SNS不適切投稿で仙台高裁判事を罷免 裁判官の表現行為めぐり初
2024年4月3日 NHK
殺人事件などをめぐってSNSに不適切な投稿を繰り返したとして訴追された仙台高等裁判所の岡口基一裁判官に対し、国会の弾劾裁判所は裁判官を辞めさせる罷免の判決を言い渡しました。裁判官が罷免されたのは8人目で、表現行為を理由とした判断は初めてです。
仙台高等裁判所の岡口基一裁判官(58)は、女子高校生が殺害された事件の遺族などについて、SNSで不適切な投稿を繰り返したとして国会の弾劾裁判所に訴追され、罷免とすべきかどうか、衆・参両院の議員から選ばれた裁判員による審理が15回にわたって行われました。
これまでの裁判で、検察官役の訴追委員会は「遺族などを傷つける投稿を繰り返したのは非常に悪質で罷免すべきだ」などと主張した一方、弁護側は「これまで罷免判決が出た盗撮などの犯罪行為とは根本的に異なり、罷免にはあたらない」と主張していました。
表現の自由めぐる双方の主張
裁判では、裁判官の表現の自由をめぐっても意見が交わされました。
検察官役の訴追委員会側は裁判官にも表現の自由があることは認めたうえで「今回、罷免にあたらなければ、ほかの裁判官が同様の投稿をしても地位を奪われないという先例になる。今後の裁判官のSNS投稿などに大きく影響を与える観点からも厳正な判断が求められる」と主張しました。
一方、弁護側は表現の自由の観点などから罷免すべきでないとする弁護士会などの声明や意見書が26件出されていることを挙げ、「SNSの投稿の一部が不法行為だったとしても、民事裁判で解決が図られるべきだ。投稿で直ちに司法への国民の信頼を害したわけではない」と主張しました。
「表現の自由として許される限度を逸脱」
3日の判決で弾劾裁判所は、事件の遺族への岡口裁判官の投稿について「本人に意図はなかったものの、結果として何度も執ように遺族を傷つけることになった。SNSは発信者が想定した趣旨と全く異なって受け止められる危うさをはらんでおり、その危険性を踏まえて他者を傷つけないよう配慮すべきだった」と指摘しました。
そのうえで「遺族からの抗議を受けても反省や改善がなく長期にわたって投稿などを繰り返してきたことは、表現の自由として裁判官に許される限度を逸脱している」と述べました。
そして、裁判員の3分の2以上の多数意見で、裁判官を辞めさせる罷免を言い渡しました。
岡口裁判官は裁判官の任期が満了する今月で職を辞する考えを示していましたが、罷免が決まったことで法曹資格を失い、弁護士としても活動することはできません。
弾劾裁判で裁判官が罷免されるのは2013年以来で、8人目です。表現行為を理由とした判断は初めてです。
船田裁判長「評決はギリギリの数字だった」
裁判長を務めた船田元衆議院議員と主任裁判員の階猛衆議院議員が判決のあとに会見を開きました。
船田議員は「本人が刑事罰を受けていない中、罷免にあたるかどうか判断する難しさがあった。慎重な議論を続けたがひとつの結論にまとめることができず、最終的に評決をとり、3分の2以上が罷免とした。数は公表できないが、ギリギリの数字だった」と話しました。
階議員は「裁判官は行政府や立法府など権力に対する批判をちゅうちょしてはならないが、犯罪被害者などについてSNSを使う場合は人権に配慮すべきだ。判決では権力者に対する投稿と一般市民への投稿を明確に分けて判断した」と話しました。
最高裁判所「裁判官が職責の重さ自覚を」
最高裁判所は「裁判官が罷免の判決を受けたことは、誠に遺憾だ。それぞれの裁判官が改めて職責の重さを自覚し、国民の信頼にこたえていくよう努めたい」とコメントしています。
事件の遺族「一生の心の傷 忘れることはできない」
判決を受け、事件で亡くなった女子高校生の父親の岩瀬正史さんは「『表現の自由』とは何を言っても許されるのではなく、必ず責任が伴うという今の時代に沿った判決が出て安心しています。岡口氏が今後どのようなSNSの使い方をするのかはわかりません。今回の判決を真摯(しんし)に受け止め、人を傷つけるような投稿は控えていただきたいと願っています」などとするコメントを出しました。
母親の裕見子さんは「訴追が決定するまで2年、そして弾劾裁判も始まってから判決まで2年という長い時間がかかりました。罷免という結果は出ましたが、岡口氏にされた行為の数々は私たちの一生の心の傷で忘れたくても決して忘れることはできません」などとコメントしています。
弁護団「論理が何もない 感情にひっぱられたのでは」
岡口基一裁判官の弁護団は判決のあと会見を開きました。
野間啓弁護士は「それぞれの行為に関する動機や目的についてはかなり丁寧に認定し、われわれの主張をほぼ全面的に採用している。それにもかかわらずなぜ『著しい非行』にあたるのか、論理が何もない結論になっている。国会議員が感情にひっぱられたのではないか」と批判しました。
また、伊藤真弁護士は「どんなに理不尽な判決でも不服申し立てができないという制度の理不尽さを強く感じた」と話していました。
弁護団によりますと、判決が言い渡されたあと、岡口裁判官はあぜんとした様子だったということです。
専門家「裁判官の情報発信 萎縮させるおそれ」
憲法が専門で表現の自由に詳しい慶應義塾大学の駒村圭吾教授は裁判官の表現の自由について「裁判官も一般市民であり発言する権利はあるが、公権力を持ち、全体の奉仕者であるという身分上の制約もある」と指摘し、今回の判決について「岡口裁判官が発信した内容が波及して生まれる効果は、本人が負担しなければならない。行ってはならない『非行』と認めたことは不当ではない」と述べました。
一方、「罷免にするほどの『非行』だったという理由については抽象的な内容にとどまっている。この判決が、ほかの裁判官の情報発信を萎縮させるおそれがある」と述べました。
SNS投稿で繰り返し処分 賠償命令も
仙台高等裁判所の岡口基一裁判官は東京高等裁判所などで民事裁判を担当するかたわら、旧ツイッターやフェイスブックといったSNSを使って積極的に情報発信を行ってきました。
SNSでは裁判に関する記事を紹介したり、みずからの白い下着姿の写真も投稿したりしていて、当時のツイッターのアカウントには、2017年12月時点でおよそ3万8000人のフォロワーがいました。
岡口裁判官は、女子高校生が殺害された事件の裁判に関する投稿で遺族から抗議を受け、2018年の3月、当時所属していた東京高裁から厳重注意処分を受けました。
さらに、みずからが担当していない飼い犬の所有権をめぐる裁判についての投稿をめぐっても当事者を傷つけたとして東京高裁から最高裁に懲戒を申し立てられました。
これを受けて最高裁判所は2018年10月、裁判官の処分を審理するための「分限裁判」で、「裁判官にも表現の自由があることは当然だが許される限度を逸脱している」として戒告の処分としました。
その後も岡口裁判官は女子高校生の遺族に関する内容をSNSに投稿し、4年前の2020年に最高裁は再び戒告の処分としました。
去年には女子高校生の遺族が岡口裁判官に賠償を求めた裁判で、東京地方裁判所が一部の投稿について「事実に反し、人格を否定する侮辱的表現だ」と認め、40万円余りの支払いを命じました。2審も賠償を命じ、判決はその後、確定しています。
これらの投稿について国会の裁判官訴追委員会は2021年、罷免するかどうかを審理する弾劾裁判所に訴追することを決定。弾劾裁判所はおととし3月から審理を行ってきました。
弾劾裁判の役割は
裁判官は司法の独立を守る観点から憲法によって身分が保障されています。
不祥事を起こした裁判官であっても、裁判所が科すことができる懲戒処分は戒告か過料までで、罷免、つまり辞めさせるかどうかは国会に設置された弾劾裁判所が判断することになっています。
国会の裁判官訴追委員会は、通常の刑事事件で言えば検察にあたる役割があります。
衆・参両院の議員で構成され、国民などから裁判官を罷免すべきだという請求があると、対象の裁判官について調べ、職務上の義務に著しく違反するなど弾劾裁判を開く必要があると判断した場合、刑事事件の起訴にあたる「訴追」を行います。訴追を受けて審理する弾劾裁判所も国会議員で構成され、罷免すべきかどうかを判断します。
裁判官訴追委員会によりますと、初めて訴追された1948年から去年までに、訴追委員会が受理した請求は2万4500件余りで、このうち訴追された裁判官は10人です。
岡口裁判官を除くと、弾劾裁判でこれまでに7人が罷免と判断されています。
これまでの罷免は刑事裁判で有罪など
これまで弾劾裁判で罷免とされた7人の裁判官は、刑事裁判で有罪となったことや職務上の違反が問題とされてきました。
岡口裁判官のケースを除くと直近の判決は2013年で、電車で女性のスカートの中を撮影したとして罰金刑を受けた大阪地方裁判所の裁判官が「人を裁く立場の裁判官としてあるまじき行為だ」として罷免されました。
2008年12月に罷免された宇都宮地方裁判所の裁判官は、部下の裁判所職員に携帯電話のメールを執ように送ったストーカー規制法違反で有罪が確定していました。
2001年11月には少女にわいせつな行為をした罪で有罪が確定した東京高等裁判所の裁判官が、「司法に対する国民の信頼を限りなく揺るがせた」として罷免されました。
2000年以前では、事件の処理を放置して略式命令請求を失効させたケースや、担当する破産事件の管財人からゴルフクラブなどをもらったケースなどがありました。
弾劾裁判所の判決に対して不服を申し立てる方法はなく、判決は言い渡しと同時に確定し、罷免とされた場合には法曹資格を失うことになります。
自分に適した職業への転職を目指す人のため、茨城県は、転職に必要なリスキリング(学び直し)講座を人工知能(AI)が提案するマッチングシステムを構築し、公開した。人材不足を解消し県内産業の発展の一助にしたい狙いだ。
開発したシステムは、利用者が現在の職種や経験年数、保有資格、リスキリングの必要性や興味のある職業分野などを入力。入力内容に応じて示される希望職種を選ぶと、AIがその職種に就くのに必要なスキルを学べる講座を検索し、提案する。
例えば、利用者は「家具や機械を組み立てる作業に興味がある」「人と交渉したり、説得したりするのが好き」などと入力し、「歯科技工士」「陶磁器製造」「イラストレーター」などから希望職種を選択。選んだ希望職種に応じて、AIが「おすすめの講座」を紹介する。
講座は「事業構想プロジェクト研究」「青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム」など、民間や大学などが手がけるデジタルスキル講座を中心に用意。それぞれ内容や費用といった詳細を知ることができる。
県内で働く人のリスキリングを進めようと産官学でつくる県リスキリング推進協議会は昨年10月、推進政策パッケージを策定。国の調査等を参考に「県独自に調査した結果、労働需給は2050年に約27・5万人の需給ギャップが発生。特に情報通信業や医療・福祉などにおいて大幅な人材不足が見込まれる」とした。
県産業人材育成課の担当者は「リスキリングについては理解が進んできたと感じるが、実際に自分はどうすれば良いのかと迷っている人がいると思う。このシステムでリスキリングのハードルが下がることを期待している」と話す。
マッチングシステムは、「いばらきリスキリングプロジェクト」の公式ホームページから、無料で利用できる。(竹島勇)
2月の実質賃金 前年同月比1.3%減少 23か月連続のマイナス
2024年4月9日 NHK
ことし2月の働く人1人当たりの実質賃金は前の年の同じ月に比べて1.3%減少し、23か月連続のマイナスとなりました。厚生労働省は「ことしは春闘で高い水準の賃上げが行われているので、今後、プラスに転じるのかを注視していきたい」としています。
厚生労働省は全国の従業員5人以上の事業所、3万余りを対象に「毎月勤労統計調査」を行っていて、ことし2月分の速報値を公表しました。
それによりますと基本給や残業代などをあわせた現金給与の総額は1人当たり平均で28万2265円と前の年の同じ月に比べて1.8%増加し、26か月連続のプラスとなり過去最長を更新しました。
一方で、物価の高騰は続いていて、その変動分を反映した実質賃金は、前の年の同じ月に比べて1.3%減少しました。
実質賃金がマイナスとなるのは23か月連続で、依然として物価の上昇に賃金の伸びが追いついていない状況が続いています。
厚生労働省は「実質賃金のマイナスが続いているが、3月以降は春闘で高い水準の賃上げが行われている。実質賃金がプラスに転じるのかなど物価の状況とあわせて注視していきたい」としています。
故意に税金未納や滞納繰り返した場合 国が永住許可取り消しへ
2024年2月20日 NHK
育成就労制度が新たに導入されれば永住許可を得る外国人の増加が見込まれるとして、出入国在留管理庁は、故意に税金の未納や滞納を繰り返すなどした場合、資格を取り消せるように在留資格制度を見直す方針を固めました。今の国会に関連する法案を提出する見通しです。
政府は、技能実習制度を廃止して新たに育成就労制度を導入すれば、永住につながる特定技能への移行を促すことになり、永住許可を得る外国人の増加が見込まれるとしています。
一方、永住者になっても税金や社会保険料を納めなかったり、資格を取り消されない、窃盗など1年以下の懲役や禁錮にあたる罪を繰り返したりするケースがあるということです。
このため出入国在留管理庁は、故意に税金や社会保険料の未納や滞納を繰り返した場合や、窃盗などの罪で1年以下の懲役や禁錮になった場合は永住許可を取り消すか、ほかの資格に変更できるように在留資格制度を見直す方針を固めました。
また、外国人が納税などの義務を果たさない場合は、地方自治体などの職員が出入国在留管理庁に通報する制度も設ける方針です。
出入国在留管理庁は、今の国会に関連する法案を提出する見通しです。
「強制送還におびえながら暮らすことに」 新たな「永住権取り消し」法案を当事者ら懸念 税金滞納なども対象に
2024年3月24日 東京新聞
◆在留カードのうっかり不携帯でも
在留期間や就労分野に制限がない永住者は、昨年6月末時点で約88万人。在留外国人の約27%を占める。永住許可を得るには原則、在留が10年以上、就労期間が5年以上に加え、納税を怠っていないなどの条件をクリアする必要がある。
現在でも1年を超す実刑を受けた場合、永住権を失うが、新たな制度では格段に厳しさが増す。法案によると「故意に税金や社会保障の支払いをしなかった」場合や、在留カードの不携帯など入管難民法違反の場合も対象になる。刑罰についても1年以下の懲役でも対象になり、執行猶予がついても除外されない。
駒井知会弁護士は「急病や失業で税や社会保障を払えなくなったケースでも、払う義務をあることを知っていれば法律的には『故意』とみなされる。うっかり在留カードを家に忘れることもありうる話で、相当厳しい法律になる」とみる。
◆命の危険につながるケースも
「うっかり」の結果の永住権剝奪が、命の危険につながる場合もあるとみられる。在日ミャンマー人でつくる労働組合委員長のミンスイさんは2004年に難民申請をしたが認められず、在留特別許可を経て11年前に永住権を得た。母国の軍事政権を非難するデモにも参加しているだけに「送還されたらどうなるか分からない」と言う。
東京都内で開かれた新たな在留資格取り消し制度に反対する当事者らの記者会見
東京都内で開かれた新たな在留資格取り消し制度に反対する当事者らの記者会見
永住者の在留資格の取り消し策は、政府が今国会で成立を目指す技能実習制度に代わる「育成就労」制度の導入や特定技能制度の職種拡大に伴い導入される。両制度を入り口に永住者が増えることが予想されるとし、自民党が永住権許可の「適正化」を求めたのだ。
そこには人手不足に対応する外国人労働者の受け入れを進めるものの、できるだけ永住はさせない、との自民党の思惑が浮かぶ。
岸田文雄首相は一連の制度改革で「日本を外国人から『選ばれる国』にする」という。だが、入管問題に詳しい指宿昭一弁護士は「苦労して永住権を得ても、いつもおびえて暮らさなければならないなら、日本はますます『選ばれない国』になる」と警告する。
自動運転バス、本格導入できる? 運転手不足で脚光、自治体で運行続々
2023年8月3日 北海道新
道内で自動運転バスを活用する動きが広がり始めています。人口減少に伴う利用者の減少や運転手不足で、「地域の足」として親しまれてきた路線バス網が縮小する中、各自治体が地域交通を守る切り札として注目しているためです。国も、より高度な運行に対応できるよう法改正を行い、拡大を目指しています。ただ、採算性や積雪対策など導入への障害は山積しています。自動運転バスが道内で日常化するにはどんな対策が必要なのか、課題を探りました。(経済部 桜井翼)
6月下旬から約3週間、石狩管内当別町は、全国で自動運転の実証運行を手がける「マクニカ」(横浜)と連携し、町内で自動運転バスを走らせました。
JR札沼線のロイズタウン駅から、駅近くにあるチョコレートメーカー「ロイズコンフェクト」社の工場への約700メートル。最高速度18キロで、片道約4分です。
バスはフランスの電気自動車(EV)「ナビヤ アルマ」。当別町では最大8人まで乗車可能としました。車内にハンドルやブレーキペダルはなく、オペレーターが車内に取り付けられたタッチパネルで車を操作します。緊急時は手動運転に切り替える、自動運転の「レベル2」で運行しました。
バスは、衛星利用測位システム(GPS)の位置情報からルートを把握し、車体に取り付けられたセンサーで、周囲の障害物や車、歩行者などを検知しながら走ります。実際に乗ってみると、加減速がとてもスムーズで安心感がありました。
町企画部事業推進課は「人口減少が進めば、路線バス網は縮小するかもしれない。将来、自動運転バスにかかる期待は大きい」としています。路線バスが大規模に減る事態には陥っていませんが、今後を見据えて、いち早く自動運転バスを運行するノウハウを蓄積したかったそうです。
自動運転バスが手動運転中に事故 踏切遮断機に接触、けが人なし 運行を一時中止し安全確認へ 横芝光町
2024年3月7日 千葉日報
横芝光町は7日、町内で2月から実証運行を続けている自動運転バスが手動運転でJR横芝駅近くの踏切を渡ろうとした際、遮断機と接触する事故が起きたと発表した。乗客はおらず、運転手にもけがはなかった。町は運行を一時中止し、運行の実務を担う複数の事業者と安全管理体制を再確認する。
町企画空港課によると、事故は7日午前8時55分ごろに発生。バスが運行ルート上にあるJR総武本線の踏切を手動運転で渡る際、踏切手前で一時停止したが、車体が一時停止線をわずかに越えており、降りてきた遮断機と車体の左先端部が接触した。電車の運行に支障はなかった。
町内を走る自動運転バスの事故は2月2日の運行開始後初めて。町は運行事業を総括するソフトバンク子会社「ボードリー」など複数の事業者と安全管理体制を確認して再発防止策を定めた後、運行を再開させる方針。
同町は残業規制強化で運転手が不足する「2024年問題」などを見据え、2月から横芝駅や町立東陽病院などを巡る自動運転バスを運行。踏切通過時など状況に応じて手動運転に切り替える「レベル2」で実施している。
2023年3月13日 NHK
東京のベンチャー企業が開発した小型ロケットの初号機が13日午前、和歌山県串本町にあるロケットの発射場から打ち上げられましたが、直後に何らかのトラブルが発生して機体に備えた装置が作動し、ロケットが爆発して打ち上げは失敗しました。
大手の精密機器メーカーや建設会社などが出資する東京のベンチャー企業「スペースワン」が和歌山県串本町に整備したロケット発射場で、13日午前11時すぎ独自開発した固体燃料式の小型ロケット「カイロス」の初号機が打ち上げられました。
情報収集の実証研究を行う政府の小型衛星を搭載していて、軌道への投入が成功すれば民間単独としては国内で初めてとなると注目されていました。
計画ではおよそ50分後に高度500キロで地球を回る軌道に衛星を投入する予定でしたが、ロケットはおよそ5秒間上昇した後に爆発し打ち上げは失敗しました。
「カイロス」には飛行の経路や内部の機器などの異常を検知して機体をみずから破壊する機能が備わっていて、今回、この装置が作動して飛行を中断する措置がとられたということです。
企業は対策本部を設置し、ロケットから送られたデータを分析するなどして詳しい原因を調べています。
《中略》
「カイロス」は、全長およそ18メートル、重さおよそ23トンの固体燃料式の小型ロケットです。
同じ固体燃料式の次期主力ロケット「イプシロンS」よりひとまわり小さく、運べる荷物の重さも4分の1程度ですが、その分コストを下げられる上、短期間で打ち上げることができるとしています。
燃焼を終えると順次切り離す4段式の機体には、これまで日本で運用されてきた固体燃料ロケットの技術が使われています。
《中略》
「スペースワン」は、世界的に市場の拡大が見込まれている小型衛星の打ち上げビジネスへの参入を目指し、2018年の7月に設立された東京のベンチャー企業です。
この企業には大手精密機器メーカーの「キヤノン電子」や、大手建設会社の清水建設など4社が出資し、国の固体燃料ロケットの開発の実績がある「IHIエアロスペース」のエンジニアの協力も得て、設立から6年で初の打ち上げにこぎ着けました。
目指すのは、ロケットで顧客の荷物を宇宙に運ぶ「宇宙宅配便」というサービスです。
《中略》
こうした企業戦略の背景には、商業衛星の打ち上げの需要が世界的に高まっていることがあります。
通信分野を中心に小型衛星などの人工衛星を1度に複数打ち上げて一体的に運用する「コンステレーション」と呼ばれるシステムに注目が集まっていて、次々に小型の衛星が打ち上げられています。
こうした小型衛星の打ち上げ需要の高まりを受け、アメリカや日本、中国、それに、ヨーロッパの国々では複数の民間企業が小型ロケットの開発を競い合っています。
「スペースワン」には今回の打ち上げを含めて3号機までの打ち上げの依頼がすでに入っているということで、今後、実績を重ねて国内外で新たな需要の開拓を進めることができるか注目されています。
生活を失いたくない…夫婦が子どもを持たないと決めた理由
不動産高騰のソウルでは出生率0.59に
2023年3月1日 東京新聞
「夫婦の愛情や生活を失いたくない。安定収入がない私たちが子どもを育てれば、経済的、時間的に余裕がなくなる」。崔は3年前、魏と話し合い、子どもを産まないと決めた。
韓国で近年「Double Income No Kids」(共働き子どもなし)を意味する「DINK(ディンク)族」が流行語になった。崔は、自らと同じDINK族の女性17人の声を集めた著書「ママにはならないことにしました」(2020年)が注目を集めた。
儒教の影響を受けた家父長制的な家族観や、育児は母親が担うべきだという考え方に、抵抗感を持つ女性が増えた。昇進や待遇で男性の同僚との差別を感じ、出産や育児休暇にともなう「キャリア断絶」を懸念する女性も多い。
◆賃貸住まいは持ち家より子どもが少ない
実際、21年の政府統計では、結婚5年以内の夫婦のうち子どもがいる割合は前年比1.3ポイント減の54.2%。住環境による格差もあり、賃貸住宅に住む夫婦のうち子どもがいるのは50.1%で、持ち家に住む夫婦と比べ9.8ポイント低かった。
韓国では国内総生産(GDP)の大半を占める大企業や、就職に有利とされる名門大学の多くがソウルに集中するため、地方からの若者の流入が続く。不動産価格が高騰し、昨年11月のソウル市内のマンション平均価格は12億ウォン(約1億2000万円)を超えた。韓国の平均賃金は日本とほぼ同水準。30代の子育て世代が親の資金援助なしに購入するのは容易ではない。
崔と魏は親からの支援を受けず、賃貸アパートで暮らす。韓国には結婚時に男性側が住宅を用意する慣習も残り、魏は「家が買えないから結婚をしない人も増えている」と話す。
◆「少子化は国を殺す」と言われても
韓国の22年の合計特殊出生率(女性1人が生涯で産むと見込まれる子どもの数)は0.78と過去最低だったが、ソウルは0.59でさらに低い。住宅や労働条件が厳しい大都市の住民ほど出産を控える様子がうかがえる。
韓国政府は00年代半ばから対策に280兆ウォンを投じたが、少子化は止まらない。与党「国民の力」の朱豪英チュホヨン院内代表は2月中旬、国会演説で「少子化は音もなく国を殺す”がん”だ」と対策強化を訴えた。
しかし崔は冷ややかだ。「将来的に国民年金を負担する労働力が必要となるから、子どもを産めという政策は人間扱いではない。少子化でも人々がいかに幸せに暮らせるかを考えるべきだ」と話す。その上で、男女、老人と若者、ソウルと地方、大企業と中小企業などの格差を挙げ、「これらを解消しないと、安心して子育てできる環境にはならない」と指摘する。(ソウル・相坂穣、写真も)=敬称略
若い男性が「男女格差の解消」に反発? 韓国総選挙は10日投開票、女性の候補はたった14%
2024年4月9日 東京新聞
韓国総選挙は10日、投開票される。今回、小選挙区には約700人が立候補したが、女性の占める割合は前回より5ポイント低い約14%でジェンダー平等を巡る議論も低調だ。背景には、歴史に根ざした男女格差の解消に向けた動きに反発する若い男性が増え、女性との対立が深刻化している実態がある。社会の分断や少子化の要因とも指摘されるが、保革二大政党は解決に消極的だ。(ソウル・上野実輝彦、写真も)
◆「男女平等」の取り組みは2000年ごろに本格化
儒教的思想の影響が強い韓国では、長く男性優位の社会が続いた。公務員採用で男女比の均衡を義務付けるなど、男女平等に向けた取り組みが本格化したのは2000年前後だ。
さらに、有力政治家の女性への性加害事件などを経て18年の「#Me Too」運動がうねりとなり、ジェンダー平等への意識が高まった。
とはいえ国会議員の女性割合はまだ19%。日本(16%)と同様に低い。さらに最近は、男性側が「逆差別」を主張し、女性の権利を否定する動きが強まる。
「女性の名前でオンラインコミュニティーに登録したとたん、男性器の写真が送られてきたり売春を持ちかけられたりした」。男性と共にフェミニズムを考える市民団体のメンバー金年雄(キムヨンウン)さん(28)は、根強い女性蔑視を実感した最近の体験を振り返った。
過激なサイトでは「キムチ女(男の金でぜいたくするのを当然と考える女)」「韓男虫(ハンナムチュン=韓国の男は虫けら)」など、男女が互いを罵倒する表現も飛び交う。
◆女性「まだ不十分」男性「地位が低下した」 双方に不満
韓国NPOの調査によると、ジェンダー対立が「深刻」と考える人は13年に29%だったが23年には53%に増え、10年間で最も激化した対立となった。
「過去より地位が向上したものの依然として不十分と考える女性側と、相対的に地位が低下したと受け止める男性側の双方が不満を高めている」と現状を分析するのは、淑明(スクミョン)女子大の洪誠秀(ホンソンス)教授だ。
特にフェミニズムを敵視する若い男性は「経済成長が止まり少子高齢化が進む中、就職や将来設計の不安の原因を女性重視の風潮に求めている」と指摘。誤った認識の解消に向け、政治家が未来の展望を示す必要があると訴える。
◆二大政党の公約は「あいまい」…
だが、総選挙で二大政党が掲げる公約は曖昧だ。保守系与党「国民の力」は、人口問題を担う部署を新設し「性別葛藤の緩和につなげる」と記述するのみ。革新系の最大野党「共に民主党」も「性平等担当部署の推進体制強化」「性平等民主主義の実現」など抽象的な表現にとどまる。
かつては「国民の力」代表が女性クオータ制(人数割当制)撤廃や女性家族省の廃止を主張し、対立をあおるような動きもあった。金さんは「両極化が激しい韓国政治では多様性が尊重されにくくなっている」と考える。
「二大政党には失望しかない」。金さんらとともに中高生や軍人のジェンダー教育に携わる李(イ)ハンさん(32)はため息をつく。ただ教育の現場では少しずつではあるが確実に、若者の意識の変化も感じるという。「分断を軽視したり利用したりする政治はいずれ滅びる」と期待を込めた。
文在寅氏、尹錫悦政権を罵倒「こんなにダメな政府は初めて見た」「本当に無知で無能だ」…韓国総選挙は左派最大野党が優勢
2024年4月9日 読売新聞
韓国総選挙(定数300)は10日、投開票される。 尹錫悦ユンソンニョル 政権の中間評価となるが、主要メディアは左派系最大野党「共に民主党」の優勢を伝えている。保守系与党「国民の力」は支持者に危機感を訴え、首都圏などの激戦区で巻き返しを図っている。
「今、犯罪者を止めなければ、私たちは本当に後悔するだろう」
両氏はいずれも、背任や子どもの不正入学などで裁判中の刑事被告人。尹政権を「検察独裁」と批判し、総選挙後の尹大統領の 弾劾だんがい 訴追を示唆するなど、過激な発言でも共通する。(●は「恵」の心の部分が「日」)
韓氏は8日、 仁川インチョン で、国民の力から出馬した 元喜龍ウォンヒリョン 前国土交通相の応援に駆けつけた。共に民主党の李代表の選挙区で、知名度の高い元氏が再選を阻む「刺客」として送り込まれた。
総選挙は小選挙区(254議席)、比例代表(46議席)で争われ、野党が優勢との予想が支配的だ。左派陣営が勢いづく中、国民の力の関係者は「保守系有権者が結集する動きがある」と分析する。支持者が多い60歳以上の投票率アップに期待しているようだ。
選挙結果は、無党派層が多く、122議席を占める首都圏(ソウル、仁川、京畿道)が勝敗を左右するとみられる。前回2020年4月の総選挙で、共に民主党は首都圏で103議席を獲得し、全体での勝利につなげた。
李氏は8日にソウルでの演説で、「国民を苦しめる政権に対して、主権者として責任を問うべきではないか」と支持を呼びかけた。
「70年生きてきて、こんなにダメな政府は初めて見た。本当に無知で無能だ」
左派の 文在寅ムンジェイン 前大統領は1日、 慶尚南道キョンサンナムド梁山ヤンサン の自宅近くで尹政権を罵倒した。釜山が地元の文氏は南東部の慶尚南道や釜山、蔚山に支持者がおり、共に民主党の候補らの応援に駆けつけている。この地域は伝統的に保守地盤だが、同党は引退した文氏まで乗り出し、切り崩しを狙う。
韓国総選挙、与党敗北108議席 野党は過半数獲得
2024年4月11日 日本経済新聞
韓国総選挙(一院制の国会議員選)は11日午前、開票作業が終了した。最大野党「共に民主党」は過半数を上回る議席を獲得し、少数与党「国民の力」は現有議席割れとなった。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の求心力低下は避けられず、対日関係改善を進めた推進力にブレーキがかかる可能性もある。
韓国総選挙は4年に1回で、5年に1回の大統領選とは別に実施される。今回の総選挙は3年の任期を残す尹大統領の「中間評価」との位置づけだが、野党側が選挙戦でアピールした「政権審判」に多くの有権者が賛同した。
韓国メディアによると、全300議席のうち、共に民主党は系列政党を含め、改選前の議席を増やし175議席を獲得。国民の力は系列政党も含めて108議席にとどまった。曺国(チョ・グク)元法相が率いる「祖国革新党」は12議席を獲得した。残る5議席を他の新党などが占めた。
選挙前の現有議席は、共に民主党が156議席、国民の力が114議席(ともに系列政党を含む)で、政権与党と国会の多数派がねじれている状態だ。
選挙結果を踏まえ、尹大統領は11日午前に「総選挙での国民の意思を謙虚に受け止め、国政を刷新する。経済と民生の安定のために最善を尽くす」と表明した。大統領室が伝えた。
国民の力の選挙戦を率いた韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長は同日、敗北の責任を取り辞任すると表明した。「すべての責任はひたすら私にある」と強調した。
これまで尹政権は日本との関係を重視し、元徴用工問題では解決策を推進してきた。日韓関係の改善は日米韓3カ国の安全保障協力を進める基盤になっているが、与党敗北で尹政権の対日政策にも影響が及ぶ可能性がある。
選挙戦では韓国の大学医学部の2000人定員増への対応や物価高対策などで逆風が吹き、与党にとっては厳しい戦いとなった。
共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は自らの当選を確実にした後、「有権者の選択は尹政権に対する審判だ。より良い世の中をつくってくれという責任を課されたと思う」と語った。
総選挙の投票率は67.0%(暫定値)で前回の2020年選挙より0.8ポイント上昇した。1990年代以降では92年総選挙の71.9%に次ぐ高さとなった。
子育て支援金の負担額、年収600万円なら月1000円 試算公表
2024年4月10日 毎日新聞
少子化対策拡充の財源として2026年度から徴収を始める「子ども・子育て支援金」について、こども家庭庁は9日、衆院の特別委員会の理事会で、会社員らが加入する被用者保険の年収別の負担額を示した。被用者保険の被保険者1人当たりの負担額について、政府はこれまで平均月額を800円と説明してきたが、年収600万円以上の場合、1000円以上となることが明らかになった。
支援金は医療保険料と併せて徴収する仕組みで、加入する公的医療保険制度や所得などに応じて1人当たりの負担額が異なる。同庁は3月末に医療保険ごとの平均月額を示していたが、今回は被用者保険の被保険者について年収別に示した。
対象となるのは、大企業の社員らが加入する健康保険組合▽中小企業従業員らの協会けんぽ▽公務員の共済組合。支援金を満額徴収する28年度に、年収200万円で350円▽同400万円で650円▽同600万円で1000円▽同800万円で1350円▽同1000万円で1650円――となる。ただ、同庁は「機械的に計算したもので、実際の金額とは異なる可能性もある」としている。
支援金をめぐっては、岸田文雄首相が「法案審議に間に合う形で(負担額を)示せるよう検討する」と説明し、3月に試算を公表。政府は、子どもなども含めた加入者1人当たりの月負担額を「平均450円」とする一方、所得別の負担額については「数年後の賃金水準額によることから一概には示せない」としてきた。野党側は審議の中で「詳細な試算を示さないと審議が深まらない」などと反発を強めていた。【塩田彩】
共同親権法案について
共同親権法案を委員会可決 来週にも衆院通過へ 「父母の真意確認」付則に追加
2024年4月12日 東京新聞
衆院法務委員会は12日、離婚後の共同親権を導入する民法改正案を、与党などの賛成多数で可決した。来週にも衆院を通過し、参院に送られる見通し。自民、公明、立憲民主、日本維新の会の4党の合意に基づき、親権の在り方を決める際、父母の力関係の差で不適切な合意とならないよう「真意を確認する措置を検討する」と付則に加えるなどの修正をした。
改正案は3月14日に衆院で審議入りした。家族関係の多様化に対応し、離婚後の単独親権を義務付ける規定を見直して共同親権を選べるようにする。父母が協議で折り合えない場合は家裁が判断し、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の恐れがあれば、どちらかの単独親権と定める。
修正は、DVなどを背景に、父母が対等な立場で話し合えない恐れがあるとの懸念を踏まえた。付則には、国が改正内容の周知に取り組むことや、施行5年後にさらなる見直しを検討する規定も盛り込んだ。(共同)
《参考》
1960年の1年間に父母が離婚した未成年の子どもは約7万人だったが、2021年は約18万人に増加した。
離婚後の「共同親権」導入 改正民法などが成立
2024年5月17日 NHK
離婚後も、父と母双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の導入を柱とした改正民法などが、参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。
改正民法などは、離婚後に父と母のどちらか一方が子どもの親権を持つ、今の「単独親権」に加え、父と母、双方に親権を認める「共同親権」を導入するとしています。
父母の協議によって共同親権か単独親権かを決め、合意できない場合は家庭裁判所が判断し、DV=ドメスティック・バイオレンスや、子どもへの虐待があると認めた場合は単独親権となります。
改正法の付則には、共同親権を選ぶ際に父母双方の真意によるものか、確認する措置を検討することなどが盛り込まれています。
改正法は17日の参議院本会議で採決が行われ、自民・公明両党や立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、教育無償化を実現する会などの賛成多数で可決・成立しました。
共産党や、れいわ新選組などは反対しました。
これに先立ち討論が行われ、採決で反対した共産党の山添拓氏は「最大の問題は、離婚する父母の合意がなくても裁判所が共同親権を定めうる点だ。審議では、与党も含め多くの議員から弊害を懸念する発言が相次いだ。国民的な合意なく押し切ることは断じて許されない」と述べました。
また、採決で賛成した立憲民主党の牧山ひろえ氏は「法案の内容や審議の進め方には大きな問題がある。子どもたちの笑顔を守るため、柔軟性を保ちつつ改善の意欲を持って関わり続けることが責務だ」と述べました。
改正法は、2年後の2026年までに施行されます。
離婚後の親権のあり方が見直されるのは、1947年に、原則、父親のみから、父母のどちらか一方が親権を持つと改正されて以来、77年ぶりです。
国は制度の運用に向けて、関係する府省庁の連絡会議を設け、具体的な体制整備などを検討していくことにしています。
《林官房長官「子の利益確保につながるもの」》
林官房長官は午後の記者会見で「父母が離婚後も適切な形で子の養育に関わり、責任を果たすことは重要で、改正法は離婚に直面する子の利益の確保につながるものだ。父母の双方を親権者とすると子の利益を害すると認められる時は、裁判所が必ず単独親権と定めなければならないとするなど、DVなどにも配慮したものとなっており、今後、国民に不安が広がることなく内容が正しく理解されるよう丁寧に周知していく」と述べました。
《賛成派「家庭裁判所の体制の整備なども進める必要」》
導入に賛成の立場を取る「親子の面会交流を実現する全国ネットワーク」代表の武田典久さんは、「長い間待ちわびた改正案の成立が与野党の賛成多数でなされたことは前進だ。夫婦の関係がうまくいかなかったとしても親子が別れることがなくなる」と話しました。
今後については、共同親権でも片方の親だけで決めることができるケースなどがまだ具体的に定まっていないとして「法律施行までの2年が大切な期間になる。子どもの利益を守るという立法の趣旨を実現するために具体的に検討を進め、家庭裁判所の体制の整備なども進める必要がある」と話していました。
《反対派「子どもの利益にならないと非常に懸念」》
導入に反対の立場を取る「『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会」の代表世話人で和光大学の熊上崇教授は、「離婚後に共同親権になると、子どもは常に双方の親の合意を得られるか心配し、縛られることになる。子どもの利益にならないと非常に懸念している」と述べました。
今後について「裁判所の運用が重要になる。子どもの希望をかなえることを優先し、親権でもめているケースで共同親権を促してはならない。無理やり共同親権にすると子どもが大人になるまで親の間で紛争が続く。話し合いが難しい場合はきぜんと単独親権にしなければならない」と訴えました。
茨城交通、路線バスを9%減便 4月1日から
2024年3月5日 日本経済新聞
茨城交通(水戸市)は4月1日から、茨城県北や県央で運行する路線バスを1週間あたり1902便(約9.3%)減便する。減便は水戸市やひたちなか市、日立市など12市町村を走る路線が対象。輸送人員の減少や原油高が経営を圧迫するなか、運転手不足で現状の運行ダイヤ維持が厳しく、2023年秋に続く減便に踏み切る。
4月以降は現行の運行本数に比べ、平日が8.5%(282便)減の3044便、土曜は12.3%(245便)減の1740便、日・祝日は13.3%(247便)減の1616便となる。1週間当たりでは、現行の2万478便から1902便減らし、9.3%減の1万8576便となる。
同社の路線バス事業は昨年から運転手不足などを背景に減便が相次ぐ。23年9月に日立市と常陸太田市の路線バスを約1割減らし、同年10月にも水戸市などで約5.5%減便した。同社は「バス運転手の確保及び育成に向けて一層努力する」とコメントしている。
(参考)茨城新聞クロスアイ
茨城交通(茨城県水戸市)は、4月1日から路線バスを9.3%減便すると発表した。対象は水戸をはじめ12市町村を運行する路線の一部。運転士不足に加え、残業規制が強化される「2024年問題」への対応などが理由。減便に伴いダイヤ改正も実施する。
同社によると、対象になるのは水戸、ひたちなか、東海、大洗、城里、笠間、茨城、日立、高萩、常陸太田、常陸大宮、大子の12市町村を走る路線の一部。利用者が少ない路線を中心に減らし、朝夕のピーク時などの本数は維持するという。
同社の運転士は、新型コロナウイルス感染拡大前と比べ、約15%減少している。減便は昨年9、10月にも実施した。担当者は「運転士の確保や育成に向けて努力している。不便をかけない配慮はしているが、やむなく減便することを理解してほしい」と話した。
荷主の「買いたたき」、公取委が迅速に取り締まり…「2024年問題」を受け下請法改正へ
2024年5月22日 読売新聞
トラック運転手の不足で輸送力の低下が懸念される物流の「2024年問題」を受け、公正取引委員会が下請法改正に乗り出すことがわかった。荷主と運送事業者の取引は現在、下請法の対象外だが、同法を適用できるようにする。運送事業者に支払う運賃を著しく低い水準に抑える「買いたたき」を行う荷主を下請法で迅速に取り締まれるようにすることで、運送事業者がコスト上昇分を取引価格に転嫁しやすくする。
自民党中小企業・小規模事業者政策調査会などが近く政府に対し、法改正を提言する。政府は6月に策定する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に盛り込む方針で、来年の通常国会での改正を視野に入れている。
荷主と運送事業者では、仕事を発注する荷主の立場が強いことが多いものの、下請法では明確な下請け関係にないとされている。例えば、消費者が家電を買う場合、荷主となる家電量販店は運送事業者を手配して消費者の自宅に有料で商品を配送するが、下請法では、荷主は消費者と運送事業者の取引を「仲介」しているだけで、下請け関係とはみなされない。
企業が取引先の部品メーカーから部品を買う場合も同様だ。荷主となる部品メーカーが運送事業者を手配して企業に部品を届ける取引は、下請法の適用外となる。
政府は、荷主と運送事業者の取引が下請け関係にあるとみなせるように法改正することで、公取委が荷主による買いたたきなどを積極的に取り締まれるようにする。運送事業者がコストの増加分を取引価格に転嫁し、賃上げの原資が確保できる環境を整えることで、物流業界が直面する運転手の人手不足の解消につなげる狙いもある。
中小企業庁の調査によると、コスト増に対する取引価格への転嫁率は、「トラック運送」が24%と主要業種中で最も低かった。人件費やガソリン価格の上昇分について荷主が取引価格への反映を拒む例や、荷主の都合で積み下ろし場所で運転手が待機する「荷待ち時間」の料金支払いを拒む例があるという。
全国のトラック運送業者 57%が赤字 業界団体が経営状況を分
2024年4月8日 NHK
全国のトラック運送業者でつくる団体が会員の事業者の経営状況を分析した結果、57%が赤字となっていることがわかりました。物流の「2024年問題」への対応が課題となる中、業界団体は小規模な事業者ほど慢性的な赤字となっているケースが多いと分析しています。
これはトラック運送業者およそ5万社でつくる「全日本トラック協会」が行い、2022年度の決算として報告された会員の2558社の経営状況を分析しました。
それによりますと運送事業が赤字となった事業者は57%となり、半数を超える事業者で赤字となっています。
また、売り上げに対する営業損益の割合を示す「営業損益率」をトラックの保有台数別でみると
▽101台以上では平均でプラス1.7%と黒字だったのに対し
▽11台から20台は平均でマイナス1.2%と6年連続の赤字
▽10台以下は平均でマイナス3.6%と26年連続の赤字でした。
団体によりますと、トラックの保有台数が20台以下の事業者は業界全体の4分の3を占めていて、小規模な事業者ほど燃料費などのコストが上昇しても運賃などへの価格転嫁が難しく慢性的な赤字となっているケースが多いと分析しています。
物流業界ではトラックドライバーの時間外労働の上限規制などの適用が今月から始まり、輸送量の減少が懸念される「2024年問題」への対応が課題となっています。
2024年7月5日 東京新聞
ネット通販大手アマゾンの商品を配送する運送会社が個人事業主の配達員に対し、労働時間を短く見せかけるため、別人のIDを使わせて働かせていたことが分かった。IDは労働時間の管理に使われ、アマゾンが定める上限を超えそうになると、運送会社が別人のIDを使わせて上限をすり抜けており、配達員の長時間労働につながっていた恐れがある。約2年前にも同様の問題が発覚しており、配達員の「なりすまし」が常態化していた可能性もある。(大島宏一郎)
「労働時間の偽装が横行している」。東京都内にあるアマゾンの配送拠点で年初まで倉庫管理業に従事した男性(42)が、東京新聞「ニュースあなた発」に情報を寄せた。男性は、配達員から終業時間や配達個数の報告を受けるなど勤務管理に携わり、配達員の稼働時間や下請けの指示内容を知る立場にあった。
アマゾンの配送拠点で倉庫管理業に携わった男性
アマゾンは、独自の基準で週の労働時間が60時間を超えないように定める。男性によると、配達員はアマゾンの専用アプリを使って働き、労働時間はアプリのログイン時に必要なIDで管理される。働く時間が週60時間を超えそうになると、2次下請けの責任者が別人のIDでログインするように指示したという。
なぜ他人のIDを使わせるのか。男性は「荷物量の多さ」を理由に挙げ「セール期間など繁忙期になると人手が足りなくなる」と証言。荷物を運べなくなる未配を防ごうと「下請けの社員が走れるドライバーに対し、稼働時間が60時間に達していない『ダミーID』の使用を指示して配達させた」という。
2次下請けは、取材に「お答えは控えさせていただきたい」とメールで回答した。
同様の証言は別の地域でも上がる。2022年夏までの2年間、横浜市内でアマゾンの荷物を配達した60代男性は「他人のIDで別人に成り代わって働いたことがある」と話す。
1日の荷物量は200個超。早いときは朝6時30分から荷物を積み始め、遅いときは夜9時過ぎまで配達した。労働時間は1日12時間を超え、週後半に上限の60時間に近づくと、契約先の1次下請けの事務員が別人のIDを使うよう促したという。男性は「辞めた人のIDも使っていた。(現場では)週60時間を超えないように他人のIDが使い回された」と振り返る。
法政大学の沼田雅之教授は「(週60時間の)労働時間の上限は生命・健康を守るためにあり、それを超えて働かせるのは問題だ」と強調。個人事業主に労働時間の法規制が適用されない状況にも言及し、「ものすごい量の荷物が発注されれば、自由度の高い(個人事業主の)働かせ方とは言えず、アプリで業務を指示されるなど拘束性も高い。『労働者』として保護すべきだ」と指摘する。
「再びトランプ」でも「トヨタのやるべきことは変わらない」 激戦州に電池工場、アメリカ経済に貢献
2024年4月16日 東京新聞
岸田文雄首相は、訪米に合わせてトヨタ自動車が南部ノースカロライナ州で建設中の車載用電池工場を視察した。工場はトヨタにとって北米初の電池生産拠点。2025年から電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)向けに量産を始め、現地生産に乗り出すEVにも搭載する。累積投資額は計139億ドル(約2兆1200億円)に上り、5000人以上の雇用を見込む。(米ノースカロライナ州リバティーで、鈴木龍司)
◆過去には多額の「国境税」要求
米国でEVの販売競争を勝ち抜くには現地化が不可欠だ。22年成立のインフレ抑制法は、北米での車両や電池の生産などを条件として、EV購入者に最大7500ドル(約114万円)を補助すると定める。EVブームの陰りも指摘されるが、バイデン政権が続く限り、こうした政策への対応を求められる。
一方、「米国第一主義」を掲げて返り咲きを狙うトランプ前大統領は、EVが米自動車産業を「殺す」と訴える。大統領就任直前の17年1月には、旧ツイッター(現X)でトヨタのメキシコ新工場建設について「工場を米国内に建設しないなら多額の国境税(関税)を支払え」と要求。トヨタは工場建設計画を変更しなかったものの、米国に5年間で総額100億ドルを投資する計画を打ち出すなど対応を迫られた。
◆累積投資7兆円、地域の人材育成も
社内では、米国市場が政治に翻弄(ほんろう)される状況を「今に始まったことではない」(同社幹部)と冷静に受け止める。貿易摩擦でジャパンバッシングが吹き荒れた1980年代半ば以降、トヨタは一貫して現地生産を強化。米国での累計総投資額は457億ドル(約6兆9900億円)と群を抜き、4万9000人の雇用を支える。度重なる急激な環境規制の変更にも対応してきた。
また電池工場を新設するノースカロライナ州では、地域の理系人材育成を支援するため、200万ドル(約3億600万円)の寄付も打ち出した。同州は大統領選の結果を左右する激戦州だが、あるトヨタ関係者は「どちらが勝てば100%有利、不利という話ではない。やるべきことは変わらない」と語った。
公取、グーグルに初の行政処分へ 改善計画を認定する方針
2024年4月16日 東京新聞
米グーグルがLINEヤフーの「検索連動型広告」事業の一部を制限したとされる問題で、公正取引委員会がグーグルによる改善計画を認定する方針を固めたことが16日、関係者への取材で分かった。計画の認定は行政処分の一つで、グーグルに履行義務が生じる。公取委は検索システムなどでも寡占状態が進んでいるとして、グーグルへの監視を強化。同社に対する初の行政処分となる。
公取委は今回、課徴金納付命令や排除措置命令といった重い処分は見送る。グーグルが再発防止のためまとめた改善計画に実効性があり、きちんと履行されれば市場の競争が確保されると判断したとみられる。認定後、計画を公表する方針。
関係者によると、ヤフーは2010年からグーグルと提携し、スマートフォンなどのポータルサイトに検索連動型広告を配信していたが、10年代半ばになると、広告提供をやめるようグーグルに要求された。
ヤフーはグーグルから広告配信技術の提供を受けていた。グーグルの検索エンジンが使えなくなる恐れもあったため、要求を受け入れたとみられる。
公取委、米グーグルに初の行政処分へ…ヤフーに広告制限で独禁法違反疑い
2024年4月16日 読売新聞
公正取引委員会が独占禁止法に基づき、米グーグルに行政処分を出す方針を固めた。ヤフー(現・LINEヤフー)にデジタル広告配信事業の一部を制限するよう要請した疑いがあり、同法違反容疑で調査していた。公取委によるグーグルへの行政処分は初めて。
問題になったのは、インターネットで検索した語句に関連した広告をサイト上に表示する「検索連動型広告」。関係者によると、グーグルは2010年代半ば、ヤフーに対し、取引先のポータルサイトにスマートフォン用の広告を配信しないよう求めた。ヤフーは配信を取りやめたという。
検索連動型広告の国内市場でグーグルのシェア(市場占有率)は7~8割に達し、技術力も他社を圧倒している。ヤフーは10年にグーグルとの提携を発表。グーグルから検索エンジンや同広告に関する技術を提供されており、これらを使えなくなることを懸念して要請に従ったとみられる。
公取委は22年に調査を開始。今年3月、独禁法の確約手続きに基づき、グーグルに違反容疑を通知した。グーグルは既に要請を撤回していたものの、今月、再発防止策をまとめた改善計画を提出したという。
確約手続きは行政処分で、計画の内容が市場を正常化させるのに十分だと公取委が判断すれば、違反認定はされず、排除措置命令や課徴金納付命令も受けない。
グーグルは16日、「独禁法違反の認定がないよう確約手続きを申請し、公取委からの認定を待っている」とコメント。LINEヤフーは取材に「詳細を確認中のため、回答は差し控える」とした。
「休眠基金」やはりムダだった 政府やっと11件廃止…5466億円が戻ってくるが「18基金は存続」
2024年4月23日 東京新聞
税金などを原資に中長期的な政策の推進に充てる国の基金のうち、本来業務の補助金交付などを行わず支出が管理費だけの「休眠基金」が多数存在する問題で、政府は11の休眠基金を2024年度末までに廃止する。22日のデジタル行財政改革会議で報告した。休眠基金を含む22年度末の基金全体の残高は約16兆6000億円にまで膨らんでいる。このうち5466億円を不要額として国庫返納させる。過大な国費を基金に投じてきたことが裏付けられた。
◆事業が終了しているのに管理費だけ支出
休眠基金を巡っては、補助金や損失補てん金の交付といった事業が終了しているのに、長期にわたり人件費などの管理費のみ支出し続ける基金が21年度に27あったことを本紙が昨年報じた。管理費は21年度に12億円超、22年度は約6億円に上り、識者らが「役目を終えた基金は清算すべきだ」と問題視し、国会でも野党が追及していた。
政府は23年12月、全ての基金の点検や見直しに着手。休眠基金は22年度末で29あり、23年度中に3基金が閉鎖され、8基金も本年度末までに解消し、残高を国庫返納させる。残り18の休眠基金は存続させる。
◆9基金は経産省が設立
廃止の11基金のうち、9基金は経済産業省が設立。同省所管の「円高・エネルギー制約対策のための先端設備等投資促進事業基金」は新設備を導入した事業者への補助金の支払いを16年度に終了。事業の効果分析を行う費用などの名目で管理費支出を続けていた。
存続する18基金について、政府の行政改革推進会議の担当者は「事業費の支出がまだ始まっていないものや、損失補てんのための基金でたまたま損失が出ず、管理費率が100%になったものだ」と説明する。
◆134基金には成果目標の設定なし
同会議が最新の全200基金を点検した結果、23年度に計約4342億円、本年度は計約1124億円が支出の見込みがないとして国庫に返納させる。新型コロナ対策の関連基金で過大な予算投入が目立った。
また、成果目標が設定されていない基金が134に上ったことから、今後は全ての基金に成果を検証できる目標を設けさせる。(山口哲人)
SNSで反戦を訴えたら逮捕された…高校教師を襲った出来事とイスラエル国内に漂う「空気」の異様さ
2024年4月23日 東京新聞
イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘が始まってから半年超。ハマスの奇襲を受けた際に世界からイスラエルに寄せられた連帯の声は、パレスチナ自治区ガザでの民間人犠牲者が増えるにつれて小さくなった。孤立を深めるイスラエルの国内では、ガザへの侵攻に対する批判を抑え込む動きも見られる。交流サイト(SNS)で戦闘中止を訴えて逮捕されたイスラエルの男性に、オンラインで話を聞いた。(福田真悟)
◆「この狂気を止めるんだ」 そしてクビになった
「これは明らかな『魔女狩り』だ」。エルサレム在住の公立高校教師メイール・バルヒンさん(62)は2023年10月以降、自らを襲った出来事を、そう振り返った。
イスラエル軍のガザ空爆が始まった直後。犠牲になった子どもらの写真とともに「この狂気を止めるんだ」とSNSに投稿したところ、内容を問題視した教育当局に呼び出され、解雇された。
翌11月には、反逆罪の疑いなどで警察に逮捕され、独房に4日間拘束された。長年、SNSで自国によるパレスチナの軍事占領を批判してきたが「こんな事態は初めてだった」。
起訴はされず、後に解雇は無効との司法判断が下った。「SNSへの投稿だけで立件できるなどとは当局も思っていなかったはず。国を批判すればこういう目に遭うと周りに知らせるのが狙いでは」と語る。
◆復職したが生徒から「家族を殺す」と言われ
実際、多くの教師は「あなたの思いに賛同する」とのメッセージを寄せつつ、公には沈黙を貫いた。「職を失うのを恐れ、声を上げられなかったのだろう」
今年1月に復職した際、バルヒンさんは投稿に反発する生徒らに囲まれた。「後ろからたたかれ『家族を殺すぞ』などと罵声を浴びせられた」。危険を避けるため、授業はリモートにせざるを得なかった。
激しい反発の背景には、軍への批判をタブー視する風潮もあると考える。「建国以来、戦争状態が続いている。兵役があるイスラエルでは、軍の存在は国民にとって大事なアイデンティティー(存在証明)。国防を担う英雄との教育が浸透している」
イスラエル国内ではガザの人道状況を懸念する声が少ない。一因に「国内の主要メディアが現地の惨状を全く伝えないこと」を挙げる。バルヒンさんは、再び弾圧される恐れはあるものの、今後も民間人の被害などをSNSで発信するつもりだ。「平和が訪れるよう、希望を捨てずに戦争の現実を多くの人に伝えたい」
◆ガザ侵攻批判への猛バッシング…背景に何が
ガザ侵攻への批判を抑え込む動きがイスラエル国内に見られる背景には、ハマスによる多数の市民の殺害に対する怒りや恐怖感が引き起こした国民感情のかつてない「過激化」があるようだ。
元イスラエル兵で埼玉県在住のダニー・ネフセタイさん(67)=埼玉県皆野町=は昨年、自らのSNSでガザ侵攻を批判。直後にヘブライ語で「ナチスに密告したユダヤ人と同じだ」などと、これまでにない激しい非難が寄せられた。
「紛争解決には『対話しかない』と言っていた知人の中に『武力行使も仕方ない』と考えを変えた人もいる。約1200人が亡くなった(ハマスの奇襲の)衝撃がそれだけ大きかった」
最近は、イスラエル国内でも政府を批判するデモが頻発。だが、先月末のデモに参加したバルヒンさんは「あくまでもネタニヤフ首相個人の批判が目的の人がほとんど。ガザ侵攻そのものに反対する声は少ない」と話す。
ガザでの民間人のさらなる被害拡大への歯止めに鍵を握るのが、イスラエル最大の支援国、米国の動向。バルヒンさんは「バイデン大統領は再選のため、侵攻に批判的な世論を考慮せざるを得ないだろう」との見方を示した。
減少する街の書店、どう救う? 経産省が専門チーム発足 フランスでは「反アマゾン法」も… 23日は本を贈り合う日
2024年4月24日 東京新聞
4月23日は、親しい人に本を贈る「サン・ジョルディの日」とされています。
ただ、ネット通販や電子書籍の普及などにより、全国で街の本屋さんは次々と姿を消しています。
同じ悩みを抱えるフランスでは、ネットの書籍販売について送料無料を規制する「反アマゾン法」が導入されています。日本でも、経済産業省が書店を支援するプロジェクトチームを発足しました。
街の本屋さんをいかにして救うか。経産省の狙いや書店の実情を取材しました。(デジタル編集部・小寺香菜子)
◆斎藤経産相が書店経営者と議論
17日、斎藤健経産相は、東京都港区の書店を訪れ、書店経営者ら6人と意見交換した。書店プロジェクトチームの取り組みの一環だ。
意見交換で、斎藤経産相はこう語った。
「やはりウェブと図書館と本屋、この3つが持ち味を生かしながら共存する、これがあるべき姿ではないかなと思っている」「この3つの中で、どうも本屋さんは割を食っているケースが多い」
◆書店数は減っている
実際に、この10年で全国から4600余りの書店が姿を消している。
日本出版インフラセンターによると、2024年3月時点の全国の書店数は1万918店で10年前の1万5602店から約3分の2になったという。
書店ゼロの街も増えている。出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によれば、24年3月時点で、全国の「書店ゼロ」の市町村は27.7%に上る。
◆「文化創造の基盤」
経産省は今年3月、書店を支援しようとプロジェクトチームを発足した。
斎藤経産相は、3月の定例会見で、「創造性が育まれる文化創造基盤として重要だ。街中にある書店は、多様なコンテンツに触れることができる場として、地域に親しまれている」「書店に出かけることによって、新しい発見があって、視野も広がる。まさに日本人の教養を高める、一つの基盤だと思っている」と、書店の存在意義について力説してみせた。
その上で、「リアルなコンテンツとして非常に重要なものが日本列島上からどんどんなくなっていくと、いかがなものかという思いがもともとあった」と、プロジェクトチームをつくった理由を明かした。
経産省の担当者も「子供からお年寄りまで様々な地域コミュニティの方が気軽にコンテンツに入れることができる場所。書店の機能は、将来の文化産業を考える上でもすごく重要」と話す。
◆議連「不公平な競争にさらされている」
自民党内には、書店振興を考える「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)という議連があり、これまでも書店支援を訴えてきた。
書店議連は2023年春に提言書をとりまとめて、政府に要望していた。斎藤経産相は書店議連の幹事長でもある。
議連の提言書は、「ネット書店による送料無料化や過剰なポイント付与という実質値引き等により、書店は不公正な競争環境にさらされている」と指摘。書店減少の背景に、ネット通販の影響を挙げていた。
◆書籍のネット販売10年で2倍
実際、書籍のネット通販は近年、広がっている。
日販ストアソリューション課「出版物販売額の実態 2023」によると、ネットによる出版物販売額は22年度2872億円で、12年度の1446億円から2倍に増えた。一方で、書店の販売額は22年度8157億円。12年度の1兆3607万円から6割にまで落ち込んだ。
日本書店商業組合連合会が2015年に実施し、1193の書店から回答を得た調査では、経営状態が「非常に悪くなった」との回答が31.2%。「悪くなった」(36.1%)、「やや悪くなった」(17.9%)と合わせると、85.2%を占めていた。
経営悪化の原因について、複数回答で「客数・客単価の減少」(67.5%)、「雑誌の低迷」(56.8%)、に続いて、ネット書店(35.7%)を挙げる声が多かった。「アマゾンに太刀打ちできない」「アマゾンに規制をかける運動に取り組んでもらいたい」という意見も寄せられた。
◆フランスは「反アマゾン法」で規制
ネットの書籍販売による影響は、日本だけに限ったことではない。
フランスでは「書店がなくなるということは文化の危機だ」として、すでにネットの書籍販売の規制に乗り出している。
文化の保護を目的に、フランスは2014年、書籍のネット通販について送料無料のサービスを禁じる法律をつくった。フランスで書籍のネット通販の大半が、米ネット販売大手「アマゾン」だったことから「反アマゾン法」と呼ばれている。
当時のフランス文化・通信相は、反アマゾン法の意義について「わが国が持つ本に対する深い愛着を示した」と語っている。
反アマゾン法について調査したことのある京都大の曽我部真裕教授(憲法・情報法)によると、法施行前に、フランスで2つの大手書店が相次いで破綻。ネットの書籍販売が送料無料サービスを提供していることで、他の書店との間で競争条件の不平等を引き起こしているとの非難が高まっていたという。
◆「反アマゾン法」日本では?
書店議連は、提言書の中でフランスの「反アマゾン法」の検討も呼び掛けている。
その斎藤経産相は、3月の会見で、反アマゾン法を含めた海外の事例について「研究する価値はある」と前向きな姿勢を見せていた。
公正取引委員会も、書店議連の提言を受け、ネット書店による送料無料について、書店や出版業界にヒアリングを始めている。今後はネット書店の事業者にもヒアリングを行い、実態把握に努めるという。
ただし、曽我部教授によると、フランスでも反アマゾン法の効果は不透明だという。
フランスでは反アマゾン法ができると、ネット書店側は送料を0.01ユーロ(約1.5円)と無料すれすれの金額に設定した。そのため、フランスはさらに規制を強化。23年10月からは購入額が35ユーロ(約5700円)未満の場合、少なくとも送料が3ユーロ(500円弱)かかるようになったという。
曽我部教授は「ネット書店の送料無料規制により、既存の書店の売り上げが戻るかは不確かだ。規制すれば、消費者の利便性を害することにもなり、丁寧な検討が必要だ」と話している。
◆書店の期待は…
書店はプロジェクトチーム設置をどう受け止めているのか。
東京都調布市の「真光書店」(改装中)社長で、都書店商業組合理事長の矢幡秀治さんは「本屋がなくなっていく現状に目を向けて、わざわざチームを作ってくれたことは非常に歓迎しています」と話す。
真光書店は、漫画家・水木しげるさんも通った街の書店として地元に親しまれてきたが、売り上げ減少を受け、改装終了後に店舗面積を縮小する予定。矢幡社長は「本が定価でも送料が無料なら、実質値引きしているように捉えられてしまう。ネット書店が売り上げに影響しているのは間違いない」と話す。ネットで情報が手に入るようになったことで、雑誌などが売れなくなった影響も指摘する。
矢幡社長は「経産省には、しっかり現状を把握していただきたい。その結果として、行動に移してもらいたい」と訴える。
性的関係にまで踏み込むのか…政府による「身辺調査」 経済安保法案 プライバシー不安が民間企業に広がる
2024年4月24日 東京新聞
経済安全保障上の機密情報の管理を厳格化する「重要経済安保情報保護法案」では、特定秘密保護法と同様に、セキュリティー・クリアランス(適性評価)で認定された人だけが情報を取り扱えるようになる。その際に、家族の国籍や飲酒の節度、経済状況といった身辺調査が行われるが、政府がどの程度調べるのか不明のまま。プライバシー侵害の懸念は残り、対象となり得る民間企業は抵抗感を隠さない。(近藤統義)
◆「性的関係を契機に漏えい働きかけなら対象」
社民党の福島瑞穂氏は23日の参院内閣委員会で、身辺調査に関して「性的動向まで調査できるのはプライバシーを侵害する」と指摘。性的関係を利用して情報漏えいを働きかける「ハニートラップ」の疑いを調べるのかをただした。
福島氏が曖昧な答弁を繰り返す政府側を何度も追及したのは、高市早苗経済安保担当相が17日の参院本会議で「性的関係を契機に漏えいの働きかけを指したものなら調査の対象だ」と明言したためだ。政府側はハニートラップの疑いが認められれば「適性評価で考慮される事実になる場合がある」との認識を繰り返すにとどめた。
◆「公安庁調査庁も監視?」否定せず
法案によると、本人の同意を得た上で内閣府の職員が身辺調査するが、その際、家族や同居人の名前、生年月日、国籍も調べる。立憲民主党の石垣のり子氏は破壊活動や大量殺人団体を調査対象とする公安調査庁に「経済安保上問題がある人物も監視するのか」と聞いたが、同庁の担当者は否定せずに「個別の調査対象や具体的な内容に関する事項は、業務遂行に支障を来す」と回答を拒んだ。
法案上、調査の詳細は成立後に政府が運用基準で決めるため、現段階では不明。作成の際に参照にするのが、特定秘密保護法で行われている身辺調査だ。
◆質問票30ページ、家賃の滞納歴も
特定秘密保護法の質問票は約30ページで、本人が記載する。回答欄には、家族関係のほか、テロ団体支援や外国人からの仕事の誘いの有無、精神疾患のカウンセリング歴や症状、借金の理由や総額、家賃の滞納歴まである。家族は配偶者や子、父母や兄弟姉妹、配偶者の父母や子に及び、過去の国籍取得歴も尋ねる。
特定秘密を扱える資格保有者約13万人の9割以上は公務員だ。調査を受けた経験がある中央官僚は「資格がなければ働ける部署が限られる。受けるのが当然という感覚で、強制のようなものだ」と強調。別の省庁関係者も「不愉快なほどプライバシーについて聞かれる」と明かす。
◆「社員に細かく申告させるのは抵抗が…」
今回の法案で調査対象は民間企業の従業員に大幅に広がると見込まれる。経済界には他国の政府調達や国際共同研究開発に参加しやすくなるとの期待感に、不安や戸惑いが入り交じる。
航空・宇宙産業に電子部品を納める中小企業の幹部は、機密情報の管理を徹底しているとした上で「従業員に個人情報を細かく申告させるのは心理的に抵抗がある。自由な経済社会で、民間人を縛るような制度に効果があるのか分からない」と疑念を募らせる。
佐賀 玄海町議会「核のごみ」処分地 文献調査の請願を正式採択
佐賀 玄海町議会「核のごみ」処分地 文献調査の請願を正式採択
2024年4月26日 NHK
原子力発電で出るいわゆる「核のごみ」の処分地選定をめぐって、佐賀県の玄海町議会は第1段階にあたる「文献調査」の受け入れを求める請願を26日に開いた本会議で正式に採択しました。これを受けて玄海町の脇山町長は来月中に調査を受け入れるかどうか態度を明らかにする考えを示しました。
原子力発電に伴って出る高レベル放射性廃棄物いわゆる「核のごみ」は長期間強い放射線を出し続けることから、地下300メートルより深くに埋めて最終処分を行うことが法律で決まっています。
処分地の選定に向けた調査は3段階で行われ、第1段階の「文献調査」では最大20億円の交付金が支払われます。
佐賀県の玄海町議会には町内の旅館組合と飲食業組合、それに防災対策協議会の3団体から「文献調査」への応募を町に働きかけるよう求める請願が提出され、町議会は25日、全議員が参加する特別委員会で賛成多数で可決しました。
26日は午前10時から本会議が開かれ、この中で調査の受け入れに反対する議員は「審議が尽くされたとは到底思えない。住民に広く知ってもらった上で採決に臨むべきだ」と述べました。
一方、賛成の議員は「現に自分たちの自治体には高レベル放射性廃棄物があり、日本全体でどうにかしなければならない問題だ」と述べました。
このあと採決が行われ賛成6人、反対3人の賛成多数で請願は正式に採択されました。
玄海町には九州電力の玄海原発が立地していますが、原発が立地する自治体の議会で「文献調査」の受け入れを求める請願が採択されるのは初めてです。
調査を受け入れるかどうかは町長が最終的に判断をすることになっていて、玄海町の脇山町長は本会議のあと「熟慮する時間が必要だが、あまり引き延ばしてはいけない」と述べ、大型連休が明けて以降の来月中に態度を明らかにする考えを示しました。
米TikTok「禁止」法成立 バイデン氏陣営はアプリ使用継続
2024年4月26日 毎日新聞
バイデン米大統領は24日、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国IT大手に米国事業を360日以内に売却するよう求める法案に署名し、法律が成立した。期限までに売却に応じなければ、アプリ配信が禁止される。しかし、バイデン氏の陣営は11月の大統領選に向けてアプリを使った選挙運動を続ける方針だと報じられており、矛盾が指摘されている。
今回の法律は、米国の世論誘導や中国政府による情報収集に悪用される懸念から、連邦議会主導で制定された。米国内では若者を中心に約1億7000万人がTikTokを利用しているとされる。利用禁止につながる法律は「表現の自由の侵害だ」との反発が出ていたが、バイデン氏は拒否権を行使しなかった。
しかし、NBCニュースによると、バイデン氏の陣営関係者は「メディアが多様化する状況で、我々は自分から出て行って、有権者に接触する必要がある。TikTokは有権者にコンテンツを確実に見てもらえるメディアの一つだ」と説明。中国企業の運営下でも使用を続ける考えを示し、24日も新しい動画を投稿した。
TikTok側は24日の声明で「法律は違憲であり、法廷で争う」と述べた。中国政府が売却を認めない可能性や、別のIT大手が買収すれば独占禁止法に抵触する恐れも指摘されている。ホワイトハウスのジャンピエール報道官は24日の記者会見で「我々は利用禁止ではなく、事業売却を求めている。中国政府も売却を認めるべきだ」と述べた。【ワシントン秋山信一】
「究極のバリアフリー」江戸川区のメタバース区役所、6月にも一部運用開始へ プロジェクトチーム発足
2024年4月27日 東京新聞
インターネット上の仮想空間「メタバース」に区役所の開設を目指す東京都江戸川区は26日、区内の東京情報デザイン専門職大学とプロジェクトチームを発足させ、使いやすさを高めるための共同研究に乗り出した。現在、問題となっている課題が解決すれば、6月にも福祉や教育、子育てなど一部の分野で相談や申請手続きを始める。
◆来庁不要 やりとり電子申請より円滑
区は昨年9月からメタバース区役所の実証実験を障害者福祉課で行っている。障害のある参加者からは、アバター(分身)の基本操作や資料の画面共有などが難しいとの声が寄せられていた。チームの取り組みで、機能改善を図る。
タバース区役所は、来庁しづらい人が、パソコンやスマートフォンを使って仮想空間に入って自身のアバターを動かし、区職員のアバターから行政サービスを受ける。電子申請よりも、会話など双方向のコミュニケーションが円滑に取れる利点があるという。
メタバース上の発足式で斉藤猛区長は「来庁不要の区役所によって、究極のバリアフリーを目指していく」と強調した。区は、新庁舎が開設される2030年度にもメタバース区役所を全庁に広げることを目指している。(押川恵理子)
2024年5月7日 朝日新聞
防衛費に充てる建設国債の額が膨らんでいる。政府は今年度に5117億円の発行を計画し、昨年度の1.2倍、額にして774億円増やすことがわかった。過去の戦争の反省から、国は長らく防衛費を借金で賄わないとしてきたが、岸田政権が防衛力強化を旗印に昨年度の予算から解禁。借金をあてにした防衛費の増額に歯止めがきかなくなるおそれが出ている。
政府は野放図な借金を重ねたことが先の大戦を招いたことから、国債を防衛費に充てないことを不文律としてきた。1965年度に戦後初めて国債を発行した際、当時の福田赳夫蔵相は「公債を軍事目的に活用することは絶対に致しません」と国会で明確に答弁していた。
その禁を破ったのが岸田首相だ。2022年末、今後5年間の防衛費をこれまでの1.5倍以上の43兆円とする方針を決定。「将来に向けた投資」のために発行する建設国債の対象に、自衛隊の隊舎などの施設整備や艦船の建造費を追加した。23年度の当初予算に4343億円の発行を計上した。
今年度当初予算の防衛費は前年度より1兆1277億円多い7兆9496億円で、5117億円を建設国債でまかなう方針だ。防衛費に充てる建設国債の額が増えるのは、「防衛力強化を段階的に進めるなかで、国債の対象となる施設整備費や艦船建造費が増えたため」(財務省主計局)という。
家計調査 12か月連続減少 企業はどう消費を喚起?
2024年4月5日 NHK
総務省が発表したことし2月の家計調査で、2人以上の世帯が消費に使った金額は、物価の変動を除いた実質で前の年の同じ月と比べて0.5%減り、12か月連続の減少となりました。
記録的な暖冬で電気・ガス代が抑えられたことなどが要因で、物価高を背景に食料の支出を抑える動きも続いています。
消費者の節約志向に対して、どうやって消費を喚起するか? 企業の側は、さまざまな取り組みを行っています。
「うるう年」の影響を除くと 実質 2.7%減
総務省が5日発表したことし2月の家計調査によりますと、2人以上の世帯が消費に使った金額は、1世帯当たり27万9868円と物価の変動を除いた実質で前の年の同じ月と比べて0.5%減りました。
消費支出の減少は12か月連続となります。
また、ことしは「うるう年」で2月の日数が1日多かったため、その影響を除くと、物価の変動を除いた実質で2.7%の減少となります。
内訳を見ますと食料は2%の増加でしたが「うるう年」の影響を除くと0.8%の減少となっていて、物価高を背景に支出を抑える動きが続いています。
また、記録的な暖冬の影響で、エアコンやガスストーブの利用が減ったことから、電気代が25.4%、ガス代が14%それぞれ減りました。
このほか、一部の自動車メーカーが国の認証取得をめぐる不正から車の出荷を停止した影響で「自動車関係費」が2.2%減ったほか、新聞や雑誌などの印刷物は5.4%の減少となりました。
一方、「教育」は首都圏を中心に私立中学校の受験率が増えていることを背景に受験料などの支出が増え、41.5%の増加となりました。
消費者は物価上昇で節約の工夫
東京・品川区の商店街では物価が上昇するなか、買い物を工夫して節約しているといった声が聞かれました。
従業員の投票で値下げ商品を決定
消費者のニーズに応えようと、従業員の投票で値下げをする商品を決めるスーパーも出ています。
愛知県に本社がある「ユニー」では、東海地方や関東地方などに131の店舗を展開しています。
会社によりますと、およそ2万3000人の従業員のうち、1万9000人ほどが主婦やお年寄りなどのパート従業員だといいます。
物価の上昇が続く中、消費者の節約志向が強まっていると感じていて、去年の既存店の客数は前の年と比べると96.5%と、来店頻度が減っていることなどが課題だといいます。
このため、消費者のニーズに応えようと130の店舗で買い物客が値下げしてほしいと思う商品について、店舗ごとに従業員が投票を行い値下げする取り組みを始めました。
このうち、横浜市戸塚区にある店舗では、2月から3月にかけて、従業員が値下げをしてほしいと思う商品を3品目、そして、その価格についてオンラインで投票しました。
この結果を踏まえて会社で検討した結果、この店舗では4月1日から、冷凍食品や納豆、油揚げなどの食品とシャンプーなどの日用品をあわせた300品目を、これまでの販売価格から1%から最大で25%値下げして販売を始めました。
これまでは会社の本部が特売日などで値下げする商品や金額を決めていましたが、消費者でもある従業員の意見を生かすことで、ニーズが高い商品を値下げし、他店との差別化を図る狙いがあるということです。
今回の商品の値下げは3か月間続けるということで、その後もこの取り組みを続けることにしています。
自動販売機で夜間の消費喚起
都内に本社を置く菓子メーカーは、夜間の需要を新たに取り込もうと24時間、商品を購入できる自動販売機の設置を進めています。
全国で930店舗を展開する菓子メーカー「不二家」は、去年6月からケーキなどを24時間販売する自動販売機の設置を全国で進めています。
この会社では、物価の上昇などを背景に消費者の節約志向が続いているとして、店舗が閉まった後の夜間の需要を新たに取り込もうと自動販売機の設置を進め、4日までに店舗の外や駅などに123台を設置しました。
販売されているショートケーキやシュークリームは冷凍の状態で販売するため店頭に並ぶ商品とは別に新たに開発されたもので、それぞれの自動販売機では10種類の商品を購入できるということです。
会社によりますと、購入者の多くは10代から20代の女性とみられるということです。
売り上げは夜間の時間帯が特に多くなっているということで、新たな需要の取り込みにつながっているとしています。
このため、会社ではことし中に自動販売機の数を全国で350台にまで増やす計画だとしています。
2024年5月16日 NHK
ことし1月から3月までのGDP=国内総生産は、前の3か月と比べた実質の伸び率が年率に換算してマイナス2.0%と、2期ぶりにマイナスとなりました。
自動車メーカーが、認証取得をめぐる不正で車の生産や出荷を停止した影響などで個人消費や輸出が落ち込みました。
今後の経済はどうなるのか。「賃上げ」による景気回復に期待する声もありますが、急速に進んできた「円安」が影響を及ぼしそうです。
「個人消費」「輸出」「設備投資」いずれもマイナスに
内閣府が16日発表したことし1月から3月までのGDPの速報値は、物価の変動を除いた実質の伸び率が前の3か月と比べてマイナス0.5%となりました。
これが1年間続いた場合の年率に換算するとマイナス2.0%で、2期ぶりのマイナスです。
主な項目をみますと、「個人消費」は、前の3か月と比べてマイナス0.7%でした。
自動車メーカーが、認証取得をめぐる不正で車の生産や出荷を停止したことなどが消費に影響しました。
「個人消費」のマイナスは4期連続となり、リーマンショックの前後の2008年から2009年にかけてマイナスが4期続いたとき以来となります。
「輸出」も5.0%のマイナスでした。
統計上、輸出に計上される外国人旅行者の日本国内での消費は増えましたが、認証取得の不正などを受けて自動車の輸出も落ち込みました。
企業の「設備投資」もマイナス0.8%でした。
一方、政府による「公共投資」は昨年度の補正予算の執行が進んだことでプラス3.1%、「住宅投資」はマイナス2.5%でした。
物価の変動を加味した名目GDPは、ものやサービスの値上がりが続いていることを反映し、前の3か月に比べてプラス0.1%、年率に換算してプラス0.4%となりました。
また、昨年度1年間のGDPは、(2023年度)前の年度と比べた伸び率が実質でプラス1.2%、名目もプラス5.3%とともに3年連続のプラスとなりました。
林官房長官「定額減税などの効果で回復期待」
林官房長官は午前の記者会見で「景気の動きによるものとは言えない特殊要因の影響もあり、実質成長率はマイナスとなったが、今後は33年ぶりの高水準となった春闘の賃上げや、来月から実施される定額減税などの効果が見込まれ、雇用・所得環境の改善のもと、緩やかな回復が続くことが期待される」と述べました。
一方「資源価格や為替の変動が物価を押し上げるリスクなどに十分注意する必要がある。力強い賃上げの動きを中小企業や地方にまで広げ、定着できるよう取り組みを進めるとともに、定額減税などで家計所得の伸びが物価上昇を上回る状況を確実に作り出し、消費を下支えしていく」と述べました。
新藤経済再生担当相「特殊要因の影響もあり回復が期待」
今回のGDPの結果について、新藤経済再生担当大臣は「景気の動きによるものとは言えない各種の特殊要因の影響もあって実質の成長率はマイナスとなったが、33年ぶりの高水準となった春闘の賃上げなど雇用・所得環境が改善するもとで景気は緩やかな回復が続くことが期待される。
力強い賃上げの流れを中小企業や地方にまで広げ、来月からの定額減税などにより消費を下支えしていく」という談話を発表しました。
専門家「個人消費 特殊要因なくても弱かった」
明治安田総合研究所の小玉祐一チーフエコノミストは、
「予想どおり弱い結果だった。個人消費は物価高の影響を受けて賃金に物価の変動を反映した実質賃金のマイナスが続いているので、認証不正の問題による自動車の落ち込みという特殊要因がなくても弱かったとみている」と話しています。
物価の上昇に賃上げが追いつかず
個人消費が振るわない背景には物価の上昇に賃上げが追いついていないことが挙げられます。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によりますと、ことし3月の1人あたりの現金給与総額は去年の同じ月から0.6%増え27か月連続のプラスでしたが、物価の上昇分を反映させた「実質賃金」は2.5%減り、過去最長の24か月連続のマイナスとなっています。
また、総務省の家計調査では、昨年度1年間に2人以上の世帯が消費に使った金額は実質で前の年度に比べ3.2%減少し、物価上昇による節約志向の強まりがうかがえる結果となっています。
今後は、33年ぶりの高い水準となったことしの春闘での賃上げの効果や来月からの「定額減税」によって実質賃金や可処分所得が増え、消費が拡大していくという見方が多くなっていますが、歴史的な水準が続く円安が水を差すおそれもあるという指摘も出ています。
民間のシンクタンク「みずほリサーチ&テクノロジーズ」は、ことし4月から6月の間、円相場が1ドル=154円程度で推移した場合、その後、円高方向に動いて1ドル=140円台に戻ったとしても原油高の影響もあって、今年度は昨年度に比べて1世帯あたりの食料やエネルギーなどの負担が平均で10万5000円余り増えると試算しています。
円安の影響 浮き彫りに 仕入れ価格が1.5倍に
アメリカ産の牛肉を使っている仙台名物の牛タン専門店からは円安の影響で仕入れ価格のさらなる値上がりを心配する声が聞かれています。
宮城県富谷市に本社がある牛タン専門店ではアメリカやオーストラリアなどから毎月、40トンから50トンの牛タンを仕入れています。
このうちことし3月のアメリカ産の1キロあたりの仕入れ価格は1年前のおよそ1.5倍に値上がりしているということです。
仕入れコストが上昇したため大型連休の売り上げは去年よりも伸びましたが利益は減少したということです。
この専門店では原材料価格の高騰を受けて去年5月に定番の牛タン定食について税抜き価格を1800円から1980円に値上げした一方で定番以外のメニューの充実に努めてきました。
ただ記録的な円安が続いた場合には仕入れコストがさらに上昇すると見込まれるため将来的には再び値上げすることも検討せざるをえないとしています。
牛タン専門店「喜助」の小野博康社長室長は「料理の品質は変えないのが大前提なので、原価が上がっている今は収益が落ちる構造になっているのが現実だ。同じことをやっていれば経営はどんどん圧迫されていくと思うので、品質がよりよく、より安いものを仕入れる努力も続けていきたい」と話しています。
値上げか、サービス縮小か…
円安などを背景にしたコストの上昇で経営が圧迫される企業が出ています。
こうした中、利用者にアンケートを行って、料金の値上げか、サービスを縮小してでも料金を据え置くかを聞くことで今後の方針を決めようという動きもあります。
高松市に本社があり香川県内に30の店舗を展開するクリーニングチェーン「さかえドライ」では、去年10月にクリーニング料金を平均で5%程度値上げしたほか、店舗の営業時間を短くしたり、時間帯によって店員を減らしたりするなどコストの削減に取り組んできました。
しかし、クリーニングに使う洗剤や包装資材などが値上がりし、コストが3年前より15%ほど増えていて、一部の仕入れ先からは6月の注文分からさらに3%ほど値上げするという通知が届いているといいます。
今年度も最低賃金が大幅に引き上げられれば、9割を占めるパート従業員の人件費も増えることなどからさらなるクリーニング料金の値上げを視野に検討を進めています。
ただ、料金の値上げは利用の減少につながる懸念があるため利用者の理解を得ることが重要だとして、現状を説明したうえで意見を聞くアンケートをことし3月下旬から行っています。
アンケートは会計の際にレシートとともに渡され、値上げをする代わりに定期的な割引きセールを継続するのがいいのか、セールの割引き率が下がったり営業時間の短縮など利便性が損なわれたりしてもいいので料金据え置きがいいのかなどの中から選んでもらい店舗で回収しています。
アンケートを続けた上で、ことし8月にもいったん結果をとりまとめ、今後の対応を決める判断の材料にしたいとしています。
営業本部の瀧一宏部長は「利用者にも現状の厳しさを理解してもらいたいと、アンケートをとることにしました。会社で一方的に対応を決めるのでなくアンケートの結果も踏まえて料金やサービスをトータルで考えていきたい」と話しています。
記録的な円安水準が長引くと商品の値上げ検討せざるをえない
記録的な円安は、福岡土産として知名度の高い菓子を作っている中小企業にも影響を及ぼしています。
福岡市に本社を置く創業110年余りの老舗の食品会社は、めんたいこなどの魚介類を使ったせんべいが主力商品です。
定番のプレーン味のほか、ねぎ味やマヨネーズ味などの幅広いラインナップがあり、福岡空港や博多駅といった各地の売店で販売されています。
コロナ禍を経て売り上げは回復傾向にありますが、収益を圧迫しているのが記録的な円安だと言います。
国産だけでは賄いきれない原材料を海外産に頼る中、商社を通じて輸入しているイカの価格は1年前よりおよそ20%上昇しているということです。
また、食感を出すための原材料で、ドル建てで取り引きしているタピオカでんぷんも、1年前と比べた値上がり幅がおよそ20%に上っているということです。
この食品メーカー「山口油屋福太郎」の樋口元信社長は「為替の影響は本当に避けられないです。1ドルが150円を超えるとちょっとまずいなというのがあります」と話しています。
会社では、仕入れ価格をより安くできる取引先を探すなどのコスト削減策に取り組んでいます。しかし、記録的な円安水準がさらに長引くようだと、2023年11月に続く商品の値上げも検討せざるをえないと言います。
樋口社長は「これから人件費も上げなければならないので販売価格に反映させたいのですが、他社との競争もあり悩んでいるところです」と話していました。
中小企業 賃上げの機運に水を差しかねない現状も
福岡市に本社を置く1960年創業の「九州電化」は、社員数90人余りの金属加工会社です。
素材の表面にめっき処理を施し、さびを防いだり、電気を通しやすくしたりする技術を磨いてきました。
年間の顧客数はおよそ700社、売上高は10億円程度ですが、記録的な円安が経営の重荷になっています。
めっき処理に使う銀やニッケル、それに塩酸などはほとんどが輸入品で、商社を通じた仕入れ価格が1年前に比べて3割から4割上昇しているということです。
山田登三雄会長は「扱っている材料や金属が大幅に値上がりしていて、非常にダメージが大きい」と話しています。
円安が利益を押し下げる中、山田会長が悩んでいるのが社員の賃上げです。
会社では当初、ことし7月にベースアップを行う方向で検討してきました。
ただ、原材料の値上がり分を取引価格に十分転嫁できない状況も続いていて、最終的な賃上げの幅はまだ決めかねていると言います。
半導体関連の企業とも取り引きがあるこの会社。将来の需要の増加を見越して福岡県内に新工場の建設計画を進める一方、記録的な円安がいつまで続くのか、その先行きを注視しています。
山田会長は「お客さんがいてそこから仕事を請け負うという業界なので、価格転嫁の難しさを感じます。仕入れの金額が大きくなって売り上げが増えないと、わが社にとって厳しい状況が続くことになると心配しています」と話していました。
外国人観光客の購入 40%増加のところも
茶わんやどんぶりなどの食器を販売する都内の専門店では、円安を背景に外国人観光客の購入が増えていて売り上げは去年の同じ時期と比べておよそ40%増加しています。
東京 台東区にある「かっぱ橋道具街」にある、創業100年以上の食器専門店では、ラーメンや天丼用のどんぶりや湯飲み、それに茶わんなど、およそ3000種類の日本ならではの食器を販売しています。
店によりますとこれまでは飲食店関係の客が多かったということですが、去年の冬ごろからは外国人観光客が増え始め、いまでは客の半数以上がヨーロッパやアメリカなどから訪れた観光客だといいます。
一日平均で200人以上の外国人観光客が訪れていて、売り上げは去年の同じ時期と比べておよそ40%増えているといいます。
外国人観光客には、墨絵が描かれた食器やお茶をたてる時に使う抹茶わんをはじめ、価格帯が高めの5000円ほどのものも売れ行きがいいということです。
家族へのお土産として10種類近くの食器を購入する人も多く、アクセサリーなどを入れる小物入れとして使われるケースもあるということです。
店は、外国人観光客の増加にあわせて商品の種類を増やすなどの対応をしているということです。
アメリカから訪れた60代の女性は「娘のためにしょうゆやわさびなどを入れられるきれいなお皿を買いました。円安の影響でたくさん買い物ができるので、日本ではもう10万円ほど使いました」と話していました。
専門店の本健太郎代表は「値段を気にせずに買う人が多く、円安の効果はすごいと思います。インバウンドで活況なのはうれしいかぎりで、今後さらに増えるようなら従業員を増やすなどの対応も考えなければいけない」と話しています。
物価上昇どうなる?
「明治安田総合研究所」では、春闘での賃上げが給料に徐々に反映されることで、実質賃金は7月から9月の間にプラスになると見込んでいます。
しかし、この春に1ドル=170円まで円安が加速すると、輸入物価の上昇の影響がおよそ半年かけてあらわれ、10月から12月の間に消費者物価がプラス3.4%にまで上昇し、実質賃金がマイナスに転じる可能性があるとしています。
「賃上げでしっかりと家計に還元するかが鍵に」
明治安田総合研究所の小玉祐一チーフエコノミストは、今後の景気については「先行きの見通しは逆に改善しつつあるのではないか。ことしの春闘で高めの賃上げが実現しており、給料に4月以降反映され始めるので消費マインドが上向いて個人消費が伸びる展開が期待できる」とみています。
円安の影響については、「家計にとっては輸入物価の上昇を通じて円安はマイナスに働く。地方の中小企業は物価の上昇という形でデメリットを感じやすく、景況感の回復が遅れる可能性もある」と話しています。
そして「先行きの日本経済は賃金の動向が鍵を握っているので賃金のプラス基調が維持できないと再び景気がマイナスに戻ってしまうリスクが考えられる。利益を上げた企業が賃上げという形でしっかりと家計に還元するかどうかが鍵を握っている」と指摘しています。
報道自由度、日本は70位 G7で最低、国境なき記者団
2024年5月4日 東京新聞
【パリ共同】国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(本部パリ)は3日、2024年の世界各国の報道自由度ランキングを発表した。対象180カ国・地域のうち、日本は昨年から二つ順位を下げて70位で、先進7カ国で最下位だった。首位は8年連続でノルウェー。
日本について、報道の自由が一般的に尊重されているものの、政治的圧力や男女不平等などで、記者が監視者としての役割を完全に果たすことをしばしば妨げられていると指摘。記者クラブ制度がメディアの自己検閲や外国人記者らへの差別につながっていると批判した。
世界的には、記者を保護するという政治的意思が明確に欠如している国もあると強調した。
2024年5月12日 京都新聞
生きづらさを抱える女性を孤立させないよう、国と自治体、民間団体が連携して支援につなげなくてはならない。
ドメスティックバイオレンス(DV)や性被害、貧困などに直面する女性を対象とした「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(困難女性支援法)」が先月に施行された。
女性を取り巻く問題は近年、複雑で、多様になっている。都市部の繁華街には夜、居場所を求めて若年層が集まり、犯罪に巻き込まれる被害が後を絶たない。
新型コロナウイルス禍は仕事や暮らしを脅かし、女性の自殺やDV相談が増えた。非正規雇用が約半数を占めるシングルマザー家庭の貧困率は50%近くに上る。自らSOSを出せない人も多く、いかに医療や福祉、公的支援へとつなぐかが喫緊の課題だ。
支援法は2022年5月に議員立法で成立。当事者を指導や管理の対象とする「売春防止法」の視点を廃し、自立に向けた支援を国や自治体の責務と位置づけた。
具体的な支援策は、自治体が作る基本計画を踏まえることになる。京都府と滋賀県はともに今年3月に策定し、早期発見や相談、一時保護、自立支援やアフターケアなどの対応を打ち出した。
各府県で実務を担うのは、名称を変更した「女性相談支援センター」や「自立支援施設」が核となる。相談体制の強化に向け、府は28年度に女性相談支援員(旧・婦人相談員)を全市町村に配置する数値目標を掲げた。県も全13市に配置し、6町へは県の支援なども検討する。
相談者と信頼関係を築き、適切な支援へと結び付くよう、人材の確保や研修などによる資質の向上が求められよう。不安定な非正規雇用が多い現状を見直し、待遇改善を図りたい。
経験や知識のあるNPOなどの民間団体は数が限られ、都市部に偏っているのが課題だ。財政面も含めた支援が欠かせない。
厚生労働省は24年度予算で、官民参加の地域協議会開催や団体育成のための補助金を盛り込んだ。居住地で支援の格差が開かないよう府県の差配が重要になる。国も情報やノウハウの共有に向けて支える必要がある。
自立支援施設では、利用者個々のニーズに合った生活環境の改善や、退所後の継続的な見守りも進めたい。それには関係機関が連携し、地域の安全網を紡ぐ姿勢が必要だろう。
伊藤忠 ビッグモーターの事業引き継ぐ新会社「WECARS」設立
2024年5月1日 NHK
保険金の不正請求問題で経営の立て直しを迫られているビッグモーターの事業を引き継ぐ大手商社の伊藤忠商事が5月1日記者会見を開き、新会社を1日付けで設立したことを発表しました。新会社の経営にはビッグモーターの旧経営陣は加わらず、存続会社が損害賠償への対応にあたるとしています。
ビッグモーターの事業を引き継ぐ伊藤忠商事は1日午前、記者会見を開き、1日付けで新会社を設立したことを発表しました。
新会社の社名は「WECARS」で、社長には元伊藤忠商事執行役員の田中慎二郎氏が就任しました。
一方、ビッグモーターの和泉伸二社長を含めた旧経営陣は新会社の取締役には就任しないとしています。
新会社は、▽「伊藤忠商事」と▽子会社でエネルギー商社の「伊藤忠エネクス」、▽それに投資ファンドの「ジェイ・ウィル・パートナーズ」が共同で出資し、合わせて400億円を拠出します。
中古車販売事業や車の整備事業などすべての事業を引き継ぎ、およそ4200人の従業員の雇用も継続するとしています。
一方、存続会社は、社名をビッグモーターから「BALM」に変更し、ジェイ・ウィル・パートナーズが兼重宏行前社長など創業家から100%の株式を取得して存続会社が負債などの処理や、保険金の不正請求に関する損害賠償への対応にあたるとしています。
田中社長「信頼得ることと事業としての成長は両立できる」
新会社「WECARS」の社長に就任した田中慎二郎氏は「会社は過去の経営や一部の社員の行いによって、信頼を失っている」と述べました。
そのうえで、「新会社に関わるすべての人々が最優先すべきはお客様であり、信頼を得ることと、事業として成長することは両立できると信じている」と述べました。
また、「新会社ではコンプライアンス案件についてはうやむやにせず、厳正に対処していくことで撲滅していきたい。組織風土改革に終わりはないと考えている」と述べました。
旧ビッグモーターと創業家は
事業を引き継ぐ新会社の設立によって旧ビッグモーターは、分割されたあとの存続会社として保険金の不正請求に関する損害賠償への対応や、負債の処理などにあたることになります。
存続会社としてビッグモーターから社名を変更した「BALM」は、株式を保有していた兼重宏行前社長など創業家から投資ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズがすべての株式を取得しました。
取得金額は少額だとしたうえで非公表としています。
さらに、新会社「WECARS」の設立にあたって伊藤忠商事やジェイ・ウィル・パートナーズなど3社が拠出したおよそ400億円の一部が事業を引き継ぐ対価として存続会社に支払われたということです。
ただ、金融機関の融資などの負債の返済や、保険金の不正請求に関する損害賠償への対応にあてられ、創業家には渡らないとしています。
伊藤忠商事出身で「WECARS」の経営企画部長に就任した合六渉氏は会見で「創業家に対してお金が渡るどころか、逆に創業家にもそれなりの責任をとっていただくというのが今回のスキームだ」と述べました。
また、伊藤忠商事は5月1日の会見で、存続会社の経営について、旧ビッグモーター社長の和泉伸二氏が担う方向で調整が進められていると説明しました。
一方、新会社が引き継いだ中古車販売の事業は、販売台数が一時期は1割から2割ほどに落ち込み、現在も3割から4割程度にとどまっているということで、事業の立て直しが課題となっています。
不正を生み出した組織風土の改革の徹底とともに、一連の問題で失った信頼の回復が実現できるかが問われることになります。
2024年5月11日 NHK
中国の4月の新車の販売台数が発表され、EVなどの「新エネルギー車」の販売が去年の同じ月と比べて33.5%のプラスと好調で、販売全体を押し上げました。
中国の自動車メーカーなどでつくる「自動車工業協会」によりますと、4月の新車の販売台数は235万9000台となり、去年の同じ月と比べて9.3%増えました。
EVなどの「新エネルギー車」の販売が、去年の同じ月と比べて33.5%のプラスと引き続き好調だったことが主な要因です。
このうち、
▽EVは11%余り
▽プラグインハイブリッド車が95%余り
増加し、販売台数に占める新エネルギー車の割合は、3分の1を超える36%となりました。
また、4月の輸出台数は50万4000台と、去年の同じ月と比べて34%増え、自動車輸出で世界一となった去年を大きく上回るペースで拡大が続いています。
ただ、中国製のEVをめぐって、欧米では、過剰生産などによって不当に安く輸出されているのではないかとの懸念が強まっていて、欧米の当局の対応しだいでは、今後の販売動向に影響が出ることも予想されます。
つばさの党 演説妨害5件以上 選挙カー追い回し10件以上確認
2024年5月18日 NHK
先月行われた衆議院東京15区の補欠選挙で、政治団体「つばさの党」の代表ら3人が、ほかの陣営の演説を妨害したとして逮捕された事件で、警視庁がこれまでに同じような演説妨害を5件以上、さらに選挙カーを追い回す行為も10件以上確認し、調べを進めていることが捜査関係者への取材でわかりました。
政治団体「つばさの党」の幹事長で選挙に立候補した根本良輔容疑者(29)や代表の黒川敦彦容疑者(45)ら3人は、衆議院東京15区の補欠選挙の告示日に、ほかの候補者が演説する前で拡声機を使ってどなるなど、演説が聴き取れないように妨害したとして公職選挙法違反の疑いがもたれています。
警視庁は各陣営から被害届を受理するなどして、選挙期間中の状況について調べていますが、これまでに同じような演説妨害を5件以上確認していることが、捜査関係者への取材でわかりました。
さらに、ほかの陣営の選挙カーを追い回す行為も、10件以上確認していて、今後、増える可能性もあるとしています。
追い回された陣営が予定していたルートの変更を余儀なくされるなど、実際にそれぞれの選挙運動に影響が出たということです。
警視庁は容疑者らの活動の実態をさらに調べるとともに、公職選挙法に規定された交通を妨害した疑いでの立件も視野に捜査を進めています。
つばさの党 複数の支援者が妨害行為関与か 警視庁特定進める
2024年5月19日 NHK
先月行われた衆議院東京15区の補欠選挙で、政治団体「つばさの党」の代表ら3人が、ほかの陣営の演説を妨害したとして逮捕された事件で、団体の複数の支援者が車の運転役や動画の撮影役などを担っていたことが捜査関係者への取材でわかりました。
警視庁は、選挙の妨害行為に関わった人物の特定を進めています。
政治団体「つばさの党」の幹事長で、選挙に立候補した根本良輔容疑者(29)や代表の黒川敦彦容疑者(45)、それに運動員の杉田勇人容疑者(39)の3人は、衆議院東京15区の補欠選挙で、ほかの候補者が演説する前で拡声機を使ってどなるなど、演説が聴き取れないように妨害したとして公職選挙法違反の疑いで逮捕され、19日検察庁に送られました。これまでの捜査で、根本幹事長らは演説を妨害する同様の行為やほかの陣営の選挙カーを追い回すなどの行為を繰り返し、その様子をYouTubeなどで配信していたことがわかっています。
団体には確認されているだけでもおよそ10人の支援者がいて、このうち複数のメンバーが車の運転役や動画の撮影役などを担っていたことが捜査関係者への取材でわかりました。
こうした支援者の一部は根本幹事長の住む住宅で集団生活をしていたということで、警視庁はほかの陣営への妨害行為を、この住宅を拠点に計画していた可能性もあるとみて、関わった人物の特定や活動の実態を調べています。
★重要な視点
「表現の自由」なのか?「選挙活動の自由」なのか?
人権同士の衝突のケース
精神障害者の運賃割り引き JR6社と大手私鉄16社すべてで導入へ
2024年4月11日 NHK
障害者の鉄道運賃の割り引き制度で、JR6社と大手私鉄9社は対象を拡大し、新たに精神障害者を割り引きの対象にすると発表しました。これでJR6社と大手私鉄16社のすべてで精神障害者の割り引き制度が導入されることになります。
国土交通省によりますと、身体障害者や知的障害者を対象とした鉄道運賃の割り引き制度はすべての鉄道事業者が導入している一方、精神障害者については去年4月の時点でおよそ6割の事業者が導入するにとどまっています。
当事者などからは「同じように割り引きの対象にしてほしい」という声があり、国土交通省が制度の拡大を各社に要請していました。
これを受けて11日、JR6社と東京メトロや東武鉄道など大手私鉄9社は、新たに精神障害者を割り引きの対象にすると発表しました。
これにより、JR6社と大手私鉄16社のすべてで、精神障害者の割り引き制度が導入されることになるということです。
JRは6社共通の制度になっていて、介護者と一緒に利用する際、第1種の場合は本人と介護者1人の普通乗車券や定期券などが、12歳未満で第2種の場合は本人と介護者1人の定期券が、それぞれ5割引きになります。
定期券は種類によって割り引きの対象外のものもあります。
当事者が1人で利用する際は、片道100キロを超える場合に限り、第1種と第2種、いずれも普通乗車券が5割引きになります。
新たに制度を導入する事業者のうち、最も早いのが京成電鉄の乗車券の販売でことし6月からとしているほかJR6社は来年4月からだということです。
また、中小の私鉄でも複数の事業者が今後、新たに精神障害者の割り引き制度を導入するということです。
小池百合子知事の「決断」に振り回される区市町村「我々は下請けじゃない」 スピード感の裏で〈検証小池都政〉
2024年5月20日 東京新聞
「チルドレンファースト」を掲げる東京都は、18歳以下に毎月5000円を支給する「018サポート」など独自の子育て支援策を矢継ぎ早に打ち出し、話題を集めてきた。スピード感に重きを置く小池百合子知事の意向とされるが、実務を担う区市町村には「事前に相談を」などと反発や困惑もある。(三宅千智)
2023年1月4日、18歳以下に毎月5000円を支給する事業について記者団の取材に応じる小池百合子知事(三宅千智撮影)
2023年1月4日、18歳以下に毎月5000円を支給する事業について記者団の取材に応じる小池百合子知事(三宅千智撮影)
◆事前協議なく「礼を失している」
「あまりにも礼を失している」。世田谷区の保坂展人区長は2022年6月の定例会見で、子どもの医療費助成を巡る都の対応に憤った。
都は同年1月、中学生までだった医療費助成の対象を高校生世代まで広げる、と発表した。小中学生と同様に所得制限を設けた上で、通院1回当たり200円を自己負担とし、残りの費用を都と区市町村が折半する制度を描いたが、新たな財政負担が生じる区市町村側との事前協議はなかったとされる。
「必要な検討や調整を後回しにして、制度ありきで強引だ」。都内の首長や都議会から相次いで批判の声が上がった。都は23年度から3年間に限り区市町村分を負担することでひとまず反発は収まったが、26年度以降の枠組みは未定だ。
◆都職員への新年あいさつで突然ぶち上げ…
「もはや一刻の猶予も許されない」。少子化への危機感を募らせる小池知事が「018サポート」の実施をぶち上げたのは、23年1月4日の都職員への新年あいさつでのこと。複数の関係者によると、区市町村はおろか、都庁内でも一部の幹部しか知らされていなかった。
華々しい発表の裏側では問題が生じていた。支給対象者を特定するには区市町村の協力が不可欠だが、事前相談がなく多くの自治体が難色を示したという。
結局、都は地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に業務を委託することにしたが、約17万人への案内チラシの誤送付が発生した。スマートフォンなどオンラインでの申請手続きが複雑で分かりにくいと、多くの苦情も寄せられた。
◆「知事が決断して行った」と示すため?
