ギンセンカ(銀銭花; Hibiscus trionum)は朝露草(チョウロソウ)とも呼ばれ、英名で Flower of an Hour (一時間の花)と呼ばれるように早朝に短時間だけ咲く、アオイ科ハイビスカス属の草本です。中国では野西瓜苗と書きます。
野西瓜苗は救荒作物として周憲王の『救荒本草』(中国のChinese Text Project ) の巻三に収載されています。中国版は明朝1406年の書籍(図の左)で、松岡玄達(恕庵)が校訂した日本版は1716年です(享保元年; 国会図書館https://dl.ndl.go.jp/pid/2555679/1/53; 図の右)。いずれも本文は以下の通りです。
俗ニ秃漢頭(ハゲ男の頭)ト名ス。田野ノ中二生ス。苗ノ高サ一尺許リ, 葉ハ家ノ西瓜葉二似テ而。小頗フル硬シ葉間ニ蔕ヲ生シ, 五瓣ノ銀褐花ヲ開ク。紫ノ心, 黄ノ蘂, 花罷シテ蒴(サク=割ける実)ヲ作ス。蒴內ニ實ヲ結ビテ、楝子ノ大サノ如シ(レンシとはおそらくセンダンの実)。苗葉ノ味, 微苦シ。 救飢: 嫩イ(若い)苗葉ヲ採リ、煠熟シ(サジュクとはさっと茹でるの意)水ニ浸シ邪味ヲ去ル。淘過シ油鹽ニ調ヘ食ス。治病: 今ノ人, 傳ヘ說ク苗ヲ採リ搗キテ瘡腫ニ傅シテ毒ヲ拔ク
その後、『救荒本草啓蒙』(1842; 小野蕙畝による小野蘭山の講義録)にも「野西瓜苗: ギンセンクハ, トウロウサウ」として似た記載があります。
国内には松岡玄達の書以前に持ち込まれており、上記『救荒本草』では野西瓜苗に「ギンセンクハ」とふりがながあります。同時代、狩野常信『草花魚貝虫類写生』(江戸時代初期、寛文年間)の図巻にも記載され、「ひめかうそ」(小さな楮)と書かれています。かうぞとは和紙に使うトロロアオイで、橘保国『絵本野山草』(1755)にも同様の記載があり、鑑賞用だったようです。(このブログ参照)
銀銭花朝露草ともいふ はなのかたち、かうそのことく、花は秋葵(かうぞ=トロロアオイ)より小し。いろ、白青きうるみ色。花、底黒べにのきほひあり。葉、五つ出、三つて有。葉のきれ、西瓜(すいくは)の葉に似たり。長一二尺ばかり。えだもあり。朝にひらき、ゆふべにしぼむ。その次なるはな、又朝にひらく。秋葵の類也。又金銭花に似たり。六七月まで、はなさく。(『絵本野山草』の本文)