媚千種錦絵（道成寺道行、仲蔵の道行）

天明3年（1783）8月市村座、作詞者不詳

• 開曲：初世常磐津兼太夫、（三味線）２世岸沢古式部
• 正本：伊賀屋
• 伝承：正本の再刊本が幕末まで刷られているので、幕末まではよく伝承されていたと考えられる。現在における伝承は未確認であるが、『歌舞伎舞踊現存曲外題一覧』(1967年)に、中村（虎治）流に振付が残るとされるので、どこかで伝承されている可能性がある曲として掲載しておく。

褄重袷羅衣（お房徳兵衛）

天明4年（1784）3月中村座、笠縫専助作詞

• 開曲：初世常磐津兼太夫、（三味線）初世鳥羽屋里長
• 正本：伊賀屋（絵表紙、稽古本）、（再刊稽古本）伊賀屋・坂川屋
• 伝承：「常磐津は全段残つて居り、振も坂東流で復活したが、三分の一をカットして猶一時間かかるといふ長い曲である」〔邦楽舞踊辞典〕。
• 復活上演：1957年10月28日京都藤伎会（藤間良輔主催、南座）（瀬川如皐補筆、常磐津菊兵衛作曲）、廃曲寸前の曲を整理し復活上演したもの〔同会パンフレット解説〕

四天王大江山入（古山姥、遠近山姥、牛飼い）

天明5年（1785）11月桐座、瀬川如皐作詞

• 開曲：初世常磐津兼太夫、（三味線）初世鳥羽屋里長
• 正本：（稽古本）伊賀屋、坂川屋、菱屋、玉沢屋、関西常磐津協会

劇場初演時の薄物正本(絵表紙)の現存は未確認。最も初刊初印に近い稽古本は、矢口丹波記念文庫蔵本。

• 伝承：「最近まで伝えられていたが、いまは廃曲となったらしい」〔演劇百科大事典〕とされるが、現行される。
• 作曲：「調子の変へ方が面白い」「後の山姥の典型となつた作曲である」〔邦楽舞踊辞典〕。
• 振付が市川（翠琴）流・工藤流に残る〔歌舞伎舞踊現存曲外題一覧〕。
• レコード： 〈LP〉ビクターJL-38(千東勢太夫、八百八)
• 近年の上演：1936年10月5日JOAK（三東勢太夫、菊丸）、1975年11月4日松韻会(三越劇場)（文字太夫、菊三郎）、1992年10月八重太夫の会、1995年8月八重太夫の会(八重太夫、東蔵)、2004年1月常磐津節保存会(松尾太夫、東蔵)、2012年10月與の会(主催・舞踊：花柳與)(一佐太夫、小欣矢)

戻駕色相肩（ 戻駕）

天明8年（1788）11月中村座、初世桜田治助作詞

• 開曲：初世常磐津兼太夫、（三味線）初世鳥羽屋里長
• 正本：（稽古本）伊賀屋、坂川屋、菱屋、玉沢屋、関西常磐津協会
• 伝承：「嘉永(1848～53)ごろ 原作の三下り｢錦織るてふ｣を端唄「紫の」に変えたのが所作ダテになっている」〔演劇百科大事典〕。花柳勝次郎によると、三下り「紫の～」は嘉永2年(1849)11月市村座上演時に5世岸沢式佐が新作したもの〔町田 1918b〕。
• 影響：「これが人形劇へ入つたのは、天保元年九月、大坂新地芝居が初め。この時は長唄でやつたが、天保十二年『戻駕廓大全』と改題した時から義太夫になつた。内容は同じだが終りは桜の枝を持つた総踊」〔邦楽舞踊辞典〕。上方の歌舞伎では、このような義太夫曲または長唄曲もしばしば用いられたらしい。
• 文献：渥美清太郎｢邦楽問答 常磐津｢戻駕色相肩｣｣『邦楽の友』昭和32年11月号。
• レコード：〈CD〉常磐津節全集