はじめに

本研究会の目的

表面は、バルク物質と異なる対称性や相互作用を持つために、特異な物性が多数現れる舞台である。たとえば、近年では表面ならではの効果によって現れるトポロジカル絶縁体やラシュバ効果が工学的応用の見地からも注目を集めている。さらに、走査トンネル顕微鏡に代表される走査プローブ顕微鏡や光電子分光法等の実験技術の発達によりこれらの興味深い表面における物理現象を高精度に観測可能となりつつある。

このように、様々な可能性を秘めた表面科学の分野ではあるが、基礎物性の解明、理想的な物性を発現させる加工技術など、本格的な工学的応用に至るまでの各段階において、未だ多くの解決しなければいけない課題が残されている。このような課題をクリアしていくためには、原子スケールの電子状態に起因する量子的現象の解明から、メゾスコピックスケールでのナノデバイス特性の解明や加工までの広汎な項目を総合的に扱わなければいけない。この基礎物性の解明から実用的なデバイス作成という目標を実現するまでには幅広い知識や技術が必要であり、表面科学がカバーする広大な研究分野における”知の循環”の起点となりうる、幅広い知識を持つ科学者が必要とされている。

しかし、表面科学における多数の研究テーマは共通する部分が多いながらも物理系・化学系・工学系と細分化され、各系のなかで専門的な研究がおこなわれており、研究者の持つ知識も偏っているのが現状である。

これらを踏まえ、“表面”をキーワードに若手研究者をターゲットとした総合的な研究会を開くことで、物理系・化学系・工学系の分野を横断した学術的コミュニティ形成し、分野間連携による様々な知識の共有と、物理現象に対する理解の深化により新たな課題解決方法や研究テーマの創出を促すことを目指して、本研究会を発足させた。

本研究会の活動

本研究会の最も重要な活動として、このような発想のもとに、表面科学における最新のトピックスに関する基礎知識を幅広く身に着けるため、若手研究者による勉強会を年に1回開催している。

7テーマほどの項目について、その専門家を招聘し、発表20分・質疑応答40分(第1~3回は、発表15分・質疑応答45分)という形式で基礎的な項目と、最新の成果を解説する。質疑応答の時間を中心に据えることで、参加者が「聴く」だけではなく積極的に質問し、勉強会の効果を高めることが本研究会の狙いであり特徴である。また、特に実験研究者と理論研究者がお互いの研究内容を理解し交流を深めることが、表面科学分野の興隆に必須であると考え、実験と理論のトピックスの数がおおよそ半分になるように設定している。