役所間では当たり前とも言える根回し。なぜ、なおざりにされてきたのか。ある都幹部は語る。
「小池知事はスピード感を重視し、そこが都民からも評価されている。事前相談をすれば『すぐには無理だ』とか言われかねないし」。別の幹部は「『知事が決断して行った』と示すためだ」と解説した。
都が24年度予算で打ち出した学校給食費補助事業でも調整不足が表面化した。多摩地域では都の半額補助があっても無償化できない自治体が複数ある。町田市の石阪丈一市長は「どんなに少なくとも1年以上の協議の期間を設けるべきだ」と抗議した。都内のある首長は「互いに仕事を円滑にやるには十分な時間と協議が必要」と指摘し、苦々しい表情でつぶやいた。「われわれは都の下請けじゃない」
◆「区市町村と謙虚に協議しながら政策推進を」
元都副知事の青山佾(やすし)・明治大名誉教授の話 都がスピード感をもって決定、実行するドラスチック(思い切った)なやり方も時には必要だが、個人情報を持っているのは区市町村。ドメスティックバイオレンス(DV)など、家庭の事情は十人十色で、給付施策などを都だけでやろうとするのは限界がある。区市町村と謙虚に協議しながら政策を進める姿勢が基本だ。
子どもの医療費助成 東京都が1994年に3歳未満を対象に始め、その後、段階的に年齢を拡大。所得制限(4人家族で年収約960万円)を設けた上で、未就学児は自己負担分を都と区市町村が半額ずつ助成。小中学生と高校生世代は、自己負担額のうち200円を本人が負担し、残りを都と区市町村が折半する。高校生世代については2023年度から3年間、区市町村分の助成費用を都が負担している。区市町村によって、所得制限や自己負担を独自になくしている自治体もある。
ICCの逮捕状請求、フランスは支持表明 ネタニヤフ氏ら対象
2024年5月21日 CNN
(CNN) 国際刑事裁判所(ICC)がイスラエルのネタニヤフ首相らに対する逮捕状を請求したことに西側諸国から批判が集中するなか、フランスはICCへの支持を表明した。
仏外務省は20日深夜の声明で「イスラエルについては、ICCの予審裁判部が検察からの証拠を調べたうえで逮捕状を出すかどうかの決断を下す」と指摘し、フランスはICCとその独立性を支持すると言明した。
声明はさらに、パレスチナ自治区ガザ地区で多数の民間人が死亡し、人道的アクセスが確保できない状況に対して、フランスは何カ月も前から国際人道法の厳守を呼び掛けてきたと強調した。
ICCの逮捕状請求に対しては、米国をはじめとする西側諸国が強い反発を示している。
一方でフランスはこれまでも、国連安全保障理事会で米国が停戦決議案に拒否権を行使したことを非難するなど、イスラエルへの強硬姿勢を貫いてきた。
ICC イスラエル首相やハマス指導者ら双方計5人の逮捕状請求
2024年5月21日 NHK
イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突をめぐって、ICC=国際刑事裁判所のカーン主任検察官は、イスラエルのネタニヤフ首相やハマスのガザ地区トップのシンワル指導者など、双方の合わせて5人に対して逮捕状を請求すると明らかにしました。これについて、双方が相次いで声明を出して反発しています。
ICCのカーン主任検察官は20日に声明を発表し、戦争犯罪や人道に対する犯罪の疑いで、イスラエルとハマスの双方の合わせて5人に逮捕状を請求すると明らかにしました。
このうちイスラエル側は、ネタニヤフ首相とガラント国防相の2人に対してで、去年10月8日以降、戦争の手段として民間人を飢餓に陥らせたり、意図的に民間人に対して攻撃を行ったりした戦争犯罪などに責任があると信じるに足る合理的な理由があるとしています。
一方、ハマス側は、ガザ地区トップのシンワル指導者や、ハニーヤ最高幹部ら3人に対してで、去年10月7日のイスラエルに対する襲撃で民間人を殺害したり、少なくとも245人を人質にとったりした戦争犯罪などの責任があると信じるに足る合理的な理由があるとしています。
カーン主任検察官は、声明で「国際法はすべての人に適用される。歩兵も司令官も政治家も罰を免れることはできない」と強調したうえで、今後さらなる逮捕状を請求する可能性もあるとして、改めて国際法の順守を求めています。
裁判所では今後、予審裁判部が、検察官が提出した証拠などを検討したうえで、逮捕状を出すか判断することになります。
双方 ICCに対し反発
これに対してネタニヤフ首相は20日の声明で「ICCの検察官が大量殺人者であるハマスと民主的なイスラエルを対比したことを嫌悪感をもって拒否する。われわれの手を縛ろうとする試みは失敗する」と非難しました。
またハマスも20日の声明で「被害者と死刑執行人を同等に扱おうとすることを強く非難する」と反発しました。ICCは今後、予審裁判部が、検察官が提出した証拠などを検討したうえで逮捕状を出すか判断することになります。
米 バイデン大統領「イスラエルとハマス 同等ではない」
ICC=国際刑事裁判所のカーン主任検察官がイスラエルのネタニヤフ首相や、ハマスのガザ地区トップのシンワル指導者などに対し逮捕状を請求すると明らかにしたことについて、アメリカのバイデン大統領は20日、声明を発表し「イスラエルの指導者たちに対する逮捕状の請求は言語道断だ」と非難しました。
また、バイデン大統領は、ユダヤ系アメリカ人を招いた、ホワイトハウスでのイベントであいさつし「イスラエルとハマスは同等ではない。民間人を守るためにできることはすべてするが、はっきりさせておきたいのは、ICCの主張と違って、いまガザ地区で起きていることはジェノサイドではない。われわれはそうした主張を拒絶する」と述べました。その上で「われわれは常にイスラエルと共にあり、イスラエルの安全保障への脅威に立ち向かう」と述べ、イスラエルの防衛を支援していく姿勢を強調しました。
ICC逮捕状の意義と影響
ガザ地区で続く衝突の双方の当事者に対する逮捕状を請求することについて、カーン主任検察官は声明で「法を公平に適用する姿勢を示さず、選択的に適用していると受け止められれば、法が崩壊する条件をつくってしまう」と説明し、捜査の公正さと中立性を強調しています。
ICCが逮捕状を出すかどうかはこのあと予審裁判部の判断に委ねられますが、実際に逮捕状が出されれば、ICCに加盟する日本を含む124の国や地域は、域内に対象の人物がいれば身柄を拘束し裁判所に引き渡す義務を負うことになります。
このためネタニヤフ首相らはこれらの国や地域への渡航が難しくなり、外交活動などが制限される事態も想定されます。
ICCがウクライナでの戦争犯罪の疑いで逮捕状を出したロシアのプーチン大統領は去年、ICCに加盟する南アフリカで開かれた国際会議への対面での出席を見送りました。
イスラエルはICCに加盟しておらず、首相や国防相に対する逮捕状が請求されたことに激しく反発していて、今後の捜査などにも一切協力しないものと見られます。
フリーランス保護の新法、11月1日施行へ 悪質な場合は罰金も
2024年5月20日 朝日新聞
フリーランスで働く人を保護する「フリーランス新法」が11月1日に施行されることになった。厚生労働省の20日の有識者検討会では、就業環境の整備をめぐる具体的な内容を定めるための報告書がまとまり、同省は報告書をもとに政令や省令の公布などの準備を進める。
昨年4月に成立した新法は、企業などから仕事を受けるフリーランスを保護対象と定め、悪質な場合は発注者への罰金も盛り込まれた。
施行に向け、厚労省の検討会は就業環境の整備について昨年9月から議論。業務委託期間が「6カ月以上」の場合、出産・育児や介護との両立を可能にする配慮を発注者に義務づけることなどを決めた。
新法のもう一つの柱である取引適正化については公正取引委員会の検討会で議論され、業務委託期間が「1カ月以上」の場合、発注者の一方的な受領拒否や返品、不当な報酬減額を禁止するといった内容が決まった。
オフィス「フリーアドレス」では仕事に集中できない? 裁判にも発展 「固定席なし」はなぜ流行るのか
2024年5月22日 東京新聞
仕事場の定められた座席や部屋をなくす「フリーアドレス」。業務空間の効率化と対話・交流の活性化が進むとされ、民間企業のほか、コロナ禍を経て自治体の導入も加速してきた。だが、大学で研究や学生の教育に支障が出たとして、教員が損害賠償を求めた訴訟も。利点だけではないこの仕組み、どう捉えるべきか。(西田直晃)
◆個人研究室撤廃に教員が反発
「誰もが自由に出入りするスペースでは、騒々しく研究に集中できない。論文が盗用され、学生の個人情報も流出しかねない」
冒頭の訴訟で、原告側代理人を務める西野裕貴弁護士はこう語った。被告の梅光学院大(山口県下関市)は2019年、改築した新校舎から教員の個人研究室を撤廃し、開放的な構造のオフィスを1階に設けた。「人と人との多様な交流」を実現し、「教職員が一体となって学生を育てる」と示してきたが、教員の一部が反発した。
一審に続き、今月15日の控訴審判決でも「大学側に広い裁量がある」と原告の訴えは棄却されたが、上告する方針という。大学側は「主張が認められた。今後もより良い教育・研究環境の整備に努める」とコメントしている。
◆そもそもはムダ削減のためだった
大学のフリーアドレスは「職員同士の連携を深める」として金沢大が事務室の一部で導入しているが、西野弁護士は「教員も対象となったケースは他に例がない。『適切な研究環境の確保』という労働契約が無視されている」と話す。
そもそも、フリーアドレスはどういう経緯で国内に広がったのか。
ニューオフィス推進協会(東京)によると、2000年以降に増加した外資系企業が、オフィスに要する費用を削減するために相次いで導入した。竹森邦彦事務局長は「外回りの営業職が多い場合、昼間は事務所のデスクのほとんどは空席になる。最初は無駄をなくすためだった」と説明。00年代後半以降、電子端末の小型化なども企業のフリーアドレス化を後押しした。
◆雰囲気だけで効果が出るわけではない
「近年は働き方改革の流れに対応し、業務の内容やその日の気分に合わせた空間をしつらえることで、仕事の能率を上げようとする試みが主流になった」と竹森さん。しかし、単純に「オープンな雰囲気を演出するだけで、効果が表れるわけではない」とも。
「会話が進むようなカフェを置いたり、ウェブ会議が可能な空間を確保したりすることが必要」で、それなりのコストがかさむようだ。竹森さんは「都心部の企業なら、従業員1000人以上だと固定席の削減が進むが、500人以下なら共有スペースを増やす必要があり、逆に面積は広くなる傾向にある」と話す。
◆コロナ禍…自治体も環境が整う
そんな中、コロナ禍でテレワークが普及し、フリーアドレスを採用できる環境が自治体にも整った。東京都は3年前から、25年度をめどに本庁舎のフリーアドレス化を掲げる。地方都市でも「風通しの良さ」「活発な意見交換」を強調し、一部の部署を移行させている。
ただ、自治体のフリーアドレスも良いことばかりではない。東京市町村自治調査会(府中市)は22年に市町村職員向けに行った調査で「企画部門や総務部門では導入しやすい傾向がある一方、窓口を中心とする部門では、住民との距離の近さに伴う弊害、個人情報保護の観点から懸念があるのではないか」と言及している。
役場では住民と直接触れ合い、申請書類を扱う機会が多い業務もある。大学教員と同様、仕事内容によっては導入に議論の余地がありそうだ。
アイルランドなど欧州3か国 “パレスチナを国家として承認へ”
2024年5月22日 NHK
イスラエル軍によるパレスチナのガザ地区への攻撃が続く中、アイルランド、スペイン、ノルウェーの3か国は、パレスチナを国家として承認すると相次いで表明しました。すでに多くの国が承認していますが、3か国は足並みをそろえた動きを見せることで、イスラエルとパレスチナという2つの国家が共存する形での和平の実現を促すねらいがあるとみられます。
これは、アイルランド、スペイン、ノルウェーの3か国の首相が、22日にそれぞれ会見などで明らかにしました。
アイルランドのハリス首相は、イスラエル軍による攻撃が続くガザ地区について、「パレスチナ人たちはひどい苦しみ、苦難、そして飢えにさらされている」と指摘しました。
そのうえで、「恒久的な平和は、自由な人々の自由な意思に基づいてのみ確保される」と述べ、パレスチナを国家として承認する手続きに入ると明らかにしました。
スペインのサンチェス首相とノルウェーのストーレ首相も、同じような発表を行い、実際の承認は5月28日となる見通しです。
戦闘に終わりが見えない中、3か国は足並みをそろえた動きを見せることで、イスラエルとパレスチナという2つの国家が共存する形での和平の実現を促すねらいがあるとみられます。
一方、イスラエルのネタニヤフ首相は「ガザ地区がイスラエルにとって、二度と脅威とならないようイスラエルが地区の安全を管理し続けなければならない」として、パレスチナの主権を将来にわたって認めない立場を強調しています。
パレスチナ暫定自治政府によりますと、これまでに140か国以上がパレスチナを国家として承認しているということです。
ヨーロッパなどでは、ほかの国も承認に向けて動いていると伝えられていて、イスラエルに対する国際的な圧力が一層、強まることも予想されます。
パレスチナ暫定自治政府は声明で歓迎 他国も続くよう呼びかけ
これについて、パレスチナ暫定自治政府は声明で歓迎する意向を示しました。
そのうえで国家承認をしていない他国、特にヨーロッパ諸国に対してもこの例に続くよう呼びかけました。
イスラエルは批判「『テロは報われる』というメッセージに」
一方、イスラエルのカッツ外相は、22日、対応を協議するためアイルランドとノルウェーに駐在するイスラエル大使を呼び戻すよう指示したと明らかにしました。
そのうえで、アイルランドなどの表明について「パレスチナ人と世界に『テロは報われる』というメッセージを送ることになる」と批判しました。
長期金利 1.005%に上昇 約12年ぶりの高い水準
2024年5月24日 NHK
24日の債券市場では午後の取り引きで長期金利の代表的な指標となっている10年ものの国債の利回りが1.005%をつけて、およそ12年ぶりの高い水準まで上昇しました。国債は、価格が下がると金利が上昇するという関係にあります。
24日の債券市場では、日本国債を売る動きが出て、長期金利の代表的な指標となっている10年ものの国債の利回りが午後の取り引きで1.005%まで上昇しました。
これは、2012年4月以来、およそ12年ぶりの高い水準です。
日銀が金融政策の正常化を早めるとの見方が出ていることや、アメリカの長期金利が上昇した流れを受けて、日本の国債を売る動きが強まりました。
市場関係者は、「今月、日銀が国債の買い入れを減額したことをきっかけに、市場では、日銀が金融正常化に向けた動きを早めるのではないかという見方が出ている。こうした見方に加え、日本時間の昨夜発表された経済指標の結果を受けてアメリカの長期金利が、上昇したことで、日本の長期金利も上昇しやすくなっていた」と話しています。
改正育児・介護休業法など可決・成立 育児と仕事の両立を支援
2024年5月24日 NHK
育児と仕事の両立を支援するため、これまで子どもが3歳になるまでが中心だった措置を拡充することを盛り込んだ改正育児・介護休業法などが、参議院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立しました。
改正育児・介護休業法は、新たに企業に対し、残業の免除対象を3歳から小学校に入学するまでの子どもを持つ親にも広げることや、3歳から小学校に入学するまでの子どもを持つ親を対象に、短時間勤務制度や始業時間の変更、テレワーク、時間単位で取得できる休暇の付与など、複数の制度の中から2つ以上を設けることを義務づけるとしています。
また、子どもの「看護休暇」の取得を、感染症に伴う学級閉鎖や、入学式など行事への参加でもできるようにし、対象を小学3年生まで広げるとしています。
このほか、男性の育児休業の取得状況の公表義務を、これまでの「従業員が1000人を超える企業」から「300人を超える企業」に広げるとともに、目標設定を100人を超えるすべての企業に義務づけるとしています。
一方、介護との両立をめぐっては、支援制度を利用せずに離職に至るケースが多いことから、企業に対し、家族の介護が必要となった従業員に介護休業などの制度を周知し、取得の意向を確認すること、さらに、介護に直面していない従業員にも早めに制度を周知することなどを義務づけるとしています。
改正法は、24日の参議院本会議で与野党の賛成多数で可決・成立し、主な内容は来年4月以降、順次施行されます。
「自治体は改正を求めてない」地方自治法改正案に首長ら危機感 国の指示権は範囲が曖昧、歯止めなし
2024年5月24日 東京新聞
国会で審議中の地方自治法改正案には、非常時に国が自治体に対して「必要な措置」を指示できる権限が盛り込まれ、野党や識者、首長らから懸念が相次いで示されている。法的義務を自治体に負わせるのに指示の対象範囲は曖昧。指示のスピード感を優先したとの理由で権限行使への歯止めとなる仕組みも乏しく、国による恣意(しい)的な運用に大きな余地を残しているからだ。(我那覇圭、山口哲人)
◆あまりにも曖昧な「その他の事態」
「特定の事態の類型を念頭に置いているものではない」。松本剛明総務相は23日の衆院総務委員会で、国が自治体に指示する具体的な事態を問われ、こう説明した。栃木県知事を務めた経験もある立憲民主党の福田昭夫氏は「(指示権行使の)事態を想定していないということは、立法事実がないということだ」と批判した。
同法改正案では、政府は「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」が起きる恐れがあったり、実際に起きた場合、閣議決定のみで指示権が発動できるようにする。大規模災害や感染症のまん延に加え、「その他の事態」も盛り込まれた。
幅広い解釈を許す書きぶりについて、国は「『想定外』の事態に備えられるようにするため」とするが、国の判断次第で範囲が広まる恐れも否定できない。国民民主党の西岡秀子氏も総務委で「自然災害と感染症以外の事態があまりにも曖昧だ」と苦言を呈した。
◆指示権発動に、立法府は蚊帳の外でいいのか
指示の前に国が自治体から意見を聞いたり、資料の提出を求めたりする規定はあるが、あくまでも努力義務。現場の実情を十分にくみ取れない恐れがあり、事前協議を義務化するよう求める意見が出ている。
また、指示権を発動する手続きで、立法府は蚊帳の外だ。改正案には国会の事前・事後の承認や、国会への報告の規定が設けられていない。政府側は、指示権を行使する度に国会への承認や報告を義務付けることは「機動性に欠ける」(松本氏)としていた。
国の判断が妥当かを検証する方法が限られている状態は、与党からも不十分だとの声がある。自民、公明両党は23日、日本維新の会とともに、指示権を発動した閣僚に国会への事後報告を義務付ける修正案を衆院に提出した。
◆保坂世田谷区長「国がいつも正しいわけではない」
この日、参院議員会館では同法改正案の廃案を求める集会が開かれた。東京都世田谷区の保坂展人区長は、コロナの流行初期、国がPCR検査の拡充に消極的だったため、区が積極的に検査した事例を紹介し、自治体の判断を飛び越えて国に強い権限を持たせる危険性を指摘。「国がいつも正しいわけではない」と訴えた。
集会には約200人が参加し、杉並区の岸本聡子区長のほか、立民と共産、社民各党の国会議員らも足を運んだ。神奈川県真鶴町から駆け付けた小林伸行町長は語気を強めた。「自治体は改正を求めていない。国が指示してくれなんて一切思っていない」
◇
◆「コロナ対応のまずさは国の権限が弱かったため」が根底に
国会で審議が続く地方自治法改正案。なぜこのタイミングで出されたのか、どんな内容なのか。(山口哲人)
Q 改正の背景は。
A 首相の諮問機関である地方制度調査会(地制調)が昨年12月、「ポストコロナの経済社会に対応する地方制度の在り方」という答申を岸田文雄首相に提出しました。この答申は、国が自治体に指示できるようにする規定を地方自治法に盛り込むことを求めています。これを受け、今年3月に政府が同法改正案を閣議決定して国会に提出、5月7日に衆院本会議で審議入りしました。
Q 答申の内容は。
A 新型コロナウイルスの集団感染で横浜港に足止めとなった客船や、その後全国で起こった病床逼迫(ひっぱく)、飲食店などの休業や時短要請を巡り、国と自治体で調整が難航したり意見が食い違ったりした事例を列挙。「関係法が想定しない事態に対し十分に対応していなかった」と結論付けています。コロナ対応がうまくいかなかったのは国の権限が弱かったためとの考えがあると言えます。解決策として強い法的拘束力を持つ指示権を国に持たせるよう明記しました。
Q 指示を法律に定めているケースは。
A 災害対策基本法や感染症法など特定分野に関する個別の法律では、既に指示権が認められていますが、適用対象が広い地方自治法では初めてです。
Q 政府は法案をどう説明しているか。
A 「災害や感染症のまん延など国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」に、国は「国民の生命保護に必要な対策の実施」を指示します。自治体の危機管理能力や財政力などの格差によって非常時の対応にもばらつきが生じる恐れがあるため、国の指示によって、地域ごとの対応に大きな違いが出ないようになると考える識者もいます。
Q 国が適切な指示を出せるのか。
A 住民に最も近い市区町村を飛び越える形で、緊急時にそれぞれの地域の住民の命や暮らしを守る最善の指示を国が出せるのかを疑問視する首長は多くいます。
国の指示権拡大に「歯止め設けて」「拡大いらない」「地方分権の考え方を否定」地方自治法改正案の参考人質疑
2024年6月11日 東京新聞
非常時に自治体への国の指示権を拡大する地方自治法改正案を巡り、参院総務委員会は11日、参考人質疑を行った。法案に賛成の立場の自民党が推薦した東大の牧原出教授は、指示権の必要性に言及しつつ「国の関与が強まることは手放しで賛成ではない。要件と手続きを厳格にし、必要最小限の措置を取るという法規定を設けるべきだ」と述べ、指示権行使の歯止めを求めた。
◆指示権行使したら「直後に立法を」
参院総務委に参考人として出席する(左から)本多滝夫氏、東健二郎氏、小原隆治氏、牧原出氏
牧原氏は、指示権拡大を首相に答申した地方制度調査会の委員を務め、「想定外の状況に対処するための手だては必要」と改正案に賛意を示した。一方で、指示権を行使した場合、「同じ状況では二度と指示権を行使しないよう、直後に個別法に落とし込んだ立法が必要だ」と述べた。
早大の小原隆治教授は、新型コロナ対応の反省から指示権拡大を盛り込んだとする政府の説明を疑問視。現行法でも非常時に対応できるとして、「端的に申して(指示権拡大は)いらない」と主張した。
龍谷大の本多滝夫教授は「国の地方への関与のあり方を根本的に転換する。憲法が定める地方自治、地方分権改革の考え方を否定する」と法改正に懸念を示した。
滋賀県日野町の東健二郎政策参与は、衆院での法案修正により指示権行使後の国会への事後報告規定が盛り込まれたことについて「国会報告の定めが入ったことは大きい」と一定の評価をした。(三輪喜人、我那覇圭)
国交省 トヨタ本社に立ち入り検査 車の性能試験で不正
2024年6月4日 NHK
自動車などの大量生産に必要な「型式指定」の取得に関して自動車メーカーなど5社が不正を行っていた問題で、国土交通省は4日、愛知県豊田市にあるトヨタ自動車本社に対して立ち入り検査を始めました。
国交省が立ち入り検査に
自動車などの型式指定をめぐっては、おととし以降、ダイハツ工業などによる不正が相次いで明らかになり、国土交通省が各社に調査を指示した結果、3日、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社で車の性能試験での不正が明らかになりました。
この問題で国土交通省は4日午前、愛知県豊田市にあるトヨタ自動車の本社に職員5人を派遣し、立ち入り検査を始めました。
トヨタでは過去に生産していた車種も含めあわせて7車種で不正行為が見つかり、このうち生産中の3車種については出荷と販売を停止しています。
また、この3車種については6日から生産も停止する方針です。
国土交通省は今回の立ち入り検査で、不正が行われた試験のデータや関連する社内ルールを確認するほか、担当者や幹部への聞き取りを行い、詳しい事実関係を調べることにしています。
今後の国の対応は?
国土交通省によりますと、立ち入り検査は数日間行われる予定で、結果によってさらに立ち入り検査が必要かどうか、対応を検討するということです。
ほかに不正が確認されたマツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの4社についても、今後、立ち入り検査を行うとしています。
また、国土交通省は、不正のあった5社・38車種について、型式指定の取得に関する国の基準に適合しているかどうか確認を行うということです。
そのうえで、立ち入り検査の結果や、基準への適合の確認の結果によっては、行政処分の検討も含め厳正に対処するとしています。
専門家「効率性が追及された結果」
自動車業界に詳しい、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは、今回、各社で不正が発覚した背景について、「昨今の自動車業界ではスピード重視ということがかなり言われているが、日々の開発の忙しさもあるなかで認証に対する取り組みがおろそかになった側面があったのではないか。また、企画や開発、生産のところで効率性が追及された結果でもあると思う」と述べました。
そのうえで、「今回、不正が表に出たのは国から社内調査の徹底の通達があったからで、内部告発があったためではない。組織的なチェック体制に問題があったと思う」と指摘しました。
一方で、「国の定める型式指定制度のルールと自動車メーカーの開発の現場との間でずれが生じてきたということだと思う。各社の不正防止の対策と同時に、制度自体が時代に即したものかどうかというチェックも、一方では取られるべきということではないか」と述べました。
ダイハツ 取引先への支援いまだ不透明 販売店などに困惑広がる
2024年2月13日 産経新聞
13日、経営陣刷新を発表したダイハツ工業。前日の12日には約1カ月半ぶりに2車種の生産を再開したが、一方で、生産停止によって影響を受けた取引先への支援はいまだ不透明な点が多い。資本関係がない系列外の販売店などでは困惑が広がっている。
「仕入れができないと売り上げが立たない。とくに1月は本来、繁忙期だったので影響は大きい」
自動車のリースや販売を手がける「まらねろレンタリース」(大阪府箕面市)の高田宗慶社長は、ダイハツの不正に衝撃を受けている。同社は購入した新車を半年から1年契約で企業に貸し出し、返却された車を売却する事業を営んでおり、貸し出す車の約7割をダイハツ車が占め、購入する車は年間150台に上る。ダイハツの生産が停滞し、事業計画にも影響が出る中、支援はどうなるのか気をもんでいる。「ダイハツの対応が見えずに困惑している同業者も多い」と話す。
こういった系列外の販売店に車を販売している正規ディーラー「大阪ダイハツ販売」の営業担当者も「中小の販売店から『補償をしてほしい』という要望はたくさんきている」と明かす。リースを行っている販売店の場合、新車購入して貸し出し、売却するというサイクルを回せないと、本来不要な車検代金などの支払いなども生じ、損失を被るという。「持ち帰って検討しますと言っているが、ダイハツ本社からは販売店への支援の話はなにも降りてこない。損失の支援ぐらいはするべきではないか」と吐露する。
一方、ダイハツは工場の稼働停止によって損害を被った企業に対し「実損の補償」と「部品代の仮払い」という2つの対応を打ち出している。実損とは、工場停止で出荷できなくなった部品の保管費用や保管中に劣化して納品できなくなった商品の代金などを指す。また、仮払いは下請け企業への資金繰り支援で、昨年12月分として内示した生産量に対し、工場停止のため生産が減った分の部品代を先に支払う。仮払い分は生産再開後の部品代金から相殺処理する計画だ。
「平和国家」日本、次期戦闘機を輸出の意味 共同開発に選んだ国は
2024年6月4日 毎日新聞
日本が英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機をめぐり、開発計画を管理する政府間機関「GIGO(ジャイゴ)」を設置するための条約審議が4日の参院外交防衛委員会で、自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決される。5日の参院本会議で承認される見通しだ。初めて同盟国・米国以外の国との共同開発・生産となる次期戦闘機は輸出もされる。
なぜ、開発相手は米国でなかったのか。憲法で「平和主義」を掲げてきた日本にとって、どのような意味を持つのか。
GIGOは、3カ国の政府代表による運営委員会と、実務を担う実施機関から構成される。数百人規模の組織となる見通しだ。実施機関は3カ国の企業で作る共同企業体(JV)との調整窓口として、開発計画を一元的に管理。JVの契約相手となり、予算計画や輸出管理なども担う。
3カ国は、GIGOの本部は英国▽発足時の実施機関トップは日本人、JVトップはイタリア人――がそれぞれ担うことで合意。本部は、今年度中に発足させる。
岸田文雄首相は3月の国会答弁で、軍事力を増強させる中国などを念頭に「周辺国が、新世代機の開発や配備を進めている。我が国自身で、それらを超える最新鋭の次期戦闘機を開発することが不可欠だ」と強調。次期戦闘機は、航空攻撃や艦艇などの海からの攻撃を「洋上、遠方で阻止する上で不可欠な装備品だ」と説明した。
自衛隊で運用する戦闘機は2023年3月末時点で、「第5世代」と呼ばれる最新鋭のF35が33機、「第4世代」のF15が200機、F2が91機ある。F2が35年をめどに退役を迎える中、各国が開発を競う「第6世代」にあたる次期戦闘機の確保が急務となっている。今後5年をめどに次期戦闘機の仕様や性能を確定し、35年までの配備を目指す。
(以降省略)
子ども・子育て支援法など改正案 参院内閣委で可決
2024年6月4日 NHK
少子化対策の強化に向けて「支援金制度」の創設を盛り込んだ子ども・子育て支援法などの改正案は参議院内閣委員会で採決が行われ、自民・公明両党の賛成多数で可決されました。5日の参議院本会議で可決・成立する見通しです。
子ども・子育て支援法などの改正案は、少子化対策の強化に向けて、児童手当や育児休業給付を拡充するとともに、財源確保のため、公的医療保険に上乗せし、国民や企業から集める「支援金制度」の創設などを盛り込んでいます。
4日の参議院内閣委員会で、加藤こども政策担当大臣は「支援金制度は給付拡充のための安定財源として全世代、全経済主体で子どもや子育て世帯を支える仕組みで、若い世代の結婚や子育てを確実に応援するものになる」と述べ、理解を求めました。
このあと改正案は採決が行われ、自民・公明両党の賛成多数で可決されました。
一方「現役世代に負担が偏り少子化対策に逆行しかねない」などとして、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組は反対しました。
また委員会では、支援金の拠出を歳出改革などによる社会保険負担の軽減効果の範囲内に収めることや、効果を検証し適切に見直しを行うことなどを求める付帯決議も可決されました。
改正案は4日の参議院本会議で可決・成立する見通しです。
ライドシェア、東京などで出発…60人が自家用車用意の運営会社では1時間で50回利用
2024年4月8日 読売新聞
個人が自家用車を使って有償で人を運ぶ「ライドシェア」が8日、東京23区などの一部地域で始まった。タクシー会社が運行を管理し、雇用契約を結んだ個人がドライバーとなって運用される。神奈川や愛知、京都の各府県でも順次スタートする。
この日は東京都江戸川区で出発式が開かれ、自家用を示す白いナンバープレートをつけた乗用車が運行を始めた。斉藤国土交通相は「地域交通の担い手不足を解消するため、事業を発展させ、全国に広げていきたい」と強調した。
日本交通(東京)などのタクシー会社が配車アプリの運営会社と提携してサービスを始め、同社ではこの日に60人以上の個人が自家用車を用意。1時間あまりで約50回の利用があった。
ライドシェアはタクシーが足りない地域や時間帯に限って導入された。都内では23区内を中心に曜日や時間帯を限定して運行が認められる。5月には北海道や大阪など8道府県でも始まる。
政府はタクシー会社以外の事業者によるライドシェアも議論しているが、安全性をどう担保するかや、運転手の確保といった課題もあり、実施状況を見極めながら検討する方針だ。
郵便局、農協の活用本格化 過疎地向けライドシェア
2024年6月8日 東京新聞
政府は、過疎地の住民や観光客の移動手段確保に向けた輸送サービスの担い手として、郵便局や農協、観光地域づくり法人(DMO)といった地域組織の活用を本格化する方針を固めた。岸田文雄首相が近く関係閣僚会議で指示する。一般ドライバーが自家用車で有償送迎する「自治体ライドシェア」の拡大へ、関連補助金を充実させて後押しする。政府関係者が8日明らかにした。
自治体ライドシェアは「自家用有償旅客運送」として公共交通の便が悪い過疎地で認められている。運送主体を自治体以外に広げることで「交通空白地」の解消につなげる狙いがある。2024年度から始まった、タクシー会社の管理下で一般ドライバーが旅客運送する「日本版ライドシェア」とは別の制度。
既に一部自治体で始動しており、首相から取り組みの推進を関係省庁に求め、全国での導入を促す。地域交通の活性化を目的とした国土交通省の補助金を手厚くする方向だ。
運送主体は、郵便局や農協などの他に観光協会、商工会、地域運営組織を想定。運転手は各組織の職員や地元住民が担う。
米軍が横田基地内の「飲用水井戸」休止を検討 米国のPFAS「新規制」が影響か 汚染放置につながる恐れ
2024年6月9日 東京新聞
東京・多摩地域の水道水源の井戸で発がん性の疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)が高濃度で検出されている問題で、汚染源の可能性がある米軍横田基地(福生市など)が、米国の飲用水の新規制値を満たさないとして、基地内の飲用井戸の運用停止を検討していることが、政府関係者への取材で分かった。厳しくなった新規制で、米軍が地下水の除染や汚染源の特定に取り組む可能性があるが、その機会が失われかねない。(松島京太)
米環境保護庁(EPA)は4月、飲用水に含まれるPFASの一種のPFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)の規制値を1リットル当たり4ナノグラムとし、これをクリアしなければならないと定めた。従来は両物質の合計値1リットル当たり70ナノグラムを勧告値とし、強制力はなかった。新規制値は、在日米軍基地にはまだ適用されていないとみられる。
米軍関係者によると、基地内の飲用井戸は12カ所。基地の2021年版水質報告書では、井戸から浄化処理後でPFOSとPFOAの合計値が1リットル当たり5~29ナノグラムが検出されていた。
米軍は、昨年3月に新規制値案が公表された際、在日米軍への適用を想定。飲用井戸の運用を止め、地元自治体の水道局の水道水で飲用水をまかなう案を同時期に日本政府側に示した。
基地内の飲用水は井戸と水道局の水道水を併用しているが、水道水が飲用水に占める割合をほぼ100%にし、一部井戸は緊急時に備えて維持する案という。
◆水道水購入なら「米軍が積極的に除染に乗り出す必要性失う」
都水道局は19年以降、PFAS濃度が高い水源井戸40カ所で取水を止め、多くの浄水施設でPFOSとPFOAの合計値は1リットル当たり5ナノグラムを下回っている。
政府関係者は「米軍が水道水に切り替えることで新規制値をクリアできれば、米軍が積極的に地下水の除染に乗り出す必要性を失うことになる」と危惧。汚染源特定や地下水の除染が進まず、長期間にわたり汚染が放置される恐れもある。
在日米軍広報部は取材に、井戸の運用停止に触れず、「横田基地と日本政府の間で現在、EPAの新規制値に伴う水道水購入について協議していない。新規制値が海外の米軍基地、特に在日米軍基地にどう適用されるか注視している」と回答した。
市民団体「PFAS汚染を明らかにする立川市民の会」事務局の佐々木憲幸さん(68)は「汚染の原因をつくったのなら浄化作業をするべきなのに、汚れていない水を買って対処するのは本末転倒であり、許せない」と批判した。
◆米軍、ドイツでは装置を設置し、地下水浄化に積極的
米国の飲用水PFAS規制が厳格化され、ドイツでは汚染源と特定された米軍基地で、米軍が地下水の浄化を積極的に進めている。
米軍準機関紙の星条旗新聞によると、米国で新規制値が設定された4月、ドイツ南部の米軍アンスバッハ駐屯地では、地下水からPFASを除去する浄化装置を設置する新たな計画が始まった。日本政府関係者は「米軍が自分たちの飲み水を確保するためにも、環境改善に取り組んでいる」と指摘した。
環境省によると、2012年以降、ドイツ政府が調査でPFASの汚染源として米軍5施設を特定した。
能動的サイバー防御“早期に法案を” 首相がデジタル相に指示
2024年6月7日 NHK
サイバー攻撃を受ける前に対抗措置をとる「能動的サイバー防御」の導入に向け、政府の有識者会議が初会合を開き、岸田総理大臣は可能なかぎり早期に必要な法案をまとめるよう、担当の河野デジタル大臣に指示しました。
有識者会議の初会合には、元アメリカ大使の佐々江賢一郎氏や筑波大学准教授の落合陽一氏など17人のメンバーに加え、岸田総理大臣や河野デジタル大臣らが出席しました。
岸田総理大臣は「サイバー対応能力の向上は現在の安全保障環境に鑑み、ますます急を要する課題だ。かったつに議論し、成果を報告してもらいたい」と述べ、可能なかぎり早期に「能動的サイバー防御」の導入に必要な法案をまとめるよう河野大臣に指示しました。
これを受けて河野大臣は有識者会議に対し、数か月以内に意見集約を図るよう求めました。
安全保障環境が厳しさを増す中、政府が導入を目指す「能動的サイバー防御」は、国内の通信事業者から情報提供を受け、攻撃元と疑われるサーバーを検知することや、攻撃を受ける前にサーバーに侵入し、無力化することなどが想定されています。
今後の検討では、防御措置の具体的なあり方に加え、一連の対応が、憲法が保障する「通信の秘密」などに抵触しないよう、どのように整合性をとっていくのかが論点となります。
落合陽一氏「産官学が連携し整理していくことが必要」
落合陽一氏は記者団に対し、「『通信の秘密』や国民一人一人の権利の保護と、安全保障の問題が同時に関わってくることになるが、適切に対処できるようにしておくことは生活のインフラを保つうえで非常に重要だ。産官学が連携し、同じ地平に立って考えられるよう議論を続けながら整理していくことが必要だ」と述べました。
河野デジタル相「対応能力の向上は急を要する課題」
河野デジタル大臣は、閣議のあとの記者会見で「世界各国でサイバー攻撃が激しくなり、海外の政府と気脈を通じて行われているものもある中で、対応能力の向上は急を要する課題だ。岸田総理大臣の指示を踏まえ、可能なかぎり早期の法案の取りまとめに向け、しっかり努力していきたい」と述べました。
林官房長官「早期に法案示したい」
林官房長官は閣議のあとの記者会見で、「会議では今後の検討の進め方や重点的に検討すべき点などについて、貴重な意見をいただいた。引き続き充実した検討が行われることを期待したい。法案の国会への提出時期は現時点では未定だが、会議での取りまとめの結果などを踏まえ、可能なかぎり早期に法案を示したい」と述べました。
日銀総裁会見 国債買い入れ減額は予見可能な形で
2024年6月14日 NHK
日銀は、14日まで開いた金融政策決定会合で国債の買い入れの規模を減らす方針を決めました。植田総裁は、会合のあとの記者会見で、国債買い入れの減額にあたっては予見可能な形で丁寧に実施したいという考えを示しました。
今回の会合で日銀は、国債の買い入れを減額する方針を決め、7月の会合で今後1年から2年程度の具体的な減額計画をまとめるとしています。
これについて植田総裁は、記者会見で、「減額をする以上、相応の規模となると考えているが、具体的な減額の幅やペース、減額の枠組みなどについては市場参加者の意見も確認しながら、しっかりとした減額計画を作っていきたいと考えている」と述べました。
その上で国債買い入れの減額にあたっては「国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ予見可能な形で減額していくことが適切と考えている」と述べました。
このように植田総裁は「予見可能な形で」ということばを何度も使い国債買い入れの減額を丁寧に進めていく必要があるという考えを強調しました。
さらに植田総裁は「国債残高のおおまかに5割を日本銀行が保有している状態なので、長期的に望ましい状態にまで1年2年で到達できるというふうに思っていない」と述べました。
一方、7月の会合で追加の利上げを検討するかという質問に対し、植田総裁は、「これまでのところは私どもの見通しにおおむね沿ったデータの出方になっているが、そういうことでいいかどうかはもう少し確認したい。その上で、7月の短期金利をどうするかということは決定したい」と述べました。
【植田総裁 会見詳細】
長期国債買い入れの減額の方針を決定
「金融市場において長期金利がより自由な形で形成されるよう長期国債の買入れを減額していく方針を賛成多数で決定した。今後、市場参加者の意見も確認し、次回、金融政策決定会合において、今後1年から2年程度の具体的な減額計画を決定する」と述べました。
国債買い入れ 柔軟性確保しつつ予見可能な形で減額
「国債買い入れは国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ予見可能な形で減額していくことが適切と考えている」と述べました。
幅、ペース、減額の枠組みなどしっかりした減額計画作る
「減額をする以上、相応の規模となるというふうに考えていますが、具体的な減額の幅や、ペース、減額の枠組みなどについて、市場参加者の意見も確認しながら、しっかりとした減額計画を作っていきたいと考えている」と述べました。
国債買い入れに伴う緩和効果は引き続き作用する
「今後、国債買い入れを減額していけば、日銀の国債保有残高は償還に伴い減少していくこともあるが、国債買い入れに伴う緩和効果いわゆるストック効果は引き続き相応に作用するとみている」と述べました。
物価上昇率が見通しに沿って上昇ならば政策金利引き上げ
「基調的な物価上昇率が見通しに沿って2%に向けて上昇していけば、政策金利を引き上げ金融緩和度合いを調整していくことになる。また、経済・物価の見通しが上振れたり、見通しの上振れリスクが高まった場合も利上げの理由になる」と述べました。
そのうえで、「企業の賃金・価格設定行動が積極化することで、過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている。最近の円安の動きは物価の上振れ要因であり、政策運営上、十分に注視している。その動向や影響について毎回の決定会合でしっかりと点検し適切に対応していく」と述べました。
望ましい状態まで1年2年で到達できると思っていない
国債の買い入れの減額について「国債残高のおおまかに5割を日本銀行が保有している状態なので、長期的に望ましい状態にまで1年2年で到達できるというふうに思っていない」と述べました。
その上で、今回、減額を決める判断に至った背景について、「ある程度の予見可能性を、減額するプロセスにおいて担保したいということから、まず1年2年間分についてスケジュールをおおまかに示すことができないかという判断に至ったということだ」と述べました。
長期国債買い入れ考慮して 短期金利設定する
次回・7月の金融政策決定会合で、国債買い入れを減額する具体的な計画を示す中で、同時に追加の利上げを行うのは難しくなるのではないかと問われたのに対し「7月あるいは7月以降の短期金利の調整方針は、経済物価情勢に沿って粛々と決定していくが、もちろんその際に長期国債を買い入れるオペで我々がすること、それが市場でどう消化されるか考慮したうえで短期金利の設定をしていく」と述べました。
そのときの経済金融情勢など考慮して進め方決める
国債の買い入れの減額をどう進めていくかについて「まず1年から2年程度の計画を次回会合で決定し、公表するというやり方でやってみて、それが市場でどう消化されるかとか、そのときの経済金融情勢とかさまざまなことを考慮してその後の進め方を決めることにならざるをえない」と述べました。
具体案の発表1か月先に その間の不確実性極力避ける
「国債減額の具体案の発表は1か月先になるが、その間の不確実性を極力避ける意味で、きょうは不十分かもしれないが私どもの減額にあたっての基本的な考え方を説明している。長いタームで考えると、望ましい国債保有残高に到達するまではかなりの時間がかかることなので、短期的に1か月2か月先になるということ自体のコストはそれほどないと思う。市場とのコミュニケーションについては常日頃から丁寧に私どもの考え方が伝わるように努めていきたい」と述べました。
同時に追加利上げの可能性 「当然あり得る話だ」
次回・7月の金融政策決定会合で、国債買い入れを減額する具体的な計画を示すのと同時に追加の利上げを行う可能性はあるのかと問われたのに対し「その時までに出てくる経済物価情勢に関するデータないし入ってくる情報次第で、金利を引き上げて金融緩和度合いを調整することは当然あり得る話だ」と述べました。
我々のオペ姿明らかにし政府で国債管理政策決めてもらう
「買いオペをどうしていくかという話がある一方で、財務省の発行計画や国債管理政策があるかと思う。その役割分担みたいなことになるが計画をよく聞いて、そしゃくして、向こう1、2年間の我々のオペを考えていくというよりは、我々の向こう1、2年間のオペのおおまかな姿を明らかにして、その上で、政府のほうで国債管理政策などを決めていただくという姿勢かなと思っている」と述べました。
判断を的確にするための1か月
「国債買い入れの減額を進める際に、ある程度市場にとって予見可能な形でスケジュールを提示したいという気持ちと、計画のプロセスで、長期国債の市場に不安定的な動きが大きく起きることを避けるためオペの若干の柔軟性を担保したいということのバランスをどうとるかというのはなかなか難しい問題だ。その判断を的確にするためにも市場参加者の意見も聞いてみたいということで1か月かけることになった」と述べました。
さまざまなデータを確認 その上で7月の短期金利決定
「新年度に入ってさまざまなデータが出つつあり、ようやく4月のデータが大体出そろい、これから5月のデータが出てくるというところだ。これまでのところは私どもの見通しにおおむね沿ったデータの出方になっているが、そういうことでいいかどうかはもう少し確認したい。その上で、7月の短期金利をどうするかということは決定したい」と述べました。
バランスシートの規模や内容時間かけ検討
日銀のバランスシートはどのようにあるべきかと問われたのに対し、「バランスシートの規模や内容については、時間をかけて検討していきたい」と述べました。
長期国債に関して 金融政策的な色彩は『なし』で運営
「長期国債あるいは長期金利に関して、政策的に購入量を短期的にどんどん動かすというようなことになると、市場において、先読みのさまざまな投機的な動きを惹起させてしまい、非常に運営が困難になるリスクを抱えてしまう。なるべく予見可能な形で金融政策的な色彩は『なし』、もしくは極めて最小化させた上で運営していきたい。一方で、金融政策的な調節は短期金利の調整を主な手段として今後、行っていく」と述べました。
日銀の金融政策決定会合 銀行受け止め
金融大手のりそなグループの東京・江東区にあるディーリングルームでは、午後0時半ごろに日銀の金融政策決定会合の結果が発表されると、担当者たちが発表内容を読み込んだり、客からの注文や問い合わせに対応したりしていました。
りそなホールディングスの井口慶一ストラテジストは「国債買い入れの減額が決定されるとの思惑が強まっていたが、ふたを開けたら具体的な内容は次回会合に持ち越しだったのでマーケットにはサプライズで金利は低下し、為替は円安で反応した」と話していました。
また、午後3時半から行われた日銀の植田総裁の会見については「前回の会見の後、1ドル=160円台まで円安が大きく進んだのでマーケットは警戒していたが、きょうの会見では、具体的な示唆はなかったものの慎重に丁寧に説明していて会見後の混乱は回避できたと思う」と話していました。
その上で追加の利上げについて、「日銀は、まずは国債買入れの減額に動き、その後、慎重に、利上げを行うのではないか。ことしの春闘の結果が賃金の統計に反映されてくるのが、8月から9月だと考えられるので、10月に追加の利上げを行う可能性が高いと考えている」と分析していました。
「会って説明したいのに…」9割が書類だけで不認定にされる難民認定の不服審査、専門家は警鐘を鳴らす
2024年6月11日 東京新聞
出入国在留管理庁(入管庁)が不認定とした難民申請者を再審査する「不服審査」で、対面審査の割合が2019年以降、1割前後に低迷し、9割近くの人が書類審査だけで不認定とされている。同庁の資料で判明した。申請3回目以降の人が強制送還となる恐れのある改正入管難民法が10日に施行され、専門家は「現行の審査態勢では、母国で迫害の危険がある人が送還される可能性がある」と警告する。
◆2010年代前半までは対面が通例だった
入管庁からクルド人男性に送られてきた「口頭意見陳述は認めない」とする通知書(一部画像処理)
「口頭意見陳述を実施しない」。母国トルコでの迫害から日本へ逃れたというクルド人男性に昨秋、対面審査をしないとする通知が、入管庁から届いた。難民申請は3回目。今回不認定なら、家族と共に送還の恐れが強まる。「帰ったら危ないと自分で説明したかったのに」と憤る。
不服審査は入管庁の不認定決定に納得できない場合に実施する。同庁が識者から任命した難民審査参与員が3人1組で審理し、対面の必要性は事実上、入管庁が判断する。2010年代前半まで通例だった対面は、15年から減少。同年、一部の参与員が書類審査で裁決する「臨時班」を導入し、これを機に減ったことを示す。
◆「対面を適正に」とした国会付帯決議は反映されず
臨時班での書類審査は昨年、改正入管難民法の国会審議でも問題となった。成立時、対面を適正に活用するとの付帯決議をした。だが、対面の件数は昨年も減り、実施率は14.8%にとどまる。
同性愛が違法のウガンダでの拷問から逃れた性的少数者の女性は、対面での不服審査が認められず、一次審査に続き難民不認定とされた。大阪地裁に訴えて昨年、認定されたが、書類だけでの入管庁の判断なら送還された可能性が高い。
参与員の北村泰三・中央大名誉教授は「本人の話を直接聞いてみないと分からないことも多く、対面がこれだけ少ないのは問題。態勢を抜本的に改めないと、本来難民となる人を危険にさらす」と指摘した。(池尾伸一)
改正入管法成立、「育成就労」制度を創設へ…参院本会議で自民・公明・維新・国民など賛成
2024年6月14日 読売新聞
技能実習制度に代わり、外国人材の育成と確保を目的とした「育成就労」制度を創設する改正出入国管理・難民認定法などは14日午前、参院本会議で自民、公明両党、日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。新制度の運用は2027年までに始まる見通しだ。
参院本会議で改正出入国管理・難民認定法などが可決、成立し、一礼する小泉法相(左)(14日午前、国会で)=源幸正倫撮影
育成就労は国内の人手不足を解消するため、外国人を3年間で一定の技能水準に育成し、長期就労が可能な在留資格「特定技能」への移行を促すものだ。最長5年で帰国することを前提としていた技能実習制度は廃止となる。
技能実習で原則禁止となっていた転籍(転職)は、育成就労では1~2年働けば、同じ業種に限って認められる。転籍の制限は、外国人材に長時間労働など劣悪な環境を強いる恐れがあり、「人権侵害の温床」と問題視されていた。
政府は育成就労によって外国人労働者が働きやすい環境を整え、人材の呼び込みを図りたい考えだ。
新制度が軌道に乗れば、長期滞在する外国人が増えることが見込まれるため、改正法には、税金や社会保険料を故意に納付しない外国人の永住許可を取り消せる規定が盛り込まれた。
「外国人技能実習」は「育成就労」新制度に
-政府が方針決定 焦点の「転籍制限」は原則3年から最長2年に
2024年2月10日 東京新聞
政府は9日の関係閣僚会議で、外国人技能実習に代わる新制度「育成就労制度」を創設する方針を決定した。焦点となっていた本人の意向で別の職場に移る「転籍」の制限は、当面は最長2年を可能とする。原則3年は転籍できない現行制度からの緩和は限定的となった。政府は今国会に関連法案を提出する。(井上峻輔)
◆転籍制限は「過酷な労働などの人権侵害や賃金不払いの温床」
政府方針では転籍制限について、将来的に1年とすることを目指しつつ、当分の間は「受け入れ対象分野ごとに1〜2年の範囲内で設定する」と記載。技能や日本語能力で一定水準以上の試験に合格することも要件とした。
現行の厳しい転籍制限は、過酷な労働などの人権侵害や賃金不払いの温床と指摘されてきた。新制度の検討段階では、一般の有期雇用者と同じ1年での転籍を認める意見と、緩和による地方からの人材流出を懸念する意見が対立した。
政府の有識者会議が昨年11月にまとめた報告書では、就労1年超で転籍を認めることを原則としつつ、政府に経過措置の検討を要請。一方、自民党には慎重論が根強く、制限期間を「少なくとも2年とすることを可能に」と提言していた。
実習生の相談を長年受けてきた指宿昭一弁護士は「3年間の就労期間のうち2年転籍できなかったら、残り1年で受け入れてくれる企業は少ない。事実上転籍ができない制度になりかねない」と政府方針を批判した。
新制度は「人材確保と人材育成」を目的とし、3年間で一定の技能が必要な「特定技能1号」の水準に育成。特定技能と受け入れ対象分野を一致させ、特定技能へ移行しやすくする。
転籍制限は「経済問題」だと語った自民議員 外国人技能実習生の「人権侵害の温床」はまだ維持されるのか
2023年11月19日 東京新聞
◆転籍が許されず、実習先での人権侵害から逃れられない
「実習生は会社を変えられないのでここで働き続けないといけない」。東京都内の建設会社で働く20代のベトナム人男性は苦しい胸の内を明かす。
今春に来日して以来、日本語の指示が聞き取れないために社長や同僚に「バカ」と怒鳴られ、頭や肩をたたかれてきた。「日本語を毎日勉強しなかったら退職する」などと書かれた不当な誓約書にサインを求められたこともあったという。
来日費用として100万円以上の借金をしているため、実習を取りやめて帰国することもできない。「制度が変わるなら別の会社で働きたい」と打ち明ける。
原則として3年間転籍できない現行制度は、人権侵害の温床と指摘される。規定上は、パワハラなど「やむを得ない事情」があると認められた場合は転籍できるとされているが、「実際は職場で問題があっても移ることができていない」と支援者らは口をそろえる。
◆1年に短縮案を公表したものの、異論に押し返された
有識者会議では、実習生にも労働者としての権利を保障するために転籍制限の緩和を検討。10月には、一般の有期雇用者と同様に1年勤めれば本人意向での転籍を認める案を公表した。
だが、地方の事業者や自民党内から「人材が都会に流出する」などと異論が噴出。有識者会議では今月15日に「人材育成の観点から必要があると認められる」などの要件を満たせば、転籍を制限する期間を「最大2年」に延ばせる例外規定が示された。
◆「転籍を実現できる体制づくり」必要
「育成就労制度」で転籍制限が緩和されると、新たな職場を探す外国人が増加すると見込まれる。現行制度でも人権侵害など「やむを得ない事情」があれば転籍できるが、次の職場がなかなか見つからない例が多い。新制度で円滑な転籍を実現するには、支援体制の整備が欠かせない。
千葉県内で働くベトナム人の女性実習生(20)は昨年7月、企業側の求めで実習先を退職した後、現在の職場が決まるまで3カ月以上を要した。「このままビザが切れて帰国することにならないか心配だった」と振り返る。
現行制度では、まずは実習生の受け入れ窓口となる「監理団体」が転籍先を探し、見つけられない場合は企業や監理団体を検査・指導する認可法人「外国人技能実習機構」が支援する。
だが、女性は監理団体に「次の実習先を見つけるのは難しい」と伝えられ、機構もなかなか動いてくれなかった。女性を支援したNPO法人「日越ともいき支援会」の吉水慈豊代表理事によると、転籍先を見つけるのに苦労する事例は珍しくなく、諦めて失踪してしまう実習生も多いという。
育成就労制度では、転籍支援は監理団体と機構に加え、新たにハローワークも連携して取り組むことになった。悪質なブローカーの介入を防ぐため、民間の職業紹介事業者の関与は当分認めない。
吉水さんは「今の機構やハローワークが増加する転籍希望に対応できるとは思えない。転籍を実現できる体制づくりが今後の課題だ」と語る。
技能実習と特定技能 技能実習は「人材育成による国際貢献」を目的に途上国の外国人を最長5年受け入れる制度で、1993年に開始。人手不足の現場で労働力の確保に使われ、名目と実態の違いが指摘されていた。2023年6月末時点で実習生は約36万人。特定技能は建設や農業など人材確保が困難な産業分野に一定の専門性を有する外国人労働者を受け入れる制度で、19年に開始。技能水準に応じて1号と2号がある。23年6月末時点で約17万人が在留。
2024年6月21日 NHK
戸籍上の性別を男性から女性に変更した当事者が凍結保存していた自分の精子で生まれた娘との親子関係を求めて起こされた裁判で、最高裁判所は21日、親子関係を認める判断を示しました。
戸籍上の性別が女性に変更されたあとに生まれた子どもについて、法的な親子関係を認めた判断は初めてです。
性同一性障害と診断され、戸籍上の性別を男性から女性に変更した40代の当事者は、変更する前に凍結保存していた自分の精子を使って30代の女性との間に2人の娘をもうけました。
娘の「父親」としての認知届を自治体に出したものの認められず、家族で裁判を起こしました。
2審の東京高等裁判所は、性別変更の前に生まれた長女については「父親」の認知を認めた一方、変更後に生まれた次女については認めず、上告していました。
21日の判決で最高裁判所第2小法廷の尾島明裁判長は「親子に関する法制度は血縁上の関係を基礎に置き、法的な関係があるかどうかは子どもの福祉に深く関わる。仮に血縁上の関係があるのに親権者となれないならば、子どもは養育を受けたり相続人となったりすることができない」と指摘しました。
その上で、裁判官4人全員の意見として「戸籍上の性別にかかわらず父親としての認知を求めることができる」という初めての判断を示し、性別変更後に生まれた次女との親子関係を認めました。
今後の親子関係や性別に関する議論に影響を与える可能性があります。
性別変更と長女・次女誕生の経緯
当事者は性別適合手術を受けて2018年に戸籍上の性別を男性から女性に変更しました。
その前、凍結保存していた自分の精子を交際相手の女性に提供し、長女が生まれました。
性別を変更した後の2020年にも同様の方法で次女が誕生しました。
長女も次女も戸籍上の「父」の欄が空欄になっていたため、同じ年に父親としての認知届を自治体に出しましたが、当事者の戸籍が女性に変更されていたため認められませんでした。
このため家族で裁判を起こしましたが、1審の東京家庭裁判所は「いまの法制度で法的な親子関係を認める根拠は見当たらない」として訴えを退けました。
一方、2審の東京高等裁判所は性別変更の前に生まれた長女については「父」として認知を認めた一方、次女については「性別変更後に生まれたため『父』とは認められない」として訴えを退けました。
次女の代理人 弁護士「常識的な判断」
判決のあと、次女の代理人を務める仲岡しゅん弁護士が会見を開き「親と子どもの双方が法的に親子になりたいと考え、なおかつ実子であるという中、最高裁判所はその事実をシンプルに認めた。ある意味、常識的な判断をしたと思う。性的マイノリティーの親を持つ子どもの権利を認める判決だ」と話しました。
また「父」として認められた女性のコメントを読みあげました。
コメントでは「子どもの権利のことを考えたうえで、今の時代にアップデートされた判断だと感じています。親子関係が認められたことはうれしく思っています」としています。
2人の裁判官が意見
今回の判決では、2人の裁判官が個別意見を述べました。
尾島裁判長「特例法も子をもうけること禁じていない」
裁判官出身の尾島明裁判長は性同一性障害特例法との関係について指摘しました。
特例法では要件の1つとして、未成年の子どもがいないことを求めていますが、尾島裁判長は「特例法は、性別変更後に生殖補助医療を使って子どもをもうけることを禁じていない。変更前に生まれた子どもからの父親の認知も排除していない」と指摘し、矛盾はないとしました。
また生殖補助医療に関する議論について「精子提供者の意思への配慮や提供者の意に反して使われた場合の親子関係が問題になっている」として、今回はそうした問題の結論になるものではないとしています。
三浦裁判官「法整備の必要ありながら現実先行」
検察官出身の三浦守裁判官も特例法の要件の1つについて「生殖補助医療の利用で子どもが生まれる可能性を否定していない」と述べました。
また、生殖補助医療をめぐる現状について「技術の発展やその利用の拡大で生命倫理や家族のあり方などさまざまな議論がある。法整備の必要性が認識される状況にありながら20年を超える年月が経過する中ですでに現実が先行するに至っている」と指摘しました。
専門家「子どもの福祉を重視し的確に解釈」
性的マイノリティーの人権問題に詳しい青山学院大学の谷口洋幸教授は、最高裁判所の判決について「社会の動きや医療の変化、当事者の現状に寄り添い、子どもの福祉を重視して的確に解釈した。人の性別は法的に変わりうるということを正面から見据えた判断だ」と評価しました。
性同一性障害特例法では、性別変更する際の要件の1つとして「未成年の子どもがいないこと」を求めています。
こうした要件との関係について聞くと「特例法ができた時は合理的な要件だったが、20年以上たって医療が進歩し、多様な性のあり方に対する人権の認識も広がっている。今回の判断は法律そのものにも重要な影響を与える可能性がある」と指摘しました。
2024年6月22日 東京新聞
≪通常国会で成立した主な法律など≫
・2024年度予算 一般会計の歳出総額は112兆5717億円
・「兵器ローン」恒久化法 自衛隊の武器を最長10年の分割払いで購入できる例外措置を固定化
・改正防衛省設置法 自衛隊の陸海空のかくぶたいを一元的に指揮する「統合作戦司令部」の創設が柱
・重要経済安全保障法 機密情報を取り扱う民間人らを身辺調査する「セキュリティー・クリアランス」制度導入
・改正民放 離婚後は父母どちらかの単独親権とする規定を見直し、共同親権を選べるようにする
・少子化対策関連法 児童手当や育児休業給付を拡充。財源確保のため「子ども・子育て支援金」を創設
・改正入管法 技能実習に代わる外国人材受け入れの新制度「育成就労」を創設
・改正地方自治法 大規模災害などの非常時にじちたいに対する国の指示権を拡大
・自民党提出の改正政治資金規正法 政治資金パーティー券購入者の公開基準を5万円に引き下げるなどが柱
・日本版「DBS」創設法 子どもと接する仕事をする人の性犯罪歴の確認を雇用主側に義務付け
インバウンドへの「二重価格」アリ?ナシ? 姫路城で「4倍」構想 ピラミッド、ルーブル…海外は多いけれど
2024年7月21日 東京新聞
円安などを背景に急増する外国人観光客(インバウンド)に対して、料金を高く設定する「二重価格」の是非が議論されている。世界遺産の姫路城では、訪日客の入場料引き上げを検討し始めた。海外の観光地では導入例が多いものの、日本ではまだ少数派。「差別的に見える」と慎重な意見もある。訪日客の増加と二重価格をどう考えるべきか。(岸本拓也)
「姫路城には7ドルで入れるが、もっと値上げしたいと思っている。外国の人は30ドル払っていただいて、市民は5ドルくらいにしたい」
◆入場者過去最多「多くの人が上ると天守閣が傷む」
6月中旬、姫路城を管理する姫路市の清元秀泰市長は市内のイベントで、訪日客の料金を約4倍にする構想を明らかにした。姫路城の外国人入場者は昨年度、過去最多の約45万人に上っており、「多くの人が上ると天守閣が傷む。市民の憩いの場であり、2種類の料金設定があってもいい」と後日、報道陣に発言の趣旨を説明。実際に値上げするかは検討中という。
海外の観光地では、外国人観光客と自国民らの間で「差」をつけることは珍しくない。エジプトのギザのピラミッドの見学料は、地元やアラブ諸国の観光客よりその他の外国人客は9倍高い。フランスのルーブル美術館やインドの世界遺産タージマハル、南米ペルーの世界遺産マチュピチュなども同様に差を設けている。
新興国を中心にホテルや飲食店で観光客からは高い料金を取るケースもあり、日本でも訪日客と地元客で料金を分ける試みが始まっている。東京・渋谷の海鮮居酒屋では、日本人や、日本で暮らす外国人であることが証明できれば、料金から1100円分を割り引き、実質的に訪日客の料金を高く設定している。
◆法的な問題はないの?
消費経済アナリストの渡辺広明氏は「訪日客向けに外国語のメニューを用意したり、スタッフが外国語で対応するなど、店側には接客コストがかかっている。ただでさえ、円安で原材料費が上がる中、事業を継続するために『二重価格』を取り入れるのは、やむを得ない。今後、日本でも広がっていくのでは」と話す。
同じサービスや商品を訪日客だけ値段を上げることに問題はないのか。消費者問題に詳しい日本女子大の細川幸一名誉教授は「自由競争下では、原則として価格は当事者間で自由に決められる。同じサービスや商品でも相手によって価格が異なっても法的な問題はない」と解説する。
年齢や居住地などの「属性」で価格差をつけることも「シニア割り」や「子ども割り」「地元住民割り」といった形で日本でも受け入れられている。近年は同じ商品でも、地域や時間帯で価格差を設ける飲食チェーンも出てきている。
◆アンケートでは反対4割「差別感ある」
ただ、訪日客向け料金については、「外国人差別では」との意見も根強い。ポイントサービス「Ponta(ポンタ)」を運用するロイヤル・マーケティングが2月に行った調査では、二重価格の導入に約6割が賛成だったが、残り約4割の反対派からは「差別感がある」「詐欺みたい」という意見が上がった。
先の渡辺氏は「飲食店なら1品サービスしたり、お城なら特別なステッカーをプレゼントするといった付加価値をつけて、訪日客に価格差を納得してもらう工夫は必要だろう」と話す。
細川名誉教授は、飲食店での安易な導入はうまくいかないとみる。「日本に来るのは円安の恩恵を受けた裕福な人ばかりではなく、若いバックパッカーもいる。外国人だからと高い料金を取られて、また日本に来たいと思うだろうか。『おもてなし』に反するような安易な外国人価格は、長い目で見て支持を得られないのではないか」
法が守ってくれない「家事労働者」、77年ぶり差別解消か 労働基準法「除外」から「適用」へ厚労省が大転換
2024年6月28日 東京新聞
厚生労働省は27日、家事代行などを担う労働者を保護するため「労働基準法を適用する方向で具体的施策を検討すべきだ」との考え方を示した。少子高齢化により家事代行で働く人が増加する中、過酷な業務の末に亡くなった家事労働者の女性が労災認定されないなどの問題も発生しており、同省は保護策が必要と判断したとみられる。家事労働者は戦後間もない1947年に労基法が施行された時から同法の対象から除外されることが明記されており、それ以来の方針転換となる。(池尾伸一)
◆雇用主の「家庭」、義務はどこまで
厚労省は、27日開かれた同省の労基法関係の研究会に方針転換を記すペーパーを提出した。労基法の適用を検討すべきだとの方向性を示した上で、雇用主に当たる家庭にどこまで使用者としての義務を負わせられるかの検討も必要と記載。研究会は近く最終的な考え方を報告書などでまとめ、厚労相の諮問機関である労働政策審議会の議論を経て、具体的な法制度が決まる。
最終弁論後の支援集会で発言する女性の夫(左)と次男=27日、東京都港区で
労基法は、1日原則8時間の労働時間上限や、残業代の支給、けがや死亡時は雇用主が補償しなければならないことを明記している。だが、当初から「家事労働者」は対象外。人材会社などに雇われている家事労働者は労基法の対象になるとの通達を厚労省は出していたが、各家庭と直接契約する労働者は法律の保護からの除外が続いている。
◆女性死亡で「除外」規定が問題化
しかし、寝たきり高齢者のいる家庭で24時間拘束で1週間働いて急死した女性が労災と認められず遺族が2020年に裁判を起こしたことをきっかけに、「除外」規定が問題化。高齢化の加速や働く女性の増加で、家事代行で働く人が増える中、労働組合や専門家からは「労基法で守られない状態が続けば、被害者が増える」との声が高まっていた。
◆夫「国は固定観念で労災認定を却下」
家事労働者として過酷な働き方をした後に急死した女性=当時(68)=の夫(77)が、過労死認定しない国を訴えた裁判の控訴審の最終弁論が27日、東京高裁で開かれ結審した。原告の夫は最後の意見陳述で「妻は社会に貢献する信念と使命感を持って仕事を続けていた。それなのに国は実態調査を省略し固定概念で(不認定の)判断を下した」として改めて労災認定を主張した。判決は9月19日。
夫は「多くの家事労働者、女性を差別してきた労働基準法が改正されるまで闘う」とも強調。裁判後の支援者集会で、介護福祉士をしている次男(43)も「母の労災認定をきっかけに、介護や家事の労働者の働く環境がよくなることを願っている」と話した。
都内に住んでいた女性は2015年5月、寝たきり高齢者のいる家庭に1週間泊まり込み、24時間拘束で家事や介護に従事した後、急死。しかし、労働基準監督署は労基法が家事労働者を除外していることを根拠に過労死として認めなかった。東京地裁での一審判決は労基署の判断を大筋で支持し、夫は敗訴した。
後発医薬品の安定供給へ “業界再編を” 厚労省専門家会議
2024年4月25日 NHK
ジェネリック=後発医薬品の不足が続く中、厚生労働省の専門家会議は、安定供給に向けてメーカーに業界再編を促し、効率的に生産を行うべきだとする報告書の案を示しました。
後発医薬品メーカーをめぐっては、品質不正などで2021年以降先月までに20社に業務停止や業務改善などの行政処分が出されていて、薬局や医療機関への医薬品の供給不足が続いています。
厚生労働省の専門家会議は、ジェネリック医薬品を安定的に供給するための解決策について議論してきましたが、24日、提言を盛り込んだ報告書案を示しました。
報告書案では、後発医薬品メーカーの多くが中小企業で製造能力に余力がなく急な増産に対応できない構造的な課題があり、ある程度大きな規模で効率的に生産や品質管理を行うべきだとして、メーカー間での協業や業界再編を促すことを提言しました。
また、すべての後発医薬品メーカーが、徹底した自主点検を行い、点検結果を都道府県や厚生労働省に報告すべきだとしています。
報告書案では、5年程度の集中改革期間で業界再編や生産性の向上、人材の育成などに取り組むよう提言していて、専門家会議では、今後さらに議論したうえで報告書を取りまとめることにしています。
大阪府 全国学力テスト すべての教科で全国平均下回る
2024年7月31日 NHK
ことし4月に行われた「全国学力テスト」の結果が公表され、大阪府内の平均正答率は小学生、中学生ともに、すべての教科で全国平均を下回りました。
「全国学力テスト」は、文部科学省が小学6年生と中学3年生を対象にことし4月、全国一斉に行い、大阪府内の公立学校では、あわせておよそ13万5000人の児童・生徒が「国語」と「算数・数学」、それに生活習慣や学習環境などに関する調査に参加しました。
大阪府教育庁は29日、▽小学6年生の平均正答率は、▼国語が66%、▼算数が63%、▽中学3年生の平均正答率は、▼国語が57%、▼数学が51%だったという結果を公表しました。
すべての教科で全国平均を下回っていたということで、大阪府教育庁小中学校課は、「小中学校ともに全国平均にわずかに届いていない状況はあるが、ほぼ全国水準と捉えている。中学校の数学の図形領域などでは全国平均を上回っている部分もあり、一定、大阪の子どもたちが力をつけている状況が見られる」と分析しています。
一方、文章や情報を読み取って論理的に考え、記述することに、引き続き課題が見られるとして、今後、改善に向けた取り組みを進めたいとしています。
学テ、考え表現する力になお課題 ICT活用、正答率高く
2024年7月29日 東京新聞
文部科学省は29日、小学6年と中学3年の全員を対象に4月に実施した2024年度全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果を公表した。国語と算数・数学の各教科で、知識やデータを活用し自らの考えを表現する力に依然課題が見られた。アンケートでは、授業で考えをまとめ発表する際、積極的にICTを利用している学校ほど、各教科の正答率が高い傾向となった。
ただ記述式問題でも、過去に比べ無解答率が下がっているものもあり、文科省は「書くことへの苦手意識は薄れつつあり、表現力は途上だ」としている。
全国平均正答率(国公私立)は、中3が国語58・4%、数学53・0%。小6は国語67・8%、算数63・6%だった。中学国語は前年度より11・7ポイント下がった。選択式、短答式、記述式の出題形式別で見ると、中3の国語と数学、小6算数で記述式の正答率が最も低かった。
一方で、1次関数の式やグラフを用いて解決方法を説明させる数学の問題では、無解答率が過去の同様の設問より16・5ポイント下がった。
児童に好評「チーム担任制」 関わり多様、教員も負担減
2024年2月26日 日本経済新聞
2学年4クラスを4人の教員で受け持つ「チーム担任制」が、導入している京都市立岩倉北小で児童や保護者に好評だ。複数の教員が児童に接し、多様な関わりを生むのが狙い。三浦清孝校長は「固定担任制では閉鎖的になりがちな児童と教員の関係も、今は開放的。学校が過ごしやすい場所と思う子どもも増えた」と話す。
2023年9月、京都市左京区にある同小の体育館での運動会練習。1、2年生約110人が安村萌絵教諭の動きに合わせて踊っていた。
全体を見渡すのは1、2年教員チーム最年長の細井裕介教諭。カーテンに隠れ練習の輪に入らない児童もいるが、教員らは無理強いせず声をかけるタイミングを見計らっていた。児童それぞれの特性を把握し、対応の仕方を共有しているという。
チーム担任制を始めたのは22年4月。ベテラン教員が異動して20〜30代ばかりとなったことを機に、三浦校長が2学年4人でチームをつくることを決めた。
メリットは、固定担任制では一方向だった教員と児童、保護者との関係に幅が出て、児童にとっては理解者が増えることだ。教員も互いを補い合うことができ、懸案も1人で抱え込まずに済む。
教科担当は状況に合わせてチームで決める。例えば1年生の場合、2学期は安村教諭が国語を、細井教諭が算数を、図工と音楽は別の2人の教諭が受け持った。体育や学級活動などはチーム合同で行うことも多く、朝と帰りの会は学期ごとに担当を入れ替えた。通知表の評価もチームで会議を開いて判断している。
今年1月実施のアンケートでは、児童の85%以上がこの制度を肯定的に捉えていた。4年生の女子児童は取材に「自分のことを知ってくれる先生が増えて学校が楽しい」と笑顔で答えた。5年生の息子がいる保護者は「話をできる先生がたくさんいるのはありがたい」と話す。
細井教諭は、いまだに自分のクラスという概念を払拭しきれないとしつつも「教員同士で話す機会も増え、足並みがそろっている。どの子どもたちにも声をかけやすくなった」と前向きに受け止めている。安村教諭は「若手からすると、チーム制は相談しやすく学びも多い」と話した。
文部科学省によると、同様の取り組みは各地でも広がりつつある。三浦校長は「支え合うことで教員の心理的負担が軽減される。時短勤務の教員も力を発揮できるようになった。休暇も取得しやすくなった」と説明し、24年度以降も継続すると語った。〔共同〕
担任の先生を複数にしたら…導入した杉並でわかったメリットは? 小中学校で広がる「チーム担任制」
2024年7月31日 東京新聞
小学校で学級担任を1人に固定せず、複数で受け持つ「チーム担任制」が各地に広がっている。子どもや保護者の対応を抱え込んで休職や退職に至る「担任不在」を防ぎ、教員不足の歯止めの一助になることも期待される。東京都杉並区立の小学校では昨年度1校だったが、本年度は4校が導入。教員同士の情報共有不足などの課題を見つめながら、教育環境の改善を目指している。(奥野斐)
◆杉並区では、あらたに4校が導入
翌週の予定を見ながら話し合う中学年担当の5人の教諭=東京都杉並区立東田小で
翌週の予定を見ながら話し合う中学年担当の5人の教諭=東京都杉並区立東田小で
© 東京新聞 提供
子どもたちが下校した午後3時半ごろ、7月上旬の杉並区立東田小のチーム担任用の職員室に、3・4年担当の5人の教諭が集まった。週1回の会議。「この科目が進んでないから、代わって」「夏休みの宿題の説明は私がまとめてやります」。黒板に張った各学級の時間割を見ながら、翌週の予定を確認し、児童の様子などを話し合った。
同校は昨年度、区内で初めてチーム担任制を導入した。きっかけは、担任教諭の病気休職が相次いだことだ。年度途中で担任3人が長期休職に追い込まれた年もあった。
◆5学級に6人、交代制や科目を分担し教員の負担軽減
昨年度は5・6年の5学級を6人で担当。都や区の教育委員会の追加配置で学級数より多くした。ホームルームや給食、清掃をみる担任は1週交代。国語や算数などは、各教科を得意とする教員が受け持った。フリーの教諭を常に1人置いて保護者への連絡や、他の教諭のサポートに入った。
加わった1人、川田紘平主幹教諭(39)は「担任を持たない週は、朝の授業前に教科準備ができるなど、余裕が生まれた。保護者対応や子どものトラブルにも素早く動ける」と振り返る。
◆「どの先生にお願いしたら…」「子どもを覚えるのに時間かかる」
課題も見えてきた。児童や保護者アンケートで「ある先生にお願いしたことが、他の先生に伝わってない」「誰に話せばいいか分からなかった」などコミュニケーションの問題が指摘された。教諭側からも「子どもを覚えるのに時間がかかる」といった懸念が聞かれる。本年度は、そうした課題改善に力を入れつつ、川田さんら計5人で3・4年4学級を受け持つ。
こうした動きは各地で見られる。富山県南砺市は2020年度に市立小中学校全17校(当時)で導入。京都市では、22年度に市立小1校が始め、23年度は20校、本年度は27校に拡大した。市教育委員会の担当者は「子育て世代の時短勤務者が増えて、導入する学校もあるようだ」と話す。
杉並区教委によると、昨年度(今年2月末時点)で「担任不在」は区立小7校、8学級に上ったという。だが東田小は、担任不在も休職者もゼロだった。斎藤瑞穂校長は「昨年度、1人も休職者が出なかったことが成果」と話す。「担任不在になると、子どもたちは荒れ、代わりの教諭も疲弊してしまう。教育環境の面でもチーム担任制は効果的だ」と語った。
◆情報共有と教え子とのコミュニケーションを丁寧に
教育研究家の妹尾昌俊さんの話 チーム担任制では、教員それぞれの力量や経験の差をフォローし合えるし、若手と中堅やベテランが協力しやすい。子どもから見れば、相性のいい先生に相談できるなどのメリットがあり、不登校対策にもなる。ただ、教員間で情報共有ができる時間的余裕がないことや、関係性の維持などが課題だ。関わる教員が増えることで、コミュニケーションや変化への対応を難しく感じる子もおり、丁寧な対応が求められる。国も学級担任制がベースの現状の制度を見直し、余裕のある人員配置ができるよう検討すべきだ。
チーム担任制 学級担任を1人に固定せず、学級運営を複数の教員で分担するやり方などを指す。自治体や学校が現場の状況に合わせて導入しており「学年担任制」とも呼ばれる。文部科学省は働き方改革事例集で導入例を紹介しているが、国主導の施策ではなく、導入校数などの統計はない。
株価 過去最大の値下がり ブラックマンデー超え“4つの要因”
2024年8月5日 NHK
週明けの5日の東京株式市場は、アメリカの景気減速への懸念や円高の進行を受けて全面安の展開となり、日経平均株価の終値は4400円を超えるかつてない急落となりました。世界的に株価が暴落した1987年のブラックマンデーの翌日につけた3836円を超えて過去最大の下落幅を記録しました。
目次
「サーキットブレーカー」の措置も
株価急落 4つの要因
5日の東京株式市場は取り引き開始直後から全面安の展開となり、午後に入ると売り注文は一段と膨らみました。
日経平均株価は午後2時50分過ぎには4700円以上値下がりし、かつてない急落となりました。
先週2日に発表されたアメリカの雇用統計の結果が市場の予想より悪かったことからアメリカの景気減速への懸念が一段と強まったことに加えて、東京外国為替市場で急速に円高が進んだことで、輸出関連の銘柄などでも売り注文が膨らみました。
▽日経平均株価、5日の終値は先週末の終値より4451円28銭安い、3万1458円42銭となり、世界的に株価が暴落した1987年のブラックマンデーの翌日につけた3836円48銭を超えて過去最大の下落幅を記録しました。
▽東証株価指数、トピックスは310.45、下がって2227.15。
▽1日の出来高は40億8980万株でした。
市場関係者は「午後に入ってからは相場の混乱をチャンスとみた投機筋の動きもみられ、株価は一段と下落した。さらに、緊迫化する中東情勢も株価下落の要因となっていて、日経平均株価とトピックスはともに終値として年初来の安値をつけた」と話しています。
「サーキットブレーカー」の措置も
株価が記録的な急落となるなか、大阪取引所では日経平均先物の取り引きで午後1時26分から10分間、売買を一時中断する「サーキットブレーカー」と呼ばれる措置がとられました。
「サーキットブレーカー」は取り引きの混乱を避けるため取引所が一時的に売買を止める措置です。
日経平均先物で発動されるのは、イギリスのEU離脱の賛否を問う国民投票の結果をめぐって株価が急落した2016年6月24日以来、およそ8年ぶりです。
午前中には東証株価指数=トピックスの先物やオプション取引でもおよそ13年ぶりに「サーキットブレーカー」が発動されています。
株価急落 4つの要因
株価が急落した要因は4つあります。
【1,アメリカの景気減速への懸念】
先週発表されたアメリカの経済指標が市場の予想を下回り、さらに2日に発表されたアメリカの雇用統計も市場の予想より悪い結果となったことで景気減速への懸念が一段と強まりニューヨーク市場で株価が急落。
これを受けて東京市場でも株価が大幅に値下がりしました。
【2,円高ドル安の加速】
きっかけとなったのは先月31日に日銀が追加の利上げに踏み切り、植田総裁が会見でさらなる利上げの可能性に言及したことです。
日本時間の翌日1日にはアメリカのFRB・連邦準備制度理事会のパウエル議長が会見で、早ければ9月の会合で利下げが決定される可能性があると発言。
日米の中央銀行トップの発言で円高が一気に進みました。
円相場は先月上旬には1ドル=161円台まで値下がりし、31日の植田総裁の会見前には1ドル=152円台で取り引きされていましたが、その後、アメリカ経済の先行きへの懸念が強まったこともあって急速に円高ドル安が進みました。
5日の東京市場で円相場は午後3時すぎに1ドル=141円台まで値上がりしました。
日本の輸出企業が事業計画をたてる際に想定する為替レートは、現在、平均で145円前後といわれています。
この水準より円高が進んだことで、これまで円安の恩恵を受けてきた輸出企業などの業績に悪影響が及ぶのではないかという懸念が一気に強まり、これが一段の株安を招きました。
【3,中東情勢の緊迫化】
イスラエルと戦闘を続けるイスラム組織ハマスの最高幹部が訪問先のイランで殺害されたことを受け、イランはイスラエルによる攻撃だとして報復を行う考えを示しています。
このため投資家の間ではリスクを避ける姿勢が強まり、売り注文が一段と膨らみました。
【4,投機筋の仕掛け】
一方、株価がかつてないような急落となった背景にはこうした要因とは別に、投機筋が短期的な取り引きで利益を確保するために先物取引やいわゆる空売りなどを通じて大量の売り注文を入れたのではないかという指摘も出ています。
株式市場では売り買いの前提条件を細かくプログラムに組み込んだいわゆる「高速取り引き」によって相場が左右されているという見方もあり、株価の急落を助長するともいわれるこうした取り引きが今回どのように影響したのかも株価急落の要因を見る上での焦点となります。
専門家はどう見たのか
「売りが売りを呼ぶ」
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、今回のかつてない株価の急落の要因について「日本の景気の先行きが大きく危惧される状況では決してなく、小さな売り材料が積み重なった結果、売りが売りを呼ぶ状況になり、株価が下げ止まらなかった」と指摘しました。
その上で、今後の見通しについて小林主席研究員は「企業の決算が順次、発表されているが、内容を見ても決して悪くない。『ここが底値だ』と信じることができれば、買いも入って、株価も上昇するのではないか」と述べました。
「米経済 軟着陸か景気後退か 確認必要」
UBS証券の守屋のぞみ株式ストラテジストは「ここまで日本株を引っ張ってきた外国人投資家が、日銀の政策の変化やアメリカの経済情勢の変化で考え方が変わったことが大きな影響を与えた。一気に円高が進んだ点も日本株の変化が大きく出た理由の1つだ」と分析しました。
その上で、今後の見通しについて「8月は投資家の動きが少なくなる夏休みの時期で、この短い時間軸で急にポジティブな展開になることを見込むタイミングではない。来週はアメリカの小売りの販売や消費者物価の統計の結果も出てくるので、アメリカ経済がソフトランディング=軟着陸するか、リセッション=景気後退のリスクが高まるか確認していく必要がある」と述べ、アメリカの景気の動向が重要なポイントの1つになると指摘しました。
「冷静に株価水準や個別銘柄見ていく局面」
岩井コスモ証券の林卓郎 投資情報センター長は「想定外であり、これほどの下げがあるかと正直驚いている。きょうの日経平均株価は午後になって下げが再び加速し十分な説明ができないような状況になっている」と述べました。
そのうえで要因については「アメリカのハイテク株の下落に加えて今まで株価を支えていた円安の流れが円高に転換したことが大きい。特に先週、日銀が利上げを実施し、今後も利上げの可能性を示唆したので思った以上に円高が進んだ。為替の円高進行は日本の企業業績にとって痛手となるので日本のファンダメンタルズに疑念が生じたのではないか。さらにマーケットの激しい動きを利用して、売買を重ねる短期筋がポジションを強制的に縮小するきっかけになり得るので、そういう動きも重なったのではないか」と指摘しました。
今後の見通しについては「相場が急変しているので落ち着くのに多少、時間がかかると思う。円高がどれだけ日本企業の業績に響くかや、アメリカの景気の動きを注視しつつも、これほどの下げを説明する投資環境の悪化は多分ないと思うので少し冷静に、株価水準や個別銘柄を見ていく局面に来ているのではないかと思う」と話していました。
【動画解説】急落の要因は 今後は
各業種での値下がりは
どのような業種で値下がりが目立ったのでしょうか。
東京証券取引所は東証株価指数・トピックスに採用されている企業を33の業種に分類し、業種ごとに株価指数を算出しています。
それによりますと、5日は33の業種すべてが6%を超える下落率となり、中でも「銀行業」が17.3%、「証券、商品先物取引業」が16.5%、「保険業」が17.6%、それぞれ下落しました。
長期金利が大きく低下したことや、株価の急落で収益への影響が懸念され、金融関連の銘柄で下落が目立ちました。
また、総合商社が含まれる「卸売業」が15.1%、自動車メーカーなどの「輸送用機器」が14.4%の下落となっていて、急速な円高の進行による採算悪化への懸念が株価の下落につながったものとみられます。
さらに、日経平均株価の値動きへの影響が大きい半導体関連などの銘柄が含まれる「電気機器」や「精密機器」でも10%を超える下落となりました。
“株価暴落”どう受け止めたか 大手企業や NISA始めた市民は
5日の株価の推移 詳細
【午前9時 取引開始】
5日の東京市場では取引開始直後から全面安となり、およそ15分で日経平均株価の下落幅は2500円を超えました。
その後はいくぶん買い戻しの動きが出て、午前の終値は先週末より1662円14銭、安い3万4247円56銭でした。
【正午以降】
ただ、午後に入ると外国為替市場で一段と円高が進んだことや、アメリカの主要な株価指数の先物がさらに値を下げたことなどから、加速度的に売り注文が増え、株価の下落に歯止めがかからない状況となりました。
さらに投機筋による売り注文が一気に膨らんだことが下落に拍車をかけたという指摘もあります。
【午後2時20分すぎ】
日経平均株価の下落幅は、世界的に株価が暴落した1987年のブラックマンデーの翌日につけた3836円48銭を超えて過去最大になりました。
【午後2時50分すぎ】
その後も取り引き終了にかけて下落は続き、4700円以上、値下がりしました。
【午後3時 取引終了】
結局、日経平均株価の終値は先週末より4451円28銭、安い3万1458円42銭となり、終値としても過去最大の下落幅となりました。
ことし最初の取り引きで3万3000円台だった日経平均株価は上昇基調が続き、2月にバブル期の史上最高値を上回ったあと、3月に初めて4万円を突破。
7月11日には4万2000円を超えて最高値を更新していました。
しかしその後、わずか1か月弱の間でことしに入ってからの上昇分が帳消しになるかつてない急落に見舞われています。
証券会社 問い合わせ相次ぐ
日経平均株価がかつてない急落となり、証券会社には個人投資家からの問い合わせが相次ぎました。
東京 中央区の証券会社にあるコールセンターでは、およそ20人の社員が客からの問い合わせにあたっていました。
問い合わせは、午前9時の取り引き開始直後から相次ぎ、今後の経済や株価の見通しに関する問い合わせのほか、保有する株式を売却したいという内容も多かったということです。
岩井コスモ証券東京コールセンターの本間大樹センター長は「電話の件数がかなり増えているので待ってもらう場合も出ている。焦らずに対応しようと思っているが、それ以上に株価の下がるスピードが速くなっている」と話していました。
鈴木金融担当相「NISA投資 冷静に判断を」
株価の急落について、鈴木金融担当大臣は「株価は市場において決定されるもので背景などを一概に申し上げることはなかなかできないが、政府として冷静に判断していくことが重要だと考えている。ことしの春闘での33年ぶりの高い水準での賃上げなど、日本経済には前向きな明るい動きが見られ、今後も雇用所得環境が改善する中で、緩やかに回復をしていくと考えている。内外の経済・金融市場の動向について、日銀とも連携しながら、緊張感をもって注視するとともに今後の経済財政運営にも万全を期していきたい」と述べました。
また、ことしから制度が拡充された優遇税制「NISA」で新たに投資を始めた人などに対しては「株価下落などの市場変動が進む中にあっても、長期、積立、分散投資の重要性を考慮し、冷静に判断していただきたい」と述べました。
さらに、外国為替市場で円高が急速に進んでいることについて鈴木大臣は「円相場の水準はファンダメンタルズ=経済の基礎的条件を反映して決められるものであって、安定的に推移することが望ましいと考えており、為替相場の動きも注視していきたい」と述べました。
林官房長官「緊張感持って注視 万全を期す」
株価の大幅な値下がりを受けて、林官房長官は記者団の取材に応じ、冷静に状況などを判断していく重要性を強調した上で、内外の市場動向を注視しながら、経済財政運営に万全を期していく考えを示しました。
この中で林官房長官は、株価の大幅な値下がりについて「政府としては、冷静に判断していくことが重要だと考えており、内外の経済・金融市場の動向などを緊張感を持って注視するとともに、経済財政運営に万全を期していきたい」と述べました。
その上で、国内経済について、力強い賃上げの動きに加え、設備投資や企業業績が過去最高水準になっているなどと指摘するとともに「デフレからの完全脱却、新たな成長型経済への移行に取り組み、家計所得の伸びが物価上昇を上回る状況を確実に作り出していく」と強調しました。
さらにコーポレート・ガバナンス=企業統治の改革なども着実に進んでいるとしつつ「国内外の資金を呼び込み、成長と分配の好循環を実現していく。さらなる改革を推進し『資産運用立国』の実現に向けた取り組みを進めていく」と述べました。
一方、為替相場の動向については「ファンダメンタルズ=経済の基礎的条件を反映して安定的に推移するということが重要で、しっかり注視していきたい」と述べました。
アジアでも株価が大幅下落
5日のアジアとオセアニアの株式市場は、アメリカの景気減速への懸念から各地で売り注文が膨らみ、株価は、韓国や台湾で8%を超える大幅な値下がりで取り引きを終えました。
各地の代表的な株価指数の5日の終値は、先週末と比べて、▽韓国でおよそ8.7%、▽台湾でおよそ8.3%の大幅な下落となりました。
このうち韓国では5日午後、一時、10%を超える値下げ幅となり、売買を一時的に中断する「サーキットブレーカー」と呼ばれる措置がとられました。
このほか、▽オーストラリアのシドニーでおよそ3.7%、▽中国・上海でもおよそ1.5%値下がりして取り引きを終えました。
各地で株価が下落したのは、先週2日に発表されたアメリカの雇用統計の結果が市場の予想より悪かったことから、投資家の間でアメリカの景気減速への懸念が一段と強まったことがあります。
市場関係者は「中国の不動産不況が長期化する中で、アメリカ経済についても先行きへの警戒感が急速に強まったことから、投資家の間ではアジア各国の経済への影響を懸念する声が出ている。韓国や台湾では、株式市場をけん引してきた半導体関連の銘柄を中心に売り注文が大きく膨らんだ」と話しています。
欧州でも株価下落
5日のヨーロッパの株式市場は、アメリカの景気減速への懸念から各国で株価が下落しています。
ヨーロッパの主な株式市場では日本時間の午後4時に週明けの取り引きが始まり、各国の株価は開始直後から幅広い銘柄で売り注文が出て全面安の展開となっています。
先週末の終値と比べた株価指数は日本時間の午後5時時点で▽フランクフルト市場で2.3%下落しているほか、▽ロンドン市場で2.2%、▽パリ市場で2.1%と、いずれも2%を超える値下がりとなっています。
このうちパリ市場では一時、3%の下落となりました。
市場関係者は「アメリカ経済減速の警戒感が強まり、ヨーロッパ経済への影響を懸念する見方が広がった。外国為替市場での円高の進行とともに、株価が大幅に下落したアジア市場の流れを受けて、リスクを回避する姿勢が鮮明になっている」と話しています。
海外メディアも報じる
アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは歴史的な下落だとした上で「日経平均株価は7月、記録的な高値に達したあと25%以上下落し弱気相場の領域に入った」と伝えています。
また、CNNテレビは「パニック売りを防ぐため、変動幅が大きい時に売買を一時中断する『サーキットブレーカー』が東京とソウルで複数回にわたって発動された」とした上で、他のアジアの株式市場にも影響が広がったことを伝えています。
このほか、有力紙のニューヨーク・タイムズは「世界中の市場が動揺」という見出しでアメリカ経済の減速懸念を受けた各地での株価急落について取り上げ、「株価の下落は特に日本で顕著だった。世界経済への警戒感に加え、円高が企業収益に与える打撃への懸念が加わった」と伝えています。
在日米軍のPFAS汚染、対策費を日本政府が肩代わり 普天間飛行場で計2.7億円 周辺対策は沖縄県に押しつけ
2024年8月20日 東京新聞
沖縄県宜野湾(ぎのわん)市にある米軍普天間(ふてんま)飛行場で、有害な有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)の対策工事にかかった費用1億7600万円を、日本政府が負担していたことが東京新聞の調べで分かった。対策工事とは別に、基地内のPFASを含んだ汚水の処理も日本側が引き受け、9400万円を負担していた。
一方で、基地周辺のPFAS汚染については、これまで沖縄県が対策費を支出してきた。
米軍が自ら負担すべき基地内の汚染の後始末は日本政府で肩代わりしながら、基地周辺の住民の健康を守るための費用については、なぜ地元に押し付けているのだろうか。(中沢誠)
◆返還する基地の補修費に217億円
住宅街に囲まれ、「世界一危険な基地」と呼ばれる普天間飛行場では、危険性除去のため、沖縄の民意に反して、日本政府が名護市辺野古への移設工事を進めている。
いずれ日本に返還されることになっている普天間飛行場では、補修工事が毎年のように実施されている。東京新聞の情報公開請求では、2013年度から2023年度までに、工事費のうち217億円を日本側が負担していたことが判明した。辺野古への移設工事は、埋め立て海域に軟弱地盤が見つかり、難航が予想される。普天間の返還が遅れれば、日本側の負担がさらに膨らむ恐れがある。
◆流出防止のため格納庫を補修
今回明らかになった普天間飛行場のPFAS対策工事は、日本側が負担した217億円の補修費の一部。防衛省沖縄防衛局が、PFASを含んだ汚水の流出を防ぐため、軍用機の格納庫を補修したことを認めた。沖縄防衛局が本紙に開示した「普天間飛行場における契約記録一覧」によると、格納庫の補修は2023年2月に発注していた。
◆発端は2021年の米軍の汚水放出
普天間飛行場では、PFASを含む泡消火剤を訓練で使用。その際に生じた汚水を格納庫の地下貯水槽に保管していた。大雨になると、貯水槽に雨水が流れ込み、汚水が外にあふれ出す恐れがあった。そこで米軍は2021年8月、PFASの濃度を下げたとして、貯水槽の汚水(6万4000リットル)を基地外の下水道へ放出した。米軍の汚水放出を受け、「汚染水を垂れ流すな」と書いた横断幕を手に抗議する市民ら=2021年8月、普天間飛行場ゲート前で(赤嶺和伸さん提供)
放出直後、宜野湾市が基地周辺の下水を調べると、日本の暫定指針値を超える高濃度のPFASが検出された。
◆負担肩代わりは「緊急措置」
日本政府は、さらなる汚水の放出を避けるため米側と協議。その結果、日本側が基地に残っている汚水をすべて引き取るとともに、格納庫の補修も肩代わりすることになった。
汚水の処理費用と格納庫の補修工事費、合わせて2億7000万円は日本側が負担した。
沖縄防衛局は「地下貯水槽への雨水の流入を防ぐため、緊急に措置が必要と判断し、本体工事に先行して格納庫の大扉部分の補修を実施した」と説明する。
◆ドイツでは米軍が費用負担
普天間飛行場では2020年4月、PFASを含む泡消火剤が基地の外に流出する事故も起きている。2023年に実施した県の最新調査によると、基地周辺の21地点中12地点で、国の暫定指針値を超えるPFASが検出されている。指針値の44倍の濃度が検出された地点もあった。日弁連の2018年の調査によると、ドイツの米軍基地周辺でPFASが検出された際には、米軍が浄化費用を負担したという。日本では基地内の立ち入り調査すら容易ではない。
◆沖縄県は対策費に20億円
米軍基地が集中する沖縄では、PFAS汚染も住民の生活を脅かしている。
しかし、基地周辺の汚染対策や、その費用は自治体任せだ。沖縄県は2016年度から、汚染源の調査や水質の分析、浄化作業などを実施している。水道を管理する企業局では2023年度までの8年間で34億円、環境部では24年度までの5年間で5億8500万円の予算を計上している。これまでに沖縄県が要した対策費40億円のうち20億円は国の補助を受けているが、県は今後も毎年10億円程度の負担を見込む。
◆水道料金値上げ、しわ寄せ県民に
普天間飛行場をはじめ県内の基地周辺で検出されたPFASについて、県は調査結果をもとに「米軍基地が汚染源である蓋然(がいぜん)性が高い」と指摘している。今年1月には、玉城デニー知事が防衛省に対策費用の負担などを求めた。沖縄県企業局の担当者は「PFAS対策費は水道料金値上げの一因となっており、県民に負担がのしかかっている。基地由来の汚染である可能性が高い以上、米軍施設を提供している国に費用を負担してもらいたい」と訴える。防衛省は「(PFASの一種である)PFOSなどを巡る問題は、沖縄県の皆さまが不安を抱いていることを受け止め、政府全体として取り組みを進めている。関係省庁および米側と緊密に連携し、必要な対応を行っていく」としながらも、国の費用負担については態度を明らかにしていない。沖縄防衛局は2023年2月、格納庫の「改修建築工事」として、1億7600万円でPFAS対策工事を発注していた
◆汚染者負担の原則に反する
桜井国俊・沖縄大名誉教授(環境学)の話 汚染者負担の原則からすれば、米軍が自らの負担で実施すべきものだ。本来、返還される基地がいまだに返還されず、しかも永久使用するかのように基地のメンテナンス費用を日本側が肩代わりしていることすらおかしいのに、基地のPFASの対策工事まで日本側が負担するのは納得しがたい。
米イランがホットライン 衝突回避で異例合意
2024年8月20日 日本経済新聞
【テヘラン=共同】イラン政府と米政府が、衝突回避に向けて迅速に連絡を取り合えるホットライン(専用回線)開設で合意したことが分かった。イラン政府高官が17日、共同通信に明らかにした。長年敵対する米イランが直接の連絡手段を設けるのは異例。パレスチナ自治区ガザ情勢に絡み、中東での偶発的な緊張拡大を望まない双方の思惑が一致した。
イランはイスラム組織ハマス最高指導者だったハニヤ氏暗殺をイスラエルの犯行と断定、報復を宣言した。米軍はイスラエルの防衛強化に向けて巡洋艦や駆逐艦などを中東に派遣。一方、イラン軍や革命防衛隊も警戒を高めており、予期しない形で衝突することが懸念されている。
イラン政府高官によると、ホットラインではイラン軍と米中央軍が直接、意思疎通を図る。米政府が14日、在イランのスイス大使館を通じて提案。イラン政府は革命防衛隊を直轄する最高指導者ハメネイ師の承認を受け、提案を受け入れると16日に回答した。既に設置されているかどうかなどは不明。
15日に再開したイスラエルとハマスのガザ停戦交渉で、仲介役の米国などは「隔たりを埋める」新提案を示した。今週にも再協議が予定されている。
イランはガザ停戦を支持している。米政府はホットラインを巡るイラン側とのやりとりで、イラン政府に対し停戦交渉への影響を防ぐためイスラエルに報復攻撃をしないよう改めて要求。イラン政府はイスラエルや米国との戦争を望んでいないと返答しつつ、適切な時にイスラエルに報復する意思を重ねて示したという。
人工赤血球の実用化を目指す 奈良県立医大で臨床試験 開始へ
2024年7月1日 NHK
奈良県立医科大学は、献血で集めた血液のうち、有効期間が過ぎたものなどを再利用して人工的に赤血球を作製し、実際に人に投与して安全性や効果を確かめる臨床試験を、来年度(令和7年度)から本格的に始めると発表しました。実用化すれば、輸血用の血液の不足を補えると注目されています。
これは奈良県立医科大学の酒井宏水教授の研究グループが、記者会見を開いて発表しました。研究グループは、全身に酸素を運ぶ赤血球を人工的に作製し、実際に人に投与して安全性や効果を確かめる臨床試験を、来年度から本格的に始めるということです。
グループが開発した「人工赤血球」は、献血で集めた血液のうち、およそ1か月とされる有効期間が過ぎたものなどから赤血球の成分だけを取り出し、人工的な膜で包んだものです。輸血用の通常の赤血球は、冷蔵で保存する必要がありますが、「人工赤血球」は常温で、およそ2年間保存が可能だということです。今回の臨床試験では健康な人、16人に投与する計画でその後、グループでは投与する人の数を増やすなどして、10年以内の実用化を目指したいとしています。酒井教授は「実用化できれば、いつでもどこでも輸血ができるようになる。手術や救急医療の現場で活用できるよう、研究をすすめていきたい」と話しています。
【献血の現場は】
日本赤十字社によりますと、献血された血液からは▼赤血球▼血小板▼血しょうの成分に分けて輸血用の血液製剤が作られ、このうち、赤血球の製剤の有効期間は採血後、28日間ということです。このため、日本赤十字社では医療機関への供給量を調整しながら、期間内に使えるようにしていますが、中には期限が切れて廃棄しないといけないものもあるということです。さらに、1人が1年間にできる献血の回数や量には上限があるため、血液製剤を安定して供給するためには、多くの人が継続的に献血する必要があります。
しかし近年、若年層の献血が減少していて、30代以下は令和3年度までの10年間で、およそ30%減ったということです。また、献血には年齢制限が設けられているため今後、少子高齢化がさらに進むと、血液製剤が不足するおそれがあるということです。
奈良県赤十字血液センター献血推進課の大東雄一 係長は「少子高齢化によって将来、医療機関に安定的に血液製剤を届けることができなくなり、日本の輸血医療が成り立たなくなることが懸念されていて大きな課題だ」と話しています。
iPS由来の新薬、全自動化支援 政府「製造・販売」見据え
2024年8月17日 沖縄タイムズ
政府が人工多能性幹細胞(iPS細胞)に由来する医薬品製造を巡り、細胞培養などの工程を全て自動化する技術開発の支援に乗り出すことが17日、関係者への取材で分かった。iPS細胞は作製工程が複雑で、手作業のため費用が高く、品質がばらつく課題があった。iPS細胞を使う再生医療の実用化を見据え、低価格で高品質な製品を安定供給できる体制の確立を目指す。
iPS細胞を使う治療は、心臓病、パーキンソン病、脊髄損傷などで臨床研究が進んでいる。研究から実用化までを「バトンをつなぐ」ように、国内で医薬品の製造まで連続的かつ円滑に進む技術を開発し、日本の優位性を強固にする狙いがある。
文部科学省はiPS細胞の作製を自動化できれば、1人当たり約4千万円の費用を約100万円にでき、作製数も大幅に増やせると試算する。研究機関への財政支援など関連費用を2025年度予算案の概算要求に盛り込む方針。経済産業省も細胞培養や品質分析に関わる機器の企業やソフトウエアメーカーが連携して技術開発する仕組みを整える方向で検討している。(共同通信)
高速道路逆走、カーナビで警告へ 運転手本人と周辺車両に、国交省
2024年8月20日 東京新聞
高速道路での逆走が相次ぐ中、国土交通省は事故を減らす新システムの導入を決めた。監視カメラで逆走車を検知し、運転手本人や周辺の車両にカーナビなどで警告する。2024年度中に技術開発を担う事業者を公募し、実験を経て逆走が多い地点での早期実用化を目指す。29年までに死傷事故ゼロを達成するのが目標だ。
国交省によると、監視カメラは保安用で、故障車や落下物など路面状況を把握するのに使われている。設置数は全国で1万5千台を超え、路線の大半をカバーしているという。逆走車の検知は、AIの画像処理技術などを活用すれば可能と判断した。
運転手本人には、カーナビや、代わりに使うことが多いスマホの地図アプリを通じて「逆走しています」と音声で警告する仕組みを想定している。正しい向きで走行している周辺の車両にも、同様に「逆走車がいる恐れがあります」と知らせ、出合い頭の事故を防ぎたい考えだ。
事業者の公募は高速道路会社が行う。実験では効果や課題を洗い出し、逆走が繰り返し起きている地点に優先的に導入する。時期は未定。
<社説>物流網の構築 中央アジア増す重要性
2024年8月21日 東京新聞
中央アジア5カ国の地政学的な重要性が再認識され、東アジアと欧州を結ぶ物流網「カスピ海ルート」構築に向けた動きが加速している。隣接するロシア、中国と関係が深い地域だが、日本や欧米の関心も高い。国際社会は分断を持ち込まず、地域の発展と物流の円滑化に向けて協調すべきだ。
岸田文雄首相は南海トラフ地震の臨時情報「巨大地震注意」を受けて中央アジア5カ国トップとの首脳会談を取りやめたが、日本政府は2004年に5カ国との対話の枠組みを創設して以来、外相レベルの協議などを重ねてきた。
政府の狙いは、石油や天然ガス、レアメタル(希少金属)など豊富な天然資源を確保することに加え、ロシアを経由せずに日本と欧州をつなぐカスピ海ルートの構築だ。政府は円滑な物流網の整備、省エネと脱炭素、人材育成などへの支援を表明している。
中国は01年、ロシアと中央アジア各国に呼びかけて「上海協力機構(SCO)」を設立。安全保障協力とともに、資源開発と中国から中央アジアに至る鉄道網の整備などを進めてきた。
13年には習近平(しゅうきんぺい)国家主席がカザフスタンを訪問し、巨大経済圏構想「一帯一路」の原型である「シルクロード経済ベルト」を初めて提唱。旧ソ連構成国だった5カ国の取り込みを図っている。
ロシアが22年、ウクライナに侵攻すると、侵攻に否定的な中央アジア各国はロシアと距離を置いた。特にロシア系住民が約18%を占めるカザフの危機感は強い。
欧米にとってもロシア回避ルートの重要性は増し、欧州連合(EU)はカザフからカスピ海、アゼルバイジャン、黒海を経て欧州に至る約4750キロのカスピ海ルート整備に向け100億ユーロ(約1兆6千億円)の投資を決めた。
緊迫する中東情勢を受け、同ルートにはスエズ運河ルートを補完する役割もある。実現には膨大な費用と労力に加え、鉄道・船舶の輸送能力不足と老朽化、複数の国を経由する煩雑な税関手続きなど問題も多い。国際社会は投資とインフラ整備を適切に分担し、ともに課題解決を目指すべきだ。
文化財登録、導入は9府県どまり 伝統存続狙う保護制度、広がらず
2024年8月21日 東京新聞
2022年改正の文化財保護法で法制化された自治体独自の文化財登録制度を設けている都道府県は9府県にとどまることが21日、共同通信の調査で分かった。人口減少で各地の伝統文化の存続が危ぶまれる中、制度を通じて地域で文化財を積極的に保護できるようにする狙いだが、必要な人手や財源が不足し、導入をためらう自治体がみられた。
文化財保護法には指定制度と登録制度がある。指定は国と自治体ができ、現状変更の制限など強い規制がある一方、手厚い助成を設けている。
これに対し、登録は緩やかな規制で保護する仕組み。国による登録に加え、法改正で自治体登録制度を新設。指定や国登録に至っていない文化財でも独自の判断で幅広くカバーできるようにした。登録により文化的価値を高め、観光資源などに活用しやすくする効果も期待されている。
都道府県を対象に調査したところ、制度がある9府県は群馬、千葉、富山、愛知、京都、大阪、兵庫、和歌山、佐賀。うち4府県は、文化財の修理や継承活動への補助制度がある。
教員の給与上乗せ 月給の4%から13%に引き上げる案 文科省
2024年8月22日 NHK
文部科学省は、教員の処遇改善などを議論してきた中教審の特別部会の提言を受けて、教員に残業代を支払わない代わりに支給する給与の上乗せ分を現在の月給の4%から13%に引き上げる案をまとめたことがわかりました。
教員の働き方改革や処遇改善を議論してきた文部科学省の中教審=中央教育審議会の特別部会は、ことし5月に審議結果をまとめ、公立学校の教員の給与について「給特法」という法律で残業代を支払わない代わりに一律で月給の4%を上乗せしている分を、少なくとも10%以上に引き上げることなどを文部科学省に提言しています。
これを受けて文部科学省が、上乗せ分について現在の月給の4%から13%に引き上げる案をまとめ、来年度予算案の概算要求に盛り込むことがわかりました。
文部科学省は「給特法」の改正案を2025年の通常国会に提出する予定で、実現すれば、給与の上乗せ分の引き上げはおよそ半世紀ぶりとなります。
このほか、学級担任への手当の加算や管理職手当を改善するほか、「教諭」と「主幹教諭」の間に「教諭」より給与の高い新たな中堅ポストの創設についても概算要求に盛り込む方針で、教員の処遇改善を進めることにしています。
日清食品 カップヌードルなど“価格引き上げ要求”公取委警告
2024年8月22日 NHK
食品メーカー大手の「日清食品」が、「カップヌードル」など5つの主力商品で、小売店に販売価格を引き上げさせ価格競争や消費者が商品を安く購入する機会を奪っていたとして、公正取引委員会は独占禁止法に違反するおそれがあると、警告を出しました。
公正取引委員会の会見
公正取引委員会によりますと、食品メーカー大手の日清食品は、おととしと去年の2回、原材料価格の高騰に伴って希望小売価格を5%から13%値上げしましたが、これにあわせて「カップヌードル」や「日清焼そばU.F.O.」など5つの商品について、全国のスーパーやドラッグストアなどの小売店に販売価格を引き上げるよう求めていたということです。
本来、販売価格は、小売店が自由に決めるものですが、公正取引委員会が調査した結果、日清食品が小売店に対して、ほかの店でも値上げを実施する予定であると説明するなどして価格を引き上げさせ、実際に営業担当者が店に出向いて価格の確認をしていたことがわかったということです。
こうした要求は、小売店どうしの価格競争や消費者が商品を安く購入する機会を奪い、独占禁止法で禁止されている「再販売価格の拘束」にあたり法律に違反するおそれがあるとして、公正取引委員会は日清食品に22日付けで再発防止などを求める警告を出しました。
2015年から行われ、ブランド価値の低下を避けるねらいがあったとみられるということです。
一方で、日清食品が中心となって小売店の情報を共有することでカルテルのような状態になっていた疑いもあるとして、公正取引委員会は、食料品の値上げが続く中、小売業界全体の監視を今後も強めることにしています。
日清食品「深くおわび」
日清食品は「お客さまや取り引き先などにご迷惑をおかけしていることを深くおわび申し上げます。今回の警告を重く受け止め、法令順守の体制をより強固なものにするべく改善に取り組んでまいります」などとコメントしています。
専門家「デフレ経済などが背景か」
小売・流通業界に詳しい分析広報研究所の小島一郎チーフアナリストは、食品大手の日清食品が小売店に値上げを要求していたことについて、「失われた30年」とも呼ばれるこれまでに続いてきたデフレ経済などが背景にあるのではないかと指摘しています。
小島さんは、「30年間にわたってデフレ傾向が続いてきた中、小売の現場では『モノを安くしないと売れない』という考えが染みついていることや、安く売ったほうが消費者に売りやすいことなどから、値段は上がっていかなかった。さらに、ほとんどの日本の食品メーカーは利益率が低く、それを上げようと思ったら、安く作るか、運営のコストを下げるか、高く売るかしか選択肢はないが、安く作る、運営のコストを下げるということに関しては、すでにかなり行われ、余地は乏しい。こうした中、いかに値段を上げていくかというのは、メーカーとしての課題になっていた」と指摘しています。
また、店頭の小売価格が横並びで引き上げられる状況が起きていたことについては、「小売側も売りやすさから安売りする傾向にあるが、そもそもかなり薄利のビジネスであるうえ、この30年でそれが行き過ぎて、小売で働いている人たちの環境が厳しくなったり、人口減少なども背景に小売店が消滅したエリアも出てきたりしている。高く売れるなら高く売りたい、というのが本音ではないか」と指摘しています。
そのうえで「原材料費が上がってくれば売価に反映させなければいけないのは当然の流れだが、大前提として法律やルールにのっとった形でやらなければならず、そうしなければ値上げ自体がすべて悪いものにされかねない。日清食品は、リーディングカンパニーで責任ある立場ならば、適正な方法でやっていただきたいと思う」と話していました。
流入続く移民・難民「もううんざり」 ドイツで反移民掲げる極右政党が台頭 ネオナチまがいの姿勢に警戒感も
2024年1月17日 東京新聞
ドイツで反移民・難民を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進している。2023年には複数の自治体でAfDの首長が生まれた。流入が続く移民・難民に対する国民の危機意識などを背景に、全国での政党支持率では2位に付ける。しかしネオナチまがいの思想や、民主主義に背を向けるような姿勢に、警戒感も強まっている。(ドイツ東部テューリンゲン州で、榊原大騎、写真も)
◆23年夏には郡長選で初勝利 国内外に衝撃
テューリンゲン州ゾンネベルク郡で行われた2023年6月の郡長選で、AfDのロベルト・ゼッセルマン氏が得票率53%の僅差で決選投票を制し、ドイツ史上初のAfD首長となった。国内外の衝撃は大きく、国際アウシュビッツ委員会が「有権者は民主主義に別れを告げた」と声明を出した。
木製おもちゃの製造で知られる同郡の人口は約5万5000人。バー店主のアディさん(25)は「たくさんの移民や難民が毎年来て、見た目も宗教も違う連中のために税金が使われる。もううんざりだ。AfDしかない」と語った。
ドイツは近年、移民・難民の流入に揺れてきた。シリア内戦が激化した2015~16年には120万人以上が押し寄せ、その後も中東の政情不安やロシアのウクライナ侵攻などによって流入が続く。独世論調査機関インフラテスト・ディマップによる昨年10月の調査では、連邦議会(下院)が迅速に対応すべき課題として、最多の44%が「移民・難民」を挙げた。
AfDはこうした移民・難民への不満を追い風に勢力を伸ばし、17年の連邦議会選で初めて議席を得た。
◆演説で「ナチ・スローガン」 反民主主義的姿勢も
しかしネオナチまがいとして批判が絶えない。AfDテューリンゲン支部の幹部も過去の演説で、禁じられている「ナチ・スローガン」を用いたとして、裁判所で審理が行われている。
さらにイスラム教徒を敵視する排外主義的な主張や、反民主主義的な姿勢も問題視されてきた。AfDは、連邦憲法擁護庁によって3カ所の州支部が「極右団体」と認定されているが、AfDを「極右団体」と表現したメディアの取材を拒否したこともある。
◆中道右派などは警戒 連立拒否へ
中道右派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」など他の政党は、AfDへの警戒感を隠さない。テューリンゲン州では今年9月の州議選でAfDが第1党になることが確実視されるが、各党はAfDとの連立政権への参加を拒む姿勢を見せている。
AfDの台頭に危機感を抱く市民も多い。ゾンネベルク郡で便利屋を営むポール・オーロウスキさん(25)は、AfDに反対する住民が話し合うイベントを不定期で開催する。しかしAfD支持者から投石など嫌がらせも受けてきた。
◆堂々と暴力・暴言「戦前に戻ったよう」
郡内では昨年10月、4~5人の男らが、ドイツでは処罰対象となるナチス式敬礼をした後、イベントホール前の若者らに石を投げて性差別的な暴言を吐く事件もあった。オーロウスキさんは「AfDが躍進した過程で、ネオナチグループが堂々と暴力や暴言に訴えるようになった。戦前に戻ったような雰囲気だ。歴史を繰り返さないために、AfDに反対している」と話す。
なぜAfDが支持を広げるのか。極右政党に詳しいテュービンゲン大のロルフ・フランケンベルガー上級講師(政治学)は「移民・難民の流入や国民のアイデンティティー喪失など人々が抱える不安や恐怖がある。AfDはそうした感情を利用してきた」と解説する。
◆他政党も支持回復のため右傾化 「彼らの論理に乗るべきでない」
今年はAfDが支持率で首位に立つ複数の州で選挙が行われ、来年には4年に1度の連邦議会選を控える。フランケンベルガー氏は各政党が支持を取り戻すため、移民・難民の審査厳格化を掲げるなど右傾化していると指摘した上で「AfD支持は全体で見れば少数派。彼らの論理に乗るべきではない」と話した。
スヌーピーとダンボが運動会… 大人向けぬいぐるみビジネスが盛況、なぜ? 「保護者」たちの胸の内
2024年8月30日 東京新聞
保育園や病院、旅行代行…。大人を対象にしたぬいぐるみのサービスが人気を集めている。ぬいぐるみは「子どものおもちゃ」と思われがちだが、大人の心をひきつけ、人間のように接する場が広がっているのはなぜなのか。(太田理英子)
◆走るのが好きな○○ちゃんは前のめりに
「楽しんでね」。今月下旬の朝、東京都内のスタジオであった「フラッフィ学園ぬいぐるみ保育園」。女性たちが自分のぬいぐるみに声をかけ、園に預けた。
この日は運動会があり、スヌーピーやクマのキャラクターなど10のぬいぐるみが参加。スタッフが小道具を使って「ドーナツ競走」やリレーの場面を設定し、奮闘する様子を撮影した。
事前に「保護者」からぬいぐるみの性格や特技を聞き取っており、「走るのが好きな○○ちゃんは前のめりに」などと、個性に合った動きを表現する。夕方に保護者が迎えに来ると、写真のほか、ぬいぐるみの様子を記した連絡帳を渡した。料金は約8000円だった。
◆「ぬい撮り」流行で大人も連れ歩きやすく
保育園は2022年夏の開園から計20回開かれ、延べ208のぬいぐるみが参加した。保護者の年代は20~60代で女性が中心。関西や東北からの参加者も。ぬいぐるみはどんな存在で、なぜ通園させるのか。迎えに来た保護者に聞くと…。
MC業の女性(36)は「運命共同体。緊張する仕事中に手元に置き、応援してもらうことも」という。通園は3回目で「家で見られない姿を知るのが楽しみ。体当たりでがんばっている姿に、励まされる」。無職女性(60)は「友人であり家族。夫に言えないことも話せる」と明かす。ぬいぐるみ同士、保護者間の交流が楽しいという。
大学院でぬいぐるみと人間の関わりを研究する園の運営会社代表・金子花菜さん(40)は、ここ数年でキャラクターを応援する「推し活」、ぬいぐるみが主役の写真を交流サイト(SNS)で投稿する「ぬい撮り」が流行したことで、大人がぬいぐるみを連れ歩きやすくなったと話す。
「通常のぬい撮りは自分の手中で収まるが、園に預けて何かを体験させることは保護者にとって冒険。分身のようなぬいぐるみの成長を感じることで、生きがいや自己肯定感につながっている」。子どものいない夫婦、障害のため外出困難な家族の代わりに通園させる人もいるという。
◆390億円市場、「キダルト」中心に拡大傾向
保育園以外にも、全国では生地の破れなどを「治療」する病院や、ぬいぐるみだけのツアーを企画する旅行会社も話題で、大人が対象のぬいぐるみビジネスは盛況だ。日本玩具協会の調べでは、昨年度のぬいぐるみの国内市場規模は約390億円で、年々増加傾向にある。子ども心を持った大人を意味する「キダルト」層や訪日外国人客からの人気が要因とみられる。
白百合女子大の菊地浩平准教授(人形文化論)は、「ぬいぐるみの触れやすさやぬくもりは、大人にも安心感を与える」と話す。持ち主の内面が投影されやすいメディアでもあるとし、サービスの広がりは「自分や人間が果たせないことをぬいぐるみに代わりにしてもらいたいというニーズに応えている。内向的に見えるが、持ち主にとっては安心や達成感が得られ、前向きに生きるための未来志向の行為なのではないか」と分析し、続ける。
「『ペットは家族』との価値観が浸透したように、近い将来、『ぬい家族』も現れるかもしれない」
地方への「移住婚」なぜ女性だけに60万円? 政府が検討する東京一極集中歯止め策に効果はあるか
2024年8月30日 東京新聞
政府が「移住婚」の女性に60万円を支給する施策を検討している。東京23区に在住・通勤する独身女性が、結婚のため地方に移住する場合、自治体を通じて支援金を出すのだという。東京一極集中に歯止めをかける策にしたいようだが、効果はあるのか。なぜ女性に限定するのだろうか。(山田祐一郎、木原育子)
女性への支援金は、岸田文雄政権が進める「デジタル田園都市国家構想」の一環で検討されている。
