SUBJECT

THEME

(一言で)チベット・ヒマラヤ地域における 「国家」と社会の関係

(詳しく)現代中国を事例に、国家と辺境社会の関係を包括的に位置づける。特に、本土チベットの領有主権にからむ”文化の政治”が包摂しうる主体形成の「限界」*を、①チベット高原における自然・文化資源の開発、②「民族」や「宗教」の位置付けと国家統合、の2つの問題系を具体例として、亡命社会との応答関係を背景に置きつつ、包括的にとらえる。また、国家から見た「限界の統治」よりもむしろ、村落社会の個々のチベット人の日常に軸足を置いた内在的視点から、なぜ・どのようにして「限界」への到達が回避されているのか、という点の解明により重点を置く。以上のことは、現代中国における辺境経済圏の開発に対し、国境を越えてエスニシティを活性化させる辺境マイノリティの目線からその活動の総体を捉え返す「新たな中国の周縁性」(外縁からの中国)研究に重要な貢献を成すものである。

*生活社会に対する国家的企てに基づく主体形成作用がほころびを見せる臨界点のこと。この場合、「文化の政治」を生み出す運動体は「中国共産党政府」と「亡命社会(およびそのサポーター)」の2つが想定されるが、基本的に中国領内のチベット社会を対象とする場合は前者が主動因、後者が潜在要因である。また、双方はしばしば相反する価値観によって衝突し、それが国際政治の舞台に表面化するか否かに関わらず、より多くの民意の獲得を巡って恒常的な競合状態にある。本研究では問題の文脈に応じ、両者のからみあいを生活社会の中に見ていくスタンスを取る。