Ciliates (繊毛虫類)
ゾウリムシやラッパムシなどの原生動物の一群です.いわゆる動物(後生動物)ではありません.私はツリガネムシという固着性の繊毛虫について以下の研究を行いました.
ゾウリムシやラッパムシなどの原生動物の一群です.いわゆる動物(後生動物)ではありません.私はツリガネムシという固着性の繊毛虫について以下の研究を行いました.
日本から初めてカイミジンコ(貝形虫)に寄生するツリガネムシ類を報告した論文です.指導学生の宗像さんが採集してきたカイミジンコを観察させていただいていたところ,背甲表面が妙にボコボコした個体がいることに気づきました.よく見ると半球状の何かが背甲上に固着していることで,ボコボコに見えているようでした.かなり小さいですが,巻貝やヒルの卵嚢に似ているな,というのが第一印象でした.生きたまま光学顕微鏡で観察してみると,何やら半球状の中で何かが動いているようでした.よくわからないなぁと思いながら18S rRNA領域のDNA配列を決定してみたところ,得られた配列が動物のものとしては変に短い.ああ,コンタミしたな,と思いながら配列の相同性検索を行ったところUsconophryidae科の一種の配列に一番似ているという結果に.Usconophryidae科とは?と調べてみるとツリガネムシの仲間であり,論文を調べてみたところ,半球状の姿をしていることがわかりました.
ああ,きっとこれだ.と思ったものの,相同性検索の結果とぱっと見の印象が似ているだけといった状況で,なんとも同定に不安が残ったため光学顕微鏡観察を続けたところ,開口部の特徴に違和感を持ちました.Usconophryidae科はぽっかり穴が開いたような開口部を持つのですが,今回の種はがま口のような開閉しそうな構造をもっているように見えたのです.ここまできたらと走査型電子顕微鏡観察を行ったところ,無事(?)がま口構造が確認されました.ああ,Usconophryidae科ではなさそうだ,では何なのだろう,と文献調査に戻り,色々調べたところ,Lagenophryidae科のLagenophrys属だと判断されました.属まで同定できたことだし,同科のDNA配列情報は存在しないようだし(だから相同性検索で出てこなかったわけです),カイミジンコ寄生性のツリガネムシは国内から報告されていないようだし,ということで報告した次第です.
カイミジンコのみならず小型水生甲殻類の体表上には,しばしばツリガネムシと思われる原生動物が見つかりますが,報告されることはあまりない印象です.日本産のカイミジンコ寄生性Lagenophrys属も,おそらく私より前に見ていた研究者はいたと思いますが,報告されていませんでした.この状況にはきっと知名度の低さも関係しているだろうということで,今後の知名度向上と研究発展の一助となることを願い,本論文でLagenophryidae科とLagenophrys属それぞれに「ガマグチカマクラムシ科」と「ガマグチカマクラムシ属」という新和名提唱を行いました.この名前は,がま口のような閉口装置とかまくらのような姿に因んでいます.きっといろいろな水生甲殻類についているものと思います(これまでに国内からはヨコエビとエビの仲間から報告されていました).(20220320記)
Foettingeriidae (Ciliophora: Apostomatia) molecularly detected from Tanaidacea (Crustacea: Peracarida).
【論文PDF】
Foettingeriidaeは生活環に寄生性段階を含む繊毛虫の一群です.寄生対象は繊毛虫から棘皮動物まで幅広く,甲殻類の宿主としてはカイミジンコ類,コノハエビ類,オキアミ類,十脚類,ヨコエビ類,等脚類,フジツボ類,カイアシ類が知られていました.このうちカイアシ類に寄生するVampyrophrya pelagicaは大塚攻博士の研究グループにより生活環全体の詳細な記述がなされています(Ohtsuka et al. 2015).
本研究は,タナイスの一種シモジチヂミタナイスHaimormus shimojiensisの18S rRNA遺伝子の配列決定を試みたところ,Foettingeriidaeの18S rRNAだと判断される配列が決定されたためそれを報告したものになります.これまでタナイス寄生(?)性繊毛虫としては少なくとも9種が確認されていましたが(Chatterjee et al. 2022),いずれも体表に生息するものであったため,本発見はタナイスにおけるFoettingeriidaeのみならず体内寄生性繊毛虫の初めての報告でした.(20240929記)
Lagenophryid ciliophorans on Japanese freshwater ostracods
【論文PDF】
淡水生カイミジンコCryptocandona sp.の背甲表面に固着するガマグチカマクラムシ属の一種Lagenophrys sp.(矢印)