◆「東京圏に女性が転入、地方には未婚の男性」
既に同構想に基づき、2019年度から、地方移住者への支援金が運用されている。東京23区に在住するか、東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)から23区内に通勤する人が地方に移住して起業や就業する際、男女問わず最大60万円(単身者)を支援している。昨年度までに、約1万6000人に支給された。
今回、政府はこの支援金を拡充し、独身の女性を対象に、起業や就業をしなくても、結婚を機に移住する場合も支援を受けられるようにする方針だという。
「東京圏に多くの女性が転入する一方で、地方の未婚者は男性が多い」
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局の熊谷徹参事官補佐が制度検討の背景をこう説明する。
対象を女性に限った点について「不公平との批判もあるが、何かしら手を打たなければならないと考えている。地方への移住を考える女性の後押しとなるようにしたい」とする。
「主に引っ越しなどの費用」を使途に想定しつつ「金額は60万円で固まっているわけではない」とも。地方での婚活イベントの交通費への支援も検討している。年末の予算編成に向けて詳細を詰めるという。
2023年の人口移動報告によると、東京都は転出者より転入者が約6万8000人多い。その半数超の約3万7000人が女性だ。
◆地方への移住希望者の「お見合い支援」は苦戦
独身の男性が多い地方では、既に移住婚に向けた取り組みが行われている。
房総半島中央部に位置し、面積の約7割を森林が占める千葉県大多喜町は過疎化が進み、人口はピーク時の2万人余りから、現在は8000人ほどに。高齢化率は4割を超える。
同町は昨年9月から一般社団法人「日本婚活支援協会」(東京)と連携し、町外の移住、結婚希望者と町内在住・在勤者とのお見合い事業を実施している。
同町企画課によると、お見合いを申し込んだ移住希望者は、女性が20〜50代の計36人、男性が20〜60代の計13人。ただ、これまでお見合いが実現したのは3件のみ。結婚に至った例はない。担当者は「移住希望者は、地方で仕事にとらわれない生活を求めている人が多い。それでも結婚につながる割合は低い」と移住婚の難しさを口にする。
政府が検討する支援金がカンフル剤になると思うか尋ねると「あまり影響はないのでは。支援金がもらえるから地方に移住、結婚しようと考えてもいい相手が見つからなければ難しい」。
◆1300人登録する婚活支援協会で実現した移住婚の数は…
日本婚活支援協会は20年以降、同町を含め全国41市町村と連携し、移住婚の支援事業を展開している。後藤幸喜代表理事は「移住婚に向けた自治体などのイベントは有料のケースもあり、交通費に加えて、移住希望者の負担となっている」と明かす。
同協会には結婚を望む約1300人が登録する。だが、結婚し、地方に移住したのは2組にとどまる。政府が検討する支援金について、後藤さんはこう指摘する。「男性を含めた支援を考えなければ根本的な解決にはならないのではないか」
今週、独身女性に限定した支援金の検討が報じられると、ネット上などで批判の声がわき起こった。
◆今も残る男女の賃金格差と職種格差
NPO法人「ファザーリング・ジャパン」副代表理事で、子育てアドバイザーの高祖常子(こうそ・ときこ)さんは「とんでもなくズレ過ぎている。なぜこんな施策が浮上したのか信じられない」とあぜんとする。
まずは、その額だ。物価高の上、残業規制強化でトラック運転手が不足する「2024年問題」が影響し、引っ越し料金は値上がり傾向にある。「既に移住を決めている人は助かるかもしれないが、引っ越し代や家具の購入費用などで消える程度の額。60万円もらえるからといって、喜んで移住する女性がいるとは思えない」とバッサリ。
そしてこう説く。「若い女性が地方から東京に流入するのは、安心して働いてキャリアを積める場所も少なく、男女の賃金格差や職種格差もいまだ歴然と残っているからだ」
東京都心(資料写真)
さらに「都市部に比べて地方は保守的な地域が多い。男性が食事の準備や保育園の送迎をしていると『嫁は何をしているのか』という目で見られたり、『子どもはまだ生まれないのか』と平気で言われたりする話をいまだに耳にする」とし、「そういった精神的な負荷は60万円で穴埋めできない」と訴える。
◆「国家が国民を移動させる」姿勢に疑問の声
恵泉女学園大の上村英明名誉教授(国際人権法)は、支援金の検討内容を巡り、国家が特定の国民を移動させようとすることの重大性に言及する。
「移動の自由は重要な人権だ。これを踏みにじる行為は、歴史的にたくさんあった。北海道では明治期に、多くの和人(アイヌ民族ではない日本人)が国策で送り込まれ、アイヌ民族がさらに強制移住の被害者となった歴史がある。人の移動に国家が関わるのは実は大変なことだ」と指摘。「国家がある種の餌を与えて人の移動に関わることに根本的な議論もなく、平然と手を突っ込んでくる。非常に前近代的な話ともいえる」
なぜ女性だけなのか、というところにも、疑問の目が向けられている。
性的マイノリティーの支援団体「fair」の松岡宗嗣代表理事は「女性をモノ化しているように感じた」と率直に話す。「独身の女性を焦点化し、男女で結婚し、子どもを産み育てる家族のあり方だけを肯定し、マイノリティーを排除しているとも取れる」
◆「特定の家族のあり方だけ押し付ける」
2007年1月に柳沢伯夫厚生労働相(当時)が集会で、女性を「産む機械」と表現し、批判が渦巻いた。その後も保守系の政治家を中心に、結婚や出産を巡り、偏った見解の発言が相次ぐ。
前出の松岡さんは「同性婚や夫婦別姓制度の実現は棚上げのまま、産めよ増やせよと特定の家族のあり方だけを押しつける。強い言い方をすれば、国が率先してセクハラをしているような状況だ」と憤る。
日本総研の藤波匠上席主任研究員は「若い世代はどういう人と結婚し、どこで子育てするかなど、ライフプランをかなりしっかり考えている」と指摘。
◆「本気の地方創生には高度人材の受け皿を」
その上で「本気で地方創生をしたいのなら、女性の雇用環境を改善するなど、地方が高度人材の受け皿になるための施策を打つ中小企業や自治体をバックアップする費用に回すべきだ。働き続けられる魅力的な環境があれば、男女問わず人は戻り、地方は活性化する」と強調する。
そして、国の姿勢に厳しい言葉を投げかけた。「『若い夫婦が来てくれたらいいな』くらいの甘い見通しとの印象を受ける。東京一極集中の逆転は期待できない」
【移住婚支援撤回】根本的な原因に向き合え
2024年9月6日 高知新聞
地方への移住の流れを加速できると本気で考えたのか。撤回したとはいえ、政府の構想はあまりにも見当違いと言える。
結婚を機に地方移住する「移住婚」の女性に支援金を支給する構想である。内閣官房が2025年度予算の概算要求に関連経費を盛り込む方針だったが、批判や異論を受け、事実上撤回された。
岸田政権が進める「デジタル田園都市国家構想」の一環で、19年度から実施している「移住支援金」を拡充する方向で検討していた。
現行制度は東京23区の居住者か、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)から23区に通勤している人が対象だ。男女問わず引っ越し先での就業や起業が条件で、単身者には最大60万円支給している。当初はこれを拡充し、結婚を機に移住する女性に限り、就業予定がなくても給付する方向だった。東京一極集中に歯止めをかける狙いがあったとされる。
23年の人口移動報告では、東京都は転入者が転出者を上回る「転入超過」が約6万8千人で、うち女性が5割超を占める。進学や就職を機に上京した女性が地元に戻らない傾向が強く、地方は男性の未婚者が多くなっている。
一極集中の是正は高知県をはじめ地方全体が直面する課題だ。だが、支援金構想はその根本的な原因に向き合っていない。
女性が地方を離れる要因には、男女の賃金格差や固定的な性別役割分担意識などが指摘される。求められているのは現金のばらまきではなく、誰でも仕事と生活が両立できる環境を整えることだ。
女性に地方への移住を促し、子どもを産んでもらう。支援金構想の根底にはそんな発想が見え隠れする。交流サイト(SNS)などで、「女性蔑視」「時代錯誤」といった批判や怒りの声が相次いだのは当然だ。
支援金構想を巡っては、自見英子地方創生担当相が女性限定とする検討を否定し、説明が二転三転している。施策や経緯の説明が担当部署と食い違い、迷走ぶりが目につく。政策の決定過程も明らかにする必要がある。
安倍政権が地方創生を打ち出して今年で10年になる。人口減少克服と東京一極集中の是正を目指し、自治体ごとに戦略を策定させて交付金を配った。しかし政府は大きな流れを変えられず、一極集中は続く。少子化も進む一方だ。
全国の都道府県知事、市区町村長に共同通信社が行ったアンケートでも、7割近くが取り組みの成果が不十分と答えた。移住者獲得の競争が起きるなど自治体間で人口を奪い合う状態になっているとの指摘があった。高知県内でも自治体単独での対策に限界を感じ、国を挙げた取り組みの強化を求める声が目立った。
政府は従来の取り組みを検証し、改善を図らなければならない。魅力のある雇用の場を増やし、待遇の男女格差を解消するほか、社会保障制度や税制の在り方、社会の意識改革などの課題を解消する必要がある。
地方を中心に、人口減少・少子高齢化、過疎化・東京圏への一極集中、地域産業の空洞化といった課題に直面しています。こうした課題を解決するには、これまでの地方創生の成果を最大限に活用しつつ、地方活性化を図っていくことが求められています。
デジタル技術が急速に発展する中、デジタルは地方の社会課題を解決する鍵であり、新たな価値を生み出す源泉となっています。今こそ、デジタルの実装を通じ、地域の社会課題の解決と魅力の向上を図っていくことが重要です。
「デジタル田園都市国家構想」は、「新しい資本主義」の重要な柱の一つです。デジタル技術の活用により、地域の個性を活かしながら、地方の社会課題の解決、魅力向上のブレイクスルーを実現し、地方活性化を加速する。
国は、基本方針を通じて、構想が目指すべき中長期的な方向性を提示し、地方の取組を支援する。地方は、自らが目指す社会の姿を描き、自主的・主体的に構想の実現に向けた取組を推進し、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指す。
デジタルの力で地方が日本の主役になる、そんな未来が始まっています。
告発者追及、元兵庫副知事が証言 斎藤知事「徹底的に調べてくれ」
2024年9月6日 東京新聞
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題を巡る県議会調査特別委員会(百条委員会)で、最側近だった片山安孝元副知事が6日、初の証人尋問に臨み、文書を作成した元県幹部の男性を直接聴取した際「選挙で選ばれた知事を公務員が排除しようとしている。不正な行為になる」と考え、厳しく追及したと認めた。3月に文書を入手した斎藤氏から文書作成者の特定や目的について「徹底的に調べてくれ」と指示があったことも証言した。
公益通報と扱わず停職処分とした経緯が尋問で明らかになるかが焦点で、午後は斎藤氏に尋問を行う。
日本維新の会はこの日の証言を踏まえ斎藤氏への不信任決議案を出すかどうか判断すると表明しており、近く結論を示す見通し。県議会最大会派の自民党は6日夜に総会を開き、不信任案を含めた対応を協議する。
6日の尋問は告発文書を公益通報と扱わなかった経緯を中心に追及。作成した男性は片山氏の聴取を含む内部調査の結果、停職処分を受け、7月に死亡。県の対応に批判が集中する事態となり、片山氏は県政混乱の責任を取るとして辞職した。
アップル生成AI搭載の最新スマホ発表 買い替え需要喚起に注目
2024年9月10日 NHK
アメリカのIT大手アップルは生成AIの機能を搭載した最新のスマートフォンを発表しました。IT大手のあいだでは生成AIをスマホに導入する動きが加速しており、スマホの買い替え需要を喚起できるのか注目されます。
アメリカのアップルは、9日、西部カリフォルニア州にある本社で、最新のiPhone16の4機種を発表しました。
独自の生成AIのシステム、「アップルインテリジェンス」が導入されるということです。
メール内容を要約したり写真から絵文字を生成したりできるほか、音声アシスタントの「Siri」の機能を向上させることで、言い間違いをしてもやりとりがスムーズに行えるようになるとしています。
生成AIの機能については、10月から英語に対応して徐々に機能を拡大し、2025年以降、日本語への対応を予定しているということです。日本での価格は、最も安いもので税込み12万4800円からで、9月20日から販売を開始します。
ティム・クックCEOは、配信した動画の中で「アップルインテリジェンスの画期的な機能を提供するために作られた新しい時代のiPhoneだ」と述べました。
スマホに生成AIを搭載する動きは、各社のあいだで加速しています。
アメリカのIT大手グーグルは、生成AI「Gemini」をスマホに対応できるようにしたほか、韓国のサムスン電子もAIを搭載した端末を発表するなど、作業の効率化や多様なコミュニケーションといった新たな付加価値をつけようと開発に力を入れています。
アメリカの調査会社IDCによりますと、2023年のスマホの世界の出荷台数は、この10年間で最低の水準まで落ち込みましたが、生成AIを搭載したスマホの登場によって買い替え需要を喚起できるのか注目されます。
各社で広がる生成AI搭載スマホ
グーグルは生成AI「Gemini」を搭載した自社のスマホを販売しています。
生成AIを使えばスマホで閲覧したホームページを要約したり、返信するメールの文案を提案したりすることもできます。
また、冷蔵庫の中にある食材をカメラで撮影すると、最適な料理方法を提案するという使い方もできるとしています。
また、韓国のサムスン電子でも、生成AIを搭載したスマホの販売に力を入れています。
折り畳み式のスマホに生成AIを搭載し、通話の内容をリアルタイムで翻訳することができるほか、送信するメールのメッセージをAIが丁寧な表現に変換するなどの機能をアピールしています。
岸田政権3年の通信簿 実質賃金マイナスは26カ月連続で過去最長 専門家「これだけ賃上げないのは異常」
2024年9月11日 東京新聞
自民党総裁選が12日に告示される。終わりを迎えつつある岸田政権の約3年で、実質賃金がマイナスを免れたのは7カ月のみ。当初は分配政策を強調していた「新しい資本主義」は期待外れとなり、次期政権に大きな課題を残した。(石井紀代美)
9日、官邸に入る岸田首相(佐藤哲紀撮影)
「成長と分配の好循環を実現する」。2021年10月の政権発足時、岸田文雄首相は「新しい資本主義」を掲げ、金融所得への課税強化も打ち出した。大企業のもうけが中小企業を含めた従業員の賃金増につながる「トリクルダウン」が起きていなかったことから、安倍政権の経済政策「アベノミクス」からの転換もにじませた。
◆「新しい資本主義」コケて、自己責任頼みに
だが、新しい資本主義は早々につまずく。岸田政権発足前後に株価が急降下すると、方針を転換。池田勇人元首相になぞらえた「所得倍増」も期限を明言せず、1年もたたずに、投資という個人の自己責任に頼る「資産所得倍増プラン」に修正。貯蓄から投資をさらに促すNISA(少額投資非課税制度)の拡充につながった。
「所得再分配を進め、伸び悩む実質賃金の改善にいよいよ乗り出すのかと、当初は期待したのだが」。BNPパリバの河野龍太郎氏はこう振り返る。結局、実質賃金は今年6月にプラスに転じるまで、過去最長となる26カ月連続でマイナスが続くなど、首相の在任期間は伸び悩んだ。
賃上げに有効政策を打ち出せない半面、目立ったのが政権浮揚を狙ったバラマキ色の強い事業だ。円安に伴う物価高への対応として、ガソリン価格を抑えるための補助金を実施。一度は終了していた電気・ガスの補助も8月から再開した。増税色を打ち消すために、6月には定額減税を実施。だが、支持率の抜本的な回復にはつながらなかった。
◆自民総裁選と立民代表選、各候補の経済政策は
大規模な財政支出の財源は借金に依存。普通国債の残高は2024年度当初予算ベースで1105兆円と、岸田政権下で100兆円ほど増えた。一橋大の佐藤主光教授(財政学)は「岸田政権は『コロナ支援』から『物価高対策』に看板をすげ替え、財布のひもが緩んだままだった」と厳しい評価をする。
一方、自民党の総裁選や7日告示された立憲民主党代表選では、抜本的な賃上げにつながる経済政策が引き続き主要な論点となっている。各候補はかつての岸田首相と同様な「所得倍増」のほか、「増税ゼロ」や食料品への消費税率引き下げを掲げるなど家計負担減を前面に打ち出している。
BNPパリバの河野氏は「これほど長い間、賃上げがないのは異常だ。次期政権には賃上げしない企業には課税を強めるなどの施策が必要ではないか」と積極策を注文する。(石井紀代美)
総務省 ラジオ国際放送問題でNHKに行政指導
2024年9月11日 NHK
NHKのラジオ国際放送などの中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフが沖縄県の尖閣諸島の帰属などをめぐって、原稿にはない日本政府の公式見解とは異なる発言を行ったことを受けて、総務省は11日、NHKに対し今後このようなことがないよう注意するとともに、再発防止策の徹底とその順守状況の公表を求める行政指導を行いました。
先月19日、NHKのラジオ国際放送などの中国語ニュースで、原稿を読んでいた中国籍の48歳の外部スタッフが沖縄県の尖閣諸島の帰属などをめぐって、原稿にはない日本政府の公式見解とは異なる発言を行ったことについて、NHKは10日、調査報告書を公表しました。そして、稲葉会長ら4人が役員報酬の50%を1か月自主返納するほか、担当役員が辞任することなどを明らかにしました。
この問題で総務省は11日、NHKに対し文書で行政指導を行いました。
この中で総務省は、今回の事案は公共放送としての使命に反するもので誠に遺憾であり、放送法の規定に抵触するものと認められるとして、今後、このようなことがないよう注意するとしています。
そのうえで、公共放送としての社会的責任を深く認識し、放送法および番組基準などの順守と徹底はもとより、再発防止策の徹底とその順守状況の公表を求めています。
NHKはコメントを発表し、「今回の事案は、自ら定めたNHK国際番組基準に抵触するなど、NHKが、放送法で定められた担うべき責務を果たせなかったという極めて深刻な事態であり、重く受け止めています。改めて、深くお詫び申し上げます。再発防止策を確実に行い、国際放送に関するガバナンスを強化するとともに、NHK全体において、放送の自主自律の堅持とリスク意識の向上を図り、説明責任を果たしながら、視聴者・国民のみなさまから負託された公共放送の使命を果たしてまいります」としています。
子どもの性被害防ぐ「日本版DBS」導入決まる…でも課題山積み 犯歴確認に時間がかかると人材確保が難しく
2024年7月15日 東京新聞
子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認するよう雇用主側に求める「日本版DBS」創設法が通常国会で成立し、2026年度にも施行される。子どもの性被害防止に向けた社会の取り組みを強化することが法の趣旨だが、新制度をどう運用するかは、今後定める関連法令やガイドラインに委ねられた。犯歴確認を担う事業者側は、現場の実情に即した制度設計を求めている。(坂田奈央)
民間の学童保育施設で過ごす子どもたち。職員が複数人で見守る=川崎市中原区で
「ただいまー」。7月の平日午後、川崎市中原区の民間学童保育に小学校の授業を終えた子どもたちが次々と集まり始めた。「宿題やるー」「積み木しよう」。思い思いに動く子どもを、職員らが死角のない場所にさりげなく誘導し、目前のグループを見渡せる場所から複数人で見守る。大人と子どもが長時間で一対一にならないよう配慮しているという。
◆認定制度は「参加しやすい仕組みが必要」
運営する東急キッズベースキャンプ(川崎市)は、子どもの性被害防止のため、独自の取り組みに力を入れてきた。年2回、現場で疑いがある行動をする人を把握する定期スクリーニングも実施する。法施行で、学童保育を運営する民間事業者も、犯歴確認が必要になる「認定制度」への参加対象となる。島根太郎社長は法整備を歓迎しつつ「認定制度に参加しようという企業がどんどん増えなければ意味がない。事業者にとって参加しやすい仕組みが必要だ」と訴える。
事業者側が懸念するのは採用面への影響だ。採用予定者の犯歴確認にある程度の時間を要する見込みで、実際の就業までに人材が他業種に流れてしまうとの不安がある。人手不足に悩む事業者も多く、認定制度への参加に二の足を踏みかねない。島根社長は、人材確保にも配慮し、確認結果を待たずに従業員の「仮採用」ができる運用を求める。
◆具体的な運用はこれから、確認対象の範囲も未定
こうした点を含め、「日本版DBS」の具体的な運用は決まっていない点が多い。例えば、犯歴確認が義務化される学校や保育所で、教員や保育士だけでなく事務職員や送迎バスの運転手なども確認対象とするかは今後の検討となる。政府は、子どもとの関係で「支配性」「継続性」「閉鎖性」を満たす業務かどうかを基準にするとしている。
対象事業者は、子どもへの性暴力が行われる「おそれ」がないかどうか、早期に把握するための措置を講じると規定されたが、具体的な内容は曖昧なままだ。
◆確認対象者は学校関係だけで230万人
新たに発生する膨大な業務に政府がどう対応するかも課題だ。こども家庭庁には今後、事業者の認定業務と犯歴照会の2つの業務が加わる。同庁によると、犯歴の要確認対象者は学校設置者等で少なくとも230万人。認定制の対象学習塾が約40万人、放課後児童クラブが約20万人、認可外保育施設が約10万人となる。
政府は、法施行後の3年間で対象施設の従事者の犯歴確認を行うとしている。国会審議で、加藤鮎子こども政策担当相は「システム構築や業務委託の範囲、監督のあり方を検討する」と述べたが、外部への委託が難しい業務も多く、相応の体制づくりは急務だ。
「日本版DBS」創設法 6月19日の参院本会議で全会一致により可決・成立。英国の政府系機関「前歴開示・前歴者就業制限機構」をモデルに、子どもを性被害から守るための新制度を設ける。性犯罪歴がある人は刑終了から最長20年採用されないなど事実上の就業制限になることから、「裁判所が事実認定した前科を確認の対象にする」(政府)として、不起訴事案や行政処分は含めていない。国会は、対象事業者の拡大、加害者の治療的支援強化、など19項目に上る「付帯決議」を採択した。
◆「認定制度、詳細次第で参加したい」、学童保育施設の事業者に聞く
子どもに接する仕事をする人の性犯罪歴確認を求める「日本版DBS」創設法が6月に成立した。認定制度の対象となり、大きな影響を受ける事業者はどう受け止めているのか。学童保育施設を東京と神奈川で展開する東急キッズベースキャンプ(川崎市)の島根太郎社長に話を聞いた。(坂田奈央)
—「日本版DBS」の創設をどう受け止めたか。
「こういった法案が議論の俎上(そじょう)に載った時点で驚いた。もちろん世界では、子どもを守るために性犯罪者の履歴を誰でも見られるようにしている国や州があることは創業当時から知っていたが、日本は加害者側の人権も非常に重視する国なのでこうした法律ができることは多分難しいだろうと思っていた。子どもの人権を保護していく仕組みは社内で作っていくしかないなと考えてきた」
—認定制度には参加するか。
「運用の詳細次第だが、参加したいと思っている。現時点で一番懸念しているのは採用に関する点。性犯罪歴確認をする手続きに随分時間がかかりそうで、仮にひと月ぐらいかかったとすると、一般的に他の会社と見比べている方たちは、他の業界も含めて別の企業に行ってしまう可能性がある。特にアルバイトの採用で待ってもらうのはまず難しいだろう」
◆犯歴確認するまで「仮採用というかたちでも」
—どういった対応を求めたいか。
「確認するまでの期間も仮採用というかたちで働いてもらい、もし性犯罪歴が確認されたら採用を取り消すという仕組みが必要だ。義務化の対象が限られているだけに、参加しようという企業さんがどんどん増えていかないとあまり意味がない。参加しやすい仕組みにしていく必要があると思う」
—利用者側からは、義務化の対象事業者を広くしてほしいとの声が目立つ。
「今回は第一歩なので非常に慎重に議論をされた印象がある。対象の犯歴や照会期間も含めてかなり狭いと私も思っている。性犯罪歴のある人が管理の緩いところに流れていく恐れはあると思う」
◆適性検査で傾向を把握、研修でNG行動を徹底指導
—認定された事業者に対して「子どもへの性暴力が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための防止措置を講じる」という規定がある。経験を踏まえて具体的に何をすべきだと考えるか。
「全ての事業者で統一してできることとできないことがあると思うが、当社の場合は、10年くらい前から正社員の採用前に小児性愛の傾向がわかる適性検査を取り入れている。そこで少しでも傾向が出た場合には採用を絶対にしないというポリシーを持っている。また非常勤のスタッフも含めて、社内ルールや就業規則に基づいて、具体的なこういう行動をしてはいけないということを、初日の研修から徹底的に指導している」
—社内ルールとは具体的にどういったものか。
東急キッズベースキャンプの島根太郎社長
「『クレド(信条)カード』というものを全員に配布している。『子どもの命と人権を守る』ということを最優先課題にし、『仲間を信頼する』『チームで保育をする』ということを規定した上で『相互けん制する』、つまり『逆に仲間のことを疑いましょう』ということを盛り込んだ。疑いの目をちゃんと持って、疑いのある行動をする人を見逃さないようにして、子どもを守っていこうと。年に2回、定期的なスクリーニングを社内でやっていて、そこで、行動や言動に少しおかしいところがあるという場合は本部に報告をあげる仕組みを作り、指導している」
◆何がOKで何がダメ、マニュアルでしっかり
—具体的な行動に関するルールもあるか。
「これにひもづいた具体的なマニュアルもある。例えばスマートフォンを持ち込まないなど、どういうことがOKで、どういうことが駄目なのかを示している。未就学児だとだっこなども必要だが、小学生の発達段階では、自立に向かっていくので、身体接触をできるだけ避けた遊びをしている。常に女児を膝乗りさせるといった行動は、NGなのですぐに指導が入る」
—ルールを徹底している。
「子どもの人権侵害、特に性加害に及ぶものというのは、職員がやってしまうとその会社はつぶれてもおかしくはないぐらいの大きなダメージになる。だからこそ創業の時点でこれはもう厳しくやっていこうと決めていた。ただ小児性愛者が紛れ込んでいるリスクはあり、就業規則などで懲戒にあたるものが何かをしっかりと明記し、仮に問題が発生した際には、子どもと接する職場から円滑に退場いただけるようにしている」
<社説>クルド人ヘイト 差別は断じて許さない
2024年9月14日 東京新聞
埼玉県川口市などに暮らすクルド人らへのヘイトスピーチが深刻化し、刑事事件も発生している。差別扇動は犯罪であり、許されてはならない。政府はヘイトスピーチを放置せず、差別を許さない毅然(きぜん)とした態度を示すべきだ。自治体任せにしてはならない。
クルド人は中東のトルコ、イラク、シリア、イランなどに住む少数民族だ。埼玉県南部には1990年代ごろから暮らし始め、現在は2千人以上が滞在している。
永住者や留学、特定活動などの在留資格を持つ人が多いが、難民申請中で在留資格を持たず、一時的に収容を解かれている仮放免者も数百人いるとみられている。
仮放免者は就労を禁じられるが人手不足の解体業などでひそかに働いている人は少なくない。
クルド人へのヘイトスピーチが表面化したのは昨年春。3回目以降の難民申請者の強制送還を可能とする入管難民法改正案が国会審議されていた時期と重なる。
昨年7月にクルド人男女間のトラブルから傷害事件が起き、病院前に親族らが集まった騒ぎや、同11月に一部のクルド人関係者をトルコ政府が反政府武装組織「クルド労働者党(PKK)」の支援者と発表したことが拍車をかけた。
仮放免者の就労を可能とする制度の検討を政府に要望していた川口市の奥ノ木信夫市長に対し、今年6月にX(旧ツイッター)上で殺害予告があり、警察は脅迫容疑で捜査している。今年8月にはクルド人を集団殺害するとの文言を支援団体に送った東京都の男が脅迫容疑で書類送検された。
ネット上には中傷とデマがあふれ、地域外の日本人団体が押しかけて排除を訴えるデモを展開。クルド人への脅迫電話や車への落書きなどの被害も生じている。
ごみ捨てなどで地域住民とトラブルがあったり、一部のクルド住民が出身国から「テロ組織」支援者(当事者は否定)と名指しされたとしても、特定の属性を根拠にした差別扇動は許されない。
日本でのクルド人の難民認定は欧米に比べて極端に少ない。迫害はないと言い切る親日国トルコへの外交的配慮も一因だろう。
クルド人団体は夜間の警戒活動や、能登半島地震の救援など、地域社会に溶け込む努力を続けている。政府はクルド人への日本語教育支援など、外国人との共生のための施策にも力を注ぐべきだ。
「選択的夫婦別姓」都内の首長8割が導入容認 全国アンケート
2024年9月17日 東京新聞
夫婦が望めばそれぞれ結婚前の姓を使える「選択的夫婦別姓」を巡り、共同通信が実施した全国首長アンケートで、都内では31%(18人)の首長が「認めるべきだと思う」と積極的に容認する考えを示した。46%(27人)が「どちらかといえばそう思う」と答え、78%が容認した全国結果と同様、都内でも8割近くの首長が容認姿勢だった。
賛否を明確にしない首長が15%(9人)いた。「どちらかといえばそう思わない」の7%(4人)と「そう思わない」の2%(1人)を合わせた反対派より多かった。
容認の理由(複数選択)は「別姓の強制ではなく、夫婦で同じ姓を名乗りたい人に不利益はない」が最も多く、69%(31人)が選択。次いで「結婚前と同じ姓で仕事を続けられるので、キャリア形成に支障がなくなる」が64%(29人)だった。全国や首都圏の首長と同様の傾向だった。
別姓制度への考えの自由記述では、容認首長は「早期実施を求める」(品川区長)などとしたほか「家族の一体性が失われるという荒唐無稽な理由で反対する国会議員に忖度(そんたく)するのはやめるべきだ」(日野市長)との意見もあった。
反対首長は「国民各層の意見や国会議論の動向を注視したい」(板橋区長)、「混乱が生じないよう慎重に検討を」(昭島市長)などとした。
“夫婦同姓”定めた民法 日本政府に改正求める勧告 国連委員会
2024年10月30日 NHK
女性への差別撤廃を目指す国連の委員会は、ジェンダー平等に向けた日本政府の取り組みに対する見解を発表し、夫婦が同じ名字にすることを定めた日本の民法について、改正を求める勧告を出しました。国連の委員会が夫婦同姓を定めた民法について勧告を出すのは、今回で4回目です。
女性差別撤廃条約を批准している各国の取り組みを定期的に審査している国連の委員会は今月、日本への審査を8年ぶりに行い、29日、日本政府の取り組みに対して見解を公表しました。
それによりますと、結婚した夫婦が同じ名字になることを定めた民法の規定について、「女性が夫の姓を名乗ることを余儀なくされることが多い」と指摘し、差別的だとしたうえで、夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」を可能にする法改正を行うよう日本政府に勧告を出しました。
国連の委員会は、夫婦の同姓を定めた日本の民法の規定についてこれまでに3回、改正を求める勧告を出していて、今回で4回目です。
また、委員会は、皇位継承における男女平等を保障する必要があるとして、皇位は男系の男子が継承すると定めている皇室典範を改正するよう勧告しました。
このほか、個人が国連に対して人権の救済を申し立てられる制度を定めた国連の「選択議定書」に批准するよう求める勧告などを出しました。
委員の1人「平等の問題であり女性の選択の問題」
国連の女性差別撤廃委員会の委員の1人で、日本政府の取り組みの審査にあたったバンダナ・ラナ委員が29日、NHKの取材に応じました。
委員は、はじめに「今回の審査までに、日本はいくつかの大きな進歩を遂げた。女性の再婚禁止期間の廃止や男女の婚姻年齢が18歳となったことなど、肯定的な変化があったといえる」と評価しました。
一方で、「まだ取り組むべき課題が残されている」と述べ、重要な課題の1つに選択的夫婦別姓を可能にする法改正をあげました。
委員は「日本政府は、夫婦の姓について国民の議論を進めてきたと主張してきたが、これは平等の問題であり女性の選択の問題だ。女性自身のアイデンティティーへの影響を考えなければならない」と指摘しました。
そのうえで、「日本が国際社会における力とイメージを保ち続けるためには、変化を受け入れていくことが非常に重要だ」と話しました。
20年以上前から過去3回にわたり是正求める勧告
国連の女性差別撤廃委員会ではこれまで、夫婦同姓を義務づける日本の民法について、20年以上前から過去3回にわたり是正を求める勧告を出してきました。
法務省によりますと、把握するかぎり、結婚後に夫婦いずれかの姓を選択しなければならない制度を採用している国は、日本だけだということです。
厚生労働省の去年の調査では、夫の名字を選択した夫婦の割合は94.5%となっていて、9割を超える状態が続いています。
委員会ではこうした状況をふまえ、2003年と2009年に行われた審査で、差別的な法律だと指摘してきました。
さらに、直近の2016年には「勧告への対応がなく遺憾だ」として、早期に対応を図るよう重ねて指摘しています。
国内の世論の状況は
今月17日、国連の女性差別撤廃委員会の審査で日本政府の代表団は、「夫婦が別の姓を名乗ることを認めるかどうかは国民の意見が分かれている。日本社会の家族のあり方に関わる重要な問題で国民の理解が必要だ」と述べました。
夫婦が希望すれば結婚前の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓」の導入をめぐっては、27日に行われた衆議院議員選挙でも争点の1つとして注目を集めました。
制度に反対する立場の人からは「家族の一体感や絆が弱まる」とか、「旧姓を通称使用できる機会は増えている」といった意見があります。
一方、賛成の立場の人からは「姓を変えることで仕事や生活で支障がでる」、「女性が姓を変えるケースが多く不平等だ」といった声が出ています。
NHKが今月18日から3日間、全国の18歳以上を対象に行った世論調査では、「選択的夫婦別姓」の導入について賛否を尋ねたところ「賛成」が53%、「反対」が26%、「わからない、無回答」が21%となっています。
林官房長官 “最終見解の内容 関係省庁で検討し適切に対応へ”
林官房長官は、午前の記者会見で「国連の委員会の審査の中で、国民の間にさまざまな意見があり、日本政府としては国民各層の意見や国会における議論の動向などを踏まえ、さらなる検討を要する旨を説明した。今後、関係省庁で最終見解の内容を十分検討し、適切に対応していきたい」と述べました。
一方、委員会が「皇位は男系の男子が継承する」と定めている皇室典範を改正するよう勧告したことについて、「皇位につく資格は基本的人権に含まれていないことから、女子に対する差別には該当しないというわが国の立場を表明するとともに、強い遺憾の意を伝達した。それにもかかわらず、最終見解に記述がなされたことは大変遺憾であり、委員会側に対して強く抗議をするとともに、削除の申し入れを行った」と述べました。
国連 女性差別撤廃委 元委員長 “まずは今回の勧告を知って”
国連の女性差別撤廃委員会の委員を2018年まで10年にわたって務め、日本人として初めて委員長にも就任した林陽子弁護士は、審査の結果について、「今回の勧告では、皇室典範の改正や、沖縄の女性や少女へのアメリカ兵による性暴力の問題が初めて明記された。また、勧告の中で最も重要かつ実現可能とされる『フォローアップ』という条項に、選択的夫婦別姓や、中絶や避妊へのアクセスの問題などが詳細に入ったことも特徴だ」と指摘しました。
今回の審査を振り返り、「委員会の質疑に対する日本政府代表団の応答は、すべての論点について議場で回答しようとした点については高く評価したい。一方、委員会では建設的な『対話』が求められるが、同じ回答を繰り返す場面が多く、委員からは防御的な印象を持たれたようだった」と話しました。
そのうえで、今後の政府の取り組みについて、「女性差別撤廃条約は法的拘束力がある国際文書で、国際法の趣旨に沿って履行していくことが重要だ。こうした勧告が出たことを、まずは、議員、公務員、法曹関係者などが知り、政府は、どんな制度が日本に足りないのか、当事者と一緒に、積極的に研修や啓発に取り組んでほしい」と話していました。
脱炭素へのエネルギー転換シナリオ 2035年自然エネルギー電力80%を軸に
2024年6月19日 自然エネルギー財団
公益財団法人 自然エネルギー財団は本日、「脱炭素へのエネルギー転換シナリオ:2035年自然エネルギー電力80%を軸に」を公表しました。
新しいエネルギー基本計画の検討が来年早々の策定を目標に行われています。財団の提案するシナリオは、日本国内に鉄鋼などの製造業を維持し、また、データセンターや半導体工場などの新しい産業を誘致しながら、IPCCが求める1.5℃シナリオ、すなわち2019年比2035年までにCO2排出を65%以上削減するための方策を示したものです。
脱炭素とエネルギー安全保障の両立には、原子力発電やCCS付き火力発電などが必要だという議論がありますが、財団のシナリオは、太陽光発電、風力発電、蓄電池を大量に導入し、送電網整備を増強・前倒しすることによって、原発などに依存することなく、大幅なCO2排出削減を電力コストを抑えつつ実現する可能性を示しています。
このシナリオが、エネルギー基本計画の議論、更には2035年までの新たなNDC策定の議論に貢献できることを期待しています。
◎主な内容
1.電力脱炭素化+鉄鋼生産などの戦略的電化+積極的効率化で、国内の産業基盤を維持しながら、2035年にCO2の66%削減(2019年比)が可能であることを示した。自然エネルギーの大量供給で、
1) 鉄鋼生産も含め製造業を脱炭素化し、国際競争力を維持する。
2) GAFAMなどが要件とする自然エネルギーを利用可能にし、データセンター・半導体工場などの国内への立地を促進。
3) 洋上風力発電、送電網整備の加速で、鉄鋼を含む新たな需要を創出。
2.自然エネルギー80%で、原子力発電と石炭火力なしでも、電力の安定供給が可能であることを示した。 太陽光発電と風力発電が50%を供給し、他の自然エネ電源+蓄電池・揚水発電で、24時間365日、電力の安定供給が可能であることをシミュレーションで示した(需給シミュレーションは、電力広域的運営推進機関がマスタープラン策定に用いたPROMODで実施)。
3.自然エネルギー80%でも、2035年の発電コストは11.2円/kWhでウクライナ侵攻前と同レベルの水準となる。太陽光発電、風力発電、蓄電池の大幅導入を前提とする2035年の発電コストは11.2円/kWhと推計。ウクライナ侵攻前の11.9円/kWhよりも若干低い水準との推計となった。送電線増強コストを加えても同額程度。
4.海外からの化石燃料輸入への依存を大幅に低減し、エネルギー安全保障を向上。2050年に向けて、国内でのグリーン水素製造の可能性も示した。 ウクライナ侵攻後のような化石燃料高騰があっても、発電コストの上昇は限定的(kWhあたりの発電コスト上昇が、2023年度の電力供給構造であれば4.6~6.5円の上昇をもたらしたが、自然エネルギー80%では1.2~2.5円の上昇へ縮小する)。
5.脱炭素+低コスト+安定供給実現のカギは、太陽光発電、風力発電、蓄電池の大量導入と送電網増強。現時点からの取組み加速が必要であることを示した。 自然エネルギー発電設備は、現在の3.3倍化、蓄電設備は72GW/184GWh導入する。北海道・東北・東京間の連系線の整備を現在の広域系統整備計画よりも前倒しし、8GW-12GWへ増強。
2035年というゴールはドバイで開催されたCOP28で合意された(片山加筆)。
スポーツ選手の遺伝子研究 “差別や選別に” 指摘受け中断
2024年9月19日 NHK
国立スポーツ科学センターは、スポーツ選手の遺伝子と種目の適性などとの関係を調べる研究を進めていたものの、「差別や選別につながりかねない」といった指摘を受けて中断し、ドーピング検査に関わる遺伝子研究に限って進める方針を明らかにしました。
国立スポーツ科学センターは、2017年からスポーツ選手の遺伝子と種目の適性や効果的なトレーニング方法、そしてけがのリスクなどとの関係を調べるため、2000人以上の国内のトップ選手の血液と競技歴やけがに関わるデータを本人の同意を得て集め、一部を論文として発表していました。
これに対して、センターの内外の専門家から「アスリートの差別や選別につながりかねない」とか「遺伝子情報だけで適性などは判断できない」といった指摘があったことから、おととし研究を中断したということです。
そのうえで、遺伝子研究の方向性について「不当な遺伝情報の利用は排斥し適切に扱うことが重要だ」とする声明をまとめたということです。
具体的には、選手の発掘・育成・強化などに関わる遺伝子研究は行わず、ドーピング検査で禁止薬物を摂取していないのに陽性となる「偽陽性」との関係を調べることに限るとしています。
国立スポーツ科学センターの久木留毅所長は「最も大事だと考えているのはアスリートの権利を守ることなので、声明に基づき範囲を限定して研究を進めていきたい」と話していました。
ALS新薬、厚労省が承認 治験で生存期間500日超延長―既存薬上回る、患者ら期待
2024年9月24日 時事ドットコム
厚生労働省は24日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新薬「メコバラミン」の製造販売を承認した。発症後1年以内の患者を対象とした医師主導の臨床試験(治験)では、既存薬を大きく上回る500日以上の生存期間の延長を確認。国内3例目の治療薬となり、患者らの期待が高まっている。
ALS患者半数以上で進行抑制 iPS使い発見の白血病薬―京都大など
ALSは、全身の筋肉が徐々に動かなくなる神経難病。国内に約1万人の患者がいるとされ、症状が進行すると自力で呼吸できなくなり、人工呼吸器が必要になる。人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた創薬の研究開発が進むが、根本的な治療法は確立されていない。
メコバラミンはビタミンB12の一種で、末梢(まっしょう)神経障害などの治療薬として販売。製薬大手エーザイが治験を実施し一定の効果を認めたことから、2015年に治療薬の承認を申請した。ただ、追加試験が必要とされ申請を取り下げたため、徳島大などの研究チームが医師主導で治験を実施していた。
治験は発症後1年以内の患者を対象に全国25施設で実施。4カ月早くメコバラミンを投与したグループと4カ月遅れて始めたグループを比較したところ、早期投与群では500日以上の生存期間の延長が確認された。平均余命を約90日延長する治療薬「リルゾール」の効果を大きく上回り、今月18日に会見した研究チームの梶龍兒・徳島大特任教授は「非常に驚いている。既存薬を投与した群では相乗効果も確認され、有力な薬が積み重なることで病気の進行を止められるのではないか」と話した。
エーザイは今年1月に再申請を行い、厚労省専門部会が8月下旬に承認を了承していた。研究チームによると、生存期間の延長は申請後の解析で判明したという。会見に同席したALS患者の三保浩一郎さん(57)は「新たな進行抑制薬の登場に患者は大いに期待している。治療可能な病気になることを信じている」と述べていた。
アルツハイマー病の新薬「ドナネマブ」正式承認 国内で2例目
2024年9月25日 NHK
アメリカの製薬大手が開発したアルツハイマー病の新薬「ドナネマブ」について、厚生労働省は、国内での製造販売を正式に承認しました。
アルツハイマー病の原因物質に直接働きかける薬としては国内で2例目となります。
承認されたのは、アメリカの製薬大手「イーライリリー」が開発したアルツハイマー病の新薬「ドナネマブ」です。
アルツハイマー病になった患者の脳には「アミロイドβ」と呼ばれる異常なたんぱく質がたまり、これによって神経細胞が壊れると考えられています。
「ドナネマブ」は、人工的に作った抗体を「アミロイドβ」に結合させることで取り除き、症状の進行を抑えることが期待されています。
先月開かれた厚生労働省の専門家部会で国内での製造販売を認めることが了承され、24日、厚生労働省が正式に承認しました。
投与の対象はアルツハイマー病の患者のうち、認知症を発症する前の「軽度認知障害」の人や軽度の認知症の人となっています。
アルツハイマー病の原因物質に直接働きかけ取り除く薬としては、「レカネマブ」に続いて国内で2例目となります。
袴田巌さん 再審で無罪判決 裁判長“時間かかり申し訳ない”
2024年9月27日 NHK
58年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判で、静岡地方裁判所は捜査機関によって証拠がねつ造されたと指摘し、袴田さんに無罪を言い渡しました。判決の後、裁判長は袴田さんの姉のひで子さんに「ものすごく時間がかかっていて、裁判所として本当に申し訳なく思っています」と謝罪しました。
目次
裁判長「袴田さんを犯人とは認められない」 無罪言い渡し
【判決のポイントを詳しく】
無罪が言い渡されたのは袴田巌さん(88)です。
58年前の1966年に、今の静岡市清水区でみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田さんの再審は去年10月から開かれ、あわせて15回の審理が行われました。
最大の争点は、事件の発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかり、有罪の決め手とされた「5点の衣類」に付いていた血痕に赤みが残っていたことが、不自然かどうかでした。
裁判長「袴田さんを犯人とは認められない」 無罪言い渡し
26日の判決で國井恒志裁判長は「1年以上みそに漬けられた場合に血痕に赤みが残るとは認められず、『5点の衣類』は事件から相当な期間がたった後、捜査機関によって血痕を付けるなど加工され、タンクの中に隠されたものだ」と指摘しました。
そして「袴田さんの自白は非人道的な取り調べで得られたため任意性に疑いがあり、当時の裁判で無罪の可能性が否定できない状況にあった。衣類を犯行時の着衣としてねつ造した者としては、捜査機関以外に事実上想定できない」と述べました。
その上で「5点の衣類」と警察が袴田さんの実家を捜索した際に見つかったとされる「5点の衣類」のズボンの切れ端、それに過去の裁判で自白の任意性を認めていた1通の調書のあわせて3つの証拠を捜査機関がねつ造したと判断し、「袴田さんを犯人とは認められない」として無罪を言い渡しました。
判決を言い渡したあと、國井裁判長は袴田さんの姉のひで子さんに対し「ものすごく時間がかかっていて、裁判所として本当に申し訳なく思っています」とことばをつまらせながら謝罪しました。
そして「確定するにはもうしばらくお待ちいただきたい。真の自由までもう少し時間がかかりますが、ひで子さんも末永く心身ともに健康であることを願います」と述べました。
ひで子さんは閉廷したあとにハンカチで涙をぬぐっていました。
袴田さんは1980年に死刑が確定したあとも無実を訴え続け、10年前の2014年には再審を認める決定が出されました。しかし、検察の不服申し立てを受けて決定が取り消されるなど司法の判断に翻弄され続け、去年3月にようやく再審開始が決まりました。
そして事件の発生から60年近くがたった26日、長く求め続けた無罪判決が言い渡されました。
死刑が確定した事件の再審で無罪判決が言い渡されたのは35年ぶりで、戦後5件目となります。
廷内の様子
袴田さんの姉のひで子さんは、落ち着いた様子で弁護士の隣に座りました。
開廷するとまず、裁判長が短期間での判決の言い渡しとなったことについて、弁護側と検察の双方に対し「心から敬意を表するとともに改めてお礼申し上げます」と述べました。
このあと裁判長はひで子さんに対して「主文だけでも証言台でお聞きください」と促し、ひで子さんは証言台の前に座りました。
そして裁判長がはっきりとした声で「主文、被告人は無罪」と伝えると、傍聴席に座る人たちからは拍手が沸き起こりました。
裁判長が傍聴席に静かにするよう促し、再び「主文、被告人は無罪」と伝えると、背筋を伸ばしたまま座っていたひで子さんは、裁判長に向かって深くお辞儀をしました。
そして、ひで子さんは自分の席に戻る際、弁護士と握手し、涙を浮かべていました。
【判決のポイントを詳しく】
袴田さんの無罪判決では、あわせて3つの証拠を捜査機関がねつ造したと指摘しました。判決のポイントをまとめました。
【ねつ造(1) 唯一の自白調書】
判決で1つ目に挙げたのは、過去の裁判で唯一、自白の任意性を認めていた検察官の調書です。
判決では、警察による取り調べについて逮捕されてから19日間、深夜までに及ぶ1日平均12時間もの長時間の取り調べが連日続いたと認めました。
そして
▽自白しなければ長期間勾留すると告げて心理的に追い詰めたり
▽取調室に便器を持ち込んで用を足すよう促したりするなど
屈辱的で非人道的な対応をしたと指摘しました。
検察官の取り調べについても「袴田さんが自白するまで警察署で警察官と交代しながら証拠の客観的状況に反する虚偽の事実を交えて犯人と決めつける取り調べを行っていた」と述べました。
こうした状況から検察官の調書について「警察官との連携により肉体的・精神的な苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取り調べによって作成された」として実質的に捜査機関がねつ造したと判断し、証拠から排除しました。
【ねつ造(2) 5点の衣類】
2つ目は、血の付いた「5点の衣類」です。
事件発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかり、過去の裁判で有罪の決め手とされた証拠で、再審でも血痕の赤みが残っていたことが不自然かどうかが最大の争点となりました。
判決では、検察側と弁護側がそれぞれ行った実験の結果や専門家の見解などをもとに「1年以上みそに漬けられた場合、血痕の赤みが残るとは認められない。『5点の衣類』は、事件から相当な期間がたった後、袴田さん以外の者によってみそタンクに入れられた」と指摘しました。
そして、当時の裁判で袴田さんが無罪になる可能性が否定できない状況だったことから、捜査機関が有罪を決定づけるためにねつ造に及んだことが現実的に想定できると判断しました。
この「5点の衣類」は、再審を開始するかどうか決める審理でも、2度にわたりねつ造の疑いがあると裁判所から指摘されていました。
【ねつ造(3) ズボンの切れ端】
3つ目は警察が実家を捜索した際に見つかったとされる「5点の衣類」のズボンの切れ端です。
この証拠は「5点の衣類」が袴田さんのものだという根拠の一つとされてきました。
判決では「捜査機関によって持ち込まれるなどした事実が推認され、捜査機関によってねつ造されたものだ」と判断しました。
理由として
▽みそなどでぬれて固くなったズボンと実家にあった切れ端が同じ生地、同じ色だと判断するのが難しいのに、警察官がその場で同じだと判断したこと
▽警察官が捜索の前に実家を訪れていたことなどをあげ
「警察官として不自然さを通り越した不合理な捜査活動だ」批判としました。
【袴田さんを犯人と認定できない】
判決では「5点の衣類」とズボンの切れ端についても、証拠から排除しました。
その上で「5点の衣類を除いた証拠によって認められる事実は、限定的な証明力があるにすぎず袴田さん以外による犯行の可能性を十分に残すものだ。長い年月にわたり、各裁判所の異なる結論や意見が示されてきたが、刑事裁判の原則に従えば、袴田さんを犯人だと認定することはできない」と結論づけ、無罪を言い渡しました
裁判長 ことばつまらせ「本当に申し訳ない」
國井恒志裁判長は2時間近くかけて判決を読み上げた後、袴田さんの姉のひで子さんに証言台の前に座るように促しました。
ひで子さんは声が聞こえづらいとして、さらに近くの書記官の前に座りました。
裁判長は判決の概要を改めて説明したあと「再審の初公判でひで子さんは巌さんに『真の自由を与えてほしい』と願われました。無罪判決が言い渡されましたが検察は控訴する余地があり、審理は続く可能性があります。無罪が確定しないと意味がありません。巌さんに自由の扉は開けましたが、まだ、閉まる可能性はあります」と述べました。
また、國井裁判長は「ものすごく時間がかかっていて、裁判所として本当に申し訳なく思っています」とことばをつまらせながら話しました。
そして「有罪か否かを決めるのは検察でもなく裁判です。確定するにはもうしばらくお待ちいただきたい。真の自由までもう少し時間がかかりますが、ひで子さんも末永く心身ともに健康であることを願います」と述べました。
ひで子さんは時折、相づちを打ちながら裁判長のことばを聞いていました。
判決後 多くの支援者が拍手で迎える
判決が言い渡されたあと、袴田さんの姉のひで子さんと弁護団が午後4時すぎに裁判所から出てくると、集まった多くの支援者が拍手で迎えました。
そして弁護団が「袴田巌さんに無罪判決」や「証拠ねつ造を認める」と書かれた紙を掲げると、ひで子さんは隣で笑顔を見せていました。
静岡地検「こちらの主張・立証を評価してもらえなかった」
判決後、静岡地方検察庁の小長光健史次席検事が報道陣の取材に応じ「判決内容を精査した上で、適切に対処したい」と述べました。
無罪判決への受け止めを問われると「判決内容を見た上でないと具体的には申し上げられない。裁判所がどのような判断をしたのか判決文をもとに確認したい」と述べました。
また、裁判所が「5点の衣類」は捜査機関がねつ造したものだと認定したことについては「検察としては必要な立証を行ってきたが、裁判所にこちらの主張・立証を評価していただけなかった」と述べました。
その上で、控訴するかどうかについては「法と証拠に基づき、判決内容を精査してから、上級庁と協議した上で判断したい」と述べるにとどまりました。
法務・検察の幹部「判決文を精査して議論し 控訴するか判断」
捜査機関による証拠のねつ造を指摘し、無罪を言い渡した判決について法務・検察の幹部からは「厳しい判決だ」といった声が聞かれました。
ある幹部は「検察は裁判で証拠はねつ造ではないと立証してきたが、新たに証拠がねつ造と認定されるなど厳しい判決となった」と話しました。
別の幹部は「判決が法と証拠に基づいて書かれているのかどうかにつきる。裁判所が認定した事実がどのような証拠に基づいて認定されているのか、判決文を精査して議論したうえで、控訴するかしないかを判断することになる」と話していました。
静岡県警「コメントは差し控える」
静岡県警察本部は「今後、検察当局において判決内容を精査し、対応を検討するものと承知しておりますので、コメントは差し控えさせていただきます」としています。
弁護団 検察に控訴を断念するよう申し入れ
判決を受け、袴田さんの弁護団は静岡地方検察庁に控訴を断念するよう申し入れました。
弁護団は判決の後に静岡地方検察庁を訪れ、集まった支援者たちから「がんばれ」と声をかけられながら検察庁に入っていきました。
弁護団の事務局長の小川秀世弁護士は「長い審理に終止符を打てるのは検察官だけなので、控訴を断念する英断をしてほしいと強くお願いしました。検察官からは、きょうは特に反応はありませんでした」と話していました。
【記者解説】今後の注目点は
袴田さん ふだんと変わりない様子
袴田さんの姉のひで子さんによりますと、袴田さんは26日午前中に起きて朝食をとったということです。
静岡県浜松市の自宅でくつろいでいる様子で、ひで子さんが「静岡に行ってくる、晩に帰ってくるよ」と声をかけると、「はい」とこたえたということです。
支援者によりますと、ひで子さんが家を出た後は、テレビの前で寝たり、昼食をとったりして過ごし、ふだんと変わりない様子だったということです。
そして無罪の判決が言い渡された直後、支援者から「いいことがあったそうです」と伝えられると、袴田さんはいすから立ち上がって飼っている猫を触ったということです。
午後2時15分ごろ、自宅を出て支援者の車に乗り込み、日課のドライブに出かけました。階段を下りる際、一部、自動で昇降するリフトを使っていました。
袴田さんは午後3時半ごろに浜松市天竜区の寺を訪れ、さい銭を投げ入れて手を合わせていました。午後6時半前、ドライブを終えて自宅に戻りました。
付き添った支援者の1人、白井恵さんは「いつもはドライブの準備に時間がかかっていますが、無罪判決が出たあと袴田さんに『いいことがあったそうですよ』と伝えると、『行かにゃ』と言ってすぐに立ち上がりました。その時だけふだんとは違った様子で、なんとなく何かを察していたのではないかと感じました」と話していました。
奨学金にも長期金利上昇の波が… 入学時は低かったのに、返済は卒業時点の利率が適用 負担増はどこまで
2024年9月30日 東京新聞
文部科学省が所管する日本学生支援機構(JASSO)の奨学金の金利が上がっている。日銀による異次元の金融緩和の脱却で、奨学金の金利を左右する長期金利が上昇しているためだ。一方、授業料の値上げを決めた東大をはじめとして大学の学費は上昇傾向で、教育費の負担はどんどん重くなりそうだ。(白山泉)
◆研究に専念するためアルバイトせず、奨学金頼み
東京都内に住む20代後半の大学院生の女性は「親に負担をかけられず、学費と生活費を維持するため満額借りている」と将来の返済に不安がある。シングルマザーの家庭で育ち、研究に専念するためアルバイトはしていない。借りているのはJASSOの第一種奨学金と第二種で、合わせて月20万円以上になる。
返済が不要な給付型奨学金については「枠が限られていて、成績など要件が厳しい」と、広く使いやすい制度ではないと主張する。「自分の大学も学費を値上げするのではないかと不安もある」と心境を語る。
◆給付型は要件が厳しく、貸与型が多数
日銀は3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除。金融政策を正常化しようとしており、長く0%前後で推移した長期金利が一時は1%まで上昇した。これに伴い、2020年3月に0.07%まで下がっていた固定方式の貸与利率は徐々に上昇し、今年4月以降は1%を超えている。
JASSOの奨学金は22年度には、大学や短大、大学院などの学生の32.6%にあたる119万人が利用した。給付型奨学金は、17年から22年までに給付人数が約2000人から約34万人に増えたものの、政府の計画(約60万人)は下回る。
第一種は約47万人、第二種は約67万人と貸与型が多数を占める。貸与額は有利子の第二種が5754億円、第一種は2723億円で、給付型の1507億円を大きく上回る。
給付型奨学金の要件も緩和されてきているが、現状「多子世帯や私立理工農系で年収600万円以下」など厳しいままだ。
若者の労働問題に詳しいNPO法人POSSEの岩橋誠氏は「エッセンシャルワーカーなどは給料が上がらない人が多い」として、残債免除などの救済策の検討を求めている。これに対し、文科省の担当者は「返還金が次世代の原資になる。過去に返還した人との公平性の観点からも難しい」と話している。
◆2021年入学・月6万円貸与なら、返済24万円増試算
奨学金の金利は融資の開始時ではなく、卒業時など貸与が終了する時の利率が適用される。在学中の学生は入学時に想定していた返済総額に比べ、金利上昇に伴い負担は増えそうだ。
2021年4月に入学した人では、当時は日銀のマイナス金利で奨学金の金利も固定方式で0.268%と低かった。それが、日銀の利上げに伴い、直近の24年8月には1.21%まで上昇している。
JASSOの返済シミュレーションで実際の返済額を試算した。月額6万円の貸与を4年間受け、返済期間16年の想定で、21年4月当時の利率に当てはめると、返済総額は294万6199円(月返済額1万5344円)だった。ただ直近の金利だと、318万6222円(同1万6595円)で、すでに返済総額が約24万円増えている。卒業時の金利が現在より上がっていれば、実際の返済負担はもっと多くなる。
被団協のノーベル平和賞受賞決定「世界にとって意味ある」…被爆者や観光客から平和期待する声
2024年10月12日 読売新聞
被爆地・広島、長崎では12日朝、被爆者らが核なき世界を訴える決意を新たにした。海外からの観光客らも、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)のノーベル平和賞の受賞が決まったことを機に、平和への思いが世界に広がることへの期待を口にした。
「活動続ける勇気もらった」
広島市の平和記念公園には、県被団協の理事長・佐久間邦彦さん(79)ら10人が訪れ、犠牲者に受賞決定を報告した。
佐久間さんは生後9か月の時に広島市の爆心地から3キロで被爆した。退職後に被爆体験を証言している。この日午前8時頃、佐久間さんは他の9人と原爆死没者慰霊碑の前に並び、「受賞を原爆で亡くなった皆さんと共に喜びたいと思って来た。次は核兵器が廃絶された時に報告に来るので、それまで安らかにお眠りください」と伝えた。その後、全員で数十秒間、黙とうし、目に涙を浮かべる人もいた。
佐久間さんは「被爆者は高齢化が進み、人数も減っているが、改めて活動を続ける勇気をもらった」と強調。被爆者運動を先導した坪井 直すなお さん(2021年、96歳で死去)の言葉に触れつつ、「来年で被爆80年。坪井さんを始め、多くの被爆者や遺族が望んできた核なき世界に向け、『ネバーギブアップ』の精神で頑張りたいと思う。慰霊碑に名が刻まれた被爆者の皆さん、見守っていてください」と語った。
原爆で父が犠牲になった県被団協事務局次長の古田光恵さん(77)は「ウクライナや中東の紛争地ではいつ核兵器が使われるか分からない。これからも核兵器禁止条約への参加を訴えていきたい」と話した。
フランスから観光で訪れたドゥニーズ・ジャン・ルイさん(60)は原爆ドームを見つめ、「各地で悲惨な戦争が行われている時代に、日本だけでなく世界にとっても意味のある受賞だ。広島の思いが世界に届くきっかけになる」と述べた。
母親のおなかの中で被爆した胎内被爆者で、広島平和記念資料館の元館長の畑口実さん(78)は「長年の苦労が実った」と被爆者たちの歩みをかみ締めた。
畑口さんは「同情されたくない」と長年、被爆者であることを隠してきたが、1997年に館長に就任したのを機に、自身が被爆者だと明かすようになった。母が見つけた父の遺品の懐中時計などを見せながら、証言活動を行ってきた。
「自分たちが最後の被爆者でありたい」。畑口さんはそう願っている。
「長崎を最後に」改めて決意
長崎市の平和公園では、平和祈念像の前で被爆者らの 冥福めいふく を祈り、手を合わせる人の姿が見られた。
受賞決定から一夜明け、平和祈念像の前で犠牲者を悼む人たち(12日午前8時2分、長崎市の平和公園で)=木佐貫冬星撮影
九州を旅行中だった福島県喜多方市の会社員、大原一さん(60)は「昨日テレビで受賞が決まったことを知り、朝一番に訪れなければと思った。平和の泉に書かれた文字を見て、原爆で亡くなった人、苦しんだ人を想像した。自分が見て感じたことを周りにも伝えたい」と話した。
受賞決定を知った外国人観光客も被爆地に関心を寄せている。米国から長崎市を訪れていたアレックス・トラベンさん(34)は「国際情勢が緊張感を増し、さらに戦争を経験した人が減っていく中で、人々が恐ろしさを忘れゆくのは簡単なこと。後世に伝えていくためにも、被団協の受賞はふさわしい」と評価した。
被爆遺構などを案内する「平和案内人」として訪れた被爆者の田中安次郎さん(82)は「活動の先頭に立ってきた色んな先輩方の名前や顔が浮かんできて、賞をいただけるような活動をしてきたことを誇りに思う。これからも長崎を最後の被爆地にと訴えていきたい」と決意を新たにしていた。
石破茂首相、それはルール違反では 「日銀は利上げすべきでない」と圧力発言…「経済は苦手」が露呈した?
2024年10月11日 東京新聞
「日銀は今利上げすべきではない」
今月2日、石破茂首相が、日銀の植田和男総裁との会談後に発した言葉が市場を揺るがした。「利上げ容認派」とみられていた石破氏の豹変(ひょうへん)がサプライズとなったためだ。しかし、政治の「圧」を伴う発言は、歴史的教訓から生まれた「中央銀行の独立性」の原則を損なう危険性もはらむ。連綿と続く、「政治と日銀」の関係性を改めて考えた。(山田雄之、中川紘希)
◆逆「石破ショック」で株1000円上げ
石破氏の発言が飛び出したのは2日夜。首相官邸で日本銀行の植田和男総裁と会談後、報道陣に「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と利上げに慎重な姿勢を示した。
これまで石破氏は安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の柱である異次元の金融緩和に否定的で、利上げ容認派とみられていた。そのため、総裁就任直後は株価が大幅下落する「石破ショック」を招いた。
そんな状況下での石破氏の「変節」に、市場は即座に反応した。当面利上げはないと判断され、3日の外国為替市場の円相場は、一時3円以上円安ドル高となり、日経平均株価の上げ幅も一時1000円を超えるなど急騰した。
◆経済関連のメモに付箋いっぱい
なぜ石破氏は変節したのか。政治ジャーナリストの泉宏氏は「市場が石破氏の経済政策に抱いている懸念を払拭したかった。国民の最大の関心事は経済だ。『石破ショック』の不安を取り除かなければ、先の衆院選で命取りになるとの考えだ」と説く。
石破氏は8日の参院代表質問で、経済運営は「岸田内閣の取り組みを着実に引き継ぎ、発展、加速させていく」と丸のみの姿勢を示したが、泉氏は「苦手分野だからだ」と推察。会見などで経済系の質問が出ると、手元の答弁メモは付箋が多く張られ、プロンプター(原稿映写機)で原稿を読み上げているとして、「言い間違えないよう意識しており、自身の考えではないのだろう」とみる。
◆指図と見なされてもおかしくない
その上で今回の発言について、泉氏は「総理が絶対にしてはいけない発言だった。一線を越えている」と断じる。どういうことか。
日銀法3条は、日銀が行う金融政策の「自主性は尊重されなければならない」として「独立性」を定める。発言の前に「政府として指図する立場にない」と述べてはいたものの、金利を上げるのか、下げるのかは日銀の政策判断そのものだ。
明治安田総合研究所の小玉祐一氏は「日銀は『政府と意見の不一致だ』との批判を浴びたくない。あの発言で、10月中の利上げの可能性はかなり低くなった。指図と見なされてもおかしくなく、日銀法に抵触しかねない」と指摘。株価の乱高下も招いており、「発言の意味や影響に思いが及んでいなかったならば、石破氏の今後の経済政策のかじ取りには不安を感じる」と苦言を呈した。
◆「世界の常識」を知っているか疑念
中央銀行の金融政策の独立性は、多くの先進国で認められている。米国では2019年、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)に利下げ要求を続けるトランプ大統領(当時)に対し、グリーンスパン氏ら歴代の議長4人が連名で「一部の政治家ではなく、国の最大の利益に基づいて判断を下せることが重要」との訴えを米紙に寄稿した。
小玉氏は中銀の独立性は「グローバルスタンダードだ」とし、「経済の知識や関心度に疑念を抱かせる情報を国内外に発信してしまった。石破氏本人にとって決してプラスではない」。
そもそもなぜ、中央銀行の独立性が大切なのか。
◆政府は目先の景気刺激策を求めがち
「政府が金融政策に関わると最終的に国民の利益にならないというのは歴史的な人類の知恵だ」。日銀出身で、第一生命経済研究所の熊野英生氏はそう話す。
どの国の政治家も、目先の支持率や選挙のため景気を刺激する金融政策を進めがちだ。景気を冷やす利上げを嫌い、政策に口を挟んだ結果、バブルや過度な物価高を招いて、国民生活に悪影響を与えるという。
◆バブルの反省…独立性を明記したが
象徴的なのは、日本のバブル経済の崩壊。戦後、大蔵省(現在の財務省)と日銀の出身者がほぼ交互に日銀総裁に就任し、金融政策には政府の意向が強く働いた。1980年代後半は、政府の圧力で利上げが遅れたため、株や不動産が実力以上につり上がり、バブル崩壊後の傷を深くした。
この反省から「日銀の独立性を高めるべきだ」との声が強まり、1998年に日銀法が改正され、「自主性(独立性)」が明記された。政治の介入余地を残す総裁の解任権もなくなった。
◆日銀法の条文をテコに圧力は続く
ただ、日銀への政治圧力は続いた。日銀の最高意思決定機関のメンバーである審議委員を務めた野村総合研究所の木内登英(たかひで)氏は「自主性は時の政治姿勢に影響されてきた」と指摘する。
2008年のリーマン・ショック後には、大幅に金融緩和した欧米に比べて「日銀の緩和は足りない」と与野党の政治家から非難が相次いだ。民主党政権時代の2012年10月には、前原誠司経済財政担当相が日銀の会合に出席し、円高対策として外債購入という具体的な政策を求めたこともある。
政治家は「介入」の根拠に、日銀法4条の「常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」という一文を挙げることが多い。それだけではない。日銀法改正後の利上げを巡る日銀の独自判断が「失敗」だったと考えていることも大きい。
◆リフレ派で固めた安倍・黒田体制
日銀の速水優総裁は2000年8月、政府の反対を押し切りゼロ金利政策を解除した。福井俊彦総裁は2006年3月と7月、政府内に難色を示す意見がある中で、量的緩和とゼロ金利の解除にそれぞれ踏み切った。しかし、いずれも解除後、デフレに舞い戻った。木内氏は「世界情勢の影響が大きく、失敗だったとは言えない。ただ政治家が『日銀任せではいけない』と考える要因になった」とみる。
安倍晋三首相は直接的、間接的に「圧」をかけた。日銀に独立性を担保する日銀法の改正をちらつかせ、首相就任後の2013年1月には、2%の物価目標を柱とする共同声明を、日銀の白川方明総裁と取り交わした。ニッセイ基礎研究所の上野剛志氏は「日銀に声明をのませ、政策の手足を縛った」と指摘する。
間接的には「人事権」を行使し、政権に考えの近い人材を日銀に送り込んだ。黒田東彦総裁をはじめ、審議委員も任期満了に合わせて(お金を大量に金融市場に流すことを重視する)リフレ派に置き換え、直接口出ししなくても意中の政策を進めやすい体制を築いた。上野氏は「安倍氏が日銀の独立性を侵害したかどうかには議論が分かれるが、安倍氏は日銀に強い影響力を及ぼした」と話す。
◆「異次元緩和」の後始末はどうなる
岸田文雄前首相が任命した植田総裁は、マイナス金利を解除するなど、円安を加速させた異次元緩和の「後始末」を進める。今回、発言が物議を醸した石破氏はどう向き合うのか。
前出の木内氏は「石破氏は、アベノミクスの弊害を指摘しており日銀の正常化に反対ではないだろう」としつつ、こう危ぶむ。「首相になり他の政策方針も変化している。周りの意見に配慮する政権運営の中で、日銀への発言も出るかもしれない」
中国当局 政府に批判的な在日中国出身者に嫌がらせか 人権団体
2024年10月10日 NHK
国際的な人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、日本で中国政府に批判的な活動などをした中国出身の人々に対し、中国当局が嫌がらせを行うなどして圧力をかけているとする調査結果を公表しました。
この調査は、「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」がことし6月から8月にかけて、中国の新疆ウイグル自治区やチベット、それに香港などの出身で日本に住む、あわせて25人に聞き取りを行ったものです。
いずれも、人権侵害を訴える活動などに参加していて、このうち多くの人が、中国の警察が自身や中国にいる親族に日本での活動をやめるように圧力をかけてきたと答えたということです。
このうち、複数の新疆ウイグル自治区の出身者は、中国当局が中国に住む親族を通じて連絡をとってきて、中国政府に批判的な活動をやめるよう言われたり、日本にあるウイグルのコミュニティーに関する情報を提供するよう要求されたりしたと証言しているとしています。
さらに、聞き取りに応じた複数の人が日本の警察は救済してくれないだろうといった思いや、報復などを恐れる気持ちから、日本の当局に助けを求めなかったとしています。
「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「日本政府は中国出身の人々に対する中国政府の監視や脅迫をやめるよう求めるベきだ」とした上で、このような事案を報告できるシステムを作ることなどで、基本的人権を守る必要があると指摘しています。
中国外務省「国を越えた弾圧をしたことはない」
「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の調査結果について、中国外務省の毛寧報道官は10日の記者会見で「承知していない」としながらも、「中国は法治国家であり、これまでに国を越えて弾圧を行うような活動はしたことはない。一切の行動は法律とルールに基づいて実施されている」と主張しました。
利用率14%弱…マイナ保険証は「推進」か「見直し」か 各党の公約は? 「一本化」目前でもトラブルやまず
2024年10月20日 東京新聞
政府は、12月2日に現行の健康保険証の新規発行を停止し、保険証機能をマイナンバーカードに持たせる「マイナ保険証」に一本化する方針だ。準備段階では自治体や医療機関で事務的な問題が続発し、国民に移行への抵抗感が残る。与野党の衆院選公約では、健康保険証廃止の是非も対立軸になっており、有権者が投票先を決める上で重要な判断基準となる。(中根政人)
◆石破首相は「先送り検討」から一転、自民は「推進」
石破茂首相は自民党総裁選を控えた9月の時点で、健康保険証の廃止時期の先送り検討も必要との考えを示していたのに、首相就任後は主張を一変。今月7日の衆院代表質問では、マイナ保険証への一本化を「法に定められたスケジュールで進める」と明言した。
平将明デジタル相は記者会見で「急激な人口減少で加速度的に人手不足が進行する中、皆さんが満足できる社会保障のサービスを行うために不可欠」と指摘。マイナ保険証への一本化のメリットを強調する。
自民は公約で、健康保険証の廃止を前提に、マイナ保険証を含む「マイナンバーの利活用推進」を記載。「社会保障」「税」「災害」の3分野以外での情報連携も拡大するとした。公明党も、マイナ保険証への一本化に向けた取り組みを着実に進めるとした。
◆一本化に賛同した維新と国民民主 公約では触れず
健康保険証廃止とマイナカードへの一本化は2023年、マイナンバー法などの改正関連法の成立により決まった。関連法には自公両党のほか、日本維新の会や国民民主党も賛成した。維新と国民は健康保険証廃止を容認する立場だが、公約にはマイナ保険証への対応に関する具体的な記載はない。
維新は行政組織のデジタル化推進に向けたマイナンバーの徹底活用を主張。国民は緊急時の迅速な給付のためのマイナンバーと銀行口座のひも付けを掲げる。
◆立憲民主は「見直す」、共産は「押し付けをやめさせる」
一方、立憲民主党は公約に、健康保険証廃止の延期と当面の存続を明記。マイナンバー制度やマイナカードの在り方はプライバシー保護などの観点から「いったん立ち止まって見直す」とした。
共産党はマイナンバー制度自体を廃止すべきだとした上で、マイナ保険証などの押し付けをやめさせると主張。れいわ新選組や社民党も、現行の健康保険証を維持するよう求めている。
◆「現状で健康保険証廃止はあまりにも拙速」…現状は
マイナンバーカード保有者のうち、8月末で約80%がマイナ保険証に登録している。ただし、病院や薬局で利用している人は9月時点で13.87%にとどまっている。
東京新聞など全国18の地方紙が8月に実施したアンケートでは、回答のあった1万2007人のうち、現行の保険証を残してほしいという意見が80%を占めた。「紛失時のリスクや手続きが心配」「災害時や停電など、使えないときはどうするのか」といった不安や疑問の声が多く寄せられた。
マイナ保険証を使ったトラブルも後を絶たない。開業医らで構成する全国保険医団体連合会の調査では、5月以降も70%の医療機関で、カードリーダーの不具合などのトラブルを経験していた。
東京都練馬区のITエンジニア、堀田聡美さん(54)は「さまざまな情報がひも付けられるリスクがあるのに、政府は国民が安心できるような制度設計をしていない」と指摘。健康保険証の廃止に関しては「あまりにも拙速だ。トラブルがあった場合に誰が責任を取るのかも分からず、今も不安に感じる。投票する際には、マイナ保険証に対する各党の主張も判断材料の一つにしたい」と話している。(戎野文菜)
「公報は国民へのラブレター、裁判官の価値観に触れる機会に」元最高裁裁判官が語る「国民審査」の生かし方
2024年10月20日 東京新聞
衆院選と同時に最高裁裁判官の国民審査が実施される。「裁判官の考えや人柄に触れる機会にしてほしい」と、12年前に「マチ弁」(街の弁護士)から最高裁裁判官になった山浦善樹さん(78)は強調する。「法律は無味乾燥な条文。それをどう解釈するかは、裁判官の人生観や価値観が大きく反映される」。胸に残るのは、自身が審査を受けた際に届いた1枚のはがきだ。(三宅千智)
国民審査 最高裁裁判官が職責にふさわしいかどうかを国民が審査する憲法上の制度。任命後、最初の衆院選時に審査対象となる。有権者は辞めさせたい裁判官の欄に「×」を記入し、有効投票の過半数となれば罷免される。何も書かないと信任したとみなされる。「○」を含め「×」以外を記入すると無効。信任されると10年間は審査対象から外れる。1949年に始まり、過去25回で罷免された人はいない。
◆マチ弁として感じてきた率直な思いを
山浦さんは東京都内に事務所を構えて約30年弁護士を務め、2012年3月に最高裁裁判官に就任。同年12月に審査を受けた。審査前、裁判官の経歴などを記した審査公報が各世帯に届く。山浦さんは過去の公報を読み、違和感を覚えた。「『公平に』と書いてもほとんど意味はない。『私、不公平にやります』なんて裁判官はいないもの」
型どおりの言葉ではなく、自分の思いを伝えたかった。「市民は本当に法律によって守られているのか」「裁判記録の中から、闘う武器を持たない市民の悲鳴を聞き出すことに全力投球することが大切だ」。マチ弁として感じてきた率直な思いを、公報につづった。
趣味として「モーツァルト」と記し「仕事で疲れたときなど、モーツァルトを聞くと、モーツァルトさんが隣に座って話しかけてくれるから不思議です」と補足した。「『あの人、どこにでもいるおっちゃんなんだ』と知れば、ほっとするでしょう」
審査後、都内の女性から山浦さんに宛てたはがきが最高裁に届いた。「公報の文章に強く心を打たれた」と書かれていた。「公報は国民へのラブレター。一生懸命書けば、必ず伝わる」と感じた。
◆選択的夫婦別姓に初の憲法判断
2016年7月の退官まで1万4000件余の裁判に携わった。選択的夫婦別姓を認めない民法の規定を巡り、初の憲法判断を示した2015年の判決はその一つだ。
全裁判官15人で審理し、3人の女性全員と、山浦さんら弁護士出身の男性2人は「多くの場合、妻のみが自己喪失感といった負担を負い、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない」などとして「違憲」と考えた。
しかし、10人の男性裁判官が「いずれの姓を名乗るかは夫婦の協議に委ねており、規定には男女の形式的な不平等はない」として、多数決で「合憲」との結論になった。
◆国民が質問する機会もあると良い
現在は第3次訴訟が2地裁で審理されており、今回の審査対象の6人の裁判官は、いずれ最高裁での審理に加わる可能性がある。制度そのものに大きな影響を与える判断をする裁判官らが、どのような考えを持っているのか、国民が知る機会は少ない。
山浦さんは「一方的な情報提供でなく、国民が質問する機会もあると良い」と現行の国民審査の課題を認めつつも、意義をこう語る。「最高裁裁判官になった人がどういう人柄、考え方かを知り、それを是とするか、ちょっと違うんじゃないかという意見を出す。国民審査はそのチャンスだ」
女川原発2号機再稼働 安全対策や避難体制の構築求められる
2024年10月30日 NHK
東北電力は29日夜、宮城県にある女川原子力発電所2号機の原子炉を起動し、東日本大震災で停止して以来、13年半余りを経て再稼働させました。東北電力と地元自治体には想定外の災害に備え安全対策を徹底するとともに、事故の際に住民を安全に避難させる体制の構築が求められることになります。
13年前の東日本大震災の発生以来、運転を停止していた女川原発2号機では、29日夜7時、中央制御室で運転員が核分裂反応を抑える制御棒を引き抜く操作を行い、原子炉を起動させました。
東北電力によりますと、30日未明に核分裂反応が連続する臨界状態に達したということで、来月上旬には発電を開始する見通しです。
事故が起きた東京電力福島第一原発と同じタイプの原発の再稼働は、東日本大震災のあと初めてで、被災地にある原発としても初めての再稼働となりました。
東北電力では、13年以上の運転停止に伴い、運転員のおよそ4割が運転の経験がなく、人材育成の強化が課題となっています。
また、ことし元日の能登半島地震で甚大な被害が出たように、女川原発が立地する牡鹿半島でも地震による土砂崩れや津波の浸水で住民の避難道路が通れなくなるおそれがあります。
東北電力には想定外の災害に備えて安全対策を徹底するとともに、国や地元自治体も事故の際に住民を安全に避難させる体制の構築が求められることになります。
[参考:女川原発2号機が抱える課題]
①長期停止でトラブルを引き起こす可能性がある
②歴史的に大地震や津波が起きてきた地域
③半島に立地し、実効性のない避難計画
④使用済み核燃料の置き場がひっ迫
岸田政権のやり残し「防衛増税」どうなる? 「財源後回し」にしていたら「手取り増やせ」野党が大勝
2024年10月30日 東京新聞
衆院選で与党が過半数を割り込んだことで、岸田文雄前首相が残した課題である防衛増税の実施がより不透明となってきた。今回議席を伸ばした野党は、減税や社会保険料の負担軽減を前面に訴えている。新たな政権の枠組み次第では、医療保険に上乗せされる形で徴収される少子化対策の財源問題にも飛び火する可能性がある。(石井紀代美)
◆自民党内でも反対論、増税先送り
「急増した防衛予算を精査し、防衛増税は行いません」。議席を大幅に増やした野党第1党・立憲民主の選挙公約には、こんな文言が躍る。
岸田文雄前首相(資料写真)
「防衛増税」とは、2023~27年の5年間で計43兆円に膨らんだ防衛予算のうち、約1兆円を所得、法人、たばこの3税の増税で調達するという岸田政権が示した方針を指す。増税は有権者の評判が悪く、自民党内でも反対する声があり、実施が先送りにされてきた。
27日に投開票が行われた衆院選で、野党各党は増税に反対する姿勢を強調してきた。立憲民主は防衛増税はしないと公約に掲げ、国民民主は消費拡大を促す目的で、消費税とともに所得税減税を訴えた。日本維新の会も、消費税に加え、所得税や法人税の減税を断行すると強調した。
◆1兆円分「社会保険料に上乗せ」
岸田政権が残した財源問題は他にもある。児童手当の拡充や高等教育の負担軽減など、年間3兆6000億円を必要とする「少子化対策」だ。そのうち毎年1兆円分は26年度から社会保険料に上乗せして集めることが、岸田政権時に決定された。一方、今回の選挙戦で、国民民主や維新は若い人の可処分所得を増やすことを強調し、社会保険料の軽減を主張。政権の方針とは対立する。
野村総合研究所の木内登英氏は、「歳出を先にし、財源を後回しにした結果と言える」と岸田政権を批判。「与党は今後、政権を維持するために野党との協力が必要になり、岸田政権から引き継いだ財源問題は混迷するだろう」と予測している。
自転車「ながら運転」の罰則強化 改正道交法が11月1日に施行
2024年10月30日 NHK
11月1日から自転車に関する法律が変わります。携帯電話を使用しながら自転車を運転するいわゆる「ながら運転」や、自転車での酒気帯び運転が罰則の対象となり、警察は周知を図るとともに悪質な違反を取り締まることにしています。
11月1日に施行される改正道路交通法では自転車での「ながら運転」が禁止され、新たに罰則が設けられました。
具体的には、携帯電話を使用しながら自転車を運転して事故を起こすなどの危険を生じさせた場合、1年以下の懲役または30万円以下の罰金、危険を生じさせなくても携帯電話を手に持ちながら通話や画面を注視した場合、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。
また、アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある「酒酔い運転」には罰則がありましたが、罰則の対象外だった「酒気帯び運転」についても、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されることになります。
さらに、自転車と勘違いされやすい「モペット」などと呼ばれる電動モーターやエンジンで走行できる二輪車についても、ペダルをこいで運転するモードにしても自転車と同じ扱いではなく、原付きバイクやオートバイに該当すると明確化されます。
警察庁によりますと、自転車が関係する人身事故は9月末までに全国で4万9044件起きていて、このうち自転車の「ながら運転」による事故は126件発生しているということです。
全国の警察は法改正や交通ルールについて周知を図るとともに、悪質な違反を取り締まることにしています。
「ながら運転」事故 ドライブレコーダーの映像
映像が再生されます
都内で撮影されたタクシーのドライブレコーダーの映像です。
画面左側に見える自転車の男性は左手にスマートフォンを持って運転しています。
タクシーが車線変更した際に自転車の男性もタクシー側に近づき、接触してしまいました。
また、福岡市で撮影された映像では、片側1車線の道路をタクシーが進んでいると、反対車線にとまっていた車の後ろから自転車が出てきてぶつかりそうになりました。
携帯電話で通話しながら片手で運転していたとみられます。
「ながら運転」の自転車が衝突 夫を亡くした女性
自転車の「ながら運転」による事故で、62歳の夫を亡くした女性がNHKの取材に応じました。
事故は6年前の2018年、茨城県内で起きました。
女性の夫は最寄りのバス停から自宅に向かって歩いているときに前から走ってきた自転車と衝突し頭を強く打って亡くなりました。
自転車を運転していたのは当時19歳だった大学生で、ライトが点灯しない状態でイヤホンで音楽を聴き、スマートフォンを見ながら運転していたため、女性の夫に気づかずにぶつかったということです。
女性は当時の心境について、「自転車との事故だったと聞いて当初は、『車じゃなくてよかった』と思いました。自転車事故で亡くなる人がいるのは聞いたことがありましたが、まさかそうなってしまうとは思ってもいませんでした」と振り返りました。
また、「ながら運転」だったことについては、「ほとんど街灯もない道で、なんでスマホなんて見ていたんだろうと思いました。本人は、『急いでいて、時間を見るためにちょっとだけスマホを見てしまった。とにかく全部こっちが悪いです』と言っていましたが空虚な気持ちになりました」と言葉を絞り出していました。
事故以来、交通ルールを守らない自転車が目に付くといい、「なんでスマホを見ながら運転しているのだろうと思うのですが、注意したくても怖くて注意できない自分が情けないです。自転車は幼児からお年寄りまで免許なしで乗れる、身近な交通手段ですが、ルールを守らなかったり、ちょっと油断したりすると、凶器になってしまうことをわかってほしいです」と訴えていました。
夫については、「温厚で達観している人でした。36年連れ添いましたが、愚痴を聞いたことは1回もなく、いつも私の愚痴を聞いてくれました。料理も作ってくれたし、散歩も映画も一緒に行って、夜遅くまでよくおしゃべりしていたので、いなくなって今でもとても寂しいです」と話しました。
専門家「被害者にも加害者にもなるおそれ」
自転車での「ながら運転」について、専門家は「歩行者や車に衝突する危険性が非常に高まり、自身が被害者にも加害者にもなるおそれがある」と指摘します。
交通工学が専門で「ながら運転」の危険性に詳しい愛知工科大学の小塚一宏名誉教授は、改正道路交通法が施行されるのを前に、自転車での「ながら運転」の危険性を検証する実験を行いました。
自転車を運転する学生の頭に視線がどこに向いているのか測定できる機器を取り付け、周囲に歩行者がいる状況で大学内に設置したおよそ40メートルの直線のコースを走ります。
実験で撮影された映像を小塚名誉教授たちが分析したところ、通常の運転では、歩行者に視線が向いていた「目視時間」の合計が、12.8秒から14.8秒だったのに対し、「ながら運転」では最も長かったケースでも、6.4秒と半分ほどでした。
最も短いケースでは、1.4秒しか歩行者に視線を向けていなかったということです。
小塚名誉教授は、「人は、歩行者や車に視線が移動して、その視覚情報が脳に届き、脳で認識されて初めて、歩行者や車の動きがわかるので、視線が動くことが重要だ。『ながら運転』をすると、視線はスマートフォンの画面付近にとどまり、視線はほとんど移動せず、歩行者や車の動きを認識できない。当然、歩行者や車に衝突する危険性が非常に高まり、自身が被害者にも加害者にもなるおそれがあるので、十分に気をつけてほしい」と話していました。
実験に参加した学生は、「画面を見るために下を向いているので、歩行者が密集している場所ではすごく危なかった。スマートフォンで地図を見るときは、いったん自転車を止めて確認してから運転するようにしたい」と話していました。
実験で撮影された映像です。
映っているのは、自転車を運転する学生から見えている視界で、オレンジ色の丸印が、視線が向いている場所を表しています。
スマートフォンを持たない通常の運転の場合は、歩行者の方向にオレンジ色の丸印が動き、広い範囲に視線を向けていることがわかります。
一方で、スマートフォンを操作しながら自転車を運転する「ながら運転」の場合には、スマートフォンの画面にオレンジ色の丸印がとどまっていて、画面に視線が集中しています。
そのため、目線が下向きになっていて、歩行者が通過してもオレンジ色の丸印が歩行者の方向に動かない場面も見られました。
【QA解説】改正道路交通法 何がどう変わる
自転車に関する法律の改正で何がどう変わるのか。
ポイントをQAでまとめました。
法改正のポイント
Q.11月1日から何が変わる?
A.自転車の交通違反への罰則強化などを盛り込んだ改正道路交通法がことし5月に成立し、11月1日から施行されます。
ポイントは3つです。
1つ目は、携帯電話を使いながら自転車を運転するいわゆる「ながら運転」を禁止して、罰則を設けること。
2つ目は、これまで罰則の対象外だった自転車での「酒気帯び」運転に罰則を設けること。
3つ目は、自転車と勘違いされやすい、「モペット」などと呼ばれる電動モーターやエンジンで動く二輪車を原付きバイクやオートバイに該当すると明確化することです。
「ながら運転」どう変わる
Q.携帯電話の「ながら運転」はどう変わる?
A.自転車の「ながら運転」は、都道府県の公安委員会が定める規則ですでに禁止されていました。
しかし、「ながら運転」による事故は全国でおととしは155件、去年は197件と、増加傾向になっていました。
そこで今回、法律で禁止し、新たに罰則を設けることになりました。
「ながら運転」の罰則は
Q.ながら運転の罰則はどれくらい?
A.これまでは全国一律で、5万円以下の罰金でしたが、法律で禁止され、罰則も強化されました。
具体的には、携帯電話を使用しながら自転車を運転して事故を起こすなどの危険を生じさせた場合、1年以下の懲役または30万円以下の罰金、危険を生じさせなくても携帯電話を手に持ちながら通話や画面を注視した場合、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。
「ながら運転」の違反行為とは
Q.どんな行為が違反になる?
A.ながら運転の違反行為は、「通話」と「画面の注視」があります。
「通話」は、携帯電話を手に持って通話をすること。手に持たずにハンズフリーの形で通話する場合は該当しませんが、イヤホンなどで周りの音が聞こえない状態で自転車を運転する行為は別の規定で禁止されています。
「画面の注視」は、2秒以上見続けることが目安となっていて、メールや動画を見ることはもちろん、地図アプリを操作しながら運転する行為も該当します。
一方で、車のカーナビのように自転車に固定したうえで、画面をちらっと見るだけなら当てはまりません。スマートフォンをハンドル部分に固定した自転車を見かけますが、これ自体は違反ではありません。
ただ、注視すると違反になるので、操作をする場合は、自転車を止めてから行ってください。
酒気帯び運転
Q.酒を飲んで自転車を運転するのは、以前から違反では?
A.これまでも酒を飲んで自転車を運転することは法律で禁止されていました。
ただ、罰則の対象となっていたのは、“めいてい状態”など、アルコールの影響で正常な運転ができないおそれがある「酒酔い運転」で、「酒気帯び運転」は罰則の対象外でした。
しかし、「酒気帯び運転」による死亡・重傷事故率は、飲酒していない場合と比べ、およそ1.9倍に高まるなど、危険なため今回、罰則が設けられました。
「酒気帯び」の状態で自転車を運転した場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
酒の提供者にも罰則
罰則の対象となるのは自転車に乗る人だけではありません。
自転車で居酒屋に来るなど、「酒気帯び運転」をするおそれのある人に酒を提供した人は2年以下の懲役または30万円以下の罰金、自転車を提供した人は3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。
モペット
Q.「モペット」などと呼ばれる、ペダルが付いている二輪車は何が変わる?
A.「モペット」は、電動モーターやエンジンで走行できる二輪車で、原付きバイクやオートバイに該当します。
歩道を走ってはいけないなど、原付きバイクなどと同じ交通ルールが適用されていますが、ペダルが付いているため、自転車と勘違いしている人が多いということです。
これまで、法律上はモペットに特化した記述はありませんでしたが、モペットによる交通違反や事故が増加したことから、今回、明確化しました。
モペット ペダルこいでも二輪車
Q.モペットをペダルをこぐモードで運転したら自転車の扱いになるの?
A.自転車の扱いにはなりません。
たとえ、ペダルをこぐモードにしたとしても、原付きバイクやオートバイに分類されるということが明記されました。
利用者をはじめ、国民に広く、モペットは原付きバイクやオートバイと同じ交通ルールなんだと認識してもらうのがねらいです。
自転車で交通違反すると…
Q.自転車で交通違反をするとどうなるの?
A.現在、自転車に対する取締りの多くは、専用のカードを使って交通ルールを指導する「警告」で、去年は全国でおよそ133万件に上りました。
一方、自転車による悪質な違反に対しては、交通切符、いわゆる「赤切符」が交付され、刑事罰の対象として検察庁に送られることになっています。
また、「ながら運転」や「酒気帯び運転」など、こうした危険行為で3年以内に2回以上、交通切符を切られたり、交通事故を起こしたりした場合、「自転車運転者講習」を受ける必要があります。
各地の運転免許センターで、自転車事故の被害者や遺族の体験談が紹介され、自転車事故の映像を見たり、ディスカッションをしたりしながら、交通ルールや事故の悲惨さについて学びます。
通知を受けても受講しなかった場合、5万円以下の罰金が科されます。去年1年間で全国で631人が受講したということです。
さらに、ことし5月に成立した改正道路交通法では、車やオートバイと同じように、自転車での交通違反に対して反則金を納付させるいわゆる「青切符」を導入することが決まりました。
「赤切符」などで検挙されても、違反者の多くは起訴されず、実際に罰則が適用されるケースが少ないため、実効性のある取締りとして「青切符」の導入が必要だと判断されたためです。
今後、2年以内に施行される見通しで、警察庁は交通ルールの順守の徹底と制度の周知を図ることにしています。
自転車は免許証が必要ないため、誰でも気軽に乗れる一方、車やバイクを運転する人に比べ、交通ルールや安全性について学ぶ機会が少ないのが実情です。
自転車も車両であるという認識を改めて持ち、これまで以上に交通ルールを守ることを心がけてほしいと思います。
同性どうしの結婚を認めない法律規定は憲法違反 東京高裁
2024年10月30日 NHK
戸籍上の同性カップルなどが国を訴えた裁判で、東京高等裁判所は、同性どうしの結婚を認めない法律の規定について「差別的な取り扱いだ」として憲法に違反するという判断を示しました。
一方、国に賠償を求める訴えは退けました。
全国で起こされた同様の裁判で2審の判決は2件目で、いずれも憲法違反という判断になりました。
東京に住む戸籍上の同性のカップルなどは、同性どうしの結婚を認めない民法などの規定は憲法に違反するとして国に賠償を求めました。
一方、国は「同性どうしの結婚は憲法で想定されていない」などと主張しました。
30日の2審の判決で、東京高等裁判所の谷口園恵裁判長は、「同性間でも配偶者として法的な関係をつくることは、充実した社会生活を送る基盤となるもので、男女間と同様に十分に尊重すべきだ。性的な指向が同性に向く人の不利益は重大だ」と指摘しました。
また同性婚について近年の意識調査で賛成している人が増え、自治体でパートナーシップ制度の導入が進んでいるとして、「社会の受け入れの度合いは高まっている。民法の規定には合理的な根拠がなく、差別的な取り扱いだ」として憲法に違反すると判断しました。
一方、国に賠償を求める訴えについては最高裁判所の統一判断が出ていないことなどを理由に退けました。
全国で同様の裁判が6件起こされているうち、2審の判決は2件目で、いずれも憲法違反という判断になりました。
原告 “私たちの主張伝わって本当にうれしい”
原告たちは判決のあと、裁判所の前に集まった支援者などに向けて、「結婚の自由をすべての人に認める」や「法改正待ったなし」などと書かれた横断幕などを掲げ、涙を流しながら喜ぶ人もいました。
原告の大江千束さんは「私たちの主張をくみ取り、盛り込んでくれた判決で、非常にありがたかった。ここまでやってきてよかった」と話しました。
原告のかつさんは「どのような判決が出るか期待と不安があったが、私たちの主張が裁判所に伝わって本当にうれしかったです」と話しました。
弁護団「画期的で歴史的な判決」
判決のあと、当事者や弁護団が都内で会見を開きました。
原告の小野春さん(仮名)は「法廷で『違憲』とはっきり聞くことができ、本当にうれしくて、今も胸がいっぱいです。裁判中は、言いたいことをうまく伝えられているかと自信を失っていましたが、判決文を読んで、裁判所に届いていたと感じました」と話していました。
弁護団の共同代表の寺原真希子弁護士は、「憲法違反だと明確に指摘した。法制度のあり方についても同性の配偶者の地位を確立すべきだなどと、国会に具体的な注文を付けていて、画期的で歴史的な判決だ。全国で起こされている同様の裁判の積み重ねの中で得られた判決だと思う」と話していました。
国に賠償を求める集団訴訟 各地の状況は
同性のカップルに結婚が認められないのは憲法に違反するとして国に賠償を求める集団訴訟は、全国5か所で6件、起こされています。
1審では判決が出そろい、
「憲法違反」が2件、
「違憲状態」が3件、
「合憲」が1件
と判断が分かれました。
2審の判決は今回が2件目で、1件目の札幌高裁もことし3月、「憲法違反」と判断していました。
官房長官 “国民各層の意見や国会での議論の状況など注視”
林官房長官は午前の記者会見で「現段階では確定前の判決であり、他の裁判所に同種の訴訟が係属していることから、その判断も注視していきたい」と述べました。
その上で「同性婚制度の導入は親族の範囲やそこに含まれる人の間にどのような権利義務関係などを認めるかといった国民生活の基本に関わる問題であり、国民一人一人の家族観とも密接に関わる。国民各層の意見や国会での議論の状況、それに同性婚に関する訴訟の動向、自治体でのパートナーシップ制度の導入や運用状況などを引き続き注視する必要がある」と述べました。
専門家「今後の流れに影響を与えるのでは」
性的マイノリティーの人権問題に詳しい青山学院大学の谷口洋幸教授は「当事者の声をきちんと拾い上げ、同性どうしで生活をしていくうえでどのような不利益があるのかなどを正面からとらえた判決だ。単に同性婚を認めるかどうかではなく、現実の社会がどうなっているのか、人々の意識がどうなっているのかなど社会全体の動きを見たうえで、今、憲法判断をどうするべきかという視点で書かれている。人の命や尊厳に関わる問題だときちんと認識して判断している」と話していました。
そして「同性カップルに配偶者としての法的な身分を作る規定を何も設けていないことに『合理的な根拠がない』と言い切っていることに注目すべきだ。今回の判断は今後の裁判の流れに影響を与えるのではないか」と指摘していました。
【詳しく】判決のポイントは
東京高等裁判所は、同性どうしの結婚を認めない民法などの規定について「差別的な取り扱いだ」として憲法に違反するという判断を示しました。
今後の同性どうしの結婚を認める法制度についても具体的な方法を示すなど、一歩踏み込んだ判断をしました。
判決のポイントを詳しく見てみます。
「婚姻の自由」の解釈について
まず憲法で定められた「婚姻の自由」の解釈についてです。
憲法24条で保障され、その条文には「両性」「夫婦」などと異性カップルを前提とする記述があるため、憲法が同性婚を認めているかどうか議論があります。
この条文について東京高裁は、当時の封建的なルールを撤廃する趣旨で作られたものだとしたうえで「『両性』や『夫婦』の文言で男女の関係のみを法的な保護の対象とする趣旨だと解釈することはできない」とし、同性カップルも法的な保護の対象に含まれるという解釈を示しました。
同性婚を認めないのは不平等か
これを前提に、同性婚を認めない民法などの規定が、憲法14条で定める「法の下の平等」や24条で保障する「両性の本質的平等」に違反しているかを検討しました。
まず「男女間では結婚によって法的な関係がつくられることが、安定で充実した社会生活を送る基盤になっている。この関係は同性カップルであっても同様に重要で、法律の規定がないために重大な不利益が生じている」と指摘しました。
そして、全国の自治体でパートナーシップ制度の導入が進んでいることや、意識調査で年を追うごとに賛成する人が増えているなどとし「社会的に受け入れる度合いは相当程度高まっている。法的に区別する状態を現在も維持することに合理的根拠があるとは言えない」とし、法の下の平等と両性の本質的平等を保障する憲法に違反していると判断しました。
今後の具体的な法制度にも言及
同性婚を認めるための今後の具体的な法制度について言及したのも特徴です。
東京高裁は、今の民法と戸籍法を改正して同性間での結婚を認める方法のほか、今の結婚の制度とは別の届け出制度をつくる方法を挙げ、こうした制度設計は国会の裁量に委ねられているとしました。
そのうえで「配偶者の相続権など、男女間の婚姻と異なる規律にすることは、憲法違反の問題が生じうる」などと述べ、個人の尊重や法の下の平等にのっとった制度にする必要があるとし、国会に注文を付けました。
同性婚訴訟 2審も「憲法違反」の判断 名古屋高裁
2025年3月7日 NHK
同性どうしの結婚が認められていないのは憲法に違反するとして愛知県に住む同性のカップルが国を訴えた裁判で、2審の名古屋高等裁判所は「同性カップルが法律婚制度を利用できないとする区別は性的指向によって差別する取り扱いだ」などとして、1審に続いて「憲法に違反する」という判断を示しました。同様の裁判の2審の判決は4件目で、いずれも「憲法違反」という判断になりました。
愛知県に住む30代の男性カップルは、同性どうしの結婚を認めていない民法などの規定は憲法に違反すると主張して国に賠償を求める訴えを起こし、国は「同性どうしの結婚は憲法で想定されていない」と争いました。
1審の名古屋地方裁判所は、おととし5月、民法などの規定について憲法に違反すると指摘した一方、賠償を求める訴えは退け、原告側が控訴していました。
7日の2審の判決で、名古屋高等裁判所の片田信宏裁判長は「同性のカップルが法的利益や各種の社会的利益を享受することができず、特に医療行為に関しては、パートナーだけでなく養育している子どもの生命に直結する不利益が想定される」と指摘しました。
また、婚姻制度とは異なるパートナーシップ制度などについて「制度を利用すること自体が、秘匿性の高い情報である性的指向をみずからの意思に反して開示することを求められるというプライバシー侵害につながる危険性がある」と指摘しました。
そのうえで、民法などの規定について「同性カップルが法律婚制度を利用できないと区別しているのは、個人の尊厳の要請に照らして合理的な根拠を欠き、性的指向によって差別する取り扱いだ」として、法の下の平等を定めた憲法14条1項と、個人の尊厳と両性の本質的平等を定めた憲法24条2項に違反するとして、1審に続いて憲法違反と判断しました。
さらに、「同性婚の法制化は戸籍制度の重大な変更をもたらすものではなく、性別中立的な文言に変更するといった法改正で足り、膨大な立法作業が必要になるとは言えない」などと指摘しました。
一方、国に賠償を求める訴えについては、最高裁判所の統一判断が出ていないことなどを理由に退けました。
全国5か所で6件起こされている同様の裁判で、2審の判決は4件目で、いずれも「憲法違反」という判断になりました。
【原告「法律婚の必要性説明 うれしい」】
判決のあと、原告と弁護団が名古屋市内で会見を開きました。
原告の1人、鷹見彰一さん(仮名)は「1審判決は婚姻以外の制度でもいいというニュアンスを含んでいたので、今回、法律婚の必要性をしっかり説明してくれたのがうれしいです。今回の判断は当事者にかぎらず、これからを生きていく子どもたちにとってもいい判決になったと思います」と話していました。
また、判決では、現在パートナーとともに育てている子どもの不利益についても言及があったことに触れ、「万が一の医療機関での対応が発生したときに、子どもと一緒の入院がスムーズにできないなどということがあるかと思うので、裁判所が真摯(しんし)に向き合ってくれたことが伝わってきてよかったです」と話していました。
弁護団の水谷陽子弁護士は「判決は、パートナーシップ制度などでは法律婚を利用できないことで生じる不利益が解消されないと指摘してくれました。何らかの制度を求めているのではなく、『法律婚を使えないのが憲法違反』だということを正面から受け止めた判決だ」と評価しました。
【専門家「国会は立法に向けた検討を」】
性的マイノリティーの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行名誉教授は、7日の判決について「この判決によって同性婚訴訟における違憲判決の流れはほぼ固まったといえる。重い判断である高裁の判決が4つ連続で積み上げられたことは画期的と言え、今後の最高裁判決にも大きなインパクトを与えると考えられる」と述べました。
そして、「条文の改正についても『性別中立的な表現に改めればいい』などと具体的な立法のしかたにまで触れ、『大きな問題はない』と指摘した判決は初めてではないか。また、婚姻以外の制度を設けるという選択肢も狭める内容だった。国会は、4件連続での高裁の違憲判断を重く受け止めるべきで、最高裁の判断を待つという姿勢では済まされない。待ったなしに、立法に向けた検討を始めないといけない」と話しています。
不適切保育を「内部告発」したら保育園に「脅されて」退職…通報者が守られない構図は民間でも役所でも
2024年10月26日 東京新聞
川崎市内の保育園の不適切保育を内部告発した40代女性が、園側から「刑事告発を行う」と脅され、退職を余儀なくされたとして、運営する社会福祉法人「虹の会」(同市高津区)に損害賠償423万円などを求める訴訟を、横浜地裁川崎支部に起こしたことが分かった。女性は「不適切保育を前に、悩んでいる保育士はたくさんいるはず」と話し、内部告発した人が守られる環境を求めている。(竹谷直子)
◆被害園児の保護者に防犯カメラの映像を提供
訴状などによると、女性は2023年4月から、1歳児クラスを担当。同じクラスを担当するベテラン保育士が同年6月下旬ころから、園児の手を強く引っ張ったり室内に園児を1人で置き去りにしたりしていたことに、危機感を覚えた。園長らがこれらの行為を注意しなかったため、同年9月に被害園児の保護者らに防犯カメラの映像を提供し、保護者が同市に相談。同市が不適切保育を確認し指導をした。
内部告発により、保育園を退職せざるを得なくなった女性=東京都港区で
女性は、不当な扱いを警戒し、代理人弁護士を立てた上で内部告発したが、保育園の幹部が職員会議で「(告発で)業務が滞り、支障が出ている」などと非難。偽計業務妨害での刑事告発や損害賠償請求を検討していることを女性を含めた出席者全員の前で発言した。
女性は「幹部が『こんなこと(内部告発)をして許されない』とみんなをあおり、空気が一変した。同僚から怒鳴られたり、無視されたりされ、怒りよりもショックだった」と振り返る。「園からの脅しを何度も思い出し、今でも怖くて立ち直れない」と明かす。
福祉法人の担当者は、当時の園児への対応や訴訟に関する本紙の取材に「いずれの質問についても訴訟継続中につき、回答しかねる」とした。
公益通報に詳しい淑徳大学の日野勝吾教授(労働法)の話 園側が刑事告発や損害賠償をほのめかしたのは、内部告発を封じるやり方だ。不適切保育は、保育士さんが内部告発の形で声を出したから発覚した。構図としては公益通報で、通報を理由としての損害賠償は法律で禁じられている。内部告発者のはしごを外すというのは、法の趣旨からしてもあってはいけない。
◇ ◇
◆解雇も降格もできないはずなのに、現状は?
通報者への不利益な扱いや「犯人捜し」を禁じる公益通報者保護法の趣旨に反しかねない事態は相次いでいる。制度の機能不全が明らかになる中、消費者庁は今年5月、制度の見直しに向けた有識者検討会を設置。企業などが不正の通報者を不利益扱いした場合、罰則を設けるなどの対策強化を検討中だ。
公益通報は、勤め先の企業や官庁の不正を組織内の通報窓口や監督する行政機関、報道機関に通報すること。公益通報を理由とした解雇は無効となり、降格や減給も禁止されている。
しかし、兵庫県の斎藤元彦前知事のパワハラ疑惑などを内部告発した問題では、告発した県幹部の男性は県の内部調査で特定されて停職3カ月の懲戒処分を受け、その後に死亡した。民間企業でも似た問題は相次いでおり、保険金不正請求問題が起きたビッグモーター(当時)は内部告発をもみ消したとされる。
消費者庁が昨年実施したアンケートによると、法令違反などを相談・通報した人の約3割が「後悔している」「良かったこともあれば、後悔したこともある」と答えた。その理由(複数回答)として「不正に関する調査や是正が行われなかった」(57%)、「不利益な取り扱いを受けた」(42%)などが挙がった。
この調査結果を受け、専門家からは「声を出して不利益を受けてしまうと通報の萎縮につながる。罰則があった方がいい」などの意見が出ている。消費者庁の検討会は年内に意見をまとめる予定で、来年の通常国会での法改正も視野に検討を進めている。(竹谷直子)
小中学校と高校の不登校の児童と生徒 8年連続で過去最多更新
2024年10月31日 NHK
昨年度、長崎県内の国立を除く小中学校と高校で不登校の状態にある児童と生徒の数はおよそ4500人と過去最多となったことがわかりました。
文部科学省は各都道府県などを通して、全国の小中学校と高校などを対象に不登校やいじめなどの状況を毎年調査していて、昨年度の結果を公表しました。
文部科学省と長崎県によりますと、昨年度、県内の国立を除く小中学校と高校で年間30日以上欠席した不登校の状態にある児童と生徒は4477人で、前の年度と比べて687人増え、8年連続で過去最多を更新したということです。
不登校の子どもがコロナ禍を経て急激に増えていて、県では、学校に通えない状況が続き、学びの場が学校だけではないという認識が広がったことが背景の1つにあるとみています。
県児童生徒支援課は「不登校の理由はさまざまで複雑にからみあっていることが多いが、子どもたちに低年齢のころから寄り添い、学校内に安心して過ごせる場所を作るほか、民間のフリースクールなど関係機関が支えられるよう連携していきたい」としています。
また、国立を除く小中学校と高校、それに特別支援学校で認知された「いじめ」の件数は2393件で、前の年度と比べて344件増えました。
【フリースクールの役割 高まる】
県内の不登校の状態にある児童や生徒が過去最多となるなか、子どもたちの「居場所」としてフリースクールの役割が高まっています。
ことし6月に不登校の子どもを持つ親たちが開いた川棚町のフリースクールでは、学校を休みがちな小学生から高校生までの20人余りが通っています。
このフリースクールは、安心できる“居場所”としての機能を重視していて、子どもたちは週4日の開所日に合わせて好きなときに利用し、1人で自分の興味があることに取り組んだり、仲間やスタッフと遊んだりして自由に過ごすことができます。
この日は、小中学生およそ10人が集まり、近くの公園で縄跳びなどをして体を動かしたあと、スクールに戻って好きな動画を見たり、カードゲームをしたりしていました。
フリースクールや保護者によりますと、利用する子どものなかには、スクールに通ううちに外に出かけるようになったり、進んで勉強をするようになったりする子どももいるということです。
フリースクールを運営する団体の荒瀬奈穂子代表は「子どもたちは友だちと楽しく過ごすなかで自信を持つようになって、不思議なことに学校に気持ちが向くようになっている。前向きに社会に出て行く力になっているように感じている」と話していました。
その上で、フリースクールの必要性について、「子どもたちが学校に行けなくなった場合、家しか居場所がないと、できるはずの経験ができずに大事な子供時代を一人ぼっちで過ごすことになってしまう。仲間ができて楽しいと思える場所があることがすごく大事だと思う」と話していました。
【詳しく】日銀 政策金利据え置き 総裁「米経済のリスク低下」
2024年10月31日 NHK
日銀は31日まで開いた金融政策決定会合で、いまの金融政策を維持することを決めました。政策金利を据え置き、短期の市場金利を0.25%程度で推移するよう促します。
植田総裁は、今後の利上げの判断にあたってアメリカ経済の先行きをめぐるリスクを念頭に、これまで繰り返し「時間的な余裕がある」と発言し慎重に検討する考えを示していましたが、31日の決定会合後の会見ではアメリカ経済のリスクは低下しているという認識を示しました。
「米経済のリスク低下」さまざまなデータ点検し利上げ検討
植田総裁は今後の利上げの判断にあたって、アメリカ経済をリスク要因のひとつに挙げ、会見や講演で繰り返し「時間的な余裕がある」と述べて、時間をかけて慎重に検討していく考えを示していました。
31日の会見ではアメリカの経済について、「データが少しずつ改善し、市場も少しずつ安定を取り戻している。さらに経済統計に限ると、ここ1か月くらいはかなり良いものが続いている」と述べ、これまでよりリスクが低下しているという認識を示しました。
そのうえで「今のような良い動きが続けば、時間的な余裕を持って見ていくという表現は不要になる」と述べました。
ただ「アメリカ経済のリスクが大きく低下したからといって、直ちに次の判断に進めるというわけではない」としています。
植田総裁は「アメリカ経済に関するある種のリスクに特に注目することはいったんやめて、普通の金融政策決定のやり方に戻る」として、会合ごとにさまざまなデータを点検して利上げを検討していく考えを示しました。
《植田総裁会見 発言詳しく》
「経済・物価の見通し実現すれば金利引き上げ」
植田総裁は、今後の金融政策について「先行きの経済・物価、金融情勢次第だが、現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。そのうえで、アメリカをはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある」と述べました。
利上げのタイミング「予断持たず政策判断」
植田総裁は、今後の利上げのタイミングについて「タイミングについて予断を持っておらず、毎回の決定会合においてその時点で利用可能な各種のデータ、情報から経済物価の現状評価や見通しをアップデートしながら政策判断を行っていく方針だ」と述べました。
「『多角的レビュー』12月会合後に公表」
植田総裁は、1990年代後半からの25年間の金融政策を分析する『多角的レビュー』について「今回の会合では取りまとめに向けた討議を行った。次回12月の金融政策決定会合において引き続き議論を行ったうえで内容を取りまとめ会合後に公表することを考えている」と述べました。
米経済見通し「利上げの影響不透明 動向注視が必要」
植田総裁は、今後のアメリカ経済の見通しについて「アメリカ経済を巡ってはこれまでの利上げが経済物価に及ぼす影響など不透明な部分が、まだなお大きいと判断しており、その動向を注視していく必要があると考えている」と述べました。そのうえで、「アメリカの大統領選挙後の新政権の政策運営、それが日本に及ぼす影響については他国の政治情勢に関わるものですので具体的なコメントは差し控えたい」と述べました。
リスク要因の米経済「完全に安心できるところまでいかず」
植田総裁は、リスク要因の1つに挙げているアメリカ経済について「データが少しずつ改善し、市場も少しずつ安定を取り戻している。さらに経済統計に限るとここ1か月くらい出ている統計についてはかなり良いものが続いている。それでもなお、完全に安心できるところまではいっていない」と述べました。
一方で「もう少し見て今のような良い動きが続けば、普通のリスクと同等のところになる。そういう意味でこのリスクに光を強く当てて、『時間的余裕を持って見ていく』という表現は不要になるのではないかと考え、きょうも使っていない」と述べました。
賃金と物価の動向「価格転嫁の動き確認 広がりを丁寧にみたい」
植田総裁は、賃金と物価の動向について「賃金上昇の動きがサービス価格に反映してくるかどうかについては、ある程度、サービス価格への転嫁の動きが広がっていることは確認できた。ただ、全国でみてそうか、今後も一段と広がっていくのかを丁寧にみていきたいと思う。また、支店長会議でヒアリングしたところ中小企業を中心にまだ価格転嫁が容易でないという声も散見される状態だ。引き続きモニターしていきたい」と述べました。
個人消費「緩やかな増加傾向と判断」
植田総裁は、個人消費の動向について「非耐久財のところを見ると弱めの動きが出ているが、それ以外のところは緩やかな増加基調だ。あるいは耐久財については自動車でいったん下がったあとリバウンドするという動きも見られる中で、全体としてはごくわずかなプラスの成長率、緩やかな増加傾向を続けていると判断している」と述べました。
米経済「新大統領の政策次第で新たなリスクも」
植田総裁は、アメリカ経済について「ダウンサイドリスク=下振れリスクの見方が少しずつクリアになりつつあるというのが現状だ。ただ当面、アメリカ経済が所得も消費も強いというのが続いたとしても、その上で新しい大統領が打ち出してくる政策次第では、新たなリスクが出てくるということは申し上げるまでもない。そこは、また新たなリスクとして各会合で点検していきたい」と述べました。
賃金動向「伸び続けば 見通し実現の確度高まる」
植田総裁は、賃金の動向について「所定内給与でみるとおおむね3%、対前年比の伸び率という姿になってきている。これが続けば、私どもの見通しが実現する確度が少しずつ高まっていくということにつながっていくと思う」と述べました。
利上げの条件「経済・物価の見通し実現に自信持てるか判断必要」
植田総裁は、利上げをするための条件について「例えばアメリカ経済がことし8月ころのリスクと同じ程度だとなかなか次のステップは難しいと思う。ただリスクが大きく低下したからといって、直ちに次の判断に進めるというわけではない。基本的には私たちの経済・物価の見通しが実現していくということについて、どれくらいの自信を持てるかということをいろんなデータから判断していくということに尽きるかと思う」と述べました。
「普通の金融政策決定のやり方に戻る」
植田総裁は、これまでリスク要因として挙げていたアメリカ経済の分析について『時間的余裕がある』という表現をなくしたことについて「アメリカ経済に関するある種のリスクに特に注目することはいったんやめて、普通の金融政策決定のやり方に戻るということだ。毎回毎回、データと情報を点検して判断していくことになる」と述べました。
「利上げの影響は毎回確認する必要」
植田総裁は、政策金利を引き上げる際に考慮すべき点として、「長い間本格的な利上げの局面はなかったという中では利上げによって、あるいは利上げが続いていくことによって、思ってもみなかったマイナスの効果が出てくるということも十分考えないといけないので、毎回毎回利上げをしてその影響を確かめつつ次を考える動きを続けざるをえないと思っている」と述べました。
衆院選結果 金融政策への影響「基本姿勢を説明 堅持が大事」
植田総裁は、衆議院選挙の結果が日銀の金融政策に与える影響について問われると、「私ども金融政策は経済物価見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き金融緩和度合いを調整していくという基本的な姿勢を繰り返し説明し、それを堅持していくということが大事だと思っている」と述べました。
官房長官「2%の物価安定目標 持続的で安定的な実現期待」
林官房長官は午後の記者会見で「日銀には引き続き政府と密接に連携を図り、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標の持続的で安定的な実現に向けて適切な金融政策運営を行うことを期待している」と述べました。
“来年度の物価見通し +1.9%” 日銀「展望レポート」
日銀は、今年度から2026年度までの経済と物価の最新の見通しを示す「展望レポート」を公表しました。
「展望レポート」は3か月ごとに公表しています。
それによりますと、生鮮食品を除いた消費者物価指数の見通しは、政策委員の中央値で、2024年度が前の年度と比べて+2.5%となり、前回7月の見通しと同じ水準でした。
2025年度は+1.9%となり、前回の見通しと比べて0.2ポイント低くなりました。
このところ原油などの資源価格が下落していることが主な要因だとしています。
2026年度は+1.9%となり、前回の見通しと同じ水準となっています。
また、物価の見通しをめぐる今後のリスクとして、前回7月の時点では「2024年度と2025年度は上振れリスクのほうが大きい」としていましたが、今回の展望レポートでは2025年度のみとなっています。
日銀は「物価安定の目標」として2%の上昇率を掲げていますが、今年度から2026年度までの期間の後半には、目標におおむね整合的な水準で物価が推移するとみています。
「年収103万円の壁」引き上げの目的は?財源確保策は?
