Ostracoda (貝形虫の仲間)
カイミジンコとも呼ばれる甲殻類の仲間です.なお,ミジンコではありません.比較的知名度の高い種としては,ウミホタルが挙げられると思います.二枚貝のような2枚の殻を体の左右に持った甲殻類で,移動時などを除き,脚などは殻の中に収まっています.私は蛭田眞平さん,宗像みずほさんと以下の研究を行いました.
カイミジンコとも呼ばれる甲殻類の仲間です.なお,ミジンコではありません.比較的知名度の高い種としては,ウミホタルが挙げられると思います.二枚貝のような2枚の殻を体の左右に持った甲殻類で,移動時などを除き,脚などは殻の中に収まっています.私は蛭田眞平さん,宗像みずほさんと以下の研究を行いました.
Three new brackish-water thalassocypridine species (Crustacea: Ostracoda: Paracyprididae) from the Ryukyu Islands, southwestern Japan.
【論文Link】
南西諸島のマングローブ林の汽水域から採集されたサンプルに基づき,3新種(Mangalocypria ryukyuensis,Paracypria longiseta,Paracypria plumosa)を記載した論文です.加えて,形態からM. ryukyuensisと判断されうる石垣島と沖縄本島(タイプ産地)の集団間に,種間差相当の遺伝的差異があることを確認しました(今回は同種と判断しました).(2016年頃記)
Heterocypris spadix sp. nov. (Crustacea: Ostracoda: Cypridoidea) from Japan, with information on its reproductive mode.
【論文Link】
私の指導学生の宗像みずほさんによる1報目の主著論文です.沖縄本島の漫湖干潟に注ぐ汽水河川から得たサンプルに基づき,1新種Heterocypris spadix(和名:ヤキメイボカイミジンコ)を記載しました.加えて,飼育実験により本種が単為生殖種であること,成体の乾燥耐性があまり高くなさそうであること,分子系統学的手法により本種がカルディニウム(Cardinium)という宿主の生殖様式に影響を与えるとされる細胞内共生バクテリアを宿していることを明らかにしました.
ヤキメイボカイミジンコの採集地は私がハナダカアプセウデス(Longiflagrum nasutus)というタナイス類の1種を採集するためにしばしば訪れていた場所で,本種の採集時もタナイス採集を主目的としていたのですが,帰札後に飼育容器中に本種が確認されたため,宗像さんの研究に使っていただきました(ちなみにタナイスは個体数が少なかったからか絶えてしまいました...また行かねば,いつ行けるのか...).イボカイミジンコ属Heterocyprisには約70種が含まれ,種数もさることながら,諸々の事情から分類学的に非っ常にやっかいなグループでした.論文の掲載受理の報を受けたときには正直「やったー!」と声を上げてしまったレベルで研究が大変でした.本当に出版されてよかった.本研究は葛西臨海水族園の田中隼人博士にご指導いただき形にすることが出来ました.ありがたいことです.(20210226記)
Mismatch between similarity of mitochondrial gene order and phylogenetic distance in Podocopa (Crustacea: Ostracoda).
【論文Link】
私の指導学生の宗像みずほさんが記載した,ヤキメイボカイミジンコHeterocypris spadixのミトコンドリアゲノム(ミトゲノム)の全長配列を決定しました.9000種以上が知られる現生貝形類のうち6種目のミトゲノム解読になります.全長15,205塩基,ミトゲノムに一般的な13のタンパク質コード遺伝子と2つのrRNA遺伝子,22のtRNA遺伝子が見つかりました.遺伝子の並びは異なる科に属する1種のそれと同じであり,同じ科の1種とは少し異なっていることを報告しました.外注でDNBSEQを用いました.
全く個人的なことですが,Zoologischer Anzeigerは論文を載せてみたかった雑誌の一つだったので,受理の報を受けた時はとても嬉しかったです(あと後輩の山崎君が思い出される雑誌名でもあります).(20210603記)
日本から初めてカイミジンコ(貝形虫)に寄生するツリガネムシ類を報告した論文です.指導学生の宗像さんが採集してきたカイミジンコを観察させていただいていたところ,背甲表面が妙にボコボコした個体がいることに気づきました.よく見ると半球状の何かが背甲上に固着していることで,ボコボコに見えているようでした.かなり小さいですが,巻貝やヒルの卵嚢に似ているな,というのが第一印象でした.生きたまま光学顕微鏡で観察してみると,何やら半球状の中で何かが動いているようでした.よくわからないなぁと思いながら18S rRNA領域のDNA配列を決定してみたところ,得られた配列が動物のものとしては変に短い.ああ,コンタミしたな,と思いながら配列の相同性検索を行ったところUsconophryidae科の一種の配列に一番似ているという結果に.Usconophryidae科とは?と調べてみるとツリガネムシの仲間であり,論文を調べてみたところ,半球状の姿をしていることがわかりました.
ああ,きっとこれだ.と思ったものの,相同性検索の結果とぱっと見の印象が似ているだけといった状況で,なんとも同定に不安が残ったため光学顕微鏡観察を続けたところ,開口部の特徴に違和感を持ちました.Usconophryidae科はぽっかり穴が開いたような開口部を持つのですが,今回の種はがま口のような開閉しそうな構造をもっているように見えたのです.ここまできたらと走査型電子顕微鏡観察を行ったところ,無事(?)がま口構造が確認されました.ああ,Usconophryidae科ではなさそうだ,では何なのだろう,と文献調査に戻り,色々調べたところ,Lagenophryidae科のLagenophrys属だと判断されました.属まで同定できたことだし,同科のDNA配列情報は存在しないようだし(だから相同性検索で出てこなかったわけです),カイミジンコ寄生性のツリガネムシは国内から報告されていないようだし,ということで報告した次第です.
