加児公立小学校の2年生31名(男子18名、女子13名)であった。介入 : 標的行動は、(1)「チャイムがなったらすぐに帰ってきて座る」、(2)「休み時間にはイスを中に入れる」、(3)「授業中、後ろを向かない」であった。介入では、クラス全体にこれらの標的行動に関する目標を設定した。全児童が「めあてカード」という目標を記述したカードを机に貼り、毎朝担任が目標を口頭で言うなどして標的行動を明確にした。行動の指標 : 教室内において事象記録法(event recording)を用いて観察を行った。結果 : 標的行動(1)「チャイムがなったらすぐに帰ってきて座る」と(2)「休み時間にはイスを中に入れる」に関しては、介入期において大きな減少が見られた。しかし、(3)「授業中、後ろを向かない」に関して変化は見られなかった。結論 : 標的行動(1)、(2)に関しては、標的行動を明確にするという簡単な手続きだけで目標設定の効果が見られたことが分かった。


キーワード:目標設定, 授業準備行動, 行動変容, 担任支援, 通常学級

〇特別支援学級(特殊学級)

研究の目的 特別支援学級の児童における漢字の筆記学習において、自己評価・他者評価が正確な書字行動に及ぼす影響を検証した。研究計画 ABACフォローアップおよびABフォローアップデザインを用いた。場面 小学校内の特別支援学級の教室で授業として実施した。参加者 特別支援学級に在籍する児童(N=5)であった。独立変数の操作 自己評価の有無(介入Ⅰ)、および自己評価・教師評価とその一致に対する評価の有無(介入Ⅱ)であった。行動の指標 薄い灰色の線をなぞって書くトレース課題において、線からはみ出して筆記した画数の割合を算出した。結果 介入Ⅰにおいて教示期でははみ出しの減少が見られなかったが、自己評価期には大きく減少した。しかし自己評価をやめると再度はみ出しが増加し、自己評価が不正確であるケースもあった。介入Ⅱでは自己評価・教師による他者評価を実施したが、1名を除き介入開始後にはみ出しは減少し、介入終了後も増加しなかった。結論 自己・他者評価を含む介入は現場で実践しやすく、正確な書字行動を促しうる方法であると考えられる。ただし、介入効果の小さい児童も存在していたため、教授法のさらなる改善が必要である。


キーワード:漢字学習, 書字, 特別支援学級, 自己評価, 他者評価

研究の目的 知的障害特別支援学級在籍児童において、漢字学習への選好に及ぼす要因を検討することを目的とした。研究Ⅰでは低選好課題の後に高選好課題を行う場合の選好傾向を、研究Ⅱでは低選好課題の後に課題の選択機会がある場合の選好傾向を検討した。研究計画 学習課題間の選好査定を実施した。研究Ⅰでは低選好課題のみを行うプリントと低選好課題の後に高選好課題を行うプリントを児童に選ばせた。研究Ⅱでは低選好課題の後に課題の選択機会のあるプリントと選択機会の無いプリントを児童に選ばせた。場面 小学校の教室で実施した。参加児 特別支援学級に在籍する4名の児童であった。独立変数の操作 高選好課題の有無(研究Ⅰ)および選択機会の有無(研究Ⅱ)であった。行動の指標 各プリントに対する参加児の選択を指標とした。結果 研究Ⅰでは低選好課題の学習量が多くても、高選好課題を含むプリントが選好された。研究Ⅱにおいて一部の参加児では、低選好課題の学習量が多くても選択機会のあるプリントが選好された。結論 課題選択の傾向から高選好課題や選択機会が強化子として機能した可能性のあるケースが存在した。しかし、厳密に強化子として機能したか否かは検証できておらず、今後の課題として残された。


