Nematoda (センチュウ類)
モデル生物であるCaenorhabditis elegansや寄生虫などで有名な糸のような形をした動物です.私は嶋田大輔さんと海に住むセンチュウ類について以下の研究を行いました.
モデル生物であるCaenorhabditis elegansや寄生虫などで有名な糸のような形をした動物です.私は嶋田大輔さんと海に住むセンチュウ類について以下の研究を行いました.
A new species of deep-sea nematode, Micoletzkyia mawatarii sp. nov. (Nematoda: Enoplida: Phanodermatidae) from northern Japan.
【論文PDF】
Micoletzkyia mawatariiは,私と嶋田さんの指導教員だった馬渡峻輔先生に献名した種です.属名はセンチュウ研究者のHeinrich Micoletzky博士に献名されたものです.本種は2009年に中央水産研究所の研究船蒼鷹丸(そうようまる)という調査船により,日本海の水深約530メートルおよびオホーツク海の水深1150メートルから採集されました.体長11ミリメートルの「比較的大きな」センチュウです.本種が採れた航海の船長は寺田靖さん,主席研究員は森田貴己さん,藤本賢さんでした.初の小型甲殻類屋トップとしての乗船,小型網の付け方やロープワークなど,不慣れなことが多すぎて,当時の甲板長の小泉さんによく怒られた記憶が...しかしあれがあったからこそ今があると言える,とても勉強になった航海です.蒼鷹丸は船員さんとの距離が特に近い,楽しい船でした.(2015年頃記)
First record of the free-living marine nematode Deontostoma magnificum (Timm, 1951) Platonova, 1962 (Nematoda: Leptosomatidae) from Japan.
【論文PDF】
Deontostoma magnificumは,アラスカで記載された4センチを超える大型の自由生活センチュウです.日本産の個体はこれまでに相模湾のみから確認されています.2012年に三崎臨海実験所を利用して行ったドレッジ調査中に採集されました.本当に大きく,ドレッジで採集した砂の山に紛れていたのを,髪の毛を引き抜くように指でつまんで採ったのを覚えています.これは未記載種に違いない,と当時嶋田さんと大いに盛り上がりました(が,残念ながら(?)既知種と同定されました).いやー,でかい動物はいいですね.笑(2016年頃記)
Oncholaimus langhovdensis sp. nov. (Nematoda: Enoplea: Oncholaimida), a new species of free-living marine nematode from Langhovde, Dronning Maud Land, East Antarctica.
【論文PDF】
当時国立極地研究所にいらっしゃった辻本惠さんと始めた南極多様性解明プロジェクトの関連成果です.南極です!すごいですねー.Oncholaimus langhovdensisは2015年の第56次南極観測(JARE56)中に,ラングホブデという,日本の南極基地である昭和基地にほどちかい場所で採集されました.昭和基地周辺から初めて報告される海産センチュウ類になります.ちなみにOncholaimus属は南極限定のグループではなく,世界中から100種を超える種が報告されている種数の多いグループです.浮遊幼生期を持たないセンチュウ類の広域分布はとても不思議だなと思います.(2017年頃記)
Two new and one known species of Phanodermatidae (Nematoda: Enoplida) from Sagami Bay, Japan.
【論文へのリンク】
東京大学三崎臨海実験所の幸塚久典さんと筑波大学下田臨海実験センターの中野裕昭さんが主催されている,マリンバイオ共同推進機構(JAMBIO)合同沿岸生物調査(参考)の第12回で採集された標本に関する成果です.神奈川県三崎周辺の水深297–465メートルから得られた標本に基づき,2新種(Phanodermopsis kohtsukai,Micoletzkyia nakanoi)と1日本初報告種(Crenopharynx caudata)を記載しました.新種の名前はそれぞれ幸塚さんと中野さんに献名したものです.(2019年頃記)
A new species of free-living marine nematode, Proplatycoma tsukubae sp. nov. (Enoplida: Leptosomatidae), from Japan.
【論文PDF】
2017年に国立科学博物館の谷健一郎さんが主催された,大室ダシ周辺海域での調査に際して採集されたサンプルに基づく成果です.水深117–202メートルから得られた標本に基づき,1新種(Proplatycoma tsukubae)を記載しました.新種の名前は下田臨海実験センターの調査船「つくばII」に献名したものです.今回の報告により,日本周辺にProplatycoma属センチュウが分布することが初めて明らかとなりました.本属が含まれる亜科(Platycominae)の構成属の検索表と,本属構成種の検索表を含みます.(2020年頃記)
Two new species of free-living marine nematodes (Nematoda: Axonolaimidae and Tripyloididae) from the coast of Antarctica.
