本研究室では,人間の相互行為を分析するための,世界で最も成功した科学的アプローチの1つである「会話分析」について学びます.
会話分析は,エスノメソドロジー(Garfinkel 1967)とよばれる社会学の方法論的な態度を背景に,当時,University of California, Los Angeles (UCLA)[カリフォルニア大学ロサンゼルス校]で教員をしていた社会学者であるハーヴィー・サックスによって1960年代に生み出され(Schegloff 1989: 189-91),エマニュエル・A・シェグロフ(Heritage 2024),ゲイル・ジェファーソン(Drew, Heritage, and Pomerantz 2014)らによって発展させられていきました.
会話分析の成功の証拠を挙げるならば,上記の3人によって1974年に発表された会話の順番交代に関する論文は(Sacks, Schegloff and Jefferson 1974{1978} =2010),言語学で最も権威のあるLanguageという雑誌に掲載され,その引用回数は2万回を超え,この雑誌で最も多いものとなっています(Joseph 2003: 463; Person 2022).またOpenAIが,2024年にchatGPT-4oをリリースした際のアナウンスにおいて (OpenAI 2024),最初に引用されている学術論文は,会話分析のアプローチを応用した量的分析によって,世界の様々な言語での会話における質問に対する応答が行われるまでの長さを解明した研究でした (Stivers et al. 2009).
会話分析は,AIだけではなく,医療,法律,メディア,教育,心理療法など,様々な分野に多くの示唆を与えてきました.もちろん学術分野においても,社会学や言語学のみならず,人類学,コミュニケーション研究,心理学などにも,大きな貢献を行なってきました (Sidnell and Stivers 2013).
私,中川敦は,2011年から会話分析研究会で,会話分析の学びを本格的に開始しました.その後,2019年から,千葉大学大学院人文公共学府の博士後期課程で会話分析による博士論文執筆に取り組み始め,2024年に同大学院で博士号を取得しました.また2024年には,フルブライト奨学金(研究員プログラム)の支援を得ながら,UCLA Center for Language, Interaction, and Culture (CLIC) [言語・相互行為・文化センター]のVisiting Associate Researcher [客員准研究員]として,UCLAで会話分析のさらなる訓練を受ける機会に恵まれました.
この文章をお読みの皆さんの中で,会話分析のアプローチを用いた論文を書きたいとお考えの方が,本研究室で会話分析を学ぶことを希望していただければ,嬉しく思います.これまで多くの方の助けによって,私が得た会話分析についての知識や経験をお伝えすることが,皆さんの人生を豊かにし,会話分析のコミュニティと,会話分析研究の発展につながるのであれば,これに勝る喜びはないのです.
【文献】
Drew, Paul, John Heritage, and Anita Pomerantz, 2014, "Gail Jefferson 1938–2008, [ゲイル・ジェファーソン 1938-2008]" EM/CA wiki.
Garfinkel, Harold, 1967, Studies in Ethnomethodology [エスノメソドロジー研究], Englewood Cliffs: Prentice-Hall.
Heritage, John, 2024, "Emanuel A. Schegloff 1937–2024, [エマニュエル・A・シェグロフ 1937-2024]" Research on Language and Social Interaction, 57(3): 255-6.
Jefferson, Gail,, 2004, “Glossary of Transcript Symbols with an Introduction [転写記号の用語集と序論],” Gene H. Lerner ed., Conversation Analysis: Studies from the First Generation, Amsterdam: John Benjamins Publishing Company, 13-31.
Joseph, Brian D., 2003, “The Editor’s Department: Reviewing Our Contents [編集部:本誌の内容の回顧],” Language, 79(3): 461–63.
OpenAI, 2024, “Hello GPT-4o [こんにちは GPT-4o]”.
Person, Raymond, 2022, “Conversation Analysis [会話分析],” Oxford Bibliographies.
Sacks, Harvey, Emanuel A. Schegloff and Gail Jefferson, 1974, “A Simplest Systematics for the Organization of Turn-Taking for Conversation,” Language, 50(4): 696-735. {Reprinted in: Jim Schenkein ed., 1978, Studies in the Organization of Conversational Interaction, New York: Academic Press, 7-55.}(西阪仰訳,2010「会話のための順番交替の組織――最も単純な体系的記述」『会話分析基本論集――順番交替と修復の組織』世界思想社,5-153.)
Schegloff, Emanuel A., 1989, "Harvey Sacks-Lectures 1964-1965: An Introduction/Memoir [ハーヴィー・サックス 講義 1964-1965:序論/回想]", Human Studies, 12(3/4): 185-209.
――――, 2007, Sequence Organization in Interaction: A Primer in Conversation Analysis Ⅰ [相互行為における連鎖組織:会話分析入門Ⅰ], Cambridge: Cambridge University Press.
Stivers, Tanya, Nicholas J. Enfield, Penelope Brown, Christina Englert, Makoto Hayashi, Trine Heinemann, Gertie Hoymann, Federico Rossano, Jan Peter De Ruiter, Kyung-Eun Yoon, Stephen C. Levinson, 2009, "Universals and Cultural Variation in Turn-taking in Conversation [会話の順番交代における普遍性と文化的差異]", Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(26): 10587–92.