キーワード:漢字学習, 漢字指導, 選択機会, 選好, 特別支援学級

研究の目的 本研究では知的障害のある児童2名の漢字熟語の読みを対象に、刺激ペアリング手続きの効果と般化および社会的妥当性を検討した。研究計画 教材間多層プローブデザインを用いて指導効果を検証した。場面 公立小学校特別支援学級の教室内で担任である第二著者が実施した。参加児 特別支援学級に在籍する知的障害のある児童2名が参加した。介入 刺激ペアリング手続きでは、ディスプレイ上に、漢字熟語とその読み方の音声刺激が同時に2秒間呈示され、その後、漢字熟語の意味を表すイラストを2秒間呈示した。児童は、音声刺激が聞こえたら直後に復唱することが求められた。行動の指標 正しく読めた漢字熟語の割合 (正答率) を指標とした。結果 参加児2名ともに、刺激ペアリング手続きによって漢字熟語の読みの正答率が増加し、その効果は10日間維持されていた。また、獲得した漢字熟語の読みは、文章中の漢字熟語の読みへと般化したことが確認された。さらに、個人差はあるものの、刺激ペアリング手続きは特別支援学級教員にとっておおむね受け入れやすいと評価された。結論 刺激ペアリング手続きによる漢字の読みに対する効果が示され、この指導法は学校現場においても実行可能性が高いことが示唆された。


キーワード:刺激ペアリング手続き, 知的障害, 漢字の読み, 般化, 社会的妥当性

研究の目的 刺激シェイピングと十分な単語セットを用いたエコーイック訓練によって、発話が不明瞭な音節と音節を含む単語の発音を明瞭にすることができるかどうかを検討した。研究計画 行動間多層プローブデザインの考え方を参考にして、訓練の前後にすべての単語セットについてテストを行い、一つの単語セットを用いた訓練がほかの単語セットの発音に及ぼす影響を確認しながら、標的音ごとにエコーイック訓練を順に実施した。場面 小学校の授業時間中に指導者と参加児が一対一で訓練を行った。参加者 特別支援学級に在籍し、ダウン症がある小学5年生1名が参加した。介入 標的の音節を含む語を見本として音声提示し、標的音を明瞭に模倣できたら褒め言葉などで強化するエコーイック訓練を行った。訓練は単音から始め、音節数を2、3、4以上と段階的に増やした。単語の中の標的音の位置も変え、十分に変化をもたせた単語セットを用いた。行動の指標 エコーイック訓練とテストにおける正反応率を従属変数とした。結果 訓練により標的音の発音は明瞭になり、訓練に用いた単語全体の発音や、訓練には用いなかった単語における発音、タクト課題における発音も改善された。社会的妥当性の評価も高かった。結論 刺激シェイピングと十分な単語セットを用いたエコーイック訓練は参加児の発音を明瞭にするのに有効な指導法であった。


キーワード:刺激シェイピング, エコーイック, タクト, ダウン症, 発音の明瞭さ

研究の目的本研究では、児童の漢字の読みスキルの保持・耐久性・応用に及ぼす流暢性指導の効果を検討した。研究計画個体内実験計画を用いた。場面公立小学校の特別支援学級の教室内において行われた。対象児公立小学校の特別支援学級に在籍する5年生の男児1名が参加した。介入まず、対象児は100%正しく漢字を読むことができるようになるまで、離散試行手続きによる漢字の読みの指導を受けた。その後、半分の漢字については流暢性指導、もう半分の漢字については正確性指導による指導を受けた。流暢性指導では、速く正確に漢字が読めるように30秒タイムトライアルによる指導を行った。正確性指導では離散試行手続きによる指導を行った。正確性指導における試行数はヨークト手続きによって統制した。行動の指標正しく読めた漢字の数と間違った漢字の数を指標とした。結果流暢性指導を行った漢字は、正確性指導を行った漢字よりも、漢字単語の読みを短文内の漢字の読みに応用できるようになっていた。結論流暢性指導によって、漢字の読みの応用を促進することができた。


