教育講演 / 学会長講演

 【教育講演】 5月28日(日)9:00~10:30

 中枢と末梢を“つなぐ”学習~手の機能獲得に向けて~

阿部 薫 氏

順天堂大学医学部附属順天堂医院 リハビリテーション室

 認定作業療法士

 専門作業療法士(手外科)

 認定ハンドセラピスト



 人の身体運動は、高度な脳の運動制御能力によって支えられており、言わずもがな手を動かすのは脳である。「手に映る脳・脳を宿す手」(Goran Lundborg著、砂川融 監訳)言い得て妙なこの言い回しは、手の機能獲得における不可分な脳の働きの大切さを示している。よって、我々の臨床でも、中枢・末梢の部位によらず何らかの機能破綻により手の働きが損なわれ手が上手く動かないとき、手を動かす脳の働きを顧みることは必要と考える。今回、脳の働きを詳述することは分不相応であるが、手の動きが損なわれることでの脳への影響や手をよくするための脳へのアプローチを概観しつつ、手の機能の再建や獲得が学習を基盤とし、そこには知覚も含めたフィードバック機構の成立が重要となることについて説明を加えたい。一方、セラピストは、手と脳、学習などの概念や知識を消化し自身の臨床に汎化してアプローチを具現化することが求められる。運動学習では、運動イメージや運動主体感、身体所有感などの形成を確認しつつ意図した運動をフィードバックで賦活しdose(用量)を確保して機能を獲得していく。意図した運動は、セラピストの教示や選択する言葉一つでも変わる。ともすれば我々は、ハンドリングに拘ってしまいがちであるが、実はこうした外在的フィードバックの内容や量、タイミング、視覚や固有感覚などの内在的フィードバックによる気づきなどを戦略的に用いることも重要と考える。

 限局的な視点に偏ることなく、広く人の動きの生成に目を向け、その働きを理解することが真に人を診ることにつがると考える。


 【学会長講演】 5月27日(14:15~15:15

 クリニカル・クエスチョンと研究を“つなぐ” リサーチ・クエスチョン ~私のリサーチ・クエスチョンからの研究展開~

佐藤 彰博 氏

弘前医療福祉大学 教授

 認定作業療法士

 専門作業療法士(手外科)

 認定ハンドセラピスト

 臨床研究とは、「人を対象とした医学系研究」である。臨床研究というと新薬開発などの治験や介入研究である臨床試験を思い浮かべるかもしれないが、非介入の観察研究である症例報告も含まれている。つまり、臨床実践の実学である作業療法における研究の多くは、臨床研究ということになる。また、作業療法における臨床研究は患者の生活を改善させることが目的であり、臨床実践の中で生まれる疑問の解決に役立てられる。先行研究を調べて読むことはもちろん大切であるが、自ら臨床研究を行って発表や論文として情報発信することも作業療法発展のために重要である。「誰かがやってくれれば良い」ではなく、自分事として考える必要がある。臨床研究を知ることで、患者の見方や文献の読み方が変わるからである。

 臨床研究はクリニカル・クエスチョンを書き留めることからはじまる。クリニカル・クエスチョンは臨床上の疑問であることから、臨床を経験している人にしか思いつかない。そして、思いついたクリニカル・クエスチョンを研究可能な形に変えていく作業がリサーチ・クエスチョンの作成である。つまり、クリニカル・クエスチョンを臨床研究へと“つなぐ”工程がリサーチ・クエスチョンともいえる。しかし、ひとつの研究課題を解決するためには、関連する多くの課題を解決する必要がある。

 本講演では、私の研究テーマのひとつである手根管症候群に関するリサーチ・クエスチョンからの研究展開について紹介する。皆様方の今後の臨床研究のヒントになれば幸いである。


第34回青森県作業療法学会