Isopoda (等脚目)
等脚目は,ワラジムシやフナムシ,ダイオウグソクムシなど比較的一般にもなじみ深い動物を含む甲殻類の一群です.自由生活性種に加え,多くの寄生性種も含みます.私は下村通誉さん,白木祥貴さん,太田悠造さん,太田瑞希さんと以下の研究を行いました.
等脚目は,ワラジムシやフナムシ,ダイオウグソクムシなど比較的一般にもなじみ深い動物を含む甲殻類の一群です.自由生活性種に加え,多くの寄生性種も含みます.私は下村通誉さん,白木祥貴さん,太田悠造さん,太田瑞希さんと以下の研究を行いました.
A new species of Stegidotea Poore, 1985 (Isopoda: Chaetillidae) from Japan.
【論文へのリンク】
カニ類の分類学者として有名な武田正倫博士の70歳のお祝いで企画された論文集に収録された論文です.2009年に行われた長崎大学水産学部付属練習船「長崎丸」の航海中に,甑島沖の水深約500メートルから採集された標本に基づき,Stegidotea takedaiという新種を記載しました(種名は同武田正倫博士に献名しました).からだの背側の正中線上に発達した棘状突起の列を持つかっこいい種です.本種が採れた航海の船長は吉村浩さん,主席研究員は橋本惇先生でした.橋本先生の航海は変なエビとか魚とかがたくさん採れて,タナイス以外もとても面白い航海でした.先生が退職されるまで計9回40日間参加,たくさん経験を積ませていただいた船です.(2013年頃記)
Topotype-based DNA barcode of the parasitic isopod Pseudione nephropsi (Bopyridae), with a supplementary morphological description.
【論文PDF】
アカザエビという高級エビの背甲に寄生する等脚類の研究です.2017年に行われた三重大学附属練習船「勢水丸」航海中に,三重県尾鷲市沖の水深約300メートルから採集したアカザエビに寄生していた等脚類標本について,下村通誉さんに送る前に少し文献調査を行ったところ,既知種であること,それでいて報告すべき内容がありそうだということがわかったため,自分で研究をしてみようと扱ってみた種です.自身で研究を行った初めての等脚類です.研究に用いた標本が採れた航海の船長は前川陽一さん,主席研究員は木村妙子先生でした.
Pseudione nephropsiは,椎野季雄博士により1951年に,私たちの標本が採集されたのと同じ海域(尾鷲市沖)から記載されました.その後,インドネシアの深海域からも報告されました.ただ,日本とインドネシアで利用されていた宿主(寄生対象種)が異なっていたこと,宿主2種の分布が離れていること,日本とインドネシアのP. nephropsiに若干の形態差異が見出されていたことから,両者は別種かもしれないという状況にありました.寄生性生物は形態がシンプルで,種間の決定的な形態差異を見出しにくいことがよくありますが,本種もそういった状況で,日本とインドネシアの"P. nephropsi"が同種か否かの解決にはDNA配列情報が必要そうだ,でも本種のDNA配列情報はないな,では決めよう,とDNA配列情報を決めた(+部分的な形態再記載を行った),というのが論文の内容です.インドネシアの"P. nephropsi"が日本のものと同種かどうかは,インドネシアの標本のDNA配列情報決定を待つことになりますが,今回日本の標本の配列を決めたことで,今後そのような検証を行うことが可能になりました.(2019年頃記)
Presumptive stridulatory organs in Paranthura cf. japonica Richardson, 1909 (Isopoda: Cymothoida: Paranthuridae).