2024年11月28日 NHK
自民・公明両党と国民民主党の税制協議が行われ、与党側は、「年収103万円の壁」の見直しについて、所得税の基礎控除などを引き上げる目的や、財源の確保などを明確にした上で具体的な制度設計を行う必要があるとして、国民民主党に詳しい見解を示すよう求めました。
先週に続いて2回目となる協議には、自民党の宮沢税制調査会長、公明党の赤羽税制調査会長、国民民主党の古川税制調査会長らが出席し、およそ1時間半行われました。
この中では、前回の会合で、国民民主党から、税負担に関する「年収103万円の壁」を見直し、所得税の基礎控除などを178万円に引き上げることや、ガソリン税の暫定税率の廃止などの税制改正の要望項目が示されたことを受けて、与党側が今後、検討が必要となる論点をあげ、国民民主党側に詳しい見解を示すよう求めました。
このうち「103万円の壁」については、所得税の基礎控除などを引き上げる目的や、財源の確保などを明確にした上で具体的な制度設計を行う必要があるとしています。
そして、引き上げの目的については、「103万円の壁」によって就業を抑制することへの対策、生計に必要な費用への配慮、それに消費活性化のための「手取りの増加」の3つを例示しました。
また、財源については、歳出削減、経済効果による増収、それに家計の負担増とならない増税の3つの選択肢を例にあげました。
さらに、アルバイトで働く学生などが年収103万円を超えると所得税などの「特定扶養控除」の要件から外れて親の税負担が増えることから、この年収要件を緩和するかどうかも論点にあげ、目的や財源を明確にする必要があるとしています。
これに対し国民民主党は、持ち帰って検討する考えを伝え、具体的な制度設計に向けて協議を継続することになりました。
自民 後藤氏「経済効果による税収増 恒久財源ではないだろう」
自民党税制調査会の幹部で、協議に出席した後藤・元経済再生担当大臣は記者団に対し「最重要課題である『103万円の壁』の問題について、どのような目的や趣旨の要望なのか議論した。政策のターゲットがわかれば、どういう手段を講じるかにつながる。財源の問題は、どのように考えているのか尋ねると同時に、『経済効果による税収増は恒久財源ではないだろう』と指摘した。国民民主党は持ち帰り、改めて回答していただけるようだ」と述べました。
国民 古川氏「見直し議論詰めていく」
国民民主党の古川税制調査会長は、記者団に対し「前回、わが党から税制改正で協議したい項目を示したが、きょうは与党側から『103万円の壁』やエネルギー高騰対策に関する論点が示されたので、持ち帰って党で議論し、次回、また3党で協議することになった。今後は具体的に『103万円の壁』の見直しをどう議論していくかを詰めていく」と述べました。
「103万円の壁」178万円に引き上げる法案 国民が単独提出
こうしたなか、国民民主党は28日、物価の高騰を受けて、国民の負担を軽減する必要があるとして、所得税の減税を行うための法案を衆議院に単独で提出しました。
この中では、所得税の基礎控除や給与所得控除を103万円から178万円に引き上げるほか、16歳未満の子どもを扶養する場合に所得税の負担を軽減する「扶養控除」の導入を明記しています。
また、大学生などの子どもを持つ世帯の所得税の負担を軽減する「特定扶養控除」について対象となる学生の年収要件を103万円から引き上げるとしています。
そして、この法律の施行後、政府は地方自治体の財政状況に悪影響を及ぼすことがないように必要な措置を速やかに講じるとする内容が盛り込まれています。
国民民主党の玉木代表は記者団に対し「自民・公明両党との税制改正の交渉を補強する内容で、政府に活動を義務づけるような法案になっている。わが党の『手取りを増やす経済政策』を具体的な法案として示すことは画期的であり、初めて単独で衆議院に法案を提出できるようになったので、政策の実現に全力で取り組んでいきたい」と述べました。
地方財政審議会 “地方財政に与える影響 十分配慮を”
総務大臣の諮問機関である地方財政審議会は、2025年度の税制改正に向けた議論が進む中、意見書をとりまとめ、28日、村上総務大臣に提出しました。
意見書は「年収103万円の壁」の見直しのうち、地方税である個人住民税について、地域社会でかかる費用の負担を住民が、その能力に応じて広く分かち合うといった基本的な性格や地方の財政に与える影響などに十分配慮しなければならないと指摘しています。
その上で、自治体の声も聞きながら丁寧な議論を行うことが必要だとしています。
意見書を提出した地方財政審議会の小西砂千夫会長は記者会見で「自治体からは減税自体の是非はあまりないが、減税するなら地方へのしわ寄せがないよう、政府には丁寧に議論してほしい」と述べました。
ガソリン税引き下げ 今回の本格議論見送る方向 政府・与党
自民・公明両党と国民民主党の3党の税制協議では、国民民主党の税制改正の要望項目に対し、与党側が論点を示しました。
このうち、ガソリン税の暫定税率の廃止など、ガソリンにかかる税の引き下げについては、与党側が、先に国民民主党と合意し、政府が決定した経済対策の内容をそのまま説明しました。
経済対策では、自動車関連税制の見直しに向けて検討するなどとする一方、具体的な結論の時期は明示しておらず、政府・与党は、本格的な議論は今回は見送り、再来年度の税制改正に向けた議論にあわせて行うことを検討しています。
これについて、自民党税制調査会の幹部の1人は、記者団に対し「国民民主党側はこちらの考え方を受け入れてくれていると認識している」と述べ、今回は結論を見送る方向になるという見通しを示しました。
「103万円の壁」引き上げ 政府、物価上昇率を基準に控除額検討
2024年11月29日 毎日新聞
政府は29日、所得税がかかり始める「年収103万円の壁」の見直しについて、物価上昇率を基準に控除額を引き上げる検討に入った。ただ、国民民主党は最低賃金の上昇率に基づき課税水準を178万円に引き上げることを求めている。政府は今後、与党や国民民主との協議を加速させて、引き上げ幅を決める。
政府は長らく続いてきたデフレから脱却し、足元の物価上昇への対応を念頭に控除額の引き上げを検討する。所得税の基礎控除は、歴史的に物価や所得の上昇に合わせて引き上げられてきた経緯があることも考慮する。政府関係者は「最低賃金を基準にするのは厳しい。労働生産性を上げる経済政策の色彩が強い」とする。最低賃金を基準とした控除額の引き上げは過去に例がない。また減収幅を抑えたいとの思惑もあると見られる。
物価上昇率にもさまざまな捉え方があり、具体的な引き上げ幅の議論はこれからだ。
第一生命経済研究所の試算によると、消費者物価指数(総合)は1995年と比べて、2024年は1割強の上昇になる。これを基に引き上げ幅を算出すると課税水準は116万円になる。食料品や光熱費など生活必需品を中心とした物価上昇率だと128万円、食料品のみの上昇率では140万円になる。
複数の与党関係者によると、政府側は「上昇率1割程度」を根拠にする案を示したり、ある程度の幅を持たせたりする案を示しているという。
所得税がかからない103万円の水準は、最低限の生活費に課税しない基礎控除(48万円)と、スーツ代など会社員の経費を差し引く給与所得控除(55万円)の合計からなる。
国民民主は103万円が決まった95年当時と比べて最低賃金の全国平均が24年度に1・73倍になっていることを根拠に、課税最低限を178万円に引き上げるべきだとする。政府は178万円へと引き上げると、住民税の減税分も含めて国と地方で年7兆~8兆円の税収減が生じるとしている。【杉山雄飛、高橋祐貴、小田中大、野間口陽】
【やさしく解説】103万円と106万円「年収の壁」違いは?◆サラリーマンの手取りどう影響
2024年11月24日 時事ドットコム
連日ニュースで報じられている「年収の壁」の引き上げ。103万円のほかに106万円、130万円など、所得税や社会保険料の負担を巡る「壁」が幾重にも立ちはだかっている。これって一体何なんだろう?どうして、このような複雑な仕組みになってしまったのか、サラリーマンの手取りや年金にどのような影響を及ぼすのか。それぞれの「壁」について、改めて仕組みや課題をまとめた。(時事ドットコム取材班・編集委員 豊田百合枝)
【過去の特集▶】時事ドットコム取材班
103万円=税金の「壁」
―103万円は何の境目?
「103万円の壁」は、年収が103万円を超えると所得税が課されることを指している。
所得税には、家族構成などに応じてさまざまな「控除」が適用され、年収から控除分を差し引いて課税の対象となる額が決まる。年間所得が2500万円以下ならすべての納税者が受けられる「基礎控除(最大48万円)」に加え、給与を企業から受け取る人には「給与所得控除(最低55万円)」があり、合わせると103万円。勤め人の場合、これを超えた所得分から所得税が発生する仕組みだ。
―パートやアルバイトの話も聞くけれど。
かつては、企業の配偶者控除(最大38万円)が受けられなくなる基準も103万円だった。現在は、一定の基準を満たせば、150万円まで満額支給されるが、企業が手当などを支給する際に103万円の基準が一部で残っていることなども影響してか、今も主にパートタイムで働く人たちの「心理的な障壁」になっていると言われている。
【図表】主な「年収の壁」(会社員の夫とパートで働く妻の世帯の場合)出典:野村総合研究所
【図表】主な「年収の壁」(会社員の夫とパートで働く妻の世帯の場合)出典:野村総合研究所
103万円を少々超えて働いても、働く本人にかかる税額は小さい。
ただ、19歳以上23歳未満の学生らがアルバイトなどで103万円を超えると、生計を共にする親が63万円の「特定扶養控除」を受けられなくなり、親の手取り収入も減る問題が生じるので注意が必要だ。
社会保険料など別の要素とも相まって「働き控え」が定着して、世帯年収が上がらない要因の1つとされてきた。
年収500万円で約13万円の減税
―103万円を引き上げると何が変わるのか?
2024年10月の衆院選で「103万円の壁」引き上げを公約に打ち出して躍進した国民民主党は、所得税が課される年収を103万円から178万円へと引き上げる案を主張している。大和総研の試算によれば、基礎控除を引き上げ、給与所得控除との合計額を178万円にした場合、年収が500万円の世帯は13.3万円、800万円の世帯は22.8万円の減税になるという。
178万円は、103万円に引き上げられた1995年と比較し、最低賃金が1.73倍に上昇したことから算出した。物価高の中で、手取りを増やす選挙公約は、先の衆院選で注目を集めた。
手取り増、「働き控え」改善にも期待
―実現したら、どんな効果が期待できるのか。
減税を通じて手取りが増加するのは、物価高が生活を圧迫している家計には朗報だ。手取りが増えて、消費につながれば、経済全体が活性化するかもしれない。
近年、人手不足や政府の賃上げ政策により、最低賃金が上がってきている。時給が上がることは歓迎だが、一方で「年収の壁」があると、時給の上昇に伴い、働く時間を短くする「働き控え」がさらに進んで、人手不足が深刻になるケースも出てきていた。
帝国データバンクの調査(有効回答企業数1691社)では、「103万円の壁」の引き上げについて約68%が「賛成」と回答。企業からは「103万円の壁を意識するパートの方が多く、引き上げれば働き控えが解消される」(飲食店)と改善に期待を寄せる声が多かったという。
ただ、103万円の壁が取り除かれたとしても、106万円、130万円といったさらなる「壁」が待ち構えている。
106万円・130万円=社会保険の「壁」
―「106万円の壁」も聞くけれど、違いは?
こちらは、社会保険料の負担が発生する壁だ。パートなどで働く人が、一定の年収を超えると、扶養を外れて社会保険料の負担が発生し、手取りが減少するというもの。
従業員51人以上の企業などで働く人は、週の労働時間が20時間以上で、月額賃金が8万8000円、年収換算で106万円を超えるなどすると、厚生年金や健康保険を支払う必要がある。
従業員が50人以下の企業などで働く人も、年収が130万円を超えると、国民年金や国民健康保険の保険料支払いが生じる。
「106万円の壁」を巡っては、最低賃金が上昇したため、月額賃金を8万8000円に抑えようとして、働く時間をさらに減らそうという人が出ると、人手不足に拍車が掛かると懸念されている。
このため、厚生労働省の審議会が、106万円の年収基準を撤廃することなどを柱とした見直し議論を進めている。賃上げが進む中で、短時間働く人が「年収の壁」を意識して就業調整をせずに働ける環境づくりが重要だとしている。
手取りVS将来の年金
―106万円の壁を撤廃したら、働く人への影響は?
厚生年金に入れば、将来の年金収入は増えるメリットもある。
ただ、社会保険料の支払いが増えて、直近の手取りが減ると、家計が厳しくなるという人もいるだろう。生活に困る人たちへは、支援策が必要だとの声が上がっている。
年収の壁 106万円 撤廃でどうなる 社会保険料負担の要件 いつから変わる?
2024年12月12日 NHK首都圏ナビ
年収の壁で「働き控え」 人手不足に悩む現場
制度見直しの背景の1つに指摘されているのが、人手不足です。最低賃金が上昇する中、パートの人などが「年収の壁」をこえないようさらに働く時間を抑えがちとなり、人手不足がいっそう深刻さを増すことが懸念されているのです。
首都圏や関西でおよそ300の店舗を展開するスーパーマーケットでは、現在、各店舗で従業員が10人から20人ほど足りない状況です。こちらの50代の従業員は、もどかしさを感じながらも、今も年収を106万円以内に抑えています。
いちばんは手取り、子どもが大学生と高校生でいちばんお金がかかる時期なので、基本はそこを中心に考えています。
年末年始にかけて人手不足が想定され、店側も頭を悩ませています。スーパーの店長は「この『○印』というのが休みですね。いわゆる年収の壁っていう理由で休んでいる人が全部で16人。少しでも多く働いてもらえないかなという思いです」と話していました。
「年収106万円の壁」撤廃案を了承
「年収106万円の壁」と呼ばれる、厚生年金に加入できる賃金の要件について、厚生労働省は、最低賃金の引き上げに伴い、必要性が薄れているとして、撤廃する案を12月10日、審議会の部会に示し、了承されました。
厚生年金に加入する要件はどう変わる
【パートなどで働く人が厚生年金に加入する要件】
従業員51人以上の企業で、週20時間以上働き、月額8万8000円以上、年収換算で106万円以上の賃金を受け取っている学生以外の人が対象
この日の案では、賃金の要件を撤廃します。時期は2026年10月を想定しています。すでに方針を確認している企業規模要件の撤廃時期は、2027年10月を想定しています。
撤廃されれば、賃金の額にかかわらず、週に20時間以上働くと、厚生年金に加入し、保険料を支払う必要が出てきます。
また、これまで対象外だった個人事業所についても5人以上の従業員がいる場合は、2029年10月から加入の対象とする方向です。
一連の見直しで、新たにおよそ200万人が厚生年金の加入対象になる見込みだとしています。
新たに加入する人の保険料負担
一方、厚生労働省は新たに加入する人の保険料負担が重くなりすぎないようにする方針です。
具体的には、労使折半となっている保険料について、月の給与が13万円未満、年収換算で156万円に届かないうちは企業側がより多く負担できるしくみを導入するとしています。また、負担が増えることになる企業に対しても、支援を検討するとしています。
保険料の負担割合は企業ごとに変更できますが、労働者の負担をなくすことは認めないということです。
「週20時間以上」 労働時間の要件が…
さらに、「106万円の壁」が撤廃されても「週20時間以上」という労働時間の要件は残されるため、これが新たな「壁」となって、必要な人材を確保できないのではないかと指摘する声もあります。
美容関連の商品を販売するこの会社では、パート従業員10人を対象にことし9月、働き方の見直しを行いました。その結果、半数以上の6人は配偶者の扶養に入ったまま働きたいと就業時間を週20時間未満に調整したということです。
パートの採用を担当する店長は「106万円の壁の撤廃で働き方の選択肢が広がるのはいいことだと受け止めますが、週20時間という要件が残ると働き控えが解消されない部分があるのではないか。制度をシンプルにするなど働きやすい環境の整備が必要だ」と話しています。
「106万円の壁」の撤廃時期は、2年後の2026年10月を想定しています。厚生労働省は、与党などとの協議を経てできるだけ早期に年金制度の改正案をまとめ、来年(2025年)の通常国会に必要な法案を提出したい考えです。
多くの働く人が納得でき、人手不足の解消につながるか、注目されます。
オーストラリア首相 SNS運営会社に対応求める姿勢示す
2024年11月29日 NHK
オーストラリア議会で、16歳未満の子どもがSNSを利用することを禁止する法案が可決されたことを受けて、アルバニージー首相は「SNSの運営会社が社会的な責任を果たすことを担保する世界でも先進的な取り組みだ」と述べ、意義を強調しました。
オーストラリア議会は、29日までに16歳未満の子どもがSNSを利用することを禁止する法案を可決しました。
今後、連邦総督の署名などを経て、成立します。
アルバニージー首相は29日朝、記者会見を行い「今回の法律で親と子どもの会話が変わり、その変化はオーストラリアの子どもたちにとって害を少なくし、より良い結果をもたらすことになる」として、子どもと保護者のための法律だと述べました。
その上で「SNSの運営会社が社会的な責任を果たすことを担保する世界でも先進的な取り組みだ」と述べて、意義を強調し、運営会社に対応を求めていく姿勢を示しました。
この法律は、SNSの運営会社に16歳未満の子どもが利用できないような措置を講じることを義務づけるもので、違反した場合は最大で4950万オーストラリアドル、日本円でおよそ49億円の罰金が科されます。
保護者や子ども自身への罰則はありません。
オーストラリアでは近年、子どもたちがSNSにのめり込み、日常生活や心の健康に悪影響が出ることへの懸念が高まっているほか、悪質ないじめにあったり、性被害にあったりする事態が相次ぎ、保護者を中心に規制を求める声が高まっていました。
オーストラリア政府は、利用者の年齢を効果的に確認する方法を検証した上で、1年後をめどに施行したいとしています。
シドニーでは歓迎多数も疑問の声も
16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法律について、シドニー郊外では、歓迎する声が多く聞かれた一方、実効性を疑問視する声も聞かれました。
国民のおよそ77%がこの法案に賛成 背景は
オーストラリアの最新の世論調査の結果では、国民のおよそ77%がこの法案に賛成しています。背景には子どもたちがSNSを通じて悪質ないじめにあったり、性被害にあったりするケースや自殺にまで追い込まれるケースがたびたび報道され、子どもへの悪影響が懸念されるようになったことがあります。
こうした事態を受けて子どもたちがSNSにのめり込むことを懸念する保護者を中心に、規制を求める声が高まり、保護者などでつくる団体が行った署名活動には12万人以上が賛同しました。
こうした声の高まりを受けてことし9月には南オーストラリア州が、独自に規制に乗り出す動きも出ていました。また、規制を求める声の背景にはSNSの運営会社への不信感もあると見られています。オーストラリア政府は、これまでもSNSの運営会社などに対して、暴力的なものや子どもの性的画像などのコンテンツの削除を求めたり、適切な対応をしない場合には罰金を科したりと、厳しい姿勢で臨んできました。
ことし4月、シドニーの教会で起きた刺傷事件の映像がインターネット上で拡散された際にはオーストラリア政府がSNSの運営会社に削除を要請しました。これに対して「X」を所有するイーロン・マスク氏は「検閲だ」と批判し、アルバニージー首相はマスク氏について「自分が法律を超えた存在だと思っている傲慢な金持ちだ」とも発言していました。世論調査では87%の国民が、法律を守らなかったSNSの運営会社に厳しい罰則を科すべきだと答えています。
世界各国 子どものSNS利用規制は
フランスでは去年、SNSの運営会社に対して、保護者の同意がないかぎり、15歳未満の子どものアクセスを制限するよう義務づける法律が制定されました。
アメリカの一部の州でも、未成年のSNS利用を規制する法律を制定していて、ユタ州などでは未成年がSNSを利用する際には保護者の同意が必要だとしています。
ノルウェーでは現在、15歳未満の子どもがSNSを利用することを禁止しようという議論が進んでいます。
こうした議論が進む一方で、子どもの権利擁護の団体などは国連の「子どもの権利条約」で定める、子どもの表現の自由や情報を得る権利を妨げることにもつながるとして、SNSへのアクセスを完全に禁止することには問題があると指摘しています。
このほか、子どもがSNSなどで有害なコンテンツをみられないように規制している国や地域もあります。
EU=ヨーロッパ連合は、おととし、SNSの運営会社などに対して、未成年を対象にした閲覧履歴をもとに広告を表示するいわゆる「ターゲティング広告」などを禁止する法律を制定しています。
イギリスでは去年、インターネット上の有害な情報から子どもを守ろうという法律が成立しました。
子どもに対してアルゴリズムを使って、中毒性の高いコンテンツをSNSに表示させることを禁止するなどとしていて来年にも施行される予定です。
アメリカのニューヨーク州などではSNSの運営会社などが18歳未満の利用者に対し関心が高そうな内容を自動的に配信するには、保護者の同意が必要だとする法律が成立しています。
ユニセフ“子どもたちがより隠された空間に”
また、ユニセフ=国連児童基金のオーストラリアの担当者は11月21日、SNSの規制が問題をすべて解決するわけではないと指摘したうえで「ソーシャルメディアが禁止されることで、子どもたちがより隠された、規制のないオンライン空間に追いやられるだけでなく、子どもたち自身の幸福に不可欠な要素にもアクセスできなくなる」として懸念を表明していました。
専門家“SNS禁止すれば子どもの居場所奪われる”
SNSと子どもの問題に詳しい千葉大学教育学部の藤川大祐教授は、「SNSの利用を禁止すれば子どもたちの利用が大幅に減り、事件や事故の被害に遭うリスクが減るメリットはあるものの、子どもたちが必要な情報を受け取れなくなったり、自らの意見を表明できなくなったりして、居場所を奪われることを非常に懸念している。本来はSNSすべての利用を禁止するべきではなくて、安全な情報にはアクセスできて、安全でない情報だけブロックするのが望ましい」と述べました。
国内での議論への影響については「不十分な点はあるが、国内では基本的にはほぼすべての子どもたちが情報モラル教育を受けていて、どのようなネット利用が危険なのか、一定の知識を持っている。今後、議論が活発になると思うが、安全対策は進められてきているので、あまり過激な議論にはならないのではないか」と指摘しました。
子どもの年齢 どう確認?方法を検討
オーストラリア政府は今後、法律の施行に向けて、どのようにしてSNSを利用する際に子どもの年齢を確認するのか、具体的な方法を検討することになります。
政府は民間業者に委託して、効果的な年齢確認の方法を検証することにしています。
委託を受けた企業によりますと、年齢を確認する方法は、顔や手の動きから年齢を判定する方法や身分証明書やメールの履歴などから年齢を確認する方法などが検討されているということです。
シドニー大学でSNSなどの研究を行っているティモシー・コスキー研究員は子どもたちはテクノロジーに精通していて、規制をかいくぐることは可能だとしながらも「SNSは気をつけなければならないものだというメッセージを子どもに向けて発する効果はある」と期待を込めました。
その上で「SNSの運営会社が激しく抵抗することは明らかだ。しかし、オーストラリア政府が断固として取り組むのであれば、運営会社側も受け入れる道があるだろう。運営会社を交渉のテーブルにつかせるための脅しのようなものでもある」として、こうした法律を制定することで、運営会社側の対策を促すことにもつながると指摘しています。
石破首相 所信表明演説 何を語った【詳しく】
2024年11月29日 NHK
石破総理大臣は、衆参両院の本会議で所信表明演説を行い、少数与党として他党にも丁寧に意見を聴き可能なかぎり幅広い合意形成を図る姿勢を強調しました。また「年収103万円の壁」の見直しを表明し、税収減が見込まれるなどの課題にも結論を出す決意を示しました。
石破総理大臣は、29日午後、衆参両院の本会議で所信表明演説を行いました。
冒頭、石破総理大臣は「民主主義のあるべき姿とは多様な国民の声を反映した各党派が真摯に政策を協議しよりよい成案を得ることだ」と述べました。
その上で、先の衆議院選挙で与党が過半数を割り込んだことを踏まえ「自民党と公明党の連立を基盤に他党にも丁寧に意見を聴き可能なかぎり幅広い合意形成が図られるよう真摯に謙虚に国民の安心と安全を守るべく取り組んでいく」と強調しました。
外交・安全保障は
外交・安全保障をめぐっては、厳しく複雑な国際社会でも国家のかじ取りを行う基本は変わらないと指摘し「日本の抑止力と対処力を維持・強化しつつ各国との対話を重ね、分断と対立を乗り越えて法の支配に基づく国際秩序を堅持する」と述べました。
各国との関係では、アメリカとは両国の国益を相乗的に高め合うことが自由で開かれたインド太平洋の実現につながるとしてトランプ次期大統領と率直に議論を行い、日米同盟をさらなる高みに引き上げる意欲を示しました。
来年国交正常化60年を迎える韓国とは首脳会談を頻繁に行って関係を飛躍させるとしたほか、中国とは先の習近平国家主席との首脳会談も踏まえ「建設的で安定的な関係」の構築に向けてあらゆるレベルで意思疎通を図る考えを示しました。
一方、自衛隊の人的基盤の強化をめぐっては、自衛官の処遇や勤務環境の改善などの施策の方向性を年内にまとめ、可能なものから来年度予算案に盛り込むと説明しました。
さらに、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の導入に向け、可能なかぎり早期に国会に法案を提出するため検討を加速する考えを重ねて示しました。
また、北朝鮮による拉致問題は、国家主権の侵害であり政権の最重要課題だとして、断固たる決意で解決に取り組むと強調しました。
経済政策 「年収103万円の壁」は
経済政策をめぐっては「賃上げと投資がけん引する成長型経済」への移行を掲げ、最低賃金の引き上げに加え、AIや宇宙、GXといった分野のスタートアップの支援などの取り組みを進めていく方針を示しました。
また、日本の活力を取り戻すため地方創生を進めるとして、交付金の倍増を前倒しで措置するとともに、新たな重点分野として文化芸術やスポーツの振興を図ることを打ち出しました。
その上で、地方に魅力的な職場をつくるため、短い労働時間でも正社員として働くことができる「短時間正社員」の活用や、出産を機に女性の正規雇用率が低下する、いわゆる「L字カーブ」の解消に取り組む考えも示しました。
さらに「年収103万円の壁」については「来年度の税制改正の中で議論し引き上げる」と表明し、税収減が見込まれるなどの課題にも結論を出す決意を示しました。
社会保障をめぐっては、能力に応じてすべての世代が支え合う「全世代型社会保障」を構築するとして、社会保障費の歳出改革の具体化を着実に実施していくと強調しました。
マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」をめぐっては、いまの健康保険証の新規発行が12月2日で終了したあとも国民の不安に丁寧に対応していく考えを示しました。
防災対策は
防災対策では、大規模災害の際に支援を担当する自治体をあらかじめ定めるほか、すべての避難所に衛生や生活環境などの指針を定めた国際基準「スフィア基準」を適用し、避難所となる全国の学校体育館の空調の整備を加速させると説明しました。
さらに能登半島地震の教訓も踏まえ、温かい食事を迅速に提供するための資機材の分散備蓄や、災害ボランティア団体の事前登録制度の創設など被災者の生活環境の向上に向け対応する考えを示しました。
そして、内閣府の防災担当の機能を予算・人員の両面で抜本的に強化し、令和8年度中の「防災庁」の設置に向けて着実に準備を進める意向を示しました。
また、闇バイトによる犯罪に歯止めをかけるとして、SNSで集めたメンバーを実行役に犯罪を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」の検挙を徹底し、インターネット上から闇バイトの募集情報を削除することや、若者への情報発信の強化、それに、防犯カメラの整備などを進める方針を示しました。
政治とカネの問題受けた政治改革は
政治とカネの問題を受けた政治改革をめぐっては「『政治は国民のもの』という原点に立ち返り誠実に国民と向き合いながら取り組んでいく」と述べました。
その上で、政策活動費の廃止や、政治資金に関する必要な監査を行う第三者機関の設置、それに、政治資金収支報告書を簡単に確認できるデータベースの構築などの議論を進めていくとし、年内に必要な法整備も含め結論を出せるよう尽力すると強調しました。
一方、憲法改正をめぐっては、憲法審査会で建設的な議論を行い、国民的な議論が深まることに期待を示しました。
結びに
そして、昭和32年に行われた石橋湛山内閣による施政方針演説の「国民の一部の思惑に偏することなく、国民全体の福祉をのみ念じて国政の方向を定め、論議を尽くしていくように努めたい」ということばに触れ「外交においても内政においても国民の後押しほど大きな力はない。国民に信頼してもらえるよう誠心誠意取り組んでいく」と結びました。
ICC所長、ネタニヤフ氏逮捕状巡り「攻撃や圧力に直面」
2024年12月3日 日本経済新聞
【ブリュッセル=共同】オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長は2日、ロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相への逮捕状発付を巡り、政治的注目を集め「攻撃や脅迫、圧力に直面している」と危機感を示した。ICC設立を定めたローマ規程の締約国会議で演説した。
締約国会議によると、赤根氏は「正義を追求し、残虐行為の被害者の尊厳と権利を擁護し続ける」と述べ、圧力に屈しない姿勢を強調。ICCは「存続の危機にさらされている」として、締約国の結束を呼びかけた。
ロシア政府がプーチン氏への逮捕状に反発し赤根氏らを指名手配したほか、ネタニヤフ氏への逮捕状を巡り、イスラエルを支持する米下院がICC職員らに制裁を科す法案を可決するなど、関係各国でICCを敵視する行動が相次いでいる。
赤根氏は「あたかもテロ組織であるかのように、経済制裁を科すと脅されている」と非難した。
「新しい認知症観」取り組み推進へ 基本計画を閣議決定 政府
2024年12月3日 NHK
高齢化で認知症の人が増える中、政府は認知症になっても希望を持って生きられる社会を実現するという「新しい認知症観」に立った取り組みを推進するための基本計画を3日、閣議決定しました。
令和4年の認知症の高齢者とMCIと呼ばれる軽度認知障害の人は、推計で1000万人を超え、高齢者のおよそ3.6人に1人は認知症または予備群と言える状況だとされています。
認知症になると何も分からなくなるなどの捉え方が根強く残ることから、認知症を受け入れることが難しく、社会的な孤立につながっているという課題も指摘されています。
こうした中、3日に閣議決定された新たな基本計画では、認知症に誰しもがなりうることを前提として、認知症になったら何もできなくなるのではなく認知症になってからも住み慣れた地域で希望を持って生きることができるとする「新しい認知症観」に立つことが示されています。
具体的には
▽生活において認知症の人の意思が尊重されることや
▽国民が認知症に関する新たな知見や技術を活用できることなど、重点目標を4つ設けています。
また、取り組みの実施状況だけでなく、国民の理解が進んでいるかなど効果を評価するための指標も新たに設け、これらを踏まえて立案の見直しを行うことも重要だとしています。
この基本計画は政府による認知症施策の最も基本となるもので、今後、各都道府県や自治体ごとに基本計画が作られ、施策に反映されることになります。
橘官房副長官「政府一丸となって取り組みを進める」
橘官房副長官は閣議のあとの記者会見で「地方自治体の認知症施策は『新しい認知症観』に立ち、地域の実情や特性に即して創意工夫をしながら取り組むことが重要だ。各地方公共団体での計画策定に対する助言など支援に努めるとともに、共生社会の実現に向け政府一丸となって認知症に関する取り組みを進めていく」と述べました。
韓国大統領「内乱企て」と野党批判 44年ぶり「非常戒厳令」を宣布
2024年12月3日 毎日新聞
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は3日夜、緊急の談話を発表し、国会での野党の行為が「内乱を企てる明白な反国家行為だ」と指弾。「非常戒厳を宣布する」と表明した。
韓国軍によると、金竜顕国防相は軍に対し、非常警戒と態勢強化を指示した。ただ、尹政権が具体的にどのような措置を取るのかは不明だ。
尹氏の突然の表明に、与党「国民の力」も強く反発している。同党の韓東勲代表は尹氏の会見終了直後、「非常戒厳令は間違っている。国民と共に阻止する」との声明を発表した。
国会では最大野党「共に民主党」が過半数を占めている。国会の委員会では11月下旬、来年度の予算案のうち一部を野党が削減して可決。また検事や政府幹部らの弾劾を試みている。尹氏はこうした野党の攻勢に耐えきれず、「非常戒厳」という極端な手法に打って出たとみられる。
尹氏は野党を念頭に「韓国国会は犯罪者集団の巣窟となり、立法独裁を通じて国家の司法・行政システムをまひさせ、自由民主主義体制の転覆を企てている」と一方的に批判。「できるだけ早い時期に反国家勢力を撲滅し、国家を正常化させる」と訴えた。
「中央日報」によると、戒厳令は1980年5月に実質的に権力を掌握していた全斗煥国軍保安司令官が宣言して以来、44年ぶり。「朝鮮日報」によると、戒厳令は憲法で定められている。非常戒厳令では、「戒厳司令官」が戒厳地域内の全ての行政事務と司法事務を掌握する。【ソウル日下部元美】
「戒厳令、効力失った」与党代表 韓国メディアも「150分で解除」
2024年12月4日 毎日新聞
韓国の与党「国民の力」の韓東勲代表は4日未明、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が3日夜に宣布した「非常戒厳令」の解除を要求する決議案を国会が可決したことを受け、声明を発表した。韓氏は「今回の国会の決定で、違法な戒厳の宣布はその効力を失った」と強調した。
韓国の憲法では、国会の在籍議員の過半数が要求すれば大統領は非常戒厳令を解除しなければならない。韓国メディアは「150分で解除された戒厳令」と報じている。
韓氏は「今後この戒厳令に基づいて軍や警察が公権力が行使するのは違法だ」と述べた。
【解説】韓国 非常戒厳なぜ? 日本への影響は
2024年12月4日 NHK
韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は3日夜、来年の予算案に合意しない野党側の対応などを理由に一切の政治活動を禁じるなどした「非常戒厳を宣布する」と明らかにしました。
これを受けて、韓国の国会が非常戒厳を解除するよう要求する決議案を可決すると、ユン大統領はけさ早く再び会見して、閣議を通じて非常戒厳を解除すると発表し、韓国メディアは、閣議が開かれて非常戒厳は解除されたと伝えました。
韓国の複数のメディアは、最大野党「共に民主党」など野党6党がユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案を国会に提出したと伝えました。
影響は、今後どうなるのか、詳しくお伝えします。
厳しい政権運営 夫人には数々の疑惑
ユン大統領は、先月、5年の任期の折り返しを迎えましたが、少数与党のもとで、厳しい政権運営を迫られてきました。
野党は、政権運営の姿勢を強権的だと批判し、人事や予算に反対してきました。
また、キム・ゴニ(金建希)夫人が、高級ブランドのバッグなどを受け取った疑惑や、輸入車販売業者の株価操作に関与した疑惑、それに、夫妻で過去の選挙で与党候補の公認に不当に介入した疑惑なども取り沙汰されました。
支持率も落ち込み、世論調査機関の韓国ギャラップが先月8日に発表した支持率は就任以来、最も低い17%となっていました。
警官隊と市民がもみ合いに
ユン大統領の談話を受けて、韓国ソウルにある、国会の入り口近くでは徐々に人が集まり、騒然とした状態となりました。
周辺には警官隊が並び警備にあたっていて、集まった市民ともみ合いになる場面もありました。
また、軍のものとみられる複数のヘリコプターが上空を飛行しているのが確認できました。
過去 軍事政権下で「非常戒厳」がたびたび宣言
韓国の憲法では、戦争などの国家の非常事態に公共の秩序を維持する目的で、市民の権利を厳しく制限する「戒厳」を大統領が宣言できるとしていて、市民の活動などが軍の統制下に置かれます。
戒厳は「非常戒厳」と「警備戒厳」の2つがあり、このうち「非常戒厳」は軍の統制がより広範囲に及びます。
今回、「非常戒厳」の宣言を受けて戒厳司令官の陸軍大将名で出された「布告令」では、国会や地方議会、集会、デモなどの一切の政治活動の禁止や、
すべてのメディアが戒厳司令部の統制を受けることなどが盛り込まれました。
違反者に対しては、令状なしに逮捕や拘禁、捜索ができるとしています。
韓国では過去、軍事政権下で「非常戒厳」がたびたび宣言されていて、1961年に軍事クーデターが起きたときや、1964年に日韓国交正常化交渉に反対する大規模デモが起きたときなどにも宣言されました。
また、1979年にパク・チョンヒ(朴正煕)大統領が暗殺された際にも宣言され、1987年に民主化が宣言されて以降、「非常戒厳」が宣言されたのは、今回が初めてです。
専門家「権力がおびやかされていると考えていたのだろう」
ユン大統領による非常戒厳の宣言について韓国政治に詳しい神戸大学の木村幹教授に話を聞きました。
木村教授は「最初は正直言って『うそだろう』というのが率直な感想だった。1970年代や80年代初頭はともかく、現在において、大統領が戒厳令を宣言するというのは夢でも見ているのではないかと思った」と受け止めを述べました。
そして戒厳について「本来であれば、北朝鮮が攻めてきたなどの非常事態に使われるべきものだが、ただ権力の強化に使われようとした。大統領の心のうちは分からないが、自分の権力がおびやかされていると考えていたのだろう。現在の状況から考えるとかなり時代錯誤で、周囲の人は誰もついてこなかった」と分析しました。
また、ユン大統領が置かれていた状況について「大統領の周囲はイエスマンばかりで、大統領が信じたい話をするものばかりしかおらず、大統領が考えることが現実からかけ離れているのではないか」という見方も示しました。
そして、弾劾を求める議案が国会に提出されたことについて「与党も弾劾に反対できる状況ではまったくない。そもそも大統領が弾劾される以前にこの政権を支える人材がもはや本当にいるのか、どうなのかという問題もある。場合によっては弾劾の前に大統領自身が辞任に追い込まれる可能性も高くなっていると思う」と指摘しました。
韓国与党代表“ユン大統領 早急な職務執行停止必要”
「非常戒厳」を一時宣言したユン・ソンニョル大統領の弾劾を求める議案をめぐり、最大野党「共に民主党」などの野党側は大統領の弾劾を求める議案を国会に提出し、7日の採決を目指しています。この議案の可決には与党側の少なくとも8人の賛成が必要なことから、与党議員の動きが焦点となっています。
与党「国民の力」のハン・ドンフン代表は6日午前「わたしはきのう、混乱によって生じる被害を防ぐために今回の弾劾については可決させないと述べたが、韓国と国民を守るためにユン大統領の早急な職務執行停止が必要だと判断する」と述べました。
そしてハン代表は6日午後、ユン大統領と会談しました。韓国の通信社、連合ニュースによりますと、会談後にハン代表は非公開の党の議員総会に出席し「わたしの判断が覆るほどの話はなかった」と述べて、大統領の職務をただちに停止すべきだという考えに変わりはないとする立場を明らかにしたということです。
大統領の弾劾を求める議案の採決が7日に予定される中、ユン大統領や与党の対応に関心が集まっています。
一方で6日午後には、ユン大統領が国会に移動している模様だという報道が一時あり、大勢の報道陣が国会に集まりましたが、その後、大統領府は訪問予定はないと明らかにして、情報が錯そうしました。
ウ・ウォンシク(禹元植)国会議長は、このあと国会で緊急の談話を発表し「大統領による非常戒厳は歴史を否定し、国民の自尊心に大きな傷を与えた」と述べてユン大統領が一時、「非常戒厳」を宣言したことをあらためて批判しました。
日本大使館・総領事館「集会場所などに近づくこと控えて」
韓国にある日本大使館と総領事館は在留邦人や短期滞在者に向けて注意喚起のメールを発信し、今週末、首都ソウルや各地で複数の大規模集会が予定されているとして「外出する際、集会が行われている場所などに近づくことを控え、万一遭遇した場合にはその場を離れるなどの措置を講じ、安全を図るようお願いします」と呼びかけています。
Q.7日に予定されている採決、どうなりそう?
国際部 矢野デスク
「与党の代表の発言で弾劾の公算が高まったかのようにみえるが、実際はまだ不透明といわざるを得ない。与党ハン・ドンフン代表の6日朝の発言に従って、弾劾議案に賛成する考えを示した議員は実はごくわずか。むしろ大統領に近い議員からはハン代表の発言に反発もでていて『やすやすと野党側に政権を渡すわけにはいかない』と発言する議員も。そもそも与党は、弾劾議案には反対する方針を一度、議員総会で決定していて、代表の考えだけで議員総会の決定を覆すことはできない。ただ、採決は、無記名で行われると見られ、議案の可決に必要な8人以上のいわゆる造反者がでるのかどうかは、ぎりぎりまで駆け引きが続きそう」
Q.そもそもなぜ韓国は大統領をめぐる混乱が相次ぐのか?
「韓国の民主化の歴史と大統領の強い権限に関係があると思う。韓国の人たちには、過去の軍事政権に対して市民が民主化を求めて運動を行い、軍の弾圧を受けながらも時間をかけて民主化を勝ち取ったという記憶がある。大統領には、民主化後も北朝鮮と対峙しているため軍の最高司令官も兼ねるなど極めて強い権限が与えられていますが、そのぶん、その権限の使い方には、常に国民の厳しい目が向けられてきた。2016年、当時のパク・クネ大統領に対する弾劾議案が可決されたのも、知人による大統領府高官の人事への介入などさまざまな疑惑がきっかけだった。韓国では、大統領による権力の乱用とみられる行動が発覚するたびに、国民からは極めて強い反発が出てきた」
Q.ユン大統領はどう出るのか?辞職の可能性も?
「大統領自身は2日間以上、公の場に姿を見せておらず、今どのような考えなのかはわからない。6日午後、ユン大統領は、与党のハン・ドンフン代表と会談したが、具体的な発言内容も明らかになっていない。ただ、韓国メディアによりますと、大統領の早急な職務執行停止が必要だとする与党のハン代表は、大統領との会談について『わたしの判断が覆るほどの話はなかった』と述べたという。つまり、2人の間で何らかの意見の一致や合意には至らなかったとみられている。これまでのところ大統領が辞意を表明するというような情報はない。予定されている7日午後7時の採決まで24時間を切った。このまま弾劾議案の採決が行われるのか、それとも急転直下、大統領が何らかの立場を表明するのか、注目される」
「信じていたものが崩れた」大統領の弾劾案不成立に韓国国民は
2024年12月8日 BBC
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する弾劾訴追案は7日夜、国会で採決が進められた。
与党「国民の力」の議員が3人を除いて全員、投票をボイコットしたため、投票議員が定足数に達せず不成立となった。
国会前では、採決が始まる前から大規模な抗議集会が開かれた。
集会では音楽が流され、さまざまな旗やライトを持った人々が尹大統領の弾劾や辞任を求めた。
しかし与党議員が次々と議場を退場し、投票をボイコットすると分かると、参加者からは怒りや落胆の声が上がった。
ローラ・ビッカー・アジア特派員が報告する。
尹大統領、出国禁止に 韓国野党は首相が国政担う方針を「2度目のクーデター」と批判
2024年12月9日 BBC
韓国の法務当局は9日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の出国を禁止した。汚職捜査担当の主任検事が要請していた。尹氏に対しては、先週の非常戒厳の宣布に関して、内乱容疑などで捜査が進められている。こうしたなか野党議員らは、尹氏と与党が権力にしがみつくことで「2度目のクーデター」を起こしていると非難している。
出国禁止の措置は、尹政権の高官数人も対象となっている。
尹氏は3日夜に突如として非常戒厳を宣布し、国民に衝撃を与えた。野党は弾劾訴追案を出したが、7日の国会で投票が不成立に終わった。
与党「国民の力」の韓東勲 (ハン・ドンフン) 代表は8日、「大統領は、辞任するまで、外交を含むいかなる国務にも関与しない」と発表した。
尹氏が早期に「秩序ある辞任」をするまでは、与党と韓悳洙(ハン・ドクス)首相が国政を担うとした。
これに対し、最大野党「共に民主党」の朴贊大(パク・チャンデ)院内代表は、与党の案を「違法、違憲の2度目の内乱で、2度目のクーデターだ」と批判。
「共に民主党」の金民錫(キム・ミンソク)最高委員も、与党の韓代表にそうした決定権を「誰も与えていない」と非難した。
韓国紙コリア・ヘラルドによると、金氏は「首相と与党が、誰からも与えられていない大統領権限を共同で行使すると発表したことは、明らかに違憲だ」と述べた。
ソーシャルメディアでは、誰が国を率いているのか明確ではないと、多くの国民が懸念を表明している。
一方、国防省は9日の記者会見で、大統領が軍の指揮権を保持していると述べた。これは、北朝鮮の脅威などの外交問題が発生した場合、理論上はまだ尹氏が、大統領としての決定を出すことを意味する。
ソウルにある明知大学のシン・ユル教授(政治学)は、「大統領が考えを変えたら、いつでもまた国を率いることができる」、「尹が言い張れば、誰も止めることはできない」、とコリア・ヘラルドに話した。
毎週土曜に弾劾投票をすると
尹氏の非常戒厳の宣布をめぐっては、野党6党が「内乱行為」に当たるとして尹氏の弾劾を求めた。ソウルでは尹氏の辞任や弾劾を要求する抗議集会が開かれ、何万人もが参加した。
尹氏は4日朝に非常戒厳を解除して以来、公の場で発言していなかったが、7日朝になって「国民に不安と不便をもたらした」と謝罪。同日夜の国会本会議で、弾劾訴追案は不成立に終わった。
これに対し、野党側は尹氏の弾劾を「あきらめない」とし、弾劾訴追案の投票を毎週土曜日に実施していくと宣言している。
「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は7日、弾劾訴追の試みが失敗に終わった後、落胆した群衆に向かい、「クリスマスと年末までに必ず、この国を正常な状態に戻す。そしてそれを、クリスマスと年末のプレゼントとして皆さんに差し上げる」と述べた。
李氏は9日の記者会見で、改めて尹氏の辞任を要求。尹氏の行動が国と経済を「破壊している」と述べた。
尹大統領を起訴、韓国の現職では初 内乱罪
2025年1月27日 BBC
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(64)が26日、内乱罪で起訴された。検察当局は、昨年12月の非常戒厳の発令が犯罪に当たるとしている。韓国で現職大統領が起訴されたのは初めて。
非常戒厳は短時間で解除されたが、韓国で前例のない政治危機を招いた。
尹氏をめぐっては、検察が拘束の延長を求めていたが、ソウルの裁判所は25日、これを認めなかった。そのため検察は27日までに、尹氏を起訴するか釈放するか決める必要があった。
起訴を受け、最大野党「共に民主党」の韓民洙(ハン・ミンス)報道官は、「内乱の首謀者の処罰がいよいよ始まる」と記者会見で述べた。
一方、尹氏の弁護団は起訴を批判し、「捜査の違法性」を明らかにすると宣言。「検察は重大な間違いを犯し、CIO(高位公職者犯罪捜査庁)の起訴部門、および政治的利益を得るための道具に成り下がった」とした。
韓国では、内乱で有罪とされれば終身刑または死刑に処せられる。ただ、死刑はここ数十年執行されておらず、後者の可能性は低い。
尹氏についてはこれとは別に、憲法裁判所が、正式に罷免するか、職務復帰させるかを審理している。
尹氏は昨年12月14日、国会によって弾劾され、職務停止となった。その後、捜査当局が非常戒厳の発令をめぐって捜査を進めているが、尹氏はほとんど協力していない。
今月19日には、ソウルの裁判所が尹氏の逮捕状を出し、捜査当局が尹氏を逮捕した。尹氏の拘束は、それ以前の同15日から続いており、今後も継続される。
今回起訴されたことで、尹氏は金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相や軍の司令官らとともに、裁判を受けることになった。前国防相らはすでに、尹氏が全権掌握を計画・実行するのを手助けした罪で起訴されている
尹氏は昨年12月3日、テレビ演説し、北朝鮮に同調する「反国家」勢力から国を守るためだとして、非常戒厳を宣布した。
尹氏は当時、国会で予算案を通せず手詰まり状態にあった。汚職スキャンダルにも悩まされ、複数の閣僚が捜査されていた。
非常戒厳を出したことで、軍は国会の全活動の停止を発表し、メディアを統制しようとした。
この動きに対し、「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、国民に国会での抗議を呼びかけた。また、国会議員らに、非常戒厳の解除を直ちに決議するよう求めた。
国会には議員190人(与党議員も含む)が参集。尹氏による発令から2時間足らずで、非常戒厳の解除を全員一致で決議した。
この間、ライフル銃を携行した兵士らが国会の建物内に破壊された窓から入るなど、劇的な対立が続いた。国会前には市民ら数千人が集まり、兵士らの行動を阻止しようとした。
この事件は過去数十年で最悪の政治危機を引き起こし、国内を二極化させている。
今月24日には、尹氏を強く支持する数万人が集会を開き、尹氏の釈放と職務復帰を求めて抗議の声を上げた。
今後、憲法裁が、国会による弾劾を妥当と判断すれば、尹氏は罷免され、60日以内に大統領選挙が実施される。
検察はBBCのコメントの求めに、すぐには応じなかった。
※韓国の内乱罪
首謀者は死刑や無期懲役、無期禁錮に処される。
JR東日本 運賃値上げを申請 値上げ幅平均7.1% 2026年3月から
2024年12月6日 NHK
JR東日本は、2026年3月からの運賃の値上げを国に申請しました。切符の初乗り運賃は10円値上げし、全体の値上げ率は平均で7.1%となっています。
JR東日本は、人口減少が続き将来の利用者の伸びが期待できない中、鉄道事業を安定的に維持する資金を確保する必要があるとして、6日、国に対して運賃の値上げを申請しました。
申請では、2026年3月に運賃改定を行い、全体の値上げ率は平均で7.1%となっています。
JR東日本のエリア全体で切符の初乗り運賃は10円値上げし、普通運賃は平均で7.8%の値上げになるとしています。
山手線の切符の初乗りは、いまの150円から160円となります。
また、定期運賃も値上げされ、「通勤定期」は平均12.0%、「通学定期」は平均4.9%となっています。
また、「通学定期」については、郊外の区間などでは家計への負担を考慮して値上げは行わないとしています。
一方、運賃改定にあわせて、首都圏の主要な区間で運賃を低く抑えていたいまの運賃体系も見直し、そのほかの区間と比べて値上げ幅は実質的に高くなる形となっています。
JR東日本の切符や定期の値上げは、首都圏の一部の区間で「バリアフリー料金」の上乗せを行った2023年3月に続いてとなりますが、全面的な運賃の値上げは消費税の導入や増税の際を除くと1987年の会社設立以来初めてとなります。
JR東日本は、2026年度から2028年度まで3年間の平均でみた鉄道部門の収支の見通しについて、収入から、経費などに計算上の利益を加えた「総支出」を差し引いた額が値上げを行わなかった場合、911億円のマイナスとなるのに対し、値上げを行った場合、30億円のマイナスに改善するとしています。
JR東日本の申請に対し、国は、運輸審議会で認可に向けた審査を行うことにしています。
鉄道運賃をめぐっては、JR北海道が平均7.6%の値上げを、JR九州が平均15%の値上げをいずれも2025年4月に行うなど値上げの動きが相次いでいます。
普通運賃は、JR東日本のエリア全体の値上げ率が平均で7.8%となっています。
このうち初乗り運賃は、切符の場合すべてのエリアで10円値上げされます。
山手線の初乗り運賃は、切符の場合、今の150円から160円に、ICカードの場合、今の146円から155円に引き上げられます。
また、東京から各駅への主な運賃は、東京から新宿は切符が210円から260円、ICカードが208円から253円に値上げします。
東京から横浜は切符が490円から530円、ICカードが483円から528円、東京から千葉は切符が660円から720円、ICカードが659円から715円、東京から大宮は切符が580円から620円、ICカードが571円から616円にそれぞれ値上げします。
1か月の通勤定期の値上げだと、東京・横浜間は1万4640円から1万5600円に、東京・大宮間は1万6610円から1万7970円に、東京・千葉間は1万9980円から2万1580円に値上げされます。
1か月の通学定期では、東京・横浜間は8000円から8550円に、東京・大宮間は8250円から8810円に、東京・千葉間は9220円から9860円に値上げされます。
通学定期は、東京周辺の区間は平均8%、山手線内は平均16.8%値上げする一方、甲信越や東北などでは家計の負担に配慮して据え置きとなります。
このほか、中長距離の路線では、特急料金は変更されませんが、運賃の値上げによって合計の金額は、東北新幹線の東京から新青森は1万7670円から1万8110円に、上越新幹線の東京から新潟は1万760円から1万980円に、北陸新幹線の東京から長野は8340円から8450円にそれぞれ値上げします。
JR東日本 渡利副社長「持続可能な形で運営していくため」
JR東日本の渡利千春 副社長は会見で「鉄道事業に求められる役割やサービスが多様化・高度化する中、昨今の物価高や人材確保といった経営環境の変化に対応し、安全、サービスの維持向上、車両設備の更新、バリアフリー設備の拡充や、激甚化する災害への対策などを着実に進めつつ、今後も持続可能な形で運営していくために、会社発足以来初めてとなる運賃改定を申請した」と述べました。
JR東日本 過去に5回の運賃改定
JR東日本は、これまで5回運賃改定を行ってきましたが、全面的な運賃の値上げは消費税の導入や増税の際を除くと1987年の会社設立以来初めてとなります。
▽最初の運賃改定は、3%の消費税が導入された1989年4月で、普通運賃はおよそ3%引き上げられました。
このとき山手線の初乗り運賃は120円のまま据え置かれました。
▽1997年4月、消費税率が5%になった際には、普通運賃はおよそ2%上がり山手線の初乗り運賃は、プラス10円の130円に。
▽2014年4月、消費税率が8%になった際には、普通運賃はおよそ3%上がり、初乗り運賃は、山手線で10円値上がりして140円になりました。
▽2019年10月、消費税率が10%になった際には、普通運賃はおよそ2%引き上げられ、山手線の初乗り運賃は据え置かれました。
▽2023年3月には、オフピーク定期券の導入に伴って運賃改定され、首都圏の一部の区間で通勤定期が見直されたものの、普通運賃や通学定期は据え置かれました。
ただ、このときには、転落防止のホームドアなどの駅のバリアフリー化を進めるために、首都圏の一部の区間を対象に、「鉄道駅バリアフリー料金制度」も導入されました。
導入によって、普通運賃に一律で10円上乗せされたことで山手線の初乗りは150円となりました。
同時に通勤定期も引き上げられました。
コロナ禍と物価や人件費上昇 収益を圧迫
コロナ禍での利用客の減少と物価や人件費の上昇は、各社の鉄道運賃の相次ぐ値上げにつながっています。
2022年1月には、私鉄大手の東急電鉄が平均で12.9%の運賃値上げを申請し、その後も近畿日本鉄道やJR四国、名古屋鉄道などが相次ぎ値上げを申請しました。
リモートワークが定着し、コロナ禍前の水準まで利用客の回復が見込めないほか、物価や人件費の上昇が収益を圧迫していることが各社の相次ぐ値上げの動きにつながっています。
国が2024年4月に、運賃計算の基準を変更して以降では、JR北海道が6月に平均7.6%の値上げを国に申請し、10月に認可されたほか、JR九州も、7月に平均15%の値上げを申請し、11月に認可されています。
鉄道各社にとっては、国の基準の見直しで値上げの申請のハードルが下がった形となり、値上げの動きはさらに広がる可能性があります。
背景に国の基準見直し
JR東日本が全面的な値上げに踏み切るのは、国が27年ぶりに鉄道の運賃を定める基準を見直したことが大きなきっかけとなりました。
鉄道の運賃は、利用者の過度な負担を避けるため、事業者の申請に基づき国の運輸審議会で審査する「認可制」となっています。
運賃の上限は、経費などの原価に一定の利益を加えた「総支出」を超えない範囲で設定することが求められます。
国は、この計算の基準を2024年4月、27年ぶりに見直しました。
鉄道事業を取り巻く環境が大きく変化しているとして、設備投資の費用や人件費、災害で破損した施設の修繕費用などをより弾力的に原価に盛り込めるようにしました。
JR東日本は山手線など収益性の高いいわゆるドル箱路線を抱えていますが、コロナ禍で落ち込んだ利用者の回復が遅れ、2023年度の運輸事業の売り上げは、1兆8500万円あまりとコロナ禍前の2019年度と比べて9割ほどにとどまっています。
また近年では、物価や人件費の上昇などでコストが増加し利益を圧迫していました。
こうした中、ホームドアの設置をはじめとした駅のバリアフリー化や、鉄道施設の耐震補強など安全面の設備投資を加速させ、サービスを維持していくためには運賃の値上げが必要だとしています。
ただ、鉄道は、通勤・通学などで日常的に利用する公共交通機関としての役割が大きく、運賃の値上げに利用者の理解が得られることが必要となります。
厚労省「風邪5類指定」に医師が猛反対…ワクチン開発は「ほぼ不可能」医療現場への負担増も懸念
msnHPより(最終取得:2024年12月9日)
11月29日、福岡資麿厚生労働大臣は省令を改正、“普通の風邪” を5類感染症に位置づけることを発表した。
「5類感染症とは、現在、インフルエンザや新型コロナなども分類されており、指定医療機関からの報告などを通じて、国は感染の拡大などを観測できるようになります。さらに、ワクチン開発などもおこなうことが可能になりました」(社会部記者)
こうした政策に対し、「国民に不利益をもたらす可能性が高い」と指摘するのは、感染症の専門家で、五良会クリニック白金高輪理事長の五藤良将医師だ。
「政府は、この政策の目的を『急性呼吸器感染症の流行状況を把握し、未知の感染症の早期発見につなげる』と説明していますが、風邪は軽症で自然に治ることがほとんどです。
現行の監視体制でも未知の感染症を早期発見する仕組みは十分整っています。この政策が新たに提供するメリットはほとんどないと思います。
5類感染症に指定されれば、医療機関が症例報告や検体採取をおこなう必要があります。これは特に小規模な医療機関にとって大きな負担となり、診療の質や効率に影響を及ぼすでしょう。
限られた医療のリソースをここに割くことで、もっと必要とされる分野が困るだけなんです」
さらに、ワクチンの開発にも否定的だ。
「風邪の原因となるウイルスは非常に多様ですからね。包括的なワクチンの開発は現実的ではありません。過去には、風邪の主要な原因の一つであるライノウイルスのワクチンの開発が試みられましたが、免疫応答が不十分で実用化には至りませんでした。
ウイルスの多様性と変異の頻度を考えると、すべての風邪ウイルスに効果を発揮するワクチンを作るのはほぼ不可能だと思います。
それに、ワクチンの開発や普及には膨大なコストがかかります。この費用が税金で賄われるとなると、ほかの重要な医療課題への予算が削減される可能性がありますし、風邪ワクチンが推奨されるようになれば、新型コロナワクチンのときと同じように接種を拒否した人が社会的に非難されたり、差別される懸念があります。
風邪に対する過剰な意識が生まれることで、不必要な受診が増えることも懸念点の一つですね」(同)
医療現場や社会への影響を再考すべきなのは間違いない。
取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)
“風邪”がインフルエンザやコロナと同じ「5類感染症」に 25年4月から 受診時の負担は増えるの?
2024年12月8日 Yahoo ニュース
寒くなってきて、風邪をひいているという方もいるのではないでしょうか。2025年度から、その“風邪”がインフルエンザやコロナと同じ「5類感染症」に分類されます。これによって、どう変わるのでしょうか。
2023年5月、新型コロナが感染症の分類で「2類」から「5類」に移行しました。
これによりインフルエンザなどと同じ扱いになり、新型コロナの受診やワクチンも自己負担になりました。
この「5類」に2025年4月から、誰もが一度はかかったことがあるでしょう、あの病気が加わることになりました。
それは「風邪」。
なぜ風邪を5類に加えるのでしょうか。厚生労働省は風邪の発生状況を把握することで、新たな呼吸器感染症の早期検知対応を目指すとしています。
風邪が5類に加わることで、私たちの生活に影響はあるのでしょうか?
名古屋大学医学部付属病院の山本尚範救急科長に聞きました。
「風邪というのは、医学的に言うと『風邪症候群』。鼻水が出てきたり、のどが痛くなったり、空気の通り道の上の方で炎症が起きたものを主に風邪と呼びます」(山本さん)
新型コロナのパンデミックが背景に
風邪は数百種類のウイルス・細菌が原因とされていて、私たちが風邪と呼んでいる症状は、現在の感染症法では位置付けされていません。
それが5類に分類される背景には、全世界を苦しめた新型コロナが関係していました。
「パンデミックが皆さんを苦しめましたが、中国・武漢で最初は『謎の肺炎が出ている』と報道された。この肺炎が何なのかと中国の科学者たちが調べていくと、これまでにないコロナウイルスだった。これは世界に知らせないといけないと遺伝子をすぐに調べた。それが公開されたおかげですぐにワクチンの準備に入れた」
「これがもし日本で起きた時、ああいう動き方ができたかという心配はあった。未知の感染症が出てきたときに、いち早く見つけて次のパンデミックを防ぐというのが、今回風邪を感染症に入れた背景にある。WHO(世界保健機関)が急性呼吸器感染症の調査は次のパンデミックにつながり得るので、世界各国で調べてくださいと呼びかけている。その要請に日本政府も応えることになった」(山本さん)
患者ではなく医療機関の負担になる可能性
そんな中、厚労省には「5類に追加されることで、医療費の増大につながるのでは?」と心配する声が寄せられました。
新型コロナの場合、5類になった時に医療費の1~3割が自己負担になりました。医療費に関しては、風邪が5類になった場合に変わるのでしょうか?
「全く変わりません。これは調査のための新しい分類ということで、患者さんの医療費などは何も変わらない。行われる医療も変わらないし、自己負担も変わらない」(山本さん)
では、何が変わるのでしょうか?
「医療機関は大きな負担になる可能性がある。今回5類に入れた理由は新たな未知の感染症の調査が目的。WHOは、咳とか呼吸の苦しさがある方で38℃以上のみを報告すればいいと言っている。日本で議論になるところは『発熱』という項目を入れていない。熱がなくても咳がある、鼻詰まりがあるというものを報告しなければいけない。これは数が膨大になります。このことは医療機関にとっては大きな負担になるのではないか」
「医療機関としては患者さんを診るのが第一の仕事。あまりそこに負担をかけないでほしい。この問題を解消するには、デジタル化をしっかり進め、普通に診療すると自動的に情報が上がっていくようになること。それによって医療機関の負担が減るし、未知の感染症もすぐに見つかる仕組みが早くできる」(山本さん)
ペロブスカイト太陽電池とは 特徴や開発は? 2040年 原発20基分の発電規模が目標
2024年11月27日 NHK首都圏ナビ
「ペロブスカイト太陽電池」は薄くて軽く、折り曲げられるのが特徴で、建物の壁面などに設置することもできます。政府は、次世代の太陽電池、ペロブスカイト太陽電池を2040年には、原発20基分に相当する発電規模まで普及させるとする目標を正式に発表しました。特徴や開発の状況などこの太陽電池をめぐる動きについてまとめました。
ペロブスカイト太陽電池の開発
このペロブスカイト太陽電池をめぐっては開発に取り組む企業が相次いでいます。このうち、2018年に設立された京都大学発のスタートアップ企業が開発した太陽電池は発電効率が高く、室内の光でも発電が可能だと言います。
この会社がいま開発に取り組んでいるのが、7.5センチ四方の手のひらに収まるほどの小型の太陽電池です。薄くて軽い特性を生かしてスマートフォンやセンサーなどの電源として活用することが想定されています。
課題は耐久性 2026年の量産化目指す
このほか、大手企業とも共同開発を行っていて、▽KDDIとは通信基地局に太陽電池を取り付けて発電する実験を行っているほか、▽トヨタとも電気自動車の屋根やボンネットに搭載できる太陽電池の開発を進めています。
実用化に向けては、長時間発電し続けることができる耐久性が課題だということで、この会社では、再来年、2026年の量産化を目指して開発を加速させています。
エネコートテクノロジーズ 加藤尚哉社長
「目指しているのは、電気の地産地消で、薄くて軽くて曲がるので、設置できるエリアが飛躍的に広がる。生活に身近な場所で発電し、その場で電力を使う、そういった世界が実現できればいいなと思っている」
2040年には原発20基分にまで普及を
ペロブスカイト太陽電池について、経済産業省は11月26日、官民協議会を開き、今後の戦略をまとめました。
それによりますと発電能力の目標については、課題となるコストを従来の太陽電池に近い水準まで引き下げ、2040年には、国内に、原発20基分に相当する20ギガワットまで普及させるとしています。
再生可能エネルギーを最大の電源に
政府は年内にも素案をとりまとめる新しいエネルギー基本計画の2040年度の電源構成で、再生可能エネルギーを初めて最大の電源とするシナリオを示す方向で検討していて、ペロブスカイト太陽電池を計画の柱の1つに位置づける方針です。
また、この太陽電池をめぐっては、中国やヨーロッパなどでも量産化を目指す動きが相次いでいて、政府は産業としての競争力を高めるため、日本メーカーの研究開発や量産体制の構築を支援していくとしています。
ペロブスカイト太陽電池のメリット
再生可能エネルギーのさらなる拡大に向けては、新たな技術の実用化がカギとなります。このうち太陽光発電では、現在、主流となっている「シリコン型太陽電池」は重みがあり、一定の広さがある平地を中心に設置されてきましたが、普及が進むにつれて、適した土地は減ってきています。
一方、ペロブスカイト太陽電池は、薄くて軽く、折り曲げられるのが特徴で、建物の壁面などにも設置できます。また、主な原料のヨウ素は国内で調達できることから、サプライチェーンを海外に依存する必要がなく、経済安全保障の観点からもメリットがあると指摘されています。
アサド政権崩壊なぜ?シリアでいったい何が?
2024年12月9日 NHK
「独裁者アサドを打倒した」
首都ダマスカスを制圧したシリアの反政府勢力は、アサド大統領の追放を高らかに宣言しました。
「反政府勢力の攻勢は国際社会もシリア政府もこの時期はないだろうと油断していた」
シリア情勢に詳しい東京外国語大学の青山弘之教授は、今回の事態についてこう分析します。
反政府勢力がなぜここまで一気に攻勢を強めることができたのか。今後のシリアはどうなるのか。青山教授に詳しく聞きました。
(国際部記者 勅使河原佳野)
そもそもシリアってどこにある?
トルコやイラク、ヨルダン、レバノン、それにイスラエルと国境を接し、古くから交通や文化の要衝として栄えたシリア。
30年にわたり独裁的な政権運営を続けた父親の死去に伴い、2000年に34歳で大統領になったバシャール・アサド大統領が強権的な統治を続けてきました。
シリア アサド大統領
シリアってどうなっていた?
2011年、民主化運動「アラブの春」が波及する形で、シリアでも民主化を求めるデモが起こり、アサド政権がこれを武力弾圧したことをきっかけに反政府勢力との激しい内戦に発展しました。
2014年には内戦の混乱に乗じて過激派組織IS=イスラミックステートがシリアとイラクにまたがるイスラム国家の樹立を一方的に宣言。
一方、アサド政権は、ロシアから空爆の支援を得て反政府勢力やISの支配地域に激しい攻撃を加えるなど、内戦は泥沼化します。
その後ISは弱体化、2020年にアサド政権の後ろ盾のロシアと反政府勢力を支援するトルコが停戦合意を交わして以降は、大規模な戦闘は起きずこう着状態となっていました。
停戦合意を交わすロシア プーチン大統領とトルコ エルドアン大統領(2020年)
※以下、青山教授の話(インタビューは12月8日に行いました)
なぜこの時期に反政府勢力が攻勢?
東京外国語大学 青山弘之教授
去年10月以降のイスラエルによるガザやレバノンへの攻撃で生じたこの地域の安全保障上の揺らぎみたいなものに乗じて、かなり入念に計画を練り攻撃に踏み切ったという形だと思います。
また、攻撃はレバノンのヒズボラとイスラエルが停戦に踏み切った、まさにその時期で、国際社会全体も、シリア政府側も、この時期に攻撃に踏み切ることはないだろうというふうに油断していた。そういう時期をねらって攻撃に踏み切ったと考えることができます。
今回の戦闘で特徴的なのは、反政府勢力側がかなり高性能の無人機を戦力の1つとして位置づけ、航空戦力の能力を高めるために長期間、準備をしてきたと見られること。
そして、主力の部隊、エリート部隊の戦術などを見ても極めて高度に訓練されているなど、戦闘員や武器の確保など、一朝一夕にできるものではないと思います。
反政府勢力の兵士ら(シリア ホムス 2024年12月8日)
なぜ事態がここまで急展開?
1年間にわたるイスラエルと、いわゆる「抵抗の枢軸」との対立ではイランやヒズボラが大きな被害を被り、「抵抗の枢軸」側が明らかに劣勢に立たされています。
それが、そうした国などと連携しているシリア政府の能力低下にもつながり、押し返すことができない状況に追いやられていたということが1つ。
反政府勢力側は、いくつか主要な軍の拠点を攻撃しましたが、シリア政府軍はほとんどが逃げる、あるいは撤退をするという形になりました。本格的な戦闘に入ることすらできないぐらい士気が低下していて、装備などの面でも不足があったと見られます。
また、シリア政府は、民間人の犠牲者を出さないために軍隊は市街地の外に出て防衛線を張るということを主張していました。
実はシリアでは2020年に戦闘が収束して以降、シリア軍が街の中に検問所を設けたり、兵士を駐留させたりして陣地を築くということはなくなっていました。
そうした状況が一般的になっていたために、反政府勢力がそれぞれの都市の中に入ってきても市街地に陣地をつくることができず、まちの外には展開するが何もできず、主要都市の陥落を招いてしまったということが言えるかと思います。
国営テレビで「ダマスカスは解放された」と宣言する反政府勢力のメンバー(2024年12月8日)
反政府勢力の圧勝 予想できなかった?
おそらくこの結果を予想していた人はほとんどいなかったと思います。
なぜなら最近、(一部の反政府勢力を支援してきた)トルコのエルドアン大統領が「シリア政府との関係改善を望んでいる」ということをたびたび発言するなど、トルコとシリアの関係がよくなる状況にありました。
そうした中で、反政府勢力は主要な紛争当事国にとって無用の長物になり始めていて、彼らがこうした大胆な行動をとっても周辺の紛争当事国が阻止するであろうという見立てがあったので、今回のような大規模な攻撃は想定もしていなかったです。
ただ、逆に言うと、シリア情勢をめぐる各国の関係が良好になっている、シリア政府とトルコ政府の関係が改善するのではないか、そうした楽観的なムードを反政府勢力、また、それを支援する勢力、武器や兵站を提供する勢力が利用して、今回のような、誰も予想できなかったような、大胆な行動に出たというふうに考えることもできます。
会見するエルドアン大統領(2024年12月6日)
アサド政権支援してきたイラン ロシアは?
イランに関しては民兵と言われている組織がこつ然とではないですが、姿を消していて、さして大きな抵抗を見せないだろうと私自身は考えています。
一方でロシアは、シリアの地中海沿岸地域にロシア軍の海軍と空軍の基地があって、これをロシア政府が手放すとは到底考えられません。カタールでのドーハフォーラムでもラブロフ外相は「徹底的に戦う」ということを主張しています。
現段階で断言することはできませんが、シリア国内にあるロシアの権益、特に地中海側にある海軍と空軍の基地が何らかの形で攻撃を受ける、また、撤退を余儀なくされるようなロシアにとって不当な環境ができてしまった場合には、極めて大規模な形での反抗がある可能性はあります。
アサド大統領がどうこうということとは別に、地中海の東岸に権益を維持したいというロシアがどういう動きをとるのか、注視していく必要があると思ってます。
ロシア プーチン大統領
中東情勢にも影響与える?
中東地域に関して言うと、いわゆる「抵抗の枢軸」が物理的に寸断された形になっています。
「抵抗の枢軸」は、イランからイラク、シリアを経由してレバノンのヒズボラにさまざまな支援を送るという1990年代以降続いてきた仕組みですが、シリアがアサド政権ではなくなることで寸断されてしまいます。
ガザで紛争が始まって以降、イスラエルはヒズボラと対じして、ヒズボラの武器密輸ルートを根絶するという形でシリアへの攻撃を繰り返してきたわけですが、このイスラエルの目的が期せずして、反政府勢力による大攻勢で実現することになりました。
今後、イスラエルの安全保障というのはこれまで以上に高まり、それに対してイランをはじめとする「抵抗の枢軸」側の能力というものは低下する、かなり大きなバランスの変化が見られるかと思います。
国際社会とシリアの関係はどうなる?
ここ数年、シリア政府は周辺諸国との関係を改善し、国際社会における地位を回復しようとしていたのですが、それが完全にご破算になってしまうということだと思います。
今後、シリアで政権を握る勢力がもし「シリア解放機構」※であるならば、国際テロ組織との国交樹立や外交関係というものは相当慎重に行うことになります。例えば、アフガニスタンの場合、中国やパキスタンがタリバン政権と実利的な関係は結んでいますが、いわゆる国交樹立している国というのはいないわけです。
シリアで今回、「シリア解放機構」が政権を握ったことで何らかの形でオフィシャルに外交関係を結ぶような国が出てくるのであれば、それは911以来続いていた国際社会のアルカイダやタリバンに対する制裁のスキームそのものが崩壊するということを意味しているかと思います。
反政府勢力「シリア解放機構」ジャウラニ指導者(2024年12月8日)
※「シリア解放機構」とは
11月27日以降の反政府勢力の攻勢を主導している過激派組織。
2011年のシリア内戦開始後に結成され、アサド政権との間で戦闘を続けてきた国際テロ組織アルカイダ系の過激派組織「ヌスラ戦線」が母体となっている。「ヌスラ戦線」の分裂をへて立ち上げられ、ジャウラニ指導者のもとでシリア北西部イドリブを拠点に活動していた。
中東の衛星テレビ局アルジャジーラは「シリア解放機構には最大3万人の戦闘員がいると推定されている」と伝えている。
今後のシリアはどうなる?
「シリア解放機構」のジャウラニ指導者はCNNのインタビューで「首都機能を完全に確保したら次は制度構築、統治にかかわるプロセスを進めていく」と答えています。
具体的には明らかにはなっていませんが、「シリア解放機構」が国際テロ組織に指定されている都合上、政府をこのまま構築したとしてもアフガニスタンのタリバン政権のように国際社会の承認を得られないわけです。
それはシリアという国をつくる上であまりにもメリットがないので、組織としては消滅をさせてアルカイダが統治を行っているという体裁を取らない形にしようとすることが予想されます。
その段階で今回の戦闘に参加した、シリア南部の武装勢力やアメリカが支援する勢力など、彼らとの何らかの合意に基づくような仕組みを作る。また、反体制派の政治家の多くが国外に逃れているので、彼らについてもかつてイラクでサダム・フセイン政権が崩壊したときのように国内に呼び戻して移行期の統治であるとか、今後のシリアの政治をつかさどる、そうした任務に就かせようとしていることが考えられます。
演説するジャウラニ氏
「アラブの春」を経てこの結末 どう見る?
アラブの春は本来、民主化の運動として始まっていました。
一般の民衆が平和的なデモによって政権を倒し民主化への道を進めるというのが理想的なものですが、実際にはそうではなく2010年代を通じてさまざまな国でテロが発生したりテロリストがばっこしたりするという事態を招いてしまいました。
それを国際社会全体で抑止する形で2020年代を迎えたわけですが、今回、アラブの春の1つの帰結としてアサド政権が機能を失い、それに代わって「シリア解放機構」が政権を握るということであれば、それは国際社会が「国際テロ組織」だと指定していたものがアフガニスタンに続いてシリアでも政権を担うようになってしまう。
本来、民主化を目指していた「アラブの春」が、そうした国際社会にとってテロ組織だと見なされているものの統治を招いてしまったということは、極めて悲劇的なことだと思います。
(12月8日 ニュース7で放送)
〈Q&A〉「ガソリン暫定税率」って? 「廃止」で自公・国民民主3党合意 実現すると1リットル何円に?
2024年12月12日 東京新聞
自民、公明、国民の3党がガソリン税の暫定税率廃止で合意しました。暫定税率廃止でガソリン価格はどうなるか、まとめました。(高田みのり)
Q ガソリンと税金について、仕組みや税率を教えてください。
A ガソリンには複数の税がかかっています。一つはガソリン税(揮発油税と地方揮発油税の総称)で、1リットルあたり計53.8円。石油石炭税と温暖化対策税で同2.8円。さらに消費税が10%かかっています。
Q 「暫定税率」とは何のことですか。
A 本来の税率とは別に加算された、上乗せ分のことです。前出のガソリン税にも暫定税率が存在します。ガソリン税は本来「1リットルあたり28.7円」でしたが、そこに暫定税率として25.1円が加算され、現行の53.8円になっています。
Q よく聞く「トリガー条項の凍結」とは何が違うのでしょうか。
A トリガー条項は、いわゆる”自動減税措置”。ガソリン価格の全国平均が3カ月連続で1リットル160円を上回ると自動的に発動して暫定税率分を免除し、発動後3カ月連続で同130円を下回ると免除が停止します。ただ、東日本大震災の復興財源を確保するため、国はトリガー条項を「凍結」しています。
国民民主党はトリガー条項の凍結解除を求めていましたが、一気に暫定税率そのものが廃止される見通しとなりました。
Q 廃止の課題は。
A 地方分を合わせて約1兆5000億円の減収が見込まれます。年収の壁の引き上げと同様に、地方財政への措置が必要です。
Q 暫定税率廃止で、ガソリン購入時の代金はどの程度安くなりますか。
A 経済産業省によると、レギュラーガソリンの店頭小売価格(今月9日時点)は、全国平均で1リットル175円70銭でした。単純計算すると、現在支給されている国の補助金がない場合でも165円台になります。
トランプ氏 就任1週間で30超の大統領令 大幅な政策転換進める
2025年1月28日 NHK
アメリカのトランプ大統領が大統領に就任してから、27日で1週間となりました。不法移民対策など選挙戦で訴えた政策を次々と実行にうつし、前政権からの大幅な政策転換を進めています。
トランプ大統領は1月20日に2期目の政権をスタートさせ、この1週間で30を超える大統領令に署名しました。これは8年前、1期目の政権時に最初の3か月間に署名した数を上回っていて、選挙戦で訴えた政策を次々と実行にうつしています。
このうち不法移民対策では、就任初日に南部国境の非常事態を宣言し、現地に1500人の軍の部隊を増派することを決めたほか、犯罪歴のある不法移民の摘発や強制送還に着手しています。
また、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱する大統領令に署名したり、政府機関に対し人種や宗教などにとらわれず、多様な人たちを積極的に採用することを求めた政策を撤回したりするなど、バイデン前政権からの大幅な政策転換を進めています。
外交面ではロシアによるウクライナ侵攻の終結に向け、プーチン大統領との首脳会談に意欲を示しながら、ロシア側の対応次第では関税や制裁をかすとして、揺さぶりをかけています。トランプ大統領は25日に西部ネバダ州で支持者を前に行った演説で「バイデン前政権が引き起こした災難を一つ一つ解決するため、緊急かつ歴史的なスピードで動いてきた」と強調しました。
「関税」と「減税」
トランプ大統領は外国からの輸入品に課す「関税」と、アメリカ国内でものづくりをする企業への「減税」によって、貿易赤字の削減や衰退した製造業の強化を目指す姿勢を鮮明にしています。
20日の就任演説では「私はアメリカの労働者と家族を守るため直ちに貿易制度の見直しに着手する。アメリカ国民に課税してほかの国々を潤すのではなく、国民を豊かにするために外国に関税を課して税金をかける」と述べ、すべての関税や歳入を徴収する外国歳入庁の設置を発表。
そして、2月1日からメキシコとカナダに25%の関税を、中国には10%の追加関税をそれぞれ課すことを検討していると明らかにしました。
23日には政財界のトップが集まる「ダボス会議」にオンラインで参加し、「関税はアメリカの国庫に何千億ドル、何兆ドルもの歳入をもたらすことになる」と述べ、外国からの輸入品に関税を課す考えを改めて強調。
さらに「世界中のあらゆる企業に対する私のメッセージは単純だ。アメリカで製品を生産してほしい。そうすれば地球上で最も低い税率を適用する」と述べ、アメリカで製品を生産する企業の法人税率を21%から15%に引き下げる考えを示しました。
トランプ氏は関税の引き上げなどによってアメリカの歳入が増加するため、企業への減税に伴う税収のマイナスを穴埋めできると考えているものとみられます。
選挙戦で公約に掲げてきたすべての国からの輸入品に一律で10%から20%の関税を課す政策を実行に移すのかどうかなど、関税をめぐる動向を世界が固唾をのんで見守っています。
《エネルギー 気候変動政策》
トランプ大統領は、バイデン前政権が進めたエネルギーや気候変動に関する政策を大きく転換させようとしています。
トランプ大統領は今月20日の就任演説で「記録的なインフレを抑えこむため国家エネルギー緊急事態を宣言する。掘って掘りまくれ」と述べ、化石燃料の増産を通じてエネルギー価格を引き下げる考えを強調しました。
就任日に署名した「アメリカのエネルギーを解き放つ」という大統領令では、すべての政府機関に国内のエネルギー資源の開発を潜在的に妨げる可能性のある行き過ぎた規制などを特定し、30日以内に撤回や修正などを盛り込んだ行動計画を策定するよう求めています。
エネルギー資源の中では特に石油、天然ガス、石炭、水力発電、原子力などに注目するとしています。
LNG=液化天然ガスをめぐっては、バイデン前政権が環境に及ぼす影響を調査するため新たな輸出の許可を一時凍結した措置について、輸出に向けた審査を可能なかぎり速やかに再開するよう求めています。
また、アラスカ州には豊富な資源が眠っているとしてLNGの開発を優先し、アメリカのほかの地域や太平洋地域の同盟国に販売・輸出するとした大統領令にも署名しました。
一方、気候変動対策をめぐっては地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱すると発表しました。
「パリ協定」をめぐっては、1期目の政権時に「アメリカの製造業を制約する不公平な協定だ」などとして離脱しましたが、バイデン前政権で復帰していました。
さらに、大規模な風力発電所向けに連邦政府が所有する土地をリースする措置について自然景観を損ないアメリカの消費者のためにならないものは打ち切るなど、政策の見直しを進めています。
《EV普及策》180度転換
トランプ大統領は、バイデン前政権が進めてきたEV=電気自動車の普及策は“EVの義務化”だとしてその政策を撤回すると表明しました。この中には、新車販売全体に占めるEVなどの割合を2030年に50%に引き上げるとした、2021年8月の大統領令が含まれます。
バイデン前政権は気候変動への対応を最優先課題の1つに掲げ、一定の条件を満たすEVの購入者への税制優遇や自動車の排ガスの基準を段階的に厳しくすることで、EVの普及をはかる政策を進めてきました。
トランプ大統領はこうした政策を180度転換し、各州での排ガス規制の終了やEVの購入を義務づけることにつながる補助金の廃止の検討などを盛り込んだ大統領令に署名しました。消費者が購入する車を自由に選べるようにするためだとしています。
アメリカではカリフォルニア州が2035年までにガソリン車などの新車販売を禁止する規制を設けていますが、有力紙ニューヨーク・タイムズはその基準の一部は少なくとも17の州が採用しているとしてトランプ氏の方針は広範な影響を及ぼすだろうと指摘しています。
またバイデン前政権が成立させた気候変動対策などに巨額の費用を投じる法律などをめぐって、EVの充電ステーションへの補助金などの支出を直ちに停止して、各政府機関に対して90日以内に見直しに向けた報告書を提出するよう求めています。
アメリカでEVの普及を強力に後押してきた政策が転換されることで、世界のサプライチェーン全体で圧倒的なシェアを誇る中国の存在感が一段と高まるという見方も出ています。
《内政》不法移民対策や多様性の推進は
【不法移民対策】
大統領選挙で最優先課題の1つとして掲げた不法移民対策やメキシコとの国境管理をめぐっては、就任初日に南部国境の非常事態を宣言し、軍隊を派遣して不法入国を即時かつ完全に阻止するとする文書に署名しました。
トランプ政権は1月22日には南部の国境地域の監視活動などにあたるため1500人の軍の部隊を増派すると発表したのに続いて、1月23日には不法移民の摘発に着手したと明らかにしました。犯罪歴のある不法移民を軍用機で強制送還するなど具体的な行動に乗り出しています。
またトランプ大統領は20日、アメリカで生まれた子どもには両親の国籍にかかわらずアメリカ国籍を与える、いわゆる「出生地主義」と呼ばれる現在の仕組みを見直すとする大統領令にも署名しました。
これを受けて、20以上の州などが大統領令が憲法違反だとして差し止めを求める訴えを裁判所に起こしました。
西部ワシントン州の連邦裁判所は23日、一時的な差し止めを命じ、これに対してトランプ大統領は控訴する意向を示していて、今後、法廷闘争が激しくなることも予想されます。
【DEI推進を撤回】
トランプ大統領は就任演説で「きょうから、性別は男性と女性の2つだけであることを、アメリカ政府の公式方針とする」と述べたあとその方針が書かれた大統領令に署名しました。
「DEI」と呼ばれる多様性などの理念を推進するバイデン前政権の政策も撤回し、マイノリティーの差別などにつながるのではないかと懸念も広がっています。
【議会乱入事件で恩赦】
4年前の2021年1月に起きた議会乱入事件をめぐって、トランプ大統領は20日、事件で起訴された支持者らについて「彼らは人質だ」などと述べ、およそ1500人を恩赦する大統領令に署名しました。
これを受けて釈放される人が相次いでいることを支持者らは歓迎している一方、反対する人たちからは「アメリカ人が有してきた理念や価値観に反する」などと懸念の声もあがっています。
《外交》ウクライナや中国 北朝鮮などは
【パリ協定とWHO】
就任演説で「アメリカ第一主義」を掲げたトランプ大統領は、1月20日の就任初日に地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱するための大統領令や、WHO=世界保健機関から脱退するための大統領令に署名しました。
ただ、WHOについては拠出金額が引き下げられれば判断を再検討する余地があるという考えも示しています。
【中東】
トランプ大統領は、1期目に続き2期目でもイスラエル寄りの姿勢を鮮明にしています。25日にはバイデン前政権が停止してきたイスラエルへの大型爆弾の輸送措置を解除したと明らかにしました。
また、ヨルダンやエジプトに対しガザ地区の住民を受け入れるよう求める考えを示していますが、パレスチナ暫定自治政府が反発するなど波紋が広がっています。
【ウクライナ】
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐっては、早期終結に向けてプーチン大統領との首脳会談に繰り返し意欲を示す一方で、ロシア側の対応次第では関税や制裁をかすと圧力もかけています。
また、産油国のサウジアラビアとOPEC=石油輸出国機構に原油価格の引き下げを要請すると主張し、原油相場の引き下げを通じて産油国ロシアに財政面で打撃を与えたい考えも示しています。
【中国】
またトランプ大統領は、ロシアと関係が深い中国の習近平国家主席に対してもウクライナ情勢をめぐり、事態の解決にむけて役割を果たすよう求めたと明らかにしました。
習主席とは大統領就任直前の17日に電話会談を行っていて、その際には、貿易問題やアメリカに流入し社会問題になっている薬物のフェンタニル、中国の企業が親会社の動画共有アプリTikTokなどについて話し合ったということです。
またトランプ大統領は、ロシアや中国とともに、核兵器を削減することに意欲を示す発言もしています。
【北朝鮮】
北朝鮮をめぐっては、メディアのインタビューでキム・ジョンウン(金正恩)総書記に接触を図る意向を示しています。
トランプ大統領は、1期目の政権でキム総書記とあわせて3回会談していて、2期目でも首脳会談の実現を目指すのか注目されます。
【NATO】
トランプ大統領は、ウクライナ情勢をめぐりヨーロッパ各国がより役割を果たすべきだという考えを示していて、NATO=北大西洋条約機構の加盟国に対し、GDPに占める国防費の割合を目標としてきた2%ではなく、5%に引き上げるべきだと主張しています。
トランプ大統領「半導体・医薬品に関税」就任1週間 成果強調
2025年1月28日 NHK
就任から1週間となったアメリカのトランプ大統領。27日の演説では次々と政策を実行に移したスピードを強調して成果を誇りました。
産業政策転換へ「半導体と医薬品に関税」
トランプ大統領は27日、南部フロリダ州で演説しました。
この中で、トランプ大統領は「近い将来、私たちは外国で生産された半導体や医薬品に関税を課し、これらの不可欠な製品の生産をアメリカ国内に戻すつもりだ」と述べ、外国から輸入される半導体と医薬品に関税を課す考えを示しました。
そのうえで「私たちは台湾に行ってしまった半導体企業に戻ってきて欲しいが、バイデン前大統領のばかげた補助金プログラムのように何十億ドルも与えるつもりはない。関税が嫌ならばアメリカ国内に工場を建設しなければならない。今後、短期間のうちに、誰も想像しなかった数の工場が建設されるだろう。関税がかからないという動機がそこにはあるからだ」などと述べて、前政権の産業政策を転換する考えを示しました。
また、トランプ大統領は「1週間で350を超える大統領としての指示を出した。アメリカの黄金時代が正式に始まった」と述べて、次々と政策を実行に移したスピードを強調しました。
特に優先課題にあげる不法移民対策については「1日あたり数百人の不法滞在の犯罪者を逮捕した。この中には殺人やテロ、子どもへの性的暴行の疑いがある者もいる」と述べて、成果を誇りました。
日本の対応は
半導体や医薬品に関税を課す考えを示したトランプ大統領ですが、対象となる国や品目など具体的な内容は明らかになっていません。
武藤経済産業大臣は28日の閣議のあとの会見で、トランプ政権の関税政策について問われたのに対し「日々、いろいろな情報をもらいながら、トランプ政権の新たな政策の動向を注視しているところだ。関税政策の具体的な内容および我が国への影響を十分に精査しながら適切に対処していきたい」と述べるにとどめました。
日本政府としては、トランプ大統領の発言ひとつひとつに過度に反応することはせず、具体的な内容が打ち出されるのを待って対応していく方針です。
その上で、あらゆる対話の機会を通じて日本によるアメリカへの投資の実績や雇用への貢献などを丁寧に説明し、圧力をかわしたい考えです。
財務省の貿易統計の速報値によりますと、日本からアメリカへの去年1年間の輸出総額は21兆2951億円で、国別で最も多くなっていて、このうち、品目別で最も多いのは「自動車」の6兆261億円で全体の28.3%を占めています。
一方、
▽「半導体等電子部品」は2655億円で全体の1.2%
▽「半導体等製造装置」は5298億円で2.5%
▽「医薬品」は4114億円で1.9%となっています。
経済産業省によりますと、半導体や半導体製造装置をアメリカに輸出する場合は、現在、関税はかかっていないということです。また、医薬品についてもアメリカに輸出する場合、関税がかからない品目があります。
新たな大統領令に署名「防衛システム導入」
そのトランプ大統領、弾道ミサイルなどの脅威に対応するためだとして、新たな防衛システムを導入するとした大統領令に署名しました。
トランプ大統領はこの防衛システムをイスラエルでロケット弾や無人機などを迎撃するために導入されているシステムになぞらえて、「アメリカ版アイアンドーム」と呼んでいます。
導入の背景について大統領令は「弾道ミサイル、極超音速ミサイル、それに、(ごく)巡航ミサイルなどの攻撃は依然としてアメリカが直面する最も破壊的な脅威だ」として、敵対する国などからの攻撃に対応するためだと説明していますが、導入時期などの詳細は明らかになっていません。
トランプ大統領は27日、南部フロリダ州での演説で「100%、アメリカ国内で製造されることになるだろう」と述べており、防衛力の強化とともに防衛産業の活性化を図りたい思惑があるものとみられます。
トランスジェンダー 軍への入隊制限へ
また、アメリカ軍でのトランスジェンダーの人たちについて「個人の性別とは異なる『性自認』を表明することは、軍の任務に必要な基準を満たしていない」などとする大統領令にも署名。
この中では、ヘグセス国防長官のもとで、具体的な対応策を定めるよう求めていて、今後、トランスジェンダーの人たちの入隊が大幅に制限される見通しです。
トランスジェンダーの人たちはバイデン前政権のもとでは入隊が認められており、アメリカメディアは、アメリカ軍には推定で9000人から1万4000人がいると伝えています。
トランプ大統領は今月20日の就任にあわせて政府が認める性別は男性と女性の2つの性のみだとする大統領令に署名しています。
TikTok「マイクロソフトが買収検討」
中国系の動画共有アプリ「TikTok」をめぐっても新たな情報が。トランプ大統領はIT大手・マイクロソフトが買収を検討していると明らかにしました。
「TikTok」をめぐっては中国の親会社の「バイトダンス」がアメリカ事業を売却しなければアメリカ国内でアプリを実質的に禁止する法律が今月19日に発効し、一時、運用が停止されました。
トランプ大統領は20日、法律の執行措置を75日間、とらないよう命じる大統領令に署名し、親会社に対してアメリカ事業の売却などの対応を検討するよう促しています。
トランプ大統領は27日、大統領専用機内で同行している記者団から「マイクロソフトがTikTokの買収を協議しているのか」と問われたのに対し「そうだ。TikTokに対する関心は非常に高い」と述べ、IT大手・マイクロソフトが買収を検討していると明らかにしました。
トランプ大統領はほかにも検討している企業があると示唆し「私は入札合戦が好きだ。最良の取り引きができるからだ」と述べました。
アメリカメディアはソフトウエア大手のオラクルや、AI検索の新興企業のパープレキシティAIも買収や合併を検討しているなどと伝えていて、TikTokのアメリカ事業の行方に関心が集まりそうです。
「大統領に対する捜査に関わった司法省職員解雇」
一方、アメリカの複数のメディアは27日、トランプ大統領に対する捜査に関わった司法省の10人以上の職員が解雇されたと伝えました。
FOXニュースなどによりますと職員らは2021年1月の連邦議会乱入事件などを担当したスミス特別検察官のチームで捜査に関わっていたということです。
マクヘンリー司法長官代行が職員あてに送った解雇を通告する書簡では「トランプ大統領を訴追するのにあたって担った重要な役割をふまえると、司法省は大統領の政策を忠実に遂行する上であなたを信用できない」などと記されているということです。
議会乱入事件をめぐってトランプ大統領は国家を欺こうとした罪などに問われましたが、去年11月の大統領選挙で勝利したことを受けて起訴が取り下げられました。
事件を担当したスミス特別検察官についてトランプ大統領は選挙期間中、大統領に返り咲けば「2秒以内にクビにする」と述べていましたがスミス氏はトランプ大統領が就任する前の今月、辞任しています。
【経済影響】トランプ大統領就任 株価は 円相場は 国内企業は
2025年1月21日
アメリカの第47代大統領に共和党のドナルド・トランプ氏が就任したことについて、経済への影響や反応をまとめています。
《株価は売り買いが交錯・円相場も変動 関税発言で》
株価 小幅に値上がりトランプ大統領発言で売り買い交錯
21日の東京株式市場、トランプ新大統領の関税をめぐる発言をきっかけに売り買いが交錯し、日経平均株価は小幅に値上がりしました。
21日の東京株式市場はトランプ新大統領が就任演説で関税の対象や時期について具体的に言及しなかったことから警戒感が和らぎ、日経平均株価は20日の終値と比べて値上がりして取り引きが始まりました。
しかしその後、トランプ新大統領が2月1日からメキシコやカナダからの輸入品に25%の関税を課すことを検討していると伝わると、自動車など輸出関連の銘柄に売り注文が広がり、日経平均株価は下落に転じて一時200円以上値下がりする場面もありました。
午後の取り引きでは値下がりした株を買い戻す動きも出ましたが、売り買いが交錯し、小幅な値動きとなりました。
▽日経平均株価、21日の終値は20日より125円48銭高い、3万9027円98銭。
▽東証株価指数、トピックスは2.23上がって、2713.50。
▽1日の出来高は、15億3819万株でした。
市場関係者は「就任演説や大統領令への署名など関心の高かったイベントは終えたが、トランプ新大統領の発言やSNSでの発信への警戒感は続いている。投資家の間では様子見の動きもみられ、値動きは限定的だった」と話しています。
円相場 トランプ大統領発言に敏感に反応 1円以上変動も
21日の東京外国為替市場、アメリカのトランプ新大統領の関税をめぐる発言に市場が敏感に反応する展開となり、円相場はドルに対し1円以上変動するなど荒い値動きとなりました。
21日の東京外国為替市場、トランプ新大統領が就任演説で関税の対象や時期について具体的に言及しなかったことからアメリカでインフレが再加速するという警戒感が和らぎ、ドルを売って円を買う動きが強まり、円相場は午前中、1ドル=154円台後半まで値上がりする場面がありました。
しかし、その後、トランプ新大統領が2月1日からメキシコやカナダからの輸入品に25%の関税を課すことを検討していると伝わると一転してドルを買い戻す動きが強まりました。
この発言の前と比べて円安ドル高方向に1円以上変動し円相場は一時、156円台前半まで値下がりしました。午後5時時点の円相場はきのうと比べて31銭、円高ドル安の、1ドル=155円67銭から70銭でした。
また、ユーロに対しては、55銭、円安ユーロ高の1ユーロ=161円48銭から52銭でした。ユーロはドルに対して1ユーロ=1.0372から74ドルでした。
市場関係者は「トランプ新大統領の発言への警戒感は依然として高い。また、今週は日銀の金融政策決定会合も控えていて、神経質な値動きが続くだろう」と話しています。
大手証券会社「今後は中国への関税引き上げがリスク要因」
トランプ新大統領の政策が株式市場に与える影響について、大手証券会社からは今後、アメリカが中国からの輸入品に対する追加関税をどのように判断するかが焦点になるという指摘が出ています。
21日の東京株式市場、取引開始直後は値上がりしましたが、トランプ新大統領が2月1日からメキシコやカナダからの輸入品に25%の関税を課すことを検討していると伝わると自動車などの銘柄を中心に売り注文が広がり、日経平均株価は一転して下落に転じる場面もありました。
21日の市場の動きについて、野村証券で日本株の取引を統括する西哲宏執行役員は記者団に対し「取引開始直後は買い注文が先行していたがトランプ新大統領が発言した関税に関する速報ニュースで状況が一変した。速報ニュースによって大きく株価が変動する『ヘッドラインリスク』が改めて再認識された」と述べました。
また、今後の株式市場を見る上での焦点は、アメリカの関税政策だと指摘し、「トランプ大統領がきょう、関税を課すと言及したのはメキシコとカナダだけだった。今後は中国に対する関税の話がどのような形で出てくるのかがリスク要因だ。中国への関税の引き上げが、アメリカ市場を含めた世界経済に悪影響を与えるという見方が広がると株式市場はネガティブに動くのではないか」と述べました。
注目
《国内企業 影響懸念 戦略見直しも》
メキシコに工場を持つ自動車部品メーカー 関税発言で懸念 名古屋
自動車部品メーカーの事業所(愛知 犬山)
トランプ新大統領がメキシコやカナダからの輸入品に25%の関税を課す考えを示したことについて、メキシコに工場を持つ名古屋市の自動車部品メーカーでは今後のビジネスへの影響を懸念しています。
名古屋市に本社がある「大同メタル工業」は自動車エンジン向けの「軸受け」という部品で世界シェアのおよそ3割を占めています。
メキシコにも「軸受け」の工場を設けてアメリカの拠点に輸送し、現地の自動車メーカーなどに納入しているということです。
会社の判治誠吾会長は21日午前、トランプ新大統領が2月1日からメキシコやカナダからの輸入品に25%の関税を課す考えを示したことを伝えるニュースを見ながら、「アメリカファーストで当然こうなると思っていたが、関税をかけることでアメリカではさらに物価が高くなり、アメリカ国民にとっていいことかどうか疑わしい」と話していました。
そのうえで「トランプ氏の政策に一企業で対応していくのは正直言って無理だ。関税がかかってきたら、お客様に関税分を負担していただくような折衝をしないといけない」と述べました。
また、この会社ではEV=電気自動車向けの部品の研究開発を行っていますが、トランプ新大統領が「電気自動車の義務化を撤回する」と表明したことについて、判治会長は「EV化はスローダウンしていくと思うが、4年後に次の大統領が異なる考えを示した時にそこでまた方針を変えるわけにいかないので、基本を守ってやっていくことが大事だ」と話していました。
EV部品のバネメーカー 海外戦略の見直し迫られる 茨城 古河
茨城県古河市にあるバネメーカーの「幸手スプリング」は、EV=電気自動車の部品となるバネなどを生産し、中国に輸出しています。
トランプ新大統領が中国からの製品に10%の追加関税を課す方針を明らかにしていることから、関税が引き上げられる前に商品を受け取ろうという駆け込み需要によって、会社の去年の売り上げは30%ほど増加したということです。
ただ今後は、米中の貿易摩擦が激しくなることで、自社の中国向けの輸出にも影響が及ぶとみていて、海外戦略の見直しを迫られています。
具体的には、東南アジアの販路を開拓しようと去年11月、タイで行われた工作機械や金属加工の展示会に初めて出展したほか、ことしはドイツで行われるEV関連の展示会にも出展を検討するなど、輸出先を分散しながら売り上げを確保しようとしています。
会社の菅井里輝社長は「トランプ氏は大胆な政策を打ち出すとみられ、われわれの対策だけで大丈夫なのか不安はあります。製造業にとっては気が抜けない4年間になると思うので、生き残りをかけてやれることはすべてやっていきたい」と話していました。
産業用装置メーカー 関税引き上げばマイナス 多角化で対応 長野
長野県内にある産業用装置のメーカーは、実際に関税が引き上げられればマイナスの影響を受けるとしたうえで、事業の多角化で対応したいと話しています。
長野県茅野市に本社を置く「野村ユニソン」は自動車部品や半導体の製造装置などを生産し、国内のほかアメリカや台湾にある取引先企業の工場にも製品を納めています。
会社の野村稔会長はトランプ大統領の就任で世界経済の先行きに不確実性が増したとしたうえで「実際に関税がかけられた場合は価格競争面で非常に大きなマイナスになる」と話し、懸念を示しました。
その上で野村会長は「機械装置の製造販売だけでなくメンテナンスなどのサービスをビジネスにしていくことで存在感を出していきたい。機械装置だけ、ロボットだけではなく、それらを含めたサービス全体をビジネスにするところに生き残りの道がある」と述べ、事業の多角化で対応したいという考えを示しました。
この会社は半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCとも取り引きがあり野村会長は「TSMCとの事業も強化している。米中関係が変化しても極端なことは起こらないと思うが、変化を注視して対応していく」と話していました。
《各界・関係者の反応》
経団連 十倉会長「企業が安心して投資できる環境整備を」
経団連の十倉会長は「アメリカの力強い経済とリーダーシップは、世界経済の安定と発展に欠かせない。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持するために、アメリカが引き続き日本と連携し、主導的な役割を果たすことを強く希望する」というコメントを発表しました。
そのうえで、「今後も両国間の貿易・投資の促進を通じて、強固な日米経済関係が一層発展していくことを期待する。アメリカ政府においては、予見可能性が高く、企業が安心して投資できる環境の整備を望む。経団連は、日本企業の継続的な投資や雇用創出を通じたアメリカの経済成長への貢献を推進し、日米経済関係の一層の強化を図っていきたい」としています。
武藤経済産業相「日本企業への影響も十分に精査」
トランプ新大統領が2月1日からメキシコやカナダからの輸入品に25%の関税を課すことを検討していると明らかにしたことについて、武藤経済産業大臣は21日の閣議後の記者会見で「関税措置の内容を踏まえて日本企業への影響も十分に精査していかないといけない。国益に資する形で日米の経済関係を発展させるべく、アメリカ政府と緊密に意思疎通を図っていく」と述べました。
加藤財務相「影響 高い関心を持って注視 緊密な意思疎通を」
加藤財務大臣は21日の閣議の後の記者会見で、アメリカのトランプ新大統領が明らかにした関税などを含む経済政策について世界経済や日本経済に与える影響を高い関心を持って注視していく考えを示しました。
この中で加藤大臣はトランプ新大統領が明らかにした関税などを含む経済政策について「具体的な話はこれからだと思っている。現時点でその影響などを予断をもって申し上げることはできない。世界経済や日本経済に与える影響については高い関心を持って注視したい」と述べました。
その上で「アメリカはわが国最大の貿易相手国であり、投資先でもある。新大統領の政策の影響が貿易や金融市場といったさまざまなルートを通じてどう生じてくるのかしっかり注視するとともに日米経済関係のさらなる深化を図り、新政権ともさまざまなレベルで緊密な意思疎通を図っていきたい」と述べました。
財務省 三村財務官「経済や市場の不確実性高まる前提で対応を」
アメリカのトランプ新大統領の経済政策について、財務省の三村財務官は、具体的な内容を見極める必要があるとした上で、世界経済や金融市場などの不確実性が高まることを前提とした対応が求められるという考えを示しました。
財務省の国際部門のトップ三村財務官は、21日都内で行われたイベントに出席し、このなかでトランプ新大統領の経済政策が国内外に与える影響について、「関税政策でアメリカ国内でインフレが進めば需要面でマイナスの影響がある一方、規制緩和や減税は短期的には経済を刺激する」と述べました。
特に関税政策については「制度の詳細と目的をちゃんと見ないといけない。どんな目的でかけると言っているのかによって有効な対応は変わってくる。関税をかけるか、かけないかという単純な議論ではない」と述べ、具体的な内容を見極める必要があると指摘しました。
その上で「新政権からいろいろな発信や政策が出てくるのだとすると、時々の金利水準や金融政策、当然、為替水準にも影響があるかもしれない。一定の不確実性はあると言わざるを得なくて、それを前提にして先を見て何が起きるか考えるしかない。必ずこうなると申し上げると逆に間違えると思う」と述べ、世界経済や金融市場の不確実性が高まることを前提とした対応が求められるという考えを示しました。
トランプ大統領 カナダ メキシコ 中国に関税 報復措置や反発も
2025年2月2日 NHK
アメリカのトランプ大統領は1日、カナダとメキシコからの輸入品に25%の関税を、中国には10%の追加関税を、それぞれ課す大統領令に署名しました。課税の開始はいずれも2月4日からで、アメリカに流入する不法移民や薬物などを食い止めるための措置だとしています。
ホワイトハウスは、トランプ大統領が1日、カナダとメキシコからの輸入品に対して25%の関税を課すとともに、中国には10%の追加関税を課す、大統領令に署名したと発表しました。
いずれも課税の開始は2月4日からで、アメリカへの不法移民を阻止し、フェンタニルなどの薬物が流入することを食い止めるためだとしています。
この措置は、国家安全保障や経済の面などで「異例かつ重大な脅威」がある場合、大統領が緊急事態を宣言すれば、輸入や輸出などに規制をかけることができる「IEEPA=国際緊急経済権限法」にもとづくもので、不法移民や薬物などがもたらす異常事態が緊急事態にあたるとしています。(※IEEPAとは 文末に詳しく)
一方、カナダから輸入される原油などのエネルギーについては関税率を25%ではなく10%にとどめています。
関税措置によってアメリカでインフレが再加速するという懸念もある中、ガソリン価格などの急上昇を避ける狙いがあるものとみられます。
こうした関税措置は、3か国が危機を和らげる十分な対策をとったと大統領が判断した時点で撤廃されるとしていて、トランプ政権の2期目で初めてとなる措置に対し、3か国が報復措置を含めどのような対応をとるのかが焦点となります。
トランプ大統領「安全確保が大統領としての責務」
トランプ大統領は自身のSNSへの投稿で「本日、カナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税を実行に移した。カナダから輸入されるエネルギーについては関税率が10%になる。中国には10%の追加関税を課す。これは『IEEPA=国際緊急経済権限法』にもとづく措置だ」と明らかにしました。
そのうえで「不法移民や、フェンタニルなど国民の命を奪う薬物が大きな脅威となっている。私たちはアメリカ人を守る必要がありすべての人の安全を確保することが大統領としての私の責務だ」としています。
カナダ トルドー首相 米に25%の関税課す報復措置へ
カナダのトルドー首相は記者会見を開き、報復措置としてアメリカからの輸入品に対し25%の関税を課す意向を明らかにしました。
課税の開始は4日からで、まずは300億カナダドル、日本円にしておよそ3兆2000億円分のアメリカ製品を対象に関税をかけるとしています。
そして3週間後には対象をさらに拡大し、最終的には1550億カナダドル、日本円にしておよそ16兆5300億円分にのぼるとしています。
トルドー首相は、トランプ政権の関税措置がアメリカ経済の打撃にもつながると強調したうえで「アメリカに『黄金時代』をもたらしたいのであれば、カナダを罰するのではなく、連携するのがよりよい道だ」と述べました。
また、トランプ大統領が関税措置の理由としたアメリカへの不法移民やフェンタニルなどの薬物の流入については、カナダからの割合はごくわずかだと反論した上で「もう少し時間をとって国境について話そう」と述べ、さらなる対話を呼びかけました。
メキシコ シェインバウム大統領「中傷と干渉の意図 断固拒否」
メキシコのシェインバウム大統領は1日、SNSのXに「メキシコ政府が犯罪組織と手を組んでいるというホワイトハウスの中傷と、わが国に干渉しようという意図を、われわれは断固、拒否する」と投稿しました。
そのうえで「メキシコの利益を守るため、関税と非関税を含む措置を実施するよう経済相に指示する」としてアメリカに対する関税措置を含む対抗策を実施する意向を明らかにしました。
中国「断固として反対」WTOに提訴へ 対抗措置も
中国商務省は報道官の談話を発表し、トランプ政権の関税措置について「強烈な不満を示し、断固として反対する」として、非難しました。
その上で「一方的な追加関税措置はWTOのルールに重大に違反しており、両国間の正常な経済・貿易協力を破壊するものだ」として、今後、WTOに提訴するとともに、相応の報復措置をとると明らかにしました。
さらに「アメリカに対し、問題に正面から向き合って率直な対話を行うとともに協力を強化し、意見の相違を管理するよう求める」として、対話を通した課題の解決を求めています。
また、中国外務省も報道官の談話を発表し「貿易戦争や関税戦争に勝者は存在しない」として、両国だけでなく、世界全体にとっても利益にならないと強調しました。
そして、トランプ政権が追加関税の理由としたアメリカへのフェンタニルなど薬物の流入について「中国は人道的精神に基づき、この問題への対応を支援してきた。アメリカは客観的かつ理性的に受け止め対処すべきで、関税措置を圧力をかける手段として用いるべきではない」としています。
《詳しく》関税措置には3つの狙い
トランプ大統領が掲げる関税措置には、
1、貿易赤字の解消
2、国の歳入を増やすこと
3、あらゆる問題の解決に向けた“交渉のカード”にする
という3つの狙いがあると言われています。
【1、貿易赤字の解消】
貿易赤字の解消は、トランプ大統領が1期目から強く訴えてきたテーマです。トランプ氏は、外国がアメリカとの貿易で多額の利益を得ている一方、アメリカは“損をしている”という考えが根強く、“貿易の不均衡を是正”し、貿易赤字を解消する手段として関税を位置づけています。
【2、アメリカの歳入を増やす】
関税を徴収することはアメリカの歳入を増やすことになります。アメリカの議会予算局は去年12月、トランプ氏が掲げる関税の引き上げがアメリカの財政や経済に与える影響についての試算を公表。仮にすべての国からの輸入品に一律で10%の関税を課す場合には歳入が増加し、財政赤字が2兆1000億ドル減少するとしています。
歳入の増加は、企業などへの「減税」とも密接に関わります。トランプ大統領はアメリカで製品を生産する企業の法人税率を21%から15%に引き下げる考えを示していますが、これに伴う税収のマイナスを関税による歳入の増加が補う形となります。
【3、“交渉のカード”に】
そして、トランプ大統領は関税をあらゆる問題の解決に向けた“交渉のカード”にする姿勢を鮮明にしています。
トランプ政権はメキシコやカナダにはアメリカに流入する薬物や犯罪を食い止める措置を、中国にはアメリカで社会問題になっている薬物「フェンタニル」の原料が中国で製造されないような対策を求めていて、各国が対応するまで措置を続けるとしています。
また、不法移民の強制送還をめぐっては南米のコロンビア政府が軍用機の着陸を拒否したことを受けて、コロンビアからの輸入品すべてに25%の関税を課すと表明しました。
その後、アメリカ政府はコロンビア側が軍用機での送還も含めて無条件で受け入れることに合意したとして、関税措置などの導入を当面、見送ると発表。関税が“交渉のカード”として早速使われた形になりました。
トランプ政権ではこうした3つの狙いのもとで今後も関税が広く使われるという見方が強く、トランプ氏の発言や投稿に世界が神経質になり、振り回される状況が続くことになりそうです。
識者「カナダ経済は計り知れない打撃を受けるだろう」
アメリカがカナダからの輸入品に25%の関税をかけた場合の影響について、カナダのマギル大学の講師で政府の貿易政策などにも携わったジュリアン・カラゲシアン氏は「カナダのGDP=国内総生産の30%は輸出が占めていて、その大半がアメリカ向けということを考えれば、カナダ経済は計り知れない打撃を受けるだろう」と指摘しています。
このうち、自動車産業が集積するオンタリオ州については「アメリカの大手自動車メーカーはカナダで製造していた部品をアメリカ国内で調達できるようになるかもしれず、そうなった場合、カナダ側では工場の閉鎖や雇用の悪化、税収の減少といった悪循環に陥る可能性がある」と指摘しました。
また、1期目のトランプ政権との間で生じた貿易摩擦との違いについては、「当時、関税が引き上げられたのはアルミニウムや鉄鋼製品などいくつかの品目だったので対処できたが、今のカナダはトルドー首相が退陣する準備をするなど政治が弱体化し、経済もはるかに弱くなっている」と述べ、対応がより難しくなっているという見方を示しました。
一方、関税の引き上げを通じたアメリカ経済への影響については、「カナダ産の木材や住宅用建材などに関税がかけられたり、原油やガスの輸出に税がかけられたりすればインフレにつながる可能性がある」と述べ、品目によっては打撃になり得るという考えを示しました。
試算 関税措置が日本経済に与える影響は?