カイミジンコのみならず小型水生甲殻類の体表上には,しばしばツリガネムシと思われる原生動物が見つかりますが,報告されることはあまりない印象です.日本産のカイミジンコ寄生性Lagenophrys属も,おそらく私より前に見ていた研究者はいたと思いますが,報告されていませんでした.この状況にはきっと知名度の低さも関係しているだろうということで,今後の知名度向上と研究発展の一助となることを願い,本論文でLagenophryidae科とLagenophrys属それぞれに「ガマグチカマクラムシ科」と「ガマグチカマクラムシ属」という新和名提唱を行いました.この名前は,がま口のような閉口装置とかまくらのような姿に因んでいます.きっといろいろな水生甲殻類についているものと思います(これまでに国内からはヨコエビとエビの仲間から報告されていました).(20220320記)
Taxonomy and natural history of Cavernocypris hokkaiensis sp. nov., the first ostracod reported from alpine streams in Japan.
【PDF】
私の指導学生の宗像みずほさんによる2報目の主著論文です.北海道の大雪山系標高1850mの高山帯を流れる沢から得たサンプルに基づき,1新種Cavernocypris hokkaiensis(和名:シバレドウクツカイミジンコ)を記載しました.和名の「シバレ」は凍える寒さを意味する方言「しばれる」に由来します.新種記載に加えて,(1)分布調査により北海沢という沢にのみ低密度で生息している大雪山系固有種である可能性,(2)飼育実験により性成熟まで1年以上かかる可能性,(3)メスしか採集されなかったことと単為生殖をおこなうカイミジンコで報告が続いている細胞内共生バクテリアのカルディニウム(Cardinium)の16S rRNA遺伝子の部分配列が検出されたことから単為生殖種である可能性,(4)18S rRNA遺伝子を用いた分子系統解析によりCypridoidea上科で初期に分岐した種である可能性を示しました.18Sの系統樹は論文本文中ではなく電子付録内にありますので,よろしければご覧ください.
今回の報告は日本の高山帯から初めてとなるカイミジンコの報告となります.文献調査の結果,高山帯のカイミジンコに関する分類学的な研究は世界的にも稀のようで,登山スキルを持つ宗像さんが私の研究室に来て下さらなければこの先も当分見つからなかったかもなと思うと,改めてとても価値ある一歩だなと思います.なおタイプ産地は国立公園の特別保護地区内に位置しますので,本種の採集調査検討の際には事前の動物捕獲許可申請をお忘れなく.(20220505記)
Freshwater Ostracoda (Crustacea) from Rishiri Island, HJokkaido, Japan. (in Japanese)
【PDF】
私の指導学生の宗像みずほさんによる3報目の主著論文です.北海道利尻島の複数の淡水域を調査し,得られたカイミジンコについて報告しました.6水域から3科5属6種が得られました.各種について形態観察と複数遺伝子のDNA配列決定を行い,出現種の分類のための検索表作成や生息環境ごとの出現種に関する議論など行いました.論文題名から想像されるより盛り沢山な内容になっていると思います.和文なので気軽に?読んでいただけたらと思います.本研究の遂行には,利尻町立博物館の冨岡森理博士に許可申請から始まり出版まで大変お世話になりました.ありがたいことです.(20231021記)
A new Sphaeronella species (Copepoda: Siphonostomatoida: Nicothoidae) parasitic on Euphilomedes sp. (Ostracoda: Myodocopa: Philomedidae) from Hokkaido, Japan, with an 18S molecular phylogeny
【論文へのリンク】
2022年に3年ぶりに実施した学部3年生対象の厚岸臨海実験所での臨海実習.同実習では例年集魚灯採集を実施するのですが,2022年実施のサンプルには大量のカイミジンコが含まれました.得られたのは発光で有名なウミホタルの含まれるミオドコパ類の一種だったので,カイミジンコを入れたバケツを叩いてみたところ,光らない.残念.と終わりそうだったのですが,カイミジンコを専門とする私の指導学生の宗像さんが実習室に持ち帰り観察を始めたところ,あれ,と見つけてくれたのが本論文で記載した寄生性カイアシ類になります.
得られたのはニコテ科Sphaeronella属のカイアシ類でした.Sphaeronella属はニコテ科最大の属で,かなり多数の種が含まれているのを知っていたので,ああこれは属同定までで終わりだな,と最初は思ったのですが,少し調べてみると,1975年に本属の分類を整理した論文が出版されており(Bradford 1975),それを元に観察を開始してみるとなんだかいけるかも,となったため頑張ってみることにしました.宗像さんには,かなり混沌としたミオドコパ(宿主)の同定で大変お世話になりました.今回得られたカイアシ類は既知種との形態比較の結果,未記載種と判断されたので,Sphaeronella uyenoiとして新種記載を行いました(カイアシ類を含め様々な寄生性生物の分類学的研究で多くの成果をあげている上野大輔博士へ献名しました).和名提唱も行い,属名にはメスがダルマのような形をしていることから「ダルマミジンコ属」,種名には二枚貝様の殻を持つカイミジンコと殻の内側に潜むカイアシ類をガチャポンのカプセルとプライズの関係に見立てて「ガチャポンダルマミジンコ」としました.18S rRNA遺伝子に基づいた系統樹も作成してみたところ,Kakui (2016)で示唆されていたとおり,ニコテ科は単系統ではない可能性が示されました.属の数やマーカー数を増やしたさらなる解析が望まれます.(20221220記)
Lagenophryid ciliophorans on Japanese freshwater ostracods
【論文PDF】
A new genus and species of the spring-endemic Ostracoda (Cypricercinae, Cyprididae) and its genetic population structure among rheocrenic springs in Japan
【論文PDF】
Heterocypris spadix(固定前)