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ウミナナフシ類の体表に摩擦音器様構造を3種類見つけたという論文です.私の指導学生の白木くんが生きたヤマトウミナナフシ(かその近縁種)を観察していたのを少し見させてもらったところ,同種の体節の各部に摩擦音器様構造があることに気づきました.過去の文献を調べてみると,そういった構造の記録はなかったので白木くんとともに論文を執筆しました.現時点で摩擦行動は確認できておらず,形態観察結果のみに基づく仮説です.3種類の摩擦音器様構造は雌雄どちらにもあること,ヤマトウミナナフシが捕食者であることから,摩擦音器だった場合の機能として最も可能性が高いのは,種内の個体間コミュニケーションかもね,という議論を行いました.新型コロナウイルス感染症拡大に伴う(個人的な)調査自粛により,約1年ぶりに行った採集調査の過程で得られた成果であり,少し感慨深いものがあります.(20210708記)
A new species of Expanathura (Crustacea: Isopoda: Anthuroidea) from Iriomote Island, Japan, with a note on male polymorphism.
【論文へのリンク】
私の指導学生の白木祥貴君による1報目の主著論文です.西表島の水深14mから得たサンプルに基づき,1新種Expanathura monile(和名:クビカザリウミナナフシ)を記載しました.Expanathura属には和名がなかったため,科の和名そのままに「オビロウミナナフシ属」としました(が,どうもオビロウミナナフシという和名が別の科に属する種の和名として提唱されているらしいです.N先生...).加えて,標本内のオスに見られた複眼の相対的な大きさの違いに着目し,本種が雌性先熟の隣接的雌雄同体(メスからオスに性転換する)の種である可能性と,性転換をしない一次オス(オスとして生まれ,オスとして成熟する)が存在する可能性について議論しました.さらにメスに基づく全種の分岐検索表を提示しました.
実は本論文の出版の9日前,もちろん本論文のアクセプト後ですが,Expanathura属の新種記載がなされたことがわかりました(参考).幸運なことに,誕生と同時にシノニムになるという最悪の事態は免れましたが,かなりヒヤッとしました(私も一度似た経験があります).白木君いわく,今年はウミナナフシ類の記載が活発な年とのこと.本研究は京都大学の下村通誉博士にご指導いただき形にすることが出来ました.ありがたいことです.(20210930記)
A new neotenous genus and species, Deltanthura palpus gen. et sp. nov. (Isopoda, Anthuroidea, Paranthuridae) from Japan, with a revised key to the genera in Paranthuridae.
【PDF】
私の指導学生の白木祥貴君による2報目の主著論文です.三重県沖水深805–852 mから採集された個体に基づき,新属新種のウミナナフシDeltanthura palpus(和名:サンカクアシタラズウミナナフシ)を記載しました.和名の「アシタラズ」は,本来成体に7対備わっているはずの歩脚が,本種では6対しかない(第7歩脚を欠いている),つまり「脚が足りない」ことに因みます.サンカクは尾部形状です.新属を設立したということで,ウミナナフシ科Paranthuridaeの全属の分岐検索表を提示しました.
ウミナナフシ類は生殖様式が興味深く(甲殻類全体で珍しい雌先先熟の性転換種が知られています;というかウミナナフシ類は基本そうだと考えられている節があります;とはいえまだきちんとデータが取られた種はほとんどいないように思います),私自身でもいつか扱ってみたい分類群です.といっても,白木君が私の研究室に来て下さるまでは全く興味がなかった群だというのが正直なところなので,色々な方が研究室に来て下さることのありがたさを痛感します.(20220505記)
Observations on predation in Paranthura japonica Richardson, 1909 (Isopoda: Cymothoida: Paranthuridae).
【論文へのリンク】
私の指導学生の白木祥貴君による3報目の主著論文です.忍路産のParanthura属ウミナナフシ類がヤマトウミナナフシParanthura japonicaであることを明らかにし,本種の捕食行動の観察と,餌として利用可能な生物について調べました.
忍路産のParanthura属の一種は,形態から室蘭で記載されたヤマトウミナナフシParanthura japonicaだろうなと考えていたのですが,情報不足により種レベルの同定は避けていました(cf. Kakui and Shiraki 2021).そんな折,新鮮なトポタイプ標本(タイプ産地で採集した個体)が得られたことから,同種・異種判断によく用いられるCOI遺伝子のDNA配列の一部領域をトポタイプと忍路産個体で決定,両者の配列間の差異が種内変異相当と判断されたため,忍路産の個体はやはりヤマトウミナナフシだと結論付けました.