アメリカのトランプ政権による関税措置が日本経済に与える影響については、さまざまな試算が出ています。
JETRO=日本貿易振興機構のアジア経済研究所が、まとめた試算では、カナダとメキシコからの輸入品に対する25%の関税と、中国への10%の追加関税が実行に移された場合、2027年には、日本のGDPが0.2%押し上げられるとしています。
これは、カナダやメキシコ、中国からのアメリカへの輸出が落ち込むなか、これらの国々に代わって日本からアメリカへの自動車関連の輸出などが伸びるためだとしています。
一方、民間のシンクタンク「大和総研」の試算によりますと、同じく、カナダとメキシコへの25%の関税と中国への10%の追加関税が実行に移された場合、日本の実質GDPが、2年から3年以内に最大で1.4%程度押し下げられるとしています。
この試算は、メキシコとカナダ、それに中国がアメリカに対して報復関税を課すことを前提としており、4か国で輸入価格が上昇し、世界経済が減速するとみています。
このように、トランプ大統領の関税政策が日本経済に与える影響をめぐっては、見方が分かれる形となっています。
日本政府JETROに企業からの相談受付窓口設置
カナダやメキシコには、日本の自動車メーカーがアメリカ市場向けの生産拠点を置いているほか、中国にも多くの日本企業が進出しています。
日本政府は、JETRO=日本貿易振興機構に企業からの相談を受け付ける専用窓口を新たに立ち上げました。
情報収集や各企業に対するサポートなどの対応にあたることにしています。
武藤経済産業大臣は、31日の記者会見で、トランプ大統領の関税政策に関連して「メキシコ、カナダ、中国は日系企業がサプライチェーンを構築している地域でもあるので今後、明らかになる関税措置の具体的な内容および影響を十分に精査したい」と述べ、具体的な内容やその影響を見極め、対応策を検討する考えを示していました。
「IEEPA」とは
トランプ大統領が2期目初めてとなる関税措置の法的な根拠としたのが「IEEPA(アイ・イーパー)=国際緊急経済権限法」です。
この法律では、国家安全保障や経済の面などで「異例かつ重大な脅威」がある場合、大統領が緊急事態を宣言すれば、輸入や輸出などに規制をかけることができると定められています。
トランプ氏は1期目の政権で、メキシコ政府の対応が不十分で不法移民が後を絶たないとして緊急事態を宣言し、メキシコからの輸入品に5%の関税を上乗せする方針を表明しましたが、その後の両国の協議で合意に達したことから関税措置の導入は見送られました。
過去にはニクソン元大統領がIEEPAの前身となる法律を使って1971年に緊急事態を宣言し、外国からのすべての輸入品に10%の関税を課したことがありますが、アメリカの議会調査局によりますと大統領がこの権限で関税を課したケースはこれ以外にはないということです。
この法律の特徴は措置の実施にあたって事前の調査が必要ない点です。
このため、2期目のトランプ政権では公約に掲げてきた関税措置を迅速に実行に移すために活用されるのではないかと指摘されていました。
トランプ政権 鉄鋼製品・アルミに25%関税発動 日本も対象に
2025年3月12日 NHK
アメリカのトランプ政権は輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置について、日本時間の12日午後1時すぎに発動しました。日本から輸出される製品にも関税が課されることになります。世界で、貿易摩擦が一段と激しくなるおそれもあります。
⇒アメリカ国内に生産拠点が移るのでアメリカ国内での雇用が増えると考えられている。
武藤経産相 除外申し入れも前向き回答得られず
アメリカのトランプ大統領は2月、国内に輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す文書にそれぞれ署名しました。
理由について、国内で製造業を復活させることや雇用を守るために不可欠な措置だとしています。
この文書に基づき、トランプ政権はアメリカ東部時間12日午前0時すぎ、日本時間の12日午後1時すぎに関税措置を発動しました。
すべての国が対象になるとしていて、日本から輸出される製品にも25%の関税がかけられることになります。
鉄鋼製品やアルミニウムへの関税措置はトランプ政権の1期目に導入されましたが、関税を免除する例外措置も多くの国に対して設けられていました。
日本も鉄鋼製品についてはこれまで一定の量まで関税がかからない例外措置がとられてきました。
武藤経済産業大臣は10日、ラトニック商務長官らと会談し、今回の措置でも日本を除外するよう申し入れましたが、前向きな回答は得られませんでした。
EU 対抗措置とる考え
アメリカでは航空やエネルギーなど幅広い分野の企業が輸入された鉄鋼製品やアルミニウムを利用しています。
関税措置は自動車や建設、石油ガスなどの業界で製造コストが上昇し、インフレ圧力が再び高まる懸念も出ています。
EU=ヨーロッパ連合は対抗措置をとる考えを示しており、各国が報復関税に乗りだせば、貿易摩擦が一段と激しくなるおそれもあります。
ガザ停戦開始から1週間 人道支援が加速も停戦の維持が焦点
2025年1月27日 NHK
ガザ地区でイスラエルとイスラム組織ハマスの間の6週間の停戦が始まってから26日で1週間となりました。これまでにハマス側が7人の人質を解放したほか、ガザ地区への食料の搬入も増え人道支援が加速していて、今後も人質の解放が進み停戦が維持されるかが焦点となっています。
おととし10月からガザ地区で戦闘を続けてきたイスラエルとハマスの間の6週間の停戦が今月19日に始まってから26日で1週間がたち、これまでに目立った戦闘の情報は伝えられていません。
初日の19日にハマスが女性3人を解放し、25日には女性兵士4人を解放したことで、これまでに解放されたイスラエル人の人質は7人となりました。
これに応じる形でイスラエル当局も刑務所などに収容しているパレスチナ人あわせて290人を釈放しました。
また、ガザ地区への人道支援物資の搬入も大幅に増え、食料を積んだトラックが1日あたり数百台入っていて、国連機関などが人道支援を加速させています。
ハマス側は停戦の第1段階の今後5週間で26人の人質を数人ずつ解放することになっていて、今後も人質の解放が進み、恒久的な停戦を目指す第2段階に向けて停戦が維持されるかが焦点となっています。
一方、イスラエルではガザ地区などでの支援を行うUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の活動を禁止する法律が今月30日に施行される予定で、イスラエル政府はUNRWAにエルサレムでの活動を中止し、施設から立ち退くよう通告しています。
UNRWAの活動が制限されればガザ地区での人道支援にも影響することが懸念されていて、UNRWAは26日「イスラエルは国連加盟国としての国際法上の義務に違反している」などとする声明を出して非難しています。
イスラエル軍 ガザ地区北部への移動制限解除 住民が帰還始める
2025年1月28日 NHK
イスラエルとイスラム組織ハマスとの間のガザ地区での停戦合意が続く中、27日、イスラエル軍がガザ地区北部への移動制限を解除し、多くの住民が北部への帰還を始めました。
1月19日から始まったイスラエルとハマスとの間の6週間の停戦合意を受け、これまでにハマスがイスラエル人の女性7人を解放したのに対し、イスラエルは刑務所などに収容していたパレスチナ人あわせて290人を釈放しています。
イスラエルは、27日にハマスが民間人の女性1人を含む新たに人質3人を1月31日までに解放すると発表したことを受け、これまで設けてきたガザ地区北部への移動制限を解除しました。
これに伴い、北部から避難を余儀なくされてきた住民の帰還が始まり、27日にガザ地区の中部で上空から撮影された映像では、海沿いを多くの人が北部に向かって歩く姿が確認できます。
トランプ氏発言 波紋広がる
一方、アメリカのトランプ大統領は25日、パレスチナと境界を接するヨルダンとエジプトに対し、ガザ地区の住民の受け入れを求めるような発言をしました。
これに対しヨルダンのサファディ外相は26日、「ヨルダンはヨルダン人のためのものであり、パレスチナはパレスチナ人のためのものだ」と述べたほか、エジプト政府も26日に「パレスチナ人の奪われた権利が取り戻されないことなどがこの地域の不安定化の要因の根底にある」などとする声明を発表し、拒否する姿勢を示しています。
パレスチナ暫定自治政府も「一線を明白に越えている」と強いことばで反発するなど、トランプ大統領の発言に波紋が広がっています。
イスラエルとハマス停戦合意 3回目の人質解放へ 順調に進むか
2025年1月30日 NHK
ガザ地区ではイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意にともなう3回目の人質の解放が30日にも行われる予定で、解放が順調に進むかが注視されています。
今月19日に始まったイスラエルとハマスとの間の6週間の停戦期間にはハマス側が人質33人を数人ずつ解放することになっていて、これまでに女性7人が解放されました。
これに応じる形でイスラエル側も刑務所などに収容していたパレスチナ人290人をこれまでに釈放しました。
イスラエル政府は民間人の女性を含む人質3人が30日にも解放される予定だとしていて、解放が順調に進むかが注視されています。
ガザ地区では停戦にともなって人道支援物資の搬入も増加し、停戦前には深刻な食料不足が続いていた北部ガザ市で29日、NHKが撮影した映像では南部などから帰還した多くの住民が、野菜や缶詰、そして肉などを買い求める姿が見られました。
ガザ市に住む男性は「以前は寝ている間も死の危険がありましたが、いまは夜に出かけたり、友人と楽しく過ごしたりできるようになりました」と話していました。
ただ、30日にはガザ地区での支援を続ける主要な国連機関、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関の活動を禁止するイスラエルの法律が施行される予定です。
法律が施行されれば、ガザ地区での支援が滞ることも予想され、国際社会からは懸念の声があがっています。
“ガザ地区 停戦合意継続めぐる協議進展” イスラエルメディア
2025年3月13日 NHK
パレスチナのガザ地区でのイスラエルとイスラム組織ハマスの停戦合意の継続をめぐる協議について、イスラエルメディアは進展がみられたとの当局者の話を伝えていて、具体的な道筋をつけられるかどうかが焦点となっています。
イスラエルとハマスの停戦合意は、第1段階に続き、イスラエル軍のガザ地区からの完全撤退や恒久的な停戦を目指す第2段階への移行をめぐって双方の隔たりが埋まらず、継続が危ぶまれています。
仲介国カタールには、イスラエルの交渉団のほか、アメリカのトランプ政権のウィトコフ中東担当特使が派遣され、イスラエルのメディアは進展がみられたと伝えています。
そのうえで、当局者の話として、一部の人質の解放と引き換えに停戦をさらに数週間続ける暫定的な枠組みについてイスラエル側が楽観的な見方を示しているなどと報じていて、合意の継続に向けて具体的な道筋をつけられるかどうかが焦点となっています。
一方、アメリカのトランプ大統領は12日、「ガザ地区からパレスチナ人を追放している人は1人もいない」と述べました。
トランプ大統領は、ガザ地区をアメリカが所有し、住民を移住させるとの主張を続けてきましたが、この発言を受けてエジプト政府は「ガザ地区の住民に退去を求めないというトランプ大統領の発言を評価する」との声明を発表し、トランプ大統領が主張を修正したとの受け止めが広がっています。
イスラエル軍 ガザ地区に大規模な空爆 404人死亡
2025年3月18日 NHK
イスラエル軍は18日、ガザ地区で大規模な空爆を行い、地元の保健当局はこれまでに404人が死亡したと発表しました。イスラエル側がイスラム組織ハマスに対し、新たに軍事的な圧力をかけて人質の解放を迫る一方、ハマスは「停戦合意を破るものだ」と強く反発していて、ガザ地区の停戦は崩壊しかねない事態となっています。
ことし1月から停戦が続くパレスチナのガザ地区で、イスラエル軍は18日未明、ハマスの拠点に大規模な空爆を行っていると発表し、ネタニヤフ首相は声明で「より強い軍事力でハマスに対して行動する」と強調しました。
この空爆で、ガザ地区の保健当局によりますとこれまでに404人が死亡したほか、多くの人ががれきの下に取り残されていると発表しました。
地元の当局は、犠牲者の多くは女性や子どもなどだとしています。中東のメディアはハマス幹部の話として、空爆で人質1人が死亡したと伝えています。
停戦の継続をめぐる協議が難航する中、イスラエル軍はこれまでも無人機などによる散発的な攻撃を行い、死傷者が出ていましたが、今回の空爆は1月に停戦が発効したあと最大規模です。
イスラエル側はこれまでハマスに対し停戦を一定期間延長し、人質の解放を進めるというアメリカの提案を受け入れるよう要求し、今月2日からはガザ地区への人道支援物資の搬入停止を続けてきましたが、新たに軍事的な圧力をかけてハマスに譲歩を迫る構えです。
さらに、イスラエル軍はガザ地区の住民に向けて広い範囲が戦闘地域になっているとして退避するよう通告していて、攻撃をさらに拡大する姿勢も示しています。
ハマスは声明で「ネタニヤフ首相は停戦合意を破棄することを決定し、人質を危険にさらしている」などと強く反発しました。そのうえで「ハマスは最後の瞬間まで合意を守り維持することに努めてきたが、ネタニヤフ首相は戦闘を再燃させることを選んだ」とし、1月から続いてきたガザ地区の停戦は、崩壊しかねない事態となっています。
イスラエル軍は大規模な空爆で、ガザ地区各地のイスラム組織ハマスの拠点を標的にしたとしています。
NHKガザ事務所のサラーム・アブタホンカメラマンが現地時間の18日午前2時半ごろ、南部ハンユニスのナセル病院で撮影した映像では、子どもを含む負傷者が次々と搬送されています。
イスラエル国連大使「敵に慈悲をかけない」
イスラエルのダノン国連大使は17日、ビデオ声明を発表し「イスラエル空軍はガザ地区でハマスへの攻撃を開始した。われわれは敵に慈悲をかけない。イスラエルは人質を全員取り戻すまで攻撃をやめない」と述べました。
米報道官「イスラエルから相談受けていた」
アメリカ・ホワイトハウスのレビット報道官は17日、FOXニュースの番組に出演し、イスラエル軍によるガザ地区のイスラム組織ハマスの拠点への空爆について「トランプ政権とホワイトハウスは、ガザ地区での攻撃についてイスラエルから相談を受けていた」と明らかにしました。
国連事務総長「停戦順守など強く求める」
イスラエル軍による空爆について、国連のグテーレス事務総長は18日、報道官を通じてコメントを出し「多くの民間人が殺害されたことに衝撃を受けている。停戦を順守すること、人道支援を妨害せずに再開すること、そして残る人質を無条件で解放することを強く求める」としました。
国連“イスラエル軍ガザ地区65%立ち入り禁止に”人道状況悪化
2022年4月4日 NHK
パレスチナのガザ地区について、国連はイスラエル軍が地区の65%を立ち入り禁止にしていると明らかにしました。支援活動が妨げられ、人道状況の悪化が続いています。
イスラエルとイスラム組織ハマスとの間の停戦延長に向けた協議が続く中、イスラエル軍は先月18日にガザ地区での軍事作戦を再開し、3日にはガザ市の一部の住民に対し、新たに退避通告を出すなど各地で攻撃を続けています。
パレスチナのメディアは3日、ガザ市にある学校に攻撃があり、子どもや女性を含む30人以上が死亡したほか、100人が負傷したと伝えました。
イスラエル軍の報道官は3日、「攻撃の再開以降、600か所を超える目標を攻撃し、250人以上のテロリストを排除した」などと述べ、ハマスへの圧力を強めています。
また、報道官は「作戦を次の段階に進めた」と述べて、地区の最も南にあるラファをそれ以外の地域と分断するための軍事作戦を拡大したと明らかにしました。
一方、ガザ地区で支援活動を行う国連のOCHA=人道問題調整事務所は、4日、地区の65%が立ち入り禁止か退避通告が出された状態にあると明らかにしました。
支援活動が妨げられる事態で人道状況の悪化が続いています。
米旅客機 ヘリ墜落事故 “管制塔で「通常ではない」態勢“
2025年1月31日 NHK
アメリカの首都ワシントン近郊で、乗客と乗員あわせて64人を乗せた旅客機と軍のヘリコプターが衝突して墜落した事故について、ニューヨーク・タイムズは、30日、事故当時、空港の管制塔では本来2人でやるべき業務を1人が担当する「通常ではない」態勢がとられていたと報じました。
また、事故の原因をめぐりトランプ大統領は、バイデン前政権が航空当局での人材の多様化を進める一方、能力が軽視されていたと批判しました。これに対して前政権の運輸長官は「安全を第一にしてきた」と反論しています。
首都ワシントン近郊にあるレーガン・ナショナル空港の近くで、29日夜、乗客60人と乗員4人を乗せて着陸態勢に入っていたアメリカン航空の旅客機と、訓練中の陸軍のヘリコプターが空中で衝突し、ポトマック川に墜落しました。
この事故で、トランプ大統領は「生存者はいない」と発表しています。
事故について、ニューヨーク・タイムズは30日、FAA=連邦航空局の内部報告書を入手したとして、当時、空港の管制塔ではヘリコプターを担当する管制官がほかの航空機への離着陸の指示も担当していたと伝えました。
内部報告書は本来2人で分担すべき業務を1人で担当していたのは、「時間帯や離着陸の量からみて通常ではなかった」と指摘しているとした上で、アメリカ国内の空港の管制塔の人員不足は長年にわたり続いていると報じています。
一方、トランプ政権の次の陸軍長官に指名されたドリスコル氏は30日、議会上院の公聴会で、訓練飛行に伴うリスクについて「空港の近くは適切ではないかもしれない」と答え、就任すれば見直しを検討する考えを示しました。
フライトレコーダーなど回収 分析へ
NTSB=国家運輸安全委員会は30日、墜落したアメリカン航空の旅客機に搭載されていたフライトレコーダーと、コックピットでの会話を記録したボイスレコーダーを回収したと明らかにしました。
フライトレコーダーなどはNTSBの研究室で分析にかけられるということです。
トランプ大統領 原因めぐり“多様性政策を批判”
事故の原因をめぐり、トランプ大統領は30日、記者会見で「何が事故を引き起こしたのかはわからない」としながらも「航空システムで働く人々には、最高水準の基準を設けなければならない」と述べバイデン前政権が、航空当局で働く人材の多様化を進める一方、能力が軽視されていたと批判しました。
このあと、トランプ大統領は運輸省とFAA=アメリカ連邦航空局に対し、過去4年間に行われた職員の採用を検証し、必要な対応をとるよう命じる文書に署名しました。
トランプ大統領は、就任以降、多様性を重視した採用を政府機関に求めるバイデン前政権の政策を撤回するなどしていて、今回の事故をめぐっても同様の主張を展開した形です。
一方、バイデン前政権で運輸長官を務めたブティジェッジ氏はSNSに投稿し、「卑劣だ。われわれは安全を第一に考え、危機を回避し、航空管制を拡大し、民間航空機の墜落による死者数をゼロに抑えてきた」と反論しました。
事故前日にも旅客機とヘリコプター接近か
アメリカの有力紙ワシントン・ポストは、30日、首都ワシントン近郊のレーガン・ナショナル空港の近くで29日夜に起きた事故のおよそ24時間前にも、同じ空港に着陸しようとした別の旅客機の針路の近くにヘリコプターが現れたため、旅客機が急旋回を強いられ、着陸のやり直しを行っていたことが航空管制の音声記録などから明らかになったと報じました。
この旅客機を運航するアメリカのリパブリック航空の広報担当者はワシントン・ポストの取材に対して「現時点ではコメントできない」と述べたと伝えられています。
石破首相 トランプ大統領にお見舞いのメッセージ
石破総理大臣はアメリカのトランプ大統領に宛ててお見舞いのメッセージを出しました。
この中では「痛ましい航空機事故の報に接し大変心を痛めている。悲劇的な事故で犠牲となった方々に心から哀悼の意を表するとともに、被害に遭われたすべての方々と犠牲者のご家族にお見舞い申し上げる。この困難な時に日本はアメリカおよびアメリカ国民と共にある」としています。
【参考】旅客機墜落、トランプ氏がDEI政策の影響と持論「航空局は知的障害や精神疾患の職員を積極採用」
【ワシントン=淵上隆悠】米国のトランプ大統領は30日、ワシントン近郊で起きた旅客機と米軍ヘリの衝突事故に関して、少数派に配慮する「DEI(多様性、公平性、包括性)」政策が影響したとの持論を展開した。バイデン前政権が推進した政策が管制官の質を落としたと決めつけ、悲劇を「政争の具」にした形だ。
トランプ氏は事故を受けて行った記者会見で、安全性が重要となる航空業界で働く従業員は、最高水準の人材であるべきだと指摘。管制官について「最高レベルの適性と知性を持ち、精神的に優れた人材でなければならない」と強調した。
その上で、「連邦航空局(FAA)は重度の知的障害や精神疾患を抱える職員を積極的に採用している」と主張し、DEI政策を進めた前政権を批判した。同政策が事故を引き起こしたかのような言いぶりには、記者から「どうしてそう言い切れるのか」との質問も飛んだが、トランプ氏は「私には常識があるからだ」と突っぱねた。
こうしたトランプ氏の姿勢に対し、バイデン前政権で運輸長官を務め、同性愛者を公言するピート・ブティジェッジ氏は「我々は安全を第一に考え、民間機墜落の死者をゼロに抑えてきた」とSNSで反論した。
トランプ政権は、黒人などの人種的少数派に配慮した職員採用や人事評価に不満を持つ白人保守層を意識し、各省庁のDEI関連部署を次々と廃止している。今回の事故が起きる前の21日にも、トランプ氏は「差別のない能力主義採用」を運輸長官らに求める「大統領覚書」に署名していた。
ホンダ・日産の経営統合、破談の公算 日産子会社化案で協議継続困難
2025年2月5日 毎日新聞
ホンダと日産自動車の経営統合に向けた協議をめぐり、ホンダが日産の株式を取得し、子会社化する案を打診していることが明らかになった。業績不振の日産の事業再生計画の策定が遅れているため、ホンダが経営を主導し、立て直しを急ぎたい考え。ただ、日産側の反発は強く、統合協議自体が破談になる公算が大きい。
ホンダと日産は昨年12月、2026年8月をめどにした経営統合を目指して協議を始めることで合意。両社は新たに持ち株会社を設置し、傘下にそれぞれの会社が入る形での経営統合を目指すと発表していた。
しかし、統合の前提となる、日産の1月末が予定だった事業再生計画のとりまとめは遅れている。
そのためホンダは、持ち株会社設立に代わる案として、日産に対し子会社化する案を打診した。ホンダ主導で日産のリストラなどの経営改革を進め、統合を加速させる狙いがあった。
ただ日産は、今回の統合について「対等の関係」を強調してきた経緯がある。社内からは強い反発が起きており、協議をこのまま継続することは困難な状況で、破談になる公算が大きい。
両社は当初、1月末をめどに統合協議をさらに進めるなど、協議の方向性を判断する方針だったが、2月中旬に先延ばしにすると発表していた。【秋丸生帆、福富智】
ホンダ・日産 経営統合 歴史的再編の行方は
2024年12月25日 NHKビジネス特集
「大胆に踏み込んだ変革が必要」「変化を恐れては未来はひらけない」歴史的な経営統合へと向かうホンダ・日産自動車の両社長のことばから伝わってきたのは、強い危機感だった。
国内2位と3位の大手を統合に向けた協議へと突き動かしたものは何だったのか。
急速な自動車産業の環境変化から読み解く。
(経済部記者 西園興起)
世界3位の巨大グループ誕生へ
23日の会見
12月23日、ホンダと日産自動車は経営統合に向けた基本合意書を締結し、本格的な協議に入ることを発表した。
両社は持ち株会社を設立したうえで、それぞれの会社を傘下におさめる形での統合を検討していて、再来年、2026年8月には持ち株会社を上場する計画だ。
それぞれのブランドは残しつつ、統合による相乗効果を目指す。
両社とも日本のみならず世界でも知られた自動車大手だ。
ホンダは1948年に創業者の本田宗一郎氏が浜松市に設立した。
当初は二輪車を手がけていたが、その後、四輪メーカーとしてのスタートを切り、アメリカなどに進出して事業を拡大させてきた。
世界に先駆けて厳しいエンジンの環境規制をクリアしたこともある。
一方の日産は1933年に設立された。
長年、国内2位の大手として存在感を示し、バブル期には高級車が次々と売れる、いわゆる「シーマ現象」を巻き起こした。
バブル崩壊後に経営危機に陥り、フランスのルノーの出資を受けて経営を再建。
今も提携関係にある。
歴史ある大手2社が経営統合に向けた協議に入るというニュースは反響を呼び、両社の会見には、多くの報道陣が詰めかけた。
両社の今の業績や規模を比べてみると、以下のとおりだ。
去年の2社の販売台数を足し合わせると735万台。
トヨタグループの1123万台、ドイツのフォルクスワーゲングループの923万台に次ぐ、世界3位の巨大メーカーが生まれることになる。
さらに日産が筆頭株主の三菱自動車工業も協議への合流を検討する。
自動車産業は新たな競争の時代へ
しかし、今回の記者会見から伝わってきたのは、世界3位の巨大グループ誕生という高揚感というより、むしろ、必要に迫られた決断だという危機感だった。
ホンダ 三部敏宏社長
「自動車産業の地殻変動を将来にわたって見通した時に、これからのモビリティーは従来のハードウエアの差別化ではなくて、知能化や電動化を中心にありようが大きく変わっていく」
日産自動車 内田誠社長
「電動化・知能化を進めるには巨額の投資が必要だ。新たなプレーヤーが次々と登場し、勢力図を次々と塗り替える中、スケールメリットはこれまで以上に大きな武器となる」
自動車メーカーが長年、競ってきたのは、エンジンの性能や車のデザインといったハードウエアの領域だ。
しかし、今後の競争のカギとなるのは、脱炭素に向けたEV=電気自動車の開発などの「電動化」や、事故を未然に防ぐ運転支援や自動運転などの「知能化」だ。
そして、両社のトップは、こうした分野でアメリカのテスラや中国のBYDといった新興メーカーが存在感を高めているとして、力を結集して対抗していく重要性を強調した。
EVシフトから見える勢力図の変化
クルマの電動化の波はすでに押し寄せている。
世界最大の自動車市場、中国では、すでにEVなどの新エネルギー車の割合が4割に達し、エンジン車が中心の日本メーカーは苦戦を余儀なくされている。
その事実を裏付けるように世界販売のランキングもEVに限れば、これまでとは大きく異なる勢力図が見えてくる。
1位はアメリカのテスラ、2位はBYDで、上位には中国メーカーも多い。
日本メーカーは早くからEVを投入してきた日産ですら16位にとどまる。
エンジン車で稼ぎながらEVシフトも
一方、各メーカーを悩ませているのは、EVシフトのスピードの読みにくさだ。
足元ではEVの販売は価格やインフラ面の課題から、欧米を中心に減速傾向が見られている。
フォルクスワーゲンやボルボなどEVに急速にかじを切ってきたメーカーは、新興メーカーとの競争激化も重なり、経営環境が悪化している。
そうした中でも、エンジンも搭載するハイブリッド車の販売は伸びていて、この分野のラインナップの重要性が高まっている。
とはいえ、中長期的にはEVの販売は拡大が続くとみられている。
国際エネルギー機関・IEAの試算では、EVやプラグインハイブリッド車のマーケットが大きく拡大し、2035年には世界の新車販売の5割超を占めるとしている。
足元でのEVの販売減速はあっても、この先、主戦場の1つとなることを考えれば、EVをおろそかにはできない。
そして、EVの性能を左右するバッテリーの技術開発には多額の投資も必要だ。
全固体電池の実証ライン
あるメーカーの首脳は「EVの需要が将来、膨らむのは間違いないし、投資せず、手をこまねいていると置いていかれる。ただ、どれくらいのスピードでEVの時代に向かっていくかはわからないし、つんのめり過ぎると失敗する。この激変期にどう向き合うかは、すべての経営者が悩んでいると思う」と打ち明ける。
車のソフトウエアでも中国やアメリカが存在感
そして、もう1つの競争の軸が車の「知能化」とそのカギを握るソフトウエア開発だ。
「中国のメーカーだらけだった。世界を見ないとだめだ。国内で競い合っている場合じゃない」。
ことし10月に欧州最大の車の展示会、パリモーターショーから帰ってきた三部敏宏社長は語気を強めていた。
ソフトウエアの領域では米中の新興メーカーに加えて、中国のシャオミやファーウェイなどの異業種も存在感を高めている。
SDVとも呼ばれる次世代の車では、購入後もスマートフォンのようにソフトウエアの更新で機能もアップデートでき、安全機能を向上させたり、省エネ機能を高めたりすることができる。
さらに音楽や動画などのエンタメも楽しむことができ、とくに中国で急速に開発が進んでいる。
さらに、SDVのメリットとして車の開発期間の短縮化を指摘する専門家もいる。
シミュレーションの効率化などで、これまで3年以上かかっていた新車の開発期間が約2年になるとするシンクタンクの調査もある。
市場のニーズを先読みした車を素早く販売するためにもソフトウエア開発は欠かせない。
ソフトウエア開発には“巨額の費用負担”も
一方、車のソフトウエアには数千億円規模以上の投資が必要とされている。
大手メーカーでも1社での負担は容易ではない。
巨額の負担にみあう収益を生み出すとともに、サービスの価値を高めるには搭載する台数を増やす必要があり、販売規模の重要性が高まる。
三部社長
「ソフトウエアの開発費は馬鹿にならない。しかもソフトウエアの世界では台数がものを言う。規模はどうしても必要で、日産と一緒にやっていく意味はある」
ホンダの三部社長はかねてからこう話していた。
「統合効果」生み出せるか、日産の経営立て直しも課題
では、両社は経営統合によって、どう競争力を高めようとしているのか。
統合に向けた協議では
▽車両のプラットフォームの共通化によるコスト削減や
▽研究開発機能の統合とソフトウエアやEVなどの開発力強化
▽生産体制の最適化
▽部品の共同調達による効率化など、幅広い分野でシナジー創出に向けた検討が進められる。
両社は経営統合によって、本業のもうけとなる営業利益を1兆円以上押し上げる効果を見込むが、それぞれの利害を超えて変革を実行していけるかが課題だ。
そして、日産の業績悪化も懸念材料だ。
直近の日産の中間決算は、主力のアメリカ市場での販売不振などから営業利益、最終的な利益ともに90%を超える大幅な減益となった。
実際、統合に向けて両社が協議を始めるという報道が出た直後、日産の株価は上昇した一方、ホンダの株価は下落した。
ホンダの関係者からも「日産の経営状況が当社の経営の足を引っ張らないか心配だ」という声も聞かれ、会見ではホンダの三部社長に「救済目的の統合ではないか」という質問も出た。
三部社長は「救済目的ではない」と明確に否定したものの、会見では「日産とホンダが自立した社として成り立たなければこの経営統合の検討は成就することはない」、「前提条件としては、日産のターンアラウンド(経営の立て直し)の実行が絶対的条件になる」といった発言も聞かれた。
内田社長周辺からは「外部から来てしがらみのないゴーンとは違う」「内田社長は優しすぎる」という声も聞かれ、果断な対応ができるかも焦点だ。
そもそも、全く歴史や文化、エンジニア思想の違う自動車メーカーの統合は難しい。
1998年に当時のドイツのダイムラー・ベンツがアメリカのクライスラーを買収し、「世紀の合併」とも言われたが、のちに解消。
2009年に発表されたスズキとフォルクスワーゲンの資本提携ものちに解消された。
自動車メーカーどうしの大型再編は失敗を繰り返している。
ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹さん
30年以上自動車業界を分析しているナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹さんもその難しさを指摘する。
中西さん
「昔の日産の人から見ると、ホンダは非常に小さい会社で日産のプライドは大きく邪魔をすると思う。また、両社のカルチャーは違っていて、ホンダは1回の成功のために99回失敗を繰り返すような、とりあえずやってみようという会社。一方で、日産は理詰め、ロジカルで、どちらかというとスローな会社。それをどううまく統合していくかは非常に難しい」
新たな競争の時代の幕開け
一方、新たな競争分野で新興メーカーが脅威となる中で、両社が主導権争いをしている余裕はない。
日産のある幹部は「これまでのエンジンの世界であれば、両社のプライドもあるかもしれない。でも、新しい領域では自分たちが今まで積み上げてきたことは関係ない。だからこそ、こうした統合が実現できるようになった」と語っていた。
また、会見で日産の内田社長はこう述べた。
内田社長
「本日の発表について、両社のファンからさまざまなご感想、ご意見が出てくるだろうし、従業員の中にはさまざまな思いが出てくると思う。しかし、5年後10年後に今回の決断は正しかったと皆様に思っていただくことが、私の一番の願いです」
これまで自動車産業をけん引していた大手メーカーと、急成長を遂げた新興メーカーが生き残りをかけた競争に突入する。
今回の統合協議入りは、そうした厳しい時代の幕開けを象徴するものと言えそうだ。
今回の両社の決断が正しいかどうか、現時点では取材している私にも判断できない。
しかし、自動車産業の環境が激変しているのは厳然たる事実だ。
不確実性が増す時代に、両社のトップはみずからが下した決断を成功へと導けるのか。
時代の大きな節目に居合わせた記者として、しっかりと見つめ、伝えていきたい。
(12月23日の「ニュース7」などで放送)
高額療養費制度 上限見直し 患者の負担に配慮した修正案検討
2025年2月12日 NHK
医療費が高額になった患者の自己負担を抑える「高額療養費制度」の上限額の引き上げ方針をめぐり、福岡厚生労働大臣はがんの患者らで作る団体などの代表者と面会し、長期間、治療を続ける患者の経済的負担に配慮した修正案を検討していることを伝えました。
厚生労働省は、「高額療養費制度」のひと月あたりの負担上限額を、ことし8月から段階的に引き上げる方針で、福岡厚生労働大臣は12日、見直しを求めている、がん患者らでつくる団体などの代表者と面会しました。
冒頭、福岡大臣は「特に影響の大きい、長期にわたって療養をしている方の負担感を含め、現場の声をしっかり聞かせてもらい、今後の見直しのあり方について考えるきっかけにしたい」と述べました。
そして、団体側は「治療の継続を断念しなければならなくなる」などとして、引き上げに反対する13万5000人あまりの署名を手渡しました。
これに対し、福岡大臣は、長期間、治療を続ける患者の経済的負担に配慮した修正案を検討していることを伝え、理解を求めたということです。
関係者によりますと、修正案は、直近12か月の間で3回以上、制度の対象となった場合に、4回目から上限額を抑える「多数回該当」という仕組みで引き上げ幅を緩和する方向で検討しているということです。
面会のあと、「全国がん患者団体連合会」の天野慎介理事長は、は、「長期にわたって治療を継続している患者の負担上限額の引き上げは、行わないよう強く要望した。引き上げ幅が非常に大きく、医療費削減につながる他の代替手段も考えるべきで、いったん凍結を検討してもらいたい」と述べました。
【がんの治療中の女性“患者間の支援の格差につながりかねず受け入れられない”】
がん患者らの団体との面談で福岡厚生労働大臣が長期間治療を続ける患者の経済的負担に配慮した修正案を検討していることを伝えたことについて、がんの治療中の水戸部裕子さんは「抗がん剤治療は、中断や再開を繰り返すことも多く、長期療養の一部の人だけが対象となる修正については、患者間の支援の格差につながりかねず、受け入れられない」と話していました。
【がんの治療中の女性 “生きることを諦める人が出るのではないか”】
高額療養費の上限額の見直しが進められていることについて、がんの治療中の女性は見直しによって患者の自己負担が増えると心身共に追い詰められて生きることを諦める人が出るのではないかと訴えています。
東京・小平市に住む水戸部裕子さん(50)は7年前、肺がんが見つかりリンパ節にも転移していて、最も進行した状態の「ステージ4」だと診断されました。
現在も抗がん剤の治療を続け、1錠2万円ほどの薬を3割の自己負担で毎日服用しています。
水戸部さんはもともとフルタイムで事務の仕事をしていましたが、抗がん剤の副作用の影響があって退職せざるを得なくなり、週2回のパート勤務に働き方を変えたことから年収が100万円あまり減り、夫の扶養となりました。
現在、医療費の自己負担額は高額療養費制度を利用して最大で月に8万円ほどですが、制度が見直されると月3万円ほど増えて最終的には最大で11万3400円程度になる見込みです。
水戸部さんは高校生と中学生の息子がいて、2人とも受験を控えていて教育にかかる支出が増えている中、薬を飲むたびに家計を圧迫していると申し訳なさを感じているといいます。
水戸部さんは「人は誰しも病気にかかるし、大けがをすることもある。いつどういう状況になっても、安心して治療を受けられることが、精神的な安定につながっている。私も制度のおかげで生きることができて本当に感謝しているが、そんな制度を、当事者の話も十分に聞かず変えてしまうことに納得いかない。生きることを諦めてしまう人が増えてしまうのではないかと心配で、制度改正は、一時凍結、白紙撤回してほしい」と話していました。
石破首相 高額療養費制度 負担上限額 8月の引き上げ見送り表明
2025年3月7日 NHK
医療費が高額になった患者の自己負担を抑える高額療養費制度について、石破総理大臣は、患者が不安なまま見直しを行うのは望ましくないなどとして、ことし8月の負担上限額の引き上げを見送った上で秋までに改めて方針を検討し、決定すると表明しました。
高額療養費制度をめぐり、石破総理大臣は7日夜、総理大臣官邸で、がんや難病の患者団体と面会し、要望を聞いたあと、福岡厚生労働大臣と加藤財務大臣、それに自民党の森山幹事長と公明党の西田幹事長らと相次いで会談しました。
このあと石破総理大臣は記者団に対し「これまでも指摘を真摯に受け止め『多数回該当』の方の負担の据え置きや、令和8年度以降の所得区分の細分化の再検討などを行い、その点については、一定の評価をもらったが、ことしの分の定率改定を含め、今回の見直しについては、なお理解を得るには至っていない」と述べました。
その上で「患者団体に理解をいただけない理由の1つとして検討プロセスに丁寧さを欠いたとの指摘をいただいており、政府として重く受け止めなければならない。患者の皆さまに不安を与えたまま、見直しを実施することは望ましいことではない」と述べました。
そして国会審議の中で立憲民主党や日本維新の会に加え、与党からも意見が出たことに触れ「ことし8月に予定されている見直し全体について実施を見合わせることを決断した」と述べ、高額療養費制度のことし8月の負担上限額の引き上げを見送った上で、秋までに改めて方針を検討し、決定すると表明しました。
さらに「患者の皆さまにとって大切な制度であるからこそ、丁寧なプロセスを積み重ねることで、持続可能なものとして、次の世代に引き継がれるように心から願い、努力をしていきたい」と強調しました。
また「新年度予算案が衆議院を通過したのちにこのようなことを申し上げるのは大変申し訳ないことだと思っているが、引き続き年度内成立に向けて努力していく。
極めて厳しい決断であることを理解いただきたい」と述べました。そして引き上げの見送りを踏まえつつ予算案の年度内成立を図るため必要な手続きをとるよう、与党に指示したことを明らかにしました。
「所要の手続き検討するよう指示」
「先ほど自民党の森山幹事長と小野寺政務調査会長に所要の手続きについて検討するよう指示し、公明党の西田幹事長と岡本政務調査会長にも協力をお願いした」と述べました。
その上で「新年度予算案が衆議院を通過したのちにこのようなことを申し上げるのは大変申し訳ないことだと思っているが、引き続き、予算案の年度内成立に向けて努力していく。極めて厳しい決断であることを理解いただきたい」と述べました。
「立憲、維新、公明、自民からも意見ちょうだいした」
石破総理大臣は、「審議の過程で立憲民主党の野田代表、委員会で質問をいただいた日本維新の会、公明党、衆参の自民党からもそれぞれご意見をちょうだいした」と述べました。
「持続可能なものとして引き継がれるよう努力」
石破総理大臣は、「高額療養費制度が患者の皆さまにとって大切な制度であるからこそ、丁寧なプロセスを積み重ねることで、持続可能なものとして、次の世代に引き継がれるように心から願い、努力をしていきたい」と述べました。
「予算案を再修正か早急に結論」
石破総理大臣は、記者団から新年度予算案を再び修正することになるか問われたのに対し「いま方針を決定し、自民・公明両党の幹事長と政務調査会長に指示し、協力をお願いしたところだ。手法については今後、検討し、早急に結論を得たい」と述べました。
予算修正された場合 衆議院に戻す「回付」手続き
衆議院で可決された予算案や法案が、参議院で修正された場合、衆議院に戻す「回付」と呼ばれる手続きがとられます。
この場合、衆議院で改めて修正に「同意」するかどうか採決が行われます。
衆議院の規則によりますと、回付された予算案や法案は委員会には付託せず、本会議での審議の対象となります。
衆議院事務局によりますと、今回、参議院で修正された予算案が、衆議院に戻されて成立すれば、今の憲法のもとでは初めてになるということです。
一方、予算案が参議院から回付された例は、衆参で多数が異なる「ねじれ国会」のもと、麻生内閣で2009年1月に成立した補正予算があります。
この時参議院では、多数を持つ当時の民主党など野党が提出した修正案が可決され、衆議院に回付されましたが、与党が多数を占める衆議院本会議でこれを不同意としました。
そして、衆参の両院協議会が開かれましたが、意見が一致せず、予算について「衆議院の優越」を認めている憲法の規定に基づき、衆議院で可決された政府の予算案が成立しました。
患者団体「決断には感謝 今後の議論には患者も」
高額療養費制度について、石破総理大臣がことし8月の負担上限額の引き上げを見送る方針を示したことについて、「全国がん患者団体連合会」の天野慎介理事長は7日夜、会見し、「決断には感謝したい。ただ、秋までに改めて制度のあり方を検討するということだが、そのプロセスについては言及がなかった。今回は短時間の審議で引き上げ案が示されたことが一番の問題だったと思っている。再び不十分な検討の中で同様の引き上げ案が出てくることを懸念している。今後の議論には患者も関わらせてもらいたい」と話しています。
また、「日本難病・疾病団体協議会」の辻邦夫常務理事は「石破総理大臣の決断は大変評価したいが、ここまで結論を先延ばしにしてきたことには問題があったと思う。今回は患者だけではなく、学会や地方自治体などからも反対の声が上がったが、今後は拙速に結論を出さないことを期待したい」と話しています。
なぜ方針転換?政治部 佐々木記者の解説
Q1.石破総理はことしの引き上げは予定通り行う考えを強調していた。なぜ方針を転換?
A1.やはり与党内から厳しい声が相次いだことが大きかったと思います。衆議院通過を受けて、参議院での予算審議はおととい始まったばかりですが、与党側からさらなる対応を強く求められました。
夏に選挙を控えているという参議院の事情もあってか、ある与党幹部は「地元や地方をまわっていると、多くの怒りの声が聞かれる」と話していました。
このため、石破総理は周辺に「与党議員の強い声に対応せざるを得ないかもしれない」と打ち明けていたということなんです。
一方、自民党の閣僚経験者からは、「朝令暮改と映りかねない」といった懸念も出ています。石破総理にとっては少数与党で厳しい政権運営が続く中、立憲民主党など野党側の要求に加え、身内からの突き上げで方針転換を余儀なくされたと言えるかも知れません。
Q2.予算案の審議は今後どうなる?
A2.政府・与党にとって、最大の目標が年度内成立ということは変わりません。今回の引き上げの見送りで新年度予算案をどう取り扱うかが懸案となったわけですが、与党幹部への事前の根回しは十分とは言えない状態でした。
このためきょうも一時、政府・与党の調整が滞る場面があったほどです。なんとしても予算案を年度内に成立させたい石破総理にとっては正念場が続くことになります。
石破首相 患者団体と面会
石破総理大臣は7日午後7時前からおよそ20分間、総理大臣官邸でがんや難病の患者団体の代表者らと面会しました。
冒頭、石破総理大臣は高額療養費制度をめぐり「皆さまのアンケートを受け取る機会を設けさせていただいた。直接お話を伺う機会をいただき厚くお礼を申し上げる」と述べました。
これに対し全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「負担に苦しむ患者や家族の声を聞いていただき、いったん全面凍結、立ち止まって命のために再検討をお願いしたい」と求めました。
政府はこれまで、物価や賃金の上昇を踏まえ、8月の負担上限額の引き上げは予定どおり行うとしていましたが、立憲民主党などの野党やがん患者らが凍結を強く求めたことに加え、与党の参議院側を中心にさらなる見直しを求める意見が出ていたことから政府内で対応を協議していました。
石破総理大臣は7日の参議院予算委員会で「きちんと患者団体の人たちの話も聴いて政府として判断する。今日に至るまでの審議の過程や見直しの意義、これから先の展開を視野に入れながら決まるものだ」と述べていました。
石破総理大臣は患者団体との面会を踏まえて引き上げの見送りを最終的に判断し、今後の対応を記者団に説明する見通しです。
全国がん患者団体連合会 天野理事長「真摯に聴いてもらった」
全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は面会のあと記者団に対し「いったん全面凍結し、命のために立ち止まってほしいということを、重ねてお願いした。石破総理大臣からは『皆さんの意見を承った。早急に対応を検討したい』という答えをもらった」と述べました。
その上で「石破総理大臣自身も親族をがんで亡くしたという話があり、少なくとも受け答えの中では真摯に聴いてもらったのは間違いない。今後の具体的なことは『早急に検討する』というのみだったので、見守りたい」と述べました。
日本難病・疾病団体協議会 辻常務理事「対応内容 見極める」
日本難病・疾病団体協議会の辻邦夫常務理事は、面会のあと記者団に対し「アンケートに込められた思いに加え、今回の決定プロセスや引き上げの幅など、具体的に疑問を持っている点を述べさせてもらった。石破総理大臣からは対応内容について具体的にはなかったので、しっかりと見極めて私たちとしても対応を考えたい」と述べました。
轟理事「治療を諦めることがないよう」
全国がん患者団体連合会の轟浩美理事は面会のあと記者団に対し「私たちもやみくもに反対しているのではなく、制度を維持していきたいとの思いは同じだ。ただ、命のために治療を諦めることがないよう、いったん立ち止まってもらいたいと伝え続ける。よりよい方向に向かっていくことを、心から願っている」と述べました。
専門家「患者目線大切にしながら引き続き議論必要」
政府が高額療養費制度の負担上限額の引き上げを見送る方針を固めたことについて、医療経済に詳しい中央大学大学院戦略経営研究科の真野俊樹教授は「命に関わる病気になった人を助け、金銭的に困らないようにするというのが保険制度の本質だ。重症の患者が数多く利用している高額療養費制度を従来通り維持することは評価できる」としています。
一方で真野教授は、公的な医療保険制度を今後も維持していく対策を考えなければならないと指摘した上で「財政が厳しくなる中では、重要な部分は守りつつも医療費の無駄遣いを無くしていく努力も求められる。患者の目線も大切にしながら国が引き続き議論していく必要がある」などと話しています。
石破首相 日米首脳会談の成果強調 “関税 除外を働きかける”
2025年2月12日 NHK
先の日米首脳会談について、石破総理大臣は参議院本会議で、日米同盟を新たな高みに引き上げていくことを確認したなどと成果を強調しました。
一方、鉄鋼製品などへのトランプ政権の関税措置に対しては、内容や影響を十分に精査しつつ、措置の対象からの除外を働きかけるなど、必要な対応を行っていくと説明しました。
国会では、参議院本会議で、石破総理大臣が、先週のアメリカのトランプ大統領との初めての首脳会談について報告し、それに対する各党の質疑が行われました。
この中で、石破総理大臣は「厳しく複雑な安全保障環境に関する情勢認識を共有し、日米同盟を新たな高みに引き上げていくことを確認した。同盟の抑止力・対処力を高め、地域の戦略的課題に緊密に連携して対処していくことで一致した」と成果を強調しました。
その上で「率直な意見交換を通じトランプ大統領との信頼関係構築に向けた一歩とすることができた。今回の成果を踏まえ『自由で開かれたインド太平洋』の実現に向けてアメリカと連携・協力を深めていく」と述べ、さらなる関係強化に向けた決意を示しました。
一方、石破総理大臣は、トランプ大統領が、アメリカに輸入される鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課すと表明したことについて「首脳会談の時点では議論はなかったが、措置の内容やわが国への影響を十分に精査しつつ措置の対象からの除外を働きかけるなど、必要な対応を行っていく」と説明しました。
また、日本製鉄による「USスチール」の買収計画をめぐっては「首脳会談では、どちらかが利益を得るような買収ではなく、日本の技術と資金を活用し、アメリカに大胆な投資を行うことで日米がウインウインになるものにしようという認識を共有した。具体的な計画は民間の関係者で検討や調整が進められる」と述べました。
その上で「技術流出への懸念についても、今後の投資計画の検討・調整で配慮していくことは極めて重要だ」と述べました。
また、共同声明に「法の支配」という文言が盛り込まれなかったことを問われたのに対し「力や威圧によるあらゆる現状変更への試みに強く反対する旨を共同声明でも確認しており、これはまさに『法の支配』の重要な要素だ。『法の支配』を重視する立場に全く変わりはなく、この立場を踏まえ、さまざまな課題についてトランプ大統領と議論を行った」と説明しました。
一方、石破総理大臣は、2027年度までの5年間の総額が43兆円となっている防衛費の取り扱いについて「円安を伴う為替レートの変動や国内外の全般的な物価上昇が生じている状況でも、いっそうの効率化や合理化を徹底し、現行の防衛力整備計画に基づいて防衛力の抜本的強化を達成すべく努める方針に変わりはない」と述べました。
さらに、トランプ大統領がICC=国際刑事裁判所の職員への制裁を可能にする大統領令に署名したことに関連して見解を問われたのに対し、石破総理大臣は「わが国は重大な犯罪行為の撲滅と予防、法の支配の徹底のためICCを一貫して支持してきている。ICCが独立性を維持し安全を確保しながら活動が全うできるよう、今後の動向を重大な関心を持って注視していく」と述べました。
日米首脳会談のあと最初の閣議となった12日、石破総理大臣が入室すると、閣僚が拍手を送り「お疲れさまでした」という声も上がりました。
このあとの閣僚の記者会見では日米両国の経済関係などの発展に向けて、よいスタートが切れたと評価する声が相次ぎました。
赤澤経済再生担当大臣は「100点満点だった。石破総理大臣とトランプ大統領のケミストリーが合ったということであり、個人的な信頼関係を礎に日米の経済関係をよい形で発展させたい。LNG=液化天然ガスの輸入も合理的な価格でエネルギーを確保する選択肢が広がることになる」と述べました。
平デジタル大臣は「トランプ大統領から『非常に強い男』と称されるなど非常によい会談で、信頼関係を構築するスタートがうまく切れた。サイバーセキュリティー分野の連携強化を確認できたことも大変よかった」と述べました。
城内経済安全保障担当大臣は「AIなどの重要技術の開発で世界をけん引するための協力が共同声明に盛り込まれたことは大変喜ばしく、アメリカとより強固な開発協力に取り組んでいく」と述べました。
「AIアクションサミット」閉幕 共同声明に米英署名せず
2025年2月12日 NHK
AI=人工知能をめぐってフランスのパリで開かれた「AIアクションサミット」は、安全で開かれたAIを目指すなどとする共同声明を発表しましたが、アメリカなどが署名せず、規制や開発のあり方をめぐる立場の違いが浮き彫りになった形です。
「AIアクションサミット」には100以上の国から政府や企業の代表などおよそ1500人が出席し、インドのモディ首相のほかアメリカのバンス副大統領、それに中国の張国清副首相らも参加しました。
急速なAIの発展に警戒感も高まる中、11日「安全で開かれた透明性の高いAI」を追求するなどとした共同声明を発表しました。
声明では、開発をリードする国々と途上国などとの間にある格差を縮小する必要性も指摘していて、フランスのマクロン大統領は「技術革新が地球全体に公平に開かれていることを望む」と述べ、AIを幅広く活用できるようにする重要性を強調しました。
ただ、共同声明にはEU=ヨーロッパ連合のほか日本や中国といったあわせて60の国などが署名したものの、アメリカとイギリスは署名しませんでした。
その理由についてイギリス政府は「AIがもたらす安全保障などの難しい問題に、声明では十分に対処していないと感じる」などとしています。
一方、アメリカ政府は詳しい理由を明かしていませんがバンス副大統領は演説で、EUを念頭にAIの過度な規制を批判していて立場の違いが浮き彫りになった形です。
米バンス副大統領 “締めつけではなく促進の枠組みを”
アメリカのバンス副大統領は演説で「AI分野への度を超えた規制は、変革しつつある新たな産業を壊してしまう可能性がある」などと述べ、EU=ヨーロッパ連合がAIについての規制を設けていることを念頭に、過度な規制に反対する立場を鮮明にしました。
バンス副大統領は、アメリカはAIの分野においてリーダーでありトランプ政権のもとで今後も主導権を握り続けると強調した上で「われわれはみなさんと協力したいし、AI革命に乗り出したいと考えている。しかし、そのための信頼を築くのに必要なのは、AIを締めつけるためではなくむしろ促進するための国際的な規制の枠組みだ。EUの友人たちは新たなフロンティアを恐れることなく楽観的に捉えて欲しい」などと述べました。
また、AIにおける米中間の競争が激しくなるなか名指しは避けたものの、権威主義的な政権による補助を受けた安価な技術が市場に出回っているとし、それらと協力することは情報インフラに侵入しようとする権威主義者に自国を縛りつけることになるなどと警告しました。
EU 31兆円資金調達の方針
EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は11日、ヨーロッパでのAIの活用を積極的に進めるため企業などから2000億ユーロ、日本円にしておよそ31兆円の資金を調達する方針を明らかにしました。
この中にはAIのインフラ整備のための基金などEUとして拠出する500億ユーロ、日本円でおよそ7兆8000億円も含まれるとしています。
フォンデアライエン委員長は、AIの分野においてヨーロッパはアメリカや中国におくれを取っていると指摘されることについて否定した上で「AIの競争はまだ終わっていない。始まったところだ」などと述べ、ヨーロッパの競争力を高めていく意欲を示しました。
一方で「AIには競争が必要だが、協調することも大切だ。AIは人々からの信頼が必要で安全でなくてはならない。それがEUが定めたAI法の目的だ」と述べ、一定の規制が必要だという考えを強調しました。
オープンAI CEO“買収提案ばかげている 会社は売り物ではない”
「AIアクションサミット」の11日の関連イベントには、生成AIのChatGPTを開発するオープンAIのサム・アルトマンCEOも参加しました。
アルトマンCEOはイーロン・マスク氏が率いる投資家グループがオープンAIの買収を提案したと報じられていることについて報道陣に問われると「ばかげている。会社は売り物ではない。私たちをもてあそぼうとするマスク氏の戦術だ」と述べ、拒否する考えを示しました。
ウクライナ停戦後に平和維持部隊派遣…欧州首脳が4項目合意、米協力なければ「安全の保証」実現せず
2025年3月3日 読売新聞オンライン
【ロンドン=酒井圭吾】欧州などの16か国は2日、ロンドンで開いた首脳会議で、ロシアに侵略されるウクライナの「公正で永続的な和平」実現に向け、停戦後の有志国連合によるウクライナへの平和維持部隊派遣など、4項目の対露政策推進で合意した。停戦には米国の協力が不可欠だと確認し、英仏やウクライナが欧州独自の停戦案を米国に提示する計画も示された。
2月28日のトランプ米大統領とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の会談決裂を受け、打開策を探る欧州とウクライナの対応が注目されていた。
会議では、欧州首脳らがウクライナとの連帯を強調し、ウクライナの主権と安全保障を尊重した停戦交渉を支持することを確認した。その上で、▽ウクライナへの軍事支援と対露制裁の継続▽停戦交渉へのウクライナの参加▽ロシアの再侵略を防ぐためのウクライナの防衛能力強化▽ウクライナに「安全の保証」を提供するため、有志連合による部隊派遣構想を発展させる――とする4項目を停戦に向けた対露政策に据えることで一致した。
合意した4項目の対露政策
欧州各国は、ロシアに大幅譲歩しかねないトランプ政権の交渉姿勢に不信感を募らせているが、英国のスターマー首相は会議後の記者会見で「我々はトランプ氏と永続的な和平の必要性を共有している」と強調した。有志国連合の派遣についても、「米国(軍)の強力な支援が必要となる。構想はその前提に基づいている」とし、米国の協力がなければ「安全の保証」が実現しないと強調した。
スターマー氏は、欧州独自の停戦案を示す計画について「米国とともに協議し、推進していく」と語った。米側が停戦案を丸のみする可能性は低いが、協議を通じて欧州とウクライナの立場を改めて示しつつ、米国とウクライナの関係修復を図る考えとみられる。
会議に参加したゼレンスキー氏はX(旧ツイッター)に「我々は欧州で、米国と協力する強固な基盤を築くことに取り組んでいる。真の平和と安全の保証を得るためにだ」と投稿した。
会議には、英独仏伊など欧州主要国やカナダのほか、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)の首脳も参加した。安全保障上の米国依存低減を念頭に、欧州の新たな防衛策や防衛産業への投資強化策についても協議した。EUは6日に特別首脳会議を開き、具体策を詰める。
トランプ大統領 公用語に英語指定の大統領令に署名
2025年3月2日 NHK
アメリカのトランプ大統領は、英語をアメリカの公用語に指定する大統領令に署名しました。アメリカが連邦レベルで公用語を定めるのは初めてです。
アメリカのトランプ大統領は1日、英語をアメリカの公用語に指定する大統領令に署名しました。
ホワイトハウスは「英語を公用語とすることは、コミュニケーションを円滑にするだけでなく、共通の価値観を強化し、より結束力のある効率的な社会をつくることにつながる」としています。
今回の大統領令では、政府機関の文書などで英語以外の言語を使用することは引き続き認める一方で、英語を話さない人がサービスを利用しやすいよう政府機関などに言語の支援を義務づけた2000年の大統領令は廃止されます。
アメリカの有力紙、ワシントン・ポストによりますと、トランプ政権は、ことし1月の就任直後に、ホワイトハウスの公式サイトのスペイン語版を削除していたということです。
ワシントン・ポストは、アメリカでは78%以上が家庭で英語だけを話す一方で、英語以外の言語を話す人も、およそ6800万人いるとしています。
アメリカでは現在、30州以上が英語を公用語に指定しているということですが、連邦政府が公用語を定めるのは、およそ250年の歴史で初めてです。
高校授業料無償化の内容は?先行の東京や大阪では何が 公立と私立 課題は?
自公維 教育無償化など合意
2025年2月26日 NHK首都圏ナビ
教育の無償化について3党の合意内容
【高校の授業料無償化】
高校の授業料無償化について、ことし(2025年)4月から公立・私立を問わず一律に年間11万8800円の就学支援金の所得制限を撤廃し公立高校を実質的に無償化するとしています。
あわせて、低中所得世帯を対象に教材の費用などを支援する「奨学給付金」や、私立の無償化の影響を受ける公立の工業や農業など専門高校の施設整備の支援を拡充するとしています。
また、来年(2026年)4月から私立高校を対象に加算されている就学支援金の上限額の所得制限を撤廃し、私立の全国平均の授業料である45万7000円に引き上げると明記しています。当初は、45万7000円を「ベースに引き上げる」としていましたが、協議の結果、金額を明確に書くことになりました。
こうした措置については、ことしの骨太の方針の策定までに大枠を示した上で、2026年度の予算編成過程で成案を得て、実現するとしています。
【給食費無償化・幼児教育や保育支援など】
このほか、給食費の無償化は、まず小学校を念頭に地方の実情などを踏まえ、2026年度に実現し、中学校への拡充もできる限り速やかに実現するとしています。
0歳から2歳の幼児教育と保育の支援は、地方の実情などを踏まえ、2026年度から実施するとしています。
高等教育の支援は、さらなる負担軽減や支援の拡充について十分な検討を行い、成案を得ていくとしています。
先行の東京都 同じ学校に通っていても負担に差
東京都は、国に先行する形で今年度から私立高校の所得制限を撤廃し、すでに高校の授業料を都立・私立ともに実質無償化しています。ただ、保護者と生徒が都内に住んでいることが条件となっていて、都外から通う生徒は対象から外れます。
つまり、都内にある同じ私立高校に通う生徒でも、住んでいる場所によって家計の負担に差が生じる事態となっています。
世界最悪レベルの原発事故なのに…その責任は一切問わず 東京電力の旧経営陣、無罪確定へ 最高裁が上告棄却
2025年3月6日 東京新聞
東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣2人の上告審で、最高裁第2小法廷(岡村和美裁判長)は、巨大津波は予見できなかったとして、検察官役の指定弁護士側の上告を退ける決定をした。5日付。2人を無罪とした一、二審判決が確定する。岡村、草野耕一、尾島明の3裁判官全員一致の意見。
◆争点は「予見できたかどうか」
被告は原子力部門のトップだった武黒一郎元副社長(78)と、事故対策の実質的な責任者だった武藤栄元副社長(74)。2人とともに強制起訴され、昨年10月に84歳で死去した勝俣恒久元会長は公訴棄却となり、裁判が打ち切られた。
福島第1原発(資料写真)
争点は、旧経営陣が巨大津波を予見でき、対策することで事故を回避できたかどうか。東電内部では2008年、最大15.7メートルの津波が来ると試算しており、その根拠となった政府の地震予測「長期評価」(02年公表)の科学的な信頼性が争われた。
◆一、二審判決は「相当」
第2小法廷は、長期評価について「一般に受け入れられるような積極的な裏付けが示されていたわけではなく、防災対策にかかわる地方公共団体なども全面的には取り入れていなかった」と指摘。「10メートルを超える津波が襲来する現実的な可能性を認識させる情報だったとまでは認められない」と信頼性を否定した。その上で「業務上過失致死傷罪の成立に必要な予見可能性があったと認定することはできない」と結論づけた。
対策すれば事故を避けられたかについては、原発の運転を停止するしかなく、そこまでの注意義務はなかったとした一、二審判決を「相当」とした。
◆「国に報告する義務あった」補足意見も
草野裁判官は補足意見で、東電が巨大津波の試算を把握した08年当時、速やかに国に報告する義務があったと指摘。報告があれば国が原発の運転停止を命じ、事故を避けられた可能性があったとした。一方で、一、二審判決に不合理な点はないと多数意見に賛成した。
最高裁判所
また、第2小法廷に所属する三浦守裁判官は審理に加わらなかった。検察官時代にこの事件処理に関わっていたためとみられる。三浦裁判官は22年6月の避難者による集団訴訟の判決で、国の賠償責任を認める反対意見を付けていた。
起訴状によると、勝俣元会長を含む旧経営陣3人は、原発の敷地の高さ(海抜10メートル)を上回る津波を予測できたのに対策を怠り、避難を余儀なくされた双葉病院(福島県大熊町)の入院患者ら44人を死亡させたなどとされていた。(三宅千智)
◇
◆「旧経営陣が取るべき対策はなかったのか」検討なし
強制起訴された東京電力旧経営陣を無罪とした最高裁決定は、「巨大津波は予見できなかった」のひと言で、世界最悪レベルの事故を起こした旧経営陣に対して、誰も刑事責任は負わせないとの結論を出した。
13ページの決定文は大半が一、二審判決の要約と補足意見で、第2小法廷としての決定理由は約1ページ分だけ。事故回避には原発の運転を止めるしかなかったとの各判決を踏襲し、旧経営陣がほかに取るべき対策はなかったのかは検討せず、事故に向き合うことを放棄した。
東京電力ホールディングス本社=東京・内幸町で
福島第1原発事故の取材を通して感じることは、自然の脅威に対し、事故対策が万全と言えることは決してないということだ。ひとたび事故が起きると多くの国民の命や生活を脅かす原発の危険性を考えれば、巨大津波の可能性を認識しながらも、対策を放置した東電には今後も原発を運転する資格はない。
◆事故から14年、2万人が福島県外に避難したまま
政府は2月に閣議決定したエネルギー基本計画の改訂版で、事故以降に明記し続けてきた「可能な限り原発依存度を低減する」との表現を削除し、原発の積極活用を加速させようとしている。
事故から14年がたとうとする中、今も福島県には人が住めない地域が残り、約2万人が県外への避難を余儀なくされている。原発事故に対し、司法による責任追及や被害者救済には限界がある現実が突きつけられた。それでもなお、原発を使い続けるのか。立ち止まって考えるべきだ。(小野沢健太)
東京電力旧経営陣の刑事裁判 東京電力福島第1原発事故を巡り、福島県民らが2012年6月、東電元幹部らを告訴・告発。東京地検は不起訴としたが、検察審査会は勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3人を2度にわたり「起訴すべきだ」と議決。検察官役の指定弁護士が2016年2月、業務上過失致死傷罪で強制起訴した。2019年9月の一審東京地裁判決は無罪(求刑禁錮5年)を言い渡し、2023年1月の二審東京高裁判決は指定弁護士側の控訴を棄却した。
中国全人代、11日に閉幕 経済立て直しとハイテク部門育成を打ち出す
2025年3月11日 CNN
北京(CNN) 中国・北京で開催されている全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が11日、閉幕する。中国の指導者は先週、同国が直面する課題を乗り越えるための計画を発表した。中国を技術大国へと変ぼうさせるほか、野心的な成長目標を達成するために必要な支出を拡大する。
中国政府と過去数十年で最も権力を掌握している習近平(シーチンピン)国家主席にとって、こうした取り組みを正しく実行することは大きな賭けだ。
中国政府は、米国からの経済的圧力の高まりに直面しつつ、広範囲にわたる不動産危機の影響や、地方政府が抱える多額の債務、低迷する消費者需要など国内の多くの問題を解決する必要がある。米国のトランプ大統領は中国からの輸入品に対する関税を引き上げたほか、中国への米国からの投資に対する規制を拡大する構えをみせている。
9日に発表された2月の中国の消費者物価指数(CPI)は1年1カ月ぶりの低水準に落ち込み、経済を圧迫する根強いデフレ圧力を浮き彫りにした。
中国の指導者は、今後の課題について率直に言及しつつ、国の将来に対する自信も強調した。李強(リーチアン)首相は今年の経済成長率の目標を5%前後に設定したことを明らかにし、この目標について「困難に正面から立ち向かい、実現に努めるわれわれの決意を明確に示している」と語った。
中国では実際の意思決定の権限は中国共産党にあるため全人代のような高度に演出された集会は、政治的な儀式が主な目的だ。
しかし、示された優先事項や、集会の中で習主席や当局者が発したメッセージは、特に米国との間で摩擦と不確実性が高まる時期に、中国政府がどのようにして持続的な経済成長と技術の発展を確保するのかを知る重要な手がかりとなる。
AIと「未来の産業」に焦点を当てる
今年の会合では人工知能(AI)が話題となった。中国のIT企業ディープシークの成功により、AIに対する中国の熱意はさらに高まっている。
中国は先週、AIや科学技術の支援に向けた国策ファンドを発表した。同ファンドは今後20年間で地方政府や民間部門から推計で約1兆人民元(約20兆円)を集めるとしている。
中国政府の今後1年間の計画をまとめた活動報告では、国に対して、バイオ技術を使ったものづくりや量子技術、AI、次世代通信規格「6G」などの新興産業や未来産業の育成を求めた。国内の人材の育成や、国の研究開発の改善の必要性も訴えている。
需要の促進と成長の拡大
当局は、野心的な5%前後の成長目標を、より強力な財政支出で支えると発表した。財政赤字に関する目標は過去数十年で最高の水準となる国内総生産(GDP)比4%に引き上げられた。
しかし、一部の専門家によれば、最近発表された措置が米国との貿易戦争が激しさを増した場合に予想される経済成長への打撃を相殺するのに十分かどうか懐疑的な見方も出ている。中国が優先課題として挙げた、低迷する消費者需要を喚起できるかについても同様だ。
若年層の失業率の高さをはじめ、社会保障や福祉での格差、株式市場の乱高下、不動産危機による金融の不安定さなど、これらは全て、中国で多くの人々が経済の将来を不確実だとみなし、消費よりも貯蓄を好む要因となっている。
ゼレンスキー大統領「停戦 実現するかはロシアの出方次第」
2025年3月12日 NHK
ウクライナ情勢をめぐって行われたアメリカとウクライナの高官による協議で、ウクライナは、アメリカが提案した30日間の停戦を受け入れる用意があると表明しました。ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアが戦争を終わらせるのか、明らかにしなくてはならない」と述べ、停戦が実現するかどうかはロシアの出方次第だと強調しました。
サウジアラビアの西部ジッダで11日、アメリカとウクライナの高官協議が行われ、両政府は共同声明で「ウクライナは、アメリカが提案した即時かつ暫定的な30日間の停戦を受け入れる用意があることを表明した」と明らかにしました。
停戦は、当事者の合意によって延長が可能でロシアが受け入れ、同時に実施することが条件になるとしています。
協議のあとゼレンスキー大統領はSNSで、30日間の停戦についてすべての前線で完全な停戦を行う提案がアメリカ側からあったとしたうえで「ウクライナは平和の用意がある。ロシアが戦争を終わらせるのか、続けるのかを明らかにしなくてはならない」と述べ、停戦が実現するかどうかはロシアの出方しだいだと強調しました。
また協議を受け、アメリカが一時停止していたウクライナへの軍事支援などを再開すると発表したことをめぐり、ウクライナ大統領府の高官はSNSで「支援の再開を確認した」と述べたほか、ロイター通信はウクライナ政府高官の話として軍事情報の共有もすでに再開されたと伝えています。
アメリカは、近くロシア側とも協議を行う方針で、ロシアの出方が焦点になります。
トランプ大統領 “米とロシアの代表 近く協議の予定”
アメリカのトランプ大統領は、11日、ウクライナとの高官協議のあとホワイトハウスで記者団の取材に応じ「ゼレンスキー大統領を再びホワイトハウスに招くか」と質問されたのに対し「もちろんだ」と答え、ゼレンスキー大統領と再び会談する考えを明らかにしました。
また、トランプ大統領は「これからはロシアとの話し合いだ。プーチン大統領も合意することを願う」と述べ、ロシアがアメリカが提案した停戦に応じることに期待を示しました。
そのうえで、「きょう、このあとか、あすにもわれわれは彼らと会うだろう」と述べてアメリカとロシアの代表が近く協議する予定であると述べました。
そのうえで「今週、プーチン大統領と話をするのか」と記者団に聞かれたのに対し「そう思う」と述べました。
林官房長官「ロシア側の前向きな対応 強く期待」
林官房長官は午前の記者会見で「長く継続する戦闘の終結に向けたプロセスの重要な一歩として歓迎する。ロシア側による前向きな対応を強く期待する。わが国として引き続き国際社会と緊密に連携しながら公正かつ永続的な平和の実現に向け取り組んでいく」と述べました。
EUフォンデアライエン委員長「ボールはロシア側にある」
EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は11日、自身のSNSに投稿し、「ウクライナにとって公正で永続的な平和に向けた一歩となり得る。ボールはいま、ロシア側にある。EUはきたる和平交渉に向けて最大限の役割を果たす用意がある」として協議の結果を歓迎しました。
また、イギリスのスターマー首相は声明を出し、「われわれは永続的かつ確実な平和の実現に向けて努力を強める必要がある。ロシアも停戦と戦闘の終結に同意しなければならない」としたうえで、今週15日に各国の首脳を集めてこの先の対応について協議を行うとしています。
フランスのマクロン大統領もSNSに投稿し、「ボールはいま、明らかにロシア側にある。フランスはパートナーたちとともに、強固な安全の保証に裏打ちされた永続的な平和に向けて引き続き尽力する」とコメントしています。
米国務省 元特別代表“共同声明でロシアにシグナル”
1期目のトランプ政権で、ウクライナ政策を担当する国務省の特別代表を務めたカート・ボルカー氏がNHKのインタビューに応じ、今回の協議の結果について「ウクライナとアメリカが初めて一緒に『今すぐ停戦を』と言える状況になった。そして今度はロシアへと焦点が移った。率直に言ってもっとも重要だったのは共同声明を出したという事実だ。なぜなら、プーチン大統領に対し、もしも停戦に合意しなければ、ロシアはアメリカとウクライナの両方と対じすることになるというシグナルを送ったことに等しいからだ」と強調しました。
そして、予想される次のステップについてボルカー氏は「アメリカとロシアのあいだで、対面か電話でやりとりがあることになる。そこでは、アメリカとウクライナのあいだで合意した内容が伝達され、ロシアに対し、それを受け入れるよう迫る。そこでは、ロシアが受け入れないのであれば制裁を科すという暗黙の脅しがあるだろう。ウクライナとの協議もこれが最後にはならない。これが最初の協議であり、鉱物資源をめぐる合意への署名を含めて、さらなる議論が行われることになる」と述べ、停戦に向けた協議の始まりに過ぎないという認識を示しました。
そして、ロシアの今後の出方については「おそらくは交渉を持ちかけようとするはずで『自分たちにはこれが必要だ』『それには同意できない』などと言って、西側諸国やウクライナに対してロシアに何かを提供するよう試みるだろう」という見方を示しました。
そのうえで、トランプ大統領が描く恒久的な停戦に向けた筋書きについてボルカー氏は3つの柱があると指摘し「1つ目は即時停戦の実現だ。彼は人々が殺し合う状況を止めたい。2つ目はアメリカとウクライナのあいだの経済面での合意だ。鉱物資源などを通じてウクライナ自身が防衛にかかるコストを払っているのであって、アメリカの納税者は払っていないという状況にしたい。そして3つ目はロシアがウクライナを再び攻撃することの抑止だ。トランプ氏はこれをヨーロッパに主導させたい。アメリカにすべて依存するのではなく、ヨーロッパが安全の保証や防衛するための軍を提供し、ロシアからの攻撃を抑止する状況にしたいのだ」と説明しました。
そして、ウクライナでの恒久的な停戦が実現する時期についてボルカー氏は「誰もそれは知り得ないが、あえて言えば、私はこの秋ではないかと思う。ロシアのプーチン大統領が外貨を使い果たすのがそのころだからだ」と分析しました。
“米政権 ロシア再侵攻の場合ウクライナNATO加盟案検討”報道
2022年2月22日 NHK
アメリカのNBCテレビは20日、ウクライナとロシアとの和平交渉をめぐり、将来ロシアが停戦合意したあとに再び侵攻した場合はウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟を自動的に認める案をアメリカが検討していると伝えました。
NBCテレビは20日、アメリカの複数の当局者の話として、ウクライナとロシアとの停戦に向けて、トランプ政権が検討している内容を伝えました。
この中では、将来ロシアが停戦合意したあとに再びウクライナに侵攻した場合、本来なら必要な一連の手続きを省略し、ウクライナのNATO=北大西洋条約機構への加盟を自動的に認める案が含まれているということです。
理由について当局者は「ロシアが軍を再編成して再びウクライナに侵攻するという、ウクライナや同盟国にとっての重大な懸念を解決するのがねらいだ」としています。
トランプ大統領はウクライナのNATO加盟について否定的な立場をとっています。
停戦に向けては、今月18日、サウジアラビアでアメリカのルビオ国務長官とロシアのラブロフ外相らによる協議が行われ、双方が新たに高官級の交渉チームを設けることで合意しています。
プーチン氏、ウクライナでの停戦に条件を提示 アメリカ案を受け
2025年3月14日 BBC NEWS JAPAN
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は13日、アメリカが出しているウクライナでの停戦案について、停戦のアイデアは支持すると述べた。だが、停戦の性質について「疑問」が残るとし、いくつかの厳しい条件を提示した。
プーチン氏はモスクワでの記者会見で、ウクライナが11日にアメリカとの協議で合意した30日間の停戦案について、「アイデアは正しい。私たちはそれを支持する。だが、議論が必要な疑問がある」と述べた。
プーチン氏はまた、停戦は「持続的な平和をもたらし、この危機の根本原因を取り除く」ものであるべきだと主張。「私たちはアメリカの同僚やパートナーらと交渉する必要がある」、「私がドナルド・トランプ(米大統領)と電話で話すかもしれない」とした。
さらに、「ウクライナ側が30日間の停戦を実施するのはいいことだ」、「私たちはそれを支持するが、微妙な部分がある」と述べた。
このプーチン氏の発言に対し、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はプーチン氏が事態を「操ろうと」していると批判。ロシアへの追加制裁を呼びかけた。
こうしたなか、アメリカはロシアの石油、ガス、銀行部門に対し追加制裁を科した。
プーチン氏、疑問点を列挙
Play video, "プーチン氏、ウクライナとの停戦に疑問と条件提示 「予想どおり」とゼレンスキー氏", 所要時間 2,25
02:25
動画説明,プーチン氏、ウクライナとの停戦に疑問と条件提示 「予想どおり」とゼレンスキー氏
プーチン氏は記者会見で、ウクライナが昨年8月に奇襲してその一部を占領したロシア・クルスク州が、論点の一つになると述べた。
クルスク州についてプーチン氏は、ロシアが完全に奪還したと主張。同州にいるウクライナ軍は「孤立している」とし、こう続けた。
「相手は撤退しようとしており、私たちが支配している。相手は装備を放棄している」、「クルスクにいるウクライナ人には二つの選択肢がある。降伏か死だ」
プーチン氏はまた、停戦がどう機能するかについて、「その30日間はどう使われるのか? ウクライナによる動員のためか? 再武装のためか? 人の訓練のためか? そうしたことは一切ないのか? そして疑問なのは、それがどうコントロールされるのかだ」と疑問点を挙げた。
さらに、「誰が戦闘を終わらせる命令を出すのか? どれだけの代償で出すのか? 停戦になったとして、2000キロメートル以上に渡る地帯で停戦が破られたかどうかを誰が判断するのか? こうした疑問はすべて、双方による綿密な作業が必要だ。誰がそれを取り仕切るのか?」と述べた。
Play video, "ウクライナ、ロシア・クルスク州の占領地を次々失う アメリカの支援や交渉の影響は", 所要時間 2,16
02:16
動画説明,ウクライナ、ロシア・クルスク州の占領地を次々失う アメリカの支援や交渉の影響は
ゼレンスキー氏、プーチン氏を批判
一方、ゼレンスキー氏は、恒例の夜のビデオ演説で、「(プーチン氏は)直接的にノーとは言わない」が、「実際には拒否の準備をしている」と主張。「プーチンは、自分がこの戦争を続けたい、ウクライナ人を殺したいのだと、トランプ大統領に直接伝えたくないのだ」と述べた。
そして、プーチン氏があまりに多くの条件を設定したため、「何もまったくうまくいかない」とした。
この日のプーチン氏の発言とゼレンスキー氏の反応によって、両氏の立場の隔たりが明確になった。
ウクライナは、2段階のプロセスを望んでいる。迅速な停戦と、その後の長期的な解決に向けた協議だ。
一方、ロシアは、それら二つのプロセスは不可分で、一つの合意ですべての問題を判断すべきだと考えている。
双方とも、そうした違いについて議論することに満足していると思われる。
ウクライナは、ロシアが和平に後ろ向きで、時間稼ぎをしているとの印象を広めることで、ロシアに圧力をかけられると考えている。ロシアは、北大西洋条約機構(NATO)の拡大やウクライナの主権という、根本的な懸念を提起する機会を手にしていると考えている。
こうした状況は、トランプ氏にとって問題となる。彼は迅速な結果を望んでおり、数日内に戦闘を終わらせたいと明言している。
だがプーチン氏は今、協力するつもりはない様子だ。
トランプ米大統領は、ロシアが「正しいことをする」のを望んでいると述べた画像提供,Getty Images
画像説明,トランプ米大統領は、ロシアが「正しいことをする」のを望んでいると述べた
トランプ氏、最終合意の詳細を議論と
トランプ氏は、プーチン氏の発言を受け、同氏と「喜んで」会うと、ホワイトハウスで述べた。
また、ロシアが「正しいことをして」、30日間の停戦案に合意することを期待していると発言。「ロシアからの停戦を望んでいる」とした。
これに先立ちトランプ氏は、NATOのマルク・ルッテ事務総長と大統領執務室で会談した際、ウクライナとはすでに具体的な協議をしたと記者団に説明した。
「私たちはウクライナと、保持される土地や失われる土地、その他すべての、最終合意の要素について話し合ってきた」、「最終合意の多くの詳細について、実際にすでに議論された」とトランプ氏は述べた。
ウクライナのNATO加盟については、「誰もがその答えを知っている」とトランプ氏は話した。
ロシアに新たな制裁
ロシアに対してはこの日、石油とガスに関する新たな制裁が発動された。トランプ政権は、ロシアによる米決済システムの利用をさらに制限。ロシアの石油を他国が購入するのを難しくした。
そうしたなか、プーチン氏は、アメリカのスティーヴ・ウィトコフ中東担当特使とモスクワで非公開で会談した。
これに先立ち、クレムリン(ロシア大統領府)のユーリ・ウシャコフ外交政策顧問は、アメリカが提案した停戦案を拒む考えを示した。
クレムリンは12日、プーチン氏がロシア・クルスク州を訪問した際のビデオ映像を公開した。プーチン氏は象徴的に軍服姿だった。ロシアはその後、同州の要衝の町スジャを奪還したと発表した。
ロシアは2022年2月にウクライナに対する全面侵攻を開始。現在、ウクライナ領土の約2割を掌握している。
ロシア軍の戦死者は9万5000人以上に上っている。
ウクライナは戦争の犠牲者について、昨年12月に最後の情報更新をした。ゼレンスキー氏はその際、兵士と将校の戦死者が計4万3000人だと認めた。西側の専門家らは、この人数は少な過ぎるとみている。
逮捕されたフィリピン ドゥテルテ前大統領 ICCに引き渡し発表
2025年3月13日 NHK
人道に対する犯罪に関わった疑いがあるとして逮捕されたフィリピンのドゥテルテ前大統領がオランダに到着し、ICC=国際刑事裁判所は12日、フィリピン当局からICCに引き渡されたと発表しました。
違法薬物をめぐり、容疑者の殺害もいとわない「麻薬戦争」と呼ばれる強硬な取り締まりを主導したフィリピンのドゥテルテ前大統領に対して、オランダ・ハーグにあるICC=国際刑事裁判所は、2011年11月から2019年3月までの7年余りの間、多くの人を殺害した人道に対する犯罪に関わった疑いがあるとして捜査し、今月7日、逮捕状を出していました。
これに基づいて、フィリピン政府に逮捕されたドゥテルテ氏は飛行機で移送され、12日、オランダのロッテルダムに到着しました。
ICCによりますと、ドゥテルテ氏はフィリピン当局からICCに引き渡され、拘置所に移送されたということです。
ICCのカーン主任検察官は声明を発表し、「最も重大な犯罪の被害者に対する説明責任を果たすための重要な一歩だ」としています。
ドゥテルテ氏は今後、ICCの予審裁判部に出頭して公判前の手続きが行われ、犯罪事実の確認などが行われることになっています。
ドゥテルテ氏「私がすべての責任を負っている」
ドゥテルテ前大統領は、ICCに身柄を引き渡される直前に機内で撮影したと見られる動画をみずからのSNSに投稿しました。
その中で、ドゥテルテ氏は「私がすべての責任を負っている。これは長期間にわたる、法的な手続きになるだろうが、私は祖国に奉仕し続ける」などと述べています。
《参考》
フィリピンは2019年にICCから脱退しており、この度フィリピン政府がICCに協力するのは違法だとの批判も一方からあがっている。
財務省前 減税や積極財政求めるデモ続く
2025年3月14日 NHK
このところ財務省の前では、減税や積極財政を求めるデモが続いています。
14日は午後5時ごろからデモが行われ、東京・霞が関の財務省の庁舎を取り囲むように多くの人が参加し、一時は歩道をすれ違うのも難しいような状況となりました。
参加者たちは「財務省解体」と書かれたプラカードを掲げたり、「増税反対」とか「消費税廃止」といった声を上げたりしていました。
参加した人からは「SNSでデモのことを知り若い世代も考えないといけないと思って参加した」といった声や、「デモに来るのは3回目で、毎回人が増えている。所得が低い人たちは大変だ」などという声があがっていました。
財務省は中央省庁の1つで、国の財政政策などを担っています。
東京・霞が関の本省ではおよそ2000人が働き、総理大臣官邸との連絡調整や人事などを担当する大臣官房、予算編成を担当する主計局、税制の企画立案を担う主税局、関税制度や税関業務を担う関税局、国債の発行や国有財産の管理にあたる理財局、為替相場の安定など国際金融を担当する国際局があります。
財務省は、政府の予算編成にあたっては、査定を通じて各省庁の予算配分を差配する権限を持ち、税制にあたっては業界団体などの利害を調整し、毎年の税制改正の取りまとめにもあたることから、政財界に広い人的ネットワークを築き、「官庁の中の官庁」とも呼ばれてきました。
去年12月から「解体デモ」
財務省の前では、以前から一部の人たちが、消費税の廃止や国債の発行をさらに増やして、福祉の充実を求める主張のデモを行っていました。
その後、SNSで「財務省解体」の主張が広がり、去年12月からは「財務省解体デモ」が開催されるようになりました。
「財務省解体」Xでの広がりは
NHKがSNS分析ツール「Brandwatch」でXの投稿を調べたところ、去年10月から今月12日までに「財務省」と「解体」を含む投稿は、リポストを含めておよそ450万件ありました。
投稿は去年11月ごろ、衆議院選挙のあと「103万円の壁」の見直しや財源をどうするのかといった点に注目が集まった時期に広がり始めました。
その後、12月に消費税の廃止などを訴えるグループの女性がXでデモへの参加を呼びかけたのが1つのきっかけとなって、「財務省解体」という主張が徐々に広がりました。
ことし1月末に投稿は急増、さまざまな主張の人たちがデモを行うようになったこともあり、先月21日のデモの翌日には、Xではこれまでで最も多いおよそ33万8000件が投稿されていました。
中には「国民生活を考えず増税しか頭にない」と財務省を批判する内容や、「財務省のせいで生活が苦しい」などと訴える投稿や動画もありました。
実際にデモへの参加を呼びかける人たちはさまざまで、消費税の廃止を訴えるグループのほか、国の新型コロナ対策などに反対してきた政治団体や、保守系の政治団体などがデモの開催を予告したケースもありました。
また、「財務省解体」について拡散されている投稿を分析すると、ロシアを支持するとしているアカウントや、外国人排斥を訴える投稿を繰り返しているアカウント、消費税廃止の主張をしているアカウントなどが上位となっていました。
YouTube再生回数1億7000万回以上
先月下旬にデモが行われた際には、ユーチューバーなどのインフルエンサーがデモについて取りあげて動画が多く拡散し、別のインフルエンサーらがXやYouTubeなどでデモに批判的な投稿を行ったことで「財務省解体デモ」はSNSで広がり続けました。
YouTubeでは「財務省解体」という言葉がタイトルなどに含まれる動画は、去年10月以降今月12日までで4000本を超えていて、総再生回数はあわせて1億7000万回以上に上っています。
また、TikTokでもデモでの演説の様子を投稿した動画が250万回近く再生されるなど、関連する動画はあわせて少なくとも3000万回再生されています。
このうち、最も多く拡散された主張の1つは「日本は財政法4条に縛られていて積極的な国債発行ができず増税ばかりしている」などとするもので、YouTubeでおよそ300万回再生された動画もありました。
日本の国債について、発行残高は増加の一途をたどっていて、財務省によりますと、来年度末には普通国債の発行残高は1129兆円余りにまで膨らむ見通しです。
投稿の中には根拠のない情報や誤った情報などもあり、「財務省に日本国籍の人はいない」などとする誤った情報は、Xで合わせて340万回以上閲覧されています。
また、「トランプ大統領が日本の財務省の解体を発表した」とか、「財務省は世界を支配する闇の組織ディープステートの手先だ」などとする根拠のない情報も複数出ています。
専門家「気持ちくみ上げ粘り強い議論につなげていく必要も」
社会学者でインターネットを通じた運動について詳しい成蹊大学の伊藤昌亮教授は、今回のデモの背景について「ここ20年ほどの間に税金と社会保障の支出が上がり、物価高も起きていて、普通に生活している人も生活が苦しくなってきている。どこにどう文句を言っていいか誰が意向を吸収してくれるか分からない中、SNSで『財務省のせいだ』という非常に簡単な解が与えられ、『あいつらが悪いんだ』ということになっている」と話しています。
そのうえで、「外国人にお金を渡すなという排外主義的な動きや、敵を見つけて攻撃する陰謀論的な側面も含めて危険な部分は大きい。その一方で、これまでにない形での財政に関する問題提起にもなりうるので、メディアや政治が切り捨てず、気持ちをくみ上げて粘り強い議論につなげていく必要もあるのではないか」と指摘しました。
「国民負担率」2024年度は45.8%の見込み
財務省によりますと、個人や企業などの所得に対する税金と社会保険料の負担割合を示す「国民負担率」は、今年度は45.8%となる見込みです。
統計を取り始めた1970年度は24.3%でしたが、その後、徐々に負担率は増え、1979年度に30.2%と初めて30%台となり、2013年度は40.1%と40%を超えました。
新型コロナの感染拡大で国民の所得が減少した2022年度は、過去最大の48.4%となっています。
OECD=経済協力開発機構に加盟する38か国のうち、データが把握できる36か国を国民負担率が高い方から並べると、2022年度は日本は24番目になります。
最も高いルクセンブルクは89.4%で、上位にはフランスやオーストリア、フィンランドといった国民の負担が多い分、福祉が手厚いとされるヨーロッパの国が並びます。
一方、日本より負担率が低い国は、韓国が44.8%、アメリカが36.4%、最も低いメキシコが22.7%などとなっています。
歳出が税収を上回る状態続く
日本の財政は、歳出が税収を上回る状態が続いていて、その差額の多くは国債の発行によって賄われています。
普通国債の発行残高は、来年度末には1129兆円にまで膨らむ見通しです。
1990年には160兆円ほどの水準でしたが、2000年代に入ってから上昇のペースが大きくなりました。
社会保障費などの増加や大規模な補正予算の編成で国債の発行が積み重なった結果、この10年ではおよそ1.4倍に拡大しました。
財務省は日本の財政の課題について、中長期な持続可能性への信認を確保しつつ、日本が直面する構造的な課題に的確に対処していく必要があるとしています。
平均寿命の地域格差30年で拡大 47都道府県間、最大2・9年に
2025年3月21日 東京新聞
1990~2021年の約30年間で、日本の平均寿命は5・8年延びて85・2歳となった一方、47都道府県で最長と最短の差が拡大したとの分析結果を慶応大などのチームがまとめ、21日付の英医学誌に発表した。90年に2・3年だった差が21年には2・9年に広がった。
延びが大きかった地域では、医療へのアクセスや生活習慣の改善、健康を支える仕組み作りなどを積極的に進めたとみられる。チームの野村周平慶応大特任教授は「そうした地域の取り組みを共有することで、格差是正につながる可能性がある」としている。
チームは国の人口動態統計などのデータを分析。平均寿命は全都道府県で延びたが、小数第2位を四捨五入した90年の平均寿命が最長の沖縄(80・6歳)と最短の大阪(78・2歳)の差が2・3年だったのに対し、21年では最長の滋賀(86・3歳)と最短の青森(83・4歳)の間に2・9年の差があった。
健康上の問題がなく生活できる「健康寿命」と平均寿命との差も、90年に9・9年だったのが、21年には11・3年に拡大した。
石破首相 商品券配付 “荷物にならないよう配慮” 参院予算委
2025年3月21日 NHK
国会では21日も参議院予算委員会の集中審議が行われ、立憲民主党は石破総理大臣による商品券の配付問題をめぐり、会食に先立って配っていることなどから、違法だという認識があったのではないかと指摘しました。これに対し、石破総理大臣は、荷物にならないように配慮したものだとした上で、法的に問題はないという認識を重ねて示しました。
新年度予算案を審議する参議院予算委員会では、21日も、石破総理大臣が出席して集中審議が行われ、午前中、自民党と立憲民主党が質問に立ちました。
自民党の石田昌宏氏は人手不足が課題となっている医療・介護分野について「物価高が進み、診療報酬のベースアップくらいでは十分な賃上げを実感できず、モチベーションが下がっている。賃上げをさらに進めてほしい」と求めました。
これに対し石破総理大臣は「非常に高い使命感を持って献身的に働いてもらっているが、処遇が改善されず、モチベーションが下がっていることは実感している。できれば現場を回って実態を把握し、そういう人たちが自信と誇り、生きがいを持って働けるよう政府として全力を尽くしていきたい」と述べました。
立憲民主党の石川大我氏は石破総理大臣による商品券の配付問題について「事前に届けたというのも非常に不思議で、普通はお土産は帰るときに渡すものだと思う。事務所ぐるみで違法性の認識があったから事前に配ったのではないか」とただしました。
これに対し石破総理大臣は「荷物になるからとか、アルコールが入っているときに渡し損ねたとか、そういうことがないよう配慮した。スタッフが届けたときにお土産代わりだと説明していて渡した側も受け取った側も違法性の認識を持っていたものではない。私自身、これが政治活動だという認識を持っているものでもない」と強調しました。
また、石破総理大臣は、総理大臣が自民党の議員に商品券を配付したと聞いたことがあるか問われたのに対し「慣行であったかは知る立場にないが、ここまで長くいると『そういう話もあるね』ということは聞いている」と述べました。
一方、商品券を配付するよう周囲から進言されたのではないかと問われたのに対し、「『あいつはケチだね』と定評になっていることにじくじたる思いはずっと持っているが、人に言われてやったことではなく、私の判断だ」と述べました。
政倫審 出席の可能性について
石破総理大臣は、参議院予算委員会で、商品券の配付問題をめぐり、政治倫理審査会に出席する可能性を問われたのに対し「予算委員会で誠心誠意、説明しているが、納得してもらえず、機会が与えられれば、ほかの場所でも説明する」と述べ、政治倫理審査会で説明することも辞さない考えを示しました。
選択的夫婦別姓制度について
このほか、選択的夫婦別姓制度を導入するよう求められたのに対し「権利としてどう認めていくか法律的な議論がある。人権の侵害だという立論もあるだろうし、一方で、家族の一体性を損なうという根強い意見がある。折衷案みたいなものがありうるのかどうか。どこまでも平行線でどうにもならないという事実は決していいことだと思っていない。自民党で議論を真摯に行っており、答えを出す努力は最大限していく」と述べました。
杉田水脈氏について
また、石破総理大臣は、自民党が、過去に差別的な投稿などをしていた杉田水脈・元衆議院議員を夏の参議院選挙の比例代表の公認候補予定者にしたことについて問われ「最終的には公認権者の私が判断した。私としては彼女の発言にとても賛成しえないし、強烈な違和感を持っている。自民党はあらゆる差別を許さないので、候補者として言動にはきちんと責任を持ち、心がけてほしい」と述べました。
公明 斉藤代表「年度内成立を何としても図りたい」
公明党の斉藤代表は記者会見で「与党としては新年度予算案の年度内成立を何としても図りたい。予算案は日本経済を上昇局面に乗せることにつながり、混迷する世界情勢の中で日本のかじ取りを世界に示す意味でも大変重要だ。与党として真摯に議論に取り組み、野党の理解もいただき、年度内成立に持っていきたい」と述べました。
立民 野田代表「予算審議が終わったあとには政倫審で」
立憲民主党の野田代表は、記者会見で「きょうも参議院予算委員会で石破総理に商品券の配付問題について尋ねる機会があるので、それはそれとして進めながら予算審議が終わったあとには政治倫理審査会に出てきてもらい話を伺いたい。予算案は予算案として徹底した審議が必要だ」と述べました。
その上で、記者団から「商品券の配付問題は予算案の年度内成立に影響するか」と問われたのに対し「予算案が年度内に成立するかどうかは、今、参議院で審議しているので、参議院での動きしだいだ。私が枠を決める話ではない」と述べました。
一方、内閣不信任決議案の提出については「直接、この問題だけで不信任ということではなく、総合的にどう判断するかだ。可能性は、もちろん否定はしないが、現段階で決め打ちをしているわけではない」と述べました。
維新 前原共同代表「企業・団体献金の禁止を」
日本維新の会の前原共同代表は党の代議士会で「商品券の問題は、自民党の体質の問題であり、これをしっかりとただしていくためには、企業・団体献金の禁止を実現することが大切だ。しっかり実現するために頑張っていきたい」と述べました。
国民民主 榛葉幹事長「早く首相みずから説明を」
国民民主党の榛葉幹事長は記者会見で「商品券の配付問題のことばかりだが、ガソリン価格の高騰など本来議論すべき問題は山積している。早く石破総理大臣みずからが政治倫理審査会に出て説明することを求めたい。政治とカネや商品券の問題などを早く決着して、国民に取り過ぎた税金を返すなど、やるべきことをやるべきだ」と述べました。
共産 山添政策委員長「国民的な理解が到底得られない」
共産党の山添政策委員長は記者会見で「歴代総理大臣のもとで石破総理と同様に表に出さない前提の金品が配られていたという証言が相次いでいることは、さもありなんだ。政治活動かどうかを、ことばづかいやさじ加減一つで変えられるならば『闇ガネ作り放題、バラマキ放題』になり国民的な理解が到底得られない」と述べました。
その上で「参議院予算委員会の審議や、必要に応じていろんな場面でただしていくが、開き直って何の問題もないかのようにふるまい続けるなら、総理大臣の資格はないと言わなければならない」と述べました。
れいわ 高井幹事長「言語道断で軽率」
れいわ新選組の高井幹事長は記者会見で「言語道断で、政治とカネの問題が議論されている中で軽率としか言いようがない。歴代の総理大臣がやっていたからこそ、石破総理もあまり考えずにやってしまったのだろうと推測するし、常態化していることから考えれば官房機密費を使っているのは間違いない」と述べました。
一方で「民主党政権の時に、私も当時の菅総理や野田総理と食事を一緒にしたことがあるが、一切そういうものはもらわなかった」と述べました。
ユン大統領は4日夕方、大統領公邸を訪れた与党「国民の力」の幹部らと面会しました。
この中でユン大統領は、党のこれまでの取り組みに感謝の意を示した上で「応援してくれた国民と支持者に申し訳ないとともに、感謝の気持ちを持っている。この国がうまくいくことを願っている」と伝えました。
さらに「大統領選挙まであまり時間がないので、党を中心にしっかり準備し、ぜひ勝利してほしい」とも述べたということです。
職務代行の首相「選挙管理に最善を期す」
ユン大統領が罷免されたことを受けて、大統領の職務代行を務めるハン・ドクス(韓悳洙)首相は4日午前、国民向けの談話を発表し「憲政史上2番目に現職の国家元首が弾劾される不幸な状況が起きたことを重く受け止める。大統領代行として、国家の安全保障と外交に空白がないように、堅固な態勢を維持する」と述べました。
また「通商分野など当面の懸案の対処に支障のないように万全を期し、国民が不安に感じないよう治安秩序を保って災害にも徹底的に備える」と述べました。
その上で「次期政権が支障なく発足できるよう、選挙管理に最善を期す。政府は、国民のくらしと経済が揺るがないよう、役割を忠実に遂行するため全力を尽くす」としています。
韓国 与野党の反応
ユン大統領の罷免について与党「国民の力」のトップ、クォン・ヨンセ(権寧世)非常対策委員長は「憲法裁判所の決定を重く受け止め、謙虚に受け入れる。国民のみなさんに心からおわび申し上げる」と述べました。
また、ユン氏の支持者による反発を念頭に「いかなる場合でも暴力や極端な行動があってはならない」と呼びかけました。
一方、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表は会見を開き「現職大統領が2度も弾劾されたことは、再びあってはならない韓国憲政史上の悲劇だ。政治が国民と国家の希望になるように最善を尽くす」と述べました。
大統領の支持者からは落胆の声 涙を流す人も
憲法裁判所が言い渡しを始めると、大統領公邸前で集会を開いていたユン大統領の支持者たちは、言い渡しの様子を伝えるスクリーンを見守りました。
そしてユン大統領の罷免が言い渡されると、支持者からは落胆の声が上がったほか、涙を流す人も見られました。
決定の言い渡しを聞いた50代の女性は「決定は受け入れられない」と述べながら、涙を流していました。
韓国の通信社 連合ニュースによりますと、決定の言い渡しから数分後に憲法裁判所の近くで、ユン大統領の支持者が棒で警察の車両の窓を割り拘束されたと伝えましたが、これまでのところ大きな混乱はみられていません。
野党支持者 決定に大きな歓声
一方、憲法裁判所から500メートルほど離れた野党支持者の会場には、大勢が集まり「ユン大統領は罷免されるべきだ」とか「大統領を退陣させよ」などと叫びながら裁判所の判断を待ちました。
会場に設置されたモニターでは裁判所の様子が生中継で伝えられ、集まった人たちは決定が言い渡されると、一斉に立ち上がって大きな歓声をあげました。
そして抱き合って喜んだり「民主主義の勝利だ」と叫んだりして喜びを分かち合っていました。
野党側の集会に参加していた30代の女性は「ユン氏は国民の信頼を裏切ったので、憲法裁判所の判断は当然の結果だと思う」と話していました。
20代の男性は「非常戒厳が出されてからきょうまで、日常がまた戻ることがあるのかと不安な時間を過ごした。次の大統領には国民の話を聞く人になってほしいし、安定した政権運営をしてもらいたい」と話していました。
男性は「憲法裁判所の判断は、常識的で合理的な人であれば当然理解出来る判断だと思う。社会に混乱が起きてしまったので、それを正常化する必要がある。次の大統領には弱者や少数派に配慮できる人になってほしい」と話していました。
60代の女性は「民主主義を市民の力で立ち直らせることができた。私は高校時代に軍事政権で非常戒厳を経験したので、状況を正せると信じて集会に熱心に参加した。今後の政権には民主主義を守った市民の努力を大切に社会を安定させてほしい」と話していました。
注目
韓国メディア「選挙は6月3日が有力」 与野党の動きは
ユン大統領の罷免を受けて、韓国では60日以内に後任の大統領を選ぶ選挙が実施されます。
4日からちょうど60日後は6月3日で、通信社の連合ニュースや有力紙「朝鮮日報」などの現地の複数のメディアは、大統領選挙の投票日は6月3日が有力だと報じています。
韓国では与野党とも、ユン大統領の罷免によって大統領選挙が行われる展開もにらみながら、支持の拡大に向けた動きを見せてきました。
弾劾を求めてきた革新系の最大野党「共に民主党」では、前回の選挙でユン大統領に僅差で敗れたイ・ジェミョン代表が世論調査で最も人気が高く最有力候補とされています。
国内各地を精力的に回りながら、無党派層を含めた支持の拡大を図るとともに、いまも支持者が多いムン・ジェイン元大統領と面会するなど、党内基盤の強化にも力を入れています。
一方でイ代表は、複数の罪で起訴されて刑事裁判が行われていて、このうち公職選挙法違反の罪に問われた2審の裁判では無罪が言い渡され、イ代表としては選挙に向けた追い風にしたい考えです。
これに対して保守系の与党「国民の力」は、これまでユン大統領の弾劾が決定していなかったため、大統領選挙に向けての表立った党としての活動は控えてきました。
ただ選挙を見据えて、現職の閣僚や自治体のトップなどが水面下で準備を進める動きも取り沙汰されていました。
韓国の世論調査 次期大統領は
韓国の世論調査機関「韓国ギャラップ」は、3日までの3日間、1001人を対象に将来の大統領に誰がふさわしいか聞きました。
それによりますと
▽最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表が34%と最も多く
▽キム・ムンス(金文洙)雇用労働相が9%
▽与党「国民の力」のハン・ドンフン(韓東勲)前代表が5%
▽南東部テグ(大邱)のホン・ジュンピョ(洪準杓)市長が4%
▽ソウルのオ・セフン(呉世勲)市長が2%などとなっています。
<ぎろんの森>「戦時国債」がよみがえる
2022年4月5日 東京新聞
2025年度予算が3月31日に成立しました。一般会計の歳出は過去最大の総額115兆1978億円。少数与党の石破茂内閣は野党が賛成しなければ予算を成立させられないので、野党の要求を受け入れて2回の修正に応じ、年度内成立を図りました。
東京新聞がこの予算で特に注目するのは2日の朝刊1面で報じたように、防衛費に建設国債を充てることです。
25年度の防衛費は過去最大の8兆7005億円。このうち7148億円が建設国債による財源です。防衛費の一部を建設国債で賄うようになったのは23年度からです。
戦後、防衛費に建設国債を充てることは禁じ手でした。かつて戦時国債の乱発で軍事費を膨張させ、戦線を拡大。破滅的な敗戦に至った戦前・戦中の反省からです。
1966年2月に当時の福田赳夫蔵相は国会で、防衛費について「再生産的な要素がない。極端に言うと、消耗的な性格を持つ。公共事業費を考える場合、除外するのが国際的な通念」「国債発行対象にすることは適当でない」などと答弁。これが長年、政府見解となってきました。
政府が方針を一転させたのは、2022年12月に閣議決定した新しい国家安全保障戦略でした。米国の意向にも沿う形で、防衛費をそれまでの国際総生産(GDP)比1%程度から2%に倍増させることを明記したのです。
これにより23~27年度の5年間の防衛費の総額は計43兆円と膨れ上がり、初年度の23年度から艦船の建造や自衛隊施設の整備などに建設国債を充てることになりました。
防衛費に充てる建設国債は23年度当初予算4343億円でしたが、24年度には7148億円と年々増加。23,24年度補正予算でも計4332億円が発行されたので、わずか3年で2兆円突破です。
トランプ米政権に防衛費増を求められたら建設国債を発行して賄うのでしょうか。
1931(昭和6)年の満州事変以降、日本は戦時国債の発行を増やして戦費に充てていました。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとしても、建設国債による防衛費調達で当時のような過ちを繰り返すことはないのか。今年が戦後80年の節目だからこそ、読者とともに考えたいと思います。
【相互関税】4日国内反応 首相 トランプ大統領と電話会談模索
2024年4月4日 NHK
アメリカのトランプ大統領は3日、「相互関税」として日本に24%の関税を課すと表明したほか、アメリカに輸入される自動車に25%の追加関税を課す措置も発動されました。
4日の国内の反応をまとめてお伝えします。
石破首相 “超党派で対応を” 各党党首に協力要請
石破総理大臣は、与野党の党首と会談し、アメリカに対し、措置の見直しを強く求めていくとともに、野党も含めた超党派で対応を検討する必要があるとして協力を求めました。また、関係閣僚による会議体を設置する意向を示すとともに、トランプ大統領との電話会談を模索していると伝えました。
党首会談は、4日午後3時半から国会内でおよそ50分間行われ、石破総理大臣と公明党の斉藤代表、それに、立憲民主党の野田代表、日本維新の会の前原共同代表、国民民主党の玉木代表、共産党の田村委員長、れいわ新選組の山本代表の7党の党首が出席しました。
冒頭、石破総理大臣は、トランプ政権による関税措置について「広範な貿易制限措置は、日米両国の経済関係のみならず世界経済や多角的貿易体制全体に大きな影響を及ぼすものだ。WTO協定や日米貿易協定との整合性についても深刻な懸念を有している。今後ともアメリカに対し、措置の見直しを強く求めていく」と述べました。
トランプ大統領に最も適切な方法で働きかけたい
その上で「私自身がトランプ大統領に直接、働きかけることが適当であれば最も適当な時期に、最も適切な方法で働きかけることとしたい。全くちゅうちょするものではない。私や担当閣僚が訪米する際には国会日程などに配慮いただければ大変幸いだ」と述べました。
関係閣僚による会議体も設置
さらに「関税措置による国内産業への影響を十分に精査し、必要な支援には万全を期していく。今月1日に資金繰りなど当面の対策を講じることとした。政府を挙げて、この問題に対応するため、関係閣僚による会議体を設置することとしたい。言うなれば国難というものにあっては、政府・与党のみならず、野党の皆様も含め、超党派で検討、対応する必要がある」と述べ、協力を求めました。
トランプ大統領との電話会談模索
このあと、与野党の党首が要望事項や意見を伝え、立憲民主党の野田代表など複数の党首がトランプ大統領との首脳会談を含む直接協議を行うよう要請しました。
また、デジタル分野では圧倒的にアメリカが黒字となっていることなど事実関係をもとにした交渉を行うことや、自由貿易体制を守るため各国との連携を強化すること、さらに、影響を受ける中小企業などへの資金繰りを含めたさらなる支援などを求めました。
これに対し、石破総理大臣は、トランプ大統領との電話会談を模索していることなどを伝えました。
石破首相 “国を挙げて厳しい事態に臨みたい”
石破総理大臣は4日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「政府が当面対応する方針をペーパーを使って説明し、おおむね了承いただいた。なるべく早いうちに関係閣僚会議、場合によっては閣僚全員が参加する対策本部を設置したい。今後も野党の意見を承る機会は設けたい。野党党首の協力には本当に感謝しており国を挙げて厳しい事態に臨みたい」と述べました。
一方、トランプ大統領との電話会談について「実際に訪米して直接話をするのがいいに決まっているが、国会日程や先方の都合もあるため、まずは電話会談を模索している。何を話すかということをきちんと整理した上で臨みたい」と述べました。
党首会談後の各党の反応
自民 小林元経済安保相「自動車関連税制の減税を考える余地 十分ある」
自民党の小林鷹之元経済安全保障担当大臣はインターネットチャンネル「文化人放送局」の番組で「石破総理大臣はできるだけ早いタイミングでトランプ大統領としっかり向き合うことが必要だ」と指摘しました。そして税制上の対応策について「影響が大きい自動車については自動車関連税制の減税を考える余地は十分ある。本当の意味で内需を喚起しようとすると、いろいろなやり方があると思うが、消費税のあり方についても検討する余地があると思う。とにかく日本の経済を喚起させるために何が必要か、政府とともに与党もしっかりと検討し、解を出していきたい」と述べました。
公明 斉藤代表「生活を守り抜く 強いメッセージが必要」
公明党の斉藤代表は、会談のあと記者団に対し「伴走型の事業者支援を実行してほしいと要望した。一時的に資金繰りに詰まって倒産するケースが懸念されるので、最大限の資金繰り支援を実施してほしい。日本経済と国民生活を守り抜くという石破総理大臣の強いメッセージが必要だと申し上げた」と述べました。
また、トランプ大統領との会談について「石破総理大臣は『まずは電話会談をできるだけ早い時期に行うことを模索している。そして、交渉するのが最も適切なときに適切な材料を持って行いたい』と話していた」と述べました。
立民 野田代表「首相 閣僚の訪米 妨げるつもりは全くない」
立憲民主党の野田代表は、会談のあと記者団に対し「石破総理大臣に問題意識を共有してほしいという気持ちがあることは分かった。間違いなく日本の経済や雇用に大きな影響があるという意味で極めて深刻な事態だと受け止めており、石破総理だけではなく、閣僚が訪米することについて妨げるつもりは全くない」と述べました。
その上で「むしろ訪米の結果などを予算委員会の集中審議などでしっかり確認することが大事なので、後半国会は、関税の議論が増えていく可能性がある」と述べました。
維新 前原共同代表「どうしたら人間関係つくれるか考えて交渉を」
日本維新の会の前原共同代表は会談のあと記者会見し「石破総理は『誰に話せばトランプ大統領に伝わるかが分からん』という言い方をしていたが、結果として、人間的な関係を今、つくれていないことは石破総理自身が責任を負うべきことだ。すべての国民の命や生活を背負っているので、どうしたら人間関係をつくれるかということを考えて交渉してほしい」と述べました。
国民 玉木代表「9日までに訪米を 経済政策が必要」
国民民主党の玉木代表は、会談のあと記者団に対し「関税措置が発動される今月9日までに石破総理大臣は訪米し、トランプ大統領と首脳会談を行い、何らかのアプローチをするべきだと伝えた」と述べました。
その上で「中小企業の賃上げの原資を奪い、国内の景気が冷え込む可能性が極めて高い。今こそ、手取りを増やす経済政策が必要であり『年収103万円の壁』のさらなる引き上げやガソリン代の値下げなど、予備費の活用や補正予算の編成も含め、ちゅうちょなくやってほしい」と述べました。
共産 田村委員長「政府は抗議して撤回を求めるべき」
共産党の田村委員長は、会談のあと記者団に対し「トランプ政権による今回の関税措置は各国の経済主権を侵害する暴挙で、政府は抗議して撤回を求めるべきだということや、国内の暮らしや雇用を守るために万全の対策を行うことなどを求めた」と述べました。
その上で「一連の事態は、アメリカの落日が始まったことが経済面でも示されたということであり、政府としてはアメリカの顔色をうかがうような外交だけでよいのかが今後、厳しく問われる」と述べました。
れいわ 山本代表「消費税の廃止や現金給付 金融緩和など必要」
れいわ新選組の山本代表は記者会見で「国内企業にダメージがあった場合に、積極財政で支援することで埋め合わせができる。政府はすでに施策を打っているようだが対策として弱く、消費税の廃止や現金給付、金融緩和などが必要だ」と述べました。
また「石破総理がすぐに訪米してトランプ大統領と会談すべきだという意見もあるが、悪手だと思う。アプローチを変えて、ほかの国々と『被害者の会』を結成し、束になってアメリカにプレッシャーをかけていくべきだ」と述べました。
【自民】地方組織 政策責任者の会議でも関税に意見
自民党は4日午後、夏の参議院選挙の公約づくりに向けて、全国の都道府県連の政策責任者らが出席する会議を党本部で開きました。
冒頭、小野寺政務調査会長は「関税の問題は自動車のみならず、農林水産業や医薬品などすべての産業に影響を与える。どのような対策が必要なのか、地元の声を吸い上げて課題を示してもらいたい」と述べました。
このあと、出席者から「地元の産業や雇用に大きな影響がある」といった懸念が相次いだほか「強いリーダーシップのもと、政府・与党が一体となって取り組んでいる姿勢を明確に示すべきだ」などの意見が出されました。
自民党は地方組織から出された意見を関税措置を受けた政府への提言に反映させることにしています。
【自民】対策本部 自動車業界団体から聴き取り
自民党は4日朝、対策本部の会合を開きました。
冒頭、小野寺政務調査会長は「アメリカの関税措置は、日本のみならず、世界経済全体に多大な影響を及ぼすもので極めて遺憾だ。党としても、現場の声を聞きながら、議論を深め、さらなる対応について政府に申し入れたい」と述べました。
4日の会合では「日本自動車工業会」など自動車関係の業界団体から聴き取りを行い、団体側は、追加関税の適用除外に向けたアメリカとの交渉の継続や、部品製造などを担う中小企業に対する資金繰り支援などを求めました。
このあと出席した議員からは「国内産業や雇用を守るためにあらゆる政策を早期に打つべきだ」という意見や「関税措置の見直しに向けてしっかり外交交渉を行う必要がある」という指摘などが出されました。
また、対抗措置を求める声のほか、自動車の輸出が減る場合、国内需要を喚起する政策が必要だという意見も出たということです。
日本自動車工業会 “サプライチェーン壊れると修復難しい”
日本自動車工業会の片山正則会長は自民党の対策本部の会合のあと記者団の取材に応じ「一度サプライチェーンが壊れると修復が難しいので、まずは短期のところで、資金的な支援をお願いした。われわれは開かれた自由貿易が基本的なスタンスなのでちゃんと守っていくし、逆に相手の国にもそれを理解してほしいという話もした」と述べました。
また、日本自動車部品工業会の茅本隆司会長は「日本の中で、ものづくりが空洞化していくことが非常に怖い。中堅・中小企業を含めて、非常にいい技術を持っているが、関税を機にそれが失われると、取り戻せなくなる。ものづくりの力が落ち、サプライチェーン全体が弱るのが非常に怖いという話をさせていただいた」と述べました。
その上で「交渉で関税が除外になればありがたいし、税率が低減されるのもありがたいので、粘り強く交渉してほしいというお願いをした」と述べました。
国内自動車メーカーの動き 日産は米での高級車受注を停止
日産自動車はメキシコの工場で生産してアメリカに輸出している高級車ブランド「インフィニティ」の2車種について、現地での受注を停止することになりました。
会社によりますとこの2車種はメキシコやアメリカなどで現地調達する部品の割合が少ないため、関税の影響を受けるということです。
一方、アメリカの工場では、SUV=多目的スポーツ車を生産するラインで減産を計画していましたが、今回の関税措置を受けて生産体制を維持することにしました。
このほか、マツダは、アメリカの工場の生産余力があることから現地で需要が高まっているハイブリッド車の販売を強化し、現地生産の割合を増やしたいとしています。
一方、日本の自動車メーカー各社はただちに販売価格を値上げすることには慎重な姿勢で、現地での増産や生産コストの削減などの対策を検討することにしています。
【野党】議連が要請書 “首相がトランプ大統領と直接交渉を”
野党の議員連盟「自動車産業の未来を考える会」の会長を務める国民民主党の礒崎副代表や、立憲民主党の重徳政務調査会長らは国会内で自民党の小野寺政務調査会長らと面会しました。
この中で、礒崎氏は「アメリカが自動車にかけた25%の関税に、日本としてしっかり対応してほしい」と述べました。
そして、事態を打開するため、石破総理大臣がトランプ大統領と直接、交渉することに加え、国内の関係企業に速やかな情報提供を行うことや資金繰りや雇用確保に万全を期すことなどを求める要請書を手渡しました。
これに対し小野寺氏は「国民生活全般に関わる大きな課題なので、与野党で協力して、しっかり対応していきたい」と応じました。
小野寺政調会長 米臨時代理大使に措置の撤回求める
自民党の小野寺政務調査会長は、4日午前、党本部でアメリカのヤング臨時代理大使と会談しました。
この中で小野寺氏は、会談に先立って開かれた党の対策本部の会合で、今回の関税措置に厳しい意見が相次いだことを伝えた上で、措置の撤回を求めました。
これに対し、ヤング臨時代理大使は本国に要望を伝えると応じました。
このあと小野寺氏は記者団に対し「日本とアメリカは同盟国として、長い間、信頼関係をつくってきた。これだけの関税をかけられることに、強い憤りを持っているということを伝えた」と述べました。
株価 終値3万4000円割れ 2日連続の大幅下落
“相互関税”波紋広がる「撤回可能性なし」米商務長官
【首相や閣僚 与野党からも発言相次ぐ】
石破首相 “国難ともいうべき事態” 党首会談へ
石破総理大臣は、衆議院内閣委員会で、トランプ政権による関税措置について「わが国は、アメリカにとって最大の投資国であり、最大の雇用も創出してきた。『わが国だけ勘弁してね』というようないいかげんなことを言っているわけではなく、そういう意味で極めて遺憾であり不本意だ」と述べました。
その上で「税率の積算根拠が全く分からない。どうしてこうなるのかということは、感情的にならず、きちんとただしていくことが必要だ」と述べ、引き続き、税率の根拠をアメリカ側にただしていくと説明しました。
そして「国難とも称すべき事態で、政府・与党のみならず、野党各党も含めた超党派で検討、対応する必要がある。国、与野党を挙げて取り組み、これ以上ない対応をしていく」と述べ、4日午後の党首会談を通じて、与野党の意見を聴き、対応に万全を期す考えを強調しました。
日銀 植田総裁 “経済を下押しする要因になる”
日銀の植田総裁は4日、衆議院の財務金融委員会に出席し、トランプ政権が公表した相互関税などの関税政策の影響について「さまざまなルートを通じて世界経済および日本経済に下押しの圧力を働かせる要因になる」と述べ、懸念を示しました。
一方、今後の物価への影響については
▽経済が下押しされれば物価を押し下げる方向に働く可能性がある一方
▽世界的な供給網に影響が出れば物価を押し上げる方向に働く可能性もあるとした上で、関税政策による影響を注視するとしました。
その上で植田総裁は、経済が急変した場合の金融政策での対応を問われたのに対し「外部環境が大きく変化した場合は日銀の経済・物価の見通しも変化すると思うので、それに合わせて適切な政策対応をとりたい」と述べました。
林官房長官 “超党派で検討 対応する必要がある”
アメリカのトランプ政権の関税措置について、林官房長官は、党派を超えて検討すべき課題だとして、石破総理大臣と与野党の党首との会談で野党の意見も聴き、対応に万全を期す考えを示しました。
林官房長官は、4日の閣議のあとの記者会見で、アメリカのトランプ政権の関税措置について「一方的な措置をとるべきでないと申し入れてきたにもかかわらずアメリカが発表したことは、極めて遺憾だ」と述べ、石破総理大臣の指示を踏まえ、関係閣僚で協力し、政府を挙げて必要な取り組みを進めていく方針を重ねて強調しました。
その上で「政府・与党のみならず、野党各党を含めた超党派で検討、対応する必要がある」と述べ、石破総理大臣と与野党の党首との会談で、野党の意見も聴き、対応に万全を期す考えを示しました。
武藤経産相 “国益を守る観点から見直し求める”
武藤経済産業大臣は4日の閣議のあとの会見でこの関税措置が発動される今月9日までの間のアメリカへの対応を問われたのに対し「アメリカと日本はそれぞれ立場が違うが、国益をいろいろと考えながら、成すべきことを必ずや成し遂げていかなければならない」と述べ、国益を守る観点から、アメリカに措置の見直しを強く求めていく考えを改めて示しました。
一方、経済産業省は、3日、関税措置の影響を受ける企業への資金繰り支援などを決めていますが、武藤大臣は、「国内産業への影響の把握を速やかに行いながら、追加の対応も検討していく」と述べ、国内産業への影響の大きさによっては、追加の対応も検討していく考えを示しました。
江藤農相 “食品産業全体 きめ細やかな情報収集”
江藤農林水産大臣は4日の閣議のあとの会見で、農林水産物と食品の輸出額が1兆5000億円まで伸びてきていることを指摘した上で「一番の輸出先は何と言ってもアメリカだ。そこが非常に高い関税を課してくるとなれば、非常に影響はある」と述べました。
その上で「どのような影響があるのか生産現場だけでなく食品産業全体にわたってきめ細やかな情報収集をし、資金繰りも含めてどのような対応が可能か早急に検討を進めていきたい」と述べ、国内の農林水産業や食品産業への影響を精査し、対応策の検討を進めていく考えを示しました。
また、トランプ大統領が日本はアメリカ産のコメに700%の関税をかけていると批判したことに関連し、コメの関税の引き下げやアメリカからの輸入拡大などの対応を考えているか問われたのに対し、江藤大臣は「いま、そのようなところに踏み込む段階ではない。まずは影響をしっかり分析する」と述べました。
中野国交相 国際物流への影響精査
中野国土交通大臣は、閣議のあとの会見で「米国政府から一方的な関税措置が発表されたことは、私も大変遺憾に思っている」と述べました。
その上で「例えば国際物流については、グローバルなサプライチェーンへの影響が想定されるが、そのほかの所管分野への影響も含めて精査、分析していく」と述べました。
また、アメリカ政府が、非関税障壁として自動車関連の基準や認証の手続きに言及していることについて「わが国の基準や認証の手続きは国連の基準に合致しているものだ」と述べました。
公明 齋藤代表 “この難関を乗り越えていけるかが重要”
アメリカのトランプ政権による関税措置を受けて、公明党は4日朝、政務調査会の関係部会による合同会議を開きました。
この中で、斉藤代表は「日本経済全体や個別の産業に与える影響が非常に大きい。私の地元は自動車産業が盛んな広島だが、私のもとにも心配の声が寄せられている。いかにこの難関を乗り越えていけるかが重要であり、われわれとして何ができるか議論したい」と述べました。
そして、会議では、外務省や経済産業省の担当者から関税措置の内容などについて説明を受け、出席者からは、経済への影響など状況を的確に把握することや、各国との緊密な連携を求める意見などが出されました。
立民 野田代表 “総理みずから じか談判を”
立憲民主党の野田代表は、記者会見で「これまで外務大臣や経済産業大臣がアメリカ側と交渉してきたことが、トランプ大統領にあがっているのか。日本の主張が大統領に届いていないのではないかと心配している」と述べました。
その上で「石破総理みずからが、先頭に立って、じか談判し、日本の基本的な姿勢を示すことが大事ではないか。もし訪米するなら、それを妨げるものではないし、少なくとも電話会談は、早めにした方がいい」と述べました。
また「さまざまな分野に影響が出てくるので、政府は、省庁横断的なチームを作り、総力を挙げて交渉すべきだ。『日本を例外扱いしてほしい』と言っていてもきりがないので、ほかの国に呼びかけながら、国際協調路線の先頭に立つ構えを示すべきだ」と指摘しました。
維新 前原共同代表 “政府の外交力不足”
日本維新の会の前原共同代表は党の代議士会で「追加関税の適用除外を要請して全く実現できなかったことは政府の外交力不足であり、しっかりと、ただしていかなければいけない。関税で報復し合えば、もっと悪い状況を生むので、冷静にしっかり交渉することが大事だ」と述べました。
“トランプ関税” いまどうなってる?
