タナイスが海中で使う糸の正体(の一部)を明らかにした論文です.本成果の出版については,おそらく世界で一番私が感動していることでしょう.笑 慶應義塾大学の荒川和晴さんにお声掛けいただき開始しました.より正確には,とある学会で私の発表を聞いてくださった同大学の鈴木忠さんがタナイスの糸に興味を持って下さり,その流れで荒川さんをご紹介いただいた,というのがすべての始まりです.
本研究では,エゾナミタナイスZeuxo ezoensisを大量に飼育して採取した糸を用いたプロテオーム解析,RNA later固定サンプルから得たトランスクリプトームデータに基づく系統解析などを行いました.その結果,タナイスの糸は蚕の糸タンパク様タンパクとトビケラの糸タンパク様タンパクを含む親水性の糸であること,タナイス目内の4上科(アプセウデス上科,タナイス上科,パラタナイス上科,ネオタナイス上科)はそれぞれ単系統であり,上科間の関係は,「(アプセウデス,(パラタナイス,(ネオタナイス,タナイス)));」という18Sデータから推定された結果と同様であることなどが明らかになりました.
タナイスの大量飼育系,複数種の飼育データ,深海性のネオタナイス上科を含む複数種のRNAサンプルを持っていたタナイス研究者は(少なくとも原稿執筆時点では)世界で私だけだと思いますので,本研究成果は私を含む研究グループにしか得られないものだっただろうと思います.
タナイスの糸については,胸節腺型糸分泌機構の三次元超微形態を梶智就さんに明らかにして頂いた(PDF)ことに始まり,特に人に恵まれて進めることができている研究テーマだと思います.私一人では全く手の届かなかった成果を一緒に出させていただける幸運,本当にありがたく思います.
荒川さん,深海性種のサンプル採集でお世話になった藤原義弘さん(JAMSTEC),プロテオーム解析を行ってくださった森大さん(慶應大),系統解析を行ってくださったJames Flemingさん(慶應大)との共同研究成果です.(20211230記)