キーワード:流暢性指導, 正確性指導保持, 耐久性, 応用, 小学生

研究の目的 自閉症児を対象に、学校の朝の会場面で報告言語行動(タクト)と聞き手への接近行動のシミュレーション指導を行い、直接指導を行わない自由場面でのタクトと接近行動の形成を目指した。その中で、タクトの指導手続きやシミュレーション指導場面の役割について検討した。研究計画 ベースライン、介入1期、介入2期で構成した。場面 対象児の在籍する小学校の特別支援学級の朝の会をシミュレーション指導場面とした。登校時、20分休憩と昼休みの開始時および終了時の5場面を自由場面とした。対象児 小学校の特別支援学級に在籍する自閉症男児2名であった。介入 介入1期では、各自由場面の「○○に行ってきました」などのタクトと接近行動のシミュレーション指導を朝の会で行った。介入2期では、朝の会場面でのシミュレーション指導の中で、タクトに先行する聞き手への接近行動を高めた手続きを分析し、「行ってきましたカード」などの手続きを自由場面に導入した。行動の指標 タクトの正反応と単語反応の生起を測定した。接近行動をプロンプトレベルで評価した。結果 介入1期では、タクトは生起したが、接近行動の遂行は高まらなかった。介入2期では、接近行動の遂行レベルの向上が認められた。結論タクトにおける接近行動の重要性とシミュレーション指導を行う授業場面の生起条件の分析としての役割が示された。


キーワード:報告言語行動, 聞き手への接近行動, シミュレーション指導, 自閉症児

研究の目的 激しい自傷行動を示す自閉性障害児を対象にカリキュラム修正と前兆行動を利用した代替行動の形成を行い、自傷行動の軽減に対する効果を検討した。研究計画 フェイズ1と2のみ場面間多層ベースラインデザインを用いた。場面 大学相談室及び小学校の特別支援学級で行った。参加者 特別支援学級に在籍する9歳の自閉性障害男児1名が参加した。介入 フェイズ1では学習課題に対象児の好きな物を取り入れ、課題の順序を選択できる内容に変更した。前兆行動が生起したときに、フェイズ2では対象児に前兆行動が生起したことを担任が知らせてから休憩をとらせ、フェイズ3では対象児が休憩要請をした場合に休憩をとらせ、フェイズ4では対象児が軽く机を叩くようにした。行動の指標 問題行動と代替行動の生起頻度についてデータを収集した。結果 フェイズ2までで激しい自傷行動は減少し、フェイズ3とフェイズ4では休憩要請行動が増加し、自傷行動はほとんど生起しなくなった。結論 カリキュラム修正を行い、前兆行動を利用することで激しい自傷行動を減らし、代替行動を促進する可能性が示された。


キーワード:自傷行動, 前兆行動, 代替行動分化強化, カリキュラム修正, 自閉性障害

研究の目的自閉症傾向のみられる発達障害児を対象に、刺激等価性の枠組みを用いて、5種の感情(うれしい・たのしい・かなしい・おこる・こわい)に関わる言語行動を効率的に指導できるかどうか検討した。研究計画「おこる」「こわい」を第1刺激クラスセット、「うれしい」「たのしい」「かなしい」を第2刺激クラスセットとして、刺激クラスセット間の多層プローブデザインを適用した。場面小学校の教室で授業時間および放課後を使って指導を実施した。参加者障害児学級に在籍する、自閉症の傾向を持った2名の9歳男児が参加した。介入各感情に対応する状況文を提示して「どんな気持ち?」と質問し、感情語で回答させ、正答を言語称賛により強化した。行動の指標感情語報告の正反応率に加え、感情語、状況文、表情画間の等価関係を指導の前後で測定した。結果訓練による感情語報告の正反応率の上昇、新奇の状況文を使った般化課題における正反応率の上昇、刺激等価性テスト課題の正反応率の上昇が見られた。結論刺激等価性の枠組みを用いることによって、感情語の指導を効率的に進められる可能性が示された。


キーワード:自閉症, 発達障害, 感情, 刺激等価性

知的障害を持つ2名の生徒に、1000円未満の買い物ができるように教授した。それまで、生徒らは、10円を超える金額の支払や、2桁の金額の読み書きができなかった。教師(筆者)の自作による「計数板」という教具を使用し、硬貨の計数を訓練した。さらに「計数板」を補助具として用いて、実際に買い物をさせた。その結果、スーパーマーケットのレジスターの金額表示を見て支払ったり、菓子屋の店主が言った金額を聞いて支払ったりすることができるようになった。また、彼らが買い物をしていることを、店の人や周りの買い物客に知らせるようにすることで、児童が買い物をしやすい環境ができただけでなく、障害児に対する周囲の人々の理解を促すこともできた。さらに、彼らが学校で買い物ができるようになると、親たちも家庭で彼らの買い物を試みるようになった。算数指導という教授の文脈からも、地域生活の為の準備としても、教室から出て現実の社会場面で実際に硬貨を使う事は有効であると考えられる。