2025年4月16日 NHK
トランプ関税は大きく分けると国別の関税、品目別の関税、そして全世界対象の関税と3つに分類されます。(日本時間4月15日時点)
このうち国別では、中国にはもともとフェンタニルなどの薬物の流入が続いているとしてトランプ政権はあわせて20%の追加関税を課していました。そこに相互関税の34%、さらに50%、すべてをあわせると145%になるとしています。
カナダやメキシコへの関税も国別の関税です。
品目別では鉄鋼製品やアルミニウム、それに自動車への関税はすでに発動されていて、25%の関税がかかっています。
そして全世界を対象にした一律関税10%は4月5日にすでに発動されているんですが、貿易赤字が大きい国や地域を対象にした「相互関税」は90日間、措置が停止となっています。
スマホは関税かけるの?かけないの?
4月11日金曜日の夜遅くに税関・国境警備局がスマホについては相互関税の対象から外れると発表しました。
ところが4月13日になって、トランプ大統領がSNSに「金曜日の発表は関税の除外ではない。別の関税バケツに移されただけだ」と投稿。
この投稿に先立ち、ABCテレビに出演したラトニック商務長官も「スマホについては相互関税の適用除外になるものの、半導体向けの関税に組み入れる」と説明しており、1,2か月以内に発動する見通しだとしていました。
IT大手アップルのスマートフォンは多くが中国で組み立てられています。このため、今後、仮にアメリカ国内で製造できたとしても価格は現在の3倍ほどになるのではとの専門家の見方も出ていました。
中国からの輸入に依存するスマホは関税の適用除外かと思いきや、別の半導体関税の中に組み入れられるとの情報が飛び出し、迷走が続いています。
そもそも関税どうやって納める?
まず、関税というのは輸入する国の企業や人が払う仕組みになっています。アメリカの場合はアメリカ側の企業や人が支払うということです。
そして、関税の納付先はCBP=税関・国境警備局という組織です。関税の実務を取り仕切っている組織です。
国土安全保障省の傘下にあり、6万人以上の職員を全米各地に配置する世界最大級の法執行機関だとしています。税関だけでなく、出入国管理、検疫、それに国境警備などもあわせた巨大組織です。
具体的な手続きは?
実際の通関の手続きはかなり複雑なので、単純化して一般論で説明します。日本からのモノをアメリカに輸入するケースです。
[1] 船で運ばれたモノは保税地域に置かれます。関税を支払う前の段階です。関税を払わないとここから荷物を出すことはできません。
[2] 輸入業者は荷物が港に到着後、15日以内に輸入の書類をCBPに提出する必要があります。
[3] 荷物の検査を受ける場合があり、その場合は書類の申告通りか検査を受けます。輸入業者は関税をCBPに支払って、これでモノをアメリカ国内に運びこむことができます。
[4] 輸入する企業や人が支払った関税はアメリカ政府の収入になります。
関税率はモノによって違う?
品目ごとに異なる関税率が割り当てられています。
アメリカの関税率が掲載された資料はなんと4400ページ、膨大なページ数です。この資料には品目ごとにHSコードという6桁の数字が割りふられています。HSコードは関税番号などと呼ばれ、世界税関機構(WCO)に加盟している多くの国や地域が使用しています。
そしてアメリカでは関税は3つの区分に分類されます。
通関は大変な作業に?
JETRO=日本貿易振興機構がアメリカで日系の通関業者にヒアリングを行ったところ、繁忙感が強まっているとのことです。
関税の対象となる国や地域、品目の拡大によって取り扱いが増加していること、さらに頻繁に制度が変わっていることが現地では大きな負担になっているそうです。
通関にかかる時間も延びているようです。通関に時間がかかれば、アメリカ国内で必要な製品が予定通りに届かないことになり、企業のビジネスに支障がでてくるおそれもあります。
トランプ関税 企業業績への影響は?
トランプ関税を輸入した企業が自社で負担するのか、製品へ価格を転嫁するのか、企業によって対応は分かれそうです。
自社で負担すればコストが膨らむことになり、積み重なれば業績にも影響がでかねません。また、取引先に値下げを求めるかもしれず、取引先もどうなるのかと不安になります。
一方、製品に関税分を上乗せすればアメリカ国内の物価が上昇し、インフレが再び加速することにもなりかねません。
アメリカ企業にもアメリカでビジネスを行う日本企業にもマイナスの影響が出かねませんし、インフレになれば経済そのものが減速するリスクもあり、懸念が強まっています。
【Q&A】グーグルに公取委が「排除措置命令」米巨大IT企業へ初
2025年4月16日 NHK
インターネット検索最大手のアメリカの「グーグル」が、スマートフォンのメーカーに対し自社のアプリを搭載させる契約を結ぶなど独占禁止法に違反する行為をしていたとして、公正取引委員会は違反行為の取りやめなどを求める排除措置命令を出しました。「GAFAM」と呼ばれるアメリカの巨大IT企業に公正取引委員会が排除措置命令を出すのは初めてです。
公正取引委員会によりますと「グーグル」は、遅くとも2020年7月以降、国内で販売される「アンドロイド」端末のスマートフォンのメーカーに対し、アプリストアの「グーグルプレイ」の使用許諾を与える際、閲覧アプリの「クローム」などをあわせて搭載し、画面上の目立つ位置に配置するよう求める契約を結んでいました。
去年12月時点でメーカー6社と契約を結び、国内で販売される「アンドロイド」のスマホの少なくとも8割以上が対象になっていたということです。
また、検索と連動する広告サービスで得た収益を分配する条件として、競合他社の検索アプリなどを搭載せずに排除するようメーカーなどに求めていたということです。
公正取引委員会は、グーグルが自社を優遇し、取引先の事業を不当に拘束して独占禁止法に違反したと認定し、15日、違反行為の取りやめや再発防止などを求める排除措置命令を出しました。
行政措置の中で最も重く、命令に従わない場合、罰金などが科されます。
また、公正取引委員会は今回、命令としては初めて、再発防止の取り組みなどを独立した第三者が5年間監視し履行状況を報告することを求めました。
「グーグル」や「アマゾン」などアメリカの巨大IT企業「GAFAM」をめぐっては、アメリカやヨーロッパの当局などが規制強化に乗り出していますが、日本の公正取引委員会が排除措置命令を出すのは初めてです。
公正取引委員会「スマートフォン競争環境の整備に大きく寄与」
公正取引委員会の大胡勝審査局長は15日の会見で「今回の排除措置命令はいま、国民の生活必需品となっているスマートフォン分野における競争環境の整備に大きく寄与すると考えている。今後も、デジタル分野で独占禁止法に違反する疑いがあるという情報に接した場合には、積極的かつ厳正、的確に対処していきたい」と述べました。
グーグル「今回の排除措置命令を慎重に検討」
公正取引委員会から排除措置命令が出されたことについて、グーグルは「日本のスマートフォンメーカーや通信事業者は、グーグルとの取り引きを強制されていません。自らの事業や日本におけるユーザーにとって最良の選択肢として、自らグーグルを選択している」として遺憾だとしています。
そのうえで「今回の排除措置命令を慎重に検討し、アンドロイドが日本の消費者、スマートフォンメーカーおよび通信事業者にとって競争力のある選択肢であり続けられるよう、公正取引委員会と協力して取り組んでまいります」としています。
初めての「排除措置命令」 狙いと経緯は
今回の初めての排除措置命令は、公正取引委員会がプラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業を相手に厳格な態度で臨む姿勢を示した形です。
公正取引委員会は近年「GAFAM」と呼ばれるアメリカの巨大IT企業の日本法人などに立ち入り検査をしたり市場の実態調査を行ったりするなど、監視を強めています。
独占禁止法に違反するかどうか調べる審査は通常、行政処分が決まるまで公表されませんが、公正取引委員会はおととし10月、グーグルへの審査を始めた際に概要を公表し情報提供を呼びかけました。デジタルプラットフォーム事業者が関係する事案については、審査を始めた段階で公表し広く情報を収集する手法が初めて適用されたのです。
関係者によりますと、審査開始から1年以上がたった去年11月ごろ、グーグル側は自主的に改善計画を提出し、認定されれば排除措置命令などが免除される「確約手続き」を申し出ました。「確約手続き」は、公正取引委員会が問題となる行為を認定する一方、違法性については「疑い」にとどめることで、調査の期間を大幅に短縮でき、市場の競争環境を回復する効果的な手段として活用が進んでいます。
グーグルをめぐっては、去年4月、インターネット広告の配信事業で、競合する「LINEヤフー」の事業を不当に制限したなどの行為について、この「確約手続き」に基づき公正取引委員会が改善計画を認めました。
しかし、今回のケースではすでに審査から1年以上がたっていて、違反事実の認定も進んでいたことなどから、公正取引委員会はより重い行政処分の「排除措置命令」に踏み切ったとみられます。
「GAFAM」に対する調査はこれまでも行われてきましたが、確約手続きなどで終わり、命令を出したケースはなく、公正取引委員会の幹部の1人は「証拠がそろっているのだから命令を出すときには出すという姿勢を示すことが企業側の自主的な改善の機運を生むことにつながる」と話しました。
過酷「郵便局」労働 在職死がまたも…48歳男性、狭心症発作の数時間後、猛暑の中で配達に追われ残業まで
2025年4月28日 東京新聞
過酷な営業ノルマなどが問題視されてきた郵便局で働く人の突然死や自死が後を絶たない。過労死遺族らによると、2024年には深夜勤務の非正規職員ら5人が死亡した。そのうちの一人、武蔵野郵便局(東京都武蔵野市)で働いていた男性は昨年7月に突然死。遺族らは過労が原因として、近く日本郵便に損害賠償を求める訴訟を起こす方針だ。(竹谷直子)
◆生前「おにぎりすら食べる時間なし」 休憩時間がない日も
亡くなったのは、飯島淳さん=当時(48)。遺族によると、死因は虚血性心疾患。35度を超える炎天下での作業が続き、生前に「おにぎりすら食べる時間がない」とこぼしていたという。会社側が遺族の求めに応じて開示した勤務記録では、休憩時間は15分や、全く取れていない日が複数あった。
息子の淳さんの写真とともに原因究明を求める両親=東京都立川市で(竹谷直子撮影)
解剖した胃の中には何も入っていなかった。「冷蔵庫には焼き肉弁当がそのまま残っていた。ほとんど食事も取れない状況で働いていたのかもしれない」。飯島さんの母親(81)は涙ながらに話す。
飯島さんは、1996年に就職し、武蔵府中郵便局(東京都府中市)で約27年間、集配業務を担当した。2023年10月に武蔵野郵便局に転勤を命じられ、複数の配達地域を任された。
父親(78)は「アルバイトや再雇用の人が多く、現場は人手不足だった」と話す。飯島さんは、仕事に追われ、2024年3月ごろには「眠れない」と口にし、4月には友人に「10キロ痩せた」と話していたという。
◎視点:民営化の影響
ロシア軍 クルスク州すべて奪還の可能性 残り1つの集落を包囲
2025年4月22日 NHK
ロシア国営のタス通信は22日、ウクライナ軍が越境攻撃を行ってきたロシア西部のクルスク州で、ロシア軍が、ウクライナが掌握している残り1つの集落を包囲する作戦を開始したと報じ、ロシアがクルスク州を奪還する可能性が出てきました。
ウクライナ軍は去年8月、ロシア西部のクルスク州に越境攻撃を開始し、一時は1300平方キロメートルを掌握しました。
その後、ロシア軍が反撃し、今月19日、ロシア軍のゲラシモフ参謀総長は掌握された領土の99.5%を奪還したと明らかにしていました。
こうした中、ロシア国営のタス通信は22日、クルスク州でウクライナが掌握している集落は残り1つで、ロシア軍がこの集落を包囲する作戦を開始したと報じました。
集落に隣接した修道院を奪還したとも伝えていて、ロシアがクルスク州を奪還する可能性が出てきました。
ロシアの複数の外交筋によりますとロシア側は、ウクライナとの停戦交渉に向けて、アメリカとの首脳会談を行う条件の一つとして、クルスク州からのウクライナ軍の撤退を求めているということで、クルスク州をめぐる情勢の行方が焦点となります。
ゼレンスキー氏とトランプ氏、教皇の葬儀の前に会談
2025年4月26日 BBC NEWS JAPAN
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とアメリカのドナルド・トランプ大統領は26日午前、キリスト教カトリック教会の教皇フランシスコの葬儀を前にヴァチカンで会談した。 両政府の関係者が認めた。教皇の葬儀は同日午前10時(日本時間午後5時)から始まり、約2時間続いた。
ホワイトハウスによると、両大統領は聖ペトロ大聖堂の中で、葬儀ミサを前に15分間、会談した。 ホワイトハウスは会談を「非常に生産的」なものと評した。協議内容の詳細は明らかにされていない。
ウクライナのアンドリー・イェルマーク大統領首席補佐官は、両大統領がいすに座って向き合う場面の写真を公開した。
両大統領が対面するのは、2月28日にホワイトハウスの大統領執務室で、記者団を前に口論して以来だった。
教皇の葬儀ミサが終わって間もなく、トランプ大統領を乗せた大統領専用機は26日午後、ローマを出発した。トランプ氏はローマ郊外のレオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港で、手を振ってから専用機に乗り込んだ。
ゼレンスキー大統領は葬儀ミサの後、トランプ大統領との会談についてソーシャルメディア「X」に投稿。「私たちは一対一で、たくさんのことを話し合った。二人で話題にしたすべてについて結果が出るよう望んでいる。私たちの国の人たちの命を守ること。完全かつ無条件の停戦。またしても戦争が起きるのを防ぐ、信用できて恒久的な平和。もし共同で成果を出せれば、これは歴史的なものになり得る、非常に象徴的な会談だった。米大統領、ありがとう」と、ゼレンスキー氏は書いた。
ゼレンスキー氏は教皇の葬儀の後、フランスのエマニュエル・マクロン大統領とイギリスのキア・スターマー首相とそれぞれ個別に会談した。
トランプ大統領はその後、自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、「この数日、プーチンが民間の地区や都市や町にミサイルを撃ち込む理由などなかった。こうなると、もしかして彼は戦争をやめたいわけではなくて、ただ私をいいようにあしらっているだけで、『金融』とか『二次制裁』とか、別の形で相手をする必要があるのかもしれないのか? あまりに死ぬ人が多すぎる!!!」と書いた。
各国首脳と並び参列
聖ペトロ大聖堂内で言葉を交わす(左から)マクロン仏大統領、スターマー英首相、トランプ米大統領、ゼレンスキー・ウクライナ大統領画像提供,Andriy Yermak/Telegram
画像説明,聖ペトロ大聖堂内で言葉を交わす(左から)マクロン仏大統領、スターマー英首相、トランプ米大統領、ゼレンスキー・ウクライナ大統領
トランプ大統領とゼレンスキー大統領は、ウィリアム英皇太子、キア・スターマー英首相、エマニュエル・マクロン仏大統領を含む各国の国家首脳や王室関係者らとともに、ヴァチカンの聖ペトロ広場で行われた葬儀に参列した。
ウクライナのイェルマーク大統領首席補佐官が公開した別の写真には、トランプ氏、ゼレンスキー氏、マクロン氏、スターマー氏が大聖堂内で肩を寄せ合って言葉を交わす様子が写っている。
各国代表は、葬儀が始まるまで聖ペトロ大聖堂に安置されていた、棺(ひつぎ)に納められた教皇を弔問した。弔問を終えたゼレンスキー大統領が、聖職者や一般参列者が数万人集まった広場に出ると、拍手がわき上がった。
これに先立ちトランプ大統領は、葬儀参列のためにイタリアに到着した際、ロシアとウクライナが和平をめぐる「合意にとても近い」と専用機内で記者団に話した。
その数時間前には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とアメリカのスティーブ・ウィトコフ中東担当特使が、モスクワで3時間にわたり会談していた。
ロシアのユーリ・ウシャコフ大統領補佐官は、プーチン氏とウィトコフ氏の会談について、「建設的で非常に有益」だったとし、ロシアとウクライナの直接協議の再開が主な議題になったと説明していた。
出所者の生き方を「変える」、社会に「帰る」…弁護士や犯罪心理学者が設立した財団の更生プログラムとは
2025年5月2日 東京新聞
弁護士や犯罪心理学の専門家が協力し、出所者の社会復帰を支える一般財団法人「フロッグサークル財団」(東京)が設立された。財団が提供するプログラムを通じて出所者が学び合い、内面の問題を乗り越え、再犯防止を目指す。懲役刑と禁錮刑をなくし、更生支援を明確に掲げた拘禁刑が6月に施行される中で、出所後に人間成長や困難からの回復を実現する場として注目を集めそうだ。
◆親愛を込めて利用者を「フロッグ」と呼ぶ
財団名のフロッグは英語でカエルの意味。生き方を「変える」、社会に「帰る」などの意味もあり、出所者がつながり合って生きるとの願いを込めた。財団では利用者を「フロッグ」と呼び親愛を示す。
内面を見つめるプログラムを試行するフロッグサークル財団のメンバーら=東京都内で(海渡弁護士提供)
30年にわたって刑事施設の人権問題に取り組んできたNPO法人監獄人権センター(CPR)の弁護士らを中心に準備を進め、3月に発足した。
活動では、グループでの対話をベースに自分の課題を探り、成長を目指す「治療共同体」のプログラムを取り入れる。2008年に開設された官民共働の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」でも実践され、再犯防止に効果を上げてきた。そのほか、フロッグと受刑者との文通や家族会の活動なども後押しする。
★治療共同体
困難を抱えた人たちが共に支え合いながら、回復を目指す仕組み。感情の認識能力の向上や過去の体験を分かち合いなどさまざまなプログラムがある。
日銀 植田総裁 関税措置の影響で“経済の成長ペースは鈍化”
2025年5月1日 NHK
日銀の植田総裁は1日の金融政策決定会合のあとの会見で、アメリカのトランプ政権の関税措置の影響で経済の成長ペースは鈍化するとしたうえで、次の追加の利上げついては関税をめぐる状況の変化で先行きの見通しが変わる可能性があるとして、適切な時期を示すのは難しいという認識を示しました。
日銀は1日まで開いた金融政策決定会合で政策を維持したうえで、この先の経済成長率の見通しについて、ことし1月に示した前回の予測よりも大きく引き下げました。
これについて会合のあと会見した植田総裁は、経済の先行きについて不確実性は従来以上に大きいとした上で「各国の通商政策などの影響を受けて海外経済が減速し、国内企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化する」と述べました。
また、賃金の動きを中心に試算した物価の指標で日銀が金融政策の判断にあたって重視している『基調的物価』については「足踏み状態というパスを見ている」と述べ、これまでの上昇傾向がいったん途絶えるという見方を示しました。
日銀はこの基調的物価が目標としている2%に届く見通しとなれば追加利上げをする構えでしたが、植田総裁は「見通しの確度が高まったという判断ができるかはなかなか難しい問題だ。関税を含む諸条件の変化で見通しの変更を迫られるケースもかなりの確率であると思う。次の利上げのタイミングは大きく前後する」と述べ、次の追加利上げは適切な時期を示すのは難しく、関税措置やその影響を慎重に見ていく必要があるという認識を示しました。
注目
==【詳しく】植田総裁 記者会見==
植田総裁は1日午後3時半頃から記者会見しました。
注目
【会見 ノーカット動画】
(動画は1時間3分、データ放送ではご覧になれません)
国内経済の先行き「成長ペースは鈍化」
国内経済の先行きについて「各国の通商政策などの影響を受けて海外経済が減速し、国内企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化する」と述べました。
その上で、リスク要因については「各国の通商政策などの今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向をめぐる不確実性はきわめて高く、金融・為替市場や国内経済・物価への影響については、十分注視する必要がある」と指摘しました。
米 相互関税「各国間交渉 ある程度進展の前提」
今回示した展望リポートの前提について「アメリカによる相互関税の発表以降、各国の通商政策を巡る不確実性は極めて高い状態にあり、今後の展開をめぐってはさまざまな見方が存在する。こうした中で今回の展望レポートでは各国間の交渉がある程度進展するほか、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような状況は回避されることなどを前提にした」と述べました。
今後の金融政策「経済物価の改善応じ 政策金利引き上げ」
今後の金融政策運営について「現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、経済物価の見通しが実現していくとすれば経済物価情勢の改善に応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と述べました。
その上で見通しが実現するかどうかについて「各国の通商政策などの今後の展開やその影響をめぐる不確実性が極めて高い状況にあることを踏まえ、内外の経済物価情勢や金融市場の動向などを丁寧に確認し、予断を持たずに判断していくことが重要だ」と述べました。
物価目標達成の時期「やや後ずれ」
目標としている2%の物価安定を達成する時期について「見通し期間が延びてその後半ということなので、やや後ずれしているという姿になっている」と述べました。
そのうえで、金融政策への影響については「これまでのように割と単調に基調的物価が2%の上昇率に収束していく姿から一旦、足踏みするようなところを経てまた上昇するという姿に修正している。そのなかで見通しの確度が高まったという判断ができるかはなかなか難しい問題だと思う。その辺柔軟に考えて政策対応をしたい」と述べました。
経済と物価見通し「おおむねオントラック」
経済と物価の見通しについて「経済と物価は足元ではおおむねオントラックできている。ただし、懸念していたアメリカの関税政策が、4月2日の時点では、かなり悪いほうに振れた。その後は若干の巻き戻しがあって現在はもうひとつ分からない状態になっている。見通しではある程度交渉の進展があることを織り込んでいるが、それでも無視できないレベルの関税が残るということを前提にした見通しになっている。その結果見通しがやや下振れたという姿になっている」と述べました。
関税影響の見極め「何とも言えない」
アメリカのトランプ政権による関税政策の影響を見極められる時期について「(相互関税の)猶予措置の期間としている90日間がポイントの1つになるとは思う。ただ、その手前でも例えば現在の日米の交渉のように順次行われている交渉もあるし、90日たっても、まだの部分も残ると思うので、そこは何とも言えないと思う。関税政策がいったん、これでいくとセットされても多少の不確実性は残り、断定しにくい状態が続くのではないか」述べました。
「次の利上げのタイミングは大きく前後」
次の利上げのタイミングについて「関税を含む諸条件の変化で展望レポートの見通しの変更を迫られるケースもかなりの確率であると思う。そういったことがどういうふうに起こるか次第で、次の利上げのタイミングは大きく前後する」と述べました。
利上げのタイミング “必ずしも後ずれではない”
次の利上げのタイミングについて「基調的物価が2%に到達する時期はやや後ずれということだが、その上で、利上げの時期が同じように後ずれするかというと必ずしもそうではない」と述べました。
また、経済や物価の先行きの不確実性が高まるなかでも利上げの方向性を維持した理由については「見通し期間の後半では基調的物価が2%に到達するという見通しが維持されているということがある」と述べました。
「無理に利上げ 考えていない」
日銀の植田総裁は基調的な物価上昇率が伸び悩んだ際に、利上げをするのか問われたのに対して「無理に利上げすることは考えていない。ただ、足元で物価が伸び悩んでいても、その先にいろいろな条件が重なり、物価が上がり出して(物価目標に)到達する可能性がすごい高くなったと判断した場合には利上げをするということだ」と述べました。
日銀 “政策金利 0.5%程度で据え置き”
日銀は5月1日、2日目の金融政策決定会合を開き、いまの政策を維持することを決めました。
政策金利を据え置き、短期の市場金利を0.5%程度で推移するよう促します。
アメリカのトランプ政権が関税措置を発動し、金融市場でも不安定な動きが続くなか、今回は金融政策を変更せずに経済や物価への影響を慎重に見極めるべきだと判断したとみられます。
また、日銀が1日に公表した経済と物価の最新の見通しでは、9人の政策委員の見通しの中央値で
▽今年度のGDP=国内総生産の実質の伸び率はプラス0.5%と、ことし1月に示した前回見通しのプラス1.1%から大幅に引き下げたほか
▽来年度もプラス0.7%と前回見通しのプラス1.0%から引き下げました。
さらに生鮮食品を除いた消費者物価の上昇率は
▽今年度はプラス2.2%で前回見通しのプラス2.4%から引き下げ
▽来年度もプラス1.7%と前回見通しのプラス2.0%から引き下げました。
関税措置によって輸出の減少や企業の投資が慎重になるリスクなどを反映していることがうかがえます。
日銀は経済・物価の情勢をみながら、さらなる利上げを検討する方針を示してきましたが、今回、先行きの見通しが慎重になった形で、植田総裁がこのあとの会見で今後の金融政策の方向性をどのように説明するかが焦点となります。
物価安定を達成する時期「2027年度までの見通し期間後半」
日銀は「展望レポート」の中で、目標としている2%の物価安定を達成する時期について「2027年度までの見通し期間後半には物価安定の目標とおおむね整合的な水準となる」とする見通しを示しました。これまでは今年度=2025年度の後半から2026年度中としていました。
そのうえで経済・物価の見通しが実現していけば、経済・物価情勢の改善に応じて引き続き利上げをしていくとする方針を示しました。
“経済・物価の見通し 下振れリスク大”
日銀は展望レポートの中で今後の経済の見通しについて、アメリカのトランプ政権の関税措置を念頭に「各国の通商政策の影響で海外経済が減速し、国内でも経済の成長ペースが鈍化すると考えられる」としています。
そのうえで、海外経済が減速することで輸出、生産が弱めの動きになり、企業の収益も高い水準ながら減少するとみられるとしています。企業の設備投資も海外経済の減速の影響で伸びの鈍化が見込まれると指摘しています。
また物価面については、経済成長のペースが鈍化する影響などを受けて基調的な消費者物価の上昇率は伸び悩み、その後は人手不足感が強まることなどで徐々に高まっていくと予想しています。
さらに、こうした経済の見通しや物価の見通しはいずれも下振れするリスクが大きいと指摘しています。とりわけ経済の見通しのリスクについては「最近打ち出された各国の通商政策はさまざまな経路を介して内外経済を下押しする方向に作用する。広範な関税の導入はグローバルな貿易活動に影響を及ぼすとみられるほか、関税を含む政策の不確実性の高まりが、各国の企業や家計のコンフィデンス(=将来見通し)や国際金融資本市場に大きな影響を及ぼす」としています。
物価の見通しのリスクについても「企業の賃金・価格設定行動は従来よりも積極化しており、こうした傾向は維持されると想定している。もっとも今後の各国の通商政策などをめぐり不透明感が高い状況が続くことがあれば、コスト削減に注力する傾向が強まる可能性がある。こうしたもと、物価上昇を賃金に反映する動きが弱まることも考えられる」と指摘しています。
そのうえで、こうした動きに加えて外国為替市場の変動や国際的な商品市況を含む輸入物価の動向、それが国内での価格に波及することに注意が必要だとしています。
鉱物資源合意文書に署名も“安全の保証”言及せず【ねらいは】
2025年5月1日 NHK
アメリカとウクライナの両政府は、ウクライナ国内の鉱物資源の開発を共同で行うとする経済連携協定に署名しました。一方でウクライナが求めてきた安全の保証には具体的に言及せず、今後の軍事支援などとの関係は明らかではないという見方が出ています。
ウクライナの経済省は、スビリデンコ第1副首相兼経済相とアメリカのベッセント財務長官が30日、ワシントンで復興投資基金を設立する経済連携協定に署名したと発表しました。
基金は、ウクライナとアメリカの両国が共同で運営するということで、ウクライナの一部メディアは石油や天然ガス、リチウム、チタン、ウランなど57種類の資源の開発に投資する内容だと伝えています。
その上で「いくつかの重要な項目の詳細が決まっていない」として、より詳しい内容が別途定められるとしています。
ウクライナの鉱物資源とは
アメリカのシンクタンク、戦争研究所が公開しているデータによりますと、ウクライナにはレアアースのほか、リチウムやチタン、ジルコニウムなどさまざまな鉱物資源が埋蔵されています。
データからはロシアが一方的に併合したウクライナ東部と南部の4つの州にも、鉱物資源が埋蔵されていることが分かります。
国連は、ロシアがウクライナへの全面的な侵攻を開始する前の2022年に、ウクライナ政府の高官によるレアアースなど世界中の重要な資源のおよそ5%は、ウクライナにあるとする報告を公開しています。
また、イギリスの公共放送BBCは、ウクライナがチタンについてはヨーロッパの供給量の7%を保有し、リチウムについてはヨーロッパの埋蔵量の3分の1を保有しているとしています。
協定では、ウクライナの領土や領海にあるすべての資源の所有権はウクライナにあるとしたほか、両国の対等な関係を反映し、基金の運営にあたってはいずれも過半数の議決権を持つことはないとしています。
さらにアメリカは、基金に対し直接資金を投入するか防空システムの供与といった新たな軍事支援を通して拠出するとしていますが、ウクライナが求めてきたアメリカからの安全の保証については、具体的に言及していません。
これについてアメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズは、アメリカ側が安全の保証については盛り込むのを早い段階で拒否したとする関係者の話を伝えた上で、「協定が今後のアメリカによるウクライナへの軍事支援にどのような意味を持つのか明らかではない」としています。
米 財務省「ウクライナの復興を加速させるため」
アメリカの財務省も30日、ウクライナの復興投資基金の設立でウクライナ側と合意したと発表しました。
この中で「この経済連携は、双方の資産や人材などによってウクライナの復興を加速させるためにともに投資するものだ」などとしています。
ただ、発表では鉱物資源については具体的に触れていません。
発表の中でベッセント財務長官は「歴史的な合意だ」とし、さらに「アメリカはこの残酷で無意味な戦争の終結に向けて支援することを約束する」とした上で、「ロシアに対し、トランプ政権が長期にわたって自由で主権を持つウクライナを中心とした和平プロセスに関与することを明確に示すものだ」とコメントしています。
鉱物資源の権益をめぐっては、トランプ大統領とゼレンスキー大統領がことし2月、ホワイトハウスで会談して合意文書に署名する予定でしたが、激しい口論となって見送られていました。
今回、両国が協定を署名したことで、ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの停戦をめぐる議論にどう影響するのかが注目されます。
【国際部 堀 征巳デスク解説】
Q.
ことし2月のトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談では激しい口論となって署名が見送られました。今回、合意した背景には何があるのでしょうか?
この鉱物資源をめぐるアメリカとウクライナの話し合い、首脳会談が決裂したあとも、担当者レベルでは続いてきました。
4月17日には、鉱物資源の権益をめぐる合意文書に関連して、双方の閣僚レベルで、ウクライナの復興基金の設立に向けて覚書を交わしていました。
そして、4月26日には、フランシスコ教皇の葬儀が行われたバチカンで、トランプ大統領とゼレンスキー大統領が会談し、両国の関係改善を印象づけていました。
この2か月の間、順調とは言えないまでも関係の修復が少しずつ進み、今回の合意に至ったと言えそうです。
Q.
今回の合意で、今後のアメリカのウクライナの関係、そしてロシアによる軍事侵攻が続くウクライナの停戦をめぐる議論にどんな影響があるのでしょうか?
ウクライナの停戦が実現するかどうかは、依然として予断を許さない状況だと思います。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻を続けていて、北朝鮮の兵士も戦闘に加わり攻勢を強め、ウクライナが越境攻撃したロシア西部クルスク州全域を掌握したと強調しています。
さらに、ロシアが掌握していない地域を含め、東部と南部の4州全域をロシアの支配下に置くことをプーチン大統領がアメリカ側に主張したとも伝えられています。
このため、無条件での停戦を目指してきたウクライナにとっては厳しい状況に変わりはありません。
今回、トランプ政権が鉱物資源の合意を通じて「長期にわたってウクライナの和平プロセスに関与する」姿勢を示したことで、ウクライナの停戦の実現に向けた一歩となるのか、今後の動向を注視していく必要があります。
トランプ大統領「戦争を止めたい」
アメリカのトランプ大統領は30日、アメリカメディアの「ニュースネーション」の番組に電話出演し「ゼレンスキー大統領に対してロシアはウクライナよりよっぽど大きく強いから、われわれが合意し署名できればとてもよいことだと伝えた」と述べました。
その上で「ウクライナはすばらしいレアアースを持っている。レアアースは大きな資産だ」と述べて、ウクライナ産レアアースの価値を高く評価しました。
そして「私はただ、戦争を止めようとしている。ロシアもウクライナも若い兵士を失っている。彼らはアメリカ人ではないが人間だ。だから私は戦争を止めたい」と述べて永続的な停戦を仲介する意欲を改めて示しました。
また、ベッセント財務長官は30日夜に出演したFOXニュースの番組でウクライナとの合意について「アメリカとウクライナ、双方にとって有益な合意だ。ウクライナとアメリカとの間に隔たりがないことを示すものだ。トランプ大統領は、ウクライナに経済的関心を持っていることを示すことで、ロシアとウクライナ双方が今すぐテーブルに着くことを望んでいる。これはロシア指導部へのシグナルだ」として合意の意義を説明しました。
そして「アメリカの国民にとっては、ウクライナの再建に加わり、武器の供与など支援にかかる資金を回収するチャンスがあることを示している。しかし、この戦争が終結するまではウクライナの再建を進めることはできない。だからトランプ大統領は戦争の終結に全力を尽くしている」と述べ、アメリカの国民にとっても意味のある合意だと強調しました。
専門家「直接 停戦に結びつくことはない」
アメリカとウクライナが鉱物資源の開発をめぐり署名した協定について、笹川平和財団の畔蒜泰助上席研究員は「アメリカが今後、ウクライナの安全の保証に完全に関与するものとは言えない」と指摘した上で、停戦交渉への影響については「直接、停戦に結びつくことはない」との見方を示しました。
畔蒜上席研究員は、今回の協定の意味合いについて「ウクライナの資源をアメリカと共同で開発し復興に生かすという形でウクライナの希望にそっている。ウクライナからすると、アメリカを引き続き引き込むという意味ではプラスだ」と指摘しました。
また、アメリカにとっては「停戦の交渉や仲介が大きく進展していない中では、トランプ政権として一定の成果を示したい動機があった。トランプ大統領が選挙公約で24時間で戦争を解決すると言っていた中、トランプ政権の発足から100日というタイミングでの締結だった」とした上で「双方にとって政治的な意味合いが強い合意だった」との見方を示しました。
その上で、ウクライナが求めてきたアメリカからの安全の保証については「アメリカがウクライナの安全の保証に完全に関与するとは言えない。トランプ政権としては安全の保証の問題はヨーロッパが担うべきであり、アメリカは関与しないという立場をとってきたが、今回の合意でも大きく展開していない」と指摘しました。
このため、今回の協定の停戦交渉への影響については「直接、停戦に結びつくかというと、そうではない」との見方を示しました。
選挙時SNS「法規制」58%
2025年5月2日 東京新聞
共同通信社は1日、憲法記念日の5月3日を前に憲法に関する郵送方式の世論調査をまとめた。選挙の際、真偽不明の情報が交流サイト(SNS)で拡散することに「法律での規制が必要」を選んだ人は58%、「事業者などの自主的な規制が必要」は29%に上った。
……(中略)……
SNSの偽情報拡散は昨年11月の兵庫県知事選などで問題化した。質問では、憲法は「表現の自由」を保障していると前置きしたものの「規制は必要ない」は11%だった。現行法は即日の削除要請に対応できないなど課題が指摘される。参院選を控え、与野党が対策の在り方を議論している。
……(中略)……
交流サイト(SNS)の真偽不明の情報拡散について、年代が上がるほど「法律での規制が必要」と回答する割合が高く、厳しい規制を求める傾向が見られた。60台以上の高年層で65%、40~50代の中年層は58%、30代以下の若年層は41%と、世代間で差がついた。
「SNS事業者などの自主的な規制が必要」と答えた人は、高年層が26%、中年層28%、若年層は37%だった。
「利用者に任せればよく、規制は必要ない」は高年層では5%にとどまる一方、中年層は12%、若年層は19%となった。
国民投票へのSNS偽情報の影響など論点に 日本国憲法施行78年
2025年5月3日 NHK
憲法記念日の3日、日本国憲法は、施行から78年を迎えました。国会では4月、SNSを通じた偽情報の拡散が憲法改正の国民投票にどのような影響を与えるのかなどをめぐって意見が交わされ、新たな論点になっています。
衆参両院の憲法審査会では、大規模災害など緊急事態に国会の機能をどう維持するかや、臨時国会の召集要求があった場合の内閣の対応などについて議論が続いています。
衆議院の審査会では4月、憲法改正の是非を問う国民投票が行われる際のSNSの利用などをめぐって意見が交わされました。
この中では、偽情報を拡散させる手法が巧妙化しているとして国民投票にあたって、法律で罰則規定を備えるべきかどうか議論する必要があるといった指摘が出されました。
また、SNSの運営事業者などの責任を明確にする必要があるのではないかとか、外国の勢力が偽情報を拡散させて国民投票に介入するおそれも想定されるという見解も示されました。
その一方で「選挙や政治活動でSNSを単純に規制することは表現の自由や政治活動の自由を制限しかねない」として慎重な検討が必要だという意見も出されました。
今後、参議院の審査会でも同様のテーマで議論が行われる見通しで、SNS上の偽情報や誤情報の選挙への影響が懸念される中で、国民投票との関係も新たな論点となっています。
〈参考(東京新聞(2025年5月3日朝刊))〉
改憲国民投票のCM規制
①テレビ・ラジオでの放送CM……投票14日前より禁止
②インターネットCM……規制なし
③SNSの動画拡散など……規制なし
兵庫 斎藤知事 陣営のSNS運用 違法性否定の認識示す【詳しく】
2024年11月27日 NHK
兵庫県の斎藤知事は、知事選挙での陣営のSNS運用に関して、PR会社の代表がウェブサイトに投稿した内容をめぐり、公職選挙法などに違反しているのではないかという指摘が出ていることについて、27日の記者会見で、法律に違反する行為はないという認識を重ねて示しました。
記事後半では斎藤知事と、代理人弁護士の記者会見での主な発言を動画でも、お伝えしています。
目次
斎藤知事 再選後 初の会見で違法性を重ねて否定
代理人弁護士も会見 “PR会社の投稿は事実と違う”
斎藤知事 再選後 初の会見で違法性を重ねて否定
兵庫県知事選挙で再選した斎藤知事の陣営のSNS運用について、兵庫県西宮市のPR会社の代表が、戦略の立案を行ったなどとウェブサイトに投稿した記事の内容をめぐり、公職選挙法などに違反しているのではないかとの指摘が出ています。
これについて、斎藤知事は再選後に初めて行った27日の定例会見で「県民に心配をかけ、お騒がせしていることは大変申し訳ない。今回の選挙戦については法律に違反するようなことはないと認識している」と述べ、違法性を否定する認識を重ねて示しました。
また、PR会社の代表が投稿した内容について「事前に私は一切見ていないし、そういった発信をするということも聞いていない。内容自体も一切確認しておらず、発信されたあとに知った」と述べました。そして「われわれとしては選挙戦は適法にやってきたという認識で、ああいった文章がつくられたことは、事前に聞いていなかったので、そこに対する若干の戸惑いはある」と述べました。
さらに「PR会社にお願いしたのはポスター制作を含めた70万円の対価の支払いに伴う業務だけだ。それ以外は会社代表などが個人でボランティアとして対応してもらったと認識している。70万円の支払いは正当で適法だと認識している」と述べました。
そのうえで、詳しい経緯や適法とする理由などの説明については「代理人の弁護士に対応を一任しているので、その会見で確認してほしい」と述べました。
代理人弁護士も会見 “PR会社の投稿は事実と違う”
斎藤知事の代理人を務める奥見司弁護士が27日午後4時半から神戸市で記者会見を開きました。この中で、弁護士は「PR会社にSNS戦略を依頼したことや広報全般を任せたということはなく、事実ではない部分が記載されている。特に『広報全般を任せてもらった』という部分は全く事実ではないと考えている。『盛っている』というように認識している」と述べました。
その上で「PR会社の代表らは斎藤氏の考えに賛同し、公式応援アカウントの取得や記載事項のチェック、街頭演説会場などにおける動画の撮影、アップロードなど、応援活動をしていた。PR会社としての活動ではなくボランティアの一員としてなされたもので、報酬の支払いの事実も約束もない」と述べ、公職選挙法などには違反していないという認識を示しました。
[社説]障害年金の不支給増 判定の客観性確保せよ
2025年5月2日 沖縄タイムス社
心身に障がいがある人の生活を支える障害年金を巡り、2024年度に不支給とされた人が全国で約3万人に上ることが分かった。前年度の2倍以上で、6人に1人程度が却下されたことになる。
就労が厳しく、収入が少ない障がい者にとってはまさに「命綱」であり、人生を左右する深刻な問題である。
障害年金は、病気やけがによる障がいがあり、条件を満たせば現役世代でも受けられる公的年金制度だ。
受給を希望する人は、居住地の年金事務所や市町村に必要書類と共に申請する。その後は東京の障害年金センターが、全国から寄せられた申請を一括して取り扱っている。
提出された診断書や、センター職員の見解などをもとに、委託する判定医が支給・不支給を判断する仕組みだ。
身体障がいの場合、視力などを数値で示したり四肢の欠損などが明確なため、判定基準がぶれることは少ないとされている。
一方、申請者の約7割といわれる発達障がいを含む精神や知的障がいについては、その障がいの重さや生活する上での困難さを短時間で見極めるのは難しい。
高齢者の介護認定では、診断書だけでなくケアマネが当事者や家族から聞き取った内容なども参考に、介護認定審査会が判定する。
それに比べ、当事者と面識のない職員や医師が提出書類だけを見て障がい者の状況を判断する在り方は、形式的で乱暴に見える。
放っておけないのは、恣意(しい)的な判断を指摘する声があることだ。
人事異動でセンターのトップが代わったため判定基準が厳しくなった、判定医に対して支給を絞る方向で判断を誘導していた、との証言もある。
事実であれば、障がい者を支えるどころか、生活を脅かしていると言わざるを得ない。制度そのものや判定の信頼性を揺るがす事態であり、速やかに調査し説明を求めたい。
判定基準については、約10年前にも疑義があった。
都道府県によって判断が甘い・厳しいなど地域差があると指摘され、日本年金機構はそれまで各都道府県事務所で行っていた判定を東京での一括審査に変更した。
さらに精神や知的障がい者を判定する際のガイドラインも策定し、より適正な審査を目指してきた。だが今回、基準のあいまいさが再びあらわになった。
全国の障害年金受給者は24年3月末で約242万人。
障がい者の権利を守るため、社会保険労務士や学者らでつくる支援団体「障害年金法研究会」は3月、政府に提言書を提出。判定方法について「数値等で表示し難い障がいを、不利益に扱わないこと」を明記し、さらに当事者が希望すれば、必ず実地調査を行うよう訴えた。
当然の要求だろう。客観性や透明性のある仕組みへの見直しが急務である。
世界の軍事費 伸び最大 24年 ウクライナや中東影響
2025年4月29日 沖縄タイムス社
【ロンドン共同】スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は28日、2024年の世界の軍事費(支出、一部推計)が前年比9・4%増の2兆7180億ドル(約390兆5千億円)で過去最高を更新したと発表した。伸び率は統計を取り始めた1988年以降最大で、増加は10年連続。
インド“パキスタン支配地域攻撃” 軍事行動 激化に懸念強まる
2025年5月7日 NHK
インド政府は7日、パキスタンとの係争地、カシミール地方のうち、パキスタンが実効支配する地域などにあるイスラム過激派組織の拠点を攻撃したと発表しました。
パキスタン軍は、この攻撃で子ども1人を含む8人が死亡したとして報復を表明し、核保有国どうしの間で軍事行動がエスカレートしないか懸念が強まっています。
インド国防省は、インド軍が、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方でパキスタンが実効支配する地域などに攻撃を行ったと現地時間の7日午前1時半過ぎに発表しました。
標的はパキスタンのイスラム過激派組織の拠点、9か所だとしています。
一方、パキスタン軍は、インド側がカシミール地方のパキスタンの実効支配地域やパキスタン東部のパンジャブ州のあわせて6か所を攻撃し、子ども1人を含む8人が死亡したほか、35人がけがをしたと主張しています。
カシミール地方では4月22日、インドが実効支配する地域で、インド人観光客ら26人が銃撃されて死亡する事件があり、インド政府は、テロ事件としてパキスタン側の関与を主張し、報復攻撃を辞さない強い姿勢を示していました。
これに対してパキスタン政府はテロへの関与を否定し激しく反発していました。
今回の攻撃について、インド軍はテロ事件への報復攻撃だとしていて、過激派組織の拠点に限定したもので、市民には被害はないと主張しています。
これに対し、パキスタン側は、攻撃された場所はすべて民間人が住んでいる地域でインド側の主張は誤りだと強く非難しています。
パキスタンのシャリフ首相は声明で「パキスタンは、インドが押しつけたこの戦争行為に対し、相応の対応をとる権利がある」などとして、報復を表明し、パキスタン空軍がインド軍の戦闘機を撃墜したとの情報も伝えられています。
インドとパキスタンはいずれも核保有国で、今後、両国の間で軍事行動がエスカレートしないか懸念が強まっています。
以下、これまでの情報を随時更新でお伝えしています。
パキスタン外務省 強く非難 軍事的報復も辞さない姿勢
パキスタン外務省は、声明を発表し、インド側が、領有権を争うカシミール地方のうちパキスタンの実効支配地域や、パキスタン東部のパンジャブ州に攻撃を行ったとした上で「インド空軍がインドの領空からの攻撃でパキスタンの主権を侵害した」として強く非難しました。
また「インド指導部は、再びテロという脅威を利用し地域の平和と安全を脅かしている。インドの無謀な行動は核を保有する両国を大規模な紛争へと近づけている」と指摘しました。
そのうえで「パキスタン政府、軍、そして国民はインドの攻撃に対し団結して立ち向かう。パキスタンの主権と領土の保全のために断固たる決意で行動する」と述べ、今後、軍事的な報復も辞さない姿勢を示し、インド側をけん制しました。
パキスタン軍 報道官「8人死亡、35人けが」
パキスタン軍の報道官は、インド軍の攻撃でこれまでに8人が死亡、35人がけがをしたと主張しました。
インド軍が攻撃した場所はカシミール地方のパキスタンの実効支配地域やパキスタン東部のパンジャブ州のあわせて6か所にのぼるとしています。
また、発表ではパキスタン空軍がインド側の2機の戦闘機を撃墜したとしています。
パキスタン側の航空機には被害は出ていないとしています。
トランプ大統領「早く終わってほしいと願う」
インドとパキスタンの情勢について、アメリカのトランプ大統領は6日、ホワイトハウスで記者団に対し「残念だ。ちょうど大統領執務室に入ろうとしたところで話を聞いた。早く終わってほしいと願う」と述べました。
また、ルビオ国務長官は6日、SNSに「インドとパキスタンの状況を注視している。早期に終結することを望み、平和的な解決にむけて両国の指導部との対話を続ける」と投稿しました。
国連 報道官「深刻な懸念 最大限の軍事的自制を呼びかけ」
国連のデュジャリック報道官は「グテーレス事務総長は、インド軍が停戦ラインを越えて行っている軍事作戦に深刻な懸念を抱いており、両国に対し最大限の軍事的自制を呼びかけている。世界はインドとパキスタンの軍事的対立を許容できない」とするコメントを発表しました。
林官房長官「本格的な軍事紛争にエスカレート 強く懸念」
林官房長官は午前の記者会見で「事実関係を確認中であり、引き続き状況を注視していく。今回の事態がさらなる報復の応酬を招き、本格的な軍事紛争にエスカレートすることを強く懸念している。南アジアの平和と安定のため、インド、パキスタンの双方が自制し、対話を通じて事態を安定化させることを強く求める」と述べました。一方「現時点で日本人の被害に関する情報には接していないが、引き続き邦人保護に万全を期していく」と述べました。
日産 国内で事務部門の従業員対象に早期退職募集へ
2025年5月18日 NHK
業績が悪化している日産自動車は、経営の立て直しに向けてグループ全体で2万人を削減する方針で、このうち国内では事務部門の従業員を対象に早期退職を募ることがわかりました。
巨額の赤字に陥った日産自動車は、経営の立て直しに向けて2027年度までにグループ全体で2万人を削減するとともに、過剰な生産体制を見直すため、世界で7つの工場を削減する方針です。
会社は2万人の人員削減のうち、事務部門で3600人を削減する計画で、関係者によりますと、国内ではことし7月から事務部門の従業員を対象に早期退職を募ることがわかりました。
対象は45歳から65歳未満で勤続年数が5年以上の従業員だということで、会社では退職金の加算や再就職に向けた支援を行うとしています。
日産をめぐっては工場削減の計画案に追浜工場など神奈川県内の2つの工場が含まれていることがわかっていて、会社は再建策で示した過剰な生産能力の削減と人員体制の見直しを早期に実行し、経営の立て直しを急ぎたい考えです。
教皇レオ14世、就任ミサで「連帯や友愛の小さなパン種に」…麻生太郎元首相やゼレンスキー大統領ら参列
2025年5月18日 読売新聞
【パリ=梁田真樹子】新ローマ教皇レオ14世(69)の就任ミサが18日、バチカンのサンピエトロ広場で開かれた。レオ14世の出身地・米国のバンス副大統領やウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領など、約150の国・地域や国際機関の代表が参列し、日本からは麻生太郎元首相が参列した。
レオ14世は説教で「憎しみ、暴力、偏見などによって引き起こされる傷があまりにも多い」「世界の連帯や友愛の小さなパン種となりたい」と述べ、立場や宗教の違いを超えた人々の連帯や、戦闘が続くウクライナやパレスチナ自治区ガザなどでの平和実現を訴えた。
新教皇レオ14世「教会の団結」強調 グローバル経済を批判 就任式
2025年5月18日 毎日新聞
新ローマ教皇レオ14世(69)の就任式が18日、バチカンのサンピエトロ広場で開かれた。ローマ教皇庁によると、日本を含む約150の外交団が参列。政治指導者と欧州などの王族も数十人が列席したとみられる。
レオ14世はミサで「最初の大きな願いは、教会の団結だ」と強調。キリスト教カトリック教会が「世界の和解の象徴」となるべく、保守派とリベラル派の分断が指摘される教会の融和を呼びかけた。
ミサでの説教でレオ14世は、現状のグローバル経済を「地球の資源を搾取し、最も貧しい者を周縁に追いやっている」と批判。世界平和に向け、「一人一人の個人的な歴史や社会的・宗教的文化を尊重する」ことの重要性を訴えた。
専用車に乗ってキリスト教カトリック信徒らにあいさつする新ローマ教皇レオ14世=バチカンのサンピエトロ広場で2025年5月18日、ロイター
また、世界で続く紛争にも触れ「(パレスチナ自治区)ガザでは子どもや高齢者らが飢餓に苦しんでいる」と懸念を表明。ウクライナ情勢については「公正で持続的な平和のための交渉を待ち望んでいる」と述べた。
就任式の直前にはオープンカーに乗って広場を回り、集まった10万人以上(バチカン公式メディア)のカトリック信徒らに手を振った。赤ちゃんに祝福を与える場面もあった。
就任式にはウクライナのゼレンスキー大統領、ドイツのメルツ首相、イタリアのメローニ首相、カナダのカーニー首相、スペイン国王フェリペ6世らが参列。レオ14世の出身国の米国からはバンス副大統領とルビオ国務長官が出席した。
バンス氏とゼレンスキー氏は広場で握手を交わし、ロイター通信によると別に会談も行った。両氏は、2月に米ホワイトハウスでゼレンスキー氏とトランプ米大統領が会談した際に口論になっていた。
バチカンが欧州で唯一、外交関係を持つ台湾は、4月のフランシスコ前教皇の葬儀と同様、頼清徳総統ではなく陳建仁元副総統を派遣。日本からは自民党の麻生太郎最高顧問が特使として派遣された。
新教皇は、産業革命の時代に労働者ら弱い立場の人々の権利を守ったレオ13世(在位1878~1903年)の名を引き継ぎ、「レオ14世」と名乗る。その理由を、教会が「新たな産業革命と人工知能の発展に対応する」にあたり、立場が弱い人々を守るため「貧富の格差の克服に努める」意思を込めたと説明している。【ロンドン福永方人】
転売や食品廃棄の問題は、法律的にもグレーゾーンのようだし、法律で利用者の不適切な行動を抑制していくことは、実効性を考えても困難であるだろう。
フリマサイトやフリマアプリ側が転売防止の対策を取ることは重要ではあるものの、これまでもさまざまな転売防止対策が取られてきたが、イタチごっこになっている状況を考えると、プラットフォーム側で完全に防止できるかどうかはわからない。
転売ヤーはさほど儲かっていない――という報道もある。特典4種が揃ったセットの転売価格はさまざまだが、2500円程度で落札されているものが多かった。一方、ハッピーセットは最安で510円。アプリ利用料や送料を差し引くと、ほとんど利益は出ていないようだ。
これが事実だとすると、転売目的で購入して、食品を廃棄して特典だけ入手するやり方は費用対効果が悪く、文字通り「おいしくない」方法ということになる。
経済合理性という点から、今後は転売が抑制されていく可能性も高い。
マクドナルド側も、購入できる上限を4セットから1、あるいは2セットに制限する、あるいは対象者を子連れに限定するといった、比較的シンプルな対応を取ることで、十分な効果を上げる可能性もありそうだ。
筆者は飲食チェーン数社の株主で、店舗で株主優待券を利用することも多い。店舗によっては、スタッフが十分に対応できないことも多いのだが、マクドナルドの店舗は上手く対応してくれることが多い。
多数の店舗がある中、それぞれで適切な対応を取るには、オペレーション上の課題も大きいとは思うが、それが実現できれば、マクドナルドの評判を上げることができるのではないだろうか。
今回は反響が大きかっただけに反動も大きかったのだが、筆者としては、第3弾は中止せず、うまく対応して、反響を最大化しつつ反動を最小化して乗り切ってほしいと願っている。
甲府労基署 違法な時間外労働か シャトレーゼを書類送検
2025年5月22日 NHK
全国で洋菓子店を展開する甲府市の菓子メーカー、「シャトレーゼ」が、県内の工場で働く社員2人に違法な時間外労働を行わせたとして、甲府労働基準監督署は22日、会社と、当時の部長職など2人を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。
書類送検されたのは、甲府市の菓子メーカー「シャトレーゼ」と、調達部に所属していた50代の部長職と40代の部長相当職だった2人です。
甲府労働基準監督署によりますと、おととし10月から12月の間、中央市にある豊富工場と北杜市にある白州工場で働く社員2人に対し、時間外労働に関する労使協定、いわゆる「36協定」で定めた労働時間の上限を超えて働かせていた疑いが持たれています。
このうち、「36協定」では、時間外労働と休日労働を合わせた時間は、月に100時間未満で、かつ、2か月から6か月を平均して80時間を超えてはいけないとされていますが、豊富工場の社員は、1か月113時間47分に上り、2か月の平均も80時間を超えていたということです。
甲府労働基準監督署は、書類送検をした理由について「この件以外にも労働基準法違反がたびたびあったことから、重大事案ととらえた」とコメントしています。
【シャトレーゼのコメント】
甲府労働基準監督署から22日付けで、書類送検されたことについてシャトレーゼは「発表された事実で間違いない。当社としてはこの事態を深く反省し、従業員の健全な労働環境の整備に向けてさらなる取り組みを進めている。関係者の皆さまに多大なるご迷惑とご心配をおかけしたことを心よりおわび申し上げます」とコメントしています。
ブルーカーボンに関する取組
2025年4月30日 市川市HPより
市川市魚食文化フォーラム実行委員会では、カーボンニュートラル実現に向けて、海洋における二酸化炭素削減の効果が注目されている「ブルーカーボン」を推進するため、三番瀬の海の藻場の保全・回復に関する取組を実施しています。
【カーボンニュートラルとは】
二酸化炭素などの温室効果ガスを削減し、温室効果ガスの排出量と、森林などによる吸収量を差し引いて「実質ゼロ」とすることです。
【ブルーカーボンとは】
沿岸・海洋生態系が光合成によりCO₂を取り込み、その後海底や深海に蓄積される炭素のことを「ブルーカーボン」と呼び、温室効果ガスの吸収源の新しい選択肢として世界的に注目されています。ブルーカーボンの主要な吸収源としては、藻場(海草・海藻)や塩性湿地・干潟、マングローブ林があげられます。
モニタリング1回目(令和6年11月16日)
移植して約2週間が経ち、最初のモニタリングを実施しました。
船上から水中ドローンを操作して、海底のアマモを観察します。移植後に暴風や波浪もなく、株の消失はほとんど見られませんでした。このまま順調に育つことを期待しています。
訪問介護 人手不足で依頼断る事業所相次ぐ 労働組合調査
2025年5月5日 NHK
訪問介護のヘルパー不足が深刻な問題となる中、人手が足りずにサービスの依頼を断らざるをえない事業所が相次いでいるという調査結果を労働組合がまとめました。
介護職員などで作る労働組合「日本介護クラフトユニオン」は4月、訪問介護事業所の管理者とケアマネージャーを対象にインターネットのアンケート調査を行い、合わせて1000人余りから回答を得ました。
それによりますと去年4月以降にヘルパーの人手不足によってサービスの提供を断ることがあったか聞いたところ、事業所の管理者の89.4%が「ある」と答えました。
また去年、事業所の収入が減少したと答えた管理者は55.2%に上り、このうち73.3%の人は減収の最も大きな理由が「人手不足でサービスの依頼を受けられなかったため」と回答しています。
一方、ケアマネージャーへの調査でも、およそ3分の2の人(68.3%)が、ヘルパー不足で必要なケアプランが組めないことがあったと答えました。
調査を行った日本介護クラフトユニオンは「介護保険料を負担していながら必要なサービスを受けられない事態が起きている。介護保険制度の根幹を揺るがす問題で、国は危機感をもって人材確保などに取り組むべきだ」と話しています。
電気通信大、東京都の「大学提案制度」で不正…自校提案への投票呼びかける
2025年5月21日 読売新聞
東京都が都内の大学教員から事業提案を募り、都民のインターネット投票で採択を決める「大学提案制度」で、電気通信大(東京都調布市)の事務局が同大の提案への投票をメールで呼びかけていたことが、都や同大への取材でわかった。同制度では、提案者側の投票呼びかけを禁止している。電通大の提案は最多得票で2023年度に事業化されたが、今年3月に不正が発覚し、中断された。
電気通信大学
投票の呼びかけがあったのは、電通大の教授が提案した「都市型太陽電池による創電・蓄電の強化推進事業」。建物の壁などに設置できる円筒形太陽電池を活用して総発電量を増加させる実証研究を行う。都はこの事業に対し、23年度から3年間で4億9000万円を支援する計画で、うち2億6000万円が支給済みだった。
都によると、22年度には大学側から計40件の提案があり、うち10件について、提案者名と大学名を伏せた上で都民による投票が行われた。電通大の提案は最多の2954票を集めた。電通大の担当者は「投票の呼びかけがあったのは間違いない。現在、学内で調査を進めている」としている。
都と大学の共同事業を巡っては、法政大による資金の不正使用の疑いが浮上し、都は昨年12月、同大との事業を中止した。都の担当者は「不正が起きないように、仕組みの見直しを進めたい」と話している。
【ニュースリリース】都市型太陽電池による創電・蓄電の強化推進事業に関する東京都および電気通信大学による基本協定の締結について(電気通信大学 2023年4月3日)
国立大学法人電気通信大学(研究代表者 i‐パワードエネルギー・システム研究センター長・教授 横川慎二)および東京都は、都市型太陽電池による創電・蓄電の強化推進事業(注1)について、基本協定を締結しましたのでお知らせいたします。
(注1)令和4年度大学研究者による事業提案制度において選定された事業です。
事業の目的
壁面にも設置できる円筒形太陽電池の活用により、東京都の都市部の建築物における太陽光発電の総発電量を、屋根のみに太陽電池を設置して行う従来の発電方法に対して2倍以上に増加させ、かつ、エネルギーと情報のネットワーク化により"減らす・創る・蓄める(HTT)"を可視化して活用することで都市のレジリエンスを向上させることを目指します。
具体的には、以下の2点を目的とします。
(1)円筒形太陽電池による都市型壁面発電の有効性実証
(2)円筒形太陽電池を用いたシステムによるイノベーション創出
年金制度改革法案 衆院本会議で審議入り 立民は修正案骨子提示
2025年5月20日 NHK
年金制度改革の関連法案が20日の衆議院本会議で審議入りしました。
法案に盛り込まれなかった基礎年金を底上げする措置について石破総理大臣は、4年後の財政検証の結果を踏まえ対応を検討する考えを示しました。
これについて立憲民主党は、基礎年金の底上げが先送りされると多くの世代で将来受け取る年金が少なくなり問題だとして、底上げする措置を盛り込む修正案の骨子をまとめ、自民党側に示しました。
年金制度改革関連法案には、パートなどで働く人が厚生年金に加入しやすくなるよう「年収106万円の壁」と呼ばれる賃金要件を撤廃することや、従業員51人以上としている企業規模の要件を段階的に緩和し10年後になくすことなどが明記されています。
ただ、法案の柱の1つとして検討された厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする措置は、自民党内で厚生年金の給付水準が一時的に下がることへの懸念が出たことなどから盛り込まれませんでした。
法案は20日の衆議院本会議で審議入りし、趣旨説明に続いて質疑が行われました。
この中で、立憲民主党の井坂信彦氏は「ようやく提出された法案からは驚くべきことにいちばん大事な現役世代の年金底上げが削除されていた。骨抜き法案は到底認められず『あんこの入っていないあんパン』などいらない。なぜ削除したのか」とただしました。
これに対し、石破総理大臣は「給付水準を保つことは重要な課題だと考えている。一方、経済状況によって変わりうるものでもあることから、政府としては『賃上げと投資がけん引する成長型経済』を目指し、将来も給付水準が維持できるように努めていく」と述べました。
そのうえで、基礎年金を底上げする措置について「2029年に行われる次の財政検証の結果を踏まえ、対応が必要な場合には適切に検討し、必要な措置を講じる」と述べ、4年後の財政検証の結果を踏まえ対応を検討する考えを示しました。
立民 “基礎年金底上げ措置”盛り込む修正案骨子を提示
審議入りした法案をめぐっては、当初、政府・与党が、厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする措置を盛り込む方向で検討していましたが、自民党内で厚生年金の給付水準が一時的に下がることなどに懸念が出たことから見送られました。
これについて立憲民主党は、基礎年金の底上げが先送りされると、多くの世代で将来受け取る年金が少なくなり問題だとして、底上げする措置を盛り込む修正案の骨子をまとめ、20日自民党側に示しました。
骨子では、4年後の公的年金の財政検証で、基礎年金の給付水準の低下が見込まれる場合などに底上げする措置を講じるとしたうえで、その際にいまの制度で支給される年金額を下回る場合は、影響を緩和する対応をとるとしています。これについて自民党は今後の協議の進め方について、持ち帰って検討する考えを示しました。
立民「現役世代と若者の年金減にブレーキを」
衆議院厚生労働委員会で野党側の筆頭理事を務める立憲民主党の井坂信彦氏は、記者団に対し「今回出された政府案はいわゆる骨抜き『あんこのないあんぱん』と言われている法案だ。政府の法案のままだと今後、現役世代と若者の年金が最大3割も減ってしまうので、ブレーキをかけたい」と述べました。
自民「各党と精力的に協議進めたい」
衆議院厚生労働委員会で与党側の筆頭理事を務める自民党の上野賢一郎氏は、記者団に対し「いまの国会中に衆参でしっかり議論することが前提で、そんなに時間的余裕はないと思うが、各党の皆さんと精力的に協議を進めていきたい。どう進めるかは、幹部を含めて相談したい」と述べました。
WHO パンデミック条約 全会一致で採択 新型コロナの教訓踏まえ
2025年5月20日 NHK
新型コロナウイルスの感染拡大の教訓を踏まえ、WHO=世界保健機関の加盟国が交渉を行ってきた「パンデミック条約」が20日、WHOの総会で全会一致で採択されました。
ただ、これまで世界の感染症対策をけん引してきたアメリカはWHOからの脱退と条約への不参加を表明していて、感染症対策の強化につながる実効性のある枠組みになるのか注目されます。
スイス ジュネーブで開かれているWHOの年次総会は20日、感染症対策の強化のための新たな国際条約「パンデミック条約」の採択を行い、全会一致で正式に採択されました。
条約には、ワクチンの製造などに関する技術や知識の途上国への移転を促進することや、ワクチンや治療薬の開発を加速させるため、病原体の情報を各国間で共有する新たな枠組みを立ち上げることなどが盛りこまれています。
WHOの加盟国は新型コロナウイルスの感染拡大の教訓を踏まえ、次なるパンデミックに備えるため3年にわたる交渉を行ってきました。
採択を受けてテドロス事務局長が演説し「きょうあなたたちは多国間主義だけが脅威に対して解決策を見いだす唯一の手段だと明確に示した。この条約はWHOと世界の保健衛生の歴史のなかで最も重要な成果の1つとなるだろう」と述べ、条約の意義を強調しました。
加盟国は来年の年次総会までに条約の詳細を詰める予定で、条約は60か国が批准などの手続きをしたのちに発効することになっています。
一方で、WHOからの脱退を表明しているアメリカは総会を欠席したうえで、ロバート・ケネディ・ジュニア厚生長官は20日、FOXニュースを通じて動画のメッセージを公開し、条約への不参加を明らかにしました。
これまで世界の感染症対策をけん引してきたアメリカが不在となり、先行きが懸念されるなか、条約が対策の強化につながる実効性のある枠組みになるのか注目されます。
テドロス事務局長 “WHOの歴史のなかで最も重要な成果”
パンデミック条約がWHOの総会で採択された後、テドロス事務局長は加盟国を前に演説し「きょうあなたたちは多国間主義だけが脅威に対して解決策を見いだす唯一の手段だと明確に示した。あなたたちは世界をより安全な場所にした」と述べて、3年にわたり協議を続けてきた加盟国をねぎらいました。
そのうえで「次のパンデミックへの備えに、十分ということはありえない。どれだけやってもまだやれることはある。ただ、今回の合意によって、コロナ以前のどの時代よりも次のパンデミックに備えができていることは確実だ。この条約は、WHOと世界の保健衛生の歴史のなかで、最も重要な成果の1つとなるだろう」と述べ、条約の意義を強調しました。
タイ 同性婚認める法律施行 多くのカップルが婚姻の届け出
2025年1月23日 NHK
タイで23日、東南アジアでは初めてとなる同性婚を認める法律が施行され、多くの同性カップルが婚姻の届け出を行いました。
タイは、性的マイノリティーに比較的寛容な国として知られてきましたが、同性どうしの結婚は、これまで法的に認められず、長年、当事者団体が法制化を求める中、2023年の政権交代をきっかけに同性婚を認める法案が議会で可決されました。
法律は23日に施行され、首都バンコクの商業施設の特設会場に設けられた自治体の窓口では、タキシードやドレス、それにタイの伝統衣装などに身を包んだ男性どうし、女性どうしのカップルたちが次々に訪れ、婚姻の届け出を行いました。
結婚を認められた同性カップルは、税金の控除、養子縁組み、それに遺産の相続など、異性間の結婚と同等の権利が認められるようになり、結婚の証明書を受け取ったカップルは、家族や友人と抱き合うなどして喜びを分かち合っていました。
婚姻届を出した女性どうしのカップルのニチャパンさんは「15年間、連れ添ってきましたが、ついに法律上も配偶者としての人生を歩むことができ、社会に受け入れてもらえたようでうれしいです」と話していました。
同性婚の法制化は、台湾とネパールに続き、アジアで3例目、東南アジアでは初めてで、会場周辺では記念のイベントが行われ、タイの伝統的な音楽や踊りで祝福を受けていました。
タイ政府は、今回の同性婚法制化を契機に、性的マイノリティーの人たちへの差別や偏見のない社会づくりにさらに取り組むとしています。
司法判断にAI関与「あり得ない話ではない」 最高裁長官が会見
2025年5月3日 日本経済新聞
最高裁の今崎幸彦長官が3日の憲法記念日を前に記者会見し、司法分野における人工知能(AI)の活用について「デジタル化に伴う改革の一環として考える必要がある」と語った。
セキュリティーや信頼性、著作権などの課題はあるものの、事務手続きへの活用は十分に考えられると指摘。司法判断に何らかの形でAIが関わることも「あり得ない話ではない」とした。ただ、具体的な活用方法は「非常に強い関心を持ちながら慎重に事態を見ていきたい」と述べるにとどめた。
民事裁判の手続きをIT(情報技術)化する改正民事訴訟法も2026年5月までに全面施行される。訴訟記録は原則電子化され、訴状の提出から判決の送達までオンラインで可能になる。今崎長官は「裁判へのアクセスの利便性を高めると同時に紛争解決機能を向上させる重要な取り組みで、法曹三者で力を合わせてなし遂げたい」とした。
同性婚を求める訴訟など社会の多様性を問う裁判で求められる視点を問われると、「当事者の主張によく耳を傾けることは変わらない」と強調。そのうえで「背景となる社会の実態に対する理解が欠かせず、裁判官としての総合力が試される」として社会問題を学ぶ研修に力を入れていきたいと述べた。
法制審議会(法相の諮問機関)の専門部会で制度の見直し議論が始まったやり直しの裁判(再審)については「適正・迅速に審理しなければならないことは言うまでもない。過去の事件から審理運営上の課題などを学び、広く共有することは非常に重要だ」と強調した。
英最高裁“トランスジェンダー 法的に女性と定義されず”判決
英最高裁“トランスジェンダー 法的に女性と定義されず”判決
2025年4月17日 NHK
みずからを女性と認識するトランスジェンダーの人を、法的に女性と扱うべきかどうかが争われたイギリスの裁判で、現地の最高裁判所は法的な「女性」の定義は生物学的なものだとする判決を言い渡しました。
男性として生まれながらみずからを女性と認識するトランスジェンダーの人たちについて、イギリス北部スコットランドの自治政府は2018年、医師の診断に基づく証明書を取得すれば職場などでの差別を禁じた平等法のもとで女性として保護されるとしました。
これに対して女性の人権団体は、女性専用の病棟や学校などへのトランスジェンダーの人の立ち入りを認めれば、女性の権利が侵害されるとして訴えていました。
イギリスの最高裁判所は16日の判決で「平等法の性差別に関する規定は、妊娠や出産に言及するなど、生物学的な性別を指すものとしか解釈できない」として、トランスジェンダーの人は法的に女性とは定義されないという判断を示しました。
一方で「平等法で、トランスジェンダーの人は差別から保護されている」とも強調しました。
判決を受け、女性の人権団体からは「これで安心できる」などと歓迎の声が聞かれたのに対し、国際的な人権団体アムネスティ・インターナショナルは「非常に失望している」というコメントを出しました。
アメリカでもことし1月、トランプ大統領が「政府が認める性別は男性と女性の2つだけ」とする大統領令に署名していて、国を二分する議論になっています。
「軍事研究」27億円助成
2025年6月2日 東京新聞
軍事技術にも将来的に応用可能な基礎研究を支援する防衛省の「安全保障技術研究推進制度」で、制度が始まった2015年度から9年間で22大学が計約27億3千万円の助成金を受けたことが、共同通信の集計で分かった。科学者の戦争協力への反省から制度を問題視する日本学術会議と、会員の任命拒否や組織改編を試みる政府のせめぎ合いの中、研究費獲得に苦戦する地方大を中心に利用が次第に拡大する様子がうかがえた。
制度は、民生分野の活用の他に兵器などへの応用可能性がある基礎研究を対象とする。15~23年度の予算執行状況をまとめた行政事業レビューシートによると、制度による大学への助成は増加傾向。最多は筑波大で約11億6千万円。豊廃技術科学大が約5億6千万円、大阪市立大(現、大阪公立大)が約1億4千万円と続いた。
大学を代表機関とする研究課題は、17年度を除いて毎年採択された。旧帝大は北海道大だけで、地方大が比較的多い。最大5年間で計20億円を上限とする「大規模研究課題」は23年度までに、空気中のウイルス検出など豊橋技術科学大の2件が選ばれた。炭素素材のカーボンナノチューブで衝撃に強い材料を開発する筑波大の研究1件や、北海道大、熊本大のそれぞれ1件も採択された。
学術会議は1950年以降、戦争目的の研究をしないとの声明を2度出した。防衛省の制度の制度を問題視する声明も17年にまとめた。菅義偉首相(当時)は20年、新会員候補6名の任命を拒否し、政府は学術会議改革の議論を開始。特殊法人化が国会で議論されている。
防衛装備庁によると、制度開始時の予算総額は3億円で、大学だけでなく公的研究機関や企業も対象に、採択1件につき年最大3900万円をさいだい3年間助成した。17年度からは大規模研究課題の募集を始め、予算は110億円に拡大した。現在は他に、年最大5200万円と年最大1300万円をそれぞれ最大3年間助成するタイプがある。25年度の予算は114億円。
逮捕・起訴は「違法」…損害賠償額はアップ 大川原化工機冤罪事件で東京高裁「合理性を肯定できない」
2025年5月28日 東京新聞
軍事転用可能な機械を不正輸出したとして社長ら3人が逮捕・起訴され、後に起訴が取り消された機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)を巡る冤罪(えんざい)事件で、大川原正明社長(76)らが東京都と国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が28日あり、東京高裁(太田晃詳裁判長)は一審東京地裁に続いて逮捕・起訴は違法と認め、約400万円増額して都と国に計約1億6600万円の賠償を命じた。警視庁公安部が輸出規制に該当すると解釈して逮捕に踏み切ったことに「合理性を肯定することはできない」と指摘した。
◆異例の裁判 現職警察官が捜査批判
大川原化工機への捜査を巡る訴訟の控訴審判決を受け、東京高裁前で「全面勝訴」と書かれた紙を手にする大川原正明社長(中央)=中村千春撮影
訴訟は、証人出廷した現職の警察官が「日本の安全を考えたものではなく、決定権を持つ人の欲だと思う」などと捜査を批判する異例の展開となった。大川原化工機の機械を輸出規制の対象とした、警視庁と東京地検の判断が合理的だったかどうかが争点だった。
外為法は生物兵器への転用を防ぐため、使用者が細菌感染しないよう内部を殺菌できる機械の輸出を規制。霧状の液体を高温のヒーターで乾かし、粉ミルクなどの生産に使われる同社の「噴霧乾燥機」を巡り、起訴後の同社側の実験で、温度が上がりきらず菌が残る箇所があることが判明し、地検は起訴を取り消した。
控訴審で原告側は、輸出規制の解釈を巡る警視庁公安部と経済産業省の打ち合わせメモなどを新証拠として提出。公安部の解釈に対して経産省が否定的な見解を示しており、噴霧乾燥機を捜査対象にしたこと自体が「事件の捏造(ねつぞう)」だったと主張した。
◆東京高裁の判断は
太田裁判長は判決理由で、公安部の解釈は国際合意にそぐわず、経産省も否定的だったと認定。解釈したこと自体は「不合理とまでは言えない」としつつ「解釈を前提として逮捕したことの合理性は肯定できない」と指摘した。
その上で、解釈を再考することなく、大川原化工機側から温度が上がらないとの指摘があったのに、再実験もせずに逮捕・起訴したことは「合理的根拠を欠き違法」と断じた。
取り調べについては一審判決に続き、原告1人に対し、故意に誤解させて供述調書にサインさせるなどの違法があったと認めた。
◆捜査・起訴の違法を指摘された警視庁と検察
判決を受け、警視庁は「判決内容を精査し対応を検討する」とコメント。東京地検の新河隆志次席検事は「国側の主張が認められなかった。上級庁と協議し適切に対応する」との談話を出した。
米、学生ビザ申請の面接予約を一時停止 SNS審査厳格化で
2025年5月28日 毎日新聞
米政治専門メディア「ポリティコ」は27日、ルビオ米国務長官が世界各国にある在外公館に対して、学生ビザ(査証)申請者向けの面接の新規予約について、一時的に停止するよう指示したと報じた。
トランプ政権は「反ユダヤ主義」とみなした大学などでの活動への取り締まりを強化している。今回の措置は、ビザ申請者の交流サイト(SNS)への投稿履歴を厳しく審査するためだとしている。
米国のビザを取得するには、原則的に面接を受ける必要がある。報道によると、ルビオ氏は公電で、面接受け付けの一時停止について「SNSの審査拡大に備えるため」と説明した。
停止期間は不明だが「数日以内」に新たな指針が示されるまでの措置だとした。停止対象のビザは、学生向けの「F」と「M」、交流訪問者向けの「J」だ。予約済みの面接はそのまま実施される。
在日米大使館は毎日新聞の取材に、本国から指示があったことを認め、対応している状況だと説明した。小中高、大学・大学院を含むあらゆる学生が対象となるという。
名門のハーバード大など、米国内の大学では昨年春以降、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区での軍事作戦に抗議するデモが拡大した。トランプ政権は「反ユダヤ主義」だとみなした抗議活動の参加学生を拘束したり、ビザを取り消したりするなどしてきた。
国務省のブルース報道官は27日、「全ての主権国家は入国しようとしている人物が誰なのか、何をしてきたのかを知る権利がある」と述べた。「入国する人物を評価するため、利用できる全ての手段を用いていく」と強調した。【松井聡(ワシントン)、石山絵歩】
韓国大統領に李在明氏が就任、「国民の団結」誓う どんな課題があるのか
2025年6月4日 BBC
韓国大統領選挙で勝利した、最大野党「共に民主党」前代表の李在明(イ・ジェミョン)氏(61)が4日、大統領に就任した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領による非常戒厳の宣布から半年にわたって続いてきた政治と社会の混乱や分断を、改善することが期待されている。ただ、さまざまな困難が予想されている。
3日投開票された大統領選では、李氏が約50%の票を獲得して当選を決めた。
李氏は4日午前、国会議事堂で就任の宣誓と演説をし、「国民を団結させる」と誓った。また、「経済を再生させ、国民を癒やすことから始める」、「この選挙で誰を支持したかにかかわらず(中略)私は全国民の大統領になる」と述べた。
新大統領の李氏には、課題が待ち受けている。
深い分断
まず、極端に分断した国をまとめる必要がある。
今回の選挙では、尹政権で雇用労働相を務めた、与党「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)候補(73)を破った。李氏はこれまで、同党と激しく対立してきたが、大統領就任後は、国民の信頼回復と分断修復のため、協力しなくてはならない状況も生まれるだろう。
韓国のコンサルティング会社「ミン・コンサルティング」のパク・ソンミン社長は、尹政権と、その前の文在寅(ムン・ジェイン)政権の下で、「二極化が何年にもわたって進み、韓国の政治状況はひどく分断されている」とし、次のように述べた。
「李氏は国民の連帯を訴えるだろうが、深いジレンマに直面している。和らげようとしている分断を深めることなく、多くの人が反乱未遂とみなしている出来事の責任追及を、どうやって進めるのかということだ」
今回の大統領選で「国民の力」は敗れたが、同党の大統領だった尹氏は依然、非常に強力かつ声の大きい支持基盤を保持し続けている。その状況はすぐには変わりそうにない。
尹氏を支持しているのは、主に若い男性と高齢者だ。右派特有の強い主張に共鳴する傾向があり、尹氏が出した非常戒厳は国を守るために必要だったと信じている。「国民の力」は不正選挙の被害者だと考えている陰謀論者も多い。
尹氏の弾劾案が国会で可決されると何千人もが抗議し、1月に尹氏が拘束されると支持者の一団が裁判所に乱入し、警官に暴行を加えた。
尹氏が政治の表舞台からいなくなった今、支持層に生じた空白を誰が埋めるのかが問題となっている。
刑事裁判
李氏の勝利は驚異的なカムバックといえる。汚職疑惑での捜査や家族間の確執など、李氏は政治的なスキャンダルにまみれていた。
現在も公職選挙法違反に問われており、最高裁で裁判が続いている。
李氏に有罪判決が出た場合、どうなるのかは不明だ。法律では、現職の大統領は内乱や反逆を除き、刑事犯罪で起訴されないことになっている。
政治姿勢
李氏は労働者の家庭で厳しい幼少期を過ごし、苦学して人権派弁護士になり、政治家に転身した。そうした経歴を公言し、忠実な支持層をつくり上げている。
一方で、人を不愉快にさせるとして、李氏のスタイルを批判する人もいる。
2022年に「共に民主党」の大統領候補になると、リベラルな姿勢を打ち出して選挙戦を展開。ジェンダー不平等の問題に取り組むと約束するなどした。
しかし、大統領選で尹氏に敗れた後には一転。中道寄りで多くの人の支持を得られやすい政策を掲げるようになった。
今後はそうした政治家としてのスタイルや姿勢が、これまで以上に注視されることになる。
米トランプ政権
李氏は外交でも難題に直面する。とりわけ重要なのは、アメリカのドナルド・トランプ大統領による関税の打撃を、交渉によって和らげることだ。
トランプ政権下のアメリカとの同盟関係のかじ取りも、喫緊の課題となる。
前出の「ミン・コンサルティング」のパク氏は、「韓国の差し迫った国内課題は、グローバルな力学とますます絡み合っている」と指摘。アメリカが韓国の重要な貿易相手国であり、安全保障の同盟国でもあることから、韓国の経済と国防に影響を及ぼすとみている。
パク氏はまた、需要の低迷と成長の鈍化がすでに韓国経済に打撃を与えているため、アメリカとの貿易協定は最重要課題だとした。
韓国 イ新大統領 安全保障や文化交流などで日本と連携強調
2025年6月4日 NHK
韓国のイ・ジェミョン(李在明)新大統領は、就任後初めての記者会見を開き、安全保障や文化交流などで日本と連携していく考えを強調したほか、前の政権が解決策を示した「徴用」をめぐる問題については、政策の一貫性が重要だという認識を示しました。
4日朝に就任し、5年の任期をスタートさせたイ新大統領は、午前中、国会で就任の宣誓を行いました。そして、国民に向けた演説で、「分断の政治を終える大統領になる。国民の統合をエンジンとして、この危機を克服していく」と決意を示しました。
午後には大統領府で就任後初めての記者会見に臨み、日韓関係についても質問を受けました。
イ新大統領は、歴史問題や、韓国が「トクト(独島)」と呼んで領有権を主張する島根県の竹島について触れ、「両国はそうした問題があっても、さまざまな面で共通の利害関係を持っている。経済や安全保障、文化交流など双方が互いに役立つことを探していけると思う」と述べました。
ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権が解決策を示した「徴用」をめぐる問題や慰安婦問題については、「国家間の関係は政策の一貫性が重要だ。国家の政策を個人的な信念で一方的に強要したり貫いたりすることは容易ではない」と指摘しました。
会見では、政権の主要な役職の人事案も発表し、新しい首相に「共に民主党」の最高委員のキム・ミンソク(金民錫)氏を、最側近の秘書室長に、「共に民主党」の首席報道官などを務めたカン・フンシク(姜勲植)氏を指名しました。
さらに、大統領府で外交と安全保障政策を統括する国家安保室長には、北朝鮮の核問題をめぐる6か国協議の首席代表などを歴任した、元外交官のウィ・ソンラク(魏聖洛)氏を指名するなど、政権運営のための作業を本格化させています。
林官房長官「緊密な連携 確保することは重要」
林官房長官は午後の記者会見で「拉致問題や核・ミサイル問題など北朝鮮への対応を含め、日韓や日米韓で緊密な連携を確保することはこれまでと同様に重要だ。新政権との間でもこうした認識に基づいて対応していく」と述べました。
ソウル市民から期待の声
ソウルの市民からは新大統領に期待する声が聞かれました。
70代の男性は「ユン前大統領は『非常戒厳』という間違った判断をしたので、選挙の結果は想定内だった。イ新大統領には5年間しっかりと仕事をしてもらい、特に公約に掲げていた経済政策を実行してほしい」と話していました。
30代の女性は「新大統領には国民の声を聞いて、国民のための政策を実現してほしい。選挙戦で掲げていた若い人たち向けの政策も実行してくれることを期待している」と述べました。
また、50代の男性は「大統領不在の状態が続いていたので、経済や外交の政策をしっかりと進めてほしい」と述べた上で、イ新大統領が貧しい家庭で育った生い立ちであることを念頭に「苦労してきた人だと思うので、初心を忘れずに大統領としての仕事をまっとうしてほしい」と話していました。
イ新大統領に「司法リスクある」と指摘も
イ新大統領は、公職選挙法違反などの罪で5つの刑事裁判を抱えていて、「司法リスク」があると指摘されています。
先月には、前回3年前の大統領選挙をめぐり、公職選挙法違反の罪に問われた裁判で、韓国の最高裁判所が2審の無罪判決を取り消しました。やり直しの裁判は今月18日に予定されています。
韓国の憲法では、大統領は原則として在任中に刑事訴追を受けない特権があると定められています。しかし、通信社の連合ニュースは、すでに進行している刑事裁判を継続できるかどうかは解釈が分かれると伝えています。
与党となった「共に民主党」は国会の299議席のうち過半数の171議席を占めていて、イ大統領の「司法リスク」を解消するために、刑事訴訟法や公職選挙法の改正案を国会に提出するとみられるということです。
ただ、「共に民主党」の国会での手続きが、強引な手法とみられれば世論の反発も予想されています。
今後の日韓関係は?
イ新大統領は、日本との関係を今後どうしていくのか、日韓関係に詳しい韓国・クンミン(国民)大学のイ・ウォンドク教授に聞きました。
イ教授は、今後の日韓関係の見通しについて、「日韓は戦略的な利益を共有している部分が大きく、日韓の戦略的な協力というものが非常に大切だという認識はイ新大統領にとっても同じだ」と述べました。
歴史問題については、「イ新大統領は『実用外交』を掲げているので、日本に問題を強く追及する場合には、結果的に経済や交流の部分でマイナスの効果が出ると新大統領は十分認識している」と分析しました。
このほか、大統領府の国家安保室長に指名されたウィ・ソンラク氏については、「日米韓の協力が韓国外交においては非常に重要だという認識を持っている」と述べました。
一方で「彼は同時に中国、ロシアとの関係も戦略的に管理すべきだと言っているので、相対的に見ると日韓関係、日米韓の重要性は低下していく可能性もある」と指摘しました。
そしてイ教授は、「早めに首脳どうしの会談がセッティングされるよう努力することが、両国関係の改善を維持するためには重要になる」と述べ、早期に日韓首脳会談を開き首脳どうしの信頼関係を築くことが重要だと指摘しました。
イ氏が勝利した背景
3日投票が行われた韓国の大統領選挙は、革新系の「共に民主党」のイ氏が得票率49.42%、保守系の「国民の力」のキム・ムンス(金文洙)氏が41.15%となり、イ氏が当選を果たしました。
イ氏が勝利した背景には、「非常戒厳」を宣言した、ユン前大統領を厳しく批判し、政権交代を訴えて支持を広げたことがあるとみられます。
「非常戒厳」が宣言された直後には、軍の部隊が投入された国会に向かう様子をSNSでライブ配信し、「民主主義をともに守ろう」と国民に呼びかけました。
最大野党の代表としてユン前大統領の罷免を強く求め、今回の選挙を「内乱への審判」と位置づけて、選挙戦でも繰り返し与党の対応を批判してきました。
選挙戦では極端な発言は控え、無党派層への支持拡大を図ったほか、保守層の切り崩しにも力を入れ、伝統的に保守層が強い南部のテグ(大邱)やキョンサン(慶尚)道もたびたび訪問しました。
そして、対する保守系与党が模索した保守系候補の一本化が実現しなかったことも勝因となりました。
公認候補の差し替えの動きなど与党内の混乱も続き、保守層が一枚岩になれなかったことが、イ氏の勝利を大きく後押しする一因となりました。
キム氏が敗れた背景
与党「国民の力」のキム・ムンス氏が敗れた背景には、ユン前大統領による「非常戒厳」をめぐる有権者の根強い反発や、保守系候補の一本化が実現しなかったことがあるとみられます。
与党のキム氏は、ユン前大統領の弾劾に反対するなど、保守強硬派として知られましたが、選挙期間中の演説では、「非常戒厳」について「国民に申し訳なく思う」と繰り返し謝罪しました。
しかし、「非常戒厳」やその後の政治的混乱に対しては、支持基盤である保守層からも批判の声が出ていました。
また、与党の執行部が突然、公認候補の差し替えを試みたものの、党員投票で否決されてキム氏が再び公認候補に復活することになり、党内の混乱を印象づける形となりました。
党が一枚岩となって選挙戦に臨めなかったことも、得票を伸ばせなかった要因とみられます。
さらに、キム氏は、保守系の少数政党「改革新党」から立候補したイ・ジュンソク(李俊錫)氏との一本化も模索しましたが、拒否されて実現せず、保守層の票が分散したことも敗因の一つとなりました。
石破首相祝辞「パートナーとして協力すべき重要な隣国」
石破総理大臣は韓国の大統領に就任したイ・ジェミョン氏に祝辞を送り「大統領への就任を心よりお祝いする。日本と韓国は互いに国際社会のさまざまな課題にパートナーとして協力すべき重要な隣国だ。現下の戦略環境のもと日韓関係の重要性は変わらず、日米韓3か国の連携も重要だ」としています。
その上で「1965年の国交正常化以来築いてきた日韓関係の基盤に基づきこれをさらに発展させていけることを期待している。日韓関係が安定的に前に進むよう、国民間の交流を大切にしながら両政府間で意思疎通していきたい」としています。
経団連会長「韓国と協力し秩序の維持・強化に取り組む」
イ氏が大統領に就任したことについて、経団連の筒井会長は「韓国国内における混乱に終止符が打たれ、内政・外交上の課題に国を挙げて取り組む体制が整うことを期待する。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が大きく揺らいでいる今日、わが国としては、自由、民主主義、法の支配といった価値観を共有する韓国と連携・協力して、秩序の維持・強化に取り組む必要がある」というコメントを出しました。
そのうえで「来る6月22日、日韓両国は国交正常化60周年を迎える。これを機に政治・経済・社会・文化などあらゆる分野で対話・交流を強化し、近年、劇的に改善してきた両国関係の更なる発展につなげていかなければならない」としています。
米 ルビオ国務長官「日米韓3か国の協力をさらに深めていく」
アメリカのルビオ国務長官は3日、声明を発表し、新たに大統領に就任したイ・ジェミョン氏への祝意を示しました。
そして「アメリカと韓国は、相互防衛条約や共通の価値観、深い経済的なつながりに基づく同盟関係への揺るぎない関与を共有している。また、こんにちの戦略的環境に対応し、新たな経済的課題に取り組むために同盟の近代化を進めている」と指摘しました。
その上で「地域の安全保障を強化し、経済の強じん性を高め、共有する民主主義の原則を守るため、日米韓3か国の協力をさらに深めていく」として、日本を含めた3か国の連携を進める考えを強調しました。
イランとイスラエル双方が攻撃継続、死傷者多数 石油施設で火災も
2025年6月15日 BBC
イスラエルとイランは14日から15日早朝にかけて、双方に攻撃を繰り返した。イスラエル国防軍(IDF)は現地時間15日未明、イランの首都テヘランを攻撃し、国防省をはじめ核開発関連施設を標的にしたと発表。対するイランはこれに先立ち、「ドローン(無人機)による広範な攻撃」を実施したと国営テレビで発表した。イスラエル側によると少なくとも6人が死亡し、数十人が負傷したという。
イスラエル・メディアは現地時間14日午後11時過ぎに、イランがミサイルを発射したと伝えた。
イラン国営テレビは、ミサイル100発を発射したと発表。主にイスラエルのテルアヴィヴとハイファが標的だと説明した。
イスラエルは現地時間14日午後11時11分、イランからのミサイルを迎撃するとともに、テヘランの軍事目標を攻撃していると明らかにした。
IDFは、イランの核開発計画に関連するテヘランのインフラを標的に、攻撃を重ねたと発表。標的には、国防省のほか、国防イノベーション研究機関も含まれるという。
さらに、「イラン政権が核兵器を入手するための取り組みを推進する」標的や、「イランが核関連の記録を隠した場所」も標的にしたとしている。
一方、イランは夜通し、イスラエルを攻撃。イスラエル中部で大きい爆発音が繰り返し響いた。イスラエル北部ハイファに近い住宅地にミサイルが着弾した際には、少なくとも5人が死亡。イスラエルの救急活動組織「マゲン・ダビド・アドム(MDA)」によると、中部テルアヴィヴへの攻撃では、60歳女性が死亡した。
MDA報道官によると、テルアヴィヴではさらに20人が負傷したほか、イスラエル中部でも24人が負傷した。
こうした被害報告についてBBCは、まだ独自に検証できていない。
イラン軍の一部で有力組織の革命防衛隊(IRGC)は14日、攻撃したイスラエルの標的は「戦闘機燃料の製造やエネルギー供給の中枢」だったと説明。
IRGCは声明で、イスラエルからの攻撃が続く場合は、イランの攻撃も「激化する」と述べた。
IRGCはさらに、イスラエルに攻撃されたイランの地域で、「巡航ミサイル3発、ドローン10機、敵の超小型無人飛行機(UAV)を数十機、追跡し破壊した」とも述べた。
イラン国営メディアによると、マスード・ペゼシュキアン大統領も、イスラエルが攻撃を続けるならば「さらに厳しい」反応をすると発言した。
ペゼシュキアン大統領は、パキスタンのシェフバズ・シャリフ首相と電話をした際に、「シオニスト(訳注:イスラエルを指している)の侵攻が続けば、イラン軍はさらに厳しく強力に反応する」と述べたという。
核協議は中止
イランの核開発をめぐり15日にオマーンで開催予定だったイランとアメリカの協議は、中止された。アメリカ政府幹部がBBCに明らかにした。
アメリカ政府幹部はBBCに、「15日の協議は開かれないが、我々は話し合いを続けることを重視しており、イラン側が近く交渉の場に来ることを期待している」と話した。
国際原子力機関(IAEA)は15日、ソーシャルメディア「X」上で、イラン中部イスファハンにある核関連施設において「4棟の重要建屋」が損傷を受けたと明らかにした。被害を受けたのは、ウラン転換施設および燃料板製造工場を含む建物だという。
そのうえでIAEAは、イラン原子力規制局から、イスファハンの施設周辺の放射線量に変化はないと報告を受けていると明らかにした。
IAEAはまた、前日に攻撃を受けたとされるナタンツ核施設についても言及し、「施設外での放射線量に変化は確認されていない」と報告した。
双方の石油施設から出火
Play video, "Fire at Shahran oil depot west of Tehran following Israeli attack", 所要時間 0,26
00:26
動画説明,イスラエルの攻撃を受け、テヘラン北西にあるシャーラン石油貯蔵施設から出火した様子
イランの首都テヘラン北西部に位置するシャーラン石油貯蔵施設では15日未明、大規模な火災が発生した。現地住民が撮影し、BBCヴェリファイ(検証チーム)が確認した映像には、シモン・ボリヴァル通りから撮影された激しい炎が映っている。
別の映像では、同じ通りから撮影された燃え上がる石油タンクローリーの様子が確認されており、撮影者が時間と場所を明言している。
イランのメフル通信も現地からの映像を報じており、同施設が何らかの攻撃を受けた可能性があると伝えている。
イラン石油省は「状況は制御できている」と発表しているものの、複数のイラン・メディアは住民に対し、現場周辺に近づかないよう呼びかけている。
一方、14日深夜からイランへ発射されたとされるミサイルが着弾したため、イスラエル北部ハイファにある石油精製所付近でも火災が発生した。
SNSで共有された映像には、遠方から撮影された火災の様子が映っており、BBCヴェリファイは周辺の特徴的な要素と照合することで、撮影地点と対象施設を特定した。
中東情勢 事態さらに悪化すれば 日本経済に悪影響及ぶおそれ
2025年6月22日 NHK
アメリカがイランを攻撃したことで中東情勢が一段と緊迫化しています。
今後、イランが報復するなど事態がさらに悪化すれば、中東からの輸入に原油を依存する日本経済に悪影響が及ぶおそれもあるとして、日本企業は状況を注視しています。
資源エネルギー庁によりますと、日本は原油の90%以上、LNG=液化天然ガスの10%近くを中東からの輸入に依存しています。
アメリカのイランへの攻撃を受け、まず注目されるのは、週明けのマーケットにどのような影響が及ぶのかという点です。
国際的な原油の先物価格は、イスラエルによるイランへの攻撃など中東情勢の緊迫化によってこのところ大きく上昇していますが、今回のアメリカの軍事攻撃で原油価格がさらに上昇するという見方もでています。
今後、イランが報復するなど事態がさらに悪化し原油価格の上昇が続けば、幅広い製品の値上がりにつながり日本経済に悪影響が及ぶおそれがあります。
また、日本企業は、原油の海上輸送の要衝となるホルムズ海峡をめぐる情勢にも大きな関心を寄せています。
ホルムズ海峡は、産油国に囲まれたペルシャ湾とアラビア海をつなぐ場所に位置していて、最も狭いところの幅は30キロあまりにすぎません。
日本に向かうタンカーの多くがホルムズ海峡を通過しなくてはならないため、日本のエネルギー供給の生命線とされています。
仮にイランが反撃の手段としてホルムズ海峡の事実上の封鎖に踏み切るようなことになれば、日本経済への打撃は避けられず、日本企業の間からは事態の悪化を懸念する声があがっています。
大手商社の関係者は「紛争がさらに拡大した場合、中東地域全体のビジネスを見直すことにもなりかねず、状況を注視している」と話していました。
一方、三井物産や丸紅などは、イランの首都テヘランにいた駐在員を隣国のアゼルバイジャンに退避させたということです。
専門家「週明けの市場 80ドル台に上昇の可能性」
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「これまでイランとイスラエルの軍事衝突では、原油の先物価格が1バレル=70ドル台となっていたが、アメリカの介入でステージが変わり、週明けの市場では80ドル台に上昇する可能性が高い」と述べました。
そのうえで「軍事力で劣るイランがアメリカに対抗する手段として、ホルムズ海峡の封鎖による原油価格の上昇というのは残された唯一の手段となってきている。実際に踏み切る可能性を市場関係者が意識し始めると、1バレル=90ドル台、最悪の場合は120ドル近くに上昇する可能性があり、世界経済を下押しするリスクになってくる」と指摘しました。
さらに、日本経済に及ぼす影響については「日本は物価高、特にコメの価格上昇によって消費が下振れし、さらにトランプ政権の関税措置で輸出が下押しされるという状況にある。これに3つ目のリスクとして原油価格の上昇が加わる可能性がある。1バレル=80ドル台後半まで原油価格が上昇すると、日本のGDPは0.3%程度押し下げられることになり、トランプ関税の影響とあわされば、ことし後半には景気が悪化する可能性が濃厚となってくる」と話していました。
ホルムズ海峡とは
ホルムズ海峡は、イランの南にあるペルシャ湾とアラビア海を結ぶ海峡です。
イラン、サウジアラビア、クウェート、カタール、UAE=アラブ首長国連邦などで生産された石油やLNG=液化天然ガスは、タンカーに積まれ、海上輸送ルートとしてホルムズ海峡を通過します。
アメリカのエネルギー情報局によりますと、世界の石油消費量のおよそ20%はホルムズ海峡を通過し「世界で最も重要なエネルギーの輸送ルート」とも呼ばれます。
石油の90%以上を中東に依存する日本にとっても、ホルムズ海峡は日本のエネルギー安全保障にとって要の場所となっています。
一方で、イランは過去にアメリカなどとの対立が深まると、ホルムズ海峡の封鎖をちらつかせたことがあります。
「生徒会を学校の意思決定に参加させて」 次の学習指導要領づくりへ日本若者協議会がオトナたちに求めた思い
2025年6月15日 東京新聞
若者の声を政策に反映させる活動を続ける日本若者協議会(室橋祐貴代表理事)は、学習指導要領に子どもの権利を明記するなど、次期学習指導要領改定に向けた提言をまとめた。
学習指導要領改定に向けた提言への思いを語る岐阜大4年生の森本圭祐さん(右端)ら=12日、東京・霞が関の文部科学省で(榎本哲也撮影)
学習指導要領はおおむね10年ごとに改定される。昨年12月に文部科学相が改定に向けた審議を中央教育審議会に諮問。同協議会は、学習をする側の若者の意見を審議に反映させようと、高校・大学生ら15人のプロジェクトチーム(PT)を結成。約1年の議論を経て提言をまとめ、12日、金城泰邦文科政務官に手渡した。
提言は、
①学習指導要領改定の議論に子ども・若者を参画させる
②学習指導要領に子どもの権利を記載する
③「生徒会は学校の意思決定に参画する」と明記する
④探究学習を拡充するために、必履修科目の時間を減らして、選択科目を増やす
⑤性教育で、取り扱う内容を制限した「歯止め規定」を撤廃する
──などの内容。
中国に対抗するための「オーシャン構想」が進行中 自衛隊を遠い海域へどんどん派遣 国会で議論しなくていいの?
