山本康仁・千賀裕太郎 (2010)
繁殖状況からみるトノサマガエルとナゴヤダルマガエルの種間関係. 爬虫両棲類学会報第2010巻1号, 46-49.
トノサマガエル(旧:Rana nigromaculata、現:Pelophylax nigromaculatus)とナゴヤダルマガエル(旧:Rana porosa brevipoda、現:Pelophylax porosus brevipodus)は系統的な近縁種であり、形態もよく似ています。 両種は多くの地域で同所的に生息していますが、そうした地域でも産卵時期や産卵場所をずらすことによって繁殖におけるすみわけを行い、種間の自然交雑を避けることで独立した種を維持してきたとされています。
しかし、近年の大幅な生息環境の変化によって、一部の地域ではトノサマガエルの繁殖時期が長期化しており、ダルマガエルの繁殖時期と完全に重複するといった事例が報告されています。こうした地域では異種間の抱接がしばしば観察されており、繁殖時期の変化と種間交雑には強い繋がりがあることが示唆されています(下山 1998)。
そこで私たちは、両種の生息する岐阜県揖斐郡揖斐川町の水田地帯において、繁殖状況を観察するために(2008年4月16日~8月6日にかけて)卵塊調査を行いました。
調査の結果、両種の繁殖期間はそれぞれ一般的とされる長さで、繁殖時期は両種の間で大きく重なってはいませんでした。
しかし、一部産卵のピークが重複しており、両種の卵塊が多数確認された区画が見つかりました。なお、本地域において両種の交雑個体と思われる個体が、DNA解析によって確認されまています(加藤 2009未発表)。
これらの結果から、繁殖における両種の時期的・場所的なすみわけは完全なものではないということが示唆されました。
図1. トノサマガエルPelophylax nigromaculatusとナゴヤダルマガエルPelophylax porosus brevipodusの産卵の時期と期間.
トノサマガエルの産卵:5月9日~5月30日(約3週間)⇒爆発的繁殖者
ダルマガエルの産卵 :5月23日~7月18日(約2ヶ月間)⇒長期繁殖者
両種の繁殖期間の長さはそれぞれ一般的とされる長さでしたが、トノサマガエルの産卵の最大ピークは5月21日、ダルマガエルの産卵の最大ピークは5月23日と非常に近い時期にありました。両種は産卵時期がずれていることから、種間交雑が避けられているように思われましたが、5月23日~5月30日までの約1週間が重複していました。
①トノサマガエルの卵塊です。卵塊の直径は20cmほど、卵数は2000~3000個です。一度にまとめて産卵をします。
②ダルマガエルの卵塊です。草本などに付着した状態で産卵されていたものが多く、また、卵塊はまとまった形をしておらず、さまざまな形状をしていました。1300~2200個の卵を1シーズンの中で数回に分けて産みます。
【コメント】
これらのカエルは東アジアを含めたトノサマガエル類の種分化を解明する上で重要な種です。特に、(ナゴヤ)ダルマ ガエルは絶滅危惧IB類(環境省 2007)に指定されており、今後各地の個体群の保護が必要であるといえます。