Tanaidacea (タナイス目):タナイス寄生性生物に関するもの
タナイスに関する成果のうち,タナイスを宿主(寄生相手)にしている寄生性生物に関する成果をこちらにまとめます.
タナイスに関する成果のうち,タナイスを宿主(寄生相手)にしている寄生性生物に関する成果をこちらにまとめます.
A novel transmission pathway: first report of a larval trematode in a tanaidacean crustacean.
【論文PDF】
吸虫類の二生類(Digenea)は,一般に第1中間宿主,第2中間宿主,終宿主という3種類の宿主を利用する生活環をもった寄生性扁形動物です.このうち第1中間宿主は多くの場合が巻貝類ですが,第2宿主の多様性は非常に高く,刺胞動物から脊椎動物までに至ります.そのため,第2中間宿主はなかなか狙って明らかにしにくい存在です.
沖縄の漫湖干潟においてハナダカアプセウデス(Longiflagrum nasutus)というタナイスを調査していたところ,タナイスの体内に球状の物体を見つけました(下図).寄生性センチュウかなと思って研究を開始したところ,どうも違う.なんと世界初のタナイス寄生性の吸虫だった,という研究です.限定的な形態観察と複数遺伝子のDNA配列の決定を行った結果,主として終宿主に鳥類を用いるMicrophallidaeという科に含まれる種の被嚢幼虫(encysted metacercaria)であろうことを明らかにしました.
論文公表後,北米でもタナイス寄生メタセルカリアを採ったことがあるとの連絡を研究者から受けました.今回の報告を皮切りに,今後色々なタナイスから吸虫類が見つかってくるかもしれません.(2015年頃記)
Descriptions of two new species of Rhizorhina Hansen, 1892 (Copepoda: Siphonostomatoida: Nicothoidae) parasitic on tanaidacean crustaceans, with a note on their phylogenetic position.
【論文へのリンク】
寄生性カイアシ類はこれまでに数千種類が記載されていますが(Boxshall 2005),タナイスに寄生する種はニコテ科Nicothoidaeに属する2種,Rhizorhina tanaidaceae Gotto, 1984 と Arhizorhina mekonicola Bamber & Boxshall, 2006の報告に限られ,それもそれぞれ1個体,計2個体が世界中で知られる全タナイス寄生性カイアシ類でした(Gotto 1984; Bamber & Boxshall 2006).なんというレアさ.やばすぎる.きっと採らぬまま私はじじいになるのだろう・・・と思っていたら,2014年に採れてしまいました.2種も.さらにいずれも未記載種と判断されたので,Rhizorhina ohtsukaiとRhizorhina soyoaeとして新種記載を行いました.前者はカイアシ類研究の大家である大塚攻先生,後者は標本を採って下さった研究船蒼鷹丸に献名しました.
それにしても丸い(末尾の図参照).付属肢という付属肢が退化しています(小さな丸い球は卵の詰まった袋です).既知種はなんと体の形(丸いか四角いか)とサイズ,生殖孔の位置のみで区別されていたため(Boxshall & Harisson 1988),私もそれに概ね倣ったのですが,将来的な分類上の困難が予見されたのでDNA配列情報の決定も行いました.世界3例目,北太平洋初のタナイス寄生性カイアシ類の報告であると同時に,私にとって初めての非タナイスの新種記載論文(私が主著者の)となった,非常に思い出深い研究です.(2016年頃記)
Dive into the sea: first molecular phylogenetic evidence of host expansion from terrestrial/freshwater to marine organisms in Mermithidae (Nematoda: Mermithida).
【論文へのリンク】
2009年に大槌で採集したエゾナミタナイス属の一種(Zeuxo sp.)の体内から発見した寄生性センチュウに関する成果です.実ははじめハリガネムシ(類線形動物)っぽいと思い研究を開始しました(等脚類のハリガネムシとは逆のパターンです).形態観察の結果,口形態の特徴とgiant cellsのように見える構造が見出されたことからNectonema属のハリガネムシではと思ったのですが,嶋田さんに見ていただいたところ,センチュウの可能性があるとの指摘をいただきました.DNA配列決定もハリガネムシ用プライマーでの増幅は失敗,嶋田さんからの指摘ののちに取り組んだセンチュウ用プライマーでの増幅は成功,相同性検索の結果もセンチュウっぽいということになり,まぁ完敗でした.私の糸形動物の研究力はまだまだだなと実感しました.
形態・DNA配列情報の両面から,得られたセンチュウは,主に昆虫に寄生するシヘンチュウ類(Mermithidae科)の一員だと判断されました.シヘンチュウ類は500種以上が報告されていますが,海産生物に寄生する例は2種しか知られておらず,今回の報告が3例目となりました.タナイス類からは初めての報告です.また今回見つかった種で決定したDNA配列情報は,海産生物寄生性シヘンチュウとして初めてのDNA配列情報でしたので,それを含めた系統解析を行った結果,シヘンチュウ類は陸生・淡水生の宿主から海生の宿主へ宿主幅を拡大したことが示されました.
タナイス寄生性センチュウの報告は存在するもののその数が非常に限られています.今後調査が進むことで予想外のグループに属するセンチュウによる寄生例も報告されることでしょう.(20220508記)
Foettingeriidae (Ciliophora: Apostomatia) molecularly detected from Tanaidacea (Crustacea: Peracarida).
【論文PDF】
Foettingeriidaeは生活環に寄生性段階を含む繊毛虫の一群です.寄生対象は繊毛虫から棘皮動物まで幅広く,甲殻類の宿主としてはカイミジンコ類,コノハエビ類,オキアミ類,十脚類,ヨコエビ類,等脚類,フジツボ類,カイアシ類が知られていました.このうちカイアシ類に寄生するVampyrophrya pelagicaは大塚攻博士の研究グループにより生活環全体の詳細な記述がなされています(Ohtsuka et al. 2015).
本研究は,タナイスの一種シモジチヂミタナイスHaimormus shimojiensisの18S rRNA遺伝子の配列決定を試みたところ,Foettingeriidaeの18S rRNAだと判断される配列が決定されたためそれを報告したものになります.これまでタナイス寄生(?)性繊毛虫としては少なくとも9種が確認されていましたが(Chatterjee et al. 2022),いずれも体表に生息するものであったため,本発見はタナイスにおけるFoettingeriidaeのみならず体内寄生性繊毛虫の初めての報告でした.(20240929記)
Fecampiid flatworms parasitic in a tanaidacean crustacean.
【論文へのリンク】
ハナダカアプセウデスに寄生する吸虫の被嚢幼虫(矢頭)(固定前)
Rhizorhina soyoae(A–C)とRhizorhina ohtsukai(D–F)(固定前).
矢印は前方を示す.
Zeuxo sp.(a, b)に寄生していたMermithidae sp.(c)(固定後).スケール:a, b, 1 mm; c, 0.5 mm. an, 前端; me, 宿主内のMermithidae sp.; po, 後端.