2025年6月10日 東京新聞
中国が海洋進出を強める南シナ海を巡り、政府は自衛隊が軍事作戦を行うシアター(戦域)と位置付けて艦艇を派遣するなど影響力を高めている。海上自衛隊は4~5月に東南アジア諸国の軍隊と相次いで共同訓練を実施し、中谷元・防衛相は国際会議で結束を呼びかけた。国会で十分な議論がないまま、自衛隊が日本から離れた海域で活動を展開し、有事や紛争に関わる事態が現実味を帯びつつあるのか。(大野暢子)
◆アメリカの「ワンシアター構想」がベース
フィリピン海軍の艦艇を見送る海自隊員=フィリピン・マニラ沖で(海上自衛隊提供)
中谷氏は5月末、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議で講演し、東・南シナ海を含むインド太平洋で関係国が軍事面で協力する「オーシャン」構想を提唱。「オーシャンの下で各国が手を携え、ルールに基づく国際秩序の回復を図っていくべきだ。日本はその中心であり続けることを約束する」と宣言した。
オーシャン構想は石破茂首相や中谷氏が3月末に初来日したヘグセス米国防長官に提起した「ワンシアター(一つの戦域)」構想を基にしている。東・南シナ海などの海域を一体のシアターと捉え、軍事的圧力を強める中国に日米や周辺国が共同対処する考え方だ。
◆東南アジア諸国と共同で中国をけん制
東南アジア諸国は中国の脅威に危機感を抱きつつも、過度に刺激することを懸念。そのため、中谷氏は軍事用語であるシアターを使わず、オーシャンと言い換え、日本の積極的な関与と連携強化に理解を求めた。
日米、オーストラリア、フィリピンの4カ国は防衛相会談で、東・南シナ海での中国による一方的な現状変更の試みに深刻な懸念を表明。共同で情報収集や警戒監視、偵察活動の計画を検討することで一致した。
フィリピンなどは南シナ海で中国と領有権を争い、対立が激化している。自衛隊がオーシャン構想に基づき周辺海域で軍事的な関与を強めれば、紛争に巻き込まれるリスクは高まる。
◆遠方で有事に巻き込まれる恐れ
南シナ海での自衛隊の活動拡大には、2015年に成立した安全保障関連法が深く関わる。安保法によって、自衛隊は警戒監視中や共同訓練中の他国軍を第三国の妨害から守る「武器等防護」が可能になり、その相手国を増やしてきた。
訓練中の海自隊員とインドネシア海軍のフリゲート艦=インドネシア・スラバヤ沖で(海上自衛隊提供)
タンカー航路のマラッカ海峡周辺で紛争が起きた際など、安保法に基づく「重要影響事態」を認定し、自衛隊が米軍を後方支援するシナリオも想定される。米軍が攻撃されれば「存立危機事態」を認定して集団的自衛権を行使し、遠方で有事に関わる恐れもある。
政党が悩むSNSのデマ対策…公明は「AIファクトチェッカー」導入 国民民主は「人間の目でチェック」
2025年6月10日 東京新聞
東京都議選や参院選に向け、SNS(交流サイト)上の偽情報対策として、各党が人工知能(AI)を活用したチェックに取り組んでいる。公明党は6日に運用を始め、国民民主党も参院選を見据えて準備を進める。両党とも、党の政策や所属議員の発言などをAIにインプットし、ネット上の党に関する情報を照らし合わせ、真偽を判別する。公正な選挙を守る切り札となるか。(長崎高大)
◆国民民主もソフトを独自で準備
「偽情報が飛び交い、選挙結果に大きな影響を及ぼすこともある。民主主義にとって重要な選挙が公正であり続けるために、必要なものだ」。公明の斉藤鉄夫代表は6日の記者会見で、AIによる偽情報チェックの意義を強調した。
公明党の斉藤鉄夫代表(資料写真)
公明が活用するのは、AIエンジニア安野貴博氏が率いる政治団体「チームみらい」が一般公開したソフト「AIファクトチェッカー」。党に関するSNS上の情報の真偽をAIが自動的に判別し、最終的には党のスタッフが偽情報か否か判定する。影響の大きさなどを考慮し、党のSNSなどで誤りを指摘する。
国民民主も参院選に向けて、AIで偽情報をチェックするソフトを独自に準備している。過去5年分の党の政策や所属議員の国会質疑などを学習したAIが、党に関するSNS上の情報を収集し、真偽を確認した後にホームページ(HP)やSNSで指摘する。
国民民主の伊藤孝恵広報委員長(資料写真)
国民民主の伊藤孝恵広報委員長は「最終的には人間の目でチェックし、誤りを指摘するHPの文章も自分で書く」と説明。偽情報を見つけてから2時間以内に、根拠を示して正しい情報を発信することを目指す。
伊藤氏は昨年11月兵庫県知事選を巡り、「真実でない情報でも、拡散され多くの人が知ると、いつの間にか『ファクト』になってしまう」と危機感を抱いたという。参院選については「各党が自前で『ファクトチェック』しないと、戦えない選挙になるのではないか」と述べた。
両党の取り組みに対し、認定NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」の理事長を務める瀬川至朗東大特任教授は「政党が等に関する言説をチェックし、反論や見解を示すことはいい」と述べ、取り組みの意義を認める。
ただ、国際的なファクトチェックのルールでは「非党派性・公正性」「検証方法の透明性」などの原則を踏まえる必要がある。瀬川氏は「ファクトチェックは当事者が行うものではなく、党派から独立した第三者が行うものだ。政党がやるものを『ファクトチェック』と呼ぶのは誤用になる」と指摘する。
日本学術会議“国から独立した法人に” 法律が成立 参院本会議
2025年6月11日 NHK
日本学術会議を国から独立した法人とするための法律が、参議院本会議で自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。
法律では、日本学術会議を国から独立した法人とする一方、必要な財政支援を行うとしたうえで、会員は総理大臣が任命する仕組みから会議が選任する方法に改めるとしています。
また、運営の評価と監査を行う委員や監事は、総理大臣が会員以外から任命するとしています。
11日は参議院本会議で討論が行われ、日本維新の会は、賛成の立場から「ナショナルアカデミーとしての抜本的改革は待ったなしだ。この法律は、最初の一歩にすぎず、不断に見直しを行い、改革に向けた議論を続けていくべきだ」と述べました。
一方、立憲民主党は、反対の立場から「政府は法人化により独立性が高まると説明するが、運営面で独立するとは言えない。かえって政府の意向をそんたくせざるをえなくなり、むしろ独立性が低下してしまう」と指摘しました。
このあと採決が行われ、法律は、自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。立憲民主党、国民民主党、共産党、れいわ新選組などは反対しました。
法律をめぐっては、政府に対し、会議の独立性や自主性、自律性を尊重することや、活動を萎縮させることがないよう必要な財政措置を行うことなどを求める付帯決議が、衆参両院の委員会で可決されています。
国から独立した法人としての学術会議は、法律に基づいて、来年10月に発足します。
林官房長官“学術会議の機能強化 説明責任の担保図るもの”
林官房長官は11日午後の記者会見で「社会課題の複雑化、深刻化が進み国民生活や政策立案に学術的な知見を取り入れていく必要性がこれまで以上に高まる中、独立性、自律性を抜本的に高めることで学術会議の機能の強化や説明責任の担保を図るものだ。法人化により学術会議が総会で会員を選任することになるなどアカデミーの自主性、自律性に配慮した制度設計となっている」と述べました。
主な変更点は
今回の法律で、日本学術会議の組織形態は国の機関から、国から独立した「特殊法人」に変わることになります。
主な変更点は以下のとおりです。
【目的】
現在の学術会議は、科学者の代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業や国民生活に科学を反映浸透させることを目的としています。
一方、新たな学術会議では、学術の向上発達を図るとともに、社会の課題の解決に寄与することを目的としています。
【会員数と任期】
会員数は、210人から250人に増員されます。
また、会員の任期は現在と同じ6年ですが、新たな法人では1回にかぎり、再任できるとされています。
一方で、現在はおよそ2000人の科学者が連携会員として活動に携わっていますが、新たな法律では連携会員についての規定はありません。
【会員の選考】
会員の選考については、現行の会員が新たな会員の候補者を推薦して内閣総理大臣が任命する仕組みから、学術会議自身が会員を選任する仕組みに変わります。
ただし、外部の科学者からなる「選定助言委員会」という新たな組織が設けられ、会員選考について意見を述べることになっています。
また、来年予定されている法人設立時と、その3年後に行われる会員選考については、現行の会員ではない人も関わる特別な方法で行われることになっています。
【評価と運営】
新たな法人では、業務を監査する「監事」や、学術会議自身の自己点検評価に意見を述べる「評価委員会」が設けられ、それぞれ総理大臣が任命します。
また、業務の目標や予算の収支などについての活動計画を公表することとしています。
【財源】
財源について、現在の日本学術会議は国費で運営されていて、過去10年間、年間の予算は10億円程度で推移してきました。
新たな法人では、国が「業務に必要な金額を補助する」とされ、寄付などによる外部資金の獲得が可能となっています。
専門家“メリット生かし充実した科学的助言の作成を”
日本学術会議の元会員で、科学技術と社会の関係に詳しい大阪大学の小林傳司名誉教授は「今回の法人化はガバナンスの強化が目立ち、基本的に非常勤で構成される小規模な組織に見合わない仕組みになっている。法人化するとどうしてナショナルアカデミーとしての機能が強化されるのか議論されるべきだったが、そういうことが行われずに法人化とガバナンスで政府の関与だけが強調されるのはもったいない」と述べました。
そのうえで、来年10月に発足する新たな法人への政府の関わり方については「国会の付帯決議で書き込まれているような、学術会議の独立性や自主性、自律性を尊重することなど、ナショナルアカデミーの最も大事な部分を毀損しないような運用を政府にはぜひしていただきたい」と話しました。
そして、新たな法人が果たすべき役割については「今回の法人化によって、政府だけでなく国会への助言が可能になるので、そのメリットを生かし充実した科学的助言の作成に努めてほしい。予算の点などを考えると政府の意向をそんたくする可能性が出てくると思うが、そこはできるだけふんばって学術の立場から日本にとって必要なことを発信する役割を果たしてほしい」と話していました。
日本学術会議 これまでの経緯
日本学術会議は「学者の国会」とも言われ、政府から独立して政策提言や科学の啓発活動などを行う国の機関として活動しています。
現在の学術会議は210人の会員からなり、会員の任命手続きは日本学術会議法という法律で定められていて、学術会議からの推薦に基づいて内閣総理大臣が任命します。
その任命手続きをめぐり、5年前の2020年10月、推薦した会員候補6人を当時の菅総理大臣が任命しなかったことに学術会議側が反発し、組織のあり方が議論されるきっかけとなりました。
自民党は、学術会議のあり方を検討する作業チームを立ち上げ「政治的中立性を担保するためにも独立した新たな組織として再出発すべきだ」などとする提言をまとめた一方、学術会議は国の機関としての形態が「役割を果たすのにふさわしい」とする報告書をまとめました。
これらを踏まえて政府は、学術会議を国の機関として存続させるものの、会員選考に第三者が参画する仕組みを導入するなどとした日本学術会議法の改正案をおととしの通常国会に提出する方向で調整を進めましたが、学術会議側から「独立性が損なわれる」と反対意見が相次いだことから、提出を見送りました。
その後、政府が設置した有識者懇談会が再検討を進め、昨年末、学術会議を国から独立した法人とする一方、国が財政支援を行うなどとした報告書がまとまり、これを受けて政府はことし3月、日本学術会議に関する新たな法案を閣議決定しました。
この新たな法案では、総理大臣が任命する外部の監事や評価委員会が設けられるとされ、学術会議は「自主性・独立性の観点から指摘してきた懸念が払拭(ふっしょく)されていない」などとして、ことし4月の総会で、国会に対し法案の修正を求めることを決議しました。
国会で審議が始まったあとも、国内の多くの学会や日本弁護士連合会、日本ペンクラブなどの団体から法案の修正などを求める声明が相次ぎ、国会の周辺では研究者や市民などが廃案を求める活動を行っていました。
こうした中、10日に行われた参議院内閣委員会では、学術会議が行う業務の独立性の明確化を図る立憲民主党の修正案の採決が行われ、否決されました。
そして11日、参議院本会議で採決が行われ、法律は自民・公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決・成立しました。
【Q&A】日銀が「国債買い入れ減額」ペースを緩めるのはなぜ?
2025年6月17日 NHK
日銀は17日まで開いた金融政策決定会合で、債券市場から買い入れる国債を徐々に減らす措置について、ペースを緩めることを決めました。
日銀が国債を買い入れてきたのはなぜ?
どうして買い入れを減らしているの?
ペースを緩めると決めた理由は?
Q&A形式でお伝えします。
Q.日銀が国債を買い入れてきたのはなぜか
かつて日銀はデフレ脱却を目指して大規模な金融緩和策を実施していました。世の中にお金が行き渡りやすくし、金利を極めて低い水準に抑えようと、日銀は債券市場から大量の国債を買い入れてきました。
日銀による債券市場からの国債買い入れは、多いときには年間100兆円、ひと月に10兆円を超えることもありました。
Q.どうして買い入れを減らしているのか
国債の買い入れを続けた結果、日銀が保有する国債は一時、発行された国債の半分を超えて残高が600兆円に迫り債券市場では“買い手”としての存在感が大きすぎるといった指摘も出ていました。このため日銀は2024年3月にそれまでの大規模金融緩和から政策金利を調節する政策に転換したあと、同じ年の7月に市場からの国債の買い入れを徐々に減らす計画を打ち出しました。
ただ、日銀は長い間、債券市場で最大の“買い手”だっただけに、一気に買い入れを減らすと需給のバランスが崩れて市場が混乱し、金利が乱高下しかねないというリスクもありました。
このため買い入れの減額は市場に配慮して原則3か月ごとに4000億円程度を減額するという“スローペース”で始めることになりました。この措置を始めたころのひと月あたりの買い入れ額はおよそ5兆7000億円でしたが、現在はおよそ4兆円となっています。
Q.買い入れを減らすペースを緩やかにすると決定した理由は
債券市場で不安定な動きが続いていたため、これに配慮した形です。
債券市場では発行された国債を金融機関などが取り引きしていますが、国債は売られると価格が下がり、金利の指標となる利回りが上昇するという関係になっています。最近の債券市場では、国債になかなか“買い手”がつかず、金利の指標となる利回りが急上昇するような場面がありました。
とくに満期までの期間が30年や40年の「超長期」と呼ばれる国債はことし4月ごろから売られる場面が増え、
▽30年ものの利回りは先月21日に(5月)一時3.185%、
▽40年ものの利回りは先月22日に一時3.675%まで上昇し、
それぞれ過去最高の水準を更新しました。
「超長期」の国債が売られた背景について市場関係者からは、
▽主な買い手である生命保険会社が国債の新たな購入を控えていることで国債の需要が低下していることに加え、
▽国会で消費税の税率引き下げをめぐる議論が活発になり、投資家の間で財政への影響に対する懸念が広がったことも、
国債を売る動きにつながったといった指摘が出ています。
また市場関係者からは「これまで国債を大量に買い入れてきた日銀が減額を進めることで、買い支える存在がいなくなるのではないかという市場心理がひろがったことも、国債の売りにつながったという見方もあり、債券市場では、日銀の今後の買い入れ方針に注目が集まっている」といった声があがっていました。
Q.具体的にどのようにペースを緩めるのか?
来年3月までは市場から買い入れる長期国債を原則3か月ごとに4000億円程度ずつ減らすとし、この期間の買い入れは去年7月に決定した計画を維持した形です。いまは月間の買い入れが4兆1000億円程度ですが、買い入れを減らすことで、来年1月から3月の期間には、買い入れは、月間2兆9000億円程度になるとしています。
一方、今回新たに示した来年4月以降の計画では、原則3か月ごとに2000億円程度ずつ減額するとし、その前と比べて減らすペースを緩やかにする方針です。これについて日銀は「国債市場の安定に配慮した形で市場機能の改善を進めていけるよう段階的に減額していく」としています。
新たな計画にもとづけば、再来年(2027年)1月から3月の期間に市場から買い入れる国債は、月間2兆1000億円程度まで減るとしています。そして計画通りに減額を進めた場合、再来年の3月には保有する国債残高が減額を始める前の去年6月と比べておよそ16%から17%減るという見通しを示しています。
一方、日銀は、来年6月の決定会合で今回示した計画の中間評価を行い、必要があれば計画を修正するとともに、再来年4月以降の買い入れ方針を検討し、公表することにしています。日銀としては段階的に国債の買い入れを減らしていく考えですが、金利を左右する債券市場への配慮は避けてはとおれず、かつての大規模な金融緩和策からの「出口戦略」の難しさが浮き彫りになっています。
日銀 植田総裁 国債減額ペース緩める措置「金利変動など配慮」
2025年6月17日 NHK
日銀は17日まで開いた金融政策決定会合で、債券市場から買い入れる国債を徐々に減らす措置について、ペースを緩めることを決め、あわせて金融政策の維持も決定しました。
植田総裁は会合のあと会見し、国債の買い入れを減らすペースを緩めることについて「金利が異常な変動を示して経済にマイナスの影響を与えないようにするためだ」と述べ、このところ長期金利が急上昇するなど不安定になっている債券市場に配慮したという認識を示しました
目次
植田総裁の主な発言内容
政策金利0.5%程度に据え置き 国債購入の減額幅縮小へ
日銀は17日まで開いた金融政策決定会合で、債券市場から買い入れる国債を減らす措置について、来年4月以降は減額のペースを緩めることを決めました。
会合のあと会見した植田総裁はこの理由について「あまり早めに減額を進めて国債の金利が異常なボラティリティー=変動を示して、経済にマイナスの影響を与えるようなことがないようにという配慮だ」と述べ、長期金利が急上昇するなど不安定になっている債券市場に配慮したためだという認識を示しました。
また、黒田前総裁が進めた大規模金融緩和策のもとで大量の国債を買い入れたことが、債券市場の不安定な動きにつながっているといった指摘が出ていることに関連して、植田総裁は「大規模緩和の副作用との関連で申し上げれば、副作用が顕現化しないよう注意深く進めている」と述べました。
一方、アメリカのトランプ大統領の関税措置や各国の通商政策について植田総裁は「不確実性は極めて高く、経済、物価ともに下振れのリスクの方が高いと判断している」としたうえで「通商交渉自体は見守るしかないと思うが、後ずれすればするほど通商政策を巡る状況が不確実であるという判断は続いていくということにならざるを得ない」と述べました。
日銀は今後、経済や物価が見通しどおりに推移すれば追加利上げを目指す方針ですが、植田総裁は「どのタイミングで利上げをするのかという話のまだ手前の段階だ」と述べ、通商政策の動向や経済指標の内容を慎重に見ていく考えを強調しました。
【Q&A】日銀が「国債買い入れ減額」ペースを緩めるのはなぜ?
植田総裁の主な発言内容
「予見可能な形で減額していくことが適切」
市場から買い入れる国債を徐々に減らす措置を導入しているねらいについて植田総裁は「長期金利は金融市場において形成されることが基本であり、日本銀行による国債の買い入れは、国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形で減額していくことが適切であると考えている」と述べました。
「海外動向や各国の通商政策など十分注視」
植田総裁は「各国の通商政策など今後の展開やその影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性はきわめて高く、金融・為替市場やわが国経済・物価への影響については、十分注視する必要がある」と述べました。
「各国の通商政策などの影響で成長ペースは鈍化」
植田総裁は国内経済の先行きについて「各国の通商政策などの影響をけて、海外経済が減速し、わが国企業の収益なども下押しされるもとで、緩和的な金融環境などが下支え要因として作用するものの、成長ペースは鈍化すると考えられる」と述べました。そのうえで、「海外経済が緩やかな成長経路に復していくもとで、成長率を高めていくと見込まれる。消費者物価の基調的な上昇率は展望レポートの見通し期間後半には『物価安定の目標』とおおむね整合的な水準で推移すると考えられる」と述べ、経済や物価が見通しに沿って推移すれば引き続き金融緩和の度合いを調整する考えを示しました。
「国債買い入れ減額速すぎると市場に不測の影響も」
植田総裁は市場から買い入れる国債を徐々に減らす今の措置について、来年4月以降、ペースを緩める方針を決めた理由について「国債買い入れの減額が進展するなかで、今後の減額ペースが速すぎると 市場の安定に不測の影響を及ぼす可能性もあるとみている。本日の会合では市場参加者の意見も参考にしつつ、この両方の考え方のバランスを勘案し、国債市場の安定に配慮した形で市場機能の改善を進めていけるようにした」と述べました。
また「今回の決定は財政への配慮というよりは、あまり早めに減額を進めて、国債の金利が異常なボラティリティーを示し、それが経済にマイナスの影響を与えることがないようとの配慮からの措置だ」と述べました。
「原油上昇の物価への影響注意深くみたい」
植田総裁は、イスラエルとイランの攻撃の応酬が続く中、原油価格の上昇が物価に与える影響について問われると「食品関連の価格上昇に加えて足元、イランとイスラエルの問題で原油が上昇している、こうした動きが広がったり、続いたりする場合には期待物価上昇率とか基調的物価上昇率に2次的な影響を与えるリスクはあると思う。現状そこまで至っていないと思うが、そこについては注意深く見ていきたい」と述べました。
さらに「一方で通商政策の影響がだんだんこれから出てきて製造業の企業収益が低下に向かう。それが場合によってはしばらく前まで続いていたようなコストカット型の価格や賃金設定行動を復活させるリスクも無視できないので両方を注意深く見ていきたい」と述べました。
「方針は国債市場全体の機能度を見て決定」
植田総裁は、超長期と呼ばれる国債の金利の上昇が国債の買い入れの減額ペースを緩める方針に影響したか問われたのに対し「国債市場全体と機能度を見て今回の決定になった。将来の金利あるいは国債市場の不安定さを未然に防ぐための措置であるというのが基本的な考え方だ」と述べました。
関税交渉の長期化「不確実な状況という判断続く」
植田総裁は日米の関税交渉の長期化が金融政策に与える影響について問われたのに対し、「通商交渉自体は、私どもとしては見守るしかないと思いますが、これが後ずれすればするほど通商政策を巡る状況が不確実であるという判断は続いていくということにならざるを得ないと思う」と述べました。
国債減らす措置「引き続き政府と密接な意思疎通図る」
植田総裁は、市場から買い入れる国債を徐々に減らす今の措置について、来年4月以降はペースを緩める方針を決めたことに関連して政府・財務省との意思疎通を問われたのに対し「さまざまなレベルで日ごろから密接にとっていて、そうした意思疎通を行ったうえで今回、私どもとして減額案を作成し決定した。少し先まで明らかにすることで政府にとっても発行計画の不確実性が1つ減るというプラスがあるかと思う。引き続き、政府とは密接な意思疎通を図っていきたい」と述べました。
債券市場への影響「機能度の回復ゆっくりになることはある」
植田総裁は国債の減額ペースを緩めることによる債券市場への影響について「マクロ的な悪影響については、それほど見ていない。むしろ減額を続けることで国債市場の機能度の回復を目指しているわけだが、そのペースが少しゆっくりになることはあると思っている」と述べました。
政策金利0.5%程度に据え置き 国債購入の減額幅縮小へ
日銀は2日目の金融政策決定会合で、今の政策を維持することを決めました。政策金利を据え置き、短期の市場金利を0.5%程度で推移するよう促します。
トランプ政権の関税措置で先行きの不確実性が高く、経済や物価への影響を慎重に見極めるべきだと判断したとみられます。
また、今回の会合では、かつて大規模な金融緩和策のもとで行われてきた、債券市場から大量の国債を買い入れる措置が議論となりました。
日銀は金融政策の転換に伴って去年8月から市場からの買い入れを減らしていますが、17日の会合では市場が不安定にならないようペースを緩める方針を決定しました。
来年3月まで原則3か月ごとに4000億円程度を減額するという今の計画を継続したあと、翌4月以降は2000億円程度に減額幅を縮小する計画です。
このところの債券市場は、財政悪化の懸念などを背景に国債が売られて長期金利が急上昇する場面もあり、日銀はこうした市場の動向も踏まえ、影響を最小限に抑える必要があると判断したとみられます。
林官房長官「政府と密接に連携し金融政策を」
林官房長官は午後の記者会見で「長期国債買い入れの減額計画は、債券市場参加者との対話を踏まえて決定されたものと承知している。日銀には引き続き政府と密接に連携を図り、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標の持続的、安定的な実現に向けて適切な金融政策を行うことを期待している」と述べました。
石破首相 「防災庁」設置に向けた法案 準備の加速を指示
2025年6月6日 NHK
「防災庁」の設置に向けて石破総理大臣は、各府省庁への「勧告権」を与えるなどとする有識者会議の報告書に基づき、来年の通常国会に必要な法案を提出するよう準備の加速を指示しました。
政府は、総理大臣官邸ですべての閣僚をメンバーとする「防災立国推進閣僚会議」などの会合を開き、先に有識者会議から提出された「防災庁」の設置に向けた報告書をめぐり、意見を交わしました。
報告書では「防災庁」を災害対策の司令塔とし、各府省庁への「勧告権」を与えることなどを求めていて、石破総理大臣は「この方向性に基づき、来年の通常国会に関連法案を提出するべく準備を加速してほしい」と述べました。
そのうえで、大規模災害が発生した場合の業務の継続性などを踏まえ、防災庁の地方拠点の検討を急ぐよう求めました。
また、先に成立した改正災害対策基本法などに盛り込んだ施策や、被災地で使用するキッチンカーの登録制度などの運用を着実に進めるとともに、南海トラフ巨大地震の「防災対策推進基本計画」の改訂作業や首都直下地震の被害想定の見直しを急ぐことなども指示しました。
これに加え能登半島について、地震からの復旧・復興や住まいの再建を着実に進めるとともに、梅雨や台風のシーズンを前にした警戒に万全を期すよう指示しました。
生活保護費引き下げは違法 裁判相次ぐ中 最高裁が統一的判断
2025年6月27日 NHK
国が生活保護の支給額を2013年から段階的に引き下げたことについて、最高裁判所は「厚生労働大臣の判断に誤りがあり、違法だった」として処分を取り消す判決を言い渡しました。
同様の裁判は全国で相次いで起こされていて、統一的な判断が示された形です。
原告側は、減額された分をさかのぼって支給するよう求めていて、およそ200万人とされる当時の受給者への国の対応が焦点となります。
厚生労働省が2013年から3年にわたり、物価の下落を反映するなどとして生活保護の支給額を最大で10%引き下げたことについて、全国の受給者は「健康で文化的な最低限度の生活を守るという法律に違反している」などとして取り消しを求める訴えを30件あまり起こしました。
このうち名古屋と大阪の裁判について、最高裁判所第3小法廷の宇賀克也裁判長は「デフレ調整で物価の変動率だけを直接の指標にした厚生労働大臣の判断には専門的な知識と整合性を欠くところがあり、その手続きは誤りで、違法だった」として処分を取り消す判決を言い渡しました。
国が定めた生活保護の基準額について、最高裁が違法と判断したのは初めてです。
一方、国に賠償を求める訴えは退けました。
同様の裁判は全国で相次いで起こされ、各地の裁判所で審理が続いていて、統一的な判断が示された形です。
原告側は、減額された分をさかのぼって支給するよう求めていて、およそ200万人とされる当時の受給者への国の対応が焦点となります。
福岡厚労相「内容を十分精査し 適切に対応」
福岡厚生労働大臣は「厚生労働省としては、司法の最終的な判断が示されたことから、今回の判決内容を十分精査し、適切に対応してまいります」というコメントを発表しました。
原告「感無量 裁判しなくていい制度を」
判決後、原告と弁護団は都内で集会を開きました。
名古屋の原告の1人で、50代で失明した千代盛学さん(71)は「弁護士が私の手を握ったので勝ったとわかった。感無量です。国は、今後このような裁判をしなくていいような制度にしてもらいたい」と話していました。
名古屋の別の原告は「勝ってうれしいです。国には謝罪してほしいです」と話しました。
大阪の原告の小寺アイ子さん(80)は「本当に勝つことができて、とてもうれしかった。これからも大変ですが力添えをお願いします」と話していました。
弁護団によりますと最大で1000人あまりいた原告のうち、200人以上が亡くなったということで、弁護団の1人は「早期の全面解決が切実に求められている」としています。
原告側 “未払い分さかのぼって支給を” 厚労省に要請
判決を受け、原告団と弁護団は厚生労働省に対し、生活保護費の未払い分をさかのぼって支給するよう要請しました。
要請書では、支給額の引き下げからすでに10年以上が経過し、全国で裁判を起こした原告のうち、2割を超える人が亡くなったとして、国に対して判決を真摯に受け止め、早期の全面解決に向けて努力すべきだとしています。
その上で、すべての受給者に対し真摯に謝罪した上で、保護費の未払い分をさかのぼって支給することなどを求めています。
また、再発防止に向けて改定が行われるまでの経緯や原因などを徹底的に調査することや、今後、生活保護の基準を改定する際には専門家による部会の検証をルールとすることなども求めています。
専門家「歴史的に意義のある判決」
最高裁判所の判決について生活保護行政が専門で立命館大学の桜井啓太准教授は「生活保護の支給額は客観的・科学的な根拠が必要であり、人々の生存権が保障される形で担保されなければならないことを確認した点で、歴史的に意義のある判決だ」と話しています。
当時、生活保護の支給額が引き下げられた背景について桜井准教授は、2008年のリーマンショックなどで生活保護の世帯数が過去最大になったほか、受給する世帯へのバッシングが起きたことなどを挙げ、「国は専門家の部会を無視するような形で過去最大の引き下げを発表し『大臣の裁量の範囲内』と主張した。しかし判決では、大臣も専門性や客観性のある水準を定めなければならないと確認された」と指摘しています。
今後、国に求められる対応については「可能な限り早急に影響を受けたすべての生活保護世帯に対して引き下げられた分を補償する必要がある。また、なぜこのような引き下げが行われたのかについて検証を行うことが必要だ」と話しています。
【さらに詳しく1】物価の変動率は指標として限界
今回、最高裁判所は国が生活保護の基準額の改定に、物価の変動率を用いたことについて「それだけで消費実態を把握するには限界がある」と指摘しました。
そのうえで「物価の変動率のみを直接の指標とするためには、専門的な知識に基づく説明が必要だが、国が十分説明したということはできない。受給者の生活に大きな影響を及ぼすもので、大臣の裁量の範囲を逸脱していた」と判断し「デフレ調整」は違法だとしました。
注目
【さらに詳しく2】もう1つの争点「ゆがみ調整」
一方、今回の裁判では「デフレ調整」とともに厚生労働大臣が行った「ゆがみ調整」の違法性も争点のひとつでした。
「ゆがみ調整」は基準を決める手続きの中で、住む地域や年齢、家族の数によって額が増えたり減ったりする世帯もいたことから厚生労働省が独自にその増減の幅を一律に2分の1にした処理のことです。
これについて判決では「減額される児童のいる世帯への影響に配慮する必要があるとされ、減る幅を限定することは合理的だった。また、世帯間の公平を図る目的もあったことから、額が増える世帯についても処理を行ったことが不合理とはいえない」として法律に違反しないとしました。
注目
【さらに詳しく3】国に賠償命じるべきとの意見も
判決では2人の裁判官が個別意見を述べました。
このうち学者出身で今回、裁判長をつとめた宇賀克也裁判官は、国に賠償を命じるべきだとする反対意見を述べました。
宇賀裁判官は、金額の増減の幅を一律に2分の1にする「ゆがみ調整」も違法な処理だったとしたうえで、「厚生労働省は、こうした処理の必要性と根拠を部会や国民に隠す必要があったのか、説得力のある説明がされていない。『ゆがみ調整』と『デフレ調整』をあわせて行うことの影響も当然検討すべきだったが、行われた形跡はなく、違法と評価せざるをえない」としました。
その上で「違法に引き下げ幅を拡大し、最低限度の生活ができない状態を9年以上にわたり強いてきたとすれば、賠償は支払われるべきだ」と述べました。
一方、裁判官出身の林道晴裁判官は多数意見の補足意見として「増減幅を2分の1にした独自の処理は、統計などの専門的な知識との整合性はとられている」として違法とはいえないとしつつ「生活に与える影響の大きさを考えると専門家の部会の意見を聞くという手続きを経る方がより丁寧だったとはいえる」と指摘しました。
そして「今後は、受給者や国民の理解をえられるように丁寧に検討し、説明することを期待したい」としました。
【Q&A】生活保護費どうやって決める?裁判の争点は?
生活保護とは、そもそもどのような制度で、今回の裁判でなにが争点となっているのか、まとめました。
Q. 生活保護はどういう制度?
A. 憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を守るため、生活に困った人たちに国が必要な支援を行い、自立を助ける制度です。
対象は、ただちに活用できる資産がなく、仕事がない、または仕事をしても必要な生活費を得られない、年金や手当などの社会保障を活用しても生活費が足りない人たちです。
最新の統計では、ことし3月時点でおよそ164万世帯、およそ200万人が受給しています。
今年度の予算の総額はおよそ3兆7000億円で、国が4分の3、地方自治体が4分の1を負担します。
Q. 1世帯あたり、どれぐらいの額が支給されているのか?
A. 世帯の状況によって異なります。支給される「保護費」の内訳は、食費や洋服代、光熱費など生活費にあてる生活扶助や、家賃にあてる住宅扶助、医療扶助や葬祭扶助など8種類あります。
このうち、今回の裁判で争われている生活扶助は、保護を受ける人の年齢や世帯の人数、暮らしている地域などで細かく分類したうえで基準額が定められています。
この基準額は、専門家による厚生労働省の部会で5年に1度、一般の所得が低い世帯の生活にかかる費用を比較するなどして消費の実態とかけ離れていないか検証されます。
そして、部会の報告を受けた厚生労働大臣が、最終的には経済の情勢などを踏まえて、新たな基準額を決めることになっています。
ことし10月以降の生活扶助の基準額は、例えば東京23区の場合、3歳から5歳の子どもが1人いる30代の夫婦で15万3400円、75歳の単身の高齢者世帯で7万1900円です。
年金などの収入がこれらの基準額を基にした生活費を下回った場合、差額が「保護費」として支給されます。
Q. 今回、およそ30件も裁判が起こされたのはなぜ?
A. これまでにない方法で生活扶助の基準額が大幅に引き下げられたからです。
今回の裁判で争われているのは、2013年に厚生労働大臣が決めた生活扶助の基準額です。
専門家による部会が消費の実態に基づき検証した結果を踏まえておよそ90億円、当時の物価の下落を踏まえた「デフレ調整」としておよそ580億円を、それぞれ削減するという内容でした。
この「デフレ調整」には、厚生労働省が物価の動向をもとに算出した「生活扶助相当CPI」という独自の指数が使われました。
この指数は専門家の部会で検証されたものではなく、指数に基づくと物価の下落率はマイナス4.78%となり、総務省の消費者物価指数の(ー2.35%)2倍近い下げ幅となりました。
独自の指数を使用したことが大幅な減額の要因となり、原告は「不当だ」として相次いで裁判を起こしました。
Q. 裁判の争点は?
A. 厚生労働省が行った引き下げが「健康で文化的な最低限度の生活」を守るという法律に違反したどうかが大きな争点になりました。
原告側は「そもそも物価指数を用いて生活扶助を見直す手法は過去にとられたことがない。重大な変更にもかかわらず、専門家の検討や検証も行われていない」と主張しました。
厚生労働省の独自の計算方法については「生活保護世帯があまり購入していないパソコンやテレビの価格の下落が大きく反映され、実態とかけ離れていた」などとして違法だとしました。
一方、国は「当時、世界的な金融危機の影響で国民の生活水準が大きく低下するなか、生活保護の水準は据え置かれ、不均衡になっていた。その不均衡を是正するためデフレ調整をした」と反論しました。
独自の計算方法については「見直しにあたって専門機関に意見を求めなければいけないという法令上の決まりはない。大臣には極めて広い権限があり、裁量の範囲内で行った」としました。
また、当時の手続きでは住んでいる地域や年齢、家族の数によっては額が増える世帯もありましたが、厚生労働省は世帯間のバランスを取る「ゆがみ調整」として、額が増える世帯も、減る世帯もその幅を一律に2分の1にする処理を独自に行いました。
この処理が適切だったかどうかも争点になりました。
Q. これまでの裁判所の判断は?
A. 全国で起こされている31件の裁判のうち、12件で高等裁判所の判決が言い渡されていて、このうち7件は引き下げは違法だとして取り消しが認められ、5件は違法ではないとして訴えが退けられました。
おととし11月の名古屋高等裁判所の判決では「厚生労働省が行った『デフレ調整』などは、統計などの客観的な数値との合理性が十分に図られていないほか、専門的な知識とも整合性を欠く。裁量の範囲を逸脱していることは明らかで、生活保護法に違反し、違法な対応だった」として引き下げを取り消し、国に対し、原告に1人あたり1万円の慰謝料を支払うよう命じました。
一方、大阪高等裁判所はおととし4月「生活保護法では専門家で作る基準部会などの検証を要件とはしていない。厚生労働大臣の判断に不合理な点はなく、見直し後の基準が健康で文化的な生活を維持するのに十分ではないとは言えない」などとして訴えを退ける判決を言い渡しました。
Q. 最高裁判決の影響は?
A. 今回審理されているのは名古屋と大阪の2件ですが、判決は全国で起こされている同種の裁判に影響することになります。
また、引き下げを違法とする判決が出た場合、受給者は当時、正当な額をもらえていなかったということになります。
当時の受給者はおよそ200万人で、補償の問題になる可能性があります。
参政 神谷代表“高齢女性は子ども産めない”発言の趣旨説明
2025年7月4日 NHK
参政党の神谷代表は、3日の街頭演説で「高齢の女性は子どもが産めない」などと発言したことについて、適齢期に出産できる社会環境を政治の力でつくるという趣旨で発言したものだと説明しました。
参政党の神谷代表は3日、東京都内で行った参議院選挙の街頭演説で「申し訳ないが高齢の女性は子どもが産めない。日本の人口を維持していこうと思ったら、若い女性に子どもを産みたいとか産んだほうが安心して暮らせるなという社会状況をつくらないといけない」などと述べ、SNS上などで批判が出ていました。
これについて神谷氏は旧ツイッターのXで「女性には適齢期があるから歳を重ねていけば出産ができなくなるのは生物として当然のこと。適齢期に出産できる社会環境を政治の力でつくろうと言ったことを叩く意味がわからない」と投稿しました。
批判の背景は
今回の発言についてSNS上で「女性の人権侵害だ」とか「出産適齢期はあるが、産むか産まないかは個人が決めることだ」といった批判が出ています。
こうした批判が出る背景にあるのが、性と生殖に関する権利の存在です。
内閣府によりますと、子どもを産むか産まないか、産む場合、何歳で、何人産むかなどは女性がみずからの意思で決める権利で「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」と呼ばれ、そのために必要な医療や支援が受けられるとされています。
1994年にエジプト・カイロで開催された国際人口開発会議で提唱され、世界的に広まり、女性の重要な人権の1つとして認識されています。
国内でも内閣府の男女共同参画基本計画でこうした権利の考え方を社会に浸透させる重要性が盛り込まれています。
参政党に農家が熱視線 神谷宗幣代表の地元・福井で感じた、「なんとなく自民」の空気が変わった理由
2025年7月4日 東京新聞
「農家」といえば自民党の大票田だったはずだが、地殻変動が起きているのだろうか。
3日に公示された参院選で、議席を大きく伸ばす可能性があるのが参政党だ。直近の東京都議会議員選挙で4人を擁立して3人を当選させ、勢いに乗る。
都議選直後の週末、神谷宗幣代表の地元・福井県で街頭演説会と政治資金パーティーがあると聞いて足を運んだ。
そこで感じたのは、農業関係者からの熱い視線だった。(佐藤裕介)
◆YouTubeをきっかけに支持「農家観や国家観が合致」
参政党は、「日本人ファースト」のキャッチコピーで支持を拡大し、一部の世論調査では既に共産党や日本維新の会を上回る政党支持率を獲得している。
6月28日午後4時、福井市の福井駅前、参政党の街頭演説会には200人以上が集まり熱気に包まれた。
神谷代表は福井県西部の高浜町出身。2024年の衆院選では、参政党の比例代表の都道府県別得票率は福井県が全国2位の5.28%(1万8234票)だった。
福井駅前で街頭演説する参政党の神谷宗幣代表(左)=6月28日、福井市で(佐藤裕介撮影)
マイクを握った神谷代表は「もし有事が起きたら、日本は食料が足らない」と強調。農業生産者が減少傾向にあり、食糧自給率(カロリーベース)が38%という水準であることを踏まえ、「(有事で)世界の流通が止まれば、一番餓死者が多いのは日本だと言われているぐらいだ」などと訴えた。
演説に耳を傾けていた団体職員の男性(43)は「ここは田舎だから農家の人からは『人手不足は本当に大変な問題だ』ということをよく聞く」。
参政党の農業政策には賛同できるといい、「自民党が嫌だという農家の人たちの受け皿になるようなことを言っていると思う」とうなずいていた。
参政党の参院選公約 「米の確保と食の安全」を掲げ、コメの増産や輸出の奨励、農林水産業従事者の公務員化による担い手確保などによって、食料自給率を100%に引き上げるとしている。有機(オーガニック)食材を使った地産地消型学校給食の推進も訴える。
今回の取材では、声をかけた人に農業関係者が多かったのが印象に残った。
福井市の南隣、鯖江市で辛味ダイコンやニンニクなどを生産している徳橋玄基さん(28)は、参政党と「農家観や国家観が合致」して支持者になったと記者に語った。きっかけは3年前の夏に見た神谷代表のYouTubeだったという。
辛味ダイコンは、福井の郷土料理「おろしそば」に不可欠の食材だ。地域の食文化にとって重要な作物を作っている自負の徳橋さんの目に、日本の農業は危機的な状況に映る。
「参政党が主張するような農政改革を実現しなければ、いつまでたっても日本の食料自給率は上がらないし、伝統的な食文化を守っていくこともできない」
今の憲法にはあるのに?参政党の創憲案で消された私たちの「権利」
2025年7月16日 毎日新聞
長らく憲法改正が政治課題となる中、参院選が行われている。改憲、護憲、論憲。憲法に対する各政党の立場は異なるが、参院選前の5月に独自の憲法構想案を公表して「創憲」を訴えるのが参政党だ。
その中身を見てみると、現行の日本国憲法では明記されているのに、盛り込まれなかった「権利」がある。今の日本に暮らす私たちにはありながら、なくなったものとは――。
消えた「法の下の平等」
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
日本国憲法14条は、そう記す。これによって定められているのが、誰もが等しく扱われるべきだという「平等権」だ。
たとえば、地方と都市部の人口差によって生じる選挙の「1票の格差」。1人の政治家を選ぶにあたり、有権者の数はなるべく等しくあるべきだという考えは、この条文に基づく。
ほかにも、「女性は離婚後100日間、再婚できない」という女性だけに課された民法上の定めが2024年4月に廃止された。これは、法の下の平等に反するという最高裁の判断が15年にあったことがきっかけになった。
このように、男女の性差や生まれた土地によって差別されないという原則も14条が保障する。
ただ、参政党案には、これに該当する条文はなく、法の下の平等という考え方も盛り込まれなかった。6月に党が作った解説本「参政党と創る新しい憲法」(編著者・神谷宗幣党代表)も、その理由には触れていない。
「表現の自由」「職業選択の自由」もなく
同様に、参政党案では書かれていない権利がほかにもある。憲法19~22条には、それが明記されている。
「思想・良心の自由」(19条)
「信教の自由」(20条)
「表現の自由」(21条)
「居住、移転、職業選択、国籍離脱の自由」(22条)
この四つの条文は、それぞれ国民が自由に行使できる権利を定めている。どんな思想を持っても構わず、どんな宗教を信じても構わない。どんな職業を選ぶか、どこに住み、どの国に移るかも自らの判断で決めることができる。
政府による言論統制があった戦前の反省から、権力批判を含む言論の自由が21条には明記され、検閲を認めないとも書かれている。
この四つの条文が示す権利は、参政党の憲法案には見当たらない。
「黙秘権」もなくなって……
また日本国憲法の特徴の一つに、「世界的にも類例を見ないほどに詳細」(日本弁護士連合会)と評される、刑事手続きに関する人権規定がある。31~40条が、これに当たる。
これらは刑事司法における容疑者や被告の権利で、たとえば「裁判を受ける権利」を32条で保障し、36条では拷問を禁じている。
こうした条文が並ぶのは「戦前に人権侵害が多く起こった実態に対する反省の表れ」(参院憲法審査会)とされる。
一方の参政党案では、刑事人権保障を定める条文はない。それにより、裁判を受ける権利のほかに「黙秘権」(38条)も失われている。
神谷氏が編著を担った前述の解説本には「個人の権利が、結局は私益にすぎず」という一節がある。参政党の憲法案は、そんな思想を背景にしている。【春増翔太】
〇詳細は参政党のHPを参照してください。
スキマバイトのキャンセル、厚労省「休業手当が必要」
2025年7月4日 日本経済新聞
厚生労働省は4日、隙間時間に働く「スポットワーク」を雇用主の都合でキャンセルした場合、働き手に休業手当を支払う必要があるとの見解を公表した。賃金不払いなどのトラブル相談が寄せられているといい、業界団体や経済団体に注意点をまとめたリーフレットの周知を要請した。
厚労省は特段の合意がない限り、応募時点で「労働契約が成立することが一般的だ」と指摘した。雇用主の都合で仕事を直前に解約することは不適切だと整理した。待機を命じた場合も労働時間に該当し賃金が発生すると触れた。
契約成立後に雇用主の都合でキャンセルした場合、働き手は一定の期日までに休業手当の支払いを求めることができると明記した。
スマホのアプリなどで単発の仕事を見つけて働くスポットワーク(隙間バイト)は応募すれば面接などを経ずに就労が決まることが多い。
厚労省によると、仕事のキャンセルに伴う賃金の不払いといったトラブルが労働基準監督署などに多く寄せられている。
「スキマバイト」 雇用主と「マッチング」した時点で、労働契約が成立 厚生労働省が初めて考えを示す
2025年7月4日 東京新聞
スマートフォンのアプリで求人に応募し、履歴書や面接なしで働ける「スキマバイト(スポットワーク)」について、厚生労働省は4日、アプリで雇用主と就労をマッチング(合意)した時点で、原則として労働契約が成立するとの見解を初めて示した。(加藤豊大、中村真暁)
◆休業手当や労災の適用範囲示す
延べ3000万人が利用するスキマバイトアプリの多くでは、働き手が当日仕事の現場に用意されたQRコードをスマホで読み取ることで契約が成立する、との運用が続いている。
これに対し、労働者団体や弁護士から「通勤途中に事故に遭っても雇用契約前だとして通勤災害の補償適用外になる」「雇用主の都合で当日突然キャンセルになっても補償がない」と声が上がり、東京新聞も繰り返し問題点を指摘してきた。
厚労省は4日、働き手と事業者向けにリーフレットを公表。「特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人に労働者が応募した時点で労働契約が成立するものと一般的には考えられる」と明記した。
この解釈を前提に、働き手は、契約成立後に雇用主の都合でキャンセルや早上がりが命じられたら、休業手当が受けられると説明。通勤途中にけがをした場合には、労災保険給付を請求できると喚起した。
昨年度 国の税収75兆円余 過去最高を更新 法人税など伸び
2025年7月2日 NHK
昨年度の国の税収は法人税や消費税が伸びたことから75兆円余りとなり、5年連続で過去最高を更新しました。去年の年末時点の見積もりよりも1兆7900億円余り上振れました。
財務省が7月1日発表した昨年度の一般会計の決算の概要によりますと、税収は前の年度を3兆円余り上回り75兆2320億円と、5年連続で過去最高を更新しました。
内訳を見ますと、▽法人税が好調な企業業績を背景に前の年度より2兆円余り増え17兆9101億円、▽消費税は国内の消費が堅調に推移したことに加えて物価の上昇を反映し、1兆9000億円余り増えて25兆212億円でした。
また、所得税は定額減税の影響で8000億円余り減って21兆2085億円でした。
税収は去年の年末時点の見積もりから1兆7970億円上振れていて、これに、予算計上したものの使われなかった歳出の「不用」を加えるなどした「決算剰余金」は2兆2645億円となって、国債の償還や防衛力強化のための財源に充てられる見通しです。
一方、昨年度の税収が上振れたことで、この傾向が続けば今年度も税収が見込みを上回って推移する可能性があり、与野党の間では給付や減税に活用すべきという主張が相次いでいて、参議院選挙でも議論になりそうです。
税収「上振れ」の活用とは
税収の「上振れ」とは、経済成長率や直近の税収動向をもとに見積もった税収を、実際の税収が上回った分を指します。
年度途中で補正予算を編成するなど、急に財源が必要になった際にこの税収の「上振れ」が活用されることがあります。
こうした財源に活用される当該年度の税収の「上振れ」を見通すのに参考になるのが、前年度の税収の「上振れ」です。
政府は、前の年の補正予算の段階で最新の税収の見積もりを計算しますが、そこから年度末にかけてどれだけ税収が上振れたかによって次の年度の税収の上振れが一定程度、推測できるからです。
昨年度の決算では補正予算段階から税収が1兆7900億円余り上振れたため、財務省は、この傾向が続けば今年度も当初予算段階の見積もりを上回って推移する可能性があるとしています。
このほか活用できる財源として、その年度の当初予算に計上したものの使われなかった歳出の「不用」分や、「税外収入」も挙げられるとしています。
今回の参議院選挙で、与野党の間から給付や減税の主張が相次いでいるのも、今年度、税収の上振れが見込まれることなどが背景にあります。
一方、昨年度の税収の上振れは昨年度の歳出の不用を加えるなどして決算剰余金となり、国債の償還や防衛力強化のための財源にあてられる見通しです。
【詳しく】H2Aロケット最終号機 打ち上げ成功
2025年6月29日 NHK
日本の主力ロケット、H2Aロケットの最終号機は、29日未明、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、搭載している温室効果ガスなどを観測する人工衛星を予定の軌道に投入して、打ち上げは成功しました。
目次
29日午前1時33分打ち上げ 16分後に人工衛星を軌道に投入
H2Aロケット 発射地点に据え付けられる(28日午前)
29日午前1時33分打ち上げ 16分後に人工衛星を軌道に投入
H2Aロケットの最終号機となる50号機は、メインエンジンなどに点火され、29日午前1時33分、ごう音とともに種子島宇宙センターの発射台を離れました。
補助ロケットやロケットの1段目などを切り離しながら上昇を続け、およそ16分後に温室効果ガスなどを観測する人工衛星「いぶきGW」を予定の軌道に投入して打ち上げは成功しました。
種子島宇宙センターの管制室に設置されたカメラの映像では、関係者らが抱き合ったり、握手をしたりして、打ち上げ成功の喜びをわかちあっていました。
H2Aロケットは20年以上にわたり日本の主力ロケットとして数々の人工衛星を宇宙に運んできましたが、打ち上げ費用の高さなどから50号機で運用を終え、後継機のH3ロケットに完全に移行することになっています。
50回の打ち上げのうち、失敗したのは2003年の6号機の1回のみで、打ち上げの成功率は最終的に98%と、世界的に高い水準に達しました。
三菱重工業 宇宙事業部長 “今までの信頼 H3に”
打ち上げ後の会見で、H2Aロケットの打ち上げ業務を担当する三菱重工業の五十嵐巖宇宙事業部長は「表から見ると安定して打ち上げていたように見えるかもしれないが、ひとつひとついろんな困難を乗り越えながら50号機まできた。H2Aはこれでラストだが、今までの信頼をしっかりとH3に引き継いで打ち上げを進めていきたい」と話していました。
観測衛星「いぶきGW」とは
「いぶきGW」は、JAXA=宇宙航空研究開発機構や環境省などが共同開発した観測衛星です。
衛星は高さおよそ5メートル、重さおよそ2.6トンで、宇宙から地球上の温室効果ガスや北極の氷の変化などを観測する、2種類の高性能のセンサーを搭載しています。
これまで運用されてきた温室効果ガスの観測衛星「いぶき2号」と、水観測衛星「しずく」の2つの衛星の機能を併せ持つ後継機で、従来より詳細な観測が可能になります。
広域観測モードと精密観測モードがあり、たとえば、温室効果ガスの大規模な排出源となる大都市や発電所からの排出を検出することなどが期待されるということです。
JAXAや環境省によりますと、開発費用は衛星の開発費とロケットの打ち上げ費用をあわせて、およそ480億円だということです。
H2Aロケット 発射地点に据え付けられる(28日午前)
H2Aロケットの最終号機となる50号機の機体は、28日午前に鹿児島県の種子島宇宙センターで組み立て棟から出され、およそ500メートル離れた発射地点に据え付けられました。
打ち上げ業務を担当する三菱重工業によりますと、最終的な準備作業が続けられていて、今後の天候などに問題がなければ、29日午前1時33分に打ち上げられる予定です。
50号機には、環境省やJAXA=宇宙航空研究開発機構などが開発した温室効果ガスなどを観測する人工衛星「いぶきGW」が搭載されています。
H2Aロケットは20年以上にわたり日本の主力ロケットとして数々の人工衛星を宇宙に運んできましたが、打ち上げ費用の高さなどから50号機で運用を終え、後継機のH3ロケットに完全に移行することになっています。
2003年に失敗した6号機を除いてすべての打ち上げに成功し、成功率はおよそ98%と高い水準に達していて、最終号機でも成功し、日本の主力ロケットの信頼性をさらに高めることができるか注目されます。
科学・宇宙探査の進展に貢献してきたH2A
H2Aロケットは、20年以上にわたって日本の主力ロケットとして運用され、数々の人工衛星や探査機を宇宙に運んできました。
例えば、小惑星リュウグウのサンプルを地球に持ち帰った「はやぶさ2」や、日本初の月面着陸に成功した「SLIM」などを打ち上げ、科学や宇宙探査の進展に貢献してきました。
「SLIM」
また、気象衛星「ひまわり」や地球観測衛星「だいち」、それに日本版GPS衛星「みちびき」など、日々の生活に役立つ情報やサービスの提供につながる衛星を打ち上げてきたほか、宇宙から温室効果ガスを観測する「いぶき」や北極の氷の変化や海面の温度などを観測する「しずく」など、気候変動の監視に活用される衛星も打ち上げてきました。
そして、安全保障や大規模災害への対応などを目的に、政府が開発・運用している事実上の偵察衛星「情報収集衛星」については、あわせて18の衛星を打ち上げてきました。
H2Aロケットは2007年の13号機から打ち上げ業務が民営化され、それまでJAXA=宇宙航空研究開発機構が担当していた打ち上げ業務がロケットの製造をとりまとめる三菱重工業に移管されました。
民営化はH2Aロケットで海外の人工衛星などを打ち上げる「衛星打ち上げビジネス」の展開を目指して行われ、三菱重工業を中心に民間主導の受注活動が進められました。
その結果、カナダの通信放送衛星やイギリスの通信衛星、それに韓国やUAE=アラブ首長国連邦の人工衛星など5つの海外衛星の打ち上げを受注し、宇宙に運ぶことに成功しています。
なぜ成功率が高いのか
H2Aロケットは、2001年から去年9月までに49回打ち上げられ、このうち失敗したのは2003年の6号機の1回のみで、成功率はおよそ98%と高い水準に達しています。
ロケットを組み立てる様子
高い成功率を実現してきた理由について、ロケットの製造をとりまとめる三菱重工業は、6号機の失敗をきっかけに始めた取り組みの成果が大きいとしています。
政府の情報収集衛星を搭載して打ち上げられた6号機は、補助ロケットのうち1本を切り離すことができずに飛行ルートを外れ、地上からの指令で破壊されて失敗しました。
燃焼ガスの噴き出し口に穴が開き、補助ロケットを切り離すための装置が故障したことが原因と特定されましたが、この時、打ち上げチームは失敗原因への対策にとどまらない新たな取り組みを始めました。
三菱重工業 矢花純プロジェクトマネージャー
三菱重工業の矢花純プロジェクトマネージャーによりますと、失敗後の打ち上げ再開、いわゆる「リターントゥフライト」を目指して行われたのが、失敗につながる兆候をすべての部署で洗い出すいわば“総点検”です。
ロケットの細部にわたる部品や部品のまとまりごとの検査が行われ、担当部署以外の責任者も加わり複眼的なチェックが進められた結果、失敗の1年3か月後に行われた7号機の打ち上げに成功しました。
その後、そうした評価方法は打ち上げチーム内で「品質評価」「トレンド評価」と名付けられて2つに体系化され、20年ほど続けられています。
検査項目はおよそ5000に上り、検査結果をまとめたファイルは、ロケット1機当たり100冊近くに上るということです。
打ち上げのたびに検査データを蓄積していくことで、過去のデータの傾向との比較が可能になり、ふだんと異なるデータが出た際、打ち上げチームはその理由の解析や検証を徹底してきました。
三菱重工業 矢花プロジェクトマネージャー
「実際に検証できるものと、解析しかできないものを識別して対応していくことで、失敗につながる危ういところがわかる勘どころが芽生えた。過去と同じような失敗をすることは、少なくともないだろうという自信が持てた」
長年H2Aロケットの運用を行うなかでは、メーカーの撤退などにより部品が枯渇することもあったということです。
「設計を変えたために他で問題が出る経験を何回もしてきた。1つの部品を変えるたびに、他の部品への影響はないか細かく検討してきた」
H2Aの課題と後継機
H2Aロケット(2023年9月)
H2Aロケットは、20年以上にわたる長期的な運用のなかで、打ち上げの成功を積み重ねてきた一方で、課題も指摘されてきました。
そのひとつが打ち上げ費用の高さです。1回当たり、およそ100億円の打ち上げ費用はアメリカの宇宙開発企業、スペースXが打ち上げる「ファルコン9」など海外のロケットに比べて割高だとされ、衛星打ち上げビジネスの価格競争が激化するなか、より低価格での打ち上げが求められてきました。
また、発射場のある種子島宇宙センターの設備の老朽化が進み、保守や維持管理にかかるコストの増大も課題となってきました。こうした中で、後継機として開発されたのがH3ロケットです。
これまで築いてきた日本のロケットへの高い信頼性を維持しながら、打ち上げ能力の向上とコストダウンを両立させることを目指して開発されました。
特にコスト面では、打ち上げ費用をおよそ50億円と、H2Aの半分程度に抑えることを目指しています。
H3ロケットは2023年に1号機の打ち上げに失敗し対策を講じたあと、ことし2月の5号機まで4機連続で成功していて、今年度中には価格を低く抑えた新たな形態での打ち上げが計画されています。
H3ロケットがH2Aロケットで指摘された課題を乗り越え、日本の主力ロケットの国際的な存在感をさらに高めていけるか、注目されています。
「H3」ロケット3号機 打ち上げ成功 だいち4号 予定軌道に投入
【特集】H3ロケット 失敗からの再起 技術者たちの348日
専門家「信頼性の次はコストが鍵」
専門家は、H2Aロケットは非常に意義のあるロケットだったと話します。
宇宙工学に詳しい大同大学 澤岡昭名誉学長
「今回打ち上げに成功すれば、50回中49回成功という大変立派な成績となり、その信頼性は世界的にも高い。日本が宇宙開発先進国として世界から認知され、お墨付きを得られたという意味で、非常に意義のあるロケットだった」
「同じロケットが長期間、継続的に打ち上げられ、ロケットエンジニアの育成に果たした役割も大きい。継続的な打ち上げがないと、関係する企業はトップ級のエンジニアを他の部署に移さざるを得ず技術が途絶えてしまう。技術は紙に書いたものではなく人から人へ伝わるもので、生の情報が伝わる必要がある。その鎖をつなげたことは、将来の日本の宇宙開発にとって非常に重要なことだった」
ー後継機となるH3ロケットについては。
「ライバルとなるアメリカのスペースXのファルコン9ロケットに負けないコストまで下げられるかというと非常に難しい壁にぶつかってくる。それをどうやって突破するか、信頼性の次はコストが鍵だ」
H2A 子どもたちに与えた影響も大きく
H2Aロケットの発射場がある鹿児島県の種子島には、打ち上げを一目見ようと、全国から多くの子どもたちが訪れてきました。
東京都内に住む橋本龍之介さん(16)もその1人で、8年前に小学3年生の時に種子島を訪れ、H2Aロケット37号機の打ち上げを見守りました。ごう音とともに飛び立っていくロケットに目を奪われたといいます。
橋本龍之介さん
「地上にあったロケットがすごい速度で見えなくなり、宇宙に一直線に飛んでいく姿に非常に感動しました。迫力に圧倒され、人生を変えるターニングポイントでした」
その後、都内の中高一貫校に入学した橋本さんは、モデルロケットを製作して打ち上げる部活動を自ら立ち上げます。
3年前、モデルロケットの性能を競う大会に初めて出場した際は、紙と粘土で作ったロケットがうまく飛ばず「制御不能のミサイル」と酷評されたといいます。
フランスで開かれた世界大会
その後、モデルロケットに詳しい専門家を訪ねて助言を受け、専用のソフトを使って設計を見直すなど改良を重ねた結果、2025年に国内の中高生が競う大会で優勝し、フランスで開かれた世界大会にも出場しました。
「大きさもH2Aにはほど遠いですが、自分たちでいちから作り上げたロケットが飛んでいる姿を見るのはすごく楽しくて、少しずつ近づけているような気がします。将来的には、より多くの人が宇宙にアクセスできる未来がくると思うので、宇宙開発に関われるような人になりたい」
コメの価格が決まる仕組み 実は複雑?特殊なメカニズムに迫る
2025年4月25日 NHK
コメの価格が下がりません。
備蓄米が放出されているにもかかわらず、スーパーで販売されたコメの価格は上昇を続けています。なぜこんなことになっているのか。いろいろな要因を聞いたけど、どうもふに落ちないという方も多いと思います。
複数の要因がからみあっているのですが、背景の1つにはコメの価格が決まる仕組みが複雑なことも指摘されています。コメをめぐる制度や歴史をひもとき、価格の硬直性を少し深掘りしてみます。
(国際部デスク 豊永博隆)
15週連続の値上がり!
政府の備蓄米は過去2回の入札で21万トンが落札され、3月下旬から流通が始まっています。
それでもコメの価格は下がりません。
全国のスーパーで販売されたコメの平均価格は4月13日までの1週間で5キロあたり4217円(税込み)で、15週連続で値上がりしています。
農林水産省によりますと1回目の入札で落札された14万トンあまりのうち、3月30日までにJAグループなどの集荷業者が倉庫から引き取った量は4071トン。
卸売業者から小売業者や外食業者など、消費の現場に届いた量はあわせて461トン。
全体の0.3%にとどまりました。
これについて農林水産省は、「通常のコメに加えて、備蓄米も流通することになるため、トラックの手配や精米の作業の調整などにはどうしても一定の時間がかかる」としています。
過去2回の入札はJAが9割落札
また、これまで地域によっては備蓄米が行き渡らないなどの不満の声もあがっていました。
1回目と2回目の入札ではいずれもJA全農が9割以上を落札していたことが明らかになりました。
農林水産省が備蓄米が転売されて価格がつり上がることを防ごうと条件を厳しくしていたため、卸売業者から取り引き実績のない中小の卸売業者や小売業者にコメが行き渡りにくいという現状がありました。
このため、4月23日から始まった備蓄米の3回目の入札では農林水産省は卸売業者どうしの備蓄米の売買を認めることにしています。
「流通の目詰まり」が少しでも解消し、備蓄米がこれまで届いていなかった地域にも届けば消費者の安心感につながり、いくらか価格低下に寄与する可能性があります。
さまざまな理由 どうもふに落ちない?
それにしてもなぜコメの価格がこうも下がらないのか。
これまでさまざまな要因が指摘されてきました。
コメを投機的に売り渋りしているとか、転売目的の「転売ヤー」のせいだといった指摘、さらにはインバウンド需要が増加してお米をたくさん食べたからなどの説明もありました。
農林水産省が2024年産のコメの生産量について過大に算定していて、想定よりも収穫できていないおそれがあるとの指摘も出ています。
不安心理から消費者が少しずつ買いだめすることで足せばかなりの需要が発生し、結果としてコメの生産量が追いつかない事態になっているのではないかとの分析もあります。
「なるほどそういうことなのか」と思う理由もあれば「本当にそうなの?」という理由もあり、モヤモヤ感が残る消費者も多いと思います。
コメの価格が決まる仕組み
コメの価格が下がらない背景の1つとしてコメの価格が決まる仕組みが複雑なことも実は指摘されています。
ふだん口にするコメですが、価格がどう決まるのか、そのメカニズムを知る機会はあまりないかもしれません。
レタスの場合は…
それを理解する前に一般的な野菜を例に価格の決定メカニズムを説明します。
例えばレタスでみると、価格は基本的に中央卸売市場で決まります。
人気があるもの=需要があるもの、あるいは供給が少ないものは価格が上がり、需要が少ないもの、あるいは供給が多いものは価格が下がります。
これが市場の原理です。
市場は透明性があり、売る側と買う側がそれぞれ公平に「売りたい」「買いたい」と価格を入れて値段が決まっていきます。
そして市場での価格情報が生産者である農家にダイレクトに伝わります。
高く売れる商品は何か、安くなってしまう商品は何かを作り手は市場での価格を通じて理解するわけです。
特殊な決定メカニズム
ところがコメには特殊な価格決定メカニズムがあります。
1.スーパーなどで小売業者が消費者に示す価格
2.集荷業者と卸売業者とのあいだで決める価格(相対取引)
3.JAが農家に提示する概算金
1のスーパーなど小売業者が消費者に示す価格はほかの農産物や製品と変わりません。
ところが2と3はコメの特殊な価格決定メカニズムです。
2の集荷業者が卸売業者とのあいだで決めるコメの価格というのは相対取引といって、売り手と買い手が直接交渉して決まる価格です。
直接交渉なので市場でオープンに取引されているわけではありません。
農林水産省がJAグループなどの報告をまとめて取引月の翌月に発表しています。
後にならないと価格が分かりません。
JAが農家に一時的に支払う概算金
さらに概算金という制度の存在があります。
これはコメの刈り取り前7月ごろから9月ごろにJAがコメ農家に対して提示し、支払う金額のことです。
一時金なので仮渡金と呼ばれた時期もあります。
その年の生産見通しや販売見込みなどをもとにJAが「ことしのコメの価格はこれぐらいになりそうですよ」と提示し、一時金として支払います。
コメは多くの産地で1年1作であり、年間を通じて販売するため、販売価格が異なります。
協同組合で公平性を重視するJAとしては、農家のあいだでばらつきが出るのは好ましくないため、すべてを販売したあとに精算して分配する仕組みになっているわけです。
この概算金は集荷業者が卸売業者に示す価格にも少なからず影響するので、JAグループがコメの価格決定に大きな影響力を持っていることが分かると思います。
コメの価格が決まるメカニズムは硬直的です。
そして需給をすぐに反映しない、いったん価格が上がると下がりにくいということは指摘できると思います。
コメの価格はかつて国が決めていた
コメは日本人にとって欠かせない主食だったことから戦後、コメの価格は国が決めていました。
「食糧管理法」、食管法とも呼ばれる法律のもと、政府が米価審議会に諮問し、その答申に基づいて決めるという仕組みでした。
米価審議会(1995年6月)
この法律は1995年に廃止され、コメについては民間流通が基本となりました。
民間流通とはいえ、上述したとおり、オープンな「市場」がなかったため、コメの価格決定メカニズムは改革が遅れました。
コメの先物取引もいったんは廃止
厳密にいうと小さな「市場」は過去存在し、今、また設立され始めてはいます。
1つはコメの先物取引です。
2011年から大阪にある「大阪堂島商品取引所」がコメの先物取引を試験的にスタートしました。
試験的ではない本格的な取り引きへの移行を国に申請しましたが、2021年7月、農林水産省は認可せず、その後、取引は2023年に廃止されました。
私はこの認可をめぐる攻防が激しかったころ、大阪放送局のデスクと、経済部に移り、農林水産省を担当するデスクをしていたので、当時の動きをよく覚えていますが、農業界に「コメの先物は投機的なマネーゲームだ」と批判する人がいたこと、農林水産省は内々、先物の本格的な取り引きへの移行を認める方向で動き出したものの、自民党への調整や説得がうまくできず、頓挫した経緯があります。
農林水産省は名称を変更した「堂島取引所」に2024年、コメの先物取引を認可し、8月からコメの先物取引が始まっています。
また、もう1つ、需要と供給に基づいてオープンな形で価格を決める、コメの現物市場である「みらい米市場」が2023年に開設されました。
ただ、どちらも取引の量はまだ少なく、コメの価格形成をリードするには至っていないのが現状です。
今、必要なことは?
酷暑の影響によるコメの品質低下と、2024年夏の南海トラフ地震臨時情報の発表で買いだめの動きから始まったコメの価格上昇。
さまざまな要因が重なって今も価格が上がり続けていますが、視野を広げて歴史を振り返ると、コメの複雑な制度が存在することに気付かされます。
必要な制度や仕組みに理解は示しつつも、消費者のニーズを的確にとらえ、価格に反映させる安定した市場とその仕組みづくりが必要であることを今、再認識させられました。
参院選 “不正選挙やうその情報” SNSで広まる
2025年7月18日 NHK
今月20日の参議院選挙の投開票日を前に、「投票内容が書き換えられる」とか、「不正選挙が行われる」などといった根拠のない情報やうその情報がSNSで広がっています。
NHKが確認したところ、参議院選挙を前にXでは「不正選挙」を疑うような投稿が相次いでいます。
なかには、「鉛筆を使うと投票内容が書き換えられる」とする根拠のない情報とともに、投票所にボールペンを持ち込むよう呼び掛ける投稿が拡散され、180万回以上閲覧されているものもあります。
投票の際に鉛筆を使用する理由について、県選挙管理委員会の石澤彰郎書記長は、「開票作業をしやすくするため投票用紙には折られても開きやすいプラスチックの入った合成紙が使われています。ボールペンやサインペンだとかすれたり、にじんだりするので鉛筆を使うところが多いです」と説明しました。
投票所に筆記用具を持ち込むことを制限する法律上の規定はなく、推奨はしないもののボールペンなどを使う場合は油性で乾きの早いものが望ましいということです。
SNSでは、ほかにも「期日前投票した票は書き換えられる」とか「投票箱がすり替えられる」などといったうその情報も出回っています。
長野市役所に設けられた期日前投票所では、その日の投票が締め切られる午後8時になると管理者や立会人のもと、市の選挙管理員会の担当者が投票箱に2種類の施錠をしたうえで封印していました。
市の選挙管理委員会によりますと、期日前投票の期間中は毎日、同じ投票箱を使うため、夜間などは施錠した部屋で保管しているということです。
長野市選挙管理員会の山岸健二事務局長は、「選挙は民主主義の基本中の基本なので投票用紙の管理は厳重です。開票所へ確実に届けたいと思います」と話していました。
「フィルターバブル」と「アテンションエコノミー」に注意
2025年6月18日 NHK
さまざまな意見や情報の中から、信頼できるものを自分で選べる。
それがインターネットで情報を探すときの大きなメリットです。
しかし実際には、私たちのスマホ画面には“自分の関心に近い情報”が優先的に表示されるため、「フィルターバブル」という現象が起きがちです。
特に選挙の時に気をつけたい注意点を、専門家に聞きました。
【動画で解説】
※データ放送ではご覧になれません
フィルターバブルとは
「フィルターバブル」とは、まるで泡の中にいるように、同じような情報ばかりに囲まれた状態を指します。
インターネット上には膨大な情報があり、すべてに目を通すことは不可能です。そのためSNSや動画サイトでは、そのユーザーがどんな情報を見ているかなどのデータをもとに、関心のありそうな情報を自動的にオススメし、優先的に表示する仕組みになっています。
便利な一方で、気がつくと自分と同じような意見や、似たようなジャンルの情報ばかりが目に入り、「フィルターバブル」に陥りやすいという落とし穴があります。
この「フィルターバブル」、特に選挙の時はどのような注意が必要なのでしょうか。
SNSの分析が専門の、東京大学・鳥海教授に教えてもらいました。
SNS分析が専門 東京大学 鳥海不二夫教授
「(動画サイトで)特定の候補者に関する動画を1度見ると、その候補者に関係する動画が次から次へと推薦(おすすめ)されます。その結果、接触する情報が特定の候補者の情報だけになってしまう危険性が考えられます」
さらにフィルターバブルは、有権者と候補者が“出会う”機会を、奪ってしまう可能性もあると指摘します。
東京大学 鳥海不二夫教授
「他の候補者について知るチャンスがなくなることになりかねません。本当は自分にとってもっといい候補者がいるかもしれないにも関わらず、その情報に行き着くことが難しい、という状況も考えられます。フィルターバブルという現象を知った上で情報に接することが必要かなと思います」
実際に、選挙の情報をSNSや動画サイトで集めた経験のある大学生に、話を聞いてみました。
大学生
「1回最後まで見た候補者の動画と、関連した内容のものが流れてくる気がします」
大学生
「どんどん批判的な内容ばっかり出てくるから、そっちのほうが多数派の意見なのかなとか思って、その情報を信じそうになりました」
取材に応じてくれた大学生は、授業でメディアリテラシーについて学んだことがありました。しかしインターネットの特性について知識としては知っていても、実際に自分が見ていた選挙の情報に“偏り”があったことには、あまり意識が向いていなかったと話していました。
関心が利益になる「アテンションエコノミー」
鳥海教授によると、SNSや動画サイトについて選挙の前に知っておきたいキーワードがもうひとつあると言います。
それが「アテンションエコノミー」です。
東京大学 鳥海不二夫教授
「動画を投稿して収入を得よう、という人も数多くいると考えられます」
「偽の情報であっても、それが人々の関心を得られるものであれば積極的に発信して、それによって収入を得ようとする人はもたくさんいると思います」
「アテンションエコノミー」とは、人々の関心(アテンション)を集めることが、経済的な利益につながる仕組みのことです。
たとえば動画サイトでは、再生回数や視聴される時間が増えるほど、投稿した人は多くの広告収入を得ることができます。
最近では、お金が目的で選挙の情報が発信されるケースもあり、専門家からは「対策が必要」との声も上がっています。
東京大学 鳥海不二夫教授
「インターネット上には、受け取る情報をゆがめてしまうシステムが存在しています。有権者は投票の前に情報を吟味することが、これからさらに必要になると思います」
大量の情報の中から何かを選ぶためには、ある程度の“偏り”が生まれることは避けられません。
ふだんから「フィルターバブル」や「アテンションエコノミー」について意識することで、知らないうちに“偏った情報”に翻弄される危険を、減らせるかもしれません。
(6月19日「首都圏ネットワーク」で放送)
「デジタルクーポンで給付しても財源は必要」と政府担当者 参政党・神谷代表のX投稿巡りネットがザワザワ
2025年7月18日 東京新聞
参政党の神谷宗幣代表がX(旧ツイッター)で、子育て支援を巡る給付について「デジタルクーポン」にすれば、財源なしに支援可能になると、有権者が理解しかねない内容を発信した。クーポンなどによる支援事業を既に行うこども家庭庁に確認したところ、東京新聞は財源は必要と判断した。(山中正義)
◆子育て支援の10万円給付、公約についての投稿が
参政党は0~15歳のすべての子どもに対し月10万円を支給すると公約に掲げている。15歳以下の子どもは約1490万人(2024年10月1日時点)いるため、単純計算すると、年17兆8800億円もの予算が必要となる。
10万円の支給方法について、神谷氏は15日、「できればデジタルクーポン(Suicaポイントみたいなもの)で給付したいと考えています」と投稿。その上で「円になると『財源が~』となって進まないのと、どうしても他の事業から予算をもってこないといけない」と理由を述べた。これを受け、X上では「現金だろうがポイントだろうが財源は必要」「ポイントの負担はどこに行くのか」などの反応が相次いだ。
◆こども家庭庁の先行事業では原資の他に840億円の費用
こども家庭庁が行う支援事業では、ベビー用品の購入などに使えるクーポンの支給が既に行われている。妊産婦への計10万円相当の支援で、各自治体が支給方法を決めるため、現金以外にも電子クーポンや、特定の地域だけで利用できるデジタル地域通貨の発行例もあるという。だが、支払いを受けた事業者側が損しないためには、使用されたクーポンやデジタル通貨の換金が必要で、国からの財源が必要となる。
この事業の2025年度予算は10万円の原資のほか、クーポン発行事業者などへの委託費や事務費などで約840億円に上る。同庁の担当者は「デジタルクーポンでも業者が間に入れば、費用は発生する。(給付の)原資を含めて財源は必要だ」と断言する。
全国学力テストの結果公表 記述式問題で平均正答率低い傾向
2025年7月14日 NHK
ことしの「全国学力テスト」の結果が公表されました。小中学生ともに、思考力や表現力などを問う「記述式」の問題で平均正答率が低くなる傾向があり、文部科学省は今後詳しい分析を進めることにしています。
全国学力テストは、小学6年生と中学3年生、およそ187万人を対象に行われ、14日「国語」と「算数・数学」「理科」の結果が公表されました。
それによりますと、教科ごとの平均正答率は、
▽小学校の国語が67%、算数が58.2%、理科が57.3%、
▽中学校の国語が54.6%、数学が48.8%でした。
出題内容や難易度は毎年異なるため、単純な比較はできませんが、いずれも前回の結果を下回っています。
また、今回初めてオンライン形式で行われた中学校の理科は、平均が505点でした。
問題ごとの傾向を見ると、「選択式」や「短答式」と比べて、思考力や判断力、表現力を問う「記述式」の問題の平均正答率がすべての教科で低くなっています。
例えば、小学校の算数では、文章題を読んだうえで、分数の意味を記述式で解答する問題は、正答率が23.3%にとどまり、無回答率も15.6%に上りました。
全国学力テストをめぐっては、ことしから公表方法やスケジュールが見直され、都道府県ごとの詳しい分析はことし秋ごろをめどに公表される見通しです。
テスト結果は例年より早く学校に返却 “学習や授業の改善に”
公表された「全国学力テスト」の結果は、例年より早く学校現場に返却されています。
このうち東京 大田区の入新井第一小学校では、担任の教員が6年生のクラスで一人ひとりに結果を手渡しました。
子どもたちは、結果を確認したり、ワークシートに今後の課題をまとめたりしていました。
これまで、全国学力テストの結果は多くの学校で夏休み明けに返却されていましたが、ことしから、子どもたちの学習や授業の改善に役立ててもらうため、公表スケジュールが前倒しされました。
執行純子校長は「夏休み前に返却することは、子どもたちが次の学習に向けた目標を立てるのに効果的です。結果を子どもたちの学びに生かしてもらうよう、丁寧にフィードバックしたい」と話していました。
「記述式」の例題(小6算数)
【質問】※一部省略
2/5(5分の2)+1/5は、「もとにする数」を1/5にすると整数のたし算を使って、計算することができます。
次に、3/4+2/3について、考えていきます。
3/4は1/4の3個分、2/3は1/3の2個分です。
「もとにする数」が、1/4と1/3と違うので、同じ数にしたいです。
「もとにする数」を同じ数にするときその数は何になりますか?その数を書きましょう。
また、3/4はその数の何個分、2/3はその数の何個分ですか。
数や言葉を使って書きましょう。
【解答案】
3/4と2/3の「もとにする数」を同じ数にするとき その数は1/12になります。
3/4は1/12の9個分、2/3は1/12の8個分です。
【正答率】
23.3%
次世代航空燃料「SAF」“国産”が関西空港の航空機に初供給
2025年5月1日 NHK
使用済みの食用油などを原料とする航空機の次世代燃料=SAFの製造が先月(4月)から大阪・堺市で本格的に始まる中、1日、この国産のSAFが初めて関西空港の航空機に供給されました。
関西空港では1日、国産のSAFが初めて航空機に供給されるのを記念する式典が開かれました。
はじめに、製造会社の担当者で日揮ホールディングスの秋鹿正敬 専務が「ここに国産SAFの実用化を宣言します」とあいさつしました。
このあと、関係者は駐機場に集まり、SAFが使われている上海行きの航空機の出発を見送りました。
SAFは従来の燃料に比べて二酸化炭素の排出量が少ない次世代の航空燃料で、これまで航空会社では海外から購入するなどしていました。
今回のSAFは堺市に新設された製油所で製造されたものです。
この施設では年間3万キロリットルが生産される計画で、今後、国内各地の空港に供給されることになっています。
SAFをめぐっては政府が脱炭素社会の実現に向け、2030年時点で国内の航空会社が使う燃料の10%をSAFにする目標を掲げていて、関西では和歌山県で2028年度の稼働を目指し、年間40万キロリットルを生産する設備の建設が予定されるなど、動きが活発になっています。
【SAFはどう航空機に給油される?】
航空機の次世代燃料=SAFは直接、航空機に給油されるわけではありません。
そもそも航空燃料は、タンカーによって空港に運ばれたあと、巨大な円柱状のタンクに蓄えられます。
空港の地下には網目のようにパイプラインが張りめぐらされていて、燃料はこのパイプラインを通じて駐機場の真下まで送られ、給油会社の専用車が航空機に給油します。
今回、どのくらいの量のSAFが関西空港に供給されたかは明らかにされていませんが、いつもと同じようにタンクに入れられたということです。
その結果、SAFはタンクの中で従来の航空燃料と混ざり、実際には薄まった形で、関西空港のさまざまな航空機に少しずつ提供されたことになります。
ただ、これではどの航空会社がどの程度、二酸化炭素の削減に貢献したのか、はっきりしません。
このため、SAFの製造会社は国際的なルールに基づき、購入した量にあわせて、二酸化炭素の削減量などを記した「証書」を航空会社に発行しています。
そして、それぞれの航空会社はこの「証書」を根拠に削減実績などを公表することになっています。
台湾「中国に融和的」野党議員のリコール 住民投票 開票続く
2025年7月26日 NHK
台湾の議会・立法院では、議員にあたる立法委員113議席のうち、半数近い52議席を持つ最大野党の国民党が、別の野党と連携して防衛費を含む予算を削減するなど少数与党となっている頼清徳総統の民進党は厳しい政権運営を強いられています。
こうした中、台湾各地の市民団体が、国民党は中国が台湾で影響力の拡大を図る「浸透工作」に加担しているとして、国民党の議員24人に対するリコール=解職請求を行い、この賛否を問う住民投票が26日に行われました。
投票は日本時間の午後5時に締め切られ、開票作業が続いています。
対象となる議員のそれぞれの選挙区で、リコールへの賛成票が反対票を上回り、かつ有権者数の4分の1以上になれば罷免が成立します。
民進党は現在、立法院で51議席にとどまっていますが、多くの国民党議員が罷免され、その後の補欠選挙で新たに6議席を獲得すれば、単独過半数を確保できます。
一方、国民党は「民進党や市民団体が社会の対立を引き起こしている」と非難しています。
台湾で大規模なリコールが行われるのは異例で、議会の構図が変わるかどうかが焦点です。
大勢は26日夜にも判明する見通しです。
市民団体は大規模な集会・街頭PR
国民党の議員へのリコールを行った市民団体は、住民投票を前に大規模な集会に加えて、街頭でのPR活動に力を入れてきました。
音楽にあわせてプラカードを掲げ、リコールへの賛成を呼びかけたり、うちわやキーホルダーといったグッズを用意したりして無党派層へのアピールを重ねてきました。
市民団体で活動するボランティアの男性は5月に仕事を辞め、ほぼ毎日、人通りの多い場所に立って、支持を訴えました。
反対意見を持つ人からののしられることもたびたびありましたが、この男性は「市民の反応がどんどんよくなっていて、うれしいのと同時にほっとしています」と話し、手応えを感じている様子でした。
そして「私たちの基本方針は中国共産党に反対し、台湾を守ることです。みんなが勇気をもって自分の考えを表明するのは台湾の民主主義と自由が高い水準にあることを示しています」と強調していました。
国民党議員“中国側との交流 経済協力や観光振興が目的”
台北中心部の選挙区で議員にあたる立法委員に当選した国民党の王鴻薇さんは、去年4月に北京を訪れ、中国共産党の最高指導部メンバーと面会したことなどから「中国寄り」と批判され、リコールの対象となっています。
国民党は、こうした中国側との交流は経済協力や観光振興などが目的だとしていて、台湾各地で大規模な集会を開いてリコールへの反対を呼びかけてきました。
王さんは、蒋介石元総統のひ孫にあたり、国民党のホープとして注目されている台北の蒋万安市長と一緒に地元の選挙区を回るなどして、支持を訴えました。
台湾メディアは、王さんが住民投票で罷免され失職する可能性があるという見方を伝えていますが、王さんは「無差別なリコールが社会の対立を引き起こしている」などと最後までみずからの主張をアピールしていました。
王さんは「民進党や市民団体が、国民党は『中国寄りで台湾を売り渡す』というレッテルを貼ってきましたが、大部分の有権者は理性的な判断をしてくれると信じています」と話していました。
リコールの成立が6議席に届かなければ頼総統は痛手
一部の台湾メディアは、今回、住民投票の対象となった24人の国民党の議員のうち、少なくとも10人の罷免が成立するという市民団体の関係者の見方を伝えています。
議員が罷免された選挙区では、3か月以内に補欠選挙が行われる予定で、与党・民進党が6議席上積みすれば、議会で単独過半数を握ることになります。
民進党の頼清徳総統は、市民団体による大規模なリコールについて台湾の民意の表れだとして支持を明言していて、リコールと補欠選挙を通じて政権運営を安定化させたい考えとみられます。
一方、リコールの成立が6議席に届かなければ、有権者が議会で野党が多数を占めることを容認したことになり、頼総統にとっては大きな痛手となります。
8月下旬には、市民団体の運動のもとでさらに7人の国民党の議員を対象にしたリコールの住民投票が行われる予定です。
台湾への圧力を強める中国とどう対じしていくかをめぐって与野党の対立や社会の分断が深まることで、頼総統はいっそう難しい政権運営を迫られる可能性もあります。
投票終えた有権者は
26日午前、台北市内の投票所では、投票に訪れた有権者が長い列を作っていました。
投票を終えた20代の男性は「立法院の議員たちは、対中国政策について異なる考え方をもっています。台湾の人々がみずからの選択を行うと信じています」と話していました。
また、70代の女性は「私たちはみな台湾の平和を望み、次の世代がよい教育を受けられることを願っています」と話していました。
リコール投票全て不成立 野党24議員対象、頼政権に逆風―台湾
2025年7月27日 時事ドットコム
【台北時事】台湾立法院(国会、定数113)で多数派を占める対中融和的な最大野党・国民党の立法委員(国会議員)24人に対し、リコール(解職請求)の賛否を問う台湾史上最大の住民投票が各選挙区で26日行われた。即日開票され、中央選挙委員会によると、24人のリコールは全て成立しなかった。罷免「ゼロ」の民意に国民党は勢いづき、頼清徳政権には逆風となりそうだ。
台湾外交部長訪日に抗議 中国
8月23日には別の国民党立法委員7人を対象とするリコール投票も予定されている。リコールが成立し解職される立法委員が出た場合、その選挙区では年内に補欠選挙が実施される。
現在は「ねじれ議会」の立法院で少数与党の民進党は、補選で6議席以上を奪えば過半数を確保でき、頼総統による安定した政権運営への道が開けるという算段だった。頼氏は打撃を受けつつも26日夜、フェイスブックで「選挙結果を皆さんは尊重し受け入れるべきだ」と呼び掛けた。
リコール投票を巡っては今月、民間団体「台湾民意基金会」が全土で世論調査を実施。「不賛成」が約48%を占め、「賛成」の約42%を上回っていた。与党に過半数の議席を与えると「一党独裁になる」という国民党側の主張が有権者に浸透したとみられる。
タイ・カンボジアの軍事衝突、外務省が在留邦人に注意喚起…日本企業に影響も
2025年7月25日 読売新聞オンライン
【バンコク=佐藤友紀、ジャカルタ=井戸田崇志】タイとカンボジアの国境地帯での軍事衝突を受け、日本の外務省は「不測の事態が発生する可能性が否定できない」として、在留邦人らに国境地帯に近づかないよう注意喚起している。衝突の影響は、現地に進出する日本企業の間でも広がっている。
タイ、カンボジアの国境で交戦や砲撃があった主な場所
外務省によると、在留邦人数(2024年10月1日現在)はタイが7万421人、カンボジアが3012人。国境周辺には数人の日本人が住んでいるが、現時点で被害情報はない。
両国は東南アジアの物流網の中核をなしてきたが、緊張の激化でサプライチェーン(供給網)が寸断されている。自動車部品大手、矢崎総業は6月下旬以降、タイからカンボジア工場への部品などの輸送を陸路から空路に切り替えた。機械部品大手、ミネベアミツミもカンボジアへの部品輸送で同様の対応を取っている。
一方、自動車部品大手、デンソーはカンボジア工場で働くタイ人社員を順次、帰国させているという。
両国では今のところ、工場の操業停止といった深刻な事態は起きていないとみられるが、日本企業では衝突がエスカレートすることへの懸念が高まっている。
タイ カンボジア武力衝突 停戦協議開始で合意 トランプ大統領
2025年7月27日 NHK
タイとカンボジアの国境地帯で続く両国の軍による武力衝突では、これまでに双方の死者が30人を超えたほか、合わせて11万人以上の住民が避難する事態になっています。アメリカのトランプ大統領は26日、SNSで、両国が停戦に向けた協議を開始することで合意したとしています。
タイとカンボジアが領有権を争う国境地帯では、今月24日以降、両国の軍による武力衝突が続いています。
両国の当局の発表によりますと、これまでにタイ側では、地元住民など20人が死亡、30人以上がけがをしたほか、カンボジア側では、地元住民など13人が死亡し、数十人がけがをしたとしています。
また、両国で合わせて11万人以上が避難しています。
衝突について、アメリカのトランプ大統領は26日、SNSへの投稿で、カンボジアの首相とタイの首相代行、それぞれと連絡を取り、停戦を要請したことを明らかにしました。
このなかでトランプ大統領は「現在、両国と貿易交渉を進めているものの戦闘が続いているかぎりどちらの国とも取り引きは行わない。そのことを明確に伝えた」としています。
そのうえで「両国はただちに会談を行って迅速に停戦し、平和を実現させることで合意した。平和が実現した際には貿易交渉で両国それぞれと合意できることを楽しみにしている」として、両国が停戦に向けた協議を開始することで合意したとしています。
衝突をめぐっては、ASEAN=東南アジア諸国連合の議長国、マレーシアのアンワル首相が両国に停戦を働きかけています。
タイ首相代行「停戦に合意する意向」
アメリカのトランプ大統領が速やかな停戦を求めたことについて、タイのプームタム首相代行は27日未明、SNSへの投稿で「タイは原則として停戦に合意する意向であることを表明した」としています。
そのうえで「カンボジア側の真摯な意思表示を望んでいる」として、できるだけ早く2国間で協議したいとカンボジア側に伝えるようトランプ大統領に要請したとしています。
世界幸福度ランキング、フィンランドが8年連続1位
2025年3月21日 BBC
世界各国の幸福度をランキングで示した、国連などによる「世界幸福度報告書」2025年版が20日に発表され、フィンランドが8年連続で1位となった。デンマーク、アイスランド、スウェーデンが続き、上位は北欧諸国が占めた。
専門家はフィンランドが選ばれた理由として、自然に容易にアクセスできることや、手厚い福祉制度をあげている。
フィンランドはほかの北欧諸国を抑えてトップを維持した。また、ラテンアメリカのコスタリカとメキシコが初めてトップ10入りを果たした。
イギリスとアメリカはそれぞれ、23位と24位に順位を落とした。アメリカは過去最低の順位となった。
日本は55位と、前年の51位から順位を下げた
〈参考〉
国連の世界幸福度報告は何を測っているのか?
高野翔 福井県立大学 地域経済研究所(https://www.fpu.ac.jp/rire/publication/column/d154359.html)
先日、世界幸福度報告の2022年の最新結果が世界に向けて発表された。日本は世界54位。では実際に、世界幸福度報告は何を測っているのか?残念ながらあまりそのことは理解されていない。このコラムでは、その内容の一端でもお伝えできればと思う。
世界幸福度報告では、人々の主観的幸福(主観的ウェルビーイング)を測定する方法として「生活評価」と「感情」の2つを概念枠組みとして採用している。
「生活評価」とは、“ある人の生活またはその特定側面に対する自己評価”のこと。0から10までの11段階の自己評価となり、回答した数字の平均値が国の「生活評価」の値となり、この値の国際比較が国際ランキングをつくる。この測定の仕方において、日本は世界54位/146国となる。
もう一方の、「感情」とは、“ある人の気持ちまたは情動状態、通常は特定の一時点を基準にして測る”方法で、一人ひとりの感情体験に注目した測定方法である。肯定的感情(幸せ, 笑顔, 喜び)と否定的感情(心配, 悲しみ, 怒り)の両方の体験の有無を測る。肯定的感情の体験が多いほど、また、否定的感情の体験が少ないほど、幸せ・ウェルビーイング度が高いと見なす。日本は、肯定的感情では67位/146国、否定的感情では12位/146国。他国に比して、肯定的感情の体験が多いとは言えないが、否定的感情の体験が少ないという意味では世界12位ということで、安定的な幸福感が存在することがこの結果からうかがえる。
また、主観的幸福を説明する要因として、「一人あたりGDP」と「健康寿命」の2つの客観要因と「社会的関係性」「自己決定感」「寛容性」「信頼感」の4つの主観要因を世界幸福度報告では測定してきている。日本の場合、客観要因である「一人あたりGDP」は28位/145国、「健康寿命」は1位/141国。主観要因である「社会的関係性」は48位/146国、「自己決定感」は74位/145国、「寛容性」は127位/146国、「信頼感」は28位/140国である。
主観的幸福に関する測定には文化差があるため、何を尺度にするかによって順位が変動する性質を有しているが、日本社会が世界幸福度報告から学び、それを自分事・地域事としていくためにまなざしを向ける必要があるのは、「社会的関係性」「自己決定感」「寛容性」「信頼感」の4つの主観要因であろう。
測定するだけでなく、ではいったい地域社会において「社会的関係性」「自己決定感」「寛容性」「信頼感」をどうすれば育むことができるのか。そのような対話が世界幸福度報告の結果を通じて生まれてくることを期待したい。
防衛省が「宇宙領域防衛指針」公表、人工衛星の防護万全に…中露のキラー衛星開発で「戦闘領域化が進展」
2025年7月29日 読売新聞オンライン
防衛省は28日、宇宙での防衛能力強化の方向性を示すために初めて策定した「宇宙領域防衛指針」を公表した。自衛隊が運用する人工衛星の防護を万全にするとともに、民間企業による安全な宇宙利用を確保する方針を明記した。
民間技術を防衛能力の強化に取り込み、官民連携で宇宙領域の安全保障の構築を目指す。
【図表】「宇宙領域防衛指針」のポイント
指針は、中国とロシア両国などが他国の衛星を攻撃する「衛星攻撃衛星(キラー衛星)」の開発を進め、「宇宙の戦闘領域化が進展」していると警鐘を鳴らした。
厳しさを増す宇宙の安保環境を踏まえ、自衛隊を含む政府に加え、日本に関連する民間企業の人工衛星などの安全な運用に向けた防衛能力を強化する必要性を唱えた。
防衛強化の柱として、他国の衛星の運用状況や意図・能力を把握する「宇宙領域把握(SDA)」能力の向上を掲げた。キラー衛星や対衛星兵器といった脅威の兆候を探知し、日本の人工衛星を防護する能力を構築する計画だ。
相手国が発射したミサイルの探知・追尾を含む戦況把握や、自衛隊内で戦況を共有するための衛星通信の安定的な確保も挙げた。相手国の情報通信を妨害する能力も高める。
こうした取り組みを支えるため、「商用サービスが著しく進展」している民間の革新的な技術の積極的な活用も盛り込んだ。宇宙分野に精通した人材の育成も打ち出し、外部人材の登用や防衛省・自衛隊内での教育を促進するとした。
多文化共生社会の実現へ 全国知事会で静岡県知事が政府に提言
2025年7月23日 朝日新聞
外国人との多文化共生社会の実現に向けて、全国知事会のまとめ役を担う静岡県は22日、政府への提言案を策定したと発表した。県は「地域を共につくるパートナー」として外国人を積極的に受け入れる姿勢を示している。国に対しても、外国人が安心して暮らせる環境を整えるよう求めていく。
提言案は23日に青森市で開かれる全国知事会議で話し合った後、知事会として関係省庁に直接要請する。
具体的には、各省庁にまたがる外国人に関する施策を一元的に担う「司令塔」組織をつくるよう求める。出入国管理とは別に、日本語教育や労働環境を整備する業務を行う「多文化共生庁」(仮称)といった名称の組織をつくることを想定している。多文化共生や外国人受け入れの理念を明記する「基本法」を制定することも盛り込んだ。
県によると、日本語教室や相談窓口など外国人支援に関する業務の多くは自治体に任されており、国からの予算は十分ではないという。提言では、継続的な支援ができるよう、国に財源をつけるよう求める。
県内には12万人を超える外国人が暮らしており、県は「日本一の多文化共生県」をめざしている。
〇参考:静岡県HP
https://www.pref.shizuoka.jp/kurashikankyo/1049844/tabunkachiiki/1015556.html
<社説>最低賃金の増額 中小・地方の底上げこそ
2025年8月11日 東京新聞
厚生労働省の審議会は2025年度の最低賃金(最賃)の引き上げの目安額を63円と決めた。上げ幅は24年度の50円(5%)を上回る6%となり、全国平均では1100円を超えるが、物価高に負けない水準とは言い難い。中小零細企業も含めて継続的に引き上げ、賃金の底上げにつなげたい。
最賃の改定は、最賃額近くで働く非正規雇用者にとって「春闘」に当たり、生活を支える重要な交渉である。
本年度の審議会は、労働側、使用者側ともに物価高に対応する引き上げの必要性には合意したが、引き上げ額を巡り対立が続いた。労働側が物価高による生活苦を理由に大幅な引き上げを求め、賃上げによる経営圧迫を懸念する経営者側が難色を示した。
議論は例年より長引いたが、食料品価格の上昇が6・4%(24年10月~25年6月平均)となったことなども考慮して折り合った。政府が掲げる「20年代の全国平均1500円」の目標達成には平均で年7・3%の引き上げが必要とされることも増額要因となった。
ただ、6%の引き上げ幅でも、フルタイムで働く人の年収は220万円程度にとどまる。
さらに、トランプ米政権の高関税政策が今後、企業経営や景気に打撃を与え、最賃引き上げに暗い影を落とすことも予想される。
働く人の約7割は中小零細企業で働くが、賃金の支払い余力に不安を抱える企業は少なくない。来年度以降も継続して最賃引き上げを実現するには、公的支援で設備投資を促すなど、「稼げる」経営に向けた支援強化が必要だ。
物価高によるコスト上昇分を商品やサービス価格に転嫁できる環境の整備や監視が欠かせない。
経営者は人材育成や業務効率化に努め、賃上げができるよう経営基盤の強化に努めるべきだ。
若い世代の人材流出が続く地方での人材確保には、最賃引き上げが重要な要素となる。
各都道府県の審議会では、目安額を参考に地方ごとの最賃引き上げの議論が始まっている。23年度は人材流出に危機感を持つ24県が24年度は27県が目安額を上回る額の引き上げを答申した。
昨年夏以降、主食のコメの値上がりが深刻で、生活の先行きを不安にさせている。地域の実情に応じて議論を尽くし、さらなる引き上げを期待したい。
日本の総人口約1億2433万人 55万人減少【都道府県別データも】
2025年8月6日 NHK
ことし1月1日現在の日本の総人口は、およそ1億2433万人で、去年より55万人余り減りました。このうち日本人の人口は、1億2065万人余りで、16年連続で減少し、調査開始以降、1年間の減少数が初めて90万人を超え、最大となりました。
都道府県ごとの一覧は記事後半に掲載しています。
目次
【都道府県別 人口(日本人・外国人)一覧】
増加した東京 市区町村別では「中央区」が最多
総務省のまとめによりますと、ことし1月1日現在の住民基本台帳をもとにした外国人を含めた日本の総人口は、1億2433万690人でした。
去年の同じ時期と比べて55万4485人、率にして0.44%減りました。
都道府県別では▽東京都が最も多く1400万2534人、次いで▽神奈川県の920万2559人、▽大阪府の877万1961人、▽愛知県の748万3755人、▽埼玉県の737万4294人などとなっています。
一方、最も少ないのは▽鳥取県で53万4003人、次いで▽島根県の64万2590人、▽高知県の66万4863人、▽徳島県の70万409人、▽福井県の74万6690人などとなっています。
前の年と比べて人口が増えたのは東京都と千葉県でほかの45の道府県は減少しました。
日本人の人口 減少数・減少率ともに最大
また、外国人を除いた日本人の人口は、1億2065万3227人で、去年の同じ時期と比べて90万8574人、率にして0.75%減りました。
調査を始めた昭和43年以降、1年間の減少数が90万人を超えるのは初めてで、減少数・減少率ともに最大となりました。
日本人の人口は、平成21年の1億2707万人余りをピークに16年連続の減少となりました。
▽去年1年間に生まれた日本人は68万7689人と昭和54年の調査開始以降、最も少なくなったのに対し、▽亡くなった人は159万9850人と最も多くなりました。
この結果、亡くなった人が生まれた人を上回る「自然減」の数は、91万2161人で過去最大となりました。
国内に住む外国人の人口 調査開始以降最多 増加数も最大
一方、国内に住む外国人の人口は、367万7463人で、前の年より35万4089人増え、調査を始めた平成25年以降、最多となり、増加数も最大となりました。
専門家「少子化は止まるどころか加速気味 大きな課題」
日本人の人口が減少している状況について、人口問題に詳しい日本総合研究所の藤波 匠 主席研究員に聞きました。
Q これほど減ったのはなぜですか?
A 多死社会に突入し、高齢の方が亡くなる人数が増えていることも要因ですが、より注目すべきは少子化です。政府も対策はしていますが、少子化は止まるどころか、むしろ加速気味で大きな課題です。
Q どのような対策が求められますか?
A 各自治体がそれぞれ政策を立ち上げて人口を奪い合うのは資源のむだづかいで、良いことではありません。少し広域で人口対策を考えるイメージを持つことが大事です。
また、人の流れはどこに雇用があるかで決まります。賃金やキャリアアップできる環境、それに子育て支援があるかなど、よりよい雇用は大都市部や各都道府県の県庁所在地に集中する傾向にあり、雇用の面でも対策を検討する必要があります。
専門家「今後どこまで続くか見通し示した方が良い」
日本人の人口が16年連続で減少し、減少数が初めて90万人を超えたことについて人口問題に詳しい関東学院大学法学部の牧瀬稔教授は「日本人が減っているのは想定通りなのだが、毎年、悪くなったと出るので今後どこまで続くのか見通しを示した方が良いと思う。国民としても、あと5年間我慢すればとか、あと8年間で終わるんだと分かった方がいろいろな計画を立てやすいのではないか」と指摘しています。
一方、国内に住む外国人の人口が最多となったことについては「日本が住みやすいということが背景にあると思うが、想定以上に増えて対策が追いついていないという課題も出てきているので、国が方針をしっかりと決める必要がある。一方で先進国はどこも労働力が足りてなく、世界的に外国人を呼び込もうとしている中、日本の賃金は相対的に低く、気がついたら日本が選ばれなくなる状況になるので、今のうちに制度設計をした方がよい」と話しています。
【都道府県別 人口(日本人・外国人)一覧】
【都道府県別 日本人人口】
多い順に
▽東京都 1328万1311人
▽神奈川県 891万7670人
▽大阪府 844万3833人
▽愛知県 716万1850人
▽埼玉県 711万6638人などとなっています。
少ない順では
▽鳥取県 52万7998人
▽島根県 63万2135人
▽高知県 65万8202人
▽徳島県 69万1640人
▽福井県 72万7538人などとなっています。
前の年と比べて日本人の人口が増えたのは東京都のみで、増加数は1万6825人でした。ほかの46の道府県はすべて人口が減りました。
減少数は少ない順に
▽沖縄県 5469人
▽鳥取県 6700人、
▽滋賀県 7432人などとなっています。
一方、減少数の多い順位では
▽北海道 5万9896人
▽兵庫県 4万3926人
▽静岡県 3万8970人などとなっています。
減少率でみると、
▽秋田県 1.91%
▽青森県 1.72%
▽高知県 1.71%などとなっています。
【都道府県別 外国人人口】
外国人の人口は
▽東京都が最も多く72万1223人
▽大阪府 32万8128人
▽愛知県 32万1905人
▽神奈川県 28万4889人
▽埼玉県 25万7656人となっていて、
上位5つの都府県で全体の半数以上を占めています。
一方、最も少ないのは
▽秋田県 5753人
▽鳥取県 6005人
▽高知県 6661人
▽青森県 8415人
▽徳島県 8769人などとなっています。
外国人の人口は、47都道府県すべてで増加しました。
人口増加数が最も多いのは
▽東京都で7万3807人、次いで▽大阪府 3万1549人、▽埼玉県 2万7422人などとなっています。
一方、増加数が最も少ないのは
▽鳥取県 496人、次いで▽秋田県 531人、▽高知県695人などとなっています。
増加した東京 市区町村別では「中央区」が最多
総務省のまとめによりますと、東京都のことし1月1日現在の人口は1400万2534人で、去年の同じ時期と比べて9万632人増加しました。
市区町村別では、最も増えたのが
▽中央区で1万569人
次いで▽大田区 6885人
▽板橋区 5987人
▽世田谷区 5069人
▽足立区 5053人などでした。
このうち、中央区でこの1年間に増えた人口を年代別にみると
▽30代が2210人で最も多く
▽50代 1789人
▽60代 1372人
▽10代 1354人
▽20代 1228人などとなりました。
また、中央区で増加した人口の5人に1人、率にしておよそ20%にあたる2183人が外国人でした。
専門家 “夫婦共働きで職場に近い場所が好まれるように”
Q 日本人の人口が増えたのは全国で東京都だけでした。どういう理由が考えられますか?