キーワード:硬貨の計数, 買物スキル, 社会参加, 知的障害

精神遅滞児に、ひらがなか漢字で示した空間関係に関わる用語(上/下/右/左)と階表示(1階〜4階)や教室名(音楽室など)を移動の順に配列した"移動カード"にしたがって、実際の小学校の4階建ての校舎内を移動するスキルを形成することを目的とした。方法は、次の2段階に分けて行った。第1段階として、校舎のミニチュア内での移動訓練(シミュレーション場面)と実際の校舎内での移動訓練(日常場面)を平行させながら、ひらがなの方向カードを組み入れた移動カードによる移動行動を形成する。第2段階として、刺激等価性のパラダイムにしたがって、ひらがなと漢字のマッチングを訓練することで、漢字の方向カードを組み入れた移動カードによる移動ができるようにする。その結果、第1段階で、ひらがなの方向カードを組み入れた移動カードにしたがって校舎内を移動し、指示された教室までいけるようになった。第2段階で、直接訓練されなかった漢字の方向カードを組み入れた移動カードによる移動が実際の校舎内でできるようになった。こうして、ひらがなと漢字の間に刺激等価性が成立することにより、ひらがなと漢字が、言語表出だけでなく、校舎内を移動するという表出課題における弁別刺激としても機能的に等価になることが示された。


キーワード:精神遅滞児, 空間概念, 概念形成, 移動行動, 刺激等価性

自閉症と診断された5名の児童を対象として、遊び場面での訓練と条件性弁別訓練を用いて、「楽しい」遊びと「恐い/びっくりする」遊びに対する2種類の報告言語行動(タクト)の獲得を試みた。訓練の結果、対象児は"内的"事象のタクトを獲得したが、この獲得においては、遊び場面の訓練だけでは十分ではなく、環境の弁別刺激との条件性弁別訓練を必要とした。さらに、獲得されたタクトは、未訓練の課題に対しても現れうることが示された。これは、対象児が、"内的"事象について、自発的に、環境事象の一つを条件性弁別刺激とすることで報告したことを示している。また、この報告は未訓練の聞き手に対しても現れた。これは、"内的"事象の報告がbehavior trapにのりうる行動であり、日常へも般化しうる可能性を持つことを示している。

〇通級指導教室

研究の目的 通級指導教室において平仮名の書字に困難を示すLD児に対する支援を行った。そして、これまでの平仮名のエラーパターンから数量的な評価基準を抽出し、参加児が理解できるように加工したうえでフィードバックする支援方法の有効性(判読性と動機づけの改善)を検討することであった。研究計画 課題間マルチベースラインデザインを用いた。場面 小学校通級指導教室で実施した。参加児 平仮名の書字に困難を示し、かつ書字活動への動機づけが著しく低下してしまっている小学校通常学級第1学年のLD児1名と支援者(長期研修派遣教員)1名が参加した。独立変数 エラーパターンから抽出した数量的な判読性の評価基準を加工して見本として提示し、口頭でも要点を教示した。また、参加者が記した文字をその都度見本と比較し、その差をフィードバックした。行動の指標 判読性として正しく文字を記す反応(正反応)の生起割合を、また動機づけとして連絡帳に記した文字の割合を求めた。結果 介入後、正反応の生起割合が上昇し、その効果が通常学級にも般化した。また、通常学級における連絡帳への書字割合が増加した。結論 エラーパターンから抽出した数量的で客観的な評価基準と、それに基づいた自己記録や自己評価とを合わせた支援方法が、児童の書字活動における判読性や動機づけ、そして通級と通常学級との支援者間の連携に有効である可能性を示唆した。


キーワード:通級指導教室, 平仮名, 判読性, エラーパターン, 動機づけ