温帯に生息するカエル類の大部分は、春と夏の間の比較的短い期間に繁殖活動を行います。カエル類の雄は繁殖期になると広告音を出し、雌を呼び込むために合唱します。
カエル類の繁殖活動は、内生的な周期性のものですが、外生的な環境要因もそれに影響するといわれています(Oseen and Wassersug 2002)。よって、鳴き声を指標とした調査を行なう場合、これら外生的要因による影響を加味して調査計画を立てないと、結果に誤差が生じやすいという懸念があります。しかし、日本国内においてこうした知見は未だ少ないのが現状です。
そこで私たちは、水田において同所的に生息するのカエル類の鳴き声が、繁殖期の間に気象条件に応じてどのように変化するのかを調べるため、各カエルの鳴き声の有無と各要因との関係を一般化線形モデル(GLM)を用いて統計解析しました。
その結果、内生的な要因と思われる「自己相関」(前日に鳴いたかどうか)はトノサマガエル Pelophylax nigromaculatus(+)、ツチガエル Glandirana rugosa(+)およびヌマガエル Fejervarya kawamurai(+)において、合唱を行う決定要因として抽出されました。
また、外生的な要因と思われる「風速」はニホンアマガエル Dryophytes japonicus(-)、トノサマガエル Pelophylax nigromaculatus(-)、ヌマガエル Fejervarya kawamurai(-)に、「気温」はシュレーゲルアオガエル Zhangixalus schlegelii(-)、トノサマガエル Pelophylax nigromaculatus(-)、ツチガエル Glandirana rugosa(+)において抽出されました。
これらの結果から、水田の湛水期間中において、各カエルの合唱は様々な要因による影響を受けていることが示唆されました。
今後、鳴き声を指標としたサンプリングを行うに当たって、
①調査対象種が限定される場合は、その種が最も繁殖活動を行う時期を選択して調査を行うこと、
②風が弱い曇りの日を調査日に設定し、強風時は調査を避けること、が望ましいと考えられます。
・ニホンアマガエル(旧:Hyla japonica 、現:Dryophytes japonicus)
・シュレーゲルアオガエル(旧:Rhacophorus schlegelii 、現:Zhangixalus schlegelii)
・トノサマガエル(旧:Rana nigromaculata 、現:Pelophylax nigromaculatus)
・ツチガエル(旧:Rana rugosa 、現:Glandirana rugosa)
・ヌマガエル(旧:Fejervarya limnocharis 、現:Fejervarya kawamurai)