江戸時代、 伊藤伊兵衛（政武）は『増補地錦抄』（宝永7; 1710）、『公益地錦抄』（享保4; 1719）、『地錦抄付録』（享保17; 1733）において、100品種に和歌を添え「歌仙かえで集」として解説しました（水谷泰弘「江戸の園芸書から」；千葉大学の園芸書コレクションに収載）。政武の父である伊藤伊兵衛(三之丞)は、著書『花壇地錦抄』（元禄12; 1699）に 「楓のるひ」として 23品（高雄・八しほ・野村・せいがいは・しやうじやう・楊貴妃・たつた・獨搖楓（しだりもみぢ）・大しだり・うすかき・いともみぢ・二面（ふたおもて）・南京（なんきん）・青葉（あおは）・十二ひとへ・板家（いたや）・九重（ここのへ）・なりひら・鳳凰（ほうわう）・朝日・通天・かよひ・日光楓）を載せています（昭和８年京都園芸倶楽部叢書 による『花壇地錦抄』はhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1209343/1/41）。しかし、子である政武による11年後の『増補地錦抄』と重複するのはわずか８品です（青葉・かよひ・九重・高雄・立田・通天・業平・八染；水谷はなぜか6品と記載）。楓に傾倒した政武が、既に名前が通っていた品種以外は、和歌にちなんで新たに命名したと前出の水谷は記しています。例えば後出歌仙楓集には「かぎり」の異名が「しゃうじゃう」と、あります。

３組の歌仙もみち集

• 『歌僊楓集』（＝増補地錦抄４巻）36品 https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/300056068/5?ln=ja　青葉・赤地錦（あかちのにしき）・朝露・飛鳥川・嵐山・うらべに・奥州獨揺（おうしうしだれ）・かぎり・笠取山・かよひ・切錦（きれにしき）・小倉山・九重・さを山・鹿紅葉・しがらみ・しぐれ山・しめの内・白波・袖の内・高尾・立田・たむけ山・通天・唐錦（とうきん）・ときは・業平・待風・深山楓（みやまかいで）・武蔵野・村雲・名月・紅の波（もみのなみ）・紋錦（もんにしき）・八染（やしお）・侘人（わびびと）　（昭和10年京都園芸倶楽部叢書 による『増補地錦抄』はhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1209340/1/17）

• 『後出歌僊楓集』（＝公益地錦抄３巻）36品  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/300056069/5?ln=ja　秋風・綾蘭笠（あやゐかさ）・幾染（いくしほ）・鬱金・内ゆかし・うづらの羽・をくしも・遠近人（おちこちひと）・鹿毛織錦（かけおりにしき）・神無月（かみなつき）・小雨の錦（こさめのにしき）・駒駐（こまとどめ）・小夜時雨（さよしぐれ）・敷島・しぐれそめ・しのぶ・関守・七夕（たなはた）・千里（ちさと）・千染（ちしほ）・手染糸（てそめのいと）・とやま・名取川（なとりかわ）・初もみぢ・花のえん・ひとしほ・古郷（ふるさと）・ます紫・松がえ・水かが見・もみちかさね・紋盡 （もんづくし）・夕暮（ゆふくれ）・夕時雨（ゆふしぐれ）・隣家（りんか）・わすれかたみ（昭和16年京都園芸倶楽部叢書 による『公益地錦抄』はhttps://dl.ndl.go.jp/pid/1211591/1/53）

• 『追加楓集』（＝地錦抄付録４巻）28品 https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/300056070/5?ln=ja　浅茅（あさぢ）・扇子流（あふぎながし）・葛城（かつらぎ）・唐織（からおり）・唐楓（からかえで）・黄八丈（きはちでう）・清瀧（きよたき）・金襴（きんらん）・朽葉（くちば）・呉服（くれは）・御所染（ごしょそめ）・漣波（ささなみ）・品河（しながわ）・つたの葉・釣錦（つりにしき）・七瀬川（ななせかわ）・軒端（のきば）・初花（はつはな）・柞（ははそ）・麓寺（ふもとてら）・十寸鏡（ますかがみ）・枩影（まつかげ）・待宵 （まつよい）・真間（まま）・水潜（みずくぐり）・道しるべ・夕霧（ゆふきり）・若紫

園芸品種は大きくイロハモミジ系（Acer palmatum Thunb.）とオオモミジ・ヤマモミジ系（Acer amoenum Carrière var. amoenum,  A. amoenum Carrière var. matsumurae）です。そのほかハウチワカエデ(Acer japonicum Thunb.)、コハウチワカエデ (Acer sieboldianum Miq.) にも園芸品種があり、川崎みどり研究所のページに詳しいです。これらの染色体数 (2n=26) やゲノムサイズは https://horticulture.oregonstate.edu/sites/agscid7/files/maple_genome_size.pdf に記載されています。