研究エッセイ本『植物の季節を科学する: 魅惑のフェノロジー入門』が発売されました!
植物の花々はいつ咲くのか?
被子植物が新芽を出し(展葉)、花を咲かせ(開花)、実を成熟(結実)させる時期や期間は、種や地域で異なります。温帯である日本では、ヤマザクラが3月頃に1〜2週間の短期間に開花するのに対し、シロツメクサは4月から8月まで長期間にわたって開花します。このような時期や期間が異なる、群集の生物季節(フェノロジー)の多様性は、遺伝的背景が異なる種や分類群における、日長・気温・雨量などの気象条件に対する多様な応答として生じています(1, 2)。私は、この群集のフェノロジーが、異なる群集や地域(気象条件)間で、どのように異なるのかに興味を持ち、研究を進めています。
1. Rathcke & Lacey 1985, Annual review of ecology and systematics. 2. Yumoto 1987, Ecological Research.
花の咲き方は、木と草で同じなのか?(卒業・修士論文)
木本と草本で開花フェノロジーのパターンが異なることは、先行研究(2, 3)で示唆されていましたが、一貫性がありませんでした。その原因としては、植物のフェノロジーを定量的に強化する指標がなかったために、定性的に評価されていたためと考えられました。そこで、私は、開花フェノロジーを定量的に評価するための指標を考案して、九州大学保全緑地で得た植物 48 種の開花データを用いて、木本と草本の開花フェノロジーを定量的に比較しました。その結果、個体レベルの平均開花期間には草本種と木本種で有意差がないが、草本種よりも木本種の方が、個体間の開花が強く同調するために、種レベルの開花期間が短くなることが明らかになりました。さらに、樹木種の開花期間が短いのは、平均開花期間を短くする方向の進化ではなく、個体間の同調性を高める方向の進化によるものであることが示唆されました。
Nagahama, A., T. Yahara. 2019. Quantitative comparison of flowering phenology traits among trees, perennial herbs, and annuals in a temperate plant community. American Journal of Botany, 106(12): 1–13. [PDF]
2. Yumoto 1987, Ecological Research. 3. Cortés-Flores et al. 2017, American Journal of Botany.
暑くなると、植物の花々はどうなるのだろうか?
先行研究(4)によって、開花パターンの多様性を統一的に理解するために構築された開花予測モデルでは、温暖化によって開花期間が短くなると予測されていました。私は、この予測を実験的に検証するため、ハクサンハタザオをインキュベータ内で栽培し、気温上昇条件下で、開花期間と開花遺伝子の発現量を記録しました。その結果、モデルの予測通り、開花期は早まりましたが、開花が予測されなかった条件でも開花する個体が観察されました。これらのことから、気温上昇条件下では、数理モデルで考慮された既知の開花経路以外の経路で開花が誘導されることが示唆されました。
Nagahama, A., Y. Kubota, A. Satake. 2018. Climate warming shortens flowering duration: a comprehensive assessment of plant phenological responses based on gene expression analyses and mathematical modeling. Ecological Research, 33(5): 1059–1068. [PDF]
4. Satake et al. 2013, Nature Communications.
植物の季節的な挙動は、どのように多様化してきたのだろうか?(博士論文)
東・東南アジアでは、各気候帯で特有の群集のフェノロジーが観察されてきました(1, 2)。しかし、季節性に乏しい熱帯雨林のフェノロジーと、季節性がある熱帯季節林や温帯林のフェノロジーの生態学的な比較検討は不十分でした。そこで、私は、東・東南アジアの展葉・開花・結実フェノロジーの体系的な理解を目的として、被子植物の祖先的な分類群が生育する熱帯山地林(5)に着目し、ベトナム南部の熱帯山地林の調査区において、個体数上位の計91種(500個体)で、展葉・開花・結実の有無を3ヶ月毎に記録しました。その結果、観察対象91種すべてが雨季始めに展葉したが、観察期間中に開花した種は70種にとどまり、一年の中で明瞭なピークは見られませんでした。この結果より、1年周期で咲く種と数年に一度咲く種の共存が示され、熱帯山地林のフェノロジーは、熱帯雨林と熱帯季節林・温帯林のフェノロジーの中間的状態と考えられました。(論文準備中)
1. Rathcke & Lacey 1985, Annual review of ecology and systematics. 2. Yumoto 1987, Ecological Research. 5. Axelrod 1966, Evolution.
東南アジアの植物は、どのように多様なのだろうか?(新種記載)
日本に住んでいると、「新種を発見した!」というのはビッグニュースになりますね。ところが、植物学的調査が十分に行われていない東南アジアに行くと、未記載種はザクザク見つかります。それらの一部を新種として発表したので、以下にリストします。
リンドウ科 Gentiana bolavenensis Nagah., Tagane & Soulad.
Nagahama, A., S. Tagane, P. Souladeth, A. Sengthong, T. Yahara. 2019. Gentiana bolavenensis (Gentianaceae), a new species from Dong Hua Sao National Protected Area, southern Laos. Thai Forest Bulletin (Botany). 47(2): 133-136. [PDF]
マツブサ科 Illicium viridiflorum Yahara, A.Nagah. & Tagane
Tagane, S., N.V. Ngoc, H.T. Binh, A. Nagahama, M. Zhang, T.Q. Cuong, L.V. Son, V.-S. Dang, H. Toyama, N. Komada, H. Nagamasu, T. Yahara. 2020. Fifteen new species for the flora of Bidoup-Nui Ba National Park, southern highland of Vietnam. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica, 71(3), 201-229 [PDF]
トウダイグサ科 Claoxylon langbiangense A.Nagah. & Tagane
Nagahama, A., S. Tagane, M. Zhang, N.V. Ngoc, H.T. Binh, T.Q. Cuong, H. Nagamasu, H. Toyama, K. Tsuchiya, T. Yahara. 2021. Claoxylon langbiangense (Euphorbiaceae), a New Species from Bidoup-Nui Ba National Park, Southern Vietnam. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica, 72(3): 275-280. [PDF]
その他の論文はこちら