Research
身体・運動・認知の相互作用
運動計画・制御・学習
身体の道具性
神経心理学
身体・運動・認知の相互作用
・自発的な指運動が認知課題成績に及ぼす促進的影響のメカニズム
私たちは難しい漢字の形や英語のスペルを思い出そうとするとき,自然と指を動かして文字を書いてしまいます。この現象は空書(くうしょ)と呼ばれています。Itaguchi et al. (2015, PLoS ONE; 2017 PLoS ONE) では,この空書行為においては,運動的なフィードバックよりも視覚フィードバックが重要であることを示しました。すなわち,行為は自発的に生じたとしても,その指運動を見なければ,認知課題への促進的な影響は見られないことを実験的に明らかにしました。
Itaguchi Y., Yamada C., and Fukuzawa K. (2015) PLoS ONE 10(6):e0128419. [LINK] Itaguchi Y., Yamada C., Yoshihara M., and Fukuzawa K. (2017) PLoS ONE 12(6): e0178735. [LINK] Itaguchi Y., Yamada C., and Fukuzawa K. (2019) PLOS ONE, 14(12): e0226832. [LINK] Itaguchi Y., Suzuki Y., Yamada C., and Fukuzawa K. (2020) Neurocase. [LINK]
・視覚刺激が運動実行に与える自動的影響の可塑性
視覚刺激(見ている物体)の運動方向と私たち自身の実行する運動方向が一致している場合には,一致していない場合よりも正確さや反応速度が速くなることが知られています。この効果を,Congruency effectと言います。Itaguchi and Kaneko (2018, Human Movement Science) では,Congruency effectの運動方向を規定する座標自体が,反応以前の運動に従って変化してしまうことを示しました。Itaguchi and Fukuzawa (2019, Experimental Brain Research) では,Congruency effectが短期間の視覚運動順応によって反転してしまうことを示しました。これらの結果はどちらも,私たちの視覚ー身体(運動)の対応関係は一意に決定されているわけではなく,状況に応じて適応的に変容していく性質を持つものであることを示しています。
Itaguchi Y. and Kaneko F. (2018) Human Movement Science, 57, 94-102. [LINK] Itaguchi Y. and Fukuzawa K. (2019) Experimental Brain Research, 237(1), 147-159 . [LINK]運動計画・制御と運動学習
私たちの運動は,たとえば腕を目の前のコップに伸ばす,といったとても簡単なものでさえ,非常に複雑な計算を必要とします。ヒトのように柔軟かつ優雅な運動は,いまだロボットでは実装不可能です。このような「運動」に対して, 運動計算論のモデルに依拠しつつ,心理学の立場からアプローチをおこなっています。計算は運動計測はロボット,WACOMタブレット,3次元位置計測装置(モーションキャプチャシステム)など,実験に応じて適したものを使用しています。
板口典弘ら(2019) 高次脳機能研究, 39(4), 436-443. [LINK] Yamada C., Itaguchi Y., and Fukuzawa K. (2019) PLOS ONE, 14(4): e0215331. [LINK] Itaguchi Y., Sugimori E., and Fukuzawa K. (2018) Neuropsychologia, 113, 43-51. [LINK] Itaguchi Y. and Fukuzawa K. (2018) Journal of Motor Behavior, 50, 653-663. [LINK]Itaguchi et al. (2018)
身体の道具性
「道具の身体化」ではなく,そもそも「身体も脳にとっては道具」という立場から,道具と身体の連続性,脳損傷による「身体の道具化」およびリハビリによる「再身体化」というトピックについて研究を進めています。さらに,「身体と道具」という対比を,「自己と他者」にまで拡張したモデルを考え,様々な分野の現象の統一的な説明を試みています。
身体と道具の関係を解明することは,プロダクトデザイン,スポーツ,義肢装具の開発など,様々な分野への応用が期待されます。
Itaguchi Y. and Fukuzawa K. (2014) Experimental Brain Research, 232(11), 3613-3622. [LINK] Itaguchi Y. (2020) Journal of Neurophysiology, 123, 2024-2036 .[LINK] 山田千晴・板口典弘. (2022) 知覚・認知と運動制御5―体性感覚と運動制御, 理学療法, 39(10), 927-936. [LINK]Ando L. and Itaguchi Y. (2022) The heavier the arm, the higher the action: the effects of forearm-weight changes on reach-to-grasp movements. Experimental Brain Research, 240, 1515–1528. [LINK]
Itaguchi and Fukuzawa (2014)
その他共同研究
VR酔いのメカニズム解明(静岡大学,ヤマハ発動機)
音と振動を同期させて呈示させることにより,効率的に酔いを抑制することが可能なことを示しました(Sawada, Itaguchi, et al. 2020, Scientific Reports)。
麻痺を治療する錯覚システムの開発(札幌医科大学,AMED)
※KiNvis https://www.irc-web.co.jp/kinvis (インターリハ社から販売)
第二言語として英語が熟達した人の単語処理システム
第二言語の習得率によって,言語の自動的な処理が異なることを示しました(Nakayama, Itaguchi et al., 2018, Bilingualism: Language and Cognitioon)。
課題の楽しさおよび短時間の睡眠(Nap)が運動学習に与える影響
Visuomotor adaptation課題において,難易度を可変にした際の成績への影響,および仮眠の効果を検討しました(Kaida, Itaguchi et al., 2017 PLoS ONE)。
感覚運動機能の定量的評価のためのロボット開発(慶應義塾大学)
ロボットリハビリ研究はたくさんおこなわれていますが,提案手法はどれもバラバラで,実際にどのようなアシストをおこなえば効率の良い学習が行えるのかは未だ明らかでありません。そこで,複数のアシスト方法による学習効果を,単一デバイスを用いて比較検討する研究をおこなっています。
- Muramatsu H., Itaguchi Y., and Katsura S. (2022). Involuntary Stabilization in Discrete-Event Physical Human–Robot Interaction. IEEE Transactions on Systems, Man, and Cybernetics: Systems, 53, 576-587. [LINK]
KiVvis(インターリハ)
上肢用運動学習ロボット
(慶應義塾大学理工学部)
研究方法・計測機器
基本的には,行動実験を行っています。
PCを用いて視覚的に刺激を提示し反応を取得する実験や,上肢運動を行わせ,その動きを測定する実験などがあります。
生理指標(筋電図など)も,必要に応じて計測します。共同研究として,脳波,経頭蓋磁気刺激(TMS),fMRIを用いた研究も進めています。
3次元位置計測装置
Optitrack (Optitrack社)
Smarttrack (ART社)
タブレット
Wacomのタブレットを用いて書字運動の簡易計測プログラム,あるいは神経心理学的検査のデジタル版の開発をおこなっています。
センサ類
アイカメラ(Eyetribe,Pupil Lab),無線加速度センサ,マイコン(基本的にAruduino),Leap motionなどを利用しています。
VR機器
Oculus Riftなどを使用して,VR環境体験時の運動計測,VR環境における知覚検査などを行っています。
経頭蓋磁気刺激装置(TMS)
脳の神経細胞を磁気によって非侵襲的に刺激することができます
共同研究機関
東京女子医科大学
文京昭和高齢者在宅サービスセンター
など