【論文PDF】
当時国立極地研究所にいらっしゃった辻本惠さんと始めた南極多様性解明プロジェクトの関連成果です.2015年の第56次南極観測(JARE56)中に昭和基地にほどちかいラングホブデという場所から採集されたサンプルに関する第2報です.Odontophora odontophoroidesとParabathylaimus jareという2新種を記載しました.最近の嶋田さんの論文では,属リビジョンの実施と全種の検索表作成がセットになっていて,Impact Factorや直近の被引用数などでは測れない論文の重みを感じます.(20210322記)
Three free-living marine nematodes from Sagami Bay, Japan, with a description of Wiesoncholaimus jambio sp. nov. (Nematoda: Oncholaimidae).
【論文へのリンク】
東京大学三崎臨海実験所の幸塚久典さんと筑波大学下田臨海実験センターの中野裕昭さんが主催されている,マリンバイオ共同推進機構(JAMBIO)合同沿岸生物調査(参考)の第12回で採集された標本に関する成果です.神奈川県三崎周辺の水深297–365メートルから得られた標本に基づき,1新種(Wiesoncholaimus jambio)と2種(Thalassironus cf. britannicus de Man, 1889,Vasostoma cf. longispicula Huang and Wu, 2010)を記載しました.新種の名前はJAMBIOに因んだものです.(20211007記)
Dive into the sea: first molecular phylogenetic evidence of host expansion from terrestrial/freshwater to marine organisms in Mermithidae (Nematoda: Mermithida).
【論文へのリンク】
センチュウに関する私自身初の筆頭著者論文になります!といっても同定と形態観察は共著者の嶋田さんにご担当いただいたので,私が筆頭著者を務めるのでよかったのか未だに気になっているところです.
2009年に大槌で採集したエゾナミタナイス属の一種(Zeuxo sp.)の体内から発見した寄生性センチュウに関する成果です.実ははじめハリガネムシ(類線形動物)っぽいと思い研究を開始しました(等脚類のハリガネムシとは逆のパターンです).形態観察の結果,口形態の特徴とgiant cellsのように見える構造が見出されたことからNectonema属のハリガネムシではと思ったのですが,嶋田さんに見ていただいたところ,センチュウの可能性があるとの指摘をいただきました.DNA配列決定もハリガネムシ用プライマーでの増幅は失敗,嶋田さんからの指摘ののちに取り組んだセンチュウ用プライマーでの増幅は成功,相同性検索の結果もセンチュウっぽいということになり,まぁ完敗でした.私の糸形動物の研究力はまだまだだなと痛感しました.
形態・DNA配列情報の両面から,得られたセンチュウは,主に昆虫に寄生するシヘンチュウ類(Mermithidae科)の一員だと判断されました.シヘンチュウ類は500種以上が報告されていますが,海産生物に寄生する例は2種しか知られておらず,今回の報告が3例目となりました.タナイス類からは初めての報告です.また今回見つかった種で決定したDNA配列情報は,海産生物寄生性シヘンチュウとして初めてのDNA配列情報でしたので,それを含めた系統解析を行った結果,シヘンチュウ類は陸生・淡水生の宿主から海生の宿主へ宿主幅を拡大したことが示されました.
タナイス寄生性センチュウの報告は存在するもののその数が非常に限られています.今後調査が進むことで予想外のグループに属するセンチュウによる寄生例も報告されることでしょう.(20220508記)
A new species of free-living marine nematode, Fotolaimus cavus sp. nov. (Nematoda, Oncholaimida, Oncholaimidae), isolated from a submarine anchialine cave in the Ryukyu Islands, southwestern Japan.
【論文PDF】
沖縄県立芸術大学の藤田喜久さんが主導している琉球列島の海底洞窟群の動物相に関する研究成果です.2018年に実施した宮古群島下地島にある海底洞窟「悪魔の館」調査の過程で小型の自活性(=寄生性ではない)センチュウが得られました.同センチュウについて嶋田大輔さんに扱っていただいたところ,未記載種であることが明らかになったためFotolaimus cavusとして記載しました.本報告は日本から初めてとなる海底洞窟に棲む自活性センチュウの報告になります.
上記種記載に加え,所属亜科全属の二分岐検索表,Fotolaimus属全種の二分岐検索表を作成し,さらに18Sに基づいた分子系統解析も実施しました.今回の論文も嶋田さん主導ということで,いつも通り静かに重厚です.(20231106記)
センチュウの一種(固定前)
Zeuxo sp.(a, b)に寄生していたMermithidae sp.(c)(固定後).スケール:a, b, 1 mm; c, 0.5 mm. an, 前端; me, 宿主内のMermithidae sp.; po, 後端.