A (日本総合研究所 藤波匠 主席研究員)
東京都は子育てや学校教育関係の支援が充実していて、住みたい場所になっています。夫婦のどちらかが働くという時代では、都心に住むのは金銭的に難しかったのですが、夫婦共働きになったことで家計を夫婦で支えるようになり、可能になりました。ともに家事をするには職場に近い場所が好まれ、特に中央区のような場所にファミリー世帯が集まる傾向にあります。
東京 中央区 増加人数は少なくとも過去10年間で最多
東京 中央区のことし1月1日時点の人口は、18万7404人で、去年の1月1日に比べ、1万569人増えました。
中央区によりますと、増加人数は少なくとも過去10年間で最も多く、10年後(2035年)にはさらに2割近く増え、22万3000人余りになると推計しています。
区では、人口増加の要因として「晴海フラッグ」をはじめ、臨海エリアでの大型マンションの開発が進む中、都心への利便性のよさや、多くの会社が区内にあることで現役世代を中心に転入が増えたことや、新型コロナによる入国制限が緩和されたあと外国人住民が増えていることを挙げています。
一方で、子どもの数も増えたため区内の小学校では教室が足りなくなっていて、校内の空いていた部屋を教室に転用したり、新たな校舎を建設したりしているということです。
中央区の担当者は「去年は晴海フラッグという大型物件の影響で大幅に人口が増えたが、臨海エリアを中心に開発が進むなか、人口は今後も増加するとみている。新しい住民が多いので、地区の祭りを開催したり、自治会を支援したりして、地域コミュニティーの醸成に努めていきたい」と話していました。
小学生や幼児の英会話スクール 申し込み 問い合わせ相次ぐ
都内で最も人口が増えた中央区では、年々、子どもの数も増加しています。
中央区晴海にある小学生や幼児の英会話スクールには、5年前のオープン以降、連日、入校の申し込みや問い合わせが相次いでいます。
現在、通っている子どもはおよそ120人と、定員にほぼ達していて、曜日によってはキャンセル待ちも発生しているということです。
英会話スクールの運営会社によりますと、問い合わせの中には「マンションを購入したので2年先の入校を予約したい」といった内容もあるということです。
英会話スクールの運営会社の阿部健人さんは「ほかの地区でも英会話スクールを運営しているが、この地区の子どもの増え方はひときわ多く、需要の高まりを強く感じる。ぎりぎりのなかで運営してるが今後、教室を増やすことも検討していきたい」と話していました。
引っ越してきた人「子どもがすごく多くて活気」
去年、さいたま市から東京 中央区に引っ越してきたという60代の女性は「子どもがすごく多くて活気がありますし、公園が多いので犬の散歩もしやすいです。バスの輸送システム『BRT』もあるので、都心に出るのもすごく楽です」と話していました。
ことし、都内の別の自治体から夫婦で引っ越してきたという30代の女性は「2歳の子どもがいますが、道が広いし、公園や屋内の遊び場もあって満足しています」と話していました。
一方、再開発の前から中央区に住んでいるという50代の男性は「新しく学校もできたので、子どもを育てるには最高の場所だと思います。タワーマンションがたくさん建設され、外国人も入ってきて、子どももすごく増えました」と話していました。
減少深刻な地域で「関係人口」の取り組みも
各地で人口減少が深刻になるなか、地域を活性化させるために多くの自治体が力を入れているのが「関係人口」の取り組みです。
「関係人口」は都市部に住みながら休日に地方で過ごすなどして継続的に訪れるなどさまざまな形で地域に深く関わる人たちのことです。
いわゆる移住とは異なるかたちで地域づくりの新たな担い手になることが期待されていて、国もことし6月に決定した地方創生の実現に向けた基本構想の中で「関係人口」を今後10年間で1000万人に増やすことなどを目標に掲げています。
岐阜 飛騨市では
この「関係人口」の増加に先進的に取り組んでいるのが岐阜県北部にある人口およそ2万1000人の飛騨市です。
飛騨市では農作業や地域の祭りの担い手、それにイベント要員などといった人手不足で困っている現場を市の運営するホームページに掲載し、全国から「助っと」を募る「ヒダスケ」と名付けた取り組みを行っています。
参加者は地元の人と交流したり、豊かな自然を楽しんだりできるほか、特産品の購入や飲食店の利用などで使える飛騨地域の電子地域通貨を受け取ることができます。
5年前(2020年)に始められてからのべで、およそ5200人が参加し、このうち5割ほどがリピーターになるなど人気を集めていて、受け入れる市民からも「街に活気が出た」などの意見が出ているということです。
「ヒダスケ」にトマトの収穫作業などを手伝ってもらっている農家の池田俊也さんは「受け入れ側は助かるし、来てくれた人たちも楽しんでもらえてウィンウィンな関係だと思います。(関係人口とは)半分仲間のような関係になれていてとてもうれしいです」と話していました。
飛騨市ではもともとは移住者の獲得に力を入れてきましたが、人口の減少を補うことは難しいとして「関係人口」に着目しました。
飛騨市総合政策課の上田昌子さんは「関係人口が地域の担い手になっていると感じますし、人口が減ってもなんとかやっていけそうという思いが生まれています。人口が減ってもサポーターやファンが増え続ける、面白い地域を目指したいです」と話しています。
「ヒダスケ」の参加者の1人、金子明日美さん(23)はふだんは東京でIT企業の営業として働いています。
大学3年の夏休み、就職活動の気分転換のため飛騨市を訪れたのをきっかけに「ヒダスケ」に関わり、社会人になってからも年に数回、高速バスなどを利用して「ヒダスケ」に参加しています。
これまでに祭り屋台の引き手や花火大会のスタッフなどを担っていて、東京ではできない経験ができる点や、飛騨市の人々と知り合い交流ができる点に魅力を感じているといいます。
金子明日美さんは「作業をしながら地元の人と会話をすることができて、私にとって飛騨市は第2の故郷感があります。私にとって大切な場所なので、息抜きに行く場所として今後も関わっていきたいです」と話していました。
「関係人口」について人口問題に詳しい関東学院大学法学部の牧瀬稔教授は「定住人口はどんどん減って、増やせない所が多々ある。関係人口によって地域が活性化する可能性が高いと、いろいろな地方公共団体が誘致している。いろいろな所が取り組むことで切磋琢磨し、ブラッシュアップされていくし、いろんな方が参画してもらった方が広がっていき、良いものができてくると思う」と話しています。
一方で「基本は行政中心の取り組みなので、地元の住民が知らないとぶつかりあってしまう可能性があるので、行政はしっかりと関係者の間に入って調整をしていく必要がある」と指摘しています。
赤澤経済再生相が帰国“米関税措置 大統領令 速やかに修正を”
2025年8月9日 NHK
アメリカでトランプ政権の閣僚と会談を行った赤澤経済再生担当大臣が9日帰国し、日米合意が反映されていないアメリカの関税措置について、大統領令を可及的速やかに修正するよう求めていく考えを改めて強調しました。
アメリカの関税措置をめぐり、ワシントンを訪れていた赤澤経済再生担当大臣は、ラトニック商務長官やベッセント財務長官と会談し、9日午後、帰国しました。
赤澤大臣は羽田空港で記者団に対し、先の日米合意が反映されていない関税措置と、自動車などの関税について「可及的速やかに大統領令を修正する措置をとるよう、また、自動車・自動車部品の関税を引き下げる大統領令を発出するようあらゆる形で強く申し入れていく」と述べました。
また、記者団が今後も合意文書などを作成しない考えに変わりはないかと質問したのに対し「合意を誠実かつ速やかに実施することが最優先で、考え方は変わっていない。合意内容については国民から広く理解を得られるよう丁寧に説明していく」と述べました。
一方、日本からの5500億ドル、日本円にしておよそ80兆円の投資については「日本とアメリカの経済安全保障上の結び付きを強化し、わが国の経済成長をさらに加速させるものだ。合意に関する共通認識を確認しながら、合意の着実な履行に向けて議論を重ね、緊密に連携していきたい」と強調しました。
日米で合意 相互関税15% 自動車関税も15%【詳しく】
2025年7月23日 NHK
アメリカのトランプ大統領は22日、関税措置をめぐる交渉で日本と大規模な合意を締結したと明らかにしました。日本がアメリカに巨額の投資をする一方、アメリカは8月1日から発動するとしていた日本への25%の関税を15%に引き下げるとしています。また、自動車関税についても既存の関税率とあわせて15%とすることで合意したということです。
記事後半ではトランプ大統領の会見や、アメリカと各国の関税交渉の状況などについて詳しくお伝えしています。
目次
注目
◇トランプ大統領 SNS全文
石破首相「日米両国の国益に一致する形での合意」
関税交渉の合意 ニュース動画は【NHKプラスで配信中】2025年7月30日まで
【詳しくはこちら】日本側の反応は
【詳しくはこちら】日本 各地の反応は
アメリカのトランプ大統領は日本時間23日の朝、ワシントンを訪問している赤澤経済再生担当大臣と会談しました。その後、日本時間午前8時過ぎにトランプ大統領はSNSに関税措置をめぐる交渉で日本と大規模な合意を締結したと投稿しました。
投稿では、日本がアメリカに5500億ドル、日本円にしておよそ80兆円を投資するとしています。
そのうえで、トランプ大統領は「おそらく最も重要な点は、日本が自動車やトラック、コメやほかの農産物を含む貿易で国を開放することだろう」としています。
一方「日本は相互関税としてアメリカに15%を支払う」と投稿し、日本への書簡で8月1日から課すとしていた25%の関税を15%に引き下げるとしています。
石破総理大臣と赤澤経済再生担当大臣もそれぞれ記者団に対して日米で合意したことを明らかにしました。
最大の焦点となっていた自動車に対する25%の関税については、これを半分の12.5%とし、既存の関税率である2.5%とあわせて、15%とするということです。自動車部品に対する25%の関税については、それぞれの品目にもともと課されていた関税率を含めて15%に引き下げるということです。
赤澤大臣は記者団に対して15%未満の製品は既存の関税率とあわせて一律で15%となる一方、15%以上の関税がかかっている製品は新たな関税は課されず、既存の関税率のままだと説明しました。
一方、コメについてはアメリカからミニマムアクセスと呼ばれる枠内で、輸入割合を実質的に拡大するほか、鉄鋼製品とアルミニウムに課されている50%の関税は変わらないということです。
トランプ大統領はホワイトハウスで与党・共和党の議員らとの会合に出席し「歴史上、最大の貿易合意に署名した。日本は最高のメンバーをここに送り、われわれは長く、厳しい作業を進めてきた。これはみんなにとってすばらしい取り引きとなる」と述べ、今回の合意の意義を強調しました。
そしてトランプ大統領はアラスカ州におけるLNG=液化天然ガスの開発計画について、日本と合意することになると述べ、エネルギー分野での投資に期待感を示しました。トランプ政権としては日本から大規模な投資を引き出すことで関税の引き下げに応じたものとみられます。
注目
◇トランプ大統領 SNS全文
われわれは日本との大規模な合意を締結した。
おそらく過去最大の合意だろう。
日本はわたしの指示のもと、アメリカに5500億ドルを投資し、その利益の90%をアメリカが受け取るだろう。この合意は数十万人の雇用を創出するだろう。
これはかつてない規模のものだ。
おそらく最も重要な点は、日本が自動車やトラック、コメやほかの農産物を含む貿易で国を開放することだろう。
日本はアメリカに対して15%の相互関税を支払う。
これはアメリカにとって特に日本との良好な関係を今後も維持する点で非常に喜ばしいことだ
ベッセント財務長官「日本側は革新的な解決策を提案」
トランプ政権で関税措置をめぐる日本との交渉を主導してきたベッセント財務長官は、23日、ブルームバーグテレビのインタビューで「日本政府は合意に向けた準備ができていた。トランプ大統領は日本の交渉団を大統領執務室に招いて、とても充実した交渉を行った。彼らはタフネゴシエーターだったが、トランプ大統領はもっとタフだったということだ」と述べました。その上で「日本側はとても革新的な解決策を提案してきた。革新的な枠組みを日本が提供する用意があったため、日本への関税は15%となった」と振り返りました。
注目
日米合意の関税の仕組みは
アメリカのトランプ政権が新たに打ち出した関税は、自動車などの特定の品目に追加でかけている関税と、国や地域別に課している関税に大きく分けられます。
経済産業省によりますと、自動車には、もともと2.5%の関税がかかっていました。そこに4月、25%の追加関税が発動され、現在は27.5%となっています。今回の合意では、追加関税の25%が半分の12.5%に引き下げられ、もともとの2.5%と合わせて、関税率は15%になるとしています。
また、自動車部品にはもともと品目によって数%の関税がかかっていて、5月から追加関税の25%が上乗せされていました。今回の合意により、これらの部品もすべて関税率は15%となります。
一方、国や地域別に課している関税は、幅広い品目が対象で4月から一律10%が上乗せされています。日本に対しては、来月1日、25%に引き上げられる予定でした。今回の合意では、25%が15%になったうえ、もとの関税率が15%未満だった品目は15%が上限となります。すでにそれ以上の関税が課されている品目には、上乗せ前のもとの関税率が維持されます。
米メディア 関税交渉の詳細伝える
アメリカのメディア、ブルームバーグは23日、日本とアメリカの関税交渉における詳細を伝えています。
日本の5500億ドルの投資について、政府高官の話として日本側の約束はトランプ大統領自身がアメリカ国内で投資を監督できる政府系ファンドのようなものだとする一方、法的なことやその他詳細は詰めている段階だとしています。
また、政府高官によりますと日本は
▽ボーイング社の航空機100機を購入すること
▽コメの購入を75%増やすこと
▽農産物やその他の製品80億ドル、日本円にしておよそ1兆2000億円分を購入することで合意したとしています。
▽このほかアメリカ企業に関連する防衛支出を年間140億ドルから170億ドル日本円でおよそ2兆5000億円に引き上げることも合意したとしています。
石破首相 “関税対応に全力を尽くす”
石破総理大臣は23日午後3時半ごろ、自民党本部で記者団に対し「日米が合意したが、対米輸出品目は4000を超え、それぞれの取り扱っている会社や事業者にとっては極めて重大な問題だ。合意が確実に実行されるよう、きちんとこたえていくことは非常に大事だ。あす赤澤経済再生担当大臣が帰国したら報告を受けることにしており、国民生活がきちんと守られるよう全力を尽くしたい」と述べました。
石破首相「日米両国の国益に一致する形での合意」
動画(10分43秒)
石破総理大臣は23日午前11時ごろ、総理大臣官邸で記者団に対し、アメリカの関税措置を受けた日米交渉について「今般、アメリカの関税措置に関する日米協議について、トランプ大統領との間で合意に至った」と明らかにしました。焦点となっていた自動車などについて、ことし4月以降に課された25%の追加関税率を半減し、既存の税率を含めて15%とすることで合意したとし「世界に先がけ数量制限のない自動車、自動車部品関税の引き下げを実現することができた」と述べました。
また8月1日に25%が課されることになっていた相互関税については15%にとどめ、対米貿易黒字を抱える国の中でこれまでで最も低い数字となると説明しました。
さらに半導体や医薬品といった経済安全保障上、重要な物資については、仮に将来、関税が課されることになった場合、日本が他の国に劣後する扱いとはならないよう確約を得たことも明らかにしました。
またコメについては既存の「ミニマムアクセス」と呼ばれる仕組みの枠内で、日本のコメの需給状況なども勘案しながら輸入割合を増やすとした上で、農業を犠牲にする内容は一切含まれていないとしています。
そして「『関税より投資』と、ことし2月のホワイトハウスでの首脳会談で 私がトランプ大統領に提案して以来、一貫してアメリカに対して主張し、働きかけを強力に続けてきた結果だ。守るべきものは守った上で日米両国の国益に一致する形での合意を目指してきた。トランプ大統領との間でまさにそのような合意が実現することになった」と成果を強調しました。
日経平均株価 一時700円以上 上昇 2日連続で過去最高値を更新
2025年8月13日 NHK
13日の東京株式市場は、アメリカの利下げへの期待感が広がったことを受けて、日本企業の業績にも追い風になるという見方から、積極的な買い注文が入り、日経平均株価は一時、700円以上上昇して12日に続き、取引時間中、終値ともに、これまでの最高値を更新しました。
13日の東京株式市場、取り引き開始の直後から積極的な買い注文が入り、日経平均株価は4万3000円を上回って、取引時間中の史上最高値を更新しました。
午後も買い注文が続き、日経平均株価は一時、700円を超えて上昇する場面がありました。
その後は、利益を確定しようという売り注文も出て、
▽13日の終値は、前日より556円50銭高い4万3274円67銭でした。
前日に続き、取引時間中、終値ともに、これまでの最高値を更新しました。
▽東証株価指数=トピックスは、25.54上がって3091.91で、こちらも過去最高を更新しました。
▽一日の出来高は23億9654万株でした。
13日の株価上昇は、アメリカの利下げへの期待が要因の一つとなりました。
12日に発表されたアメリカの消費者物価指数が、高いインフレ傾向を示す内容ではなかったため、ニューヨーク株式市場では、トランプ大統領が連日要求しているとおりに、近く利下げが行われるのではないかという期待感が広がりました。
これを受けて東京市場でも、アメリカの利下げは日本企業にとって追い風になるという見方から、積極的な買い注文が出た形です。
一方、日経平均株価の値上がりは13日で、6営業日連続で、この間の上昇幅は3000円近くとなり過熱感も指摘されています。
市場関係者は「株価上昇の勢いが強まっているため、過熱感があるとして、一部には当面の利益を確定させようと売り注文を出す投資家もいる。今後もアメリカの経済指標は取引材料となりやすく、今週発表される卸売物価指数や小売業の売上高などを慎重に見極めたいという投資家も増えている」と話しています。
証券会社では顧客からの注文や問い合わせに追われる
日経平均株価が連日、史上最高値を更新する中、東京 中央区にある証券会社のコールセンターでは終日、顧客からの注文や問い合わせに追われていました。
このコールセンターではお盆の時期とあって13日は通常の4分の3程度の人数で対応していて、午後に入っても顧客からの注文や問い合わせの電話が鳴り止まず、担当者が慌ただしく対応していました。
会社によりますと、顧客からは、株価が上昇している理由や、保有株の値動きを尋ねる問い合わせが多く、注文や問い合わせの電話は平日の2倍近くに上ったということです。
このところの株価上昇について、岩井コスモ証券投資調査部の嶋田和昭チーフストラテジストは「アメリカの関税措置の大枠が見えてきたこと、日本企業のことし4月から6月までの四半期決算の内容が想定より落ち込んでいなかったこと、それに、アメリカやヨーロッパの主要国の株価の上昇と比べると日経平均株価の上昇はペースが遅かったので追いつこうとしていること、の3つが要因に挙げられる」と指摘しています。
そのうえで今後の見通しについては「日経平均株価は6営業日で3000円近く上昇するなど短期的な過熱感はある。今の日本株の動きを見ると、しばらくは上昇基調が続くと考えている。海外の投資家が相場を押し上げる主因になるだろう。一方、アメリカの景気が大きく落ち込めば、逆の動きになってもおかしくない。小売売上高や雇用統計などこれから発表されるアメリカの経済指標の見極めが重要になってくる」と話しています。
専門家「少し先になってからいったん冷却期間がくるのでは」
日経平均株価が連日、史上最高値を更新していることについて、ニッセイ基礎研究所の井出真吾主席研究員は「悪い材料が目立たない一方で、アメリカの関税措置や経済指標、それに日本の政治など多面的に好材料が重なった。また、株価の下落を予想していた投資家が一斉に株を買い戻していることも急ピッチな上昇につながっている。ただ、4万3000円という水準は少し高すぎるし、ここ1週間の上昇ペースも違和感を覚える。株式市場の需給が極端に『買い』に偏っているため、この急ピッチな上昇が今後も続くとは考えないほうがいいと思う。少し先になってからいったん冷却期間がくるのではないか」と指摘しています。
そのうえで「関税措置をめぐって日米は合意したが、アメリカが日本による投資を四半期ごとに評価した結果、関税率を引き上げるというリスクも抱えている」と述べ、引き続きアメリカの関税措置をめぐる状況や企業業績への影響に投資家の関心が向かうのではないかという見方を示しています。
7月のアメリカ消費者物価指数 前年同月比2.7%の上昇
2025年8月13日 NHK
アメリカの7月の消費者物価指数が発表され、前の年の同じ月と比べて2.7%の上昇となりました。
トランプ政権の関税措置による影響で物価が上昇傾向にあるとの見方も広がる中、今回の発表を受けてインフレへの懸念がひとまず落ち着くのかどうか注目されます。
アメリカ労働省が12日に発表した先月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて2.7%の上昇となりました。
上昇率は前の月と同じで、市場が予想していた2.8%をわずかに下回りました。
一方、変動の大きい食品やエネルギーを除いたいわゆるコアの物価指数は、前の年の同じ月と比べて3.1%の上昇でした。
上昇率は前の月と比べて0.2ポイント高く2か月連続で前の月を上回りました。
分野別では中古車が4.8%、医療サービスは4.3%、外食は3.9%それぞれ値上がりした一方、ガソリンは9.5%、衣料品は0.2%それぞれ下落しました。
アメリカではトランプ政権の関税措置による影響で物価が上昇傾向にあるとの見方も広がる中、今回の発表を受けてインフレへの懸念がひとまず落ち着くのかどうか注目されます。
トランプ大統領 改めてFRBに利下げを要求
12日にアメリカの消費者物価指数が発表されたあと、トランプ大統領は自身のSNSで「“遅すぎる男”パウエル議長は今すぐ金利を引き下げるべきだ。幸い、われわれの経済は絶好調なので、パウエル議長と独りよがりな理事会を乗り越えることができた」と投稿し、改めてFRB=連邦準備制度理事会に対して利下げを要求しました。
その上で「パウエル議長がFRBの建物の建設管理についてひどく無能な仕事ぶりを見せているので、彼に対する大規模な訴訟を認めることを検討している」と記しました。
FRBの本部では現在、改修工事が進められていますが、トランプ政権内では「改修費用が当初の見込みを大幅に上回っている」などとしてパウエル議長の責任を追及する声が出ていて、トランプ大統領も7月、みずから訪問し、批判していました。
政府 TICAD=アフリカ開発会議で新経済圏位置づける構想 提唱へ
2025年8月10日 NHK
政府はインドからアフリカにかけての一帯には経済成長の中心となる潜在性があるなどとして、今月開催するTICAD=アフリカ開発会議でその一帯を新たな経済圏と位置づける構想を提唱する方針です。
3年に1度、日本政府が主導してアフリカ各国と開くTICADは今回で9回目を迎え、今月20日から3日間の日程で横浜市で開催されます。
開催にあたって、政府は、インドから中東諸国、アフリカ大陸にかけた一帯には経済成長の中心となる潜在性があるなどとして、その一帯を新たな経済圏と位置づける「インド洋・アフリカ経済圏イニシアティブ」を提唱する方針です。
具体的には、これまで推進してきた「自由で開かれたインド太平洋」のもとで、自由で公正な経済圏の構築と地域間の連結性の強化を目指す取り組みとしたい考えです。
そして、アフリカなど「グローバル・サウス」との関係強化や、この地域での貿易や投資拡大を目指す日本企業の支援につなげる狙いがあるということです。
外務省関係者は、「インドや中東を拠点にアフリカに進出する日本企業もあり、関心も高まっている。政策ツールを戦略的に組み合わせて、面的な取り組みを進めていきたい」と話しています。
預貯金の利子にかかる住民税分、東京への流入が急増している 原因はネット銀行の台頭 国も対策に乗り出した
2025年8月25日 東京新聞
住民税として預貯金などの利子に課せられる利子割税収について、東京都への偏りが顕著になっている。
全国の利子割税収に占める東京の割合は2018年度で17%だったが、40%台まで増えている。実店舗のないネット銀行から、その本店がある東京に税金が流入しており、総務省は「一極集中」の是正に乗り出した。(石井紀代美)
住民税の利子割 住民税の構成要素の一つ。預貯金の利子には約20%の税率がかかる。15%が国の税収で、5%が住民税の利子割として都道府県の税収となる。
他の要素には、一定の所得がある場合に一律の税額がかかる「均等割」、所得の多さに応じて納める額が決まる「所得割」、株の配当収入に課せられる「配当割」などがある。
◆預貯金額は横ばい でも利子割税収は急上昇
住民税利子割は、金融機関が預貯金口座の持ち主に利子を支払う際、地方分の5%を乗じた税額を天引きし、都道府県に納める。
総務省のデータによると、ここ数年、東京の預貯金残高のシェア推計値は16%前後とほぼ横ばい。一方、利子割税収のシェアは急上昇。2018年度の17.2%から2023年度は47.2%にまで増えた。
未公表の2024年度分は東京新聞が同省と同じ方法で計算。全国の預貯金額778兆円余りのうち、東京のシェアは16.2%(126兆円)だった。利子割税収の決算額は出そろっていないため、見込み額で算出すると、全国の392億円のうち40.8%(160億円)を東京が占めた。
TICAD=アフリカ開発会議 人材育成や鉱物資源の安定供給協力へ
2025年8月22日 NHK
TICAD=アフリカ開発会議は最終日の22日、人口が増加し市場の潜在力があるアフリカの重要性は高まっているとして、人材育成や鉱物資源の安定供給に向けた協力を進めていくことなどを盛り込んだ「横浜宣言」を採択し、閉幕しました。
日本政府が主導する国際会議TICADは石破総理大臣とアフリカの49か国の首脳らが参加し、最終日の22日は保健や教育、それに災害対策などをテーマに討議が行われました。
そして、3日間の議論の成果を盛り込んだ「横浜宣言」を採択し、閉幕しました。
「横浜宣言」では人口が増加し、市場の潜在力があるアフリカの重要性は高まっているとして、日本とアフリカを共に解決策を見いだしていくパートナーと位置づけています。
その上で、食料の安定供給に向けた農業システムを強化し安全・安心で信頼できるAIの開発や利用を促進するとしています。
また、若者の相互交流や人材育成、それに、スタートアップの後押しを進めるとしています。
さらに、アフリカと周辺地域との連結性を強化し、輸送や物流インフラへの投資を加速するとともに、重要鉱物の安定供給と責任ある開発を行うことも盛り込んでいます。
このほか、感染症予防に向けた保健システムや災害の予測や備えの強化でも協力するとしています。
そして、「民主主義と法の支配がアフリカの持続可能な開発の柱だ」として、平和と安定の構築に日本が寄与していくとしています。
閉会式で石破総理大臣は「2050年には世界の人口の4人に1人がアフリカ出身になると言われていて、アフリカが世界をリードしていくだろう。日本とアフリカが有する豊かな人材、技術、知恵を持ち寄り、課題解決を通じて繁栄を目指すという大きな目標に向け、共に力を合わせることが何よりも重要だ」と述べました。
エジプト首相と会談 ガザ地区めぐり日本の立場を説明
国際会議にあわせて石破総理大臣は各国の首脳ら34人と個別の会談を行いました。
エジプトのマドブーリ首相との会談で石破総理大臣はパレスチナのガザ地区をめぐり「人道状況のいっそうの悪化はわが国でも強く懸念されており、イスラエルに対し深刻な人道危機を終了させる実質的な措置や国際法の順守を改めて強く申し入れている」と述べました。
そして、エジプトの停戦に向けた仲介努力を支持するとした上で、現地でけがをしたパレスチナ人を日本国内で受け入れて治療していることを説明しました。
さらに両首脳は文化や教育、それに経済などのさまざまな分野で緊密に協力していくことで一致しました。
モザンビーク大統領と会談 インフラ整備を進める考え伝える
また石破総理大臣はモザンビークのチャポ大統領との会談で、鉱物資源の輸送ルートとなる港や道路などのインフラ整備を進める考えを伝えたほか、ナミビアのヌグラレ首相との会談では農業分野などでの支援を引き続き行っていく方針を示しました。
3日間で会談した首脳らは34人にのぼり、石破総理大臣は記者会見で「それぞれのニーズを知り互いに学ぶことで、さらなる関係強化の道筋を見いだすことができた。非常に有意義な意見交換の場となり濃密な議論ができた」と述べました。
TICAD閉幕 石破首相 今後は
TICADにあわせ、石破総理は3日間で30人を超える首脳らと個別の会談を重ねました。
総理周辺は「相手国の文化や歴史を把握して丁寧に向き合い、距離を縮めていくのが石破流だ」と話しています。
23日は韓国、来週にはインドとの首脳会談が予定され、石破総理としては活発な首脳外交を通じて政権浮揚の足がかりとしたい考えです。
ただ、自民党内では、臨時の総裁選挙を実施すべきかどうか議論が続いています。
秋以降も腰を据えて内外の課題に取り組む環境を整えられるかは、総裁選挙をめぐる議論の行方がカギとなりそうです。
天皇皇后両陛下 各国首脳夫妻ら招き懇談
天皇皇后両陛下は、22日午後、27か国の首脳夫妻らを皇居・宮殿に招いて茶会を催し、秋篠宮ご夫妻や両陛下の長女の愛子さまなど皇族方とともに懇談されました。
はじめに、両陛下と皇族方が、ひとりひとりと握手をしてあいさつを交わされました。
そして、天皇陛下が「この会議が、アフリカ諸国のさらなる発展と人々の幸せに寄与していくものとなることを期待しております」と述べたあと、英語とフランス語で乾杯のあいさつをされました。
天皇陛下は、皇太子時代にモロッコやガーナ、それにケニアを公式訪問されるなどしたほか、秋篠宮ご夫妻もアフリカの国々を訪問されています。
両陛下は皇族方とともに飲み物のグラスを手に、各国の首脳らとおよそ30分にわたって懇談されました。
そして、懇談が終わると南車寄で、各国の首脳らの姿が見えなくなるまで、手を振って見送られていました。
日本のアニメや漫画 アフリカでの展開探るイベント
TICAD=アフリカ開発会議に合わせ、日本のアニメや漫画などに関連するビジネスをアフリカで展開する可能性を探るイベントが開かれました。
このイベントはJETRO=日本貿易振興機構が開き、日本企業などが参加したほかアフリカからアニメの愛好家も招かれました。
登壇したエジプト人のコスプレを行うインフルエンサーは「コスプレを通じてキャラクターを知っている世界中の人とつながることができる。キャラクターには国を超える影響力がある」と話していました。
またナイジェリアでアニメイベントを主催する企業を経営する男性はアフリカは若者を中心に市場規模が大きく、グッズを購入したり有料のイベントに参加したりするファンもいることを説明し、「アフリカ市場に来てください。お待ちしています」と呼びかけました。
日本政府はアニメや漫画などのコンテンツ産業の海外での売上高を2033年までにこれまでの3倍以上の20兆円規模へ拡大する目標を掲げています。
イベントに参加した日本企業は「アフリカでファンが増え需要に対して供給が足りず日本から持ってきてほしいという熱い思いを感じた。ビジネスはまだ先だと思っていたが、動かないといけないと思った」と話していました。
主催したJETROの担当者は「アフリカの若い人たちを取り込むうえで、日本のアニメや漫画などがいかに力を持っているか知っていただき、ビジネスを考えるきっかけにしてほしい」と話していました。
近所に来てくれる「移動期日前投票所」が都市部へ拡大中…過疎地だけのサービスではなくなってきた背景とは
2025年8月25日 東京新聞
選挙で投票に行くお年寄りや障害者の負担を減らしたい――。そんな思いから、バスの車内を投票所にして各地を巡回する移動期日前投票所を導入する自治体が増えている。
投票所が遠くても、自宅近くまでバスが来てくれるため好評だ。過疎化が進む地域だけでなく、中核市にも広がっているのが特徴。21日に告示された茨城県知事選でも開設される。(山下洋史、石井宏昌)
移動期日前投票所 自治体が巡回させるバスやタクシーの車内を仮設の投票所に見立て、期日前投票を行ってもらう。公共施設の駐車場などに停車し、周辺のテントなどで投票用紙を交付する。事前の予約なしに誰でも利用できる。2016年の参院選で島根県浜田市が初めて導入し、全国に広がった。人口の少ない市町村が中心だが、群馬県高崎市、愛知県豊田市、金沢市など人口20万人以上の中核市も導入している。
◆2016年の参院選から始まり、100以上の自治体に普及
「自宅から投票所が遠いため、投票を諦めたという障害者の声をよく聞く。移動期日前投票所の試みがもっと広がれば、障害者は1人でも投票しやすくなる」。
こう期待するのは、総務省や自治体などに投票環境の改善を求めている団体「障害をもつ人の参政権保障連絡会」事務局次長の高梨恵子さん(62)だ。
茨城県知事選で移動期日前投票所を開設するのは、日立市など11市町。この11市町は7月の参院選でも設置した。
移動期日前投票所は2016年参院選から始まった。2019年の参院選では33自治体が導入、2024年の衆院選では133自治体に増えた。
山間部の自治体での導入が多いが、今年7月の参院選では中核市や県庁所在地でも実施された。
背景には、投票所の減少がある。7月の参院選で設置された投票所は4万4758カ所で、前回の2022年参院選から1267カ所も減った。投票所が自宅から離れると、障害者や高齢者にとって投票のハードルは高くなる。
投票率向上へ バスの移動式期日前投票所を初設置 滋賀 米原
2025年7月16日 NHK
投票日まであと4日となった参議院選挙の投票率向上につなげようと、滋賀県米原市は、バスの中で投票ができる移動式の期日前投票所を県内で初めて設けました。
移動式の期日前投票所は、ふだん路線バスとして利用されているバスを2台借り上げ、車内に記載台と投票箱を設置したもので、16日から3日間、米原市内の7か所に 時間を区切って設置されます。
このうち、米原市顔戸のスーパーマーケットの駐車場では 午前10時からこのバスを使った期日前投票が始まり、買い物に訪れた有権者が次々と訪れて1票を投じていました。
近くに住む60代の男性は「投票所まで行くのが少し遠いので、ありがたいと思います。便利だと思いました」と話していました。
米原市は、施設の老朽化などを理由に 45あった投票日当日の投票所を今回から16に減らすことにしていますが、県内初となるバスを使った移動式の期日前投票所で投票率の向上につなげたい考えです。
米原市選挙管理委員会の谷田知己さんは「今回は投票日が3連休の中日で行けないという人もいると思うが、こうした移動式の投票所を利用してもらって、投票率の向上に結びつけたい」と話していました。
参院選の無効票水増し問題 東京 大田区の区長が会見し謝罪
2025年8月7日 NHK
7月に行われた参議院選挙の東京 大田区の開票作業で、投票総数のつじつまを合わせるため現場の担当者が無効票を大量に水増しした問題を受け、鈴木晶雅区長が7日に会見を開いて謝罪しました。区などは、担当者を厳正に処分するとともに、第三者委員会を立ち上げて再発防止を図る方針です。
7月に行われた参議院選挙の開票作業で、大田区では、投票総数のつじつまを合わせるため現場の担当者が無効票を水増ししていました。
この問題を受けて、7日に大田区の鈴木区長が会見を開き、「区民の皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけしましたことを深くおわび申し上げます」と謝罪しました。
区の説明によりますと、投票総数をまとめる際に、旅行や入院などで投票できない人が利用する不在者投票の一部を二重に計上するミスがあり、発表した投票総数が実際よりもおよそ2600票多くなっていました。
そして、開票作業の終盤で投票総数と実際の投票の数に食い違いがあることがわかり、つじつまを合わせるため、現場の区の担当職員が、実際の投票の数に無効票をおよそ2600票水増しして計上し、最終的な開票結果として発表していたということです。
区の選挙管理委員会の事務局長は、開票作業が終わった直後に問題を把握していましたが、8月4日まで報告を上げていませんでした。
区は、選挙結果に影響がないとして票の再点検を行わない方針ですが、担当者の聞き取り調査を進めて厳正に処分するほか、区の選挙管理委員会も第三者委員会を立ち上げて再発防止を図る方針です。
開票作業での不正 全国で相次ぐ
開票作業での無効票の水増しなどの不正は、全国の自治体でも相次いでいます。
近年の選挙では、2013年の参院選の高松市、2014年の衆院選の仙台市、2017年の衆院選の滋賀県甲賀市などで、不正が明らかになりました。
三菱商事 洋上風力撤退発表 社長「事業計画の実現困難」
2025年8月27日 NHK
大手商社の三菱商事は秋田県と千葉県の沖合で計画していた洋上風力発電についてコストの大幅な増加などを理由に撤退すると正式に発表しました。再生可能エネルギーの普及に向けて国が後押ししてきた大型事業の見直しで、国のエネルギー政策への影響も避けられない見通しです。
目次
中西社長「建設費用は当初見込みの2倍以上」
秋田県知事「よもや撤退ないだろうと 大変な衝撃 」
三菱商事は27日、秋田県の「能代市、三種町および男鹿市沖」と「由利本荘市沖」、千葉県の「銚子市沖」の3つの海域で、中部電力の子会社などと共同で進めてきた洋上風力発電から撤退すると正式に発表しました。
三菱商事などはことし2月以降、資材価格や人件費などの高騰で事業にかかるコストが大幅に増加したとして、計画の見直しを進めてきました。その結果、3つの案件のいずれも採算を確保するのが難しく、開発を取りやめざるを得ないと判断したということです。
今回の計画は再生可能エネルギーの拡大に向けた国の重点的な整備計画の第一弾で三菱商事を中心とする事業体がほかの事業者よりも大幅に安い売電価格を提示して落札していました。
中西社長「建設費用は当初見込みの2倍以上」
三菱商事の中西勝也社長は27日に都内で開いた会見で「プロジェクトを進めることができず断腸の思いだ。地元の皆様から期待や激励をいただいていたが、期待に添えない結果となり心より申し訳なく思っている」と述べました。
その上で、撤退を判断した理由について「2021年に落札して以降、世界的なインフレなどとともに風車メーカーによる値上げなどが重なって、コストが大きく膨らんだ。建設費用は当初見込んだ金額の2倍以上の水準となり、事業期間全体での売電収入よりも保守や運転の費用を含めた支出の方が大きく、事業計画の実現が困難との結論に至った」と説明しました。
計画を立てた際の売電価格などが妥当だったかを問われ、中西社長は「4年前の入札時点で見通せる事業環境に基づいて、十分な採算を確保した上で、売電価格を算出した。決して安値を出したわけではなく、事業環境の激変が今回の結果につながった」と述べました。
さらに、自身の責任について問われると「われわれは計画を断念したが、今後の後継の事業者に対してこれまでのデータの共有などできることをしていく。脱炭素社会の実現のため引き続きやることはあり、社長としての責務を全うしていく」と述べました。
三菱商事は、計画の見直しに伴って昨年度のグループ全体の決算で522億円の損失をすでに計上していて、追加の損失は限定的だとしています。
武藤経産相「洋上風力全体に対する信頼揺るがしかねない」
中西勝也社長は27日午後、武藤経済産業大臣と面会し、「期待に応えられなかったことを重く受け止めている」と述べ、撤退の理由などを説明しました。
これに対し、武藤大臣は「信じられないというのが正直な気持ちだ。撤退の判断に至ったことは日本における洋上風力の導入に遅れをもたらすもので大変遺憾だ。地元の期待を裏切るもので、全国の関係者も大変注目している案件であり、洋上風力全体に対する社会の信頼を揺るがしかねない」と述べました。
国は洋上風力発電を将来の再生可能エネルギーの柱と位置づけ、事業を後押ししてきましたが、今回の大型事業の見直しで国のエネルギー政策への影響も避けられない見通しです。
《建設計画されていた地域 反応は》
秋田県知事「よもや撤退ないだろうと 大変な衝撃 」
秋田県などの沖合で計画されている洋上風力発電について、三菱商事が事業からの撤退を正式に発表したことを受けて、秋田県の鈴木知事は、午後4時半ごろ、秋田県庁で記者団の取材に応じました。
この中で鈴木知事は「極めて残念かつ極めて遺憾だ。国家肝いりのプロジェクトで国を代表する企業が落札して、よもや撤退ということはないだろうと思っていたので、大変な衝撃だ」と述べました。
その上で「三菱商事には説明責任にとどまらず、さまざまな社会的な責任も私はあると思う。しっかりとした対応を求めていきたいと思うし、県としても事業者に寄り添ってこれからしっかり対応していきたい」と述べました。
地元企業 部品受注目指し投資も
部品の受注を目指して新たな投資を行っていた秋田県の企業からは困惑の声が上がっています。秋田県由利本荘市の機械メーカーでは、航空機の部品などを製造していた技術力を生かし、8年前から陸上に設置する風車の部品の製造を行っています。
秋田県の沖合の2つの海域ではあわせて103基の風車が設置される計画だったことなどからこの会社では、洋上風力の分野への参入を目指していました。
ことし2月には風車の発電機を格納する部品の受注を見込んで、大型の加工用機械を導入したということです。
今回の撤退について、齊藤民一会長は「導入した機械は風車以外の部品の製造にも使えるので会社への打撃は大きくはないが、まさか3つの海域すべてから撤退するとは思わなかった」と話しました。
その上で「トランプ関税などもあり、今後、洋上風力を取り巻く環境がどうなるかわからないが、うちのような小さな会社は臨機応変に、自分たちのできることをやっていくしかない」と話していました。
千葉県知事「地元に多大な影響 説明責任を」
千葉県の熊谷知事は「地域経済の活性化のためにも大きな期待を寄せていたので事業者の撤退は大変遺憾だ。地元に多大な影響が及ぶことになるので事業者にはしっかり説明責任を果たしてもらいたい。また、銚子市沖の洋上風力発電事業が一刻も早く進展するよう国は再公募を直ちに実施してほしい」というコメントを発表しました。
銚子市長「再公募手続き 確実に進めて」
銚子市の越川信一市長は「非常に残念で遺憾です。ただ前に進むことが大事なので国には再公募の手続きを迅速かつ確実に進めてもらいたい」と話していました。
銚子市の沖合では、三菱商事などでつくる事業体が国の公募を経て洋上風力発電の建設計画を進め、当初の計画では2028年の運転開始を目指していました。一方、銚子市漁業協同組合は漁業振興を目的にした基金を通じて事業体から毎年3億円を受け取っています。
今回の撤退の発表について漁協の担当者は「基金の一部を漁業者の漁船の燃料代の補助などに使っているが、そうした支援がなくなってしまうのではないかと心配している」と話していました。
《専門家の見方は》
専門家「資材・建材費のインフレ 予想できなかったのでは」
今回の撤退について、エネルギー経済社会研究所の松尾豪代表はNHKの取材に対し「三菱商事は他社よりも非常に低い価格で落札したが、資材・建材費のインフレがこれだけ激しくなることは予想できなかったのではないか。最初の入札で極端に低い価格を提示したことが、その後の事業環境を悪化させているとも考えられ、落札した事業者がまた撤退するという動きが出てきてもおかしくない」と指摘しています。
また、三菱商事が撤退した事業で改めて事業者の公募が行われる場合について「事業の不確実性は全く解消していないと考えられ、今後、応札できる事業者が出てくるかというと、非常に難しいのではないか」と話していました。
その上で今後の国のエネルギー政策に与える影響については「再生可能エネルギーの割合を高めるために洋上風力は切り札とされてきたが、今回、撤退となったことの影響は非常に大きいのではないか」と話していました。
愛知 豊明 “スマホなど使用1日2時間以内目安” 条例案を提出
2025年8月25日 NHK
愛知県豊明市は、仕事や勉強以外でのスマートフォンなどの使用は1日2時間以内を目安にするよう促す条例案を25日、市議会に提出しました。市によりますとすべての市民を対象にスマートフォンなどの使用時間の目安を示した条例案は全国で初めてだということです。
25日開会した豊明市の市議会に提出された条例案は、スマートフォンやタブレット、ゲーム機などの長時間の使用は、睡眠不足などの健康面だけではなく、家族の会話が短くなるなど家庭環境にも悪影響を与え、子どもの健全な生育を妨げるおそれがあるとしています。
そして、こうした悪影響は子どもだけではなく幅広い世代で課題になっているとして、すべての市民と市内の学校に通う18歳未満の子どもを対象とし仕事や勉強、家事以外でのスマートフォンなどの使用は1日2時間以内を目安にするよう促すとしています。
18歳未満の子どもの使用については時間帯の目安も示され、小学生以下は午後9時まで、中学生以上は午後10時までとすることが盛り込まれています。
条例案に強制力や罰則はないということです。
一方、この条例案をめぐっては市の発表後の今月21日から25日正午までにあわせて110件の電話やメールが寄せられ、7割ほどが反対意見だったということです。
豊明市の小浮正典市長は「スマートフォンが便利で生活に欠かせないことは前提で、1日2時間をすべての市民に押しつけるのではないかという誤解があったと思う。あくまで2時間を目安とし、睡眠時間や家族との関係などを見つめ直すきっかけにしてほしい」と話しています。
条例案が市議会で可決・成立すればことし10月に施行される見通しです。
専門家「『2時間』という数字だけが1人歩き」
子どものインターネット利用の実態や対策に詳しい成蹊大学・客員教授の高橋暁子さんは、豊明市の条例案について、「2時間という目安が示され、スマホの利用時間の長さや使い方について考えたり話し合ったりするきっかけになるのが最大のメリットだ。実際の調査でも保護者の利用時間が長いほど子どもも比例して長くなることが分かっているので、子どもだけではなく大人も制限してうまく使っていこうというのは正しいと思う」としています。
一方、SNSなどで条例案への批判の声が相次いだことについては「利用状況や年齢などに応じてふさわしい利用時間の長さは違うと思うが、『2時間』という数字だけが1人歩きしている面がある。スマホをうまく活用できていると考える人たちにとっては、『何でそんなことを言われなければいけないんだ』という気持ちになり、反発が出たのも当然だった。着眼点は悪くなく、生活に支障が無い範囲で子どもも大人もうまく使いましょうというメッセージだったと思うが、それが少々伝わりづらかったのは残念だった」と述べました。
株価 過去最大の値下がり ブラックマンデー超え“4つの要因”
2024年8月5日 NHK
週明けの5日の東京株式市場は、アメリカの景気減速への懸念や円高の進行を受けて全面安の展開となり、日経平均株価の終値は4400円を超えるかつてない急落となりました。世界的に株価が暴落した1987年のブラックマンデーの翌日につけた3836円を超えて過去最大の下落幅を記録しました。
目次
「サーキットブレーカー」の措置も
株価急落 4つの要因
5日の東京株式市場は取り引き開始直後から全面安の展開となり、午後に入ると売り注文は一段と膨らみました。
日経平均株価は午後2時50分過ぎには4700円以上値下がりし、かつてない急落となりました。
先週2日に発表されたアメリカの雇用統計の結果が市場の予想より悪かったことからアメリカの景気減速への懸念が一段と強まったことに加えて、東京外国為替市場で急速に円高が進んだことで、輸出関連の銘柄などでも売り注文が膨らみました。
▽日経平均株価、5日の終値は先週末の終値より4451円28銭安い、3万1458円42銭となり、世界的に株価が暴落した1987年のブラックマンデーの翌日につけた3836円48銭を超えて過去最大の下落幅を記録しました。
▽東証株価指数、トピックスは310.45、下がって2227.15。
▽1日の出来高は40億8980万株でした。
市場関係者は「午後に入ってからは相場の混乱をチャンスとみた投機筋の動きもみられ、株価は一段と下落した。さらに、緊迫化する中東情勢も株価下落の要因となっていて、日経平均株価とトピックスはともに終値として年初来の安値をつけた」と話しています。
「サーキットブレーカー」の措置も
株価が記録的な急落となるなか、大阪取引所では日経平均先物の取り引きで午後1時26分から10分間、売買を一時中断する「サーキットブレーカー」と呼ばれる措置がとられました。
「サーキットブレーカー」は取り引きの混乱を避けるため取引所が一時的に売買を止める措置です。
日経平均先物で発動されるのは、イギリスのEU離脱の賛否を問う国民投票の結果をめぐって株価が急落した2016年6月24日以来、およそ8年ぶりです。
午前中には東証株価指数=トピックスの先物やオプション取引でもおよそ13年ぶりに「サーキットブレーカー」が発動されています。
株価急落 4つの要因
株価が急落した要因は4つあります。
【1,アメリカの景気減速への懸念】
先週発表されたアメリカの経済指標が市場の予想を下回り、さらに2日に発表されたアメリカの雇用統計も市場の予想より悪い結果となったことで景気減速への懸念が一段と強まりニューヨーク市場で株価が急落。
これを受けて東京市場でも株価が大幅に値下がりしました。
【2,円高ドル安の加速】
きっかけとなったのは先月31日に日銀が追加の利上げに踏み切り、植田総裁が会見でさらなる利上げの可能性に言及したことです。
日本時間の翌日1日にはアメリカのFRB・連邦準備制度理事会のパウエル議長が会見で、早ければ9月の会合で利下げが決定される可能性があると発言。
日米の中央銀行トップの発言で円高が一気に進みました。
円相場は先月上旬には1ドル=161円台まで値下がりし、31日の植田総裁の会見前には1ドル=152円台で取り引きされていましたが、その後、アメリカ経済の先行きへの懸念が強まったこともあって急速に円高ドル安が進みました。
5日の東京市場で円相場は午後3時すぎに1ドル=141円台まで値上がりしました。
日本の輸出企業が事業計画をたてる際に想定する為替レートは、現在、平均で145円前後といわれています。
この水準より円高が進んだことで、これまで円安の恩恵を受けてきた輸出企業などの業績に悪影響が及ぶのではないかという懸念が一気に強まり、これが一段の株安を招きました。
【3,中東情勢の緊迫化】
イスラエルと戦闘を続けるイスラム組織ハマスの最高幹部が訪問先のイランで殺害されたことを受け、イランはイスラエルによる攻撃だとして報復を行う考えを示しています。
このため投資家の間ではリスクを避ける姿勢が強まり、売り注文が一段と膨らみました。
【4,投機筋の仕掛け】
一方、株価がかつてないような急落となった背景にはこうした要因とは別に、投機筋が短期的な取り引きで利益を確保するために先物取引やいわゆる空売りなどを通じて大量の売り注文を入れたのではないかという指摘も出ています。
株式市場では売り買いの前提条件を細かくプログラムに組み込んだいわゆる「高速取り引き」によって相場が左右されているという見方もあり、株価の急落を助長するともいわれるこうした取り引きが今回どのように影響したのかも株価急落の要因を見る上での焦点となります。
専門家はどう見たのか
「売りが売りを呼ぶ」
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎主席研究員は、今回のかつてない株価の急落の要因について「日本の景気の先行きが大きく危惧される状況では決してなく、小さな売り材料が積み重なった結果、売りが売りを呼ぶ状況になり、株価が下げ止まらなかった」と指摘しました。
その上で、今後の見通しについて小林主席研究員は「企業の決算が順次、発表されているが、内容を見ても決して悪くない。『ここが底値だ』と信じることができれば、買いも入って、株価も上昇するのではないか」と述べました。
「米経済 軟着陸か景気後退か 確認必要」
UBS証券の守屋のぞみ株式ストラテジストは「ここまで日本株を引っ張ってきた外国人投資家が、日銀の政策の変化やアメリカの経済情勢の変化で考え方が変わったことが大きな影響を与えた。一気に円高が進んだ点も日本株の変化が大きく出た理由の1つだ」と分析しました。
その上で、今後の見通しについて「8月は投資家の動きが少なくなる夏休みの時期で、この短い時間軸で急にポジティブな展開になることを見込むタイミングではない。来週はアメリカの小売りの販売や消費者物価の統計の結果も出てくるので、アメリカ経済がソフトランディング=軟着陸するか、リセッション=景気後退のリスクが高まるか確認していく必要がある」と述べ、アメリカの景気の動向が重要なポイントの1つになると指摘しました。
「冷静に株価水準や個別銘柄見ていく局面」
岩井コスモ証券の林卓郎 投資情報センター長は「想定外であり、これほどの下げがあるかと正直驚いている。きょうの日経平均株価は午後になって下げが再び加速し十分な説明ができないような状況になっている」と述べました。
そのうえで要因については「アメリカのハイテク株の下落に加えて今まで株価を支えていた円安の流れが円高に転換したことが大きい。特に先週、日銀が利上げを実施し、今後も利上げの可能性を示唆したので思った以上に円高が進んだ。為替の円高進行は日本の企業業績にとって痛手となるので日本のファンダメンタルズに疑念が生じたのではないか。さらにマーケットの激しい動きを利用して、売買を重ねる短期筋がポジションを強制的に縮小するきっかけになり得るので、そういう動きも重なったのではないか」と指摘しました。
今後の見通しについては「相場が急変しているので落ち着くのに多少、時間がかかると思う。円高がどれだけ日本企業の業績に響くかや、アメリカの景気の動きを注視しつつも、これほどの下げを説明する投資環境の悪化は多分ないと思うので少し冷静に、株価水準や個別銘柄を見ていく局面に来ているのではないかと思う」と話していました。
【動画解説】急落の要因は 今後は
各業種での値下がりは
どのような業種で値下がりが目立ったのでしょうか。
東京証券取引所は東証株価指数・トピックスに採用されている企業を33の業種に分類し、業種ごとに株価指数を算出しています。
それによりますと、5日は33の業種すべてが6%を超える下落率となり、中でも「銀行業」が17.3%、「証券、商品先物取引業」が16.5%、「保険業」が17.6%、それぞれ下落しました。
長期金利が大きく低下したことや、株価の急落で収益への影響が懸念され、金融関連の銘柄で下落が目立ちました。
また、総合商社が含まれる「卸売業」が15.1%、自動車メーカーなどの「輸送用機器」が14.4%の下落となっていて、急速な円高の進行による採算悪化への懸念が株価の下落につながったものとみられます。
さらに、日経平均株価の値動きへの影響が大きい半導体関連などの銘柄が含まれる「電気機器」や「精密機器」でも10%を超える下落となりました。
“株価暴落”どう受け止めたか 大手企業や NISA始めた市民は
5日の株価の推移 詳細
【午前9時 取引開始】
5日の東京市場では取引開始直後から全面安となり、およそ15分で日経平均株価の下落幅は2500円を超えました。
その後はいくぶん買い戻しの動きが出て、午前の終値は先週末より1662円14銭、安い3万4247円56銭でした。
【正午以降】
ただ、午後に入ると外国為替市場で一段と円高が進んだことや、アメリカの主要な株価指数の先物がさらに値を下げたことなどから、加速度的に売り注文が増え、株価の下落に歯止めがかからない状況となりました。
さらに投機筋による売り注文が一気に膨らんだことが下落に拍車をかけたという指摘もあります。
【午後2時20分すぎ】
日経平均株価の下落幅は、世界的に株価が暴落した1987年のブラックマンデーの翌日につけた3836円48銭を超えて過去最大になりました。
【午後2時50分すぎ】
その後も取り引き終了にかけて下落は続き、4700円以上、値下がりしました。
【午後3時 取引終了】
結局、日経平均株価の終値は先週末より4451円28銭、安い3万1458円42銭となり、終値としても過去最大の下落幅となりました。
ことし最初の取り引きで3万3000円台だった日経平均株価は上昇基調が続き、2月にバブル期の史上最高値を上回ったあと、3月に初めて4万円を突破。
7月11日には4万2000円を超えて最高値を更新していました。
しかしその後、わずか1か月弱の間でことしに入ってからの上昇分が帳消しになるかつてない急落に見舞われています。
証券会社 問い合わせ相次ぐ
日経平均株価がかつてない急落となり、証券会社には個人投資家からの問い合わせが相次ぎました。
東京 中央区の証券会社にあるコールセンターでは、およそ20人の社員が客からの問い合わせにあたっていました。
問い合わせは、午前9時の取り引き開始直後から相次ぎ、今後の経済や株価の見通しに関する問い合わせのほか、保有する株式を売却したいという内容も多かったということです。
岩井コスモ証券東京コールセンターの本間大樹センター長は「電話の件数がかなり増えているので待ってもらう場合も出ている。焦らずに対応しようと思っているが、それ以上に株価の下がるスピードが速くなっている」と話していました。
鈴木金融担当相「NISA投資 冷静に判断を」
株価の急落について、鈴木金融担当大臣は「株価は市場において決定されるもので背景などを一概に申し上げることはなかなかできないが、政府として冷静に判断していくことが重要だと考えている。ことしの春闘での33年ぶりの高い水準での賃上げなど、日本経済には前向きな明るい動きが見られ、今後も雇用所得環境が改善する中で、緩やかに回復をしていくと考えている。内外の経済・金融市場の動向について、日銀とも連携しながら、緊張感をもって注視するとともに今後の経済財政運営にも万全を期していきたい」と述べました。
また、ことしから制度が拡充された優遇税制「NISA」で新たに投資を始めた人などに対しては「株価下落などの市場変動が進む中にあっても、長期、積立、分散投資の重要性を考慮し、冷静に判断していただきたい」と述べました。
さらに、外国為替市場で円高が急速に進んでいることについて鈴木大臣は「円相場の水準はファンダメンタルズ=経済の基礎的条件を反映して決められるものであって、安定的に推移することが望ましいと考えており、為替相場の動きも注視していきたい」と述べました。
林官房長官「緊張感持って注視 万全を期す」
株価の大幅な値下がりを受けて、林官房長官は記者団の取材に応じ、冷静に状況などを判断していく重要性を強調した上で、内外の市場動向を注視しながら、経済財政運営に万全を期していく考えを示しました。
この中で林官房長官は、株価の大幅な値下がりについて「政府としては、冷静に判断していくことが重要だと考えており、内外の経済・金融市場の動向などを緊張感を持って注視するとともに、経済財政運営に万全を期していきたい」と述べました。
その上で、国内経済について、力強い賃上げの動きに加え、設備投資や企業業績が過去最高水準になっているなどと指摘するとともに「デフレからの完全脱却、新たな成長型経済への移行に取り組み、家計所得の伸びが物価上昇を上回る状況を確実に作り出していく」と強調しました。
さらにコーポレート・ガバナンス=企業統治の改革なども着実に進んでいるとしつつ「国内外の資金を呼び込み、成長と分配の好循環を実現していく。さらなる改革を推進し『資産運用立国』の実現に向けた取り組みを進めていく」と述べました。
一方、為替相場の動向については「ファンダメンタルズ=経済の基礎的条件を反映して安定的に推移するということが重要で、しっかり注視していきたい」と述べました。
アジアでも株価が大幅下落
5日のアジアとオセアニアの株式市場は、アメリカの景気減速への懸念から各地で売り注文が膨らみ、株価は、韓国や台湾で8%を超える大幅な値下がりで取り引きを終えました。
各地の代表的な株価指数の5日の終値は、先週末と比べて、▽韓国でおよそ8.7%、▽台湾でおよそ8.3%の大幅な下落となりました。
このうち韓国では5日午後、一時、10%を超える値下げ幅となり、売買を一時的に中断する「サーキットブレーカー」と呼ばれる措置がとられました。
このほか、▽オーストラリアのシドニーでおよそ3.7%、▽中国・上海でもおよそ1.5%値下がりして取り引きを終えました。
各地で株価が下落したのは、先週2日に発表されたアメリカの雇用統計の結果が市場の予想より悪かったことから、投資家の間でアメリカの景気減速への懸念が一段と強まったことがあります。
市場関係者は「中国の不動産不況が長期化する中で、アメリカ経済についても先行きへの警戒感が急速に強まったことから、投資家の間ではアジア各国の経済への影響を懸念する声が出ている。韓国や台湾では、株式市場をけん引してきた半導体関連の銘柄を中心に売り注文が大きく膨らんだ」と話しています。
欧州でも株価下落
5日のヨーロッパの株式市場は、アメリカの景気減速への懸念から各国で株価が下落しています。
ヨーロッパの主な株式市場では日本時間の午後4時に週明けの取り引きが始まり、各国の株価は開始直後から幅広い銘柄で売り注文が出て全面安の展開となっています。
先週末の終値と比べた株価指数は日本時間の午後5時時点で▽フランクフルト市場で2.3%下落しているほか、▽ロンドン市場で2.2%、▽パリ市場で2.1%と、いずれも2%を超える値下がりとなっています。
このうちパリ市場では一時、3%の下落となりました。
市場関係者は「アメリカ経済減速の警戒感が強まり、ヨーロッパ経済への影響を懸念する見方が広がった。外国為替市場での円高の進行とともに、株価が大幅に下落したアジア市場の流れを受けて、リスクを回避する姿勢が鮮明になっている」と話しています。
海外メディアも報じる
アメリカの有力紙、ウォール・ストリート・ジャーナルは歴史的な下落だとした上で「日経平均株価は7月、記録的な高値に達したあと25%以上下落し弱気相場の領域に入った」と伝えています。
また、CNNテレビは「パニック売りを防ぐため、変動幅が大きい時に売買を一時中断する『サーキットブレーカー』が東京とソウルで複数回にわたって発動された」とした上で、他のアジアの株式市場にも影響が広がったことを伝えています。
このほか、有力紙のニューヨーク・タイムズは「世界中の市場が動揺」という見出しでアメリカ経済の減速懸念を受けた各地での株価急落について取り上げ、「株価の下落は特に日本で顕著だった。世界経済への警戒感に加え、円高が企業収益に与える打撃への懸念が加わった」と伝えています。
佐賀県警のDNA鑑定で不正130件、「短期間で終わらせ評価上げる」と過去試料使う…科捜研職員を懲戒免職
2025年9月8日 読売新聞
佐賀県警は8日、DNA型鑑定を実施していないのに、行ったかのように装うなどの不正を繰り返したとして、県警科学捜査研究所の40歳代の男性技術職員を虚偽有印公文書作成・同行使や証拠隠滅などの疑いで佐賀地検に書類送検した。不正は130件に上り、県警は同日、職員を懲戒免職処分にした。県警は、捜査や公判に「影響はなかった」と説明している。
職員の懲戒免職処分について謝罪する佐賀県警の井上利彦首席監察官(8日午後、佐賀市で)=田中大稀撮影
発表によると、職員は2012年4月に採用され、24年10月までに632件のDNA型鑑定を実施。17年6月以降の7年超の間に行った130件で、実際には実施していない鑑定を過去の試料を使って鑑定したかのように装うなどの不正を繰り返した。うち16件は殺人未遂や不同意わいせつなどの事件の証拠として検察庁に送られた。
16件の証拠について、県警の井上利彦首席監察官は「裁判所に依頼して関係書類を確認し、検察庁にも影響がなかったことを確認した」と説明。佐賀地検は「処分の決定や公判で使用された事例はなく、いずれも影響はなかった」としている。
24年10月16日に上司が決裁中に、鑑定の開始日が異なることに気づいて調査を開始。職員は偽装などを認め、「上司に短期間で鑑定を終わらせたと思われれば自分の評価を上げられる」「上司の決裁を得やすくするため」などと理由を説明しているという。
県警は、実際には鑑定を行っていないにもかかわらず、過去の試料を使って実施したように装った9件と、体液などが付着したガーゼなどの試料を紛失し、鑑定の依頼元に新品を返すなどした4件について、特に悪質と判断し、書類送検した。県警は「個人の特定につながる」として職員の名前や役職を明らかにしていない。また、「組織として検討した結果」として記者会見の形式はとらず、撮影は冒頭のみで記者を集めて説明する形にとどめた。
県警は8日、監督責任を問い、いずれも上司の技術職員2人を本部長注意、1人を所属長注意とした。
茨城 東海村長選 現職の山田修氏 4回目の当選
2025年9月7日 NHK
任期満了に伴う茨城県東海村の村長選挙は、現職の山田修氏が4回目の当選を果たしました。
東海村長選挙の開票結果です。
山田修、無所属・現。1万659票。
大名章文、無所属・新。2960票。
根本華奈、無所属・新。928票。
現職の山田氏が、新人2人を抑えて4回目の当選を果たしました。
山田氏は64歳。茨城県の職員や東海村の副村長などを経て、2013年の村長選挙で初当選しました。
山田氏は「原発の再稼働については賛成反対を簡単に決められる話ではないので住民投票を行う予定はない。一方、タウンミーティングを行うなどして住民の意見はしっかりと聞いていきたい」と話しています。
投票率は46.94%で、前回・4年前の選挙を3.02ポイント下回り過去最低となりました。
自民総裁選、「フルスペック」方式で最終調整…10月4日投開票の方向
2025年9月8日 読売新聞
自民党は8日、石破首相(党総裁)の退陣表明を受けた臨時総裁選について、全国一斉で党員投票を行う「フルスペック」方式で実施する方向で最終調整に入った。日程は10月4日に投開票を行う方向で調整している。複数の党幹部が明らかにした。
自民党本部
森山幹事長ら党幹部が8日昼、党本部で臨時総裁選の方式などを巡って協議した。出席者によると、フルスペック方式で実施することに対し、異論は出なかったという。自民は9日に総務会と総裁選挙管理委員会を開き、正式に決定する見通しだ。
【参考】自民党総裁選の仕組み、国会議員票と党員票での争い…過半数なければ上位2人で決選投票
2024年9月26日 読売新聞
岸田首相の自民党総裁任期満了に伴う総裁選が「9月12日告示、27日投開票」の日程で実施されます。総裁選の仕組みを紹介します。(デジタル編集部)
日程
9月12日(木) 告示
26日(木) 党員投票締め切り
27日(金) 党員票開票、国会議員票投開票
30日(月) 党総裁任期満了
岸田首相の任期は9月30日まで
自民党本部に掲げられた総裁選の垂れ幕(東京都千代田区で)
総裁選は党則が定める3年の任期満了時に行われます。岸田首相の総裁任期は、今年9月30日までです。党則では「任期満了前の10日以内に投票を行い、投票日の12日前までに告示する」と規定されており、党総裁選挙管理委員会が日程を決めました。
総裁選は自民党本部で行われます。今回の総裁選では、立候補者は推薦人が必要となった1972年以降、過去最多の9人となりました。派閥の締め付けが和らいだことが一因で、選挙戦では党員票の重要性が高まるとの指摘が出ています。
立候補には推薦人20人が必要
自民党総裁選に立候補できるのは党所属の国会議員で、推薦人として国会議員20人を党内で確保しなければなりません。推薦人は1955年の結党時には不要でしたが、候補が乱立する総裁選が相次ぎ、1971年に推薦人10人という要件が設けられました。
推薦人の要件は1977年に20人、中曽根内閣が誕生した1982年には50人に引き上げられました。その後、派閥横断的なグループなどからも出馬しやすくするため、徐々に要件が緩められました。2002年に20人となり、現在に至っています。それでも、推薦人が集まらずに出馬を断念するケースは少なくありません。
党員票は「ドント方式」で配分
投票は、1人1票を持つ国会議員票(衆参両院議長を除く)と、党員・党友による地方票(党員票)の合計数で争います。自民党所属の国会議員は368人です。党員票は国会議員票と同数になるよう換算します。党員票の投票は9月26日に締め切り、全国集計した得票数を「ドント方式」で各候補に配分します。国会議員票と合計して有効票の過半数を獲得した候補が選ばれます。
3人以上の候補が争い、1回目の投票で過半数を得た候補がいなかった場合、上位2人による決選投票になります。決選投票では、国会議員票は1回目と同じ1人1票の368票ですが、党員票は都道府県に1票ずつの47票です。上位2人の党員票を都道府県ごとに比べて、得票が多かった候補が1票を獲得します。今回決戦投票が行われた場合、議員票と党員票を合わせた415票で争うことになります。
地方票は1978年の総裁選で本格導入され、2013、14年の総裁公選規程の改正で国会議員票と同数になりました。2012年の総裁選で石破茂氏が党員票の55%を獲得しましたが、議員票との合計で過半数に届かず、議員票のみの決選投票で安倍元首相が逆転しました。都道府県連などから「地方軽視だ」と不満の声が上がり、地方の意向をより反映させることになりました。
「政治とカネ」問題ふまえ禁止事項
今回の総裁選では、岸田首相は総裁選不出馬の理由として自民党派閥の政治資金規正法違反事件を挙げました。「政治とカネ」の問題を踏まえ、総裁選の選挙運動に関する禁止事項が決まりました。党員に自動音声で支持を求める電話かけなど8項目に上り、陣営ごとに多額の費用がかかっていた選挙運動のあり方を見直しました。
抗議活動続くネパール オリ首相が辞任 混乱収まるか情勢不透明
2025年9月9日 NHK
ネパールでは、政府がSNSを利用できなくする措置をとったことをきっかけにした抗議活動が続くなか、オリ首相が辞任しました。ただ、地元メディアはオリ首相の自宅に火が放たれたほか、連邦議会の警備に軍が投入されたと報じていて、混乱が収まるのかは不透明な情勢です。
ネパールでは、政府がサイバー犯罪対策などを理由にフェイスブックなどのSNSを使えなくする措置をとったことをきっかけに、8日、各地で抗議デモが行われ、主要メディアによりますと一部が警察と衝突するなどして19人が死亡したほか、300人以上がけがをしました。
9日も、朝から外出禁止令が出されているにもかかわらず、多くの人が街の中で抗議活動を続けていて、9日午後、政府はオリ首相が辞任したと発表しました。
オリ首相は声明で「現在の状況を考慮し、政治的解決への道を開くためだ」と説明しています。
政府は8日、緊急の閣議を開いてSNSを使えなくする措置を撤回しましたが、主要メディアは9日、オリ首相の自宅に火が放たれたほか、連邦議会の警備に軍が投入されたと報じるなど、混乱が収まるのかは不透明な情勢です。
ネパールの在留邦人はおよそ400人
ネパールの首都カトマンズにある日本大使館によりますと、ネパールにはおよそ400人の在留邦人がいます。
またJETRO=日本貿易振興機構によりますと、観光やレストランといったサービス業や建設業など35社の日本企業が進出していて、日本は長年、インフラ整備などを支援してきました。
若者を中心に日本語学校で学ぶ人も多くいて、出入国在留管理庁によりますと去年末時点で、日本に滞在するネパール人は23万人を超えています。
カトマンズの国際空港を閉鎖
ネパールの航空当局は9日午後2時半、日本時間の午後5時45分、首都カトマンズにある国際空港を閉鎖したと発表しました。
空港周辺の複数の場所で煙が上がっているのが確認され、安全上、重大なリスクがあるとしています。
空港のホームページでは旅客機の発着予定時間などが表示されなくなり、すべての便の運航を見合わせているとみられます。
複数の建物から黒い煙
ネパールの首都カトマンズで、9日午後3時すぎ、日本時間の午後6時すぎに建物の屋上から撮影された映像では、中心部のホテルが建ち並ぶ地域などで複数の高層の建物から黒い煙が上がっているのが確認できます。
周辺にはヘリコプターが旋回している様子も確認できます。
映像を撮影した旅行会社のネパール人スタッフによりますと、この映像が撮影される直前にオリ首相の辞任が発表されたということですが、そのあとも街ではデモ活動が続いていて、騒然としているということです。
静岡 伊東市長が市議会を解散 来月20日までに市議選へ
2025年9月10日 NHK
学歴詐称の疑いが指摘され、市議会で不信任の議決を受けた静岡県伊東市の田久保真紀市長は10日午前、市議会を解散しました。40日以内に市議会議員選挙が行われることになります。
目次
田久保市長「議会は審議を放棄 広く市民に信を問うべき」
市幹部に会議で説明 企画部長「新年度予算編成など懸念」
伊東市では、田久保市長の学歴詐称の疑いをめぐって市政の混乱が続いていて今月1日、市長に対する不信任決議案が定例市議会で全会一致で可決されました。
これを受けて市長は、地方自治法の規定に基づき、11日までに議会を解散するか、辞職・失職するかを選択することになっていましたが、田久保市長は10日午前10時ごろ、市議会を解散する通知を議長に提出しました。
市長は「地方自治法の規定に基づき令和7年9月10日に議会を解散するため通知をいたします」と書面を読み上げたあと議長に手渡し、部屋から出ました。
議会は10日付けで解散され、40日以内に市議会議員選挙が行われることになりました。
市の選挙管理委員会は11日、選挙の告示日や投開票の日程を決めることにしています。
選挙管理委員会によりますと、選挙は公職選挙法の規定に基づいて40日以内に行われ、期限は来月20日だということです。市によりますと、市議会議員選挙には少なくとも4500万円ほどの費用がかかるということです。
選挙後の新たな議会で、再び不信任決議案が出される可能性があります。
地方自治法には、解散後、初めての議会で3分の2以上の議員が出席し、過半数の議員が賛成して不信任決議案が可決された場合は、市長が失職するという規定があります。その場合、市長が失職してから50日以内に市長選挙が行われます。
田久保市長は市議会の百条委員会に対して証人尋問への出頭や卒業証書とされる書類の提出を拒否し、市議会から地方自治法違反の疑いで刑事告発されているほか、卒業証書とされる書類を市議会の議長らに見せたことについても偽造有印私文書行使の疑いがあるとして警察に告発状が提出されています。
田久保市長「議会は審議を放棄 広く市民に信を問うべき」
市議会を解散したあと伊東市の田久保市長は報道各社の取材に応じ、「9月の定例市議会の初日に不信任決議案が可決されたので、その後の審議はストップし、現在は、議会は行われておりません。定例市議会は昨年度の事業の総決算を行う大変重要な議会で、補正予算案も審議を待つだけの状況でした。これらの重要な案件が無事に審議されたあとの最終日に私の不信任決議案を決議するという結論に議会が至らなかったことに関しては非常に残念な思いであると言わざるを得ません。よって本日、議会を解散するという結論をもって議長に報告にあがりました」と述べました。
そして「議会から私への退陣要求があることは重々承知をしていますし、その責も重く受け止めておりますが、今、この状況を鑑みて、市政や市民生活において大変重要な議会の審議や採決が、議会初日で放棄されてしまったことは事実として冷静に受け止め、これは改めて広く市民に信を問うべきであると考えました」と述べました。
また「議会の最後の段階で不信任決議案が出た場合は違った選択肢もあったのではないかと考えております。解散、辞職という2つの選択肢があり、当初から結論ありきで進めていたわけではございません。9月議会の様子を見ながら決断をしたいと考えておりました」と述べました。
今後行われる市議会議員選挙をめぐり、自身を支持する候補者を擁立するつもりかと質問されたのに対しては「私に対して常にイエスマンである議会であってはならないと思っておりますが、今の状況を鑑みまして、もっといろんな議論や結論があってしかるべしという風に考えており、そういった意味での新しい力に期待をしております」と述べました。
中島弘道 前議長「大義なき解散 時間とお金のむだ」
市議会が解散されたことを受けて伊東市議会の中島弘道前議長は「この大義なき解散について本当に今、私どもには怒りしかありません。本当に時間とお金のむだだなとつくづく思います。市政の停滞はこのまま続き、市民の皆様には引き続きご心配とご迷惑をおかけすることとなります。私たちは伊東の明るい未来のために、これからも戦い続けたいと思います」と述べました。
青木敬博 前副議長「市民よりも自分ファーストという印象」
青木敬博前副議長は「たった1人のために6万4000人の市民が苦労したり不安になったり、いろいろな思いをすることは許されないことです。来年度の当初予算の編成が間に合わないかもしれず、6万4000人の市民生活よりも、皆さんが汗水流して働いて稼いだ4500万円というお金を使って選挙を行うということで、市民ファーストよりも自分ファーストなんだなという印象です」と述べました。
市幹部に会議で説明 企画部長「新年度予算編成など懸念」
議会を解散したあと田久保市長は市の幹部職員との臨時の会議に出席し、今回の判断について説明したということです。
会議のあと近持剛史企画部長ら3人が報道各社の取材に応じました。
このうち近持部長は「市長の説明に対して職員から多少意見はあったが、政治的な判断なのでコメントは差し控えたい。議会が解散されたので市民サービスが滞らないように全庁的に連携して対応していきたい」と述べました。
その上で、今月5日の台風15号の被害に対応するための必要な予算については、議会の議決を経ずに専決処分で執行することを明らかにした一方、議会が解散された影響について「政策的な予算は専決処分ではできないので、新年度の当初予算の編成などが最も懸念される」と述べました。
一方、田久保市長は10日、報道各社の取材に対して、不在が続いている教育長をめぐり「人事案を議会の最終日の審議に間に合わせるべく調整を進めてきた」などと言及した上で、「議会初日に不信任が議決され審議が放棄されてしまった」と述べました。
伊東市教育委員会の西川豪紀教育部長は、「数人に教育長の就任をお願いしてきたが、このような市政が混乱している中でなかなか受けてもらえることができなかった状況だ。受けてもらえそうな人には依頼に行くことを考えていたが、現状としてどなたに教育長に就いてもらえるかということは全く決まっていない」と述べました。
市民「お金の使い方残念」「市をよくしたい気持ち同じ」
田久保市長が議会を解散したことについて、伊東市内ではさまざまな声が聞かれました。
30代女性
「本来はしなくてもいい選挙をもう一度しないといけないのはお金の使い方としても残念です。しっかりと政策を見て議員を選びたいと思います」
旅館営む40代男性
「お客さんからも『伊東市をなんとかしてほしい』などと厳しい意見が多く、精神的にきついなと感じることがあります。市長も市議会も新しく生まれ変わってほしいです」
60代男性
「市民は市長の学歴についてあまり気にしていないと思います。市議会は解散を覚悟して不信任決議案を出したと思うので、全員がまた選挙で当選して、もう一度不信任決議案を出して、新しい市政を取り戻してほしいです」
50代男性
「市長を支持する人たちもそうでない人たちも、伊東市をよくしたいという気持ちは同じだと思います。そういう人たちが選挙で選ばれて、いま以上にいい伊東市になってほしいと思います」
伊東市役所に電話やメール相次ぐ 多くは批判的内容
田久保市長が市議会を解散したことを受けて、市役所には10日午後4時までにおよそ400件の電話やメールが寄せられたということです。市によりますと、その多くは市長に批判的な内容だということで、職員たちが電話への対応にあたっていました。
イギリスなどがパレスチナを国家承認 和平への機運高まるか
2025年9月22日 NHK
ガザ地区での人道危機が深刻化する中、イギリスなど4か国が相次いで、パレスチナを国家として承認しました。
ニューヨークでは今週、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」による和平を推進する会議が開かれる予定で、主要国が国家承認に踏み切ったことで、和平への機運が高まるかどうかが注目されます。
イギリスのスターマー首相は21日、ビデオ声明で、パレスチナを国家として承認すると発表しました。
スターマー首相は、イスラム組織ハマスに対してはテロ組織だと非難する一方、イスラエルはガザ地区への攻撃を停止すべきだとして「2国家共存の希望は薄れつつあるが、その光を消してはならない」と強調しました。
また、カナダとオーストラリア、そしてポルトガルもパレスチナを国家として承認しました。
パレスチナの国家承認はおよそ150か国が行っていますが、G7=主要7か国では、イギリスとカナダが初めてです。
4か国としては、ガザ地区での停戦や長期的な和平に向けた機運を高めるとともに、イスラエルに圧力をかけるねらいもあるとみられます。
ニューヨークの国連本部では22日、フランスとサウジアラビアが主導して、イスラエルとパレスチナとの「2国家共存」による和平を推進する会議が開かれます。
イスラエルはパレスチナの国家承認に反発していますが、パレスチナ側によりますと、会議に合わせて新たに承認する国はイギリスなどを含めておよそ10か国にのぼる見通しで和平への機運が高まるかどうかが注目されます。
アッバス議長「『2国家解決』実現に向けた道切り開く」
イギリス、カナダ、オーストラリアがパレスチナを国家として承認したことについて、パレスチナ暫定自治政府のアッバス議長は21日、声明で「パレスチナの人々の自決権や自由、独立を認めることは、パレスチナとイスラエルが国家として共存する『2国家解決』の実現に向けた道を切り開く」として歓迎しました。
その一方で、いま優先することとして、ガザ地区での停戦や人道支援物資の搬入、イスラエル軍の完全な撤退のほか、ヨルダン川西岸でのイスラエルによる入植活動の終了などを挙げました。
イスラエル首相「パレスチナ国家が樹立されることはない」
イギリス、カナダ、オーストラリアが、パレスチナを国家として承認したことについて、イスラエルのネタニヤフ首相は21日、ビデオ声明を発表し、「イスラム組織ハマスのテロ行為に大きな報酬を与えている」と述べて、強く反発しました。
そして、「ヨルダン川西岸にパレスチナ国家が樹立されることはない」と強調したうえで、各国がパレスチナを国家承認する動きにどう対応するかは近く明らかにするとしています。
中国 李強首相 WTOでの“途上国”優遇措置を放棄すると表明
2025年9月24日 NHK
中国の李強首相はアメリカで開かれている国連総会の関連会合で演説し、WTO=世界貿易機関で途上国として受けている優遇措置を放棄すると表明しました。
アメリカとの対立が続く中、自由貿易体制を擁護する姿勢を強調することで、新興国や途上国への影響力を強めるねらいもあるものとみられます。
国連総会に出席するためアメリカを訪問している中国の李強首相は23日、関連会合で演説しました。
この中で李首相は「中国はWTOの現在および将来の交渉において新たな特別かつ異なる待遇を求めない」と述べ、WTOが途上国に対して適用している優遇措置を中国として放棄することを表明しました。
これについて中国商務省は、アメリカを念頭に「一部の国は貿易戦争や関税戦争をしかけWTO加盟国の正当な利益を損なっている」と非難したうえで「多国間の貿易体制を支持する中国の立場と大国としての責任を示したものだ」と主張しました。
アメリカは世界第2位の経済大国の中国が優遇措置を受けていることを問題視してきましたが、中国としては自発的にその待遇を放棄し、自由貿易体制を擁護する姿勢を強調することで、新興国や途上国などいわゆるグローバルサウスの国々への影響力を強めるねらいもあるものとみられます。
デジタル教科書、30年度にも 検定や無償配布対象に―中教審
2025年9月24日 教員採用試験対策サイト
【教育ニュース】中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)のワーキンググループ(WG)は9月24日、デジタル教科書を2030年度にも正式な教科書とすることが望ましいとする報告書案をまとめた。正式な教科書となった場合、紙の教科書と同様に検定や無償配布の対象となる。
文科省は、26年度までに必要な法改正を行い、実現を目指す方針。加えて、自治体の教科書採択の参考となるよう、デジタル教科書を学校現場で効果的に活用することが期待できる学習場面を整理した新たな指針をまとめる。
デジタル教科書、30年度にも 検定や無償配布対象に―中教審(時事ドットコム)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025092400465&g=soc
【参考】中央教育審議会 初等中等教育分科会 デジタル教科書推進ワーキンググループ(第12回)配付資料(文部科学省ホームページ)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/100/mext_00017.html
<1分で解説>トヨタ未来都市「ウーブン・シティ」開業 住民は?
2025年9月26日 NHK
トヨタ自動車が建設した次世代都市「ウーブン・シティ」(静岡県裾野市)が開業しました。街全体が実証実験場となり、参画企業と人工知能(AI)や自動運転、ロボットなどの新しい技術やサービスを開発します。1分で読めて役に立つ「サクッとニュース」、今回は「ウーブン・シティの開業」を解説します。
Q ウーブン・シティってどんな街なの?
A ウーブン・シティは、トヨタ自動車が静岡県裾野市に作った次世代の実験都市です。街全体が新しい技術を試す場所になっています。
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Q 街の名前の意味は何ですか。
A 「woven(ウーブン)」は「織り込まれた」という意味です。トヨタの源流企業である豊田自動織機に由来し、道が織り込まれた街という意味も込められています。
Q どれくらいの広さがあるの?
A 全体の敷地面積は約30万平方メートルです。今回開業した第1期エリアは約5万平方メートルで、14棟の建物があります。
Q 誰が住んでいるの?
A 第1期エリアには、25日からトヨタ関係者の数世帯が入居を始めました。最終的には約300人が住む予定です。
Q トヨタ自動車のトップはなんと言っているの?
A 豊田章男会長は「(ウーブン・シティは)未来のためのテストコースだ」と話しました。
外国籍の子8400人に不就学の可能性 小中学生相当、文科省調査
2025年10月2日 日本経済新聞
義務教育段階の年齢で国公私立の小中学校や外国人学校に通っていない不就学の外国籍の子どもが、2024年5月時点で1097人いることが2日、文部科学省の調査で分かった。19年の初回調査は630人、前回23年は970人だった。連絡が取れなかった子どもらを合わせた計8432人は「不就学の可能性がある」としている。この人数は前回から169人減った。
外国籍の子どもに就学義務はないが、国際人権規約などを踏まえ、公立小中学校では日本人と同様に無償で受け入れている。文科省は「子どもの学習権を保障するために就学が促進されるよう教育委員会にさらに周知していく」とした。
調査対象は全1741市区町村の住民基本台帳に登録されている外国籍の子どもで、74%に当たる1288自治体にいた。小学生相当は11万4792人、中学生相当が4万8566人の計16万3358人で、前回より1万2663人増えた。
多くの自治体は住民登録手続きの際に就学に関する説明をしている。就学状況が確認できない子や不就学の子のために、電話や訪問で就学を勧めたり、就学案内を継続的に送付したりする自治体も多い。〔共同〕
強制不妊、国会が初検証開始 差別半世紀の解明焦点
2025年10月1日 東京新聞
旧優生保護法(1948~96年)下での障害者に対する強制不妊手術や人工妊娠中絶を巡り、国会は1日、原因究明や再発防止に向けた検証を始めた。衆参両院から委託を受けた日弁連法務研究財団が第1回会議を開いた。国会による検証は初めて。期間は約3年を見込み、報告書をまとめる。旧法が半世紀近く存続した経緯や、差別に当たる条文が削除された際に謝罪や補償がなかった理由などを調べる。被害者らの高齢化が進む中、差別の実態にどこまで迫れるかが焦点だ。
検証会議の委員は被害当事者や法曹、学識者ら26人。検証会議の下に三つの分科会を設置し月に1回程度、非公開で開催する。手術に関する調査、原因や背景の分析、再発防止策の検討など役割を分担し作業を進める。
検証会議は第2回会合を今月27日に開催し、既に明らかになっている事実関係や経緯を確認。第3回以降に被害者らへのヒアリングを行う。自治体や医療機関に関係資料の提供を求めるほか、国会や関係省庁の関係者への聞き取りも想定。差別の解消と共生社会の実現を目指す。
イスラエルとハマス、ガザ和平案の第1段階に合意 トランプ氏と当事者が発表
2025年10月9日 BBC
アメリカのドナルド・トランプ大統領は8日、自身が提案したパレスチナ・ガザ地区をめぐる和平案の第1段階に、イスラエルとイスラム組織ハマスが合意したと発表した。エジプトやカタールなどの仲介役はこの日、ガザ停戦や人質解放に向けて7時間にわたり交渉したという。イスラエルとハマス、仲介役も合意を認めた。
トランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に、「イスラエルとハマスが我々が提案した和平計画の第1段階に合意した」と投稿した。
さらに、「これにより、すべての人質が間もなく解放され、イスラエルは合意された(撤退)ラインまで部隊を撤退させることになる。これは強固で耐久性のある永続的な平和への第一歩だ。すべての当事者は公平に扱われる!」とし、こう続けた。
「アラブ地域やイスラム圏、イスラエル、周辺諸国、そしてアメリカ合衆国にとって素晴らしい日だ。この歴史的かつ前例のない出来事を実現するために協力してくれたカタール、エジプト、トルコの仲介者たちに感謝する。ピースメーカー(平和を作る人)は幸いである!」
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ガザでは、2023年10月7日にイスラエルを襲撃したハマスへの報復として、イスラエルが直後から軍事作戦を続けてきた。ハマスによるイスラエル襲撃では、約1200人が殺害され、251人が人質に取られた。
ハマスが運営するガザ保健当局によると、これまでのイスラエルの軍事作戦で6万7183人が殺害されている。うち2万179人は子どもだという。
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動画説明,ガザ住民ら歓喜、「戦争と流血を止めようとしてくれた」人々に感謝 和平案の第1段階合意
イスラエル首相「素晴らしい日」
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「神の助けによって、すべての人質を連れ戻す」とする声明を出した。
ネタニヤフ氏は別の声明で、イスラエルとハマスがガザ和平案の第1段階に合意したことについて、「イスラエルにとって素晴らしい日」だとした。
また、9日に今回の合意の正式承認に向けた政府の会合を開き、「我々の大切な人質全員を連れ戻す」とした。
そして、「人質解放という神聖な使命のために動いた」として、イスラエル軍、トランプ氏、トランプ政権のチームに感謝を表明した。
イスラエル首相府の声明によると、ネタニヤフ氏は合意後にトランプ氏と電話で協議した。「非常に感動的で温かい会話をし、人質全員の解放で合意するという歴史的成果を祝福し合った」という。
ネタニヤフ氏はトランプ氏の「あらゆる努力と国際的リーダーシップ」に感謝し、トランプ氏もネタニヤフ氏の「揺るぎないリーダーシップと行動」に謝意を示したという。
声明には、「両首脳が緊密な協力関係を継続することで合意」し、トランプ氏がイスラエル議会での演説に招待されたとも書かれている。
ハマスは「戦争が終結する」
ハマスも声明で、ガザ戦争終結に向けた合意に達したと発表した。トランプ氏や関係国に対し、イスラエルに合意を完全に履行させるよう求めている。
ハマスはこの合意で「ガザでの戦争が集結し、占領軍の完全撤退が確保され、人道援助の流入が認められ、囚人交換が実施される」ことになると説明したと、BBCがアメリカで提携するCBSは伝えた。
ハマスはまた、カタール、エジプト、トルコ、トランプ氏の仲介努力に謝意を伝えるとともに、「イスラエル占領政府に合意条件を完全に履行させるよう」求めている。
ガザの人々は「比類なき勇気や誇り、勇敢さを示してきた」とも、ハマスは付け加えた。
そして、「我々は自由、独立、自己決定が達成されるまで、我々の民族の国家的権利を決して放棄しない」とした。
夜の通りで人々が輪になって笑顔で手をたたくなどしている。肩車されて両手を広げている人もいる画像提供,Reuters
画像説明,合意が発表されると、パレスチナの人々も通りで喜びを表現した
仲介国も合意達成を発表
交渉を仲介したカタールの外務省も、イスラエルとハマスがガザ和平案の第1段階に合意したことを認めた。
同省報道官は、「仲介者たちは今夜、ガザ停戦合意の第1段階に関するすべての条件と実施メカニズムについて合意に達したことを発表する。これにより、戦争終結、イスラエル人人質とパレスチナ人囚人の解放、(ガザへの)援助物資の搬入が実現することになる」とソーシャルメディアに投稿した。
これ以上の詳細については、後日発表されるとした。
広い部屋の中に長机が置かれ、カタールやエジプト、イスラエルなどの代表団が並んで座っている画像提供,Rushdi Abualouf / BBC News
画像説明,ガザ和平案をめぐる交渉は、エジプトのシャルム・エル・シェイクで非公開で行われた。画像は3日目の交渉に臨むカタールやエジプト、イスラエルなどの代表団
長机に向かう代表団画像提供,Rushdi Abualouf / BBC News
画像説明,パレスチナ側の代表団
各地域の代表団が握手を交わしている画像提供,Rushdi Abualouf / BBC News
画像説明,各代表団が握手を交わした
今後の展開は
ホワイトハウスの高官がCBSに語ったところによると、イスラエルは9日の閣議で、ガザ和平案の第1段階への合意について協議する。
正式承認されれば、イスラエルはガザにいる部隊を、合意された撤退ラインまで後退させなければならない。この高官によると、この撤退は24時間以内に完了する見込み。
人質解放は、撤退から72時間以内に開始されることになっている。
ホワイトハウスの高官は、ハマスに拘束されている人質の解放が13日から始まるとの見方を示しつつ、「ハマスは可能であれば、それ以前に開始するかもしれない」と付け加えた。
BBCのラシュディ・アブアルーフ・ガザ特派員は、パレスチナ高官の話として、イスラエルが9日午後2時ごろに合意を正式承認すれば、停戦は即時発効されると報告。
イスラエルは最初の5日間で、1日400台の援助トラックがガザに入ることを認め、その後は段階的に数を増やすという。
パレスチナ高官によると、トランプ氏が提案したガザ和平案に基づくイスラエル軍の撤退予想図に書かれた、人質解放に伴う第1弾の後退の位置を示す「黄色い線」は、イスラエルの安全保障上の要件と、ハマスに確実に人質を解放させる必要性を考慮して、位置が調整されたという。
また、ハマスが強く求めていたパレスチナ高官マルワン・バルグーティ氏の釈放については、イスラエル側が拒否したという。
ホワイトハウスが9月29日に発表した、トランプ案に基づくイスラエル軍の撤退予想図。「トランプ:戦争終結」と題されている。青い線がイスラエル軍の現在の位置を示し、黄色い線が人質解放に伴う第一弾の後退の位置を示す。赤線は、国際安定化部隊(ISF)が動員された時点で、イスラエル軍がさらに後退する位置を示す画像提供,米ホワイトハウス
画像説明,ホワイトハウスが9月29日に発表した、トランプ案に基づくイスラエル軍の撤退予想図。「トランプ:戦争終結」と題されている。青い線がイスラエル軍の現在の位置を示し、黄色い線が人質解放に伴う第一弾の後退の位置を示す。赤線は、国際安定化部隊(ISF)が動員された時点で、イスラエル軍がさらに後退する位置を示す
こうした中、パレスチナの情報筋は、イスラエル人人質と引き換えに釈放される予定のパレスチナ人囚人の最終リストを、ハマスがまだ受け取っていないと、アブアルーフ特派員に話した。
この情報筋によると、ハマスが釈放を求めている一部の人物の身元をめぐり、イスラエル国内で圧力が高まっていることが、リスト公開の遅れにつながっているという。数時間以内にこの問題を解決するための努力が続けられていると、情報筋は付け加えた。
今回の合意でイスラエルは、パレスチナ人囚人250人と、今回の戦争が始まった2023年10月7日以降に拘束している1700人を釈放する。
イスラエル紙ハアレツも、イスラエルの情報筋の話として、合意では、釈放されるパレスチナ人囚人の名前は明らかにされていないと報じている。
BBCのヒューゴ・バシェーガ中東特派員は、トランプ氏がガザをめぐる交渉に自ら関与し、ハマスだけでなくイスラエルにも合意を迫ったことで、交渉が進展したと報告。
ただし、今回の合意で、2年におよぶガザ戦争の終結への期待は高まっているものの、戦後のガザ統治や、武装解除を含むハマスの将来など、重要な詳細はまだ協議が必要なままだと、バチェガ特派員は指摘した。
トランプ氏、第1段階後にガザが「再建される」
トランプ氏は合意発表後に米FOXニュースの電話インタビューに応じた。その中で、ガザ和平案の第1段階の完了後に、「みんなが仲良くなり、ガザが再建されるだろう」と主張。「全く違う世界」になり、「ガザには富がもたらされる」だろうと語った。
また、「中東が一つになったと思う」とも発言。
「ガザはもっと安全な場所になると、我々は信じている。復興を遂げる場所になるだろう。周辺諸国が復興を支援するだろう。これらの国々は巨万の富を持ち、その実現を望んでいるからだ」とした。
そして、「中東に平和が訪れると大いに確信している」と述べた。
国際社会の反応
トランプ氏はFOXニュースの電話インタビューの中で、イランはあと1カ月くらいで核兵器を手に入れるところだったと発言。そうなっていれば、ガザ和平計画に悪影響を及ぼす可能性があったとし、こう述べた。
「私がそうなるのを許していたら、合意は実現しなかっただろう。仮に実現したとしても、核兵器を保有する、明らかに友好的ではない国が存在することで、合意に暗い影を落としていただろう」
「ご覧の通り、彼ら(イラン)はこの合意を祝福している」
「私は、イランがこの和平プロセスに関与することになると考えている」
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、国連が合意の「完全な履行」を支援し、人道援助の供給拡大とガザの復興を推進すると表明した。
また、すべての当事者に対し、人質の解放、恒久的な停戦の順守、人道物資の即時搬入を実現するよう求めた。
「この苦しみは終わらせなければならない」とグテーレス氏は述べた。
「すべての関係者がこの重大な機会をいかし、占領の終結やパレスチナ人の自己決定権の承認、そしてイスラエル人とパレスチナ人が平和と安全の中で共存できる2国家解決に向けた信頼できる政治的道筋をつけることを求める」
オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相は今回の合意を歓迎。「2年以上にわたる紛争、人質の拘束、そして甚大な民間人の犠牲を経て実現した、平和に向けた待望の一歩だ」と声明で述べた。
「我々は、すべての当事者が合意条件を尊重することを求める」
アルバニージー氏は、トランプ氏の「外交努力」と、交渉を仲介したエジプト、カタール、トルコに感謝の意を表明した。
また、オーストラリアは、ガザの将来においてハマスが役割を担うことを認めないという和平案の取り組みを支持するとした。
「ガザの復興や長期的な平和の確保、パレスチナ国家の樹立の道のりは、非常に長い」ものになるだろうと、アルバニージー氏は付け加えた。
イギリスのキア・スターマー首相は声明で、「トランプ大統領のガザ和平計画の第1段階について合意に達したという知らせを歓迎する」と述べた。
「世界中が心から安堵(あんど)する瞬間が訪れた。人質とその家族、そしてこの2年間に想像を絶する苦しみに耐えてきたガザの民間人にとっては、なおさらだ」
スターマー氏は、「この重要な第一歩を実現するために支援してくれた、エジプト、カタール、トルコ、そしてアメリカによる不断の外交努力に感謝する。この合意は遅延なく完全に履行されなけれならない。ガザへの救命を目的とした人道援助に対する制限の即時解除を伴うものでなければならない」とも声明で述べた。
「我々はすべての当事者に対し、自らが交わした約束を守り、戦争を終わらせ、紛争の公正かつ永続的な終結と長期的な和平に向けた持続的な道筋のための基盤を構築するよう求める。イギリスは和平計画の完全な履行を確保するため、これらの重要な即時の措置と、交渉の次の段階を支援する」
トランプ氏、自分を批判するテレビ局は免許取り上げられるべきかもしれないと 人気トーク番組の放送中止で
2025年9月19日 BBC
アメリカのドナルド・トランプ大統領は18日、自分に批判的な内容ばかり放送するテレビ局は放送免許を取り上げられるべきかもしれないと発言した。イギリス国賓訪問から帰国する大統領専用機の機内で、記者団に話した。
米ディズニー傘下のABCテレビは17日、人気の深夜トーク番組「ジミー・キメル・ライブ!」の放送を無期限で休止すると発表。右派活動家チャーリー・カーク氏の銃撃事件をめぐるキメル氏の発言を受けての決定とされている。トランプ大統領はABCの発表直後に、その決定を歓迎した。
これについて帰国の機内で記者団に質問されたトランプ氏は、かねて自分に批判的なキメル氏を「才能がなかった」、「視聴率はもっと低かった」などと繰り返し酷評した上で、「ネットワーク局が夜の番組を持っていて、そこではひたすらトランプをたたいている。それしかしない」、「免許を受けているのに。そんなことは許されない。民主党の手先なんだ」などと述べた。
さらに、「どこかで読んだが、ネットワーク局は97%、私に反対で私に否定的で、それでも私は(昨年の大統領選で)激戦州7州全部を簡単に勝った。全体の票数も。全部勝った」のだとトランプ氏は述べ、「(主要ネットワーク局が)私に97%反対していて、私について悪いことを広めるだけなら、免許を与えられているのに、もしかしたらその局の免許は取り上げられるべきじゃないかと思う」と述べた。
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動画説明,自分の批判ばかりするテレビ局の免許は……トランプ米大統領が不満述べる
「公共の利益」と放送免許
カーク氏が9月10日、ユタ州の大学で開催されたイベント中に銃撃されて死亡した事件では、タイラー・ロビンソン容疑者(22)が11日に逮捕され、殺人罪などで訴追された。
キメル氏は事件当日、インスタグラムで事件を非難し、カーク氏の家族に「愛」を送ると投稿していた。
キメル氏はその後、15日の放送で、「MAGA(アメリカを再び偉大にしよう)の連中は必死になって、チャーリー・カークを殺した子供が、自分たちとは全く違うと見せかけようとしているし、この事件から何としても政治的な得点を稼ごうと、できる限りのことをしている」と発言した。
キメル氏は続けて、カーク氏追悼のため半旗を掲げる動きがアメリカ国内で広がっていることや、トランプ大統領の反応を批判。「これは友人の殺害を悼む大人の態度じゃない。これは金魚をなくして悲しむ4歳児の反応だ」と述べていた。
こうした発言について、連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長は、「これ以上あり得ないほど不快なふるまい」だったと非難し、ABCの親会社ディズニーに対応を呼びかけていた。
トランプ大統領に指名されてFCC委員長に就任しているカー氏は、「(放送局は)FCCから放送免許を与えられている。免許を受けるからには、公共の利益に資する運営が義務付けられている」と保守系ポッドキャスト番組で述べた。また、キメル氏が謝罪することが、「最低限の合理的な対応だ」とも話した。
カー委員長はさらに18日、FOXニュースのインタビューで、キメル氏の番組中止で「一件落着ではない」と発言。「我々は引き続き、放送局が公共の利益にかなう行動をとるよう、その責任を問い続ける。この簡単な解決法が気に入らないなら、放送局は免許を返上することもできる」と述べた。
FCCはABCのような主要ネットワークや系列局に対して規制権限を持つが、ケーブル局やポッドキャスト、ストリーミングコンテンツには権限が及ばない。
法律の専門家たちは、FCCが政治的見解を理由に放送免許を剥奪することは、表現の自由を保障する合衆国憲法修正第1条に基づき、法的に認められないはずだと指摘する。
2015年から2021年にかけてキメル氏の番組の構成作家だったジョー・ストラズロ氏は、構成作家たちが動揺しているとBBCに話した。
「みんな職を失うかもしれない状態で、見ていてつらい。彼らと連絡をとってみたが、いったい何が起きているのか誰もまだ正確にわかっていない。舞台裏で調整が続いている」のだという。
ABCがキメル氏の番組を無期限に放送休止にすると発表したのは、アメリカ最大級のテレビ局運営会社ネクスター・メディアが「当面放送しない」と発表した直後のことだった。ネクスターは、カーク氏殺害に関するキメル氏の発言が、「国家的政治対話の重要な時期において、攻撃的かつ無神経なもの」だと批判。同社のアンドリュー・アルフォード社長は、キメル氏の発言が「私たちが拠点とする地域社会の、さまざまな意見や見解や価値観を反映するものだとは思わない」と述べていた。
FCCのカー委員長は、ネクスターが「正しいことをした」と感謝し、他の放送局にも同様の対応を期待すると述べた。ネクスターは現在、テグナ社との62億ドル規模の合併に向けてFCCの承認を求めている。
ABC系列局最大手のシンクレアも、キメル氏の19日の放送枠でカーク氏を追悼する特別番組を放送すると発表している。
一方、FCC唯一の民主党員アナ・ゴメス氏は、カー委員長の発言を批判。「異常な状態にある1人の人間による許しがたい政治的暴力を利用して、幅広い検閲や統制を正当化するなど決してあってはならない」とソーシャルメディア「X」に投稿した。
他の深夜トーク番組がキメル氏支援
キメル氏の番組放送中止には、複数の俳優や脚本家、バラク・オバマ元大統領を含む民主党関係者らが反発している。
オバマ氏は、今回の事態がいわゆる「キャンセル・カルチャー」を危険なレベルに引き上げる、新局面だと警告。
「キャンセル・カルチャーについて何年も文句を言い続けた挙げ句、現在の政権は繰り返し、気に入らない記者やコメンテーターを黙らせるよう規制措置をとるぞとメディア企業を脅迫し続けることで、キャンセル・カルチャーを新しい危険なレベルにまで引き上げた」とソーシャルメディア「X」に投稿した。
俳優ベン・スティラー氏は「正しくないことだ」とコメント。コメディー・シリーズ「ハックス」でエミー賞の主演女優賞を得たばかりのジーン・スマート氏も「番組打ち切りはとんでもない」、「ジミーが話した内容は、自由な表現であって憎悪表現ではなかった」と強調した。
18日夜には、CBSのスティーヴン・コルベア氏など他局の深夜番組司会者がこぞってキメル氏を支持。かねてトランプ氏に批判的なコルベア氏は、「これは露骨な検閲だ。独裁者相手に、一歩も譲ってはならない」と力説した。
米パラマウント傘下のCBSは今年7月、深夜トーク番組「レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア」を来年終了すると発表している。
パラマウント傘下ケーブル局コメディー・セントラルの深夜コメディー番組「ザ・デイリー・ショー」では18日、通常のスケジュールを変更し、看板司会者ジョン・スチュワート氏が「みなさんの愛国的で従順な司会者」としてファンファーレと共に紹介されて登板した。
通常のセットをわざとトランプ政権のホワイトハウス執務室に似せた白と金の装飾に変え、画面を金縁で囲み、「全く新しい、政府公認のデイリー・ショーです」という宣言と共に、「政権に従順」な番組を披露した。スチュワート氏は、トランプ氏が身に着けることが多い濃紺のスーツと赤いネクタイと星条旗のピンバッジという姿で、トランプ氏を「偉大なるお父様」「親愛なる指導者」「太陽神」と呼ぶなどした。
自分の皮肉に収録スタジオの観客が笑ったり、トランプ氏の発言をブーイングしたりするたびに、「黙れ、勘弁してくれよ!」などと慌てる演技もした。
スチュワート氏はさらに、「この政権が表現の自由を気にしているふりをしているのは(中略)前例のない権力の集約と威圧を隠ぺいする冷笑的な策略にすぎないという意見もある」、「そういう人もいる。でも僕は違うよ。最高だと思う」と皮肉った。
他の出演者たちも同じ濃紺のスーツと星条旗のピンバッジ、赤いネクタイの姿で、トランプ氏が刑務所に収監された際の写真を貼ったマイクを手に並んだ。そのうちの1人が、ピンクのネクタイだと周りから責められると、「赤いネクタイ、これしか持っていないんだ」、「大丈夫だ、独裁者は幼児みたいにほめそやせばいいんだ」というやりとりをした。
政権が表現の自由を封殺していると思うかとスチュワート氏に聞かれると、他の出演者たちは一斉に「そんなことないよ、ジョン。アメリカ人は何でも自由に意見を言える。それ以外の可能性を言うなんて笑える。ははは」と、無表情で棒読みのように声をそろえた。さらに、トランプ氏を「礼賛」する歌をぎこちなく歌った。
キメル氏の番組降板について、ハリウッドの全米脚本家組合(WGA)は、「憲法で保障された言論の自由の侵害」だと非難し、「この建国の根本的真理を忘れた政府関係者は恥を知るべきだ」と声明を発表。俳優組合SAG-AFTRAも、ABCの措置は「すべての人の自由を危険にさらすような、抑圧と報復だ」と述べている。
発言への責任との意見も
一方で、この事態はキャンセル・カルチャーではなく、自分の発言についてどう責任をとるかという話だとする意見もある。
メディア企業バーストゥール・スポーツ創設者のデイヴ・ポートノイ氏は、「多くの人が不快で無礼でばかだと思う発言を生放送でして、それで処分されても、それはキャンセル・カルチャーじゃない。それは自分の行動の責任をとらされているだけだ」と述べた。
FOXの深夜番組司会者グレッグ・ガットフェルド氏は、キメル氏が「わざとミスリードして」、カーク氏殺害の責任をカーク氏の「仲間や友人たち」に押し付けようとしたと批判した。
イギリスの司会者ピアーズ・モーガン氏は、キメル氏は「チャーリー・カークの殺害犯がMAGA(アメリカを再び偉大にしよう運動)支持者だとうそをついた」と主張。それで「アメリカ中が激怒するのは当然だ」として、「なぜ(キメル氏が)言論の自由の殉教者のように扱われているのか」と述べた。
アサヒビールへのサイバー攻撃、闇サイトにハッカー集団「Qilin」が犯行声明
2025年10月8日 読売新聞オンライン
他の各国企業も被害か
アサヒグループホールディングスが身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」による攻撃を受けた問題で、ハッカー集団が闇サイト上に同社に対する犯行声明を公開したことがわかった。財務文書、予算書、事業計画、従業員の個人情報などファイル9300件以上、27ギガ・バイト分のデータを盗んだとしている。
同社幹部は8日、読売新聞の取材に「(声明は)確認している。内容について事実確認を進めている」と述べた。
闇サイト上に公開された犯行声明(セキュリティー関係者提供)=画像は一部修整しています
複数のセキュリティー関係者によると、犯行声明は、盗んだ一部とみられるデータと共に7日夜に公開された。データには、同社の従業員の個人情報や内部文書とみられるファイルが含まれていた。身代金の有無や交渉期限などの情報は確認されていない。
アサヒGHDのシステム障害を巡る経緯
ランサムウェアに詳しい情報セキュリティー会社「S&J」(東京)の三輪信雄社長は「漏えいしたデータには顧客情報も含まれているおそれがある」と指摘。「個人情報の拡散は深刻な影響を及ぼす」として流出データをSNSなどで拡散しないよう呼びかけている。
アサヒは9月29日午前7時頃、ランサムウェアの攻撃を受け、システム障害が発生。今月3日には「情報漏えいの可能性を示す痕跡が見つかった」と発表した。漏えいした恐れのある情報の内容や範囲については「調査中」と説明している。
ふるさと納税が多額の大阪・泉佐野市、特別交付税の減額は「違法」…国の控訴を棄却
2025年10月9日 読売新聞オンライン
ふるさと納税制度で多額の寄付金を得たことを理由に、特別交付税を減額したのは違法だとして、大阪府泉佐野市が国に減額決定の取り消しを求めた差し戻し控訴審の判決が9日、大阪高裁であった。牧賢二裁判長は、減額を違法とし、国の決定を取り消した1審・大阪地裁判決を支持し、国の控訴を棄却した。
大阪高裁
市は2018年度、豪華な返礼品で全国1位の寄付金約497億円を集めた。総務省は19年12月、特別交付税の算定に寄付収入を考慮するよう省令を改正。市に割り当てられる19年度分を前年度比約4億4000万円減の約5300万円に引き下げた。市は20年6月、「国の対応は懲罰的だ」として、減額決定の取り消しを求めて提訴した。
22年3月の1審判決は、地方交付税法には特別交付税の税額を決める際の根拠となる項目に寄付収入が含まれていないことを踏まえ、省令改正による減額は法の想定する範囲を超え、違法と認定した。
国側は差し戻し控訴審で、「減額措置は、自治体間の適正な財源調整を図るという地方交付税法の趣旨に反していない」と主張していた。
訴訟を巡っては、高裁が23年5月の差し戻し前の判決で、「国と自治体の争いは行政内部で解決するのが基本で、訴訟を起こす権利は認められない」として市の訴えを却下した。最高裁は今年2月、「特別交付税を巡る争いは裁判の対象になる」との初判断を示し、高裁に審理を差し戻していた。
学部・修士の5年一貫教育を来年度にも制度化、大学院進学者増やし専門人材増やす狙い…文科省方針
2025年10月8日 読売新聞オンライン
文部科学省は、大学の学部と大学院修士課程の5年一貫教育を制度化する方針を固めた。早ければ今年度中に大学院設置基準などを改正し、2026年度からの運用開始を目指す。学部と修士で計6年の在学年数を1年短縮することで大学院進学者を増やし、国際的に通用する高い専門性を身につけた人材輩出につなげる狙いがある。
文部科学省
文科省は8日に開かれる中央教育審議会の部会で、学部・修士5年一貫教育の制度案を示し、具体的な検討に入る。
通常、学部は4年で卒業し、大学院では修士は2年、博士はさらに3年で修了する。制度案では、一貫教育は学部4年と修士1年の計5年とする。学部段階から修士の単位を先取りで履修することで修士を1年で修了するケースと、先取りせずに修士を1年で修了するケースのいずれかを大学が選ぶ。大学教育の質低下を招かないよう、大学が申請するカリキュラムを文科省が審査し、修士の短縮を認定する方向だ。
現行でも成績優秀など一定条件を満たした学生に限って、学部を3年で卒業したり、修士を1年で修了したりすることが認められている。
この仕組みを利用し、一橋大や慶応大など一部の大学では、成績が優秀な学生向けに学部・修士一貫教育プログラムを展開している。東京大も27年秋に開設予定の新学部「カレッジ・オブ・デザイン」で、学部4年と修士1年の5年一貫教育を計画している。
日本は欧米先進国に比べ修士号や博士号を持つ専門人材が少ない。学部卒業生のうち、大学院進学者は1割程度にとどまり、3割超の英国やフランスに大きく後れをとる。文科省は5年一貫教育の制度化で専門人材を増やし、国際競争力の向上につなげたい考えだ。
ノーベル生理学・医学賞、坂口志文氏ら3人に 免疫反応抑える「制御性T細胞」を発見
2025年10月7日 BBC
ジェイムズ・ギャラガー保健・科学担当編集委員
スウェーデンのカロリンスカ研究所は6日、2025年のノーベル生理学・医学賞を、大阪大学の坂口志文特任教授、米システム生物学研究所のメアリー・ブランコウ氏、米ソノマ・バイオセラピューティクスのフレッド・ラムズデル氏に授与すると発表した。3人は、免疫が細胞を区別し、外敵の病原体だけを攻撃する仕組みを解明した。
3人が発見した「制御性T細胞」は、免疫反応の暴走を抑える「警備役」ともいわれ、がん細胞の増殖や自己免疫疾患に関係している。これらの疾患の新たな治療法の開発に、3人の研究が活用されている。
授賞式は12月10日にストックホルムで開かれる。賞金の1100万スウェーデンクローナ(約1億7000万円)は3人で分け合う。
ノーベル委員会のオール・カンペ氏は、「彼らの発見は、免疫がどのように機能するのか、そしてなぜ私たち全員が深刻な自己免疫疾患を発症しないのかを理解する上で決定的なものだった」と述べた。
免疫は体内に侵入しようとする何千もの感染症の病原体から私たちを守る一方で、体の組織は傷つけない。そうした免疫機能を理解するうえで、3人の研究は極めて重要だ。
免疫は、感染の兆候を察知する白血球により、これまで遭遇したことのないウイルスや細菌をも見つけ出す。
こうした細胞には「受容体」と呼ばれるセンサーがあり、約1兆通りの組み合わせが無作為に作られる。
この特性が、多様な侵入者を攻撃できる能力につながっている。しかし、その無作為な特性ゆえに、自分の体をつくる細胞を攻撃する白血球が作られることもある。
こうした問題のある白血球の一部が、白血球が成熟する胸腺で破壊されることは、科学者の間ですでに知られている。
今年のノーベル生理学・医学賞が贈られる3人は、免疫の「警備役」ともいわれる制御性T細胞を発見したことが評価された。制御性T細胞には、体を攻撃するほかの免疫細胞を無力化する働きがある。
これが機能しなくなると、1型糖尿病や多発性硬化症、関節リウマチといった自己免疫疾患を発症する。
ノーベル委員会は、「これらの発見は新たな研究分野の基盤を築き、がんや自己免疫疾患などの新たな治療法の開発を促進した」と評価した。
がんの場合は、制御性T細胞が腫瘍に対する免疫反応を抑えてしまうため、制御性T細胞の数を減らすことに焦点を当てた研究が行われている。
自己免疫疾患については、制御性T細胞を増やすことで、自分の体が攻撃されないようにする臨床試験が進められている。臓器移植での拒絶反応のリスクを低減する手段としても応用が期待されている。
「目を見張るような」研究
日本の大阪大学の坂口特任教授は、マウスから胸腺を取り除いて自己免疫疾患を発症させ、ほかのマウスの免疫細胞を注入することで、この疾患を防げることを実証した。これは、免疫細胞が自分の体を攻撃するのを防ぐ仕組みが存在することを示している。
米シアトルのシステム生物学研究所のブランコウ氏と、サンフランシスコのソノマ・バイオセラピューティクスのラムズデル氏は、マウスと人間にみられる遺伝性自己免疫疾患について研究。これが、制御性T細胞の機能に重要な役割を果たす遺伝子の発見につながった。
英生理学会の会長を務めるアネット・ドルフィン教授は、「彼らの先駆的な研究は、制御性T細胞が免疫を制御し、誤って自分の体の組織を攻撃しないようにする仕組みを明らかにした」と述べた。
「これは、基礎的な生理学研究が人類の健康に広範な影響を与え得ることを示す、目を見張るような例だ」
ノーベル化学賞、北川進氏ら3人に 地球規模の問題解決に役立つ新素材を開発
2025年10月9日 BBC
スウェーデンの王立科学アカデミーは8日、ノーベル化学賞を、京都大学の北川進特別教授(74)、豪メルボルン大学のリチャード・ロブソン教授(88)、米カリフォルニア大バークリー校のオマー・M・ヤギー教授(60)の3人に贈ると発表した。それぞれの研究について、気候変動対策での二酸化炭素(CO2)回収や、化学を利用したプラスチック汚染の削減など、地球規模の大きな問題の解決につながる可能性があると評価した。
北川氏はスウェーデンでの授賞発表の記者会見に電話で参加し、「大変光栄でうれしく思います。ありがとうございます」と英語で心境を語った。いくつか質問を受けたあとには、「いつまでここにいなきゃいけないんでしょうか? 会合に出かけなければならないんです」と述べた。
授賞式は12月10日にストックホルムで行われる。賞金の1100万スウェーデンクローナ(約1億7000万円)を3人で分ける。
3人の研究は、微細な物質を入れ込む「金属有機構造体(MOF)」の開発だ。ノーベル委員会はこれを「分子アーキテクチャー」と呼んだ。
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3人は、分子と分子の間に大きな空間のある構造物を作り、そこを気体や他の化学物質が流れる仕組みを開発した。
そうした「部屋」は、大気中のCO2や、永遠の化学物質と呼ばれるPFAS(有機フッ素化合物の総称)など、人が除去したい化学物質を捕まえ、ためるのに使用できる。
3人は1970年代~1980年代に、この構造体の研究をそれぞれ独自に始めた。ロブソン氏は、研究室の作業台に穴を開けるよう大学に依頼。木製のボールが木の棒にくっつく仕組みを作り、原子の化学結合を表した。
これまでのところ、MOFは小規模でしか活用されていないが、企業は大量生産の可能性を検討している。
応用法の一つとして考えられるのが、有害ガスの分解だ。核兵器で使用されるガスも想定される。
企業では、発電所や工場から排出される地球温暖化ガスのCO2の捕捉に使用できるかもテストしている。
構造体のモデルを前にしたヤギー教授。青いシャツ、茶系のジャケット、メガネを着けている画像提供,Reuters
画像説明,ヤギー教授
ロブソン氏は英ノース・ヨークシャー生まれで、1966年からメルボルン大学を拠点にしている。BBCの番組で、受賞のニュースは「大きな驚きではありませんでした。ここ何年間か、いろんな話が出ていましたから」と話した。
研究の潜在的な応用について問われると、「CO2を結合して世界の大気問題を解決するという話がありますが、私には現実的とは思えません。ただ、こうした種類の構造物は、そうした働きを小規模ならできます」と答え、過度の期待をかけないよう求めた。
賞金については、「実のところ、私の頭の中では最も大きなことです。それがすべての原動力だったというわけではありませんが、人生のこの段階では、そのことを考えるのはとてもうれしいことです」と話した。
今回の授賞は、地球上の困難な問題に取り組むうえで、化学にどれだけの価値があるかを示す新たな指標となっている。
英王立化学会のアネット・ドハティ会長は、「ノーベル賞は毎年、グローバル社会が直面する最大の問題への解決策を見いだすという難題に挑んでいる化学者たちに授与されています。よりよい医療、環境保護、クリーンエネルギー、すべての人のための安全な食料と水の確保などです」と述べた。
ノーベル委員会によると、北川氏の研究の動機となったのは、「無用之用」という考え方だった。これは、古代中国の思想家の荘子による、たとえすぐに利益をもたらさないものであっても価値あるものに変わる可能性はある、との思想を反映したものだ。
同委員会の説明では、ヤギー氏はヨルダンの首都アンマンで生まれた。電気も水道もない一つの部屋で、きょうだいと一緒に育った。
学校で分子構造に心を奪われ、15歳のときにアメリカに留学した。