動脈硬化は壊血病の症状なのか?

by Mr. Barry Groves

Part 4:可逆性疾患としての動脈硬化症

多量のビタミンCが(動脈硬化による虚血性)心疾患を回復させる可能性について,これまでに行われた臨床研究はただ1つしかない。それはカナダ人内科医G.C.ウィリスによる約50年前の研究である。

ウィリスは動脈硬化の専門家であり,約50年前に動脈造影の技術を事実上発明した人物でもある。彼が開発したX線写真で動脈を可視化する動脈造影術は,今や世界中のどこでも使われるごく一般的な検査法になっている。ウィリスは動脈造影法で動脈硬化患者の血管を観察し,動脈硬化に関する従来の学説が全くの誤りであるということに気づいた。その誤りはあまりに明らかであったので,ウィリス自身「(旧説の誤りは)水道の配管工にも理解できるだろう」と述べている。

もし従来いわれてきた通り,動脈硬化が血液中におけるコレステロール蓄積によるものだとすれば,動脈硬化はヒトの体のうちでも小動脈で最初に生じ,最も高度に発達するはずである。ただ実際に起こっていることは,この正反対である。つまり血管の中で最初に侵されるのは大血管なのだ。

ウィリスは動脈硬化の発生部位を観察し,それが(小血管ではなく)心臓に近い比較的大きな血管に多発することを発見した。これはなぜだろうか?ウィリスの結論はこうである。太い血管は一見大きく強いように見えるが,それが心臓に近い(ために強い圧力にさらされる)ということが問題なのだ。大血管には心臓の高いポンプ圧のために常時強い物理的力(張力)がかかっており,そのために血管壁の損傷が生じやすい。ウィリスの考えによれば,動脈硬化は脂肪の単なる病的蓄積ではなく,血管壁の損傷を防ぐために生体が動脈壁を強化した結果ではないか,ということになる<参考文献1>

ウィリスの仕事から30年後,Michael Brown博士とJoseph Goldstein博士が動脈硬化についての研究で1985年にノーベル医学賞を受賞した。彼らは動脈硬化が高コレステロール血症から生じるのではなく,血管壁の損傷に対する生体反応として生じることを証明したのである。1950年代のウィリスの発見はノーベル賞に値するものだったのだ。

ウィリスは1954年にQueen Mary Veterans病院とSt. Anne病院の患者に対して,ビタミンC投与の臨床試験も行っている。対象患者はすべて男性で,年齢は55歳から77歳(平均年齢64歳),そして全員が典型的な動脈硬化の症状を呈していた。患者の動脈硬化の状況は左右両側の大腿動脈造影により評価された(ウィリスは論文中で動脈造影術の技術的詳細とともにヒト動脈硬化巣の造影画像も提示している)。患者の血中コレステロール濃度も計測された。ウィリスは対象患者を2群に分け,1つのグループ(治療群)にはビタミンC500mgを1日3回投与し,もう一方のグループ(対照群)にはビタミン投与を行わなかった。治療群にも対照群にも特別な食事は与えられていない(糖尿病患者を除く)<参考文献2>

その結果,ビタミンC投与群においては30%以上のケースで(画像上)動脈硬化巣のサイズが縮小した。---これがビタミンC投与で心血管系疾患(動脈硬化)が治るという史上初の,そして現在のところ唯一の,実証的事実(エビデンス)である。

動脈硬化とビタミンCの関係についてさらなる研究が必要なことは明らかだろう。

ウィリスは,種々の実験動物の中でギニアピッグ(モルモット)だけが心疾患に罹患するということを知っていた(訳注:モルモットは体内でビタミンCを生合成できない)。彼はこのモルモットに対してもビタミンC投与試験を行っている。彼は77匹のモルモットのうち,一部には対照群として実験開始時からビタミンCを含む餌を与え,残りの実験群にはビタミンCを含まない餌を与えて,人工的にビタミンC欠乏症(壊血病)を作り出したのである。その結果,ビタミンC除去食を与えられた(人工壊血病の)モルモットには動脈硬化が生じ,対照群(ビタミンC投与群)には動脈硬化は生じなかった。さらに実験の第2段階として人工壊血病のモルモットの餌にビタミンCを付加したところ,壊血病モルモットにいったん生じた動脈硬化巣が,ビタミンC投与によって速やかに退縮した。ウィリスは次のように書いている「人工壊血病のモルモットの動脈硬化巣のうち,(発生初期でなく)進行発達したものは比較的退縮のスピードが遅かった。これは脂肪の塊である動脈硬化巣の再吸収が,血液と接触しているその表面だけで起こるからだろう」<参考文献3>

ウィリスの研究はビタミンC欠乏(壊血病)状態のモルモットに生じる動脈硬化とヒトの動脈硬化症を関連づけ,さらにビタミンC投与によるヒトの動脈硬化症の治療可能性までも示唆している。

これだけ明らかな実験事実があるにもかかわらず,ウィリスのこの先駆的研究は誰にも追試されなかった。ノーベル化学賞と平和賞を受賞した著名な化学者であるLinus Pauling博士はこう述べている「ビタミンCと心疾患の関係はあまりに明らかであり,あらためて臨床試験で確認する必要はないほどだ」

<参考文献>

1. Willis GC. An experimental study of the intimal ground substance in atherosclerosis. Can Med Assoc J 1953; 69: 17-22.

2. Willis GC, Light AW, Gow WS. Serial Arteriography in Atherosclerosis in Human Beings. Can Med Assoc J 1954; 71: 562-568.

3. Willis GC. The reversibility of atherosclerosis. Can Med Assoc J 1957; 77: 106-8