ヤマトウミナナフシは円錐状の吸引型の口を備えています.同属他種の研究から,この口を甲殻類に突き刺し中身を吸うという摂食様式をとると予想されていましたが,本種の摂食様式と利用可能な餌資源について調べた研究はありませんでした.そこで本研究では,シャーレに入れた忍路産個体に対して,忍路に産する甲殻類5種とウミグモ類1種,忍路には分布しないタナイス目甲殻類1種をそれぞれ提示し,捕食するか否かと捕食過程を記載しました.結果,甲殻類6種を捕食したほか,同種他個体の捕食(死後の個体を食べていた可能性もあり)が観察されました.ヤマトウミナナフシは北米とヨーロッパに侵入した外来種として近年注目されていますが,「忍路には分布しないタナイス目甲殻類1種」も捕食したことからは,侵入先の甲殻類の捕食者として生態系に少なくない影響を与えている可能性が示唆されます.
ひょんなことから始まった研究で,最初は和文でまとめる方向になるかなと思っていましたが,白木君の頑張りにより英文でまとめることができました.ちなみに本研究以前,私はタナイスがウミナナフシ類に食べられることを知りませんでした.知る機会をいただきありがたかったです.(20220816記)
First report of Hyssuridae (Isopoda: Anthuroidea) from Japan, with the description of a new Kupellonura species.
【PDF】
私の指導学生の白木祥貴君による4報目の主著論文です.房総半島沖水深445-407 mから採集された個体に基づき,新種のウミナナフシKupellonura tamago(和名:タマゴハラナガウミナナフシ)を記載しました.和名の「タマゴ」は,尾肢外肢が卵型に見えることに因みます.また,Kupellonura属に所属させられていた1既知種Kupellonura flexibilisについては,形態情報に基づきAnthelura属に移動させました(学名を変更してAnthelura flexibilisにしたことを「新組み合わせ提唱」と言います).なお本研究はハラナガウミナナフシ科に属するウミナナフシ類の日本初報告です.(20230908記)
Description of a new Cruranthura species from the Miyako Islands, Japan, with its DNA barcode (Isopoda: Anthuroidea: Paranthuridae).
【PDF】
私の指導学生の白木祥貴君による5報目の主著論文です.宮古群島伊良部島沖水深10-20 mから採集された個体に基づき,新種のウミナナフシCruranthura viridis(和名:カッパアシタラズウミナナフシ)を記載しました.和名の「カッパ」は河童で,苔色の体色と尖った口器から河童を連想したようです.ウミナナフシ科のウミナナフシ類は,獲物に突き刺し内容物を吸う形状をした口器,つまり「吸う口」を持ちますが,本研究では本科の「吸う口」に見られる2つの型に関して少し議論を行っています.(20240224記)
Ontogenetic changes in pigmentation pattern in Mesanthura miyakoensis (Crustacea: Isopoda: Anthuridae)
【論文リンク】
出版後執筆予定
Isopods on isopods: integrative taxonomy of Cabiropidae (Isopoda: Epicaridea: Cryptoniscoidea) parasitic on anthuroid isopods, with descriptions of a new genus and three new species from Japan
【論文リンク】
Paranthura oriens sp. nov. (Isopoda: Anthuroidea: Paranthuridae) from Tateyama, Chiba, Japan
【論文PDF】
Trematode metacercariae parasitic in the estuarine crustacean Cyathura muromiensis Nunomura, 1974 (Peracarida: Isopoda: Anthuroidea)
【論文リンク】
Review of the Gnathiidae (Crustacea: Isopoda) of western Japan with a description of five new species, one redescription, and one new Japanese record
【論文リンク】
Integrative taxonomy of Janirella (Isopoda: Asellota: Janirellidae), with descriptions of two new species from the Japan Trench and an amended classification of the genus
【閲覧用論文PDF】
Stegitodea takedai(固定前)
アカザエビの背甲(左側にあるふくらみの中)に寄生していたPseudione nephropsiと摘出後のメス(固定前)