Thecostraca (鞘甲綱)
フジツボの仲間が含まれる動物群です.フクロムシ,エボシガイ,ミョウガガイなど,いずれにせよぱっと甲殻類と聞いて思い浮かべる形からは比較的遠い形をしたグループです.私は冨岡森理さんと以下の研究を行いました.
フジツボの仲間が含まれる動物群です.フクロムシ,エボシガイ,ミョウガガイなど,いずれにせよぱっと甲殻類と聞いて思い浮かべる形からは比較的遠い形をしたグループです.私は冨岡森理さんと以下の研究を行いました.
2015年に利尻島に漂着したオウギハクジラMesoplodon stejnegeri True, 1885の左歯に付着していた個体に基づき,ミミエボシConchoderma auritum (Linnaeus, 1767)を利尻島から初めて報告しました.形態の簡単な記載に加え,16S rRNA遺伝子の部分配列を決定しました.(2020年頃記)
A new parasitic barnacle (Crustacea, Cirripedia, Rhizocephala, Mycetomorpha) from the abyssal zone in the northwestern Pacific.
【論文PDF】
フクロムシという寄生性のフジツボ類に関する成果です.ちなみにフジツボはエビやカニといった甲殻類の仲間です(貝の仲間と思われている方に時々お会いするので念のため).
2023年度に実施された白鳳丸KH-23-5次研究航海で行った東北東方沖の水深3893–3890 mで実施した底曳網調査.その産物に,トゲトゲのかっこいいエビが含まれていました.エビはエビで興味を惹かれたのですが,よく見ると腹側に黄色い,小さなコブをたくさん生やした何かが付いているのに気づきました.長さ2 cm程度,脚は無し.比較的大きなそれでしたが,船上で私には何なのかわからず,寄生性カイアシ類か?などと思いつつ,どうにかこうにかエビから外して持ち帰りました.
日頃学生には見る目を養うべく形態観察から始めてもらっている弊ラボですが,こうもなんにもわからない場合,打つ手はDNA配列の相同性から見立てをつけるというものになります.18S rRNAという比較的進化速度が遅く保守的な(つまり生物群の検討をつけるにはよい)遺伝子配列を決定したところ,Mycetomorpha vancouverensisという生き物の配列とかなり近縁であることがわかりました.
Mycetomorpha属,はて.ウェブ検索してみると,ああまさにこれだよという形の生物の図が見つかり,Mycetomorphidae科の唯一の属であり,2種のみが知られるフクロムシの仲間であることがわかりました.フクロムシかー,切片を切らねばどうにもできないかなぁと思っていたところ,2種は比較的軽微な外部形態差と,宿主の違いで区別されていることがわかりました.そこで気を取り直し,観察と文献調査を進めたところ,軽微な外部形態差が見つかり,2種とは宿主・採集水深が異なっていたことから,形態情報と4遺伝子(18S, 28S, 16S, COI)情報をえて,新種Mycetomorpha abyssalisとして記載を行いました.(実際には切片にするべきかとも思ったのですが,内部形態情報を種間比較に現在用いることができず,かつMycetomorphaがかなり珍しいグループのようであったことから,将来的なマイクロCTなどによる非破壊による3次元情報取得の可能性を残すべく切片にしませんでした(より正確には私は切片を作れないのでできませんでした)).
日本から初めてとなるMycetomorpha属フクロムシの報告です.科・属ともに和名がなかったので,Mycetomorphidae科,Mycetomorpha属にそれぞれミノフクロムシ科,ミノフクロムシ属を提唱しました.和名を考えていたときに,ミノウミウシに雰囲気が似ていると思ったのがその理由です.種名の和名は,宿主のエビSclerocrangon zenkevitchi Birshtein & Vinogradov, 1953の和名がメイフノキジンエビ,メイフは冥府で場所(国?世界?)の名前のようだったので,寄生生物も同じ場所にいるものだろうと考え,メイフノミノフクロムシとしました.冥府之蓑嚢蟲,いかついですね.
本論文の執筆においては,駒井智幸さんに宿主の同定をしていただきました.また遊佐陽一さんには,参画プロジェクト的に私の担当ではなかったフクロムシ類の記載について許可をいただきました.大変ありがたい機会をいただきました.(20240404記)
メイフノキジンエビに寄生するメイフノミノフクロムシ(